【女装盗賊団】続・守れ、巫女装束を!
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:11〜17lv
難易度:普通
成功報酬:9 G 36 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:04月22日〜05月05日
リプレイ公開日:2006年05月01日
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●オープニング
●手掛かりの欠片
「親父が何処に行ったか、分かるって?」
伊勢神宮、眼前に座る白髪混じりの巫女へ僅かに声を荒げて問い質していたのは最近まで父親の消息を追って、あちこちを流離っていた十河小次郎。
その折、聞いた話から伊勢神宮を訪ねるなり父親の名を出せば彼女の前に招かれて暫し話せば今に至る。
「えぇ、こちらにも縁のある方でしたし最後の依頼の際にも立ち寄られたからね」
「‥‥全然、知らなかった」
強い口調で問われた彼女はしかし動じず、ゆるりと微笑んで頷けば初めて聞いたその話に驚かざるを得ない志士。
「とすると、一時神宮に士郎殿がいた事も知らぬか」
「全く知らない、親父が過去の話をした記憶なんて全然ないしな」
「そうか」
その彼の様子から、今度は妙齢の巫女が問い尋ねれば‥‥首を左右に振る小次郎へ何を思ってか、頭上を仰ぎ見ると
「それで親父は何処へ?」
「数人と共に、依頼で妖怪を倒しに行くとだけ告げてそれきり。場所は確か‥‥」
遠回しな物言いに我慢出来なくなった小次郎、率直に肝要な事を真直ぐ彼女へぶつければ巫女も素直に答えようとするが、肝心な所で言葉を区切り一つの提案を掲げる。
「そうだ、丁度人手が足りないので一つ手伝って貰えないだろうか? 報酬の代わりがその情報、と言う事で」
「‥‥何か勿体振るなぁ、まぁいいけど」
唐突な伊勢神宮側から、と考えていいだろう依頼に小次郎は戸惑わず彼女の対応にだけ訝りつつも頷けば
「貴方にぴったりの仕事です、異国での仕事振りも拝聴しておりますから間違いなく‥‥ね」
(「何か、余りいい予感がしないのは気のせい‥‥だよな?」)
巫女が湛える微笑の奥底に、僅かながらも感じた寒気からそう思わずにはいられない小次郎だったが、程無くしてその予感が当たる事を彼はまだ知らない。
●華倶夜
「巫女装束が管理されている場所の内、一箇所を掴みやした」
「それは確かな情報かい?」
「えぇ、間違いなさそうです‥‥ただ、伊勢神宮側の詳細な動きまでは分かりませんでしたけど」
『華倶夜』本拠地、相変わらず毒々しいまでに派手な着物を着た部下が一人の報告を聞いて『姐さん』、情報の不明瞭さもさる事ながらそれ以外にも一つ、気になる点があった。
「なーんか、腑に落ちないねぇ。『斎王』が伊勢に来るのも間近だろうし、それを考えるとこのタイミングで曖昧とは言え、そんな話を伊勢神宮側が安易に漏らすのはどうにも‥‥」
「どうします?」
今このタイミングで巫女装束に付いての情報が掴めるとは爪の垢程にも思っていなかったので、唐突に手にする事となったその情報を訝る『姐さん』だったが、目の前にいる部下は掴んだ情報のネタからそんな事は気にせず次の指示を伺えば
「‥‥とりあえず、情報源には誰かしら張り付かせておいて動向を伺いな。但し、ばれない奴な。後『桜花』に出立の準備をさせておけ、必要に応じて使う」
「『桜花』を、ですか?」
僅かな間だけ置き、一先ず様子見と運用する部隊の名だけ告げれば‥‥目に痛い赤い着物纏う部下は不服そうな声を上げる。
「余り見苦しい奴ばかりを相手にさせても失礼だろう?」
「‥‥あい、分かりました」
だが彼を一瞥だけして『姐さん』が諭せば、嫉妬に駆られ舌打ちしつつも命令を受託して赤い着物の男は踵を返す。
「巫女装束ばかりに時間を掛ける訳には行かないんだけどねぇ」
その後姿を見送りつつ、音を立て扇子を広げればまだ集めなければならない世界各地にある女性用衣服の多さに思わず、嘆息を漏らすのだった‥‥いや、だからそれはデマなんですけどね。
●漏らさずにはいられない嘆息
「何で予想を裏切らず、こうなるんだよ‥‥これなら断然に鬼退治の方が良かった」
ボソリ、ぼやいて小次郎は伊勢神宮内宮の一角にある木造倉庫の中で顰めっ面を浮かべると次いで、目の前に詰まれている巫女装束を見て嘆息を漏らせば
「この巫女装束を好きに使って『華倶夜』を誘き出し、どの様な手段でも構わないからその根拠地を探り当てて欲しい、ねぇ。話を聞く限り、結構に規模は大きい様だからまずはそこからだろうが‥‥」
依頼内容を改めて思い出し、納得こそすれ小次郎さん。
「しかし、どうするかな。こう言う頭を使う仕事はどうにも苦手だし面倒臭い‥‥っと、そうだ。こんな時は冒険者ギルドに行こう!」
どうした物かと困り果て、やがて一つの結論に至るのだが‥‥果たしてそれでいいのか、元先生。
だがそんな突っ込みは届く筈なく、一人で何度も頷けばやがて踵を返すが
「‥‥何か暫く、付き合わされる嵌めになりそうだな」
そう思わずにはいられず、張り切っていた紅蓮司る志士は次にすぐ肩を落とすのだった‥‥そして全く持ってその通りになる事を彼が知るのは、やはりもう暫く先の話である。
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依頼目的:『華倶夜』の根拠地を見付けろ!
