憂う国司

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:9〜15lv

難易度:普通

成功報酬:7 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:05月08日〜05月19日

リプレイ公開日:2006年05月15日

●オープニング

●黒き衣
「『刀』は、どうですか?」
「‥‥さっぱりだな」
「どうやらまだ時間は掛かりそうですね、それと別の『刀』の方はどうでしょう?」
「そちらは半々、と言った所‥‥あれから時間が大分経っている、止むを得ないだろう」
「とは言え、手打ちもどうかと思いますがね」
「‥‥絶衣、お前の命令だが?」
「そんな事を言いますか、貴方は」
「‥‥‥」
「まぁ、引き続き調査をお願いします‥‥後もう少し、なのに未だに足元を固める事すら覚束ないとはいやはや、歯痒いですねぇ」

●伊勢国司の溜息
「‥‥以上が、此処最近の報告になります」
「そうか、よぅ分かった」
 伊勢某所のとある屋敷、その一角にて目の前に座る初老の男性へ膝を折り先月の報告を終えた藤堂守也は漸く顔を上げ、初老の男性‥‥伊勢国司である北畠泰衡の顔を見据え様子を伺う。
「神宮が主催した、花見会のお陰もあって一先ず町民達も落ち着いたと見て良さそうじゃの」
「とは言え原因が分からない以上、また何時同様の事が起こるか分かりませんので今後も気が抜けないでしょう」
「ふむぅ‥‥」
 何を考えているか分からない、呑気そうな表情に浮かぶ唇からやはりのんびりした声音で先に聞いた藩主からの報告より伊勢の現状を見極め、紡ぐも‥‥未だ残されている問題を挙げ直す伊勢藩主、藤堂守也に釘を刺される様な形となれば年の割、皺だらけの顔に尚皺を寄せる。
「どうしたものかの?」
「‥‥そう、ですね。調査を一任している神宮からの報告にあった通り、現状では向こうでも根本的な対処が取れない以上、見回りの強化をすべきかと」
「じゃとすると、人の手配はどうするつもりじゃ? 今以上の人員は確保出来んぞ」
「冒険者の力を借ります、最近は諸外国から多く冒険者が渡って来ている事もありますので十分且つ確かな戦力を確保出来るでしょう」
 そして小首を傾げ藩主へ意見を問えばその彼、僅かな逡巡の後に至って真面目な面持ちで一つ進言すれば揚げ足を取る国司の問いへ、予め準備していた答えを提示すると国司はその口の端を緩めれば笑みを浮かべる。
「その通りじゃな、宜しい。ではそうしよう‥‥代わりの者を従来の隊に配して置く故、お主がそちらへ回り手配するとえぇ。その方がお主も都合がいいじゃろう?」
「お気遣いありがたく‥‥ではその様に致します」
 試していたのだろう、国司のその物言いにしかし守也は気にする事無く次いで紡がれた泰衡の指示に畏まり頭を垂れれば、行動に移るべくその場を辞すると
「‥‥しかし最近の情勢はどうにも慌し過ぎる、何か見落としている気がするのぅ」
 その彼の後姿を見送りながら国司‥‥不意に覚えた不安から自身、何か失念している気がしてならず呻けば、暫しの間一人で考え込むのだった。

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 依頼目的:伊勢の平和を守れ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 NPC:藤堂守也(伊勢藩主・同道)
 日数内訳:伊勢まで往復六日、見回り期間は五日
 その他:今後の見回りに付いて意見、要望等があれば承ります。
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●今回の参加者

 ea0012 白河 千里(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0340 ルーティ・フィルファニア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea0664 ゼファー・ハノーヴァー(35歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea2454 御堂 鼎(38歳・♀・武道家・人間・ジャパン)
 ea5635 アデリーナ・ホワイト(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea7197 緋芽 佐祐李(33歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 eb0050 滋藤 御門(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

