【五条の乱】斎宮防衛 〜捕縛〜
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:12〜18lv
難易度:難しい
成功報酬:7 G 21 C
参加人数:10人
サポート参加人数:4人
冒険期間:05月25日〜06月02日
リプレイ公開日:2006年06月02日
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●オープニング
新しい京都守護職の働きは宮中でも評判だった。
京都の人々の目にも、彗星の如く現れた神皇家の若き皇子が幼い神皇を助けて京都を守ろうとする姿は希望と映っていた。事実、悪化の一途を辿っていた京都の治安に回復の兆しがあった。
五月も半ばを過ぎたある日、事態は急変する。
「五条の宮様が謀叛を!? まさか‥‥嘘であろう?」
新守護職に触発されて職務に励んでいた検非違使庁が、五条の名で書かれた現政権打倒の檄文を発見したのだった。下役人では判断が付かず、判官の所に持っていき天下の大事と知れた。
「よもやと思うが、事情をお聞きせねばなるまい」
半信半疑の大貴族達は神皇には伏せたままで五条邸に使者を送ったが、事態を察した五条の宮は一足違いで逃走していた。屋敷に残っていた書物から反乱の企てが露見する。
押収した書物には、五条が守護職の権限を利用して手勢を宮中に引き入れ、御所を無血占領する事で安祥神皇に退位を迫る計画が記されていた。他にも源徳や一部の武家に壟断された政治を糾し、五条が神皇家による中央集権国家を考えていた様子が窺えた。
「京都を護る守護職が反乱を起すとは‥‥正気とは思えませぬ」
「そうだ、御所を占領したとしても大名諸侯が従う筈があるまい」
「現実を知らぬ若輩者の戯言だ」
騒然とする宮中に、都の外へ逃れた五条の宮と供の一行を追いかけた検非違使の武士達が舞い戻ってきた。
「申し上げます!」
「どうしたのだ!?」
「都の北方から突如軍勢が現れ、我ら追いかけましたが妨害に遭い、五条の宮様達はその軍勢と合流した由にござります!!」
ここに至り、半信半疑だった貴族達も五条の反乱が本気と悟った。五条と合流した彼の反乱軍は都に奇襲が適わないと知って京都の北方に陣を敷いた模様だ。
「寄りによってこのような時に源徳殿も藤豊殿も不在とは‥‥急ぎ、諸侯に救援を要請せよ!」
家康は上州征伐の為に遠く江戸に在り、秀吉も長崎に発ったばかりだ。敵の規模は不明ながら、京都を守る兵多くは無い。
「冒険者ギルドにも知らせるのだ! 諸侯の兵が整うまで、時間を稼がねばならん」
昨年の黄泉人の乱でも都が戦火に曝される事は無かった。
まさかこのような形で京都が戦場になるとは‥‥。
●失念していたもの
「少々、気付くのが遅かったかの」
「それでも事前に策を講じる時間があっただけ、今後の被害は抑えられる筈です。あの時、伊勢を探っていた間者を冒険者達が捕らえていなければそれこそ」
「とは言え、のぅ‥‥五条の宮に呼応して近隣の豪族が此処まで動くとは。そしてその狙いは斎宮じゃろうな、少なからず神皇の血も絡んでいるが故に」
伊勢某所、屋敷の中で続々に来る部下達の報告を受け終わっては伊勢国司、北畠泰衡と伊勢藩主、藤堂守也が互いに嘆息を漏らしていたが
「で暫くはその斎宮を前に睨み合いか」