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
NPC:十河小次郎(同行)
日数内訳:京都から伊勢神宮内の巫女装束を保管している倉庫まで往復日数六日、実働日数七日。
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●リプレイ本文
●集いし精鋭‥‥?
「女装盗賊集団『華倶夜』、醜い女装だったら許されないわね。女装は『美しく』且つ『面白く』なきゃ駄目なのよっ!」
「どうやらミカエル殿とは気が合いそうじゃのぅ、全く持ってその通りでござる。女装だからこそ、洗礼された美が必要なのじゃ!」
「そうよね!」
「‥‥何か妙に力が入っているなぁ」
伊勢へと向かう道中、一行の先頭を進む英国より渡来して来たばかりのミカエル・クライム(ea4675)、熱を込めて『女装』に付いて力説すれば、先の依頼にて凄惨な光景を繰り広げた天城月夜(ea0321)がそれを脳裏に過ぎらせながらも彼女に強く同意する二人を見て、遠い目湛え呟く十河小次郎だったが
「そういえば小次郎殿は父上殿を探しているのだったか。何、探しておれば何れ会えよう‥‥どんな形かは解らぬが」
「唐突な上に、何その生暖かい視線?!」
クルリと振り返り彼の境遇を知った上で案じる様に声を掛けるも、彼女が宿す瞳の光から一歩後ずさる彼だったが
「はーい、元先生。期待してるよ、色々ね」
「しかも期待の眼差しまで!」
その背後からがっしと小次郎の肩を掴み、鼻歌歌うハンナ・プラトー(ea0606)が爽やかな笑顔浮かべ言えば皆の様々な感情篭った視線を浴びて嫌な予感を覚える小次郎先生だった‥‥まぁ今更ですけどね。
●
「小次郎さん、これも作戦の内です。貴方一人だけではありません、皆でやれば何も恐い事など。ささ、ご覚悟を」
「‥‥やっぱりかー、誰かまともな奴はいないのか!」
「失礼だな、至ってまともだけれど」
「あぁ、そうだな。と言う事で頑張りなよっと、言う事で着替えるまで出さないからよろしく」
「むぎゃー!」
と言う事で伊勢、囮として一行に託された巫女装束が仮置きされている倉庫の前‥‥満面の笑みで滋藤御門(eb0050)が告げた宣告に、小次郎は予感が的中した事に叫び皆を見回すも、扇子をはためかせ続く月代憐慈(ea2630)とクリムゾン・コスタクルス(ea3075)が笑顔を浮かべれば、逃げ出そうとする小次郎を倉庫の中へ放り込み唯一の入口の前にクリムゾンが座り込めば皆は手筈通り、それぞれ着替えようとした、その時。
「皆ー! 巫女さんは好きかぁー!!」
『‥‥好きだー!』
「と言う事で、マナウス殿もあちらへ行くといいでござる」
「って、え。俺も?」
「そうだね‥‥っと」
「いや、ちょ、ま、引っ張るな、そこ掴んじゃいや! て、あー!?」
マナウス・ドラッケン(ea0021)が放った叫びを聞くと悪巧みを思い付いた面々、一瞬のアイコンタクトで意識を統合させ一斉に応えれば、ニヤリと笑う月夜に何事か察したマナウスだったが、今度は逃げる暇すら与えずにハンナとクリムゾンが一瞬だけ開け放った倉庫の扉へ叩き込まれるのだった。
『うわぁぁーーーん!』
「『華倶夜』か‥‥好き好んで接触すべき対象じゃないよな、やっぱり」
そしてすぐに扉が閉まれば次いで響く二人の絶叫に、一人遠目でその光景を眺めていた小さな忍びの九十九嵐童(ea3220)は未だ接していないながらも二人の犠牲者が出た事から『華倶夜』に付いて、そんな感想こそ腕を抱え思うも一行が落ち着くまでの当分、木陰に身を潜めていようと決めた。
●
さて動き出した一行、まずは『華倶夜』を釣るべく情報の収集と流布にまい進する。
「むさい女装男の集団なんか、この辺りで見ませんでしたか?」
「‥‥むさくはないが、あんたらなら」
