再動 〜いきなり宴会?〜

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:14人

サポート参加人数:8人

冒険期間:07月30日〜08月04日

リプレイ公開日:2006年08月06日

●オープニング

●京都
「相変わらず今日も動きはなし‥‥この調子じゃ、調査も何もあったもんじゃない」
 とある卸問屋を影から見守る者一人、いや二人か。
 今日もまた静かなままである家屋を欠伸を噛み殺しつつ、十河小次郎はぼやくが
「しかしアリア、お前まで着いて来る事は」
「またですか? 何度も言いますが、ここに父様がいるんでしょう‥‥それなら私も」
「まぁそうだが、なぁ」
 振り返る事無く背後にいるもう一人、アリア・レスクードへ声を掛け‥‥もう何度目か、無理を言っては着いて来た妹にやはり何度か掛けた同じ台詞を言うも、変わらず頑なな彼女の態度へ小次郎は何時もの様に肩を竦める。
(「正直、伊勢神宮から聞いた話では‥‥」)
「どうかしましたか、小次郎兄様」
「いや、此処まで来た以上はしょうがないな、と。但し、自分の身は自分で守れよ。それが出来なければ伊勢へ行って貰うからな」
 だが内心、未だ彼女に話していない『事の真相』を思い出せば‥‥それが表情に出ていたのか、アリアに気付かれ尋ねられるが珍しく動じずに彼女へ厳しい声音でそれだけ告げる。
「分かって、います‥‥」
「しかし‥‥どうしたものかなぁ」
「そうですね」
 そして次にうな垂れる彼女の様子を見れば小次郎、話を変えて視線を再び卸問屋へ戻しぼやくとアリアも気を取り直してか、頷いた直後だった。
「‥‥ん、あれは」
 小次郎の視界の一端に見覚えのある、だが少なくとも今、京都にいる筈のない人物が大きな酒場へ入って行く光景を見止め、首を傾げた。

●伊勢
 小次郎達がとある人物を見掛けた時より数日前、伊勢。
「随分と様変わりをしたものだな。伊勢も、此処も」
「あの乱から二ヶ月もあれば、十分予想出来る範囲だ。伊勢巡察隊の設立も、伊雑宮の一件も‥‥エドの事もな」
 大事が起こった伊雑宮へ急遽派遣される事となった神野珠の家の留守を勤める、和装に衣替えしたアシュド・フォレクシーが僅かに伸びた髪を鬱陶しげに払いながら忙しいだろう彼女とは裏腹、今日も縁側にて降り注ぐ陽光に身を委ね今更の様にぼやけば、相変わらず落ち着いた声音にて彼へ返すレリア・ハイダルゼム。
「でも、いいのですか? エドさんが‥‥」
「可愛い子には旅をさせろ、とジャパンでは言うのだったな。必要以上に甘やかす必要はない、むしろ良い機会だ」
「そんな事を言って実は幼児虐待‥‥」
 未だ慣れない着物に苦戦しながら漸く彼女が縁側へ座れば、二人の前にある庭を掃く楯上優がレリアの言葉が端に出て来た人物に付いて尋ねるも、彼女は別段気にした風も見せず微かに微笑めば次いで横合いから突っ込んでくるヴィー・クレイセアへは何時抜いたのか、得物の大剣を彼の鼻先へと突きつけ一つ問う。
「一度、冥府に行ってみるか?」
「滅相もありません、はい」
「しかしこれから、どうしたものかな。此処まできた以上、手を引く事は出来ないが伊勢もまた動きがない以上は」
 そして鼻白む彼を傍目に、アシュドのぼやきを耳にしてレリアは彼を見れば‥‥紡いだ言葉の割に瞳へ宿していた光が英国にいた頃のそれに戻っている事にやはり今更、気付く。
「もしお暇でしたら、どなたか修行に付き合って貰えませんか?」
「また急な話だな」
「えぇ、やらなければならない事が出来ましたので」
 そんな折、不意に口を開いたのは優。
 唐突な申し出にレリアはヴィーに突き付けていた大剣の手入れを始めながら尋ねると、巫女は話の核心を濁しつつ答えたが
「付き合いたいのは山々だが、さて‥‥」
 剣士が再度、優へ問うより早くアシュドが立ち上がれば彼の視界に映る一羽の鳩の、その足に結わえられている文を確認して目を細めつつ降り立とうとする鳩へ手を伸ばした。