「数は同等、小競り合いこそあるでしょうが敵の動きから察するに暫くは正面切っての戦は挑んで来ないかと。尤も増援こそ来れば話は別ですし、この膠着状態は持って一週間程度かと」
「そうじゃろうな、で伊勢神宮の辺りはどうじゃ?」
戦に乗り気ではない国司が改めて事態の程を尋ねれば藩主からの適切な回答に次いで、伊勢が抱える神宮に付いて問えば
「今の所は静かですが、尤もあそここそ下手に手を出せないかと。迂闊に仕掛ければ多数の信徒が相手になります故」
「此方とて余程の事がない限りは動かす気はないも、数だけなら確かに圧倒出来る‥‥しかしその様な事態にまでは至らせたくないの。尤も敵の狙いは此処の信徒を動かさない事なのかも知れぬが、わしらが動かす気なくともこの状況は変わるまい。ならば敵を挫く必要がある、か」
平穏な状況にこそ胸を撫で下ろすも、暫くは続くだろう戦を鑑みて国司は再び嘆息を漏らすが‥‥漸くここで顔を上げると一つ、自身の内にて決断を下す。
「お主は急ぎ斎宮前に集結している本陣に合流しておくれ。指揮は任せるが今は不用意に動かぬ様」
「はっ」
そして藩主へそれだけ命令を下せば、急ぎ立ち上がる彼の背を見送ると自身もやはり立ち上がり出立の準備を始めるのだった。
「さて、とは言え現状の敵勢とその布陣から察するに余り凝る必要はないじゃろう。となると‥‥」
●斎宮を前に 〜寡黙な者〜
「‥‥こうも人手が足りないと、困るわ」
斎王なき斎宮を前に、一人ぼやくのは神野珠。
現状、斎宮の管理を任されている彼女は五条の宮が蜂起した話を聞かされれば直後、その動きに呼応して動き出した勢力が斎宮を目指している話を伊勢藩主から聞き早急に動き出すと、伊勢藩との連絡を取りつつ今は慌しく駆け回っていたが自身、気楽に動かせる駒は少なく頭を抱える。
「僧兵はまだ下手に動かせないし、レリアは巫女さん、ヴィーは陽動、アシュドは‥‥そう言えばアシュドは何処に行ったんだい」
「‥‥‥あまの、いわと」
「そう言えば、勇に着いていったんだっけ。何もこんなタイミングで行く事ないのに‥‥」
そして改めて使える駒を指折り数え‥‥その一角がいない事に気付き首を傾げると、何時の間にか傍らにいたエドワード・ジルスの答えに頷いて、やはり頭を抱えるも
「でもエド、だからと言ってあんたが出張る必要はないんだよ」
「‥‥‥戦争はもう、いや‥‥だから。それに‥‥捕まえる、だけ‥‥なら」
「あぁ‥‥それじゃあ準備をしておいで、話はつけてあるから」
静かに佇む少年へ、珠は珍しく優しい声こそ掛けるも言葉少なに、表情を変えず小さな声でそれだけ言うエドに彼女はレリアから掻い摘んで聞いた、英国で彼を見舞った話を思い出せば間接的ではあるが、戦災孤児でもあるだろうエドを見据えて複雑な表情を湛え‥‥だが最後には彼が静かに返した言葉に次いで微笑み、彼の頭を撫でては言うと駆け出す彼の背中を見送るが
「‥‥全く持って、やるせないねぇ。エドが自分から言い出したとは言え、大将を捕まえるだけとは言え、そして何よりも冒険者だとは言え‥‥あんな年端も行かない子供を戦争に出張らせる自身、情けないったらありゃしない!」
彼の背中が兵達の中に消えた頃、珠は彼が消えた方を何時までも見つめながら唇を硬く噛み締め、血を吐く様に呟くのだった。
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依頼目的:敵部隊を統率する大将を見付け、捕縛か殺害した上で可能なら敵部隊を混乱させろ!
