【新たな斎王】本節 〜斎王群行路〜
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:10〜16lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 33 C
参加人数:7人
サポート参加人数:3人
冒険期間:06月03日〜06月09日
リプレイ公開日:2006年06月11日
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●オープニング
●斎王の命
「『群行』の準備はどうですか?」
「滞りなく進んでおります、これでしたら予定通りの日程で『群行』を行う事が出来るかと」
江戸某所、広大な屋敷のその片隅‥‥目の前にかしま付く部下へ投げ掛けた問いは即座に返って来ると静かに頷くのは伊勢神宮を統べる、次なる『斎王』。
今、この部屋では目前に迫る『群行』の最終確認を『斎王』とそれに最も近き側近だけが集い、摺り合せていた。
「それで伊勢の状況は如何に?」
「余り宜しくないです‥‥と言うより、この文だけでは何とも判断がし難くて」
「そう、ですね‥‥私達が辿り着く頃にならないとはっきりとした事は分からない可能性が高いですね」
そしてその次に出て来る話題は無論、京都を舞台に突如幕を開けた戦乱の話。
質問を投げた『斎王』の問いへは側近、難しい表情を湛えながら伊勢より届いた文を彼女へ差し出すと暫し目を通した後に『斎王』、頷き返してやはり表情に困惑を浮かべる。
「‥‥どうされますか?」
「決行します、この件があってもなくても伊勢も未だ肝心の問題は内包したまま。その問題が表面化して手遅れになる前に、少しでも早く伊勢に入る必要があります」
「もし、もしですが斎宮が無くなっていた場合には‥‥?」
「その時は内宮へ身を寄せます、私が腰を据えるべき場所は何処でも構わないでしょう」
「ですが‥‥出過ぎた口、失礼しました」
「所で連れ立つ人員はどうなっていますか?」
「こちらも問題なく」
すると『斎王』の困惑を見た側近は改めて『群行』決行の確認を問うも、彼女は迷う事無く自身が抱く意思だけ告げればその身を案じてだろう、尚も側近は不安要素を掲げるがやはり惑い見せずに言い放つと、再三『斎王』へ意見を述べようとする側近だったが‥‥紡ごうとした言葉は最後まで言わせて貰えず、強く自身へ降り注ぐ眼光だけで引き下がらせれば『斎王』、頭を垂れて詫びる側近へ次には笑顔を湛えるとまだ続く話の次は『群行』に連れ立ち、斎宮にてこれより共に生活する多くの官人官女らへと及ぶ。
「そうですか、所で一つお願いがあるのですが‥‥私を警護するだろう者に冒険者の皆さんを加えて貰えないでしょうか?」
「‥‥どう言った意図で、でしょうか。こちらで十分な数を揃えています故、冒険者を加えるとなると警備する者達の再配置を行なわなければなりません。相応の理由が無ければその任から突然外される者達は納得しないでしょう」
所が『斎王』、今度は慎重に自身の考えを唐突に切り出すと彼女の発言に対し側近は先程までの態度を豹変させ、細い眉を顰めては語気を強めて『斎王』を問い質す‥‥確かにこの話に付いては側近の話に筋が通っており、『斎王』もそれを理解した上で側近が要求する回答へ口を開いては恐る恐る、言葉を紡ぐ。
「伊勢が内包する問題に付いて、恐らくは神宮だけでは力ある人員が足りず私も冒険者と接する機会が多くなるでしょう。それを踏まえた上でこの機に彼らと接し話を伺ってみたいと思っていますが‥‥どうでしょう?」
「‥‥そうですね、仰る事も事実かと‥‥問題はありません。但し、遠巻きになるでしょうが斎王様の周辺に兵を伏せておく事さえ許して頂ければ」
「信用ないのですね」
「どの様な馬の骨が紛れているか分かりませんので」
そして紡がれたその理由へ変わらずかしま付く側近、暫しの間を置いて考えを纏めると顔を上げ妥協案を申し出れば苦笑を浮かべる『斎王』へ言い放つと
「分かりました、それで構いません」
「それでは斎王様の警護の直属に冒険者を加え、本来斎王様を警護する筈だった者達に監視と間接的な警護の任を与える事とします。恐らく何事も無いでしょうし、この方がこちらの手間も減ります」
