豪腕爆砕

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:12〜18lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 77 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:03月30日〜04月08日

リプレイ公開日:2006年04月07日

●オープニング

●帰路にて
「これはまた‥‥酷いな」
 京都への帰り路の途中、レリア・ハイダルゼムは伊勢神宮より請け負った依頼から立ち寄るべき最後の村に着くなり、その惨状に珍しく表情を露骨に顰め呟く剣士の目の前に広がるのは‥‥破壊の限りを尽くした、正しく地獄絵図の如き光景。
「家屋も大分傷んでいるし、この血痕‥‥極端なまでに破壊されているが一体」
 目に付く家屋の殆どが大仰に破壊され、そのあちこちが血に濡れては未だに血の臭いが重く立ち込めている状況に、最近の襲撃だったとレリアが判断したその時。
「‥‥っ!」
 荒れた道を進むその先、彼女の眼前‥‥それぞれに面立ちが違う三匹の鬼が現れると距離を置くべく後ろへ飛び退れば、次いで背より大剣を抜いて鬼達と静かに対峙するが
「なるほど、合点がいった」
 その一体の鬼が口よりぶら下げている人の腕を見て取るとレリアは怒気を孕ませるも、鬼は彼女の怒りを気にも止めず腕を噛み砕けばその音を合図に剣士は飛翔し、戦闘を開始する‥‥がその戦闘も長くは続かなかった。
 最初こそ三匹の鬼が振るう重い攻撃を避け、着実に己が振るう大剣を当て続けるも‥‥頑丈な鬼達は彼女の攻撃へ怯まず、斧や鈍器を只管に振るい続ければ
「まずい、か‥‥少し無理をし過ぎた」
 やがて道中、お世辞にも十分な休息を取らなかったレリアの体に異変が起こり僅かに体がよろめくとその隙を逃さずに牛の頭を抱えた鬼が巨大な斧を彼女へ叩きつければ、レリアは大剣で受け止めこそするも盛大に道を隔てた向こうにまで吹き飛ばされる。
「っ‥‥う」
 その衝撃から意識が薄らぐレリア、受身も取れないままに崩れた家屋へ突っ込もうとするが‥‥次に自身の体が何者かに抱き止められれば
「馬鹿、引くぞ!」
「誰、だ‥‥」
 誰もいなかった筈の村の中で男の声が響くと、剣士は尋ねたが
「んなのは後でいい、とにかく数もそれなりにいるし相手が厄介過ぎる。戻るからな!」
「‥‥‥」
 彼はレリアの様子と、一人で見て来た村の状況からそれだけ告げれば、やがて気を失った彼女を抱えて馬に跨り、足早くその場を後にし‥‥鬼達が追い駆けて来ない事から安堵するが
「全く妙なもんを拾ったけど、どうすっかな。俺は俺でそれ所じゃないんだが‥‥まぁいいか、どうせ京へ戻るし。尤もこっちの方が俺向きな気もするけど世の中、上手く行かないもんだ」
 腕の中で静かに伸びている彼女の扱いに悩み、また別件の事を同時に思い出せば嘆息を漏らすとその志士は短く切り揃えられた自身の黒い髪を掻き毟りつつ、京都の冒険者ギルドへ向かうのだった。

●捜索
「落ち着いたか」
「‥‥あぁ、済まない。一先ず動ける様には、なっただろう」
 それから数日を経て、京都の冒険者ギルドにて顔を現したレリアへ気付くなりギルド員の青年が声を掛ければ彼女、普段の調子のままで何処か他人事の様に呟いては彼へ返すと
「それで、村に立ち寄った様だがそこで何をしていたんだ?」
「『探し物』をしていた。暇な者は、いるな?」
「‥‥それの手伝い、か」
 その様子に肩を竦めつつ、レリアが数日前に担ぎ込まれて来た際に彼女を抱えて来た志士より聞いた話に付いて尋ねれば、曖昧にだけ答える彼女が返せば続く問い掛けに彼はその端的な答えをそのまま返し‥‥頷く彼女は青年が黙した所でその概要を語り出す。
「皆に引き受けて貰いたいのは『探し物』がある村に居座っているだろう、鬼の退治だ」
 そして一度話を区切れば次に嘆息を漏らすが、まだ話は続く様で一呼吸だけ置いた後に彼女は今度、顔を顰めながら話を再開する。
「本来なら自身に降りかかる火の粉は自身で払わなければならないのだが、正直あの類は私だけの手ではな‥‥倒すのに手数が掛かる奴は嫌いだ」
「以前、人喰樹を相手にしていたじゃないか」
「‥‥実の所、あの依頼はエドに諭されて引き受けた様なものだ。予想出来た相手故に気乗りしなかったがエドに言われてしまっては断る訳にも行かなかったから、な」
 何か訳有りなのか、表情はそのままに独白する彼女へ以前に請け負った依頼を思い出して青年が突っ込むとレリア、事の真相を語り彼女も珍しく苦笑を浮かべると
「そうか、分かった。依頼書を早急に作成しよう」
 その表情と話から青年は呆れるが、何時もの調子に戻り彼女へぶっきらぼうにそれだけ告げると、近くに転がっていた筆を手にするのだった。

