絶風氷雪

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:11〜17lv

難易度:難しい

成功報酬:7 G 28 C

参加人数:10人

サポート参加人数:6人

冒険期間:03月13日〜03月22日

リプレイ公開日:2006年03月20日

●オープニング

●吹き荒ぶ雪
「はぁ‥‥はぁ‥‥‥」
 吹き荒ぶ雪の礫が顔を打ち据え、山中を歩く青年の体力を奪う。
 既に彼の息は荒い。
「こりゃ、どう考えてもおかしいな‥‥春が近いにも拘らず、何時も以上に雪が降り積もるなんて」
 既に三月、幾ら寒い京都とは言え白い闇とも受け取れる程に降り積もる雪を見て青年は呻く。
「しかし参った、狩りも出来なければ山菜も採れやしないぞ。小さな山とは言え、此処が‥‥」
 僅かな村民しかいないとは言え、この山が村にとって生きる為に必要である事を認識している彼が膝まで埋まる雪を漕ぎながら、ぼやいた時だった。
「な、なんだぁ?」
 不意に響いた野犬か狼か‥‥その遠吠えを彼が耳にしたのは。
 これだけ雪が降り積もる中、それが山中を歩き回っているとはどうにも考え難い。
 嫌な予感からか、それとも凍て付く寒さからか青年が身を一つ、震わせた直後。
「‥‥何時までも、凍て付き日が続けば良いものの」
「っ‥‥‥」
 背後から不意に響く声に慌てれば、彼は振り返るも‥‥青年の意識はそこで途絶える。
「此処だけが、妾達に残された地なり‥‥何人たりとも邪魔は、させぬ」
 そしてまた響く声、今は氷柱となった青年を満足気に眺めつつ静かに、厳かにそれだけ言えば再び白き闇の中へ『それ』は姿を消すのだった。

●冒険者ギルドにて
「それは確かに、深刻な事態だな‥‥」
「厳しい寒さと吹雪故に、あの山に入ろうとする者はもうおらんが‥‥様子を見に山へ入って姿を眩ました者が出ての‥‥どうにかして、貰えんじゃろうか? 村にとって生命線であるあの山と、若者達を失っては」
 先の青年が姿を消してから一週間も経たない内に、その村の村長は京都の冒険者ギルドを訪れ、詳細を話せばその話から渋面を浮かべるギルド員の青年へその件を依頼として持ち掛けていた。
「先にご老人がお話された例年と今年の話を聞く限り、明らかに何か起きているのだろう‥‥恐らく、物の怪か何かが」
「それでは」
「あぁ、引き受けさせて頂く。そう言う話であれば放って置く訳には行かない」
「しかし幾ら冒険者の皆さんとは言えあの、異常な気候には‥‥」
 その話を聞いて青年、最近自身が聞く限りの話にそれらが起こる場所の内情を密かに思い出し‥‥一先ずは村長からの話だけから判断し頷けば、老人の顔は明るくなるも冒険者達が赴く場所を思い出すとすぐにその表情へ影を落とす。
「大丈夫だ、それでも臆する事のない冒険者を揃えておく」
 だがその様子も気にせず、青年は相変わらずの無愛想な面持ちながら言葉だけ断言して老人を励ませば彼は暫く間を置いた後に深々と頭を下げ、冒険者ギルドを後にした。
「しかしまた伊勢か‥‥どうにも最近、落ち着かないな」
 その背を見送りギルド員の青年は、先に考えていた自身の思考を思い出すと嫌な予感だけ覚えずにはいられなかった。

――――――――――――――――――――
 依頼目的:春を前にしても山を包む吹雪の根源を見付け、止めよ!

