【桜花絢爛】遅咲桜

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:15人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月17日〜04月29日

リプレイ公開日:2006年04月27日

●オープニング

●迷いし馬鹿と咲く桜
 此処は伊勢‥‥先日まで妖怪の仕業で雪が降り積もっていたとある山、その事を知らない外国から来たのだろう派手な面立ちの騎士が一人彷徨っていた。
「‥‥何処だ、此処は」
 土地勘が無いのだろう彼、ボソリと呟けば山中である事しか分からないそこを闇雲に歩き続ける。
「アチュド捜索の命を受け、京都にまで来たのはいいが‥‥」
 そして嘆息を漏らせばある者の名を呟いて、肩を落とす騎士‥‥探している者の名前が間違っている事を気付かないまま、更に足だけは動かすが
「むぅ、見付けたら土中へ逆さ埋めにして八百二時間は放置だな!」
 長い時間を費やしているにも拘らず彼が見付からない事を釈然とせず、次に叫ぶが不意にその足が止めた彼の名はヴィー・クレイセア。
「‥‥その前に、我が死にそうな気もする‥‥腹が、空いた」
 主命を受けてイギリスよりジャパンへと辿り着くも、道中はジャパン語も使えない事からまともに食事を取る事出来ず今に至れば、腹が鳴る音を耳にして彼は改めてそれを認識する‥‥因みに彼が担ぐバックパックはもう大分前から軽い。
「この感じ‥‥ジャパンでは何と言うんだったか‥‥そう、抱腹絶倒、だったか‥‥?」
「そりゃ明らかに違うわ」
 やがて目の前が霞むと彼は遂に力尽き、力の入らぬ体を地に横たえれば最後にそれだけ呟くと‥‥耳にする、誰かの突っ込み。
 だがその声の主が誰かを認識するより早く、彼は頭を垂れ意識が暗がりに沈めた。
「今度は行き倒れの外人‥‥ねぇ」
 その気を失った彼の前で佇む神野珠が一人ぼやいて肩を竦めると、一先ず騎士から目線を反らし頭上に眩しく花開く桜を見つめる。
「とりあえず‥‥雪女は本当に去ったみたいね、これなら例年よりは遅いけど伊勢神宮主催のお花見は出来そうだね。あぁ、全く慌しい」
 そして顔を綻ばせながらも再びぼやくが
「まぁでも、状況が状況だから止むを得なし‥‥かねぇ。それにこれ、どうしたものか」
 手に持つ、大量の紙片の束を持ち直せば半眼湛えて彼女は目の前に転がる騎士をどうしようかと、次に悩むのだった。

●伊勢神宮お花見のしおり
□ご挨拶
 桜花爛漫の候、皆様如何お過ごしでしょうか。春の陽気に誘われて桜の花も美しく咲き誇り、今年も町内会では花見会を行う事となりました。各種催しも取り揃えておりますのでご家族、ご友人お誘い合わせの上で是非お越し下さい。

 日程:神聖暦一〇〇一年四月十二日〜十七日
 会場:四つ巳の刻開場、五つ戌の刻閉場
 入場:無料
 催し:適宜、隠し芸大会を実施。場を盛り上げてくれた方には何か出るかも?
    屋台など有り。
 後援:伊勢神宮

□ご注意
 ・飲食物の持ち込みは出来ますが、ご利用の際のゴミは持ち帰る様にお願い致します。
 ・会場内への危険物の持ち込みはご遠慮下さい。
 ・ペットの連れ込みは出来ますが、種類や状況によっては係員の判断で入場をお断りする場合があります、気になるお方はお尋ね下さい。
 ・会場内での飲酒の際は、他のお客様のご迷惑にならない様にお願い致します。
 ・桜の樹は大変繊細な生き物です。樹や花にはお手を触れぬ様、お願いします。
 ・その他、危険行為や迷惑行為はお止め下さい。

●‥‥またか
 そう呟いたのはギルド員の青年、と言う事で京都の冒険者ギルド。
「また、って何だい」
「‥‥依頼らしからぬ依頼だな、と思って」
「いいじゃないか、平和だって事は」
 目の前に置かれた大量のしおりを前に呟く彼に対し、頬を膨らませて珠が問い質すと先日の伊勢観光を思い出して嘆息を漏らす青年だったが、彼女は平然としたまま微笑むだけ。
「そうでもないだろう‥‥第一、貴女は伊勢神宮の‥‥」
「まだ『情報』は集めている最中、それに肝心要の『斎王』も『発遣の儀』を迎える前でこちらへは当分、来ない‥‥まぁそれ以前に、今回は前回と違って現在の伊勢の状況を憂いた上層部が例年通りの開催を決定した上でのお誘いだけどね」
 そんな彼女の様子に呆れ、彼は珍しく苛立たしげな表情を持って彼女へ迫るも‥‥珠は至って落ち着いたまま、彼を手で制して静かに諭し掛ければ
「と言う事でさ、これからに備えて今はしっかり休むべきじゃない?」
「‥‥まぁそれも確かに、な」
「それじゃ、宜しく頼むよ」
 次には何時もの笑顔を湛え笑い掛けると青年は溜息をつくも此処でやっと、僅かにだが笑顔を浮かべて頷けば踵を返して珠は手を掲げ、その場を後にするのだった。

――――――――――――――――――――
 依頼目的:お花見で盛り上がれ!