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 依頼目的:鬼退治!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 NPC:レリア
 日数内訳:目的の村まで往復日数は八日、実働日数一日。
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●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2307 キット・ファゼータ(22歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2699 アリアス・サーレク(31歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea5001 ルクス・シュラウヴェル(31歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea5480 水葉 さくら(25歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ea8553 九紋竜 桃化(41歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

月白 雪花(ea0251)/ 滋藤 柾鷹(ea0858)/ アラン・ハリファックス(ea4295)/ 草薙 北斗(ea5414)/ 源真 結夏(ea7171

●リプレイ本文

●前進
 進む足取りは速く、一行とレリア・ハイダルゼムは今も鬼が居座る一つの村を目指して街道を突き進む。
「イギリスに居た際、牛の頭を被った山賊団の首領と戦った事はあったが‥‥よもや本物とも戦う事になろうとはな。あぁ、何でもない」
「しかしま‥‥村に居座る鬼、ねえ? 俺も長い事冒険者をやっているが余り見ないケースだな、鬼の注意を引く様なものでも村にあるのか?」
 道中でも語られる、剣士からの話を受けてアリアス・サーレク(ea2699)は自身が過去に受けた依頼を思い出して複雑な表情を湛え呟くが、首を傾げるレリアの様子に次いで苦笑を浮かべるが改めて聞いた彼女の話からマナウス・ドラッケン(ea0021)、今回の依頼に際し皆へ天然ボケだと自ら言っていた割、今は真面目な面持ちで的を射た疑問を口にすれば
「あるからこそ、だろうな‥‥それと何だ、さくら?」
「‥‥レリア様の探し物とは何なんでしょうか‥‥? 私も、出来る限り協力しますので‥‥」
「それは‥‥そうだな、追々話そう。今『それ』に付いて話した所で皆、納得はするまい」
 感心する皆の中で表情を変える事無く、簡潔に彼へ答えを返すレリアは次に京都を発ってから常に自身の背に感じていた、視線の主である水葉さくら(ea5480)に向き直れば返って来たその問いには答えようなく、言葉を濁すレリアへさくらと共に意味が分からず、首を傾げたのは九紋竜桃化(ea8553)。
「一体、何でしょうかね?」
 歩く速度だけはそのままに、艶やかな髪を揺らして問う侍に剣士は何も言わず肩だけ竦めると、その話はそこまで。
「久し振りだな、レリア。エドはどうしている? 友達と一緒に外で遊んでいるだろうか」
「あぁ、以前よりは大分外へ出る様になったな」
「体調が悪かったら無理はするなよ。何かあったらそのエドが悲しむからな」
「アリアスの通りだ、突っ込み過ぎぬ様にな」
 次に響く、ルクス・シュラウヴェル(ea5001)の挨拶に呼ばれたレリアが頷くと、僅かながらも珍しく顔を綻ばせた彼女に釣られ今度はアリアスも笑顔で、しかし釘だけはしっかり刺せば何時もは無表情な剣士は珍しく口をへの字に曲げると、その隙を逃さずにガイエル・サンドゥーラ(ea8088)もやはり彼に続いて頷いては騎士が刺した釘を更に打ち込むと
「そう言えばレリア殿を救ったと言う、その志士の名は何と言うのだ?」
「知らんよ、気付いた時にはもういなかった。が、何処かで見た記憶はあるな」
「少しペースが落ちてきた、急がないと村への到着が遅れる、急ぐぞ」
 子供染みた表情を浮かべたままのレリアへ苦笑を浮かべつつも再び口を開いたルクスが彼女を宥める様、話の一端に出て来た志士に付いて尋ねるが‥‥首を左右にだけ振る彼女の答えに何となく肩を竦めるも、次いでマナウスが飛ばした檄に無言で頷くと街道を真直ぐに、一行は速度を上げて村を目指し駆け出した。