「あぁ、俺達の事は気にしないで下さい」
「うんうん」
『‥‥‥』
そんな中、先に女装した(と言うかさせられた)二人とは違い自ら望んで巫女装束を纏う憐慈の問い掛けから返って来た町民の答えに彼が返せば頷くハンナに鼻白む町民達の姿があった。
「‥‥調子は、どうだ?」
「まぁまぁ、って所かな?」
そんな二人の元へ、唐突に嵐童が現れ微かな嘆息と共に調子を伺えばやはり巫女装束に身を包むハンナの返って来た笑顔から一先ず頷くと
「あたいの方は終わったぜ、『華倶夜に挑戦したいって言う、私達こそ女装が似合うと豪語していた奴らがこの辺りに来てるらしいぜ』って感じであちこちにばら撒いた」
次いで現れたクリムゾン、自身得意とする話術を用いて偽情報の展開が終わった事だけこの場にいる三人へ告げると皆は踵を返し、倉庫へと戻るのだった‥‥『華倶夜』を待ち構えるべく。
●挑戦状
それから一日程の時を経て、とある山中。
「こんな所に積荷だけ置いて、無用心だな」
「抜かるな、伏せている可能性はある」
冒険者達が流した情報の真相を探るべく動き出す『華倶夜』、それが誇る隠密機動部隊『鋼閃』に所属する六人ばかりが一行の道程を割り当て追尾、辿り着けば何故か地べたに置かれている巫女装束の山を確認して訝かっていた。
因みに『鋼閃』が華奢な面々が纏うその格好は他の部隊に比べ大人しく、色が派手派手しいだけの忍者が纏う装束‥‥隠密の意味がないとか突っ込むなよ。
「その通りだけど‥‥いささか遅いよっ!」
その、以前よりは女装レベルが高い『鋼閃』の慎重な行動の中、僅かな暇を見逃さず巫女装束の山からクリムゾンが飛び出せば同時、響く三味線の音色と共に飛び出す巫女装束を纏った一行が現れる!
「それは我々への見せつけか!」
「や、そんな訳では」
「問答無用、『鋼閃』の名に掛けて、主らを倒しその巫女装束‥‥頂くぞ!」
「倒せるなら、どうぞ」
「余り、機嫌は良くないからそれだけよろしくね」
その光景に妬ましそうに叫ぶ一人、桃色の忍者の装束纏う忍が裂帛放てば穏やかな笑み湛え御門は否定するも、既に頭に血が上っている桃色の忍達が断言すれば不敵な笑みを浮かべるミカエルと三味線を小太刀に持ち替え笑うハンナの言葉は聞かず『鋼閃』、一斉に地を蹴ると遂に見苦しい(一行は一応除く)戦いは幕を切って開かれた。
そして数刻後、地に膝を突き打ちひしがれていたのは『鋼閃』で彼らは一様に涙を流し、完全な敗北を悟る様子から余程の事があったと伺える。
「あんた達が巫女装束を着るのに相応しいかどうか、こいつらが試してやるってよ」
「むぅ‥‥こ、これはっ!」
しかしそれはあえて割愛し打ちひしがれる女装部隊へクリムゾン、慇懃な口調と勝ち誇った笑みを浮かべると懐から一通の書状を取り出し、頭目らしき人物へ叩きつければ表に踊る『挑戦状!』の文字に叫ぶ『華倶夜』の面々、慌ててその中身を取り出し目を通すと
『どちらがより巫女装束に相応しいか! 女装対決!』
突っ込むな、敢えて突っ込むな、突っ込んだら負けだ。
「く、いいだろう。姐さんに断るまでもなくこの勝負‥‥乗った!」
「なら準備をして来なさいな、言っておくけど貴方達じゃ勝負にならないわよ?」
しかし与えられた情けに呻きながらも『鋼閃』は、まだ残る自尊心から一行を睨み据え言えば、秀麗な表情に満面の笑顔を湛え更に煽るミカエルにはそれ以上は何も言わず早々に踵を返して、一行の前より早く立ち去るのだった。
「それじゃ、頼むわね」
「あぁ」
「さ、それでは最後の準備に掛かりましょうか」
その後姿を満足そうに見送りながらクリムゾンは傍らに佇む小さな忍びへ視線を配し言うと、簡潔な答えと共に彼も地を蹴って『鋼閃』の後を追えば次いで場に響くマナウスの、何時もとは違うやや大人しげな声音がに皆頷くと女装大会の準備をすべく伊勢へ即座に取って返した。
●いざ尋常に、勝負!