「えぇ、それで宜しくお願いします」
「それでは、手配をして参ります」
折れる他に無いのは彼女で、だが側近を信頼しているからこそ即座に頷けば話を纏めて側近は立ち上がると、部屋を辞するその背へ『斎王』は労いの言葉を掛けた後‥‥側近がいなくなってから静かに嘆息を漏らした。
●唐突な依頼
「‥‥と、そう言う事でして」
その側近、『斎王』が漏らした嘆息は露知らず‥‥屋敷を後にするとその足のまま冒険者ギルドへ向かえば、早くもその話を持ち込んでいた。
「何とも大きな依頼だな‥‥で、済まないが『群行』と言うのは一体なんだ?」
「簡単に説明すると江戸より発って勢多、甲賀、垂水、鈴鹿、一志の各地にある頓宮で禊を重ねて、伊勢が二見にある斎宮へ入る‥‥『斎王』が『斎王』たるべく行なわなければならない最後の儀式だ」
勿論、その話に対しギルド員の青年は掻い摘んだ説明を聞き終えて今‥‥静かに頭を抱えていたが『群行』と言う、聞き慣れない単語に疑問を持った青年はすぐにその意を問えば依頼主、簡潔にだが答えを返すと
「その道中、斎王様の警護を行なえばいいのだな‥‥だが斎王ともなれば、それだけの儀式を経るならば同道する人員は多いのではないか」
「五百は下るまい、だが斎王様がたっての願い故にこちらへ直属の者を手配しに来た。尤も、こちらでも別の警護はさせて貰う」
依頼の目的と意味こそ理解するが神皇に連なるだろう血を少なからず引いているだろう『斎王』の移動に際し、冒険者だけの護衛ではあるまいと問い質せば‥‥目の前の側近は相変わらず冷淡な口調ながら話す真意に彼は内心だけ安堵して、それは表情へ出さず静かに頷くのだった。
「なるほど‥‥分かった、早急に手配する」
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依頼目的:伊勢まで『群行』の道を辿る『斎王』の護衛をせよ!
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は依頼主から出ます。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
関連NPC:祥子内親王(同道)
日数内訳:六日、丸々を京都までの移動日とする。
その他:京都で動いている【新たな斎王】シリーズとは違い、性別は不問です。
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●リプレイ本文
●動き出す斎王
「斎王様ってジャパンの皇女様なんだよね?」
「話ではその筈、冠する御名から察すれば間違いはないでござろうが」
江戸の冒険者ギルド、伊勢へと至るべく護衛を募った斎王の護衛に参加する面々が集えば挨拶を交わし終えた直後に響いたのは常に明るき笑顔を宿すシスティーナ・ヴィント(ea7435)の疑問だったが、その彼女へ滋藤柾鷹(ea0858)が静かに通る声にて自身が判断出来るだけの材料にて無難だろう答えを返すが
「あれ? でもジャパンの神皇様はまだ十歳位だって聞いたけど?」
「そうですね、その通りですわ。とそうなると‥‥どう言った生い立ちの方なのでしょうね?」
「それ、私が聞いている事‥‥」
彼の話を聞いてシスティーナは尚も浮かんだ疑問を口にすると彼女とは異なる、静かな微笑を湛える大宗院鳴(ea1569)へ逆に尋ねられれば、堂々巡りになる前に巫女へ訂正を求めると場に木霊する皆の笑い声。
「セリアはん、道中気をつけるんや。特に生水や食料には要注意の事どす。この時期やから日持ちが悪いさかい、保存食と言っても油断は禁物どす。大体貴女は‥‥」
「えぇ、はい。あぁ‥‥そうですね」
「聞いてはるの?!」
その傍ら、皆の話に参加したかったセリア・アストライア(ea0364)ではあったが‥‥見送りに来た友人がわざわざ紡ぐ注意事項へ生返事だけ返せば余計、どつぼに嵌る彼女だったが
「勿論です」
それだけに心配している友人がいる事に続いて問われた言葉には素直に頷き、感謝の微笑を湛えるセリア。
「‥‥とにかく、とっても大事な人なんだよね? 大事な役目だから頑張って護衛しないと」
「そうじゃな、頑張ろうぞ。セリア殿、そろそろ斎王様の下へ参ろうぞ」