●神宮
「状況は?」
「伊雑宮以外は未だ、静かなものです」
「そうか、するとまずは伊雑宮か‥‥件の下手人は? それと『あれ』を携えているだろう勇の所在は判明したか?」
「いえ、どちらも‥‥珠に調査の旨は指示しておりますが、今は伊雑宮の防衛だけで手一杯でして」
「斎王様への報告は済ませておろうな?」
「はい、欠かさず」
「‥‥一先ず斎王様のご指示を仰ぐ事にする。警戒すべき情報のやり取りは常に密に、厳重に行なう様頼む」

●斎宮
「どうやら余裕はそう、なさそうですね」
「はい、要石と天岩戸の状態は芳しくありません。もう暫くすれば自然と綻びが」
「手を打たねばなりませんか、どうやら伊勢神宮‥‥内宮の深奥へ赴く必要がありそうですね」
「やはり、内宮にある『あれ』を‥‥」
「もう一つの『あれ』が私達の手を離れている以上、用いない事には状況を変え得る事は出来ません‥‥先日任せた、使い手の選定は?」
「必要な手配は済ませておりますが‥‥」
「ならば少し、待ちましょう。時間がないとは言え、今はまだ慌てるべき時ではありません」

 そんなやり取りが交わされた翌日の斎宮にて、斎王の側近は久々に頭を抱えていた。
「‥‥あの人は久々に!」
 その彼女の前には何時もいる斎王の代わりに埴輪と、それを文鎮代わりにしてか置かれている文が一通。
 どうやら何事を思ってか、京都へ独断単独で赴いたらしい斎王へ歯噛みすれば憎々しげに以前、改築の際に拵えられたと言う非常脱出口を睨むも
「しょうがありません、京都へ向かいましょう。留守は任せますよ‥‥はぁ」
 嘆息を漏らせば彼女、踵を返して広大な斎王の間を後にするのだった。

●そして、再び京都
「さ‥‥!」
「しー! お忍びで来ているんだから、その名前で呼ぶのはやめて」
 京都、冒険者ギルドにて伊勢方面の依頼を統括するギルド員が入って来た女性の素性に気付き、声高に叫びそうになるが‥‥その彼女、祥子内親王がその口を塞ぐと
「しかし京都まで、一体何用で」
「いやね、伊勢の騒動から暫く経ったけど皆への労いがまだだったから今更だけど酒宴でも催そうかと思って」
「あぁ‥‥なるほど、って斎宮を抜けて来て良いのですか」
「今に始まった事じゃないから、気にしないで」
「‥‥‥」
 彼女へ頷いてギルド員、解放されると当然ながら思い浮かぶ問いを口にすれば思いもかけない斎王の話に納得しかけるも、次いで目を白黒させ続く質問にもあっけらかんと答える斎王へ、唖然として沈黙を紡ぐが
「誰でも良いんですか?」
「そうね、労いの酒宴とは言えこれからまた慌しくなるから‥‥興味のある人なら誰でも構わないわ。私としても、伊勢を抜きにして色々な人と話したいしね。ま、そう言う事で人集め宜しく」
 止むを得ず詳細を聞きつつ書き留めれば、彼が尋ねる再三の質問へ忙しなく辺りを伺う斎王は手だけ掲げ、身を翻してそれだけ言うとどうにも腑に落ちないギルド員を尻目に颯爽とその場を後にした。

――――――――――――――――――――
 依頼目的:酒宴!(ぇー

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 NPC:祥子内親王他NPC多数(除くエド、北畠、矛村)
 日数内訳:五日連続宴会
――――――――――――――――――――

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0340 ルーティ・フィルファニア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea0364 セリア・アストライア(25歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0606 ハンナ・プラトー(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea4460 ロア・パープルストーム(29歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea5001 ルクス・シュラウヴェル(31歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea5062 神楽 聖歌(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ea8214 潤 美夏(23歳・♀・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 eb0990 イシュメイル・レクベル(22歳・♂・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 eb1793 和久寺 圭介(31歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

滋藤 柾鷹(ea0858)/ アルシャ・ルル(ea1812)/ ティール・ウッド(ea7415)/ レベッカ・オルガノン(eb0451)/ 鷺宮 夕妃(eb3297)/ 寒桜 美咲(eb5541)/ アルマ・フォルトゥーナ(eb5667)/ マイア・イヴレフ(eb5808