●月下星塵
「一体、鬼達は何が狙いで此処までの破壊を」
 荘厳とも言える、晴れ渡った月夜の下‥‥それとは裏腹に目的の村へ早く辿り着いたキット・ファゼータ(ea2307)がその内部へ一人静かに潜入しては廃屋の上より村を見下ろし、その瞳に捉えた燦々たる光景からレリアの話と自身の想像以上のそれを目の当たりにして静かに呟き呻けば、敵の意図も思考も読めない村の惨状に顔を顰める。
「急ぐ、か‥‥」
 その、未だ血の臭いが重く立ち込める中で彼は月明かりの下に浮かぶ目標と村の地形を確認、把握しては鬼達に気付かれない様に屋根を蹴って闇へと飛翔した。

「数は二十程、レリア殿が話の通りに大半は豚鬼や熊鬼だったが‥‥」
「しかしまだ無事な家屋も僅かだがあったでござる」
 一行が京都を発ってから三日目の夜遅く、鬼達がいる村を目前にした小さな木立の中で合流を果たせば、村への先遣隊を担ったキットやルクスの報告に続き、空より村の地形を把握した神聖騎士が地に描く村の概要図に視線を落としながら愛馬である朱音の鼻面を撫でて天城月夜(ea0321)が最後、存命な村人もいるのではと暗に言えば
「‥‥それなら、尚の事早く鬼を退治しなければ」
「その通りでござる」
「とは言え、だ。休息が大事な事もまた然り、今は少しだけでも明日に備えて休むぞ」
「そうですわね、此処まで駆け通しでしたから流石に少し疲れましたし」
 彼女の話から冷静な面立ちを浮かべていた割、その話が終わると月明かりに翳す一点の曇りもない太刀を鞘に納めて熱く、アリアスが言うもマナウスがそれを宥め抑えれば桃化も騎士と同様の想いを抱くが‥‥彼女はそれを表に出さず、寝袋へ早く包まると
「‥‥そう言う事だ。それではまた、明日だ」
 やはり早々に、無言で寝袋へ包まるレリアを見て取ると改めて皆を見回してからマナウスはそれだけ告げると、彼女らに倣って自身もまた瞼を閉じた。

●豪腕爆砕
「レリア殿、申し訳ないが未だに怪我をされている様だし馬達を守って後方で待機していてはくれまいか」
 翌朝、日が昇ると同時‥‥静かに動き出した一行。
 手早く朝食を済ませれば月夜が心配そうにレリアへ声を掛けた後に軍馬へ跨り、早駆けした直後‥‥まだ怪我が完治していない月夜が声を掛けた剣士へやはり呼び止めるルクスだったが
「この状況でそう言う訳にも、行くまい?」
「無理だけしなければいいさ」
 すぐに返って来た彼女の答えも今の状況からすればまた事実で、表情は変えずに内心でだけ尚止めるべきか躊躇うルクスだったが自身の背後からアリアスがそれだけ言えば、止むを得ずルクスは頷く他なく僅かに渋面を浮かべたその時。
「話は纏まったな、丁度月夜も戻って来た様だし‥‥手筈通りな」
 廃屋の影に潜む皆の中で弓の弦を弄り、調整しながらもマナウスが皆へ尋ねると頷いた一行の耳へ徐々に、月夜が駆る軍馬の地を蹴る蹄の音が高く響けばすぐに通り過ぎるなり鬼達の眼前へ物陰より一斉に飛び出した。
「闇夜より人々を守る月の盾、アリアス・サーレク‥‥参る!」
 すると闘気の盾を掲げて内在する己の気を全開まで高めたアリアスが疾く駆け出せば、彼の纏う気迫と意思に鼻白む鬼達が唖然とする間にまずは一匹の顔面へ思い切り、迸る闘気と共に騎士が太刀を叩き付けるとそれを端に、鬼達は自身らが今陥っている事態に漸く気付き叫んではそれぞれ、ぶら下げていた得物を掲げる‥‥が一行の侵攻はそれよりも速い。
「‥‥その程度」
 その中で鬼達の速度は兎も角として、場を制するかの様に一行の誰よりも速く駆けるのはキット。
 己が取るべき行動を確実に把握している彼は小柄な体に今まで培った経験を駆使して着実に、小さいながらも確実なダメージを鬼へと刻み込む。
 その動きは正しく、縦横無尽にして変幻自在。
「貰った」
 その動きを前にして、彼の動きを捉えられずに戸惑いを覚える熊鬼が一体をキットはその死角から見据えると小ぶりな忍者刀を再び掲げ、皮鎧から剥き出しになっている頚椎へと突き立てればその鬼は首より勢い良く血を撒き散らすと彼は体が動くまま、次なる標的を捉えると再び疾く駆け出した。
「これは俺も、負けていられないな」
 そしてその光景を見て前衛へ指示を出すマナウス、不敵に笑えばキットに負けじと混乱から立ち直ろうとする鬼達の群れへそれを許さず、すかさず鉄弓を引き絞っては狙いを過たずに矢を二本、鬼達の眼前へと同時に放つのだった。