 成功条件:その根源を突き止め、吹雪を収めた時。
 失敗条件:吹雪を収める事が出来なかった時。
 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 傾向等:純戦闘系(場:雪山)
 日数内訳:目的地の山(伊勢)まで往復日数は六日、実働日数三日。
 その他:防寒着を忘れると『間違いなく』酷い目に遭います。
――――――――――――――――――――

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea0425 ユーディス・レクベル(33歳・♀・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 ea0664 ゼファー・ハノーヴァー(35歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0858 滋藤 柾鷹(39歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea1249 ユリアル・カートライト(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea1289 緋室 叡璽(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea4137 アクテ・シュラウヴェル(26歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4319 夜枝月 奏(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

音羽 でり子(ea3914)/ 竜 太猛(ea6321)/ ヴァルフェル・カーネリアン(ea7141)/ イシュメイル・レクベル(eb0990)/ 神哭月 凛(eb1987)/ 筑波 瓢(eb3974

●リプレイ本文

●白き闇
「寒い所は得意と言う訳ではないですけど‥‥山に入れないと言うのでは、村の人も困りますよね。植物達も春を待っている事でしょうし、何とか力になれれば。しかし、また伊勢ですか‥‥何が起こっているのでしょうね」
「それもそうだけど、山一つだけ冬なのはやっぱり変だよね」
 白き闇に覆われている山を前に佇む小屋の中、打ち合わせに準備を入念に済ませる一行の中で風に叩かれ、暴れる木の扉をぼんやり眺めながらユリアル・カートライト(ea1249)が今の時期にありえない風景と伊勢の現状へ心痛め呟けば、その彼へ頷きながらユーディス・レクベル(ea0425)が一風変わった防寒着を身に付けながら、今も起きている謎の現象に首を傾げると
「吹雪で山を覆う物の怪ですか、そうなると雪の精霊の類なのでしょうか」
「雪山で吹雪、そう来たらジャパンじゃ雪女って相場は決まってるもんなんだがな」
「あぁ、友人の話ではそうではないかと言う話だった‥‥がしかしその格好、どうにかならないでござろうか?」
 やはり思い当たる節のない巨人の志士、山王牙(ea1774)も彼女に倣い首を傾げればその彼へ鷲尾天斗(ea2445)が苦笑を貼り付け言うも、知らぬと牙は首を今度は左右に振るとかんじきの具合を確認しながら滋藤柾鷹(ea0858)が天斗の予想を確証付けるなりその次、彼は視線を別な方へと注ぐと
「意外に快適だけど。ねぇ、ゼファーさん」
「むぅ、確かに。しかしこれでは堕落してしまうかも知れん‥‥何だか、このままゴロゴロしていたい様な‥‥何時までもこの着心地に浸っていたい様な‥‥」
 その先、まるごとトナカイさんに身を包むユーディスへ問うが彼女は隣で自身同様にまるごとレヲなるどを身を纏うゼファー・ハノーヴァー(ea0664)へ賛同を求めれば頷くも、ゴロゴロと小屋の中を転げては彼女らしからぬ光景に
「‥‥堕落しかかっていると思うがな」
「いいなぁ」
 普通の防寒着を纏っては肩を竦めるデュラン・ハイアット(ea0042)だったが、先の発言とは裏腹に羨ましげな視線を送るユリアルに一行、苦笑を浮かべるが
「‥‥もこもこ」
「行きましょう、ゼファーさん」
 そのやり取りには気付かず、未だゼファーは着ぐるみが与えてくれる暖かさに一人酔うも、アクテ・シュラウヴェル(ea4137)に窘められれば静かに凍て付く空の下へ出る事を決め、立ち上がれば
「物の怪の人にお話を聞いたら、答えてくれるでしょうか」
「出来る事なら、命を奪わぬ形で収めたいな」
「‥‥さて、な」
 続き一行も小屋を発とうとする中、ユリアルが抱く疑問を呟けば夜枝月奏(ea4319)も笑顔で彼に賛同して頷いたが‥‥激しく舞う雪の白とは逆、燃える様な赤い髪を靡かせて緋室叡璽(ea1289)は彼らとは逆に、酷く素っ気の無い返事をするのだった。