「そうですね。それでは行って参ります」
だが皆の話は丁度その時に終わり、システィーナの再確認に頷いた天城月夜(ea0321)の凛とした声が響けばセリアは返事をし、次いで唐突に神妙な面持ち浮かべる友人へ一時の別れだけ告げて彼女は他の皆より一歩出遅れ、殿を勤める形で江戸を発つのだった。
伊勢の鍵を握るだろう、斎王を無事に伊勢にある斎宮へ送り届ける為に。
●
「これより斎王になるべく群行の路を辿る祥子内親王の御前である、平に‥‥」
「構いません、下がって下さい」
「‥‥は」
江戸某所にある屋敷、その一角にある部屋へ招かれた一行が前に一人の女性が通る声音で言葉を紡ぐが、それは途中で何者かが遮られると次いで奥の襖が開いては一人の女性が姿を現す。
既に出立の準備は整えられており、様々な装飾があしらわれた巫女装束を纏い現れた彼女がまごう事なき『斎王』だと気付いて一行、何処か浮かない表情ながらもその厳かな立ち姿に暫し見惚れるが
「大事の同行に私達を加えて頂き、貴女に感謝を」
「この身は異国のものなれど、この道中、貴女の為にあらん事を誓いましょう」
「そう堅苦しくなくて構いませんよ。それに身形の程もお気遣いなく、そのままを拝見したいので」
「‥‥お気遣い、痛み入ります」
その沈黙を断ち切り、始めこそ言い直すもセリアが恭しく頭を下げては頭を垂れるとマーヤー・プラトー(ea5254)も彼女に続き挨拶の代わり、騎士らしい誓いの言葉を紡げば彼女は鈴の様な声を響かせ二人を諭せば、何処か落ち着かない神楽聖歌(ea5062)の様子を察し表情を綻ばせて言えば、的を射られた彼女は礼だけは忘れずに述べると
「それでは改めて、伊勢にある斎宮が辿り着いた後に斎王となる祥子内親王です‥‥と自分で言うのも如何かとは思いますが、今回は宜しくお願い致しますね」
「此方こそ、粗相のない様に全力で今回の依頼を勤める所存です。何卒宜しくお願い致す」
「‥‥はい。それでは早速参りましょうか? 此処は街中でもありますので別な場所より江戸を発ち、すぐに伊勢へ向かいます。こちらの準備は整っていますが、皆様は宜しいでしょうか?」
「えぇと‥‥あぁ、はい。問題ありません」
「それでは」
「はい。私達も無事斎宮へ到着し、守ってくれた皆の期待に応えましょう」
聖歌へ頷き返して彼女、初めて介するだろう冒険者達へ改めて名乗れば恭しく一礼を返す柾鷹を見ては事の次第を告げると、何時もの調子で答えを返そうとしたシスティーナだったが、月夜に脇を突かれれば慌てて言い直す彼女へ頷き返すと祥子内親王は立ち上がり、皆を促せば返って来たセリアの言葉に微笑を返して一時、皆と別れるのだった。
(「‥‥ふむ? 先の反応が気になるが」)
マーヤーが先に僅かだったが覗かせた、祥子内親王の寂しげな表情が何事かと思案する中で。
●斎王群行路 〜斎王(表)〜
さて一行、街道を長く延びては進む群行の只中‥‥やや後ろ寄りに位置する斎王が乗る輿の間近にて人数は少ないながらも何をも見逃すまいと彼女を囲う様、進んでいた。
「伊勢神宮には一度行ってみたかったのです‥‥って、鹿島神宮にも行った事がないのですけどね」
「伊勢神宮か、そう言えば拙者も伊勢にこそ行った事はあるがそちらへは足を運んでおらんな」
「すると他の皆様も、伊勢神宮へは行った事がないのでしょうか?」
その中、前方に位置する鳴が身形の割に意外な事を言いつつも、自身奉る神がいる場にすら足を運んだ事がないと断言すれば更にその前を進む柾鷹が静かな苦笑を漏らしつつも、やはり伊勢神宮へ行った事が無い事を改めて思い出すと、斎王の続く問いに皆は頷く。
「所で伊勢に祭られている神とは一体、どの様な神なのだ?」
そして一人考えに耽っていたマーヤー、皆の反応に漸く思い立って口を開き前にいる斎王へと尋ねると彼女は何故か視線を鳴へ走らせると、その意を察して彼女。
「えぇと‥‥伊勢神宮って天照大御神様を祀っていらっしゃるんですよね。わたくしも疑問に思っていたのですが、太陽神であられる天照大御神様のお姿を拝見する時はどうなさっているんですか。眩しくてとても見ていられないと思うのですが」
斎王に代わって解説する巫女だったが、次にその斎王を見やれば逆にずれた質問を返すと今度は輿に乗る彼女が首を捻る番だったが
