【人の想い】転げ落ちた想い

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:9〜15lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 60 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:04月21日〜04月26日

リプレイ公開日:2006年04月30日

●オープニング

●意地悪な春風
 麗らかな陽気の元、江戸へと至る街道から外れた小道を駆ける一人の青年。
 右の手には小さな包みを持ち、駆ける様に江戸へ向けて森の中の小道を走っていた。
「これでやっと‥‥」
 息を切らせ、頬を紅潮させながらも何処か嬉しげに道なき道を走り江戸へ急ぐ彼だったが‥‥その時だった、急に強い春風が吹き荒れたのは。
 そしてその春風は次に、ちょっとした悪戯を青年へ試みる。
「っう! ってあぁっ!?」
 足元から彼を突き上げる様に自身、桜の花弁を纏い舞わせればそれに視界が塗り潰された青年は大事に抱えていた包みが風に奪い取られた事に気付けば、霞む視界の中で必死に包みへ手を伸ばすも‥‥突風は彼の手から逃れ、手近にあった洞窟へそれを放りこんだ。
「‥‥‥」
 何と言う不運、何と言う不幸。
 兎に角彼は抱えていた小さな包みが飛び込んだ洞窟を遠目に恐る恐る覗くも、開く口の奥は何処までも闇が広がり、自身の力だけではどうしようもない事を理解すると彼は頭を垂らし、後ろ髪引かれつつも踵を返す‥‥が直後、背後から大きく低い唸り声が辺りの空気をも揺さぶり響けば、青年は何に落ち込んでいたのか今は僅かに忘れて脱兎の如く駆け出すのだった。

●縋る先
「なるほど、その洞窟に入ってペンダント‥‥を探してくればいいんだな?」
「は、はい‥‥」
 それより数日を経て、江戸の冒険者ギルドにて彼の姿が見受けられた。
 ギルド員と交わす会話から、どうやら青年は先日の一件を依頼として持ち込んだ様子である。
「‥‥此処に来る以上、無理なのだろうがまた買って来ると言う事は出来ないのか?」
「中々手に入らない希少なものなんですよ、それに‥‥」
「それに?」
「彼女の誕生日が、近いんです。長く付き添って貰っているのですが今まではそう言ったものを贈れずにいて‥‥でも今回は目処が立って、買うまでは良かったのですが‥‥」
 浮かない表情を浮かべる青年へ、あえて尋ねるギルド員の男性だったが返って来た答えに一先ず納得すると、次には目を剥いた‥‥余程思い詰めていたのか、話した事で緊張の糸が切れたのだろう依頼人が静かに涙を零したが故に。
「あぁ、分かった‥‥だから泣くな」
「‥‥すいません」
「とりあえず事情は分かった、すぐに依頼書は書くから少し待ってくれ」
「引き受けてくれるんですか?!」
「あぁ、引き受けるに十分な話を聞いた。それだけで結構‥‥これは二の次、だろうさ」
 その光景に内心で嘆息を漏らしつつも彼を宥めてギルド員は無表情をそのままに、詫びる彼へ簡潔に一言だけ告げれば途端に顔を綻ばせる依頼人へ苦笑を浮かべながら頷いた後、報酬として預かった彼の全財産が入っている軽い皮袋を一瞥だけして、筆を取るのだった。

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 依頼目的:青年が手放した、大事な彼女へ贈ろうとしていたペンダントを探せ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 日数内訳:江戸から目的の洞窟まで往復日数は四日、実働日数一日、予備日一日。
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●今回の参加者

 ea0364 セリア・アストライア(25歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0673 ルシフェル・クライム(32歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2890 イフェリア・アイランズ(22歳・♀・陰陽師・シフール・イギリス王国)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5913 リデト・ユリースト(48歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea6321 竜 太猛(35歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6337 ユリア・ミフィーラル(30歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 eb2905 玄間 北斗(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