●リプレイ本文

●再開、若しくは再会
「おぉ、宴会が依頼と。騒ぐのがお仕事っと‥‥イヤッホー、まっかせなさい!」
 酒場の扉をドーン、と勢いよく開け放ってはハンナ・プラトー(ea0606)の通る声が室内に響き渡ると先んじて待っていたのだろう、伊勢の藩主と伊勢神宮に仕える面々‥‥とは言っても三人だが、が振り返り一行へ視線を向ける。
「‥‥えーと、よく知らないけど、何度か向かった伊勢のお偉いさんも来ているのね」
 その三人の視線を浴びながら、一行が続々と酒場内へと入っていくその中で一人入口に佇むステラ・デュナミス(eb2099)は少ない顔見知りである藤堂守也と視線を合わせ一礼すれば、その傍らにいる斎王だろう人物へと次に視線を配す。
「あ、あんまり見ないで下さいね‥‥ジャパンの装い、慣れなくて恥ずかしいのです‥‥」
「いやいや、初々しくて良いじゃない」
 その斎王の元、近付いては恭しく頭を垂れてセリア・アストライア(ea0364)は普段の騎士らしい装いとは違う、紫陽花があしらわれた浴衣にワンポイントで獣の耳のヘアバンドを身に着けている為か、照れ臭げに声音を絞っては言うも静かに‥‥隠し切れない気品だけは表情に出して斎王、祥子内親王は微笑んでいた。
「それにしても斎お‥‥もとい、祥子さんにはもう少し自分のお立場を‥‥」
「いきなり固い事言わないでよね〜。分かっているわよ、ばれない程度にするから‥‥今だけは、ね」
「大丈夫でしょうか」
 だが、次には夏真っ盛りであるにも拘らず黒き装いに身を包むフィーナ・ウィンスレット(ea5556)に窘められれば途端、表情をコロコロ変える祥子内親王の、斎王らしからぬ軽い発言へフィーナがこめかみを抑える光景を見て、ステラは苦笑を浮かべる。
「後、何度か見た顔もいる様な‥‥」
 しかし一行以外にも客人は多く来る様で、再び酒場の扉が音を立てては開くと振り返ったステラの視界に、やはり僅かだが見知った顔が現れる。
「や、久し振り‥‥」
「久しいな」
「右腕はすっかり、大丈夫そうね」
「準備はオッケー? 大人しく殴られるか否か、決めてね」
 その人物、アシュド・フォレクシーらイギリスより渡ってきた面々が一行より遅れて顔を出せば、だがすぐにガイエル・サンドゥーラ(ea8088)とロア・パープルストーム(ea4460)に囲まれ、更に彼女らの背後からハンナが微笑みながら拳を打ち合わせて出て来ると一人だけ外の方へ後ずさるが
「小次郎センセー! えと、あとアリアさんも」
「おう、イシュメイル。先生はもうやめろよなー! しかし久し振りだな‥‥それと」
 彼らより少し離れた所では志士らしい装いに身を包んだ男性へ飛びついてイシュメイル・レクベル(eb0990)は彼、十河小次郎に頭を小突かれつつアリア・レスクードへも挨拶を交わすも、彼女は手こそ振り返してくれるが
「変わらずに麗しい姿で安心したよ、アリア」
「あ‥‥圭介さんこそ、お元気そうで何よりでした」
 和久寺圭介(eb1793)に声を掛けられれば、頬を染めながら久々の再会に彼へ笑顔を浮かべる。
 すると途端、変わらずイシュメイルを小突きながら敵意を剥き出しにする小次郎ではあったが
「何か私の顔に付いているのかな、小次郎?」
「‥‥いや、何も」
「うわぁぁぁん、もう止めてよ小次郎先生ー! 虐めだー!」
「うぁ、先生はやめろ‥‥じゃなくてすまん、落ち着け」
 その気配を察して圭介は振り返らず、声の主へ問うと本人は憮然とした面持ちで言葉少なくそれだけ返す。
 だがいい迷惑を被ったのはイシュメイルで、とばっちりを受けて遂に泣き出すと彼を小突いていた手を漸く止めては宥める小次郎を見て圭介は微笑む。
「アリンコさーん、お久し振りですー。これあげますよ、貰って下さいねー!」
「うわ、ちょっとま‥‥ごぶるぁ!」
 そんな、何処か修羅場チックな気がしなくもない二人の脇では夏にも拘らず騎士然とした、何とも暑苦しい格好のヴィー・クレイセアがルーティ・フィルファニア(ea0340)の放った金色の大鎧が直撃を受けて早々に悶絶していたりと、早くも場は騒然。
「皆、テンション高い‥‥じゃなくて、そう言えば勇さんがいないわね」
 そんな賑々しい場を一通り見回しステラは気後れしつつも少ない顔見知りの人物を探すが、その彼はおらず。
「ちょっと! 勇が居ないわ!! 今日こそお父様を紹介して貰おうと思っていたのに‥‥私の精霊碑文学っ!」
「ロアさん、落ち着いて下さい」
「もしかして、伊雑宮で何かあったの?」
「えぇ‥‥でも、詳しい話は後で」
「? まぁ、いいけど」
 も自身の代わり、ロアが早く座敷に座っていた楯上優へと詰め寄り尋ねていたが‥‥大人しげな巫女は何処か浮かない面立ちで彼女を何とか宥める。
「うーん‥‥労いの場を用意される程に働いていない気もするけれど、まぁお誘いを断るのも失礼、って事で」
「そうだな。ま、どんな思惑にせよ今回はゆっくりと楽しませて貰いますか。綺麗な女性も多いしな」
 その対応に自身も携わった伊雑宮に何かあったのだろうと訝しりながら、それは一先ず今回の依頼の本質から僅かに逸れているだろうと思いステラが割り切ると、同意してマナウス・ドラッケン(ea0021)が背後より明るい声を発するが
「そうですね。ですがある意味、体力の限界にも挑戦ですね」
「‥‥ま、何とかなるだろう」
 のんびりした声音にて神楽聖歌(ea5062)が紡いだ言葉の割、微笑めば‥‥次に漸くその事へ思い至ったのか、マナウスが半ば呻く様に未だ騒然としている場を見て呟くのだった。