「そう、ですね。瞳を閉じて心の中で向き合っている、と言えば良いでしょうか」
「なるほど〜」
苦笑を湛えながらもやがて答えを捻り出せば、そんな答えでも素直に納得する鳴の姿を見て一行は斎王に倣うかの様、やはり苦笑を湛えた。
●
「それでは皆様は此方にて、暫しお待ち下さい。禊を澄ませて来ます故」
やがて辿り着く一つ目の勢多頓宮‥‥一行は次期斎王に導かれるも、道中での話の通りに次期斎王より小さなその社への立入りを禁じられると周辺の警護に当たる。
「これが頓宮、か」
「流石に禊は秘密なのね、何をしているのか気になるんだけどな」
「禊って‥‥何ですか? 巫女装束で滝に打たれるとか、そーゆーの?」
「そうですね、一般的な禊ならそれで間違いないですわ。身に着いた穢れを落とすべく滝や川、海等で御身を洗い清める事が禊と言われている筈です」
その社、月夜が興味深げに社とその背後にある滝を眺めれば鳴は酷く落胆してか肩を落とし、祥子が潜った扉を食い入り見つめ呟くと、巫女の彼女を見つめて一本の樹が上に昇り周囲の様子を伺うシスティーナが疑問を紡げば鳴、自身が思い浮かんだ答えに近いだろう答えを彼女へ返すと未だにピンと来ない神聖騎士だったが
「なるほど‥‥ですが今は斎王様の護衛中です、油断なさらない様にお願いしますね」
「あっ、はーい」
彼女らの話を聞いては納得しつつも聖歌は至ってマイペースに、のんびりとした声音を響かせれば思考の淵から現実に引き戻された金髪蒼眼の神聖騎士は返事をしては月夜が飼う鷹と共に、再び高みより社周辺の警戒を始めた。
●斎王群行路 〜斎王(裏)〜
勢多の頓宮を過ぎてから群行は四箇所目、垂水にある頓宮まで順調に踏破すると今は鈴鹿山脈へ至っていたが此処からはやはり厳しい山越えを強いられる事となり、今まで保っていたペースを流石に落としていた、そんな時。
「むぅ」
「?」
誰かしらの呻き声を耳にした聖歌が辺りを見回すも、一行の誰もが漏らしたものでない事はその声音から分かり、その主だろう人物を見やれば直後。
「冒険者の皆様を残し、後は人払いを。護衛はそのままの位置で、他の皆には暫しこの場にて休憩する旨を伝えて下さい」
「‥‥ご自重の程、宜しくお願い致します」
「今に始まった事ではありませんでしょう、それは貴女が一番にご存知な筈ですよね?」
「故に、それが目下の悩みです」
斎王の声が響けば常にその傍らに存在する側近が何事か釘だけ刺すが、動じず内親王は笑うとやがて渋々と引き下がる側近。
「えーと、どう話したものかしらね?」
「さ、斎王様?」
「今は気にせず、祥子と呼んで頂戴。人は近くにいないし彼女、ああ見えても仕事はしっかりこなすから」
そしてその場より立ち去り、周囲にいる人々を連れては側近が去れば口を開いては出た斎王の急変する言葉遣いに驚くセリアだったが、真なる素性を現した彼女は尚も砕けた調子で皆へ呼び掛けると
「立場上、表ではああ振舞っているけど本来の私はこっちなのよね。それと畏まられるのは余り好きじゃないの、立場とは言え一人だけ仲間外れにされているみたいに感じるから」
「しかしその様な振る舞い、疲れないか?」
「んー、私は結構平気よ」
今までにない表情をコロコロと変えては続く本音にマーヤーが静かに納得する中、柾鷹は僅かに呆れつつも開けっ広げな斎王へ尋ねれば、返って来た答えには半ば感心する。
「で、早速本題。皆が体験して来た冒険譚、聞かせて欲しいんだな」
とその斎王、地に下りた輿より降り立ち一行へ手招きすれば皆がやって来るなりその口から吐いて出た質問に、皆は引き続き驚くが
「‥‥これからもそうだけど、誰かしらの監視に置かれているって言うのは気が滅入ってね。今まではずっと屋敷の中だけで、外の世界を知らなくて。でもある日、初めて外から来た冒険者の話を聞いた時、随分と楽しくて‥‥今じゃあ子供の頃より拘束された環境に我慢が出来る様になっただけ、そう言った話を聞くのが一つの楽しみでストレスの解消法なのよ。後は‥‥秘密♪」
「そう言う事なら一つ、拙者が伊勢で引き受けた、至極最近あった話をするでござるよ」