源真 霧矢(ea3674)/ ウェンディ・ナイツ(eb1133)/ 紗夢 紅蘭(eb3467

●リプレイ本文

●転げ落ちた、想い
「東洋の方だと、捨てる神あれば拾う神あり、と言う所なのでしょうけど‥‥セーラ様も私達冒険者も、本当に困っている方を見捨てたりはしませんよ。ですからこそ、必ず恋人さんと幸せになって下さい。それが、最高の報酬です」
「すいません、ありがとうございます‥‥」
 江戸、冒険者ギルド。
 依頼人がペンダントを取り落とした洞窟へ向かう直前、その依頼人の青年と会い見える一行の中、黒髪揺らし彼へ微笑み優しく言葉を掛けるセリア・アストライア(ea0364)へ泣いて感謝する青年の姿に一行は苦笑を湛える。
「恋人の為に、か‥‥妬ましいな」
 その光景を遠目に、ボソリと呟いた鋼蒼牙(ea3167)の言葉は本音か否か‥‥尤も言葉の割に彼の表情を見ればそれは冗談だと窺い知れたが
「折角の春の訪れなのだ。そのまま良い風を吹かせてあげたいのだぁ〜」
「‥‥あぁ」
 そんな彼を嗜める様にか、玄間北斗(eb2905)がのんびりした声音で言えば頷く蒼牙に皆も二人に釣られ、頷く。
「しかし低い唸り声の様なもの、と言うのが気に掛かります‥‥洞窟の大きさもそれなりに大きい様ですし」
「まぁそれは今、気にしてもしょうがあるまいて。故にまずはペンダントだけ、回収する事に専念するのじゃ」
 が一つだけある不確定要素を思い出し、踵を返したセリアがポツリと何処か拭い切れない不安こそ漏らすが、鍛え抜かれた筋肉揺すり竜太猛(ea6321)が見た目の割に年寄り臭い言葉遣いで彼女を諭し、眼前に伸びる道を見据えれば
「そうであるな、それでは早速」
「ジャパン初依頼! 張り切って行くでぇ〜!」
 宙を漂う二人のシフール、リデト・ユリースト(ea5913)とイフェリア・アイランズ(ea2890)に促され、一行は依頼人が見送る中で件の洞窟へ向け出発するのだった。

●探索
「ここが例の洞窟か‥‥」
「確かに、深そうじゃの。さてはて、どこまで落ちたのやら。早く取り戻してやりたい所じゃな」
「あぁ、大切な者への贈り物‥‥必ず見付けてやらねば」
 江戸を発ってから予定通りの行程を踏破した一行の目の前に今、口を開けている洞窟を見て思っていた以上の大きさから蒼牙が太猛の呟きに合わせ認識を改め、少々骨が折れそうな事から静かに肩だけ竦めるが、ルシフェル・クライム(ea0673)は真剣な表情に、決意だけ確かに固めて剣の柄を握り締めると
「包みごと落したって聞いたのだ。きっと手に汗かきかき大切に持っていたと思うのだ‥‥だったら匂いでに探れる筈なのだ。黒曜、一緒に頑張ろうなのだ」
「でも、その前に食事でもどうかな? 腹が減っては戦が出来ぬって言うしね」
 その彼が紡いだ言の葉へ、皆も同じ思いを抱くと愛犬の頭を撫でては早速洞窟内部へ潜ろうと北斗が動き出すが、ユリア・ミフィーラル(ea6337)が明るい声音を響かせ一つの提案掲げれば、次いで小さく腹を鳴らせた北斗へ微笑んで彼女は早速腕を捲り上げ皆へ初めて振舞う料理へと取り掛かった。

「洞窟に生息するモンスターと言えば‥‥そうであるな、やはり獣の類が一般的であるか。後は虫や‥‥」
 それから一行、しっかりと腹ごしらえを済ませると食後の休憩もそこそこに大きな口を開ける洞窟へと飛び込んだ。
 その道中、隊列築いて進む一行の中程を浮遊するリデトはその幼い顔立ちの割、自身の知識を紐解いては年相応の言葉遣いでこの洞窟に住まうであろう魔物を列挙し、皆へ教えるも
「依頼人さんが聞いたっていう唸り声も気になるし‥‥とにかく色々注意、かな?」
「その通りである、何が起こるか分からぬであるからな」
 その中に洞窟の外まで漏れ出る咆哮上げそうな魔物がいないだろう事を察し、浮遊する博識な彼の傍らでランタン掲げるユリアは表情こそ笑顔だったが、言葉だけで皆へ警告を促せば
「でもまずは暗いから、足元には十分に気を付けないとね」
「肝心の探し物も落ちているじゃろうからな」
 次いで昼にも拘らず辺りを覆う闇を見据えて続き呟くと、恐る恐る前へ歩を進める太猛が頷く中、もどかしい速度で洞窟内を奥へ進む一行。
「あっさり見付かったりするとありがたいんだけどね〜。洞窟の中は火が使えないから作れる料理も限られるし」
「そっちの心配か、まぁどちらにせよ早く見付けたいものだな」
 薄暗がりの何処に落ちているか分からないペンダントに、どこか潜んでいるかも知れない魔物への警戒の為に比較的真面目な面子揃う一行の口数は少なかったが、それでも精神的な疲弊も避けるべく場を和ませようとユリアが再三、言葉を紡げば釣られルシフェルが苦笑を浮かべたその時。
「黒曜、どうなのだ〜?」
 一行の最先にて斥候を勤めていた北斗、依頼人の匂いをトレースしてか僅かに先を進む愛犬へ声を掛ければ丁度、壁の一角を前にその足を止める。
「‥‥小さな洞だな、尤も俺達では潜れないが」
「そいならうちが行って来るで〜、こんな所にまで転げ落ちているとは考え難いけどな〜」
「とは言え、くれぐれも気を付けてな」
「あいよ〜」
 そしてそこにまで近寄り蒼牙がランタン翳し、更に暗い洞を見付け覗き込むも自身やセリアが連れて来た犬達もまた入れそうにないサイズから静かに呻くがそんな彼の頭上にでイフェリア、明るげな声音を響かせれば彼女を案じてルシフェルが掛けた応援に彼女はやはり明るく返事をすれば、すぐその小さな洞へと姿を消した。