 ‥‥さてはて、これからどうなる事やら。

●飲めや歌えや
 それより暫し、漸く落ち着きを取り戻した一行ら。
『酒場・宿・一般に迷惑が掛かりそうになったら生存者で止めるべし!』
「酒宴を初めるに至ってー、これだけは皆肝に銘じて置く様にー!」
『はーい』
 その酒場の只中、何処にいても目の付きそうな太い柱へ一枚の和紙を貼り付けては声高らかに皆へ呼びかけたのは天城月夜(ea0321)、とりあえず今の所は彼女が現場を取り仕切っている様な感じである。
 無論、未だ酒宴は始まっていない為に皆の返事は気持ちよく重なり響くと月夜は満足げに頷けば、次の段階へと進むべく祥子の元へと歩み寄る。
「ところで、あちらの方って何処がどの様になって、どう偉いのですかしら?」
「ふむ、そうだな‥‥」
 すると志士が向かう方にいる斎王を見て、潤美夏(ea8214)はたまたま自身の傍にいたガイエルへと問えば二人、話す事暫し。
「‥‥とりあえず料理の方、色々と作ってきましたわ。そこの真っ黒で非常に暑そうな格好のお方も如何で?」
 懇切丁寧ながらも彼女の説明が余りにも難解でやがて根負けした美夏、感覚でだけ斎王が偉い人だと実感すれば一先ず自身が拵えてきた料理をそれぞれ、人が座る卓へと置いて回り‥‥何故かフィーナへは特別な言い回しを持って一つの重箱を彼女の前へと置く。
「‥‥私、ですか?」
「えぇ、他にどなたが喪服の様な格好をしておりますか?」
『‥‥‥』
 するとフィーナ、首を傾げ尋ねると‥‥即答する小さな料理人へ決して描写出来ない微笑を湛え見つめれば、負けじと美夏も微笑み返すが
「ふむ、そう言えば私も拙い物ではあるが幾つか料理を持って来た。冷めぬ内に皆で頂こう」
「そうだな、ではさ‥‥祥子様」
「はいはい、ではでは乾杯と行きましょうか」
 剣呑とした雰囲気ではないながらも場に走る緊張感を意ともせずルクス・シュラウヴェル(ea5001)が声を掛け、やはり重箱を置きに回り美香を宥める様に彼女の頭を一度撫でては月夜へ視線を配すと頷いて彼女、斎王を促し立ち上がらせる。
「まー、堅苦しい事は抜きにして無礼講でやっちゃって頂戴。と言う事で、これからも力を借りる時があるかも知れないけど、その時はまたよろしくってのも含めて‥‥一先ず今までお疲れ様ー!」
 そして簡潔に響く挨拶に次いで祥子、皆の杯に酒が盛られた事を確認してから高らかに自身が持つ杯を掲げれば、皆もそれに倣い杯を掲げ宴はその幕を開いた。
 因みに直後、一部から悶絶の悲鳴が上がったのは言うまでもない。
「あぁ、言い忘れていましたわ。料理の中に少しだけ暑さを忘れる様、辛子を入れたりしていますので」
 それより遅れ、今更に付け加える美夏の笑顔を見て場にいる皆はこれから起こる事を何となく察した。