 それより一行、初戦から俄かにざわめき出す鬼達の動きが慌しくなると立て続けに連戦を強いられる事となるも月夜が軍馬を駆っては上手く誘導すれば、キットが仕掛けた単純ながらも確実に効果を成す罠に嵌められる豚鬼や熊鬼は更にその戦力を削ぎ、力量が開くばかりの一行を前にその数を減じていっていた。
「示現流の技の冴え、受けてみよ」
 未だに牛頭鬼や馬頭鬼を見ていない事から、一行の作戦は鬼達の頭の悪さもあって個々が鬼達の分断を深くまで認識していないながらも順調だったが、しかし今‥‥桃化の眼前に姿を現し、立ちはだかるのは敵の中で最も脅威だろう人喰鬼。
 しかし彼女は臆せず、自身を更なる高みへ至らせるべく更に前へ一歩踏み込めば無銘の野太刀を振るい鬼の巨大な体を逆袈裟に切り裂く、が‥‥鋭く走った一閃にも拘らず鬼の巨躯は僅かに揺らぐだけ。
「流石、一太刀では行きませんわね」
 それでも彼女は至って普段の調子を保って、微笑み湛えるが次に振るわれようとした初めて対する人喰鬼の巨大な棍棒を前に、どうすべきか僅かに躊躇してしまう。
「退けよ、我が前を阻む者を」
 だがその時に響いた詠唱が程無くして聖なる結界を彼女まで覆って構築されると、ガイエルが編んだそれへ鬼が打ち下ろした棍棒は桃化の眼前で軋みこそするも、砕ける事はなく形を保つ。
「ふむ、意外に余裕はあるか?」
 その様子を平然と見据えてガイエルが出立の前に聞いた鬼の話を思い出しつつ呟けば、それを挑発と受け取った人喰鬼が激しく吼えると巨大な棍棒を再び、更なる勢いにて加速させれば懲りずに振るうと、今度のそれには砕け散る結界だったがガイエルは動じず早く桃化と共に駆け出せば、再び同じ魔法の詠唱を紡ぐと
「これしか出来ぬが、それ故に私は全てを‥‥守ってみせる」
「助かるっ!」
 厳かに決意を言い放つ彼女に呼応してマナウスも裂帛と共に矢をも放ち、前に立つ者達から意識を反らしその動きを僅かでも留めようとするが、幾太刀受けても尚豪腕振るう人喰鬼の動きは未だ変わらない。
「しかし流石と言うのもあれだが、頑丈でござるな」
「全くだ、しかも相手の得物からしてまともに打ち合うのも危険。厄介にも程がある」
 そしてその、振り下ろされた棍棒をギリギリの所で月夜が受けて流せば痺れが走る腕を抱え後ろへ飛べば、入れ替わりに人喰鬼の懐へ潜り再び太刀を振るうアリアスだったがその一刃を受けても平然と立ち尽くしては咆哮を上げる鬼の底知れぬ生命力に舌を巻いた時。
「南から来るぞ、キット」
「分かった、その間にそいつを早く」
 己の役割を把握しているエルフの射手が隙なく辺りを見回せば己が視界に入る、数匹の熊鬼を見掛けるとその手近にいた疾風に声を掛ければ一陣の風を残してそちらへ駆け出すキットから蒼き衣纏うエルフは再び巨大な鬼へ向き直るも、怒りを全開に流れ出る自身の血を撒き散らす様、意外に俊敏な鬼は持てる最大の速さで腕を振るい赤き嵐と化していた。
「このままでは‥‥そう長く、持ちませんわ」
 だがそれでも悉くその打撃を盾で止め、一行の中で一番に優れた剣の腕を駆使し捌き隙を縫って鬼へ切り結び続ける桃化だったが、遂に腕へ走り出す痛みから呻くと視界の片隅に虹の煌きが流れれば次いで、迸る剣閃。
「‥‥こ、これで‥‥っ!」
「マナウスっ!」
「分かっている。ルクス、頼んだ!」
 小さなさくらの声が響くと同時、遠慮がちに棍棒へ当たった野太刀は弾かれずに緩やかな勢いのままで人喰鬼の得物を砕き散らし、鬼を躊躇わせれば更に短剣を投擲して混乱へ陥れるレリアが叫ぶとマナウスも矢を放って周囲にいた鬼達が無力化されている事をすぐ確認し、今日だけで何度も助けられている切札を再度切ると場に響くルクスの厳かな声音で紡がれる詠唱。
「縛せよ、敵意あるもの。その動きを!」
 そしてそれは即座に効果を成し、絶叫しか上げる事が出来なくなった鬼が身悶えすれば一気に懐へ迫った三人はそれぞれの得物に宿した闘気を迸らせ、横へ下へ上へと鋭く刃を走らせるのだった。
「悪いが、付き合ってやれるのは此処までだ」
「生きているかも知れぬ人々の為に、滅するでござるっ!」
「この一撃に全てを‥‥『昇竜』」
「ガァァァッーーー!!!」