「変な巣、突付いてもうた。気ぃ付けとくれ!」
 ‥‥それから暫く、時間にしては本当に僅かな間だけ置いてイフェリアは小さな洞より猛スピードで飛び出して来る。
「巣‥‥ですか」
「蟻の、やけどな〜。でっかいで」
 そして次に響いた彼女の警告にセリアが首を傾げるが‥‥次いで微かにだが徐々に近付いて来る地の揺れを捉えて皆、イフェリアが紡いだ答えと同時に各々武器を構えれば直後、その洞から飛び出して来た蟻の群れと対峙するのだった。

●咆哮聞こえじ
「然程強くなかったとは言え、あの数には骨が折れたのだ〜」
 蟻の群れを撃退してから一行、呆れ返る北斗の声音が響く中でまた暫く大きな一本道を進むもしかし、未だに目的のペンダントは見付からず。
「‥‥やっぱ何もなかったわ」
 戦闘後、改めて小さな洞に入ったイフェリアが捜索こそすれペンダントはおろか、これと言った物もなく意気消沈とした姿で戻って来たのが印象的だったが。
「さてしかし、そろそろ見付かってもいい様な気はするのだがのぅ‥‥」
「それでも、まだそんなには潜っていない筈だしこれからこれから!」
「そうなのだー」
 そして目的の物を探し進む一行の中で不意に呟いた太猛、洞窟へ入る前にペンダントと大よそ同じ重さにした包みを似通った条件下の下で投げ入れてみて、それを先刻発見した事から推測こそし‥‥また洞窟に入ってから時間はまだ然程経過していないながらも、今の所は単純な作りの洞窟だけに肝心な物が見付からない事から、僅かに焦燥を覚えるがユリアと北斗がそれを察し明るい声音だけ響かせれば、まだ続いている道を一行は改めて見据え先へと進んだ。

 だがやがて、それは不意に一行の前に現れる。
「‥‥‥現れた、か」
「ふむ、私も見た記憶のない熊であるな。皆、気を付けるである!」
「黒曜は先に下がって皆を守るのだっ」
 掲げたランタンの火が揺れる中、蒼牙が早く先の道で輝く物体をその視界に捉えれば、だが次いでそれに興味を覚えてだろう、鼻面を寄せてはペンダントを小突き回す大きな熊の姿も確認するとわざと音を立て蒼牙が抜刀すればその視線が一行へ注がれる中でリデト、面と向かう見た記憶のない大柄な熊が持つだろう大よその力量を察し警告の声だけ上げると、大熊が場へ響かせる咆哮と愛犬へ下す北斗の指示が重なれば‥‥皆は動き出す。
「そうそう当たるモンやないで♪」
「惑えよ舞えよ、見えざる幻影の手に‥‥」
 まず一番、イフェリアが早く熊の眼前へ飛翔し突っ込めばその目前で急ブレーキを掛け挑発すると、それに乗った熊は鋭く豪腕こそ振るうも彼女はそれを容易く避けると攻撃を避けられた事から怒る熊へ、幻影叩き込むユリア。
「喰らえっ‥‥!」
「これでも喰らっときぃっ!!」
 果たしてその効果は熊を捕らえ、僅かだが間隙を生み出すと疾く自身に闘気を帯びさせた後に蒼牙が闘気の塊を立て続け放てば、それに遅れ天井まで舞い上がったイフェリアもまた雷撃迸らせ直後、怯む大熊を尻目に自慢の武器や拳を掲げた戦士達が飛び掛る。
「行きますっ」
「悪いが‥‥引いて貰おうかのっ!」
 ペンダントの位置は既に把握しており、それを守るべく壁としてセリアと太猛が立ちはだかると同時、持てる技術から全力の攻撃を見舞って熊を後ろへ下がらせると
「回収したのだー!」
「‥‥とは言え、この様子では後ろを見せる訳にも行かないだろう、な」
「適当に痛め付ければきっと逃げる筈である、それまでは凌ぐである!」
 その暇に北斗がペンダントを間違いなく確保すればルシフェル、猛り狂う熊の様子から冷静に判断を下すと続くリデトの指示に皆頷けば、彼の傍らにいた騎士も魔法の剣を掲げて地を蹴り、煌く一閃を疾く奔らせた。