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
関連NPC:藤堂守也(本陣指揮)、神野珠(斎宮待機)、エドワード・ジルス(同道)
日数内訳:伊勢二見、斎宮までの往路が三日と少々。作戦決行日二十七日夜、一日以内に依頼を達成の事。
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●リプレイ本文
●覚悟
「旅で流れて来てみれば戦なんて、物騒な世の中だねぇ。ま、ミネアみたいな流れ者の傭兵は、コレが無きゃ稼げないんだけどさ♪」
「京都守護職と言うお役目を頂きながら神皇様に謀反とは、五条軍許せません。彼らの思う通りなどさせない‥‥このお役目、決死の覚悟で果す所存です」
斎宮の前、敷かれた伊勢藩の陣が最奥にある本陣にて‥‥敵の大将を捕らえるべく集った一行の中、幼い容姿の割に生々しい現実を紡ぐミネア・ウェルロッド(ea4591)にジャパンで生まれ育った九紋竜桃化(ea8553)はミネアとは裏腹、艶やかな漆黒の髪を逆立てんばかりに五条の宮へ怒りを燃やす等、皆がそれぞれにこの戦において抱く心情を交わせば
「でも偶然だけど一緒に戦う事になったんだし、宜しくねっ♪」
「あぁ、宜しく頼む。さて‥‥何としても討ち取らねばな」
「そろそろ良い時分だな」
一通り皆が言い終わった事を確認し、無邪気な子供らしい笑顔を浮かべミネアが場を纏め締めると鋼蒼牙(ea3167)も頷き皆を見回しては改めて決意を固めると、次に渋い声音を響かせたジェームス・モンド(ea3731)は一人、身を翻す。
「ん‥‥何処へ行かれる?」
「本陣の偵察だ。これより夜襲を恐れて灯りを灯し始める頃合い、敵陣を探るのに苦労は無かろう。おまけに此方は夕闇が味方、易々とは見付けられん筈だ」
その直後、自身の肩口に纏わり付く銀髪を払ってゼファー・ハノーヴァー(ea0664)が問えば彼、振り返らずに手を振り呪文を紡ごうとしたが
「えっと、僕はエド君と会うのは初めてになるかな。兄上達から話は聞いているからそんな気はしないけれど、宜しくね」
「しかしまた何とも‥‥本気か?」
「‥‥‥うん」
ジェームスの耳に滋藤御門(eb0050)の優しげな声と、ルクス・シュラウヴェル(ea5001)の心配そうな声音の響きを聞けば今回同道するエドワード・ジルスの小さな肯定の声を耳にして、その歩を止めると彼。
「捕まえるだけでは済まぬかも知れんが、それでも付いてくるか? その覚悟をして」
「見てるだけで辛い思いをするかも知れませんよ‥‥」
「覚悟がなければ‥‥来る必要はない」
「‥‥決めた、から」
「ならば、止める理由は無いな‥‥では行って来る」
やはり振り返らずにエドへ尋ねれば、ルーティ・フィルファニア(ea0340)と古くから彼を知るルクスが彼を案じるからこそ躊躇いつつも厳しい声音で突っ撥ねるが、彼の決意は変わらず紡がれるとジェームスはそれだけ告げて、その身を巨大な鳥へと変えると空へ羽ばたいた。
「それでは時間も無い事ですし、早く準備を済ませましょう」
「そうですね‥‥と、アリンコさーん!」
そしてその姿を見送り桃化、皆へ呼び掛けると頷くルーティだったが‥‥不意に喧騒を増す周囲の状況を見回せば、その中心にいる騎士を見付け呼ぶと彼は殺気を揺らめかせ彼女へ無言で向き直る。
「そ、そんなに怖い顔をしないで下さいよ。前回は何やら女装等していましたけど、今回は面目躍如の大チャンスですよ? それこそウナギの滝登りな勢いです、だから頑張って下さいね♪」
「‥‥貴様もお百度参りの末に死ねぃ!」