 その、何処か纏まりのない一行の考え方は後に窮地へ足を踏み入れる事となるが今はまだ、誰もその事に気付かないまま行軍を開始した。

●轟く風
 吹雪吹き荒ぶ中、孤立せぬ様に皆が皆の胴を一本のロープで繋ぎ結べば履くかんじきで雪を漕ぎ、山と雪上の土地勘に僅かながら知識のある柾鷹と牙を先頭に進む、防寒対策も万全な一行。
「‥‥寒いっつーの!」
「この吹雪の中では叫ぶだけでも体力を使う‥‥先の為にも少し、落ち着いてくれ」
 その彼らの後ろ、雪をスコップで除けては進むトナカイ模したユーディス‥‥荒れる吹雪へ当り散らす様に叫ぶが、前を進む柾鷹に宥められれば白い吐息を吐いて溜息一つ。
「寒い日にはコタツで美人と一緒に熱燗でも呑みたいねぇ」
「全くだな、がそれはまだもう少しお預けだ」
「‥‥そうだった」
 するとそれに続いて天斗‥‥早くも視線を泳がせ、寒さから妄想へ想いを馳せるがデュランに窘められると我に返り、苦笑を浮かべては再び前を見据える。
「所でディランさん、先から魔法を使っていますが大丈夫ですか?」
「心配するな、戦う分の魔力は残しておくさ。私の場合、体力の方が持ちそうにも無いのでな」
「それも、そうです‥‥ね、っと」
 と浮き足立っている気がしなくもない一行の中、凍て付く冷気を吸っても相変わらずの調子で言葉を紡ぐユリアルは魔術師ながらも前を進むディランを気遣い、問い掛ければ返って来る答えに微笑み、苦労しながらもまた一歩を踏み締めるが
『雪のち晴れ、ですが‥‥』
「彼女には、何が見えたのでしょうか?」
 出立を前に友人が告げたこの山の天気と‥‥表情を曇らせ、最後まで告げなかった助言を思い出してアクテは嫌な予感がどうしても脳裏から離れなかった。

「‥‥段々と、吹雪が強くなって来たな」
「『近い』んでしょうね、この吹雪の根源に」
 時には吹雪の被害に遭う村人より教えられた小屋で、時には雪を掘り起こして風雪を一時凌ぐ為の場を拵えては風だけ打ち消し、小まめに休憩を取りつつ白き山を進む一行。
 何かに出会う事無く、徐々に進む道程の雪が深くなる中で柾鷹がさっきより激しく顔を打ち据える雪の礫にいい加減呆れるもこの寒さでも未だ、巨躯の背筋を伸ばしたまま牙が頷けば、敵が近い事を警告する。
「大丈夫か、皆」
「えぇ‥‥何とか」
 その彼の言葉と声音から警戒を一層強めれば、素っ気無いながらも皆を見回し問う叡璽に言葉の割、肩で荒く息をするユリアルの様子から
「一先ず、風だけでも払うぞ」
 雪の礫が吹き荒ぶ中で奏の背に隠れ、巻物を紐解けば次いで紡がれるゼファーの詠唱。
「‥‥いた」
 凛とした声が響き渡る中で、先まで荒れていた風は再び止み‥‥ただ降るだけとなった雪の向こう、大分離れてはいるが一行が進む先に薄手の白い着物を纏う女性が佇んでいる事に静かな赤毛の志士が気付く。
「どうにも山がざわめくかと思えば、また珍客が紛れ込んだか」
 この情景の中、余りにも不自然な存在である彼女も一行に気付けば艶ある面立ちに浮かぶ唇の端を吊り上げ一行を見つめ、嗤った。