「れでぃーすあんどじぇんとるめん! まなうー仕込みの適当な英語での挨拶は御了承の程を! さて私、今対決の司会を勤めさせて頂く鬼道衆参席「舞鼬」こと月代憐慈だ! ヨ・ロ・シ・ク!」
さりとて、再び時間は経過し依頼期間もそろそろ終わりを迎えようとしていた日。
伊勢の町に響き渡る、憐慈の高らかな声に何事かと集まった観客達はこれから何が始まるか、期待の眼差し注がげばその中で平然と憐慈は揺るがず受け止め手、その口を開く。
「因みに鬼道面子の名誉の為に言わせて頂くと、うちは変人集団ではないので悪しからずだ! 説得力なんてのはいつの時代も曖昧なものだから、気にするな!!」
序でに肝心の依頼がおまけとなっている気がしなくもないが、それも気にするな!
「さぁそれでは早速行ってみよう、巫女装束を狙い日々暗躍する女装盗賊集団『華倶夜』と、それを阻む我らが冒険者の女装対決が一回戦をっ!」
『‥‥ぇー』
「伊勢神宮提供の巫女装束を争奪すべく催されたこの大会、事情は長くなる故に割愛させて頂きます。と言う事でさぁ来い、猛者達!」
と、間にワンクッションこそ入るも次に本題が切り出されれば、呻く観客達は全く気にせず憐慈、両手を掲げ両サイドから選手達を招き入れる。
すると現れた二人の女装した男達、一人は艶やかな桜舞う絵柄の着物をそつなく着こなす『華倶夜』が女装特化部隊『桜花』の一人と、巫女装束を纏いぎこちない表情宿す我らが小次郎。
「ふむ。今回はレベルが高く安心したでござる、どうやら粛清を下さずに済みそうだ」
「そうね、無駄な魔法を打つ必要なさそう」
以前の『華倶夜』が相手なら小次郎の勝ちと思われていたが、敵もさるもの‥‥優雅な風貌携える『桜花』の一人を見て感心せざるを得ない月夜にミカエルが各々、手にしていた得物を地に置いた、って何するつもりだったよ!
「きりっとした表情も魅力だけどさ、巫女装束の清楚さが新たな魅力を引き出してんじゃん」
「何の、我らとて‥‥」
その立ち姿にそれぞれ、自陣の女装姿を積極的にPRすれば
「何でジャパンでもこんな目に‥‥とほ」
「ほら、先生一言。それか何かやってくれ」
「あ、あぁ‥‥」
その最中、未だうな垂れる小次郎だったが不意に憐慈に小突かれると周りの視線が自身に注がれている事に気付き意を決すれば、遂にその口を開く!