その理由を聞けば一行、普段はどうしているのか気になりつつも苦笑を浮かべる斎王の話を少なからず理解すれば次に月夜が斎王の前へ進み出ると先日、自身が伊勢神宮から間接的に請け負った依頼の話を始めるのだった。
「なれば、これより参る伊勢にてあった女装を好む奇怪な盗賊団との巫女装束を賭けた激しい戦いの話を」
その話を斎王にして良いのだろうか? と言う突っ込みは野暮である。
少なからず話を聞く祥子は先までと質の違う笑顔を湛えているのだから。
●謀叛の爪痕
「主らはその場に打って出ず、斎王様の護衛に専念してくれ。私達が打ち漏らした敵だけ、確実に倒して貰えればそれで良い!」
斎王が側近の声が鳴り響くより早く剣戟が木霊したのは鈴鹿山脈を越えたばかりの頃。
疲弊した身を休ませる暇なく群行へ強襲を掛けたのは、一行の辺りを駆け回る僧兵達の話通りであるなら先日、斎宮前にて伊勢藩と対峙した豪族が一派の様子。
「とは言え‥‥」
「お気遣いなさらずとも大丈夫です、多分ですが」
「まぁ止むを得ぬでござる、此処が最後の壁。必ず守り通そうぞ!」
敵対する一団の目的こそ分からないが、護衛を任された一人であるマーヤーが剣を抜きつつも斎王が眼前で戦う事を躊躇うが同様の想いを抱く一行を宥める様、斎王が自信なくも一行へ呼び掛けると柾鷹が腹を括って叫べばそれに紛れて複数、風を切る音が飛来する。
「っ!」
そしてそれを遅く捉えた斎王が固く目を瞑ると同時、乾いた音と微かに鈍い音だけを耳にすれば彼女は眼を開けると、その眼前には月夜が立っていた。
「その程度ではまだ、甘いな」
「我が奉りし神名に置いて‥‥具現化せしめよ、雷撃の刃!」
「私は陽の巫女を守る月の盾。私が居る限り、祥子様には指一本触れさせません!」
その彼女、斎王目掛け飛来した矢を鉄扇にて叩き落し、他の矢は斎王へ当たりそうな物だけ身を挺して遮り、鼻で笑えば矢が飛来した方へ雷撃放つ鳴の詠唱が響くと共に叫び駆け出すセリアが疾く、樹上より落ちた弓兵に迫り一刃にて右の肩口から持つ弓の弦まで切って行動不能にさせる。
「大丈夫ですか?」
「え、えぇ。しかし駄目ですね、この様な調子では」
「‥‥慣れる必要はない、貴女は貴女にしか出来ない事が他にあるでござろう?」
「その通りです、この様な場は私達が収めるに相応しき場。ですからもう暫しだけ‥‥ご辛抱を!」
そんな戦場を初めて目の当たり、祥子は御身を固く抱きながらもシスティーナが呼び掛けに頼りなさげな声音で返すが、柾鷹が精一杯の努力にて彼女を諭せば弓兵を囮にして出来た間隙を縫って迫る、僅かな敵兵を目に留めながらマーヤーが斎王を見つめ微笑めば、再び前を見据えて柾鷹と共に駆け出すのだった。
●至る斎宮
「此処まで至れば大丈夫であろう、皆ご苦労だった」
「此方こそ、お役に立てていたのであれば幸いでござる」
そして群行はやがて伊勢、二見に辿り着くと斎宮を間近にして側近が一行を労えば柾鷹が彼女に応え恭しく頭を垂れると
「新たな地、か。この地に根を下ろすや否や‥‥いずれにせよ斎王様、この身が必要であるならば、その時はその為の力となるべくこの剣に振るいましょう」
「出会いは神の御業と言いますが‥‥祥子様と出会えた縁、大切にしたい。困った事が有ればまた声を掛けて下さい、必ず駆けつけます。この髪飾りに誓って」
「えぇ、ありがとうございます。それに皆様もまた必ずご縁はあるでしょう。その時には何卒、宜しくお願いしますね」
その傍ら、一行の年長者であるマーヤーが深き緑に彩られたマントを靡かせては斎王の前で膝を折り、今は鞘に納められたままの聖剣翳せば、セリアもまた彼に倣って地に膝を突きやはり辺りの風景と同等な色合い持つ髪飾りを差し出し続いて二人‥‥暖かな笑みをその表情に宿せばそれを受け取り二人の騎士へ微笑んで彼女。
「‥‥面白い話、また聞かせて貰える日を楽しみにしているからね」
「はいっ、しっかり準備しておきますねっ!」
場に居合わす一行にだけ響く様、囁けばシスティーナが笑顔と共に約束を交わし、祥子も釣られて微笑むと遂には群行を引き連れて斎宮へと歩み入る。
「これから果たして、伊勢はどうなる事か‥‥色々と楽しみでござるな」
そしてその一団が後姿を見送り月夜は斎王が持つ二つの表情を思い出して苦笑を浮かべれば今後の伊勢が益々気になり、彼女が消えた斎宮の方を暫し一行と共に見送るのだった。
〜終幕〜