 必須道具類:『移動』期間中の保存食(日数分)は忘れずに(お花見期間中はお金を消費する形になります)。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自『予め』準備して置いて下さい。

 NPC:アシュド、レリア、エド、アリア、珠、勇、優、ヴィー
 日数内訳:京都から目的の山(伊勢)まで往復日数は六日、お花見期間は六日。
 その他:上に示すNPCは対応可能、ほぼ一塊で会場の何処かにいます。
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●今回の参加者

 ea0061 チップ・エイオータ(31歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea0340 ルーティ・フィルファニア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea4460 ロア・パープルストーム(29歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea5001 ルクス・シュラウヴェル(31歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea5635 アデリーナ・ホワイト(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5936 アンドリュー・カールセン(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea5984 ヲーク・シン(17歳・♂・ファイター・ドワーフ・イギリス王国)
 ea6226 ミリート・アーティア(25歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6601 緋月 柚那(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea7694 ティズ・ティン(21歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ea8214 潤 美夏(23歳・♀・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 eb1460 エーディット・ブラウン(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb1793 和久寺 圭介(31歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3226 茉莉花 緋雨(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

野乃宮 霞月(ea6388)/ レイン・フィルファニア(ea8878

●リプレイ本文

●花見とは?
「‥‥間違い、だったのですか」
 額に汗掻き、肩で息をする茉莉花緋雨(eb3226)を筆頭に予定より早く伊勢へ辿り着いた一行、しおりに記されていた開催日の誤植から起こったアクシデントであったが
「そうだねぇ。でもその分、花見が長く楽しめるからいいじゃない」
「全く、困った御仁だ」
 とそれを作った神野珠はガイエル・サンドゥーラ(ea8088)が呆れる中でも悪びれずに笑顔で一行を宥めれば、今は珠らが案内の元で花見の舞台となる山へ向けて行進していた。
「ジャパン人が毎年行うと言う『ハナミ』だが、一体どんな事をするのだ?」
「そうだな、言われて見れば確かに‥‥良かったら、教えて貰えないだろうか。美しいお嬢さん」
 その道中、先導する珠の背へジャパンに来たばかりのアンドリュー・カールセン(ea5936)が外国より渡来して来た者ならではの質問を投げ掛ければ、同意してヲーク・シン(ea5984)も頷きつつさり気にお世辞を混ぜて続き、問うてみると
「いやだねぇ、あんたっ!」
「ごぼへぁ!」
「‥‥まぁどんな事って、桜の花を見て騒ぐのさ」
「それだけ、か?」
「ジャパンへ来たばかりのエゲレス人には『花見』が何たるか、見て貰った方が早いかと思いますわよ」
 真に受けた珠が照れてだろう、思い切り平手でヲークを張り飛ばせばいやに吹っ飛ぶ彼を見なかった事にしてアンドリューへ向き直りそれだけ言うも、尚首を傾げる彼の様子にどう伝えたものか困り果てるが潤美夏(ea8214)の提案に苦笑を湛えたその時だった。
「うわぁ〜‥‥凄い凄い! 桜がい〜っぱいだよ♪」
 場に響き渡る、ミリート・アーティア(ea6226)が上げた感嘆の声に皆もその視線の先を追えばやがて視界に入る、一面桃色に染まる山。
「本当に凄いですね」
「初めて見る花だが、見事としか言いようがないな」
「なるほど、分かった気もする」
 その光景を遠目ながらも前、既に駆け出している彼女同様アデリーナ・ホワイト(ea5635)とルクス・シュラウヴェル(ea5001)も覚えた感動を素直に口にすれば、花見とは何たるかを感覚で捉えたアンドリューも落ち着いた声音で何となく、納得する。
「お花見は初めてでよく判らないけど、花を眺めてるだけでも春だなって思えて嬉しいな」
「そうですね、私も楽しみですよ」
「‥‥儚い桜も艶やかだが、やはり女性には劣るね」
「何か仰いました?」
「いいや、何も」
「また暫くお願いしますね、アリアさん」
 満開に咲き誇る桜の木々を抱えた山を前、足を止めた一行の中でチップ・エイオータ(ea0061)が笑顔で呟いた時、一行を待ち兼ね山から下りて来たアリア・レスクードが頷けば僅かに舞う、桜の花弁の中で佇む彼女を見てボソリと呟く和久寺圭介(eb1793)は風によって届かなかったのだろう再度尋ねるアリアへ、何時もの微笑だけ返すと首を傾げつつも緋雨の抱擁に応える。
「しかし、よく見れば此度は異国の者ばかりなのじゃの。ここはジャパンの地の筈‥‥おかしなものじゃの〜」
「ですがそれもまた、いいのではありませんか? ジャパンを知って貰ういい機会ですし」
「はろう、お久だよ♪ あれから元気してたかな、優さん?」
「えぇ、それなりに‥‥でしょうか?」
「勇だけ留守番、ね。積もる話もあるでしょうけど‥‥ほらほら、向こうで待っている人もいる事だしまず、あの山まで行きましょう」
 そして改めて場を見渡して緋月柚那(ea6601)、今更な事に思い至るがその彼女を諭す様に響く女性の声へ振り返れば、自身と同じく巫女装束を纏う女性の存在に気付き見惚れると同時、再会を喜ぶミリートへ苦笑を湛え楯上優も応えれば遂にはあちこちで話にも花が咲くが一人だけいない矛村勇が留守番をしている事に気付き、珠が皆へ呼び掛ければまず初日の簡単な花見へ向け一行は眼前に聳える山へ向け、歩を進めた。