滋藤 柾鷹(ea0858)/ ウェンディ・ローランド(ea8585)/ 花井戸 彩香(eb0218)/ 八代 樹(eb2174)/ 南雲 紫(eb2483

●リプレイ本文

●宿す一面 〜伊勢〜
「お二人とも比較的昔から伊勢におられる様ですね。町民達の受けは良く、話だけでも伊勢に尽力している事が伺えます」
「しかし伊勢ねぇ。初めて行くからピンと来ないけど赤福、うどんに伊勢海老はどれも酒の肴にして呑みたいものさね」
(「良かった、私だけじゃないみたいで」)
 伊勢を前に一行、伊勢について改めて調べてくれた兄の話を思い出し凛々しい面立ち湛えて語る滋藤御門(eb0050)へ耳を傾けるも、黒染めの衣を華麗に着こなす御堂鼎(ea2454)がゆるりと笑えば皆が頷く中で内心、ステラ・デュナミス(eb2099)が安堵の溜息を漏らすが
「しかし以前まで活発だった妖怪達の動きが暫くないのが逆に何やら不気味ではありますね」
「この地に何か良くない物でも封印されていたりするのだろうか?」
「どうなんでしょうね」
 続き御門が少なからず自身も知る話を語れば、道中黙していたゼファー・ハノーヴァー(ea0664)が落ち着いた声音で初めて口に開き疑問を紡ぐが先の二人同様、少なからず伊勢の状況を知っている筈のルーティ・フィルファニア(ea0340)があっさりそう答えれば苦笑するしかない他の面子。
「けれどそんな話こそ、冒険者稼業の肴として愉しくなりそうじゃないか」
「ふむ、その話から察するに貴殿らが伊勢の見回りを行う冒険者達だな?」
「はい、そうですわ。藤堂守也様、ですね。先日は伊勢にて花見を満喫致しましたし、些少ですが尽力させて頂きますね」
「済まぬ、宜しく頼むぞ! それと皆も!」
「は、はぁ」
 だが鼎、彼女の反応と伊勢の状況が一端を知るや表情を綻ばせて豪快にそう言い放った時、街道の途中に佇んでいた一人の侍に皆は呼び止められると柔らかな笑顔を湛え、頷いて彼に肯定の意を示すアデリーナ・ホワイト(ea5635)だったが次に伊勢藩主、彼女の腕を素早く取っては握り返し皆を見回して話の通り、熱い人柄を披露すればアデリーナらを困惑させる。
「そう言えば女装盗賊団はその後、どうなったのでしょう?」
「神宮からの報告は聞いている。以降は私達がその件を引き受け、神宮の協力者と共に近々討伐隊を編成して捕縛したいが斎宮の警備もあってそれはもう暫く先だ‥‥と立ち話もあれだ、着いて来て貰えるだろうか」
 そんな彼女へ助け舟か、御門が某盗賊団に付いて尋ねるとあっさり引いて伊勢藩主は答えこそするが、一行へ気を遣い提案すれば皆を連れ立ち伊勢へ至る道を再び歩き出した。