●絶風氷雪
「この山で村人が何人か、行方不明になっているんだけど知らないかな?」
 その吹雪の中、平然と佇む彼女へ最初に疑問を投げ掛けたユーディスだったが
「何か、可笑しい?」
「分かっておるのじゃろう? 妾が人ではない事を」
「‥‥まぁね」
 口元を隠しては彼女に笑われると、その反応にムッとしながらも続く白き女性からの問いにはトナカイの彼女、否定せずに認めるが
「伊勢では最近、物の怪が増えていますが‥‥どうしてか知っていますか?」
「妾は知らぬよ、何もな」
「それなら何故、この様な事をする」
「さて‥‥気付けば此処にいたからだろう、妾にこの地は暑くて叶わん。故に生きて行く為」
 ユーディスとのやり取りで話が通じない相手ではないと分かれば彼女に続き、問いを投げ掛けるユリアルと柾鷹だったが、相変わらず口元を隠したままの彼女から返って来た答えはどうにも曖昧な答えだけ。
「この地が無ければ生きていけない人は此方にも居ます、他の土地は無理なのですか‥‥故郷を取り戻す手助けも考えます。如何か住み分けを考えて下さい」
「命はその器に一つしかない、奪う形で事を収めれば疑問も生まれる‥‥だが器が何であれ、私は出来れば共に生きていたい」
「‥‥此処で、その様な話を聞けるとは思うてもいなかったわ」
 しかしそれでも牙と奏は果敢に説得を試みると僅かだけ、彼女は目を細めたが
「その通りだ、が‥‥」
「春が来るのは自然の摂理‥‥春を厭うならもっと山深く高い山へ居場所を求めなさい。人々の生活を脅かす所業は許しません」
「‥‥それではまだ温い、物の怪が語る資格など微塵も無く‥‥物も言わずに虚無へ還るべき」
「何じゃ、はっきりせぬのぅ‥‥一体妾をどうしたいんじゃ、お主らは」
 続き、厳しい声音で告げるアクテと叡璽の台詞へ今度は嘆息を漏らし呆れながら白き女は改めて一行を見回すと、彼女から返って来た意外な反応に一行が今度は驚く番だったが
「厄介事を抱え込む位なら‥‥恨みは無いが貴様に消えて貰おう。この私に倒される事を光栄に思う事だな」
「誠の名の下に外道を狩る双刀の猛禽、鷲尾天斗。この名をあの世の手形替りに持って逝きな」
「‥‥面白い事を言う」
(「随分と、余裕だな」)
 ディランが冷徹に決断すれば、天斗もそれに続いて霊刀を鞘走らせて不敵に微笑むと残る皆もそれぞれ得物を手にするが、その宣戦布告を受け一人佇む彼女の変わらぬ態度に訝るゼファーが周囲を見回したその時。
「来るぞっ!」
「っ?!」
 一行の前に立つ魔術師が突然、警告の声を上げると彼女はそれに咄嗟、反応し身を捻っては迫る『それ』を避ければ次に彼女の眼前を駆け抜ける白い狼の存在を確認する。
「やはり、いたか」
「ふむ、惜しいな」
 『それ』が出立前に友人が話していた雪狼と察し、突然現れたにも拘らず相変わらずの冷静さで判断する柾鷹だったが、彼の視線を受けても白き狼の動きは留まらず再び地を蹴れば一行の背後を覆う様、距離を置いて潜んでいた八匹と合流する。
「正面に注意を引いて、がら空きなその背を狙って敵を討つか。兵法としては至極在り来りだが、詰めは甘い様だな」
「‥‥貴殿は最初から戦うつもりで?」
「どうだろう、な」
 その背後からの強襲に対し、天斗は兵法の高い知識から冷静に評価を下せば眼前の白き女はただ微笑むだけで、彼女の様子に柾鷹が紡ぐ静かな問いには今更だと肩を竦めるが
「だが引けぬのだろう、お主らは? ならば妾と踊れい!」
 次に嘲笑浮かべ、言い切ると雪狼の群れ達がまず一斉に動き出した。

