【新たな斎王】外伝 〜斎宮改造計画?〜

■ショートシナリオ&
コミックリプレイ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:1 G 10 C

参加人数:7人

サポート参加人数:4人

冒険期間:06月09日〜06月21日

リプレイ公開日:2006年06月19日

●オープニング

●戦乱終わり
 五条の乱の直後‥‥伊勢は二見、新たな『斎王』がもうじき来るだろう斎宮を前に現時点の管理者である神野珠は一人、薄汚れた巫女装束に纏わり付く埃を払いながらいきり立っていた。
「‥‥休む暇がないっ!」
 それもその筈、『斎王』の到来に伴い不足している人員の増強、教育から始まれば、歓迎準備に至るも先日唐突に起こった五条の宮の叛乱の影響で伊勢にもまた戦が巻き起これば、そう叫びたくなるのも当然である。
「むー‥‥これが終わったらたんまり休ませて貰うわっ、絶対に!」
 そして休み無しで働かざるを得ない珠は再び叫び涙して、しかし止むを得ずに掃除を再開する。
 そんな彼女が今、何をしているかと言えば斎宮周辺の清掃と斎宮内部の改修である。
「‥‥早く皆、戻って来ないかしらねぇ」
 因みに伊勢神宮はもう後僅かな期間だけ人手が足りず、僅かな人手こそ掻き集めてくれたが彼女のサポートを完全に出来ず、伊勢藩と言えば先の戦乱からまだ僅かな時間しか経ていない事より市街を中心に、斎宮へ至る道の防備を強化こそしていたが‥‥その為にやはり清掃等へ回せる程の人手に余裕はなく現斎宮管理者である彼女がこの件に付いても音頭を取る羽目になっていた訳で‥‥。
「あーーー! もうやだ! 帰る! 実家に帰る!」
 鬱憤も溜まってしょうがないのは珠、大きな絶叫を一つ上げては連れ立った数少ない部下達を驚かせると
「‥‥とりあえず‥‥あと少しの辛抱、っと言う事でしょうがないか‥‥さて、その斎宮さんは‥‥外観、然程大きな損傷なし! 周辺、とりあえず気にはなるけど一息! でも、内装は‥‥完全な誤算、あたしも確認している暇がなかったとは言え‥‥とほほ」
 それで落ち着いたのか、改めて大きな斎宮周辺を視線が届く範囲だけぐるりと見やり目立った問題はないだろうと判断すれば周辺の清掃に付いては安堵こそするも‥‥此処からは見えない斎宮内面の状況を思い出すと、大きな溜息を一つ付いて次いで頬を掻き右手に広げられている文へ視線を落とすと、再び溜息を付く。

『華美な装飾は斎宮として相応しくない為、控える事』
『非常時に備えた罠等、不要な仕掛けを拵える必要はなし』

「‥‥どうしよ? 装飾を剥がすだけならそう手間は掛からないだろうけど、それだけの処置だと余りにも殺風景過ぎるし‥‥って言うかあれだけの罠、誰が仕掛けたのよ」
 次期『斎王』より届けられた、斎宮建造に当たって認められた文に踊る幾つかの注意文‥‥その内の実はこの二つが反しており、その事で珠は頭を抱えているのだった。
 因みにその状況に彼女が気付いたのは先日の乱の最中、その時点では内部の状況を簡単にだけしか把握出来ず、漸く今日になって斎宮を隅から隅まで歩き倒せば偉い数の罠までもが仕掛けられている事に気付き、その身を挺して細部の調査を完遂して今は疲れ果てている彼女。
「宮大工を今から呼ぶにしても‥‥時間が掛かるわ、調整やら面倒だし、今度も変になったりしたら‥‥むぅ。罠の除去もあるから、そうなるとまた冒険者ギルドへの依頼かねぇ。はぁ‥‥理由こそあれ最近依頼ばかり出しているから上から小言、言われなきゃいいけど」
 斎宮建造前、宮大工達との調整はしっかりとしたのだが‥‥何処がどう食い違ってか、腹違いとは言え神皇とも繋がる者の来訪を心から歓迎しての余計なお節介を宮大工が働かせたのだろうと予想する。
 しかし宮大工が自ら建てた建物に対し、罠を仕掛けるなんてあり得ないとお思いの方もいるだろうが‥‥彼女は全くそれに気付く風もなく、とにかく豪華絢爛な内装と大量に仕掛けられた罠から今後取るべき処置にやはり嘆息を漏らすが
「あー、ここで考えていてもしょうがないっ! 冒険者ギルドへ鳩でもとばそ! 内装だけなら何とかなるでしょ! それと斎王様の今後の予定は‥‥来てもすぐに伊勢の各地を見て回るから不在‥‥っと、それなら問題なし! よしゃ、文書くぞ!」
 斎王の伊勢来訪も予定通りなら後もう僅か、自身他にやる事があるとは言え逃げる訳にも行かずやがて開き直れば彼女は荒々しい足音を立て、一人大声で叫びながら自身の家へと一先ず戻る事に決めるのだった。