「‥‥と、簡単だがこんな所だな」
「分かりました、覚えておきます」
「やはり、厳ついペットは矢張り禁物で?」
「まぁ、そうだな。大人しく従順でも連れて行く場所によっては配慮して貰えると助かる。見た目だけでも十分に混乱を与えかねないからな、そう考えると今回は正しくそうだろう。さて、以上かな?」
 案内された先、一行が暫し腰を据える場となる伊勢の町が中心部に程近い、一軒の家にて守也が皆に問われるまま答えれば諸注意を尋ねた、自身より大きな身の丈の忍が緋芽佐祐李(ea7197)の問いへもはっきりした声音で返すと藩主は再び皆を見回せば彼女の次、静かに手を掲げてアデリーナがペットについて確認すると、最近の判例を踏まえ答える守也の言葉に理解しつつも内心うな垂れる彼女。
「ではこれから守也様に伊勢の町を案内して貰うが、その前に皆にはこれを着けて貰いたい。既に守也様から許可は頂いている」
「皆で決めた通り、伊勢らしい色にしてみたよ。緋袴からの連想だけどね」
 その様子に守也、苦笑を浮かべれば更なる質問がないか尋ねるも今度は上がる声なく頷けば、僅かに出来た沈黙を機に立ち上がる白河千里(ea0012)が幾枚もの緋色の布を掲げると、その横合いから鼎が改めて簡潔にその理由を明示して皆の了承を得ると
「後、これも貼り出して貰うからね。少し時間を貰って守也さんに描いて貰いました」
『うわ』
 その二人に続いてステラが一枚の大振りな和紙を閃かせ皆を呻かせるがそれもその筈で和紙には大きく『伊勢巡察隊』との文字躍り、見回りや注意事項が記されると共に一行の顔が描かれていたからだった。
「短い期間だから杞憂かも知れないけど、愉快犯の防止策にね。でも」
「勘違いされないといいですねぇ」
「中々にいい出来だと思うが」
 が、それを作成した理由を告げながらも複雑な表情湛えるステラにアデリーナも賛同して頷けば、それを描き示した伊勢藩主は皆が抱く困惑が何故かと首を傾げる。
(「上手いけど何か違うと思う、絶対に」)
 確かに彼が言う通り、その絵は上手いのだが‥‥何処か非常にリアルで、見る人によっては勘違いしそうなまでに怖い絵に一行は内心、静かに呟くのだった。

●伊勢巡察隊
 初日の藩主が案内を受けて一通り、伊勢の町の構図に状況を簡単に把握した一行は昼と夜、別々に分かれて見回る事と決めて翌日。
「この一角でも先の話と同様の騒ぎがあったみたいだ」
「意外に妖怪騒ぎが多いねぇ。けどこうやって改めて見ると最近は全然少なくなっている、か」
「まず回ってみよう、妖怪騒動はそうかも知れないけど町に住む人達の小さないざこざは何時起きてもおかしくないからね」
「そうですね。実際に回ってみて、皆さんとお話をしつつ警戒に当たりましょう」
 先日仕入れた情報から巡回すべき経路を見出していたが、ゼファーの話を最後に一先ず纏まった情報は鼎が言う通りだったが、ステラの意見にアデリーナも頷けば四人は落ち合う場所を決め二組に分かれた後、伊勢の町を巡り出した。

「そうさな、この界隈は比較的平和かな?」
「それなら良かった」
 さてその一組、ゼファーとアデリーナは町人達と接しつつ他愛無い雑談話から最近変わった事がないか、小まめに聞き回っていたが専らその役目は常に微笑を湛えるアデリーナで、ゼファーは彼女の後ろで聞き及んだ話を一先ず整理しては相槌を打っていたが
「‥‥誰かが先から此方の様子を伺っている」
「ゼファー様が言うならそうなのでしょうが、一体誰でしょうね。でも何をする訳でなさそうでしたら、もう暫くは放っておきましょう」
 昼下がりを過ぎたばかりにも拘らず刺さる視線を察知して雑談に励んでいたアデリーナへ静かに耳打ちするも彼女はのんびり判断を下せば、先と変わらず笑顔で町人の話に耳を傾けた。
(「しかし何者だ、守也殿が話の者か‥‥」)
「さっきから難しい顔している、そこの姉ちゃんもどうだい」
「あ、あぁ。頂かせて貰う」
 その中で彼女へ頷き返してゼファー、持つ情報の中から視線の主と繋がりそうな藩主が水面下で警戒していると言う黒門絶衣の話を思い出し考えに耽ろうとするも、町人から差し出されたお茶と赤福へ礼を言って手を伸ばせば、茶を啜りながら一先ず皆へ伝えるべきだろうと決めた。