●遅咲桜
「アシュドー! 元気にしておるか?」
「‥‥さっきまではな」
 さて翌日、一行と伊勢に住まう者が合流を果たしたのは太陽が真頂点に昇った頃。
 早朝から場所取りに向かった面子の中、昨日は何処へ姿を眩ましていたかアシュド・フォレクシーがいる事に柚那が気付けば、恐るべき勢いを持って飛び付いた直後に尋ねるが、受け止め切れずに倒れ伏し呻く彼にそれでも笑顔を返す柚那。
「いい場所ですね」
「頑張ったからねっ!」
 優の声が次に響けば、チップが誇らしげに言うと釣られ微笑む彼女に皆も同じく笑顔を浮かべて、一先ず思い思いの場に腰を下ろす。
「にしても、だ。この辺り一体、人の姿がないのは何故だろうか?」
「これのせいかなぁ?」
「鳴子、しかしこれだけでは」
 だが直後、周囲に人気がない事にルクスが気付くとやはり彼女と同じ事が気になり辺りを探っていたミリートが見付けたそれを鳴らすも決定打に欠ける事からレリアが首を捻るが
「鳴子は一種の警告。それにも拘らず侵入して来た場合、地面に敷設した漆の樹液入りの松脂壺に足を突っ込む事となる。不法占拠をしようとした者は手痛い教訓を学ぶ事になるだろう、因みに鳴子以外は既に撤去済みだ」
『‥‥何もそこまで』
「大人気ないですわね」
「勝利に犠牲は付き物だ」
 辺り一体に人払いを施した張本人であるアンドリューが広げられたござの中央でその手段を丁寧に解説すると、辛辣な美夏の評価を頂く事となるがこれも一つの戦場と理解している彼には届かず、至って真面目な回答が次に響けば
「ま、お陰で良い花見が出来そうだし過ぎた事でもあるから、ほら早速今日の花見を開始しようじゃないか」
「メイド日和に尽きるね、うん!」
「どれもおいしそ〜、おいらもご馳走になってもいい?」
「女性だけ‥‥と言いたい所だけど、どうぞどうぞ」
 気楽な声音で皆へ珠が呼び掛けるとテキパキとした手際でティズ・ティン(ea7694)を先頭に、昨日屋台で買った物とは違う各国様々な料理の数々が一行の前に並べられて行くとそれを前に、チップが感嘆の溜息を漏らせばヲークが自身の料理をこの場で作りながら促せば、それを合図に皆は料理へ箸を伸ばし摘まむ。
「‥‥美味いな」
「料理とはこうやるものなのか、今までやった時がなかったが‥‥なるほど」
「それは、意外だな」
「ドジっ子属性ですしね〜」
「‥‥それは関係ないし、違うと言っているのだが」
「そんな事、ありませんよぉ〜♪ どうしても私には他人に思えません〜」
 素直に賛美を述べるアンドリューが簡潔だが最高の褒め言葉を送ると、その顔を綻ばせる調理人達と、ヲークの手馴れた調理風景を見てレリアが感心すれば料理が一端を拵えたルクスが彼女へ苦笑いを浮かべるとエーディット・ブラウン(eb1460)も続き茶々を入れるが剣士は否定するも、彼女は聞く耳持たず彼女の頭を撫でると
「その様子なら、体調の方は大丈夫そうだな」
「問題ない」
「それにエドも、大分良い顔になったな」
「‥‥うん?」
「この子がエド君なんだー? へー、ふー、ほー」
 いい様にあしらわれながら、しかし怒る気力が沸かないレリアへルクスが微苦笑湛え気遣いの言葉掛けるも、エーディットに頭を撫でられつつも剣士が掌掲げれば次いでエドを見やり首を傾げる彼の頭を撫でると彼女が紡いだ名に反応してミリート、興味津々に彼を見つめれば遂に我慢出来なくなってか、近くにいたエルフの背へ隠れる彼。
 それでも彼女は笑顔で手招きすると、ルクスの背から顔だけ半分出してはミリートを見つめるエド。
「いい加減、太りそう」
「‥‥これだけ酒を持って来た貴女が言う台詞ではないと思うけれど」
「えへへ」
 そんな和やかな雰囲気の中、今もヲークは自ら調理しては出来立てな豚肉の揚げ物を女性へ優先的に差し出せば、その器の一つを受け取りルーティ・フィルファニア(ea0340)が最近、自身が受ける依頼の傾向から密かに溜息を付くも‥‥彼女が持ち込んだ十本ばかりのどぶろくを見て肩を竦めるロア・パープルストーム(ea4460)に突っ込まれ、苦笑を湛えるルーティはお猪口に注がれたそれを飲み干す。
「酒は精神を破壊する。冒険者を長く続けたければ‥‥」
「なんだいあんた、意外と堅苦しいねぇ〜。そう遠慮せずに飲みなよ!」
 始まった酒盛りを前にアンドリューが真面目に説教を始めようとしたが、それを察した珠がその口にどぶろくが満たされた瓶で塞げば、罠師が目を白黒させる中
「こうも人が多ければ『何か』が雑じっておるやもしれんの。例えば、古き桜の木にも草木の精霊が宿ると言われておった気もするし‥‥ちと散策なのじゃ♪」
「お、おい。ちょ‥‥」
 黙々と料理に箸を運んでいたアシュドを半ば強制的に誘い、辺りの散策へ出る柚那の姿を見止めてルーティ。
「‥‥真面目な事になると躊躇してしまっていけませんね、私」
「それなら考え方をすこーし変えればいいのよ、例えば‥‥」
「行きなさい、マイケル。目標はあの人ですよ」
 さっきまでの明るげ調子とは真逆、声のトーンを落とし一人ごちたがそこへロアが声を掛ければアデリーナと視線を交わし、それを合図に彼女は自身が養う闘鶏放つ!
「な、なんだっ!」
「存分に楽しんでね、アシュド。余り考え過ぎる様なら髪の毛が抜け落ちる前に私達が毟ってあげるから」
 そして微笑む彼女らが見守る中でマイケルは鋭い嘶き上げ、アシュドへ突っ込めば成す術なく再度地に打ち倒される彼を見てロア、にこやかにそれだけ告げるとルーティへ向き直り笑い掛ける。
「ほら」
「おー、なるほど」
「‥‥もう少し、考えてみたら?」
「そうですね、気が向いたら」
 その手本を目に感心する彼女へロアは苦笑を浮かべるがルーティも動じず、笑顔で応えるも確かに自身考え過ぎていた事に思い至れば、内心でだけだがロアらしい心遣いに感謝するのだった、アシュドの叫びだけ未だに響き渡る中で。