「あ、あはーん」
『‥‥‥』
「『桜花』の勝ち、女装に対する意気込みが足らんぞ小次郎殿ぉー!」
唐突な、小次郎の行動にまだ戸惑い隠せない観客達が一斉に沈黙すれば勝敗を下せない彼らの代わりに即決即断、月夜の宣言が轟けば彼女の判断に同意して頷く伊勢神宮代表が舞台を見つめる中‥‥何を思ってだろう、膝を屈する小次郎はすすり泣いた。
「そんな事言われても‥‥心の準備が」
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それより僅かに時間を遡り、準備を整えるべく踵を返した『鋼閃』を追って『華倶夜』根拠地を捉えるべく一人行動していた嵐童はと言えば、あれより移動を繰り返し伊勢より離れた山の奥深くにある屋敷を見守っていた。
(「当たり、だな」)
そして鬱蒼とする森の樹上で保存食を頬張る彼の視界に『鋼閃』とは違う部隊を確認すれば、会話の節々に『華倶夜』の名を聞いて此処がその根拠地だと確定付けるなり
(「長居は無用、だな‥‥」)
最後に残された梅干を口へ放り込み、その酸っぱさからか、はたまた目の前に居並ぶ女装集団を見てか顔を顰めながらも立ち上がると
「さて、間に合うといいが」
他人事の様にこれから繰り広げられるだろう激戦を見守るべく森の中、静かに梢を蹴っては伊勢の町へと急いだ。
とりあえずこの時点で『華倶夜』に付いて根拠地等、必要最低限の情報を得た事から依頼は達成された事となるが、おまけの女装大会はその成否に関わらず実行される事にやるせなさを感じるのは気のせいだろうか。
●
さて場面は戻り、女装対決が繰り広げられる会場。
「ありがとうございます」
「なんて事だ‥‥」
その二戦目、横笛を吹き終え柔らかな笑みを浮かべ微笑む巫女装束姿の御門を前に会場内へ響く黄色い声に膝を屈する『桜花』の二人目は間違いなく敗北を告げ、これにて一勝一敗の五分となる。
「やっと乗ってきましたね皆さん、ですが残念な事に次が最終決戦! その目を見開いてしっかり見届けろよっ!」
『おーーー!』
そして二人が舞台から退場する中、三味線にて英国の歌を紡ぐハンナの声が響き渡り間を繋げば、やがて準備が整ったのか憐慈が声高に叫べば轟く観客達の叫び‥‥大分壊れてきたなぁ、とか今更に思うのはなしだぞ!
その最初、何処からか響く優雅な曲に乗り舞って現れた『桜花』が最後の代表、端正な面立ちに穏やかな微笑み湛え曲にあった静かながらも厳かな舞を皆へ見せ付けると場に響く感嘆の声だったが、その舞が終わりを告げると直後。
「はいよー!」
高らかに鳴る蹄の音に次いで群集の一角が崩れ、馬上に乗るマナウスが現れれば地を蹴り馬を飛翔させ、舞台へ舞い降りるなり毅然とした様相で場を見回すと
「逆もまた真なり、何も女性を準える必要は無きにしも非ず」
「確かにそうだね、女装だからと言ってその枠に嵌る必要はない、か‥‥逆に普段より凛々しさが引き立っていいんじゃないか?」
「うーん、エルフの兄ちゃんが言う事は尤もだなぁ」
「けど、最初の兄ちゃんが見せた舞も綺麗だったぞ」
静まる会場にマナウスの、凛とした声が静かに響けばクリムゾンの評価に群集の人々もそれぞれ、評価すれば頭上を見上げた憐慈は傾きかける日の位置から早急に皆へ回答を求めるのだった。
「さぁ皆さん、最後の勝負‥‥勝敗は如何に!」
●勝者も敗者も
「思っていた以上に良い勝負だった、またの機会を楽しみにしているでござる」
「納得行かぬが‥‥覚えておくぞ」
結局の所、痛み分けだった一行と『桜花』はそれぞれお互いの健闘を称え再び別の道を歩み出す‥‥と一人で納得し固く握手を交わしているが、そのまま帰して良いのか月夜。
「ほんと、面白い人達だねジャパンの人って。これはこれで、イギリスとは違った趣が‥‥うんうん」
だがそんな突っ込みは誰からもあがらず、肩を落として会場を去る『桜花』の背中を見送りハンナが満足げな笑顔を浮かべれば、一人何かに納得して頷く中で会場の片隅にある松の樹の傍ら。
「俺はノーマルだ、ノーマルで十分だー!」
「そうだー!」
「二人とも素直になって下さい、ね」
「そうよ、それにもう遅いわ。特に小次郎先生はね」
大会終了後からその樹の根元で屈みブツブツと呟いていたマナウスと小次郎、揃って立ち上がりシュプレヒコールを挙げるも肩を揺すって笑みを湛える御門とミカエルに揃って諭されれば、人もまばらな女装会場に彼らの慟哭だけ、最後に響き渡るのだった。
『もう絶対、やらないからなー!』
さりとてそれは約束されないながら、今回は一時幕引きとなるが次の機会は慌しい伊勢神宮の情勢から、暫く先になるだろう事だけが今は二人にとって微かな救いだろう。
〜一時、終幕〜