「どうして冒険者を雇ったんですか?」
 丁度その頃、藩主より借り受けた家屋にその当人が早速顔を出せば夜回り組にも拘らず未だ起きていたルーティ、彼を見るなり開口一番で紡ぐ質問に藩主。
「確かな実力がある事と、伊勢藩に仕える者達はそれぞれに役を担っているから見回りに際して、人手が足りない事の二点だな」
「なるほどそうですかー」
 しっかりした声音で述べれば彼女が相打ちを打つ表情の片隅、微かだったが何かを期待している眼差しを感じ、暫く逡巡すれば
「もしやる気があるなら、考慮しよう!」
「そうして貰えると助かります、お役に立ちますから!」
 断定こそしなかったがそれだけ返すと、笑顔を湛えて彼女はしっかり自己アピールだけした、その次。
「そう言えば新撰組の組長が一人に藤堂と言う方が居られるが、縁おありだろうか」
「うん? ‥‥名前こそ聞いた時はあるが、親類にはいないな」
 徹夜出来るとは言え、少なからず睡眠を取ろうとしたのだが中々に寝付けない事からやはり起きていたのか、二人の会話に割って入って来た千里が自身所属する新撰組が話に付いて、気になっていた事を尋ねるも、返って来た答えにふむとだけ頷くと
「新撰組って何ですか?」
「ルーティは知らないか。そうだな‥‥」
 首を傾げるだけの藩主の傍ら、黒き着物纏うエルフの疑問に志士が笑顔を湛えれば彼女の問いへ暫くの時間を掛け、懇切丁寧に説明するのだった。

「やるか?」
「やろうか?」
 三日目のやはり日中に人通りの多い界隈で起きた、ちょっとした諍いから男性二人が睨み合えば他の人々がどうしようかと逡巡する中、いよいよ体格の大きな男性が動き出したその時だった。
「はい、喧嘩両成敗」
 突如、直上から降って来た水の塊を二人が浴びる事となれば同時に響く女性の声に彼らが振り返ると巫女装束を纏うエルフの姿を目に留め、彼女の美麗な立ち姿に見惚れるも自身らに起こった事態に漸く気付けば、間の抜けた表情を浮かべると
「いきなりでビックリさせたかも知れないけど、街中での喧嘩は勘弁だよ。分かったね?」
「伊勢、巡察隊。失礼しました」
 その後、彼女とは対極な鼎が艶やかな声で彼らに声を掛ければ魔法で生成された水にて頭を冷やされた二人、彼女らが腕に巻く緋色の布を見て頭を下げて詫びれば鼎、笑顔を浮かべて頷いた。
「思っていたより‥‥と言うか、話の通りに平和ね。今は」
「そうだねぇ、まぁいい事なんだろうけど」
 そして遅れて注がれる町民達の視線を受けつつ二人、今までに遭遇した事態を思い出して言葉を交わせばステラ。
「私にとっては興味深い町だけどそれよりも何よりも、暮らす人達にとっては平和がいいわよね。だからその足掛かりだけでも作れる様、頑張りましょう」
 町民達との話で聞いた、伊勢の歴史を考えながらも言葉にしたそれを確かに決意して彼女は太陽を見上げた。

「藩主の命にて警護中につき失礼承知、御免。どちらへ行かれるのか?」
「すぐそこの酒場までだが‥‥貴殿ら、伊勢巡察隊か。ご苦労」
「忝い」
「気を付けて励んでくれ、それでは失礼する」
「貴殿こそ気を付けて参られよ」
 見回りもついに四日目、特に大きな事件なく今に至るも千里は普段通りに気を抜かず、今日も帯刀している武士が一人に藩主が書き示した書状を差し出し問うては、返って来た答えに礼を言うといかつい体格の割にその侍は丁寧な口調だったものの、形式的な挨拶だけ千里へ返して自身が言う通り、向こうの通りにある酒場の方へと姿を消す。
「気のせい、だったか」
「その様ですね、けれど‥‥」
「お待たせしました」
「美味しかったですね、伊勢うどん」
「それは良かった。で、あれはどうする?」
 その後姿を見送りつつ火の志士は何事か気になって一人ごちるが、御門も同じく先程去った武士に違和感ならざる不思議な感覚に考え込むも、それは伊勢うどんを食し戻って来たルーティと佐祐李の声に遮られれば全員が揃った事から改めて、四人は未だ離れているも背後に潜む気配の処置について検討を始める。
「着いて行きましょうか。どうやら数は少ないですし、陽動とは考え難いかと」
「そうだな、それでは隠密に長ける緋芽殿は潜んで先行を。私が表立って接触するので二人は少し遅れてから来てくれ」
「分かりました、気を付けて行きましょう」
 だが直後、離れていく影に淡い光を闇の中で纏わせ御門が言えば、頷いて火の志士が決断早く皆を促すと早くも漆黒に姿を紛らわせては静かに響く、佐祐李の声に四人は動き出し‥‥暫くして、伊勢の町に一行が来てから初めて鳴子笛が鳴り響いた。