●岩塊
 それから修羅の如く戦い続ける一行は更なる交戦で馬頭鬼に牛頭鬼を屠ると、暫くして置かれている状況が不利だと漸く悟った鬼達は日が沈んでから逃げ出すも、人命を尊重する一行は追撃を良しとせずさくらの指示で微かに捉えられた息だけを頼りに村内を隈なく捜索し、見付け出せば
「だ、大丈夫ですか‥‥少しだけなら、簡単になら私でも‥‥」
「済まない、助かる」
 今はルクス主導の元、生き残った村人達へ魔法による治癒と一時的な治療に励んでいた。
「‥‥しかし、これだけか」
「だが、これだけでも生き残っていた人がいたのは奇跡でござろう」
「確かに、な」
 しかし残された村人達の数はと言えば、片手の指を全て折れない程度でマナウスはやるせなさから顔を顰めると、やはりうな垂れながらも月夜が無理矢理だったが顔を綻ばせて声を掛ければ彼女の心情を察して彼もやっと頷くと
「むしろ、これからが大変だ。これだけの被害に遭ったんだからな」
「あ‥‥そう言えば、レリア様は?」
 厳しい表情を湛えながら、今もまだ辺りを警戒するキットが伏せる村人達を見据え微かに哀しげな光を瞳に湛えた時、もう一人の怪我人がいない事に気付いたさくらの声が響くと皆はやっと、戦闘が完全に終わった後からレリアが何時の間にかいなくなっていた事に気付いた。

「以前の折、気になったのだが‥‥もしや病魔に蝕まれておるのか?」
「何の事だ?」
 と一行が心配していた頃、当の本人はガイエルに付き添われ目的のものを見付ける為に村内を散策していた。
「隠しても無駄だ」
「‥‥少しだけ、他人より少しだけ無理の利かない体なだけだ」
 その折、黒き僧侶からの問いへ至極普通に答えを返すレリアだったが比較的付き合いの長い彼女を誤魔化す事は出来ず‥‥それでも精一杯の強がりを言うと、次いで辺りを見回せば
「私の村も、この様な最後を迎えた。その時からだと思う‥‥ボロボロになっても一人だけ生き残ったからな、いや‥‥」
「もういい、分かった」
 昔の話を少しだけ交えて呟くと、ガイエルがその続きを制すれば不意に足を止めるレリア‥‥自身の視線を足元へ落とすとその時、背後から二人を呼び止める声が響く。
「やっと‥‥見付けたでござる」
 その声の主が道中、常に気遣ってくれた月夜だと気付いてレリアは振り返ると無事な剣士の姿に安堵して彼女は少しだけ顔を綻ばせるも、彼女らの足元にある『それ』に気付けば再び口を開き、問い掛ければ
「もしかして、これか。レリア殿が探していたのは」
「あぁ、だが何故こんなものを探しているのかは私に聞かないでくれよ。詳しい事は殆ど知らないからな」
 レリアは改めていびつな『岩塊』を見下ろし、頷いては月夜にガイエルを見つめ肩を竦めるのだった。

 〜終幕〜