「まずいですね」
 数は十と十‥‥それだけ見れば同等ながらも一行の、先の会話同様にはっきりしない布陣が僅かずつ綻ぶ様に奏は呻く。
「くっ、鬱陶しい」
 その原因である雪狼と一進一退の攻防を繰り広げるゼファーは既に弓をかなぐり捨て、その後ろで真先に狙われ倒れ伏すユリアルを守るべく、炎宿す小柄を振るうもその一撃はまた空を切る。
「思っていた以上に‥‥手強い、ゼファー殿はアクテ殿を。彼女が倒れては狼を倒す手段が減じてしまう」
「‥‥厄介にも程があります」
「油断が、過ぎたのでしょうか」
「今はそれより、目の前の敵を!」
 そして距離を置く狼がからかう様に遠吠えすると想像以上に回避能力に長け、炎宿さぬ武器で刻んでも起き上がって来る狼をねめつけながら冷静に指示を下す柾鷹に牙は頷き、霊刀の柄を握り締めれば置かれている状況から独白する奏を窘めては叫び、気力を奮い起こすと僅かにしか数が減っていない狼の群れへ共に再び駆け出す。
「京都の魔剣と関係あるのか?」
「その様なものは、知らぬわ」
「‥‥何も知らないのなら、話はもういい。全てを終わらせてやる」
「凛々しいのぅ、お主。氷柱にしては永久に妾の傍らに飾ってやろうか?」
 その中でも闘気を纏い駆け寄る狼達を牽制して雪女へにじり寄った天斗は飛翔して一刃、彼女へ振り下ろすもそれは寸での所で避けられるが尚、肉薄すれば問い掛けるも返って来た答えに背後より嘆息を漏らす叡璽が突如として現れ告げれば、彼女はその表情を綻ばて迫る彼を抱き止めようとするが
「そこ、だよっ!」
「受けて散れ、鷲尾流二天‥‥『因果断鎖』!」
 その暇に漸く追い着いたユーディスが叫べば三人は同時に三方から五つの刃を振るい、それぞれ一刃ずつを当てると雪女は初めて膝が崩す。
「っ‥‥ようやる、しかしこれでどうじゃ」
 だが彼女は揺るがず嗤い‥‥三人を正面に捉えると、その口より冷気の礫を広く吐き出せば
「いかんっ!」
「くっ‥‥!」
「妾は余り何もしておらぬが‥‥お主ら、言う程でもないな。個々が突出していてもその纏まり様では」
 ディランがそれに合わせ即座に突風を掌より生みだし、軌道を反らすも突風を当てた角度からそれは完全には反らし切れず、叡璽が息吹に晒され吹き飛ばされると赤き志士が崩れ落ちる中で一行と雪女は距離を取るべく後方へ飛べば、彼女に倣い残る雪狼もその後を追い、居並ぶなり彼女は一行を見つめて嘆息を漏らす。
「じゃがお主らはどうにも暑過ぎる、此処で主らを倒したとて‥‥次も来られては堪ったものではない。釈然とせぬが、いいじゃろう。妾も傷が深い、故にこの場はお主らに譲る。じゃが、次があればその時は‥‥」
 その、誰もが言い返せない中で華奢な肩を竦めて見せれば、言葉の割に冷めた調子で呟くと狼達を伴い、踵を返して今も吹雪く白き闇の中へ歩を進める。
「ま、てっ!」
「悔しいが、今はそれ所では‥‥ない。急いで山を降りるぞ」
 しかしその背へ、呼び止める様に天斗は吹雪に晒された箇所から流れ出る血に構わず叫ぶが雪女はそれに振り返らず、周囲の状況を確認したディランに窘められると改めて辺りを見回し雪に埋もれたまま昏倒している仲間を抱え上げると
「‥‥久々の冒険が、とんでもない目に遭ったな」
 ディランもそれに加わるべくポーションを飲み、負った傷を癒すと僅かずつだが緩くなる吹雪の中で未だ雲覆う空を見上げ、歯噛みして呟くのだった。

●氷嵐過ぎ去り
 あれから、今ではすっかり晴れ渡る山より戻って来た一行は皆、怪我や疲労の余りに崩れ落ちる。
「これで一応、春が来ますわね」
「‥‥歯切れは悪いがな」
 依頼こそ果たした‥‥だが、物憂げな表情湛えて呟いたアクテへ叡璽は整った表情を己が体に走る痛みと共に歪め、静かに舌打ちすると
「しかし伊勢では、何が起きようとしているのでしょうか」
「さぁ、でも多分‥‥良くない事だと思うよ」
 友人から聞いた伊勢の近況を思い出し続ける彼女へ、ユーディスも僅かに声のトーンを落とす。
「でも一先ずはアクテ君が言う通り、吹雪も収まった事ですし十分な休息を取ってから残る時間で山の中にまだいるでしょう、村人達の救出を行ないましょう」
「あぁ、過ぎた事に囚われてもしょうがないしな」
 が場に僅か立ち込める重い雰囲気を振り払う様、奏が残る仕事を皆へ告げれば天斗も鼻の上にある真一文字の傷残る印象的な顔に笑顔を浮かべ、前向きな考えから彼の意見に賛同しては天頂に昇る太陽を見つめ、頷くのだった。

 それから一行が立ち去り暫くして、幾人かの犠牲者が出た事こそ判明するがやがてこの山にも春が訪れる事となる。
 だが、もしかすれば伊勢の何処かで未だに吹雪いている所があるかも知れない‥‥。
 しかしあったとしてもそれはまた何時か、別な話になるだろう。

 〜終幕?〜