●これからは?
 見回りも最終日となった日の夜遅く、明日には伊勢を発つ事もあり一行は巡回を早めに切り上げると今日も顔を出した守也と、今後の事について話を交わしていた。
「折角なので今回の様に、緋布見回りを民間に広めてみてはどうでしょうか」
「あぁ、それは検討していた」
「それと自警団や今回の巡察隊でなくても、住民を地区によって班分けして長を作り異常があれば上に知らせる体制が出来れば何かあった時、早めに対処出来るかと」
 その最初、未だ夜の勤めに慣れていないのかルーティが欠伸を織り交ぜ今回一行が試した案を口にすれば頷く藩主へ、佐祐李が静かに彼女の意見を補足する形で付け加えるとその彼女を見やって守也。
「ふむ、そこまでは思い至らなかったな。話こそ聞いた事はあったが、件の妖怪騒動以前までは平和過ぎた故に」
「そうでしたか、ご協力出来る事があればさせて頂きます」
「そうだな、その時は協力をまた請う事にしようか」
「守也、表の見回りと裏の見回りの二つで伊勢を守ってみてはどうだい?」
「二つ、か?」
 真正直にそう言えば、大きな忍はゆったりと微笑みながら自身の申し出に賛同してくれた藩主へ頷き返すとそれから僅かな間を置いて話す鼎に守也はその意図を汲みかね尋ねると、返事の変わりに彼女はどぶろくで満たされたお猪口を飲み干し置けば
「今回うちらは表の見回り、町の人々に平和は守られているから落ち着いて暮らしてくれ、ってのを見せる為のものとしたよ。もちろん治安維持も平行して行ったけど‥‥それとは別に、例えば町人に混ざり生業に費やしつつ町の異変を探りながら町の声に耳を傾け秘密裏に町を見回る、裏の見回りを置いたらどうだい?」
「話は悪くない、が問題は裏の人員だな‥‥北畠殿と相談する価値はあるだろうが、参考になった。どうなるかは分からないが検討させて貰うよ」
 砕いて詳細を語り出す鼎の話を聞いて合点が行けば彼は頷きこそするも、人員の面で考え込むが皆の率直な意見に感謝して、守也は一行へ頭を下げるのだった。

「有意義な話が出来て良かった、ありがとう」
「お役に立てれば幸いさね」
「そう言えば、先日捕まえた賊は?」
「今、問い詰めているが中々口を割らない。目的があっての行動だとは踏んでいるが」
 翌朝、一行を見送る僅かな町民達と伊勢藩主の礼に鼎が応えると、その傍らにいたステラが先日捕らえた賊に付いて尋ねれば、守也は僅かに浮かない面立ち湛え簡潔に説明する。
「大変だろうが警戒だけはして置くに越した事はない、今は確かに静かだが‥‥気を付けてくれ」
「あぁ、それではまた良かったら何時でも来てくれよな!」
「何時になるか分かりませんが、約束しますわ。それではまた」
 その表情を見て彼を労いつつもゼファーが厳かな声音を響かせ言うと、藩主は頷き最後は声高に再度の来訪を心待ちにしている旨を告げればアデリーナが彼とは逆に至って静かな口調で、だが力強く言えば一行は伊勢を後にした、これから起こるだろう事態を誰もが今は予見出来ていない中を静かに。

 〜終幕〜