「ふぃー、お腹いっぱーい!」
「食後に、これをどうぞですわ」
 それから暫く。調理人達の力作を満遍なく平らげたチップが草むらに寝転がった時、丁度人数分ある団子が入った重箱を美夏が差し出し、珍しく微笑めば一行‥‥少なくともこの依頼でその表情を初めて見た事から訝ると
「ご察しの通り二つ、辛子が入った外れがありますわ。見ただけでは分かりませんのでご覚悟だけ宜しくお願いしますわね」
 続く彼女の言葉に一行、改めて団子を見ると確かに美夏が言う通り外見だけではどれに辛子が入っているのか、全く分からない。
「‥‥‥」
 単に皮が厚い訳でもなく、技量が問われるだろう団子の出来栄えに皆はどれを取ろうか逡巡するがエドが誰より早く、適当な一個を掴めばそれを合図に皆も一斉にそれを掴み口へ放り込む。
『っーーー!』
 甘い団子に複雑な表情を浮かべる者もいたが直後、声にならない声を上げ立ち上がったのは二人のエルフ‥‥何時もは静かなルクスとガイエルが顔を真赤にしながら、それでもそれ以上の叫びを発さないまま、普段見せないだろう猛烈に駆け出す姿を皆へ見せつけるのだった。
「そう言う事で団子より花、と言う事でしっかり花見ましょう」
 そんな二人を見送りながら美夏が言いたかった本題を切り出せば、天空の蒼に負けず広がり映える桜に見惚れ、微笑んだ。

