【人の想い】断ち切る力を
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:7〜13lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 70 C
参加人数:8人
サポート参加人数:7人
冒険期間:03月24日〜04月03日
リプレイ公開日:2006年03月31日
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●オープニング
●猿田彦神社
「‥‥またか、いつも言うているが虚ろな器だけの存在に惑うな」
「しかし‥‥」
夜も遅く、月が既に真頂点を過ぎている頃‥‥叱咤の響きを含ませてしわがれた声が響く場は猿田彦神社、境内の一角。
白髪の髪に髭を揺らす老人の厳しい声音に、月下に佇む巫女は肩を震わせると遠慮がちに口を開けば
「戦いは何も生み出しません、それが人ならざるものでも‥‥振るった力が何時か、そのまま自身に返って来そうで」
足元に崩れ落ちている肉塊と骨に視線を落とし呟けば、供養の念仏を捧げるが
「その考え、悪いとは言わない‥‥だが、それでは甘過ぎる。そして力を、戦いをお前は恐れ過ぎている。振るうべき時に自身が持つ力を振るわなければ、それは後に更なる災禍を招く事もある。覚えておけ」
「‥‥は、い」
彼女を見つめたまま老人は態度を崩す事無く決然と、彼女へ告げれば踵を返し嘆息を一つ漏らす。
「この調子では、まだ託す事は出来ないか‥‥ならば一つ、頼まれてくれるか」
だが始めの呟きは巫女へ届く事無く、自身の背後で頭を垂れる彼女をどうした物かと暫くの間悩むが‥‥背を向けたまま老人、一言だけ言えば新たに現れた気配に反応して腰に差す刀を静かに抜くと
「全く、あ奴らも甘やかして育てたものだ。ここ数年、僅かずつ不穏になっていく伊勢の状況故に‥‥だったのかも知れんが、これではな」
新たな魍魎の出現にも動かない巫女を気に留めず、吹く風に消える程の小さな声で再び呟くが言葉の割に老人がその表情、僅かな微笑を宿すもすぐにそれが消えれば‥‥次いで疾く彼は地を蹴った。
●赴く先は京
「当神社の見回り強化の為、人手をお借りしたいのですが」
「伊勢の猿田彦神社か‥‥分かった。まだ当分の間は新たな斎王も来ない事から、事態の収拾はもう暫く先だろうしな」
それより猿田彦神社の巫女、京の冒険者ギルドへと赴けば祖父より承った依頼をギルド員の青年へと告げれば、伊勢の状況を察して彼は頷いたが
「‥‥それと、もう一つ」
「他に?」
「‥‥‥」
続き、彼女は口を開けば尋ねるギルド員を前に巫女は次に押し黙る。
「‥‥何かに迷っている、と言う顔だな」
するとその様子を察して彼が問い掛ければその巫女はハッとして顔を上げるが
「表情を見てある程度、考えている事は分かる。それが表に出ていれば尚更にな」
理由を説明しては遠回しに『分かり易い性格だ』と口の端を吊り上げ言えばその次、今度はうな垂れる彼女の姿が目に入り、過ぎた自身の仕草に反省すると咳払いを一つ。
「‥‥一先ず先の話を依頼としてすぐに張り出しておくが、話を聞いて欲しい旨に付いても簡単に話しておこう。いいな?」
「はい‥‥」
それだけ告げれば、上目で彼を見上げ頷く彼女が見せる反応から何となくやり辛い彼は依頼書を作るべく、すぐに視線を落として筆を走らせたが‥‥不意に筆が止まれば今度は無表情に、彼女へ問い掛けるのだった。
「所で、名前だが」
「楯上‥‥優、と言います。猿田彦神社の巫女をしています」
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依頼目的:神社内部の見回り!