その殺気に思わずたじろぐルーティだったが、それでも明るく声援を送るも‥‥尚殺気を漲らせて彼、彼女へ目掛け駆け出せば踵を返したルーティは脱兎の如く駆け出した。
「‥‥大丈夫なのかしら?」
「不安になってきましたね」
「‥‥うん」
その光景の傍ら、準備を始めた南雲紫(eb2483)とアイーダ・ノースフィールド(ea6264)が見止めれば、真剣に不安を覚えて呟くと準備の手伝いを行なうべく皆の周りを駆け回っていたエドもまた、微かな苦笑を湛えながら彼女らと同様に頷くのだった。
●侵攻
そして暫くの時間を経て戻って来たジェームスの報告の後、準備が済んだ一行は陽動班とほぼ同刻に動き出す。
「だーめ、エドワードちゃんは後ろだよー!」
「‥‥で、も」
「戦に優しさは邪魔だから♪」
土や草を纏わり付かせたマントや毛布をそれぞれ羽織り、地を這い列を崩さず進む一行の前方にて‥‥何時の間にか後方より突出して来たエドを見付けるやミネア、咎めては彼を見つめるがそれでもエドは不服だと引かず前へ進もうとするが幼き戦士にはっきり言われてしまえば、その動きは止めざるを得ない。
「ミネア殿‥‥何もそう、はっきり言わずとも」
「‥‥ま、歳も近いしミネアが守ってあげるよ♪ ミネアの戦う姿見て惚れるなよっ♪ だから、ねっ」
「‥‥うん」
すると次、後方より彼女を窘める様にルクスが小さく声を掛けると今度はミネアが不服そうに頬を膨らませるが、やがて一人頷くと先の発言に反省してか、子供らしい言い回しを持って詫びの代わりにエドへそれだけ誓えば、何処か寂しげな表情を湛えつつも大人しく従う彼に満面の笑みで頷くミネア。
「そろそろ、森が近いわ」
その解決を待って、紫が子供達へ声を掛けると静かに動き出す彼女らの傍ら。
「思っていたより、敵の動きが慌しいな」
「陽動班、もう動いているのかもね」
「ならば、ぐずぐずしてはいられない。急ごう」
偽装した毛布から僅かだけ顔を覗かせた蒼牙、目を細めては森の周辺に蟠る敵兵の動きを察知すれば今はすっかり落ち着いた桃化も何時もの口調で彼に同意して頷くと、上空から様子を覗き伺ったジェームスが先ん立てば一行は静かに密かに敵兵が多くいる森へ進んだ。
●
「情報の通り、結構な数がいる‥‥可能な限り近付いたと思うが、今は此処までが限界だ」
その森の中、可能な限り森の内部にいる敵を避けて進んでいた一行。
今は一行の中で一番に隠密に長けているゼファーが、ルーティとルクスの指示を受け一人先に進んでいたが、遂には踵を返し戻って来ると落ち着いた表情を湛えながらもそれだけ判断して皆へ告げる。
「そうなると強行突破でしょうか」
「いえ。もう少し、機を伺いましょう。まだ敵の注意が完全に逸れていないわ」
「ルーティさん、そう焦らずとも大丈夫ですよ。自分さえ忘れなければ」
「そうですね、らしくありませんでした。今は伊勢藩に仕えるべく活躍するよりも、やるべき事がありますからね」
すると彼女の発言を受けてルーティ、やおら立ち上がって動き出そうとするも彼女の足首を掴んでは引き止めるアイーダが言葉へ静かに呻くと、自身の思慮の浅さを反省して頭を垂れるがジャパンに来てから知り合い、焦る理由を知っていた御門に諭されればすぐに地を伏せ吐息を漏らすと
「なるほど、そんな事を考えていたか。だが今はそれよりも」
「えぇ‥‥」
「早く敵将を討ち、速やかにこの戦を終わらせないとね」
「それ、私の台詞‥‥」
彼よりも僅かだけ付合いの長いルクスが嘆息漏らせば苦笑を湛えて彼女が言葉を紡ごうとした矢先、それを紫に奪われるとルーティは再びうな垂れるもその瞳にはもう、惑いはなかった。
●激戦
そして時は来た。
森の中まで僅かにざわめき立つ敵兵の様子と、次いで遠くから激しい剣戟の音を捉えればそれを機と見た一行は、遂に駆け出す。