「早く終わるに越した事はないよね」
「あぁ、依頼人もきっと喜んでくれるだろう」
 やがて戦い終わった一行、前衛を勤めていた戦士達はそれぞれ多少の傷こそ負うも大熊を撃退せしめれば今、ルシフェルとリデトの神聖魔法によって傷を癒される中で闇の向こうへ消えた大熊の、今は見えない背中を視線で追いながら色々な意味で安堵の声を響かせるユリアに穏やかな笑みを浮かべ同意する白銀の騎士だったが
「じゃが、彼が聞いた咆哮の主は果たしてあの熊のものじゃったのだろうか?」
「‥‥気になるであるな」
「とは言え、虎子が分からない以上虎穴に入る理由はありませんよ」
「そう、だな‥‥戻る事にしよう」
 しかし、青年が聞いたと言う咆哮が果たして大熊のものだったか判断は付かず、太猛は首を捻るとリデトも答えようなく呻くが、目的のペンダントを回収した事から依頼は達したと判断したセリア、咆哮の主を探す事はまず止めようと提案すれば蒼牙の同意に皆も首を縦に振るとすぐに、もしかしたら何かあるかも知れない洞窟を後にするのだった。

●返って来た、想い
「これも持って、気合入れてプロポーズするんであるよ?」
「プ、プロポーズって‥‥」
「え、違う?」
「‥‥‥でも、ありがとうございます」
 やっと自分の手元に戻って来たペンダントを久々に見て、安堵する青年だったがその傍らにまで飛んできたリデトが水晶で出来たティアラと貰ったばかりの報酬の殆どを渡し言えば、答えに詰まる彼へ首を傾げるも依頼人、微苦笑を湛えながらやがて礼を言うと
「これは気持ちなのだ。大切な人を是非幸せにしてあげて欲しいのだ」
「そ、そんな。このペンダントだけでも十分なのに」
「元は披露宴の席で取らせて貰うから良いのだぁ〜」
「‥‥それでは、もしその時が来たら冒険者ギルドの方にもまた足を運ぶ事にします」
「その日が一日でも早く来る事を、楽しみにしているよ」
 リデトに続いて北斗もまた、先に貰ったばかりの包みから一両を抜いて、やはり渡そうとすれば遠慮がちに後ずさる彼は拒もうとするが、次に紡いだ北斗の真意を聞くと彼の心遣いを感謝してそれも受け取ればその約束だけ交わすと、微笑むルシフェルに笑顔で頷き返す。
「彼女に、初めて贈る誕生日プレゼント‥‥きっとその方も喜びますよ。貴方方に、神のご加護があります様に」
 そして最後、セリアが凛とした声音響かせ青年へ祈りを織れば彼は深々と頭を下げ‥‥一行へ感謝してか、何度も振り返っては頭を下げながら帰路へ着いた。

「‥‥おむすびころりん、と言うのを思い出したがまぁそれはどうでもいい話か‥‥」
「おむすびなんて落ちてなかったで?」
「‥‥ならきっと、もっと奥にあったんだろう」
「それは残念やね〜」
 その光景を遠目に見守りながら、蒼牙とイフェリアの何処か間の抜けた会話があったが‥‥殆どの者がそのやり取りを知らないまま、だが依頼だけは無事に終えるのだった。

 因みに青年のその後、無事に彼女へペンダントを渡す事が出来たそうだが‥‥リデトに言われ意識こそするも、弱気な性格故に求婚までは至らなかったとか。
 故に冒険者ギルドへ彼から持ち込まれるだろう、次の依頼は当分先の話になりそうである。

 〜終幕〜