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
NPC:楯上
日数内訳:猿田彦神社まで往復日数は六日、実働日数三日。
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●リプレイ本文
●猿田彦の巫女
今日を発ってから足掛け三日を経て、一行が辿り着いた先は伊勢神宮が内宮の近くにある猿田彦神社‥‥その鳥居の前、一行を出迎えたのはその神社の巫女だろう女性。
「ようこそ、猿田彦神社へ」
白の小袖に緋色の長袴を纏う彼女‥‥楯上優が一行へ恭しく一礼すれば皆も釣られ、頭を垂れると彼女は微笑み境内へと導く。
「どう言った事をお考えになって皆さん、こちらへお越し頂いたのでしょうか?」
「ジャパンじゃあ死ぬまでに一度お伊勢さんに参るのが、聖地への巡礼なんだろ。だったら俺も経験しておかなくてはと思ってね」
「それもそうですし、伊勢が不穏になって来ていると言う噂を聞いております故‥‥一度この目で確かめとうて」
そして踏み込む猿田彦神社が境内は何処か空気が澱んでいる様な気がし、また振り返らずに進む巫女の厳かな雰囲気から一行は彼女へ挨拶を交わす事に苦慮していたが、一行の様子を早く察し振り返っては皆を見回して尋ねるとジャパンに長くいるビザンチンの騎士、ランティス・ニュートン(eb3272)が明朗な口調に笑顔で言うと柳花蓮(eb0084)が静かに伊勢を案じ、紡げば
「拙者は楯上さんの迷いを払うお力になる事が出来ればと思ってね」
「暫くご厄介になります、宜しくお願いしますね」
「よろしくご指導の程をお願いします、優さん‥‥」
「いえ、こちらこそ。拙い所もあると思いますが」
先の二人とは全く違う、何処か恥ずかしい台詞を臆面もなく久方歳三(ea6381)が続くもそれを受ける彼女は動じず、優が微笑み返すとそこへ言葉の割に巫女へおずおずと手を差し出す滋藤御門(eb0050)が頭を垂れては彼女へ願い出る花蓮と共に挨拶を交わす。
「はーい、しっつも〜ん!」
「何でしょう?」
「これ、此処で着てもいいかなぁ?」
「細部は違いますが、構いませんよ。他に着ていらっしゃる方がいますしお爺様には私から言っておきますので」
「やった、一度着てみたかったんだ♪」
「折角ですから、他の方も着てみますか?」
「えぇと‥‥私は遠慮して置きます。多分、似合いませんので」
と静かなのはそこまで、続くミリート・アーティア(ea6226)が元気良く問えば彼女が握る巫女装束と花蓮の厳かな立ち姿を見た後、優が小さく頷くとその場で跳ねる彼女の様子から他の皆へも尋ねるが、言葉を濁らせて夜枝月藍那(ea6237)が彼女の申し出を辞退すると
「そこの貴女はどうですか?」
「あぁ、いや、僕は‥‥」
「きっと、似合いますよ」
(「‥‥良く間違われるけど、僕は男だよ」)
一行の前で残念そうな表情を露わにする優だったが藍那の後ろで隠れる様、佇んでいたカシム・ヴォルフィード(ea0424)を見付け、声を掛ければ言い淀む彼だったが猿田彦の巫女、巫女仲間が欲しかったのか尚も強気に迫れば内心だけで呻く風の魔術師はその押しの強さに負けて、頷いてしまう。
「しかし、おかしな空気ですね‥‥猿田彦神社だけでなく来る道中、伊勢に入ってからは空気が重いと言うか‥‥」
「そうですね、まだ取り立てて目立った事もないのに今でこれだと」
そして顔を綻ばせる彼女にカシムの肩を同士の花蓮とミリートが叩くが、その和んだ雰囲気の中で花蓮は変わらない空気の重さに蒼い空を見上げると、藍那も頷き何処か落ち着かない自身が飼う鷹の頭を撫でてはその身を僅かに振るわせた。