●新春隠しg(ry
「意外に厳しい反応だったね〜」
「お酒で出来上がっている人が殆どですから、インパクトが大事だったかも知れませんね」
 それから暫く、隠し芸大会の開始が告げられれば参加の有無に拘らず人々は集まりそれぞれに一喜一憂、罵倒に大笑いをするのだが縄抜けを成功せしめたチップと魔法にて池の上を歩いては、華麗なる水芸を披露したアデリーナが揃って肩を落としていた。
 観客の反応としては二人共上々だったのだが、アデリーナが言う様にインパクトを欲していた観客の皆さんの実採点は厳しく、自身らに何が足りなかったのか今は舞台袖で参加者達の芸を眺める二人。
「ティズ、いっきまーす!」
 そして何人目か芸を終えれば次に幼い風貌携え出て来た小さなメイドのティズが丸々一頭、豚を転がし舞台へ現れると‥‥可愛らしい掛声と同時、背丈以上の大剣を振り回しては豚の解体ショーを披露するではないか!
『うぉぉぉーーー!』
「これで、ロシア料理をふるまっちゃうよ!」
「あれ位、必要だったんですね‥‥」
「うーん‥‥奥が深いねっ!」
 その光景に、観客の殆どが雄叫びを上げれば達人級の腕前でそれを即座に解体した彼女は次いで、自身の出身国であるロシアの料理を作るべく調理へと取り掛かるとアデリーナはうな垂れるがチップは感心して暫く続くティズの調理風景に感心するのだった。

「五十三番、エーディット! 此処に並々と注がれたお酒があります〜、これが一瞬で消えますので皆さん良く見ていて下さいね」
 小さなメイドさんの後に続くのはやはりメイドさん、大振りな湯飲み茶碗を手にそれへ並々と酒を注ぐ彼女が微笑めば直後。
「とと、あれは何でしょ〜?」
『ぁ?』
 不意に彼方を指差し、皆の視線を僅かにだけ虚空へ縛る‥‥その間は僅か一瞬。
「はーい、消えましたー!」
『ぉー!』
「次いけ、姉ちゃんー!」
「はい〜。おっと、あれは何ですかー!」
 すぐに観客の皆さんが彼女を見るとあら不思議、逆さになっている湯飲み茶碗には何も零れて来ず、彼女の周囲が酒に濡れている訳でもなく驚く一同‥‥まぁただ単に、恐るべき勢いで一気飲みしただけであったが、それだけでも何故か盛り上がる観客の皆さんが囃し立てれば、リクエストに応えるべく彼女も再び同じ事をそれから数度繰り返し、拍手喝采を背に舞台袖へ下がると
「レリアさんもこの手品を覚えてみませんか〜?」
「遠慮する。酒は飲んでも飲まれるな、だ」
 その舞台袖、一行の奮戦を見ているだけのレリアへエーディットは笑顔で先に使っていた湯飲み茶碗を託そうとするが、彼女は苦笑だけ浮かべ丁寧にその誘いを辞退した。

 とは言え、何時までもそんな馬鹿高いテンションが観客達に続く筈なく場は随分と落ち着いていた。
 そんな本日の隠し芸大会最後のトリとして舞台へ上がったのはミリートで、騒ぎ過ぎで疲れ果てている気がしなくもない観客達へ苦笑を浮かべつつも、彼女は少し間を置いてその口から春色の歌声を紡いだ。

『風に身体を遊ばせて
 香りと共に 軽くステップ

 アナタだけのその踊り
 ふわりふわふわ お披露目だよ

 今しか出来ないこの舞台 だから一緒に遊びたい
 楽しくソラを飾ろうよ

 ひとときだけの鮮やかさ でも、さよならって訳じゃない
 次逢う時も、遊ぼうね』

 桜の彩りに負けじと場に響くその歌声は聞く者全てを魅了するも、やがて周囲の空気を震わせていた歌声が止めば終わりを告げるべくミリート一礼し、満足げに笑顔を浮かべると疲れ果てた観客達から大きな反応こそ得られなかったが、大会の締めとしては相応しく場に居合わせた一同の静かな拍手を持ってこの日の隠し芸大会は終了となった。