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 依頼目的:斎宮内装の再構築及び周辺の清掃(手段、手法は問わず)!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は不要、伊勢神宮が提供します。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい(但し必要だと思われる物に関しては伊勢神宮が負担する場合もあり、詳細は解説にて)。

 関連NPC:神野珠(同道)
 日数内訳:伊勢二見、斎宮まで往復日数七日。実働日数五日。
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●今回の参加者

 ea0606 ハンナ・プラトー(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3075 クリムゾン・コスタクルス(27歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea5866 チョコ・フォンス(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea7197 緋芽 佐祐李(33歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea9027 ライル・フォレスト(28歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0050 滋藤 御門(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0334 太 丹(30歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)

●サポート参加者

オルテンシア・ロペス(ea0729)/ 源真 霧矢(ea3674)/ 拍手 阿義流(eb1795)/ 拍手 阿邪流(eb1798

●リプレイ本文

●嵐の前の静けさ 〜斎宮を前に〜
「えっらい人、いらっしゃーい。おーし、全力出しちゃうぞー!」
「出しちゃうぞー!」
 伊勢は二見、温泉が非常に有名なこの町の海沿いにある斎宮‥‥伊勢神宮を統べる斎王が住まう事となる巨大建造物を前に今、ハンナ・プラトー(ea0606)とチョコ・フォンス(ea5866)の気心知れた二人は揃って決意の雄叫びを上げていた。
『全ては斎王様の為に!』
 ‥‥かどうかまでは分からないが、とにかくやる気を漲らせ叫んでいた。
「これが斎宮っすかー、大きいっすねー!」
「そうですね、以前伊勢へ来た時に少しだけならお話を聞きましたが‥‥」
 その傍ら、初めて斎宮を目の当たりにした太丹(eb0334)と緋芽佐祐李(ea7197)の巨人コンビがその大きさに感心を覚える‥‥それもその筈、真昼時の眩しい陽光が差す中に佇む斎宮は下手な城よりも余程大きいのだから。
「しっかしまぁ、戦の時には気にしてみる余裕はなかったけど‥‥改めて見てみると確かに殺風景だな」
「それだけなら良いんだけどねぇ‥‥」
 そんな陽の光に照らされた斎宮を見回して、つい先日訪れたばかりのライル・フォレスト(ea9027)が今日にして初めて斎宮周辺の状況に気付き、まだ残る戦乱の爪痕に顔を顰めながら呟けば彼と同じ依頼を受けた滋藤御門(eb0050)もまた、同様の想いを抱いて形の整った眉根を静かに顰めた時‥‥響いた嘆息は神野珠が漏らしたもの。
「どっかの馬鹿が仕掛けた罠が多過ぎるんじゃー! 斎王様を守る所か殺す気満々かよ、ボケがぁー!」
「え、えっと‥‥珠さん、落ち着いて下さい。罠の仕掛けられている場所や掃除が必要な所とか、斎宮内部の事を教えて頂けますか?」
「はぁ‥‥そうね、でも見て驚かない様に」
 今日は真新しい巫女装束を纏った彼女は次いで余程お疲れなのか、今までに見知った者でも余り聞かない音量で絶叫を放って皆を絶句させるが、初めて見る彼女の激昂ぶりに僅かに怯えながらも御門が宥めれば生返事を返しながら、それでも早く落ち着くとその懐から幾枚かの和紙を取り出し、皆の前に広げた。