●境内にて 〜躊躇〜
「‥‥最近は墓場で良く、死人が見受けられます」
「なるほど、とりあえず此処の近況に付いては分かった。それと差し出がましいかも知れないが、折角だから何か手伝わせて貰うよ? 重い荷物はお任せあれ‥‥他にも力仕事があったら手伝うよ。頭脳労働も中々のもんだけどね」
「皆さんにそこまでして頂く訳には‥‥」
それから暫く、猿田彦神社の案内を一通り終えた一行は優が出すお茶を飲んでは僅かな休憩の折、ランティスの唐突な申し出に巫女は左右へ手を振り首を振り、それを良しとしなかったが
「‥‥いえ、神事の事に付いては詳しくありませんけど見回りだけ、と言うのもあれなので皆で簡単なお手伝いもしようと決めて来たのです。」
優の隣に座っていたフィーナ・ウィンスレット(ea5556)が初対面故にぎこちなく微笑み、しかし瞳に真直ぐな光を宿して一行が考えた提案を譲らなければ‥‥やがて折れたのは優。
そして彼女が頷けば一行、三組に分かれるなり見回りをする者以外は猿田彦神社に滞在する間だけ、彼女の手伝いをする事と相成るのだった。
「なるほど、この様な事を優さんは日々やられているんですね」
それから暫く、彼女に付き従う様な形でフィーナはランティスと共に優が舞う巫女神楽に魅入って感嘆の声を上げれば、言葉こそ返さなかったが巫女が微笑むと
「しかし見回りと言っても、根本的にどうにかしないと何時までも続くんじゃないか?」
「そうですね‥‥」
「こちらの状況を変えて情報を集める必要があったのだよ、可能なら敵の真意を理解し‥‥神宮へ報告して今後の方針を仰ぐべく。それ故に見回りだけ、君達はしっかりして貰えれば十分だ」
次に二人が紡ぐ疑問へ割って来たのは猿田彦神社の宮司が真意を語れば振り返り、神社内を見回っては本殿の前にまで帰って来た御門らを見ると
「後は好きにしてくれていい」
彼らと入れ替わり、売子を勤めているカシムらを次に見れば踵を返す、優の祖父。
「とは言え、あれはバレたら大変な事になりそうだ」
その言葉を受け彼が去った後、ランティスも男性の割に巫女装束が似合うカシムを見れば苦笑を湛えて呟くとフィーナも釣られ、静かに笑うと
「確かに様子を拝見していると、悩みがお有りの様ですね。話して楽になる事も有りますし‥‥如何ですか?」
未だ巫女神楽を舞う優を見て、見回りから戻って来たばかりの御門が彼女の纏う雰囲気に微かな逡巡を見て取り声を掛ければ、優はその舞を止めた。
「どうして、戦うのでしょうか?」
すると次に彼女が紡いだ問いは酷く曖昧で、それを聞いた一行は思わず鼻白むも
「戦い、か‥‥俺は俺が理想としているもの、護りたいものがあるから戦っていける。そうでもなければ誰も好き好んで戦いなんてしないさ。けれどその為の覚悟は無くちゃね」
「僕も戦いは余り‥‥出来る事なら、争わずに済ませたいです。しかし、そうままにはならず。ランティスさんが言う様に護りたいものがあるなら、時に力を振るわねばなりません‥‥そうしなければ、失ってしまうから。その身に報いが返って来るのならそれは背負うのが責務。尤も、自己を正当化しているだけかも知れませんが」
ランティスが眼光鋭く彼女を見つめ、自身が掲げる『戦い』の意味を言うと続く御門は彼とは逆に穏やかな表情で‥‥だが、赤毛の騎士に賛同して心の内に秘める意思を言葉にして紡げば正座して彼らの話に耳を傾ける優は無言で目の前にいる二人を見つめる。
「あぁ、優嬢の事を否定している訳じゃあない。ただ戦わない道を選ぶ事だって、それ以上の覚悟がいる事だと俺は思う」