 因みに今日、最も観客達に受けたのは誰が名付けたか、エーディットの『河童飲み』だったのは言うまでもない事を付け加えておく。

●様々な再会
「空を映す湖面の様に澄んだ紺碧の瞳、聖夜に降り積もった白銀の峰より切り出した様な肌、月明かりすら嫉妬しそうな漆黒に輝く髪、全てを俺の手の中に抱きたい‥‥」
 満足の行く料理を作り終えたヲークの次なる仕事はナンパだった。
 と言う事で一行の殆どが女性にまず、片端から歯の浮く様な口説き文句を真摯な表情湛え紡ぐ彼だったが
「‥‥何か仰いました?」
 返って来た大半の反応はアデリーナの様に、スルーされると言う結果が一番多かった。
 返す際の表情こそ人それぞれだったものの反応はそれ以外にもあった訳で、例えば。
「出来るなら、白馬の王子様に誘われたいなぁ〜」
「‥‥おーい、戻っておいでー?」
 ティズの反応、恋に焦がれる彼女の反応としてはある種、当然だったがその瞳が遠く彼方を見つめている事から逆にヲークが心配してしまう始末。
 因みにそれから暫く、彼女の心は帰って来なかったと言う。
「そこのうどんの様に、性根が伸びまくってますわね」
 美夏の反応、皆の作った料理の傍らで寂しく忘れ去られている伊勢うどんを指差しては面と向かって言う彼女の反応にはむしろすっきりするものがあり、それ故にダメージも大きくヲークは盛大に肩を落とす。
「ふえっ!? そ、そんなナンパとか好きくないもん!?」
 ミリートの反応、この手の話は苦手な様で頬を赤く染めては即座、何処から取り出したかハリセンで持てる以上の力を発揮して彼を引っ叩けば
(「ナンパの道って奥が深いね」)
 それを頭部へ受け地に顔を埋めながら内心、まだまだ未熟だと実感するヲークであったがそれだけに彼は以降、ナンパ道を極めるべく山中のあちこちを駆け回るのだった。

「アシュド殿を探しに来たと聞いたが、誰の命で? ナシュトはどうしている?」
「アレス様に仰せ付かって来た、尤も連れ戻せとかそう言った話ではないがな。因みに旦那は旅に出た、行く先も告げないで突然」
「旅に出た、か。何を思ってか、気になるが伏せっているよりは余程建設的だな」
「えぇと、アレスって確か‥‥」
「アシュドの父親だな」
「案じてはいるが、干渉こそしないか。出来た父親だな」
「放任主義なだけかも知れませんよ」
 ヲークが山中を東奔西走している頃、行き倒れの騎士を囲む一団ありき。
 無論、彼の事を見知った面々な訳でガイエルが二つの問いにヴィーが紡いだ答えは場に響くと次いでロアの疑問を皮切りに、話の一端へ上がったアシュドの父親の話に暫し逸れる事になるが
「具体的に、何てことづたって此処まで来たの?」
「様子を見て来い、それだけだ。後は我の力でアチュドを助けてやってくれと」
(『助けにならないんじゃないかなぁ』)
 その話を始めた張本人であるロアが責任を持って話を元へと戻せば、ヴィーの答えに一行は内心でだけ突っ込むが、それよりアシュドの名前を未だ間違っている事へ突っ込んでくれ。
 しかしその直後、突っ込みを恐れた訳ではないだろうヴィーが不意に立ち上がる。
 その唐突な行動に質問攻めを繰り返していた面子、自身らの背後を見つめる彼が視線へと視線を向ければ、頬を朱に染め巫女装束を掲げて微笑むルーティの姿が目に入ると
「うはは、逃がしませんのよー!」
 瞳を爛々と輝かせ背後に怪しげなオーラを纏う彼女が駆け出すなり、それから逃れるべく地を打ち鳴らしてやはり駆け出すヴィーだったが‥‥それでもルーティ、呂律が回っていないながらも即座に詠唱を完成させては魔法で彼を逃がすまいとその動きを鈍らせると、立て続けに魔法でヴィーの眼前に土の壁をおっ立てる。
「誰か止めろー!」
『面白そうだから、断る』
「お前ら全員、後で崇め殺してやるー!」
「お待たせ致しましたですわね」
 そして四方を囲めばヴィーの絶叫が響き渡るも一行の素っ気無い返事に再び叫び返した丁度その時、空だけ見える頭上の片隅‥‥黒く俊敏な羽虫の如く壁をよじ登って来たルーティがほくそ笑む姿に、彼は耐えられず悲鳴を上げた。

「皆さん、楽しそうですね」
「えぇ、でもこちらはこちらと言う事で」
「賛成だね」
 そんな、騒がしい面々の傍ら。
 のんびりとその光景を視界の片隅に捉えつつ桜の花に魅入り酒にお茶を交わすのは、アリアと元学友達‥‥にその三人へ何かを期待している今は静かな、エーディット。
「ジャパン語の方は、あれからどうかな?」
「お陰様で、以前より大分楽になりました。あの時もそうですが、いつも色々とありがとうございます」
「困った時はお互い様、余り気にしないでいいですよ」
 変わった取り合わせの中、話を取り持つ圭介がふと先日、彼女が出した依頼を思い出して心配気な声音でアリアへ尋ねれば、頭を下げる彼女だったが緋雨が抱き付き耳元で囁けば笑顔で頷くと
「御三人は仲がいいですねぇ〜」
「いいえ、いつもお世話になってばかりで」
「圭介さんって良く見ると‥‥意外に凛々しい顔立ちですねぇ〜」
「あぁ、それは至極恐縮の所存だね」
 三人の普段ながらのやり取りを見て少し羨ましげにエーディットが間に入れば遠慮がちに言葉を返すアリアだったが‥‥その折に視界の片隅に入る、お酒の力によって何時もより艶っぽい緋雨と、その彼女に迫られている圭介を見て僅かだが顔を顰める。
「アリア‥‥後で少しだけ、いいかな」
「? 構わないですよ」
 だが直後‥‥何を思ってか慌てふためくアリアだったが緋雨の髪を梳かし、宥めつつも圭介から言葉を掛けられればそれはすぐに忘れ微笑めば、特に断る理由なく彼へ頷き返すのだった。