「え、えーと‥‥本当ですか?」
「嘘ついてどうするのよ」
『‥‥‥』
 それから暫し、和紙に向き合っていた皆の中で御門が漏らした言葉に肩を竦めながら珠が返せば残る全員は皆、沈黙だけ重ねるが
「はぁ‥‥こんだけ罠があるんだったら、さぞかしおもてなしも命懸けだったんだろうなぁ」
「いやぁ、流石に内部がこんな状況で斎王様を招き入れるのは非常に危険だったから全部外でやって貰ったよ‥‥て言うか、無理過ぎるでしょ」
「まぁ、ねぇ」
「お世話になった珠さんが少しでも楽になる様に、出来る限り頑張るよ。宮大工の技を実際に見られるだけでも、将来のいい勉強になるしね」
「ううっ‥‥済まないね、皆」
 その中で以外に冷静‥‥と言うか、誰よりも早く呆れの極地に至ったクリムゾン・コスタクルス(ea3075)が状況を把握した上で、先日行なわれた斎王歓迎の次第を想像するが珠が下した判断には納得し、彼女へ頷き返すも再び肩を落とす珠へその肩を叩いてライルが励ませば‥‥瞳に涙を貯めながら皆に泣き縋る彼女。
「よーし、それじゃあ斎宮改造計画‥‥開始ーっ!」
 そして彼へ抱き付きおんおんと泣く巫女が、想像以上に凶悪な力で彼を抱き締められば当然ながら悶えるライルを見て、苦笑を湛えながらもチョコが叫べば固めた拳を斎宮へ突きつけるのだった。

●何、この斎宮
「無警戒にも程があんだろ!」
「いてーっす!」
「やっぱあんたの案、駄目じゃん」
「まぁまぁ、こう言う時こそ落ち着かないとね」
 と言う事で斎宮に入って暫くの一行‥‥太が先頭に立っては進んでいたが今は皆、蒼褪めた表情で壁から突如突き出した竹槍をそれぞれ、寸での所で回避しては壁から生えたそれが引っ込むまで異様なポーズを取り続ける羽目となる中、器用にも前にいる太を小突いてクリムゾンは不平を漏らすが、巻き込まれているにも拘らずハンナが呑気に宥めると彼女は鼻息荒く溜息をつく。
『罠なんて踏んで潰せばいいっすよ』
 最初こそ太が言った通りに行動し、降って来た雑巾やら軽く沈んでは転倒させるだけの床に仕掛けられた罠をこまめに潰し進んでみるも、今ではこの有様で‥‥クリムゾンが憤慨するのも当然、と言うかむしろ最初に気付いて欲しかったりするのだが今ではそれも遅く彼女。
「はぁ、はぁ‥‥この調子じゃあたいら最後まで持たねぇっつーの! 最初こそ罠の程度が軽かったから良かったけど、此処からはまめに潰していくよ!」
「はいーっす‥‥」
「んじゃま、この竹槍の壁から解除していきますか‥‥っと」
 漸くして竹槍の拘束から解放されれば、荒く息を吐いては叫ぶと肩を落として落胆する太が不服そうな表情を湛えるも手を掲げ応じると、彼女に賛同してはやっと出番が来たとライルが指を鳴らしては壁を弄って、先の罠へ挑みかかった。