「けれど、やらなければならない時もあります‥‥。生きる事、生き延びる事、その為に戦う事は御仏が私達に与えた試練です‥‥食べる事一つを取っても戦いなのですから‥‥」
「そう、ですね。皆さんの仰る通りだと‥‥思います」
その彼女の様子からランティスが微笑を浮かべ、フォローするが静かな水面の如き表情を宿して花蓮が響かせた言の葉は現実において事実で、それを否定せず‥‥否定出来ずに頷く巫女。
「失礼かも知れませんが優さんはどうして力を、戦いを忌避なさるのですか?」
「純粋に、怖いだけです。何かを、誰かを傷付ける事を‥‥」
「‥‥思い詰めてもどうにもならないさ、人はそれぞれ自分にあった覚悟を決めていくしかないんだからね」
だが彼女が見せた躊躇いから、その根源を知った上で解決しようとフィーナが此処であえて抱いていた疑問を優しい声音で尋ねると、その身を震わせ最後まで言う事無く己が肩を抱く優の只ならぬ振る舞いにフィーナはそれ以上何も聞けず押し黙るが、ランティスが彼女の肩に手を置いて宥めれば
「切迫しているのかも知れないけれど今はここにいる皆を良く見て良く話して、それで自分がどうしたいのかを考えると良いと思うよ。どの道、中途半端な気持ちでは戦いなんて出来ないからね‥‥何が生み出されるかも、その人の有り方次第さ」
次いで笑顔を湛える彼に安堵してか、優の全身から強張りが抜けて震えも徐々に治まると息を吐いては胸を撫で下ろす一行。
「元気な方が楽しいよ、いつも元気な私が言うんだもん。間違いないの♪ っとと!」
するとその静まる場に響く、ミリートが音階のみで刻む軽やかな鼻歌が響けば笑顔で彼女へ呼び掛けるが、慣れない掃除も行なっている事から遂には箒におぼつかない足が絡め取られ地へ転がる事となり、次には境内で不釣合いな笑い声が響き渡る。
そしてその中で優は反応にこそ困るも、苦笑を浮かべるミリートを助け起こそうと立ち上がれば彼女へ手を差し伸べるも
「‥‥どうしても『あの時』に見た兄の顔が脳裏から、離れなくて。私も、ああなってしまうのではないかと」
唐突に優が漏らした独白へ、それを聞いたミリートは意味が分からずキョトンとするも‥‥やはり笑顔を彼女へ向けた。
●境内にて 〜炎爪〜
「絆、自由に飛ぶのも良いけど余り遠くへ行かない様にね」
最終日‥‥太陽が昇り一日が始まりを告げれば、見回り組でないにも拘らず朝早くに起きた藍那は自身が飼う鷹を大空へ放つと、昨夜の戦闘から僅かな時間しか経っていない為に残る腐臭を払うべく箒を手に取り、振るう。
「‥‥伊勢を包むこの混沌、その源流は一体」
そして視線を落とせば、昨夜の内に弔ったものの未だに残る死人憑きが残滓の肉塊を見つめて呟くと、空に浮かぶ眩しい太陽とは逆に彼女の表情はどうしても晴れなかった。
出立前に聞いた、伊勢の近況と目の前に転がる虚ろな存在だった器だけのものを見据えているが故に。
そしてその時だった、朝の静寂を打ち破る様に鳴子が辺りへ音を鳴り響かせたのは。
「数は先日よりも多いです、行きましょう」
それから暫く、鳴子の音で慌てて飛び起きた御門が現れた敵の正確な位置と数を魔法で把握すればすぐ、残された皆を導くべく駆け出すとやがて辿り着くのは墓地にて佇むだけの墓石など厭わずに群れて蠢くのは御門が捉えた死人憑きや餓鬼と‥‥怪しく輝く瞳持つ、首長き異様な姿見の鷹。
「見ての通り、数が多いでござる。各々、囲まれぬ様に!」
その中、初めより戦い続けていた歳三が御門らの姿を認め叫べば同時‥‥餓鬼が振るう爪を軍配で弾くと勢いのままに押し退け、脇から近付いて来た怪骨へ向き直れば振るわれる錆びた刀を掻い潜って伸び切った怪骨の腕を掴んで、立ち上がろうと蠢く餓鬼の群れ目掛けて盛大に投げ飛ばす。