「えへへ、こ〜やって抱っこしてるとあったか〜い♪」
「エドさん、可愛いー♪」
「うぁ」
 こうして見るとそれぞれ、派閥を成す様に見事にグループ化されている一行。
 その一派である伊勢神宮の面々、既に出来上がっているミリートと優の二人は何故かエドを抱いて地面を転がり回っていた‥‥その時、たまたま戻ってきたヲークが凄い形相でエドを睨んでいたのは気のせいだと思いたい。
「何をしているんだか」
「それで、さっきの話の続きだけど‥‥」
「あぁ、勇頼んだ」
 その、エドにじゃれ付く二人の姿がどうにも犬猫の様に見える微笑ましい光景に珠は苦笑を浮かべるが、精霊碑文学に精通しているロアが先から繰り出す難解な質問の数々を思い出せば勇に丸投げしてみたり‥‥どうやら彼女、そちらは余り得意でない様子。
「僕ですか!」
「良いじゃないですか、これも修行の一環ですよ」
 無論、突然と話を振られた事から狼狽する彼だったがアデリーナに諭されると、本来からの人の良さも手伝って次には真面目な表情で考え出す勇。
「ねぇ、彼って?」
「伊雑宮の宮司の息子さんで今は修行の為、伊勢神宮にいるんですよ。そう言えばあれからどうですか?」
「相変わらず、珠さんにこき使われていますよ。まぁそれでも暫くしたら解放されますけどね」
「伊雑宮へお戻りになられるんですか?」
「少しだけ、ですが」
 その合間、ロアが勇と顔見知りなアデリーナへ問えば掻い摘んだ紹介と共に勇へ伊勢観光から後の話を尋ねて見ると予想通りの答えにアデリーナが微笑めば、珠の鋭い視線に首を縮める勇はその後、一言付け加えると
「何かあるのかしら」
「さぁ、それは僕にも」
 彼の表情から急な事を察したロアが首を傾げるも、勇もまた肩を竦めるだけで談笑は再び続く。
「えーと、それでロアさんの質問ですが精霊碑文学の研究をしている方は居ますよ。実際、私の父もしていた様な」
「なるほど‥‥それなら、後で伺わないとね」

「これ程魅惑的な君を目の前にすれば、周りの桜も映やすだけの存在になってしまうね」
「そんな事、ないですよ‥‥」
 桜の花弁舞う中、そよぐ風に髪を靡かせアリアを先導しては此処まで連れて来た圭介が不意に振り返り微笑めば、苦笑を浮かべ謙遜する彼女だったが
「それで、お話って何でしょうか?」
「ああ、アリアに渡したいものがあったんだ‥‥君に似合うと思ったのだが、以前渡し損ねてね」
 騒がしくも楽しい一行の輪から連れ出された理由が未だ分からず、改めて彼へ問うて見れば返って来た答えと同時、一陣の春風が辺りに強く吹くとアリアは視界が花弁に塞がれる中、自身の頭部に何か着けられた事だけ察する。
「女性に贈り物など滅多にしないせいか、何だかこそばゆい気持ちだが‥‥良かった、良く似合うよ」
「あ、ありがとうございます‥‥大事にします、ね」
 すると次に響く彼の言葉にアリア、自身の頭へ手を伸ばせば触れる柔らかな羽の感触と普段とは違う、彼の真面目な言葉へ思わず素で照れて声を上擦らせ礼を述べれば再び天使の羽飾りがある自身の頭に手を這わせ、嬉しそうに微笑むのだった。

 ある意味春らしいやり取りを交わす二人の傍ら、とある樹の影に潜む者達。
 アリアと圭介の話をこっそり聞いていたエーディットが自身の膨らむ妄想押さえ切れず二人の後を追えば、繰り広げられる妄想より大人し目だったが
「はぅあ、これは‥‥素敵ミステリーですねっ!」
「むぅ、私の知らない間に」
「いいなぁ、私もあんな事言われて見たーい!」
 その光景を目の当たりに頬を染め、身を捩らせ見守る彼女を筆頭に先まで一緒だった緋雨が一人、仲間外れにされた感否めず頬を膨らませるその背後‥‥何時来たのか、羨ましげに二人を見つめるティズら三人はそれから暫く飽きる事無く、二人を見守るのだった。