「退いて貰います!」
その疾き一行の前、慌てふためきながらも立ちはだからんと多くの豪族連合が兵達だったが鋭い光湛える眼差しにて多数の目標捉えたルーティ、重力を反転させては中空へ舞い上げると闘気を練り上げては放つ蒼牙と共に続きエドが光纏わせ、彼らが落下するより早く数多なる木の枝を奔らせ、縛り上げる。
「無理はしないで、下手に手を出されても邪魔だからね」
その彼の甘さに、先を駆ける紫が静かに厳しく声を掛けると沈黙だけ返すエドは果たして、彼女の真意を察する事が出来たか分からず。
しかし紫は分からずとも良いと此処は割り切れば、前だけを見つめひたすらに鋭く刃を閃かせ、益々速度を上げると
「このまま、一気怒涛に畳み掛けるっ!」
「おうっ♪」
放たれた紫の叫びにミネアが応え、己が背より長い太刀を見た目に反して豪快に振り回しては、進むべき道をこじ開ける。
しかし打ち倒されても尚、一行を背後より追い縋る敵兵も少なく無かったが
「悪いな、相手をしている暇はない」
「このまま引けば命までは取りません、貴方方が死ぬ事を誰が喜ぶでしょう」
疾く詠唱を紡ぎ、ルクスが編んだ光輪にて次々に身動きを封じられれば水晶の剣を翳し告げる御門が言葉に歯噛みだけ返す彼らへ皆は振り返らずに木々の隙間を縫い、駆けた。
「‥‥止まって下さい、恐らくこの近くに本陣があります」
「確かに、人の出入りも激しいですね」
それから暫し、追い縋る敵を苦労して振り切り森を突っ走る一行を御門が展開する、地の振動から敵を捕捉する魔法にてそれだけ理解し、皆を制するとそれぞれ木立に潜めば僅かに様子を伺った後、周囲の状況を鑑みて桃化も頷けば静かに歩を進める一行はやがて、その視界に何かを覆い隠す様に皆の視線を通さない陣幕を捉える。
「だが此処で躊躇っている訳にも行くまい。俺があの陣幕を散らすから、ルーティはその時に月の矢を打ってくれ」
「分かりました。それでは」
それを前に躊躇は一瞬、蒼牙が皆を見回して囁けばルーティが頷き、巻物を広げると同時に一行は風と化した。
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一方の豪族連合、その本陣。
「流石は北畠、爺の癖に良くやる。だがそれでも見抜いている以上、対策の立てようはある。防備を厳に、時期に此処へも敵が雪崩れ込んで来るぞ!」
小競り合いとは言え、動き出した兵の多さに呆れる敵軍の大将だったが歯噛みこそすれ、冷静に次なる指示を下し中枢にまで至った動揺を一喝にて打ち消そうとするが‥‥それより僅かに早く、陣幕が激しく散れば兵の幾人かが木っ端の様に吹き飛べば次いで、光の矢が己の胸に突き刺さって霧散して幾多の刃が振り下ろされるも、将たる武人はそれを悉く避ける。
「貴方が大将ですわね、その首戴きますわ」
「来たか‥‥思った通り。だが、早々容易く我が首は取らせぬぞ!」
その敵を前、蒼牙より託された闘気を纏う桃化が刃打ち合わせ問うと彼は認め、剣気を周囲に撒き散らす。
「逆賊が! 討ち取らせて貰うぞ!」
だが、それにも負けじと裂帛を放って蒼牙は猛る意思を闘気に変えて彼を砕かんと塊に纏め上げたそれを渾身の力込め、叩き付ければ己らが将の苦痛に歪む表情を見た部下達はそれを機に突然の襲撃から唖然としていた自身を律し将を護らんと動き出すと、一行も目的を遂行すべく数が多い敵兵を前にその行動を阻害しては桃化へ加勢しようと試みる。
「流石に練度が‥‥高い」
しかし均衡する戦いに縄ひょう放つゼファーが舌打ちする通りに誰もが近付けずにいる中、敵将と桃化の戦いは尚も熱を帯びる。