 さりとてそれより一行、クリムゾンの提案に従い今まで動けば漸くその最奥まで至り一息を付いていた。
「うん、やっぱり全然駄目だね」
「一朝一夕で知識のない方に解除されてしまったら、私達は明日からの食事に苦労してしまいます‥‥」
 とは言え今一行がいる、斎王が座するだろう広い部屋には罠がこれでもかと言う程にあり、掃除をしつつも心得がないハンナは、自身でも見付けられる罠を見付けては解除を試みるも‥‥トラバサミに足が挟まれている割、笑顔で肩を竦める彼女は佐祐李に罠の解除をお願いしていたりと非常にのんびりしたムード。
「なぁ佐祐李さん、この罠の構造ってどうなってんだ?」
「これは‥‥随分と凝っていますね。下手に弄ると別の罠が起動しますので、丁寧にこの綱を切らないと‥‥」
「はぁ〜、なるほどねぇ」
 それもその筈、最奥へ至る道中に大柄な忍が見せた様々な罠の解除の手際が良さに感心したクリムゾンとライルが広き部屋では彼女の代わり、殆どの罠を解除し終えていたからである。
 因みに二人の手に負えない、僅かに残された罠だけは佐祐李の手解きと共に解除されれば、罠が完全に除去されるのも時間の問題だった。
「漸く罠も残りは少しの様ですね、これで落ち着いて掃除も出来ます」
 そんな落ち着いた光景の中、道中の罠にて纏う巫女装束の所々を薄汚れさせてしまった御門は今の状況を察して、やっと安堵を覚えればその広き部屋を掃除していたのだったが‥‥。
「あ、御門さん。そちらは‥‥」
「え‥‥‥? っあぁーーーーーーー‥‥‥」
「こんな所にもまだ罠が‥‥御門ぉっ!」
「ラ、ライルさんも待って‥‥そこはっ!」
 先の罠を解除し終えて振り返った佐祐李が彼のいる場所を見るや、急に呼び止めるも‥‥それより早く眼前の壁に手を添え、曲がった掛け軸を正しく直せば直後に回る壁に飲み込まれて姿を消した御門が残す残響を耳にして一行の中、ライルが早く飛び出せば彼が消えた壁へ佐祐李の静止も聞かず、飛び込んではやはり姿を消すと
「佐祐李‥‥どうしたっ! この先に何があるのか知っているのか?! それとも‥‥」
 先の口振りから何かを知っていると踏んだクリムゾンが彼女へ詰め寄り、掴み掛からんばかりの勢いで詰め寄るが
「非常時の為にわざと残しておいた脱出路代わりの仕掛けなので、とお二人へ言おうとしたのですが‥‥遅かった様ですね」
『は、ぁ』
「‥‥頼むから、今度からそう言うのがあるなら先に言ってくれよ」
 彼女の勢いに動じる事無く、至ってのんびりした声音で真相を明かせば場に残された面子が脱力する中で佐祐李からさっきまで手解きを受けていた女戦士は大仰に頭を垂らし、師匠の両肩へ大きな掌を置いて、口を開いてはそれだけ願い出た。

●芸術は爆発だ!
「‥‥何か、いまいちだよな」
 そして一通り、何とか罠を解除し終えただろう一行は次いで斎宮を改めて見回れば豪華絢爛な屋内の装飾を剥がしに掛かるその中、先の広い部屋に一人で残りては首を傾げるライル。
 それもその筈、今彼が彫っているのは最初に拵え今既にこの部屋へ取り付けた流雲や太陽等ではなくジャパンにおける四神のレリーフであり、初めて彫るだろうそれに苦戦していたが為だった。
「どうも‥‥斎宮に相応しい物が彫れないよなぁ、どうしたもんだろう」
 斎宮へ来た翌日の早朝より内部を見て回った彼、斎宮の豪快ながらも緻密に計算されて作られた構造を目の辺りにしていたからこそ、妥協した物を作りたくないと言う想いに駆られ髪を掻き毟るのだが
「ライルさん自身が思ったものをそのままに作ればいいんではないでしょうか? 確かに周りも気にすべきでしょうけど‥‥それだけでは決して良い物は出来ないと思います」
「あぁ‥‥言われてみれば確かにそうだな、いよっし! それなら‥‥こうだぁっ!」
 何時戻って来たのか、佐祐李が彼の背後より紡いだ優しい言葉に宥められると彼は暫く目を見開いた後‥‥彼女が微笑み見守る中でライルは一心不乱にマイスターグレイバーを振るうのだった。

「よっし、これでばっちりっすよ!」
 真面目に装飾の作成に取り組むライルの傍ら、斎宮の通路にて一人で壁に向かっては密かに何事かしていたのは太。
『オヤビンサイコー! フトシサンジョー!』
「オヤビン、涅槃でも安心して下さいっす。太は今日も‥‥強く生きているっす!」
 鬼神ノ小柄を逆手に持ち、斎宮の壁へ自身会心の出来と頷いては天上ならぬ天井を仰ぎ見て『オヤビン』の笑顔を思い出し、両の手を合わせる彼だったが
「へぇ‥‥じゃあ貴方も、一緒に涅槃へ行ってみないかい? きっとオヤビンが待っているよ?」
「は‥‥ひ、っす?」
 背後から響いて来た声と、辺りに突如渦巻く殺気を感じれば太は恐ろしくゆったりしたスピードで振り返ると、正しく鬼の形相浮かべる珠と目が合って彼女が拳を鳴らしては紡ぐ問いへ彼‥‥答えに詰まるも、捻り出された答えを肯定と受け取った巫女は次いで凄惨な笑みを浮かべると
「い、いや‥‥いや‥‥いやっすー!」
「往生せいやー!」
 その表情から次に起こるだろう事態を察して後ずさる太だったが、離れた距離はその分だけ珠に詰められるると‥‥喉元で笑いを噛み殺して彼に迫れば、一気にその懐へ飛び込んで‥‥軽く、窓べりに背を付ける太の胸元を小突くのだった。
「へ?」
 直後、響く間抜けな声に続いて太は視界に急に動き出した事から宙へ放り出された事を遅れて察するが‥‥後はもう、絶叫だけ放つ他に彼が出来る事はなかった。