「手は抜かないよ。それが礼儀だからっ」
「争うのも、命を奪うのも好きじゃないけども‥‥それで誰かが不幸になるのはもっと好きじゃないから!」
そして彼の背後、巫女装束を身に纏ったままのカシムとミリートが掌に集わせた風を強く放ち、自身よりも大きい弓から矢を撃てば空を舞う以津真天を捕らえて打ち落とすも
「自分にいずれ、返ってくる‥‥その通りでしょうね‥‥。それでも、私は‥‥」
それでも数の減らない魂なき虚ろな器達は多くおり‥‥無表情にそれらを見つめ花蓮が速く詠唱を紡げば、悔恨の音叉響かせる鷹の叫びを堪え掌に生み出した黒き光の礫を上空目掛け、放つのだった。
「必ず、乗り越えます‥‥それこそ試練なのですから」
「‥‥性に合わねぇんだけどな、こう言うの」
その一行を上空から見守る、一陣の風‥‥次いで纏う風を解き、炎宿した爪を輝かせる巨躯の猫が姿を現すと嘆息を漏らしてその視線を一行から優へと移し、白木の鞘に納まる刀を帯びていながらも動こうとしない巫女を見据える。
「とりあえず奴らがいても、まだ枷は利いているな。全く‥‥こんな役目、押し付けるなよ」
その姿に何を想ってか再び嘆息を漏らせば再び風を纏って宙を駆り、戦い終わった一行に気付かれない内、一陣の風だけ残してその場を後にした‥‥がその異変を察したフィーナ、優を後手に庇い今は静かな上空を遅れて見上げれば伊勢の裏で蠢く影を垣間見て一抹の不安を覚えるが戦う一行の姿を震えつつも真直ぐに見据える巫女の手を、今だけは優しく握った。
●断ち切る力を
「優さん、私も争いが嫌いですが大切な何かを守る為には行使しないといけない事を知っています。だから考えて下さい‥‥貴女は何がしたいのか、守りたいものは何かを」
「力の報い、命の重み、人の想い。いずれも背負うには辛い物‥‥ですが、人は独りではありません。一緒に歩めば、軽くなる筈ですよ。頑張ってみませんか?」
その翌日、京都へ帰る日を迎えた一行はそれぞれに優と別れを惜しむ中で藍那と御門が響かせる、柔らかな声音ながらも彼女を想ってこその厳しい言葉に彼女は戸惑いの表情こそ隠せなかったが
「はい、皆さんを見ていて本当にそう‥‥思いました。私も出来る所から少しずつでも、頑張りますね」
「今まで他の方に言った事はございませんが、昔私にも好きな人がいたんです」
一行へ頷き返す彼女の瞳には出会った時より僅かながらだが確かに、力強い光が宿っていた‥‥がその姿に何処か無理をしていないかとフィーナが案ずると、猿田彦の巫女の耳元で僅かに頬を赤らめた彼女が自身の昔の話を囁き出す。
「‥‥結局告白は出来ませんでしたけれど、その時に思ったんです。もしも好きだと伝えていけば、こんな後悔はしないで済んだろうに、と。だからどうしたと言う訳でもありませんけど‥‥留まるにしろ進むにしろ後悔だけはしないで下さいね」
そして遠回しに話を終えれば彼女から身を離してフィーナが苦笑を浮かべると二人、次に目を合わせると彼女の心遣いに感謝して優がその表情を緩ませれば
「楯上さんはその『楯上優』と言う御名が通り、優しさを持った上で『他者を守り、魂と想いを繋ぎ続ける為の楯』となれば宜しいのではないか、と思うでござるよ」
一行の最後に踵を返した歳三、此処では微かに咲き始めたばかりの桜の枝を見上げて言えば不意に強く吹き荒れた風の中、暴れる自身の黒髪を気にせずに一行が今日まで伝えてくれた想いへ応える様‥‥儚げながらも初めて、笑顔と呼べるだろう笑顔を皆の前で浮かべるのだった。
〜一時、終幕〜