「神皇が何する者ぞっ! あの様な輩では今のジャパンは腐敗するを待つのみ! それを正さんとする我らを‥‥貴様ら如き冒険者が阻むなぁっ!」
「‥‥っ! ですが‥‥外見だけで神皇様が器を判断されたその物言いは許せません! 神皇様に逆らう者へは死を、奥儀『昇竜』」
「ぬがぁ!」
幾多の残像残し、眼前に立ちはだかる桃化へ必殺の一撃を浴びせる敵将だったが‥‥それは寸での所で見切られ、自身の肉だけを切らせて彼女は彼の骨を断たんと今は痛みを忘れて凄まじき一刃を返す。
だが敵もさるもの、堪え切れずに苦痛の咆哮こそ上げたがやはり致命傷だけは避けると
「此方へ! 此処で倒れてしまってはこの軍は‥‥がぁっ!」
次に響いた部下の声と同時に敵将は判断早く踵を返すが、振り返ったその視界には部下が崩れ落ちる姿と、その後ろにて血に濡れた剣を隙なくぶら下げるジェームスの姿が映る。
「悪いがこれ以上、戦の火を広げる訳にはいかんのでな」
「ふん‥‥前門の虎、後門の狼と言った所か。回りくどい手ばかりを弄しおって!」
「さぁ、覚悟を決めて貰おう」
魔法を用い巨猿に姿を変えた彼が予め逃走経路を見出し塞いでいた事は気付く筈もなく、不意に姿を現しては告げるジェームスへ敵将、肩口を押さえながらも鼻を鳴らせば続く彼の言葉が言い終るよりも早く片手で長大な刀を掲げるが‥‥突如、その首元を二本の矢が貫けば糸が切れた人形の様に動きを止め崩れると、場に居合わせた全員が沈黙する中でそれを放ったアイーダは静かに呟いた。
「卑怯だとなじらないでね、これは戦いなのだから」
●結末
あれより後、敵将の首を切り落としてから一行は様々な魔法を駆使し‥‥また、偶然にも捕縛班が試みた作戦にたまたま便乗する形で敵陣の奥深くより手傷を負いながらも無事、伊勢本陣への帰還を果たし今は皆、地に伏していた。
「さて、これで流れがこちらに傾けばいいが‥‥」
「そうですね、でも」
その中、崩れたままで締まりはないが真面目な声音で蒼牙が遠く‥‥先よりも森の前に佇む敵兵が少なくなったにも拘らず睨み据える伊勢の兵達を見て呟くも、ミネアが鳴らす鼻歌を耳にしつつ巨木へ身を寄せる御門も彼に同意すれば次いで、沈痛な面持ち湛えるエドへ視線を移した。
「これが、現実だ。人と人とが信念貫き命を賭ける戦場の、な‥‥だから」
その彼の傍ら、彼へ落ち着き払った声音で言い聞かせるルクスの表情は普段通りに落ち着き払い、瞳に宿した光は真直ぐだった。
「だからもう、エドはこの様な場所に来ては駄目だ」
「でも、それでも‥‥」
「それなら‥‥自分が力を振るう理由を見付ける事ね。それが無ければ何時かあるかも知れない人同士の戦の時にまた、迷うだけよ」
そして一度区切り、だが言うべきだと思った事を最後まで彼へ告げれば背を向けるルクスにエドはそれでも食い下がるが‥‥次の句はすぐに見付けられる筈もなく、頭を垂れるとその彼へ紫は厳しく告げて、今は彼の言葉を跳ね除ける。
「それ、でも‥‥僕は、人を傷付けたく‥‥ない。それだけ‥‥それだけ、なんだ」
だがそれでも、彼は言葉を紡ぐと一行は子供の我侭にしか聞こえないそれを‥‥いや、それだからこそか見守りたく思い、誰からか知れず視線を交わせばエドには言葉こそ掛けなかったが、僅かな微苦笑だけ湛えた。
●
そして更に暫くの時が経ち、斎宮を前にしての戦乱は漸く終わりを告げる。
最終的には重圧を掛け、敵の出方を伺うべく突撃と後退を数度繰り返した伊勢の士達に頭を欠いた敵兵は退くのだった。
その際、藩主は追撃を許さずに乱の収束こそ告げるがその為にこれより当分、伊勢藩はその処置に追われる事となる。
予想より多い人死にこそあったが、それでも斎王が来る前に‥‥民達に大きな被害が出る前に戦を終えられた事に誰もが安堵するのだった。
〜終幕〜