●燻る爪痕
 一方、斎宮内部でそんな大惨事が起きているとは露にも思わないチョコとハンナは揃い、屋外へ出ては二人で殺風景な風景を眺めていた。
「どうかな?」
「いいかもね」
 がその二人、斎宮の門前に置かれた鳥居を眺めては、一行が来た時よりあった看板の隣へ新たな看板をぶら下げ、更に周辺へチョコが作った小さな木彫りの埴輪が慄然と並ばせては作った光景に良い出来だと感心していた。
「よっし、じゃあ次は‥‥ハンナ?」
「つっくりたい物があるんだー、こっちこっち」
「竹‥‥一体何を作るんだろう?」
 そして賛同してくれたハンナを再びチョコが見やるとその彼女、綺麗な鼻歌を奏でながら足元に置いてあった物を抱え、駆け出せばその時になって初めて気付いた、彼女が抱える幾本もの竹に首を傾げながらもチョコは先を進む赤毛の騎士を追いかけるべく、慌てて駆け出すが‥‥彼女らが去って後、先に起こる不幸を告げてか掲げたばかりの看板は乾いた音を立てては傾いだ事に二人はまだ気付かなかった。

 かぽーん
「おっし、出来たぞー!」
「これって何て言うんだっけ?」
「ししおどし、ですね‥‥とても良い出来だと思います」
 と言う事でそれから暫く。
 先の罠に懲りてか、屋外へ出ては新たに庭を拵えたり草木の手入れをしていた御門の手伝いをしつつ、彼が作る庭の片隅にあった池を弄り作った竹細工の出来栄えにハンナが胸を反らして言えばチョコが首を傾げた造形物の名を御門が告げた‥‥その直後だった。
「そそそ、空が青いっすよーーー!」
 三人の真正面へ太が落下してきては丹精込めて拵えたばかりのししおどしを粉砕し、池と地面の境目に突き刺さったのは。
『‥‥? あ゛ー!!!』
 突然の出来事にそれを作った二人は暫し呆然としていたが、それも僅か‥‥次いで目の前の事態に気付けば御門が唖然と佇む中でチョコとハンナが同時に叫ぶと事もあろうか首から下が酷く痙攣している太へ蹴りを入れるのだった、まるで止めを刺さんばかりの勢いで。
「鬼だ」
 その光景を見て、誰が言ったか分からないが‥‥全く持ってその通りだと、斎宮内部より一連の騒動を見守っていた一同は計ったかの様に一斉に呟いては頷くのだった。

●変わり果てたか、斎宮
「おっし、これでオッケー。うん、良く頑張ったぞあたし」
「ま、何とかなるもんだねぇ‥‥疲れたけど」
「あぁ、疲れたな。でも‥‥どうなんだ、実際の所?」
 最終日の日暮れ時、斎宮の敷地が片隅に御門の手によって造られた庭において、佐祐李が珠より振舞われた赤福と抹茶に舌鼓を打つ中、その場より見える斎宮へ手を翳しては眺めるハンナが自信に溢れた笑顔で言えばクリムゾンは赤毛の騎士へ同意しつつも肩を竦めるとライル、抹茶を啜っては口内に広がる苦味と共に珠へ今一つ沸かない実感から疑問を吐き出すと
「まぁそうね、与えられた期間を考えれば‥‥十分にいい働き、したと思うわよ。唯一つを除いてはね」
「自分の事っすか‥‥」
 問われた彼女は大仰に考え込む振りをしつつ、やがてその答えを口にすれば臨死体験を味わった太がまだ癒えぬ傷に顔を顰めながらうな垂れると、残る皆の笑い声だけが場に響く。
「皆で力を合わせた作った装飾、気に入ってくれます様に‥‥」
 そんな皆の満足げな表情を見てチョコは一人、一行の手で(外見からは分からないが)生まれ変わった斎宮を見て、そう願わずにいられなかった‥‥夕日が沈む中で。

 〜終幕〜

●コミックリプレイ

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