「聖なる光にて仄かに照らされる桜もまた幻想的で見事なのじゃ」
 未だ騒がしく盛り上がる人々の群れの中、薄暗い桜の木立の中を魔法の灯りで照らし愛しい柴犬らと共に山中を再び散策する柚那の姿だったが
「ん、何じゃろう」
 何処からか微かに聞こえて来た話し声を捉えれば、彼女はそちらへと足を向けた。

「改めて‥‥久し振りだ、アシュド・フォレクシー」
 その柚那が足を向けた方、石灯籠を背に佇んでいたのはアシュドと久々に再会を果たしたアンドリューに、ジャパンに来ても彼を見守るガイエルらがいた。
 彼の改まった挨拶に、にべもなく手だけ振るアシュドへ先から変わらず難しい表情を浮かべるアンドリューだったが、次にはその頭を下げると
「済まない、アシュド。やはりあの時、お前を連れて行くべきだった」
「過ぎた事だ」
「ならばここに咲いている桜がやがて散る様に、この世に絶対は無い事だけ言わせて貰う。時には理不尽な思いを胸に途方に暮れる時もある。それを乗り越える為に必要なのは確固たる信念と洞察、そして幾許かの行動力だ‥‥昔の戦友の受け売りだがな」
 過去の話を切り出せば、顔を顰めながらも彼を諭すが‥‥次に顔を上げたアンドリューは僅かに間を置き、やがて決意して言葉を紡ぐと今度は押し黙るアシュド。
「貴殿の課題はまず生き続ける事、どの様な事があっても。命なくば美しい花を見る事も皆と思い出を作る事も何も出来ぬ故に‥‥」
「それに必ず守る、と誓ったのだろう? 彼女が生きている以上、その誓いは未だ有効だぞ」
「あぁ、そうだと思うよ。だが」
 その言葉を受けて、何かを考えているのだろう彼へ次にガイエルが普段の調子で厳しい声音響かせ言えば、彼女に賛同してアンドリューも再び口を開くと‥‥珍しく肯定して頷いた彼が顔を上げればその表情にはまるで迷子になった子供の様な、頼り気のない表情が浮かんでいた。
「今はそれ以上考えずともいい、これから考えていけばいい」
「そうなのじゃー!」
 それなりに長い付き合いの二人だが、初めて見るその表情に戸惑いを隠せないながらも彼を一先ず落ち着かせるべくガイエルが声を掛けると突如、柚那の声も場に響けば
「じゃが笑顔だけ、忘れずにな!」
「アシュド殿、色々言って迷惑だったろう? 苦しむ姿を見るに忍びなくてな。何とかしたいと思うたが、やはり上手く行かぬ‥‥済まなかった」
 今度は彼の元へ静かに歩み寄って、月光の下で満面の笑顔を浮かべるとガイエルが詫びた、その時だった‥‥彼の頬を伝う一筋の光を三人が見たのは。
 それが何を意味するものか分からなかったが、アシュドの様子に戸惑う柚那の傍らでアンドリューは彼の肩を叩くのだった。

●吹く風は
 楽しき時間はあっと言う間に過ぎ、最終日は夜遅く。
「春。菜の花、筍、椎茸、蕗‥‥四季折々のジャパンの食材に感謝ですわね。後一応、厨房を貸して貰った事にも感謝」
「ま、いいけどね」
 夜桜見上げ、呟く美夏の言葉をその傍らで聞いていた当の本人が肩を竦め苦笑を浮かべれば
「どうした小童、我に用か。尊敬や崇拝なら大の歓迎だぞ」
 それぞれが一時の別れを惜しむ中、今は平然としているヴィーを引っ張るチップがある意味、今回主役と言っても過言ではない騎士へ尋ねれば、真面目な表情で返して来る彼へ首を左右に振ると
「近々知り合い二人がオジさんに会いに来るから、その時は宜しくねだってー」
「‥‥嫌な予感がするのは気のせいに決まっている、こん・ちく・しょー!」
 次いで彼から返って来た満面の笑みとその答えにヴィーは毅然と胸を張り答えるも、その割に足元が震えていたりするのはお察し下さい。
 と言う事で、別れを惜しむ間も無く最後もやはり場には笑いが木霊するのだった。

「『発つ鳥後を濁さず』だよね。メイドとして常識だよ、でも久し振りにメイドらしい仕事が出来て満足だったー」
「お疲れ様でした。そしてありがとうございます、また良ければ来年もお願いしますね」
 そして撤収、桜の木々が間に転がるゴミを拾いながら満足げな笑みを湛えるティズに緋雨も微笑めば、彼女とその背後に立つ大きな桜の樹へ呼び掛け礼を告げると
「大丈夫ですよ、きっと来年も素晴らしい花を咲かせると思います」
「そうですね、来年も楽しみにする事としますわ」
 二人のやり取りに優が力強く頷けば、アデリーナは楽しかった出来事を思い出し桜の樹へ触れてはそれだけ約束を交わし微笑んだ。

 〜終幕〜