●初日
「えっと‥‥うん、すみません。皆さんみたいに気の利いた言葉が出ればいいんですけど」
「ん?」
 と言う事で始まる宴、それぞれが談笑を交わす中で自身の頭を拳で小突きながらもどかしげにアシュドを見つめ呟くルーティに彼は首を傾げるが
「ジャパンで再会した時、本っっ当にどうしようって、そればかりだったんですけど‥‥何も出来なくて」
「あぁ、ルーティが気にする必要はないさ」
「今はどうですか?」
「‥‥どう、と聞かれてもな。ただ皆には迷惑を掛けたと思っている」
「ふむ、自覚はしているのだな」
 その理由を聞いて納得すれば微苦笑を湛え言うと、続く彼女の問いには逆に詫びるが何時来たのかガイエルが不敵に微笑むと、痛い所を突かれたアシュドは顔こそ顰めるも
「まぁ、深くは追求すまい。場が場だしな」
「そうですね」
「ねぇアシュド、その事は水に流すから一つお願いがあるの。一生に何度かあるお願い‥‥いい? いいって言って、と言うか言ってくれなきゃ嫌」
 彼女が徳利を差し出させばルーティが頷く中でその酌に漸く笑顔で応じ‥‥それと同時、彼らの傍らで気だるげに佇むロアに呼び掛けられれば、暫しの間を置いてアシュドは訝しりながらも頷いた。

「もう、ジャパンの夏ったら暑くて挫けそう。ツユも辛かったわ」
「だからと言って何故私が‥‥」
 それから暫く‥‥土間に場を移してロアとアシュド、土間のど真ん中に突き刺した竹の棒を対象に彼が構築した氷柱にて彼女が涼み、愚痴を聞かされる中で疑問符を浮かべるアシュドが視線を辺りへ巡らせれば、黙々と酒を酌み交わしている者達に目が行く。
 その者達とはルクスとレリアなのだが、どうやらこの場にはいない者に付いて話している様子。
「エドに付いて、その後は‥‥」
「江戸に行った、探し物をして来ると」
「それは先日の事からだろうか」
「あらかたの話は聞いた限り、恐らくはそうだろうな」
 上品な面立ちに浮かぶ眉根を顰め、心配げに彼の事を尋ねるルクスとは裏腹に剣士の表情は普段と変わらず落ち着いたもの。
「‥‥羨ましいな、その絆」
「そうでもない、それに私だって心配はしているさ。身の上が重なるからな‥‥済まん、この場で話すべき事ではないな。忘れてくれ」
 その表情を見てルクスは微笑を浮かべるが、首を振るレリアは寂しげな表情を湛え呟くも言葉の途中、それを遮り詫びれば再び静かに語り出す二人。
「あ。そう言えば、お父さん探しに何か進展はあった?」
「ま、あったにはあったかな」
 と静かな彼女らの話を傍らで聞いていたイシュメイル、ふと小次郎らに聞きたかった話を思い出し問えば、答えの割に複雑な表情を浮かべる元先生は次いで手に持つ杯に満たされていた酒を煽る。
「どうにも良くない場所にいるらしい、黒門絶衣とか言う卸問屋を営んでいる奴のな」
「そう‥‥なんだ」
「何か訳あってのものと思いたいが」
 その空いた杯に再び酒を満たすイシュメイルへ、続き小次郎が言葉を紡げば聞いた時のない名前に首を傾げながらも小さな冒険者は苦々しい表情を浮かべる彼に釣られ、落ち込むが
「先生なら大丈夫だよ、アリアさんとも仲直り出来たんだからねっ」
「‥‥だからー、先生って言うなよ!」
 すぐに笑顔を宿し励ませば、相変わらずのボケへ突っ込んで小次郎はイシュメイルを吹き飛ばすのだった‥‥一部の者がヴィーを女装で弄り倒し、盛り上がっている場へと。

「‥‥はぁ、やっと見付け‥‥」
 談笑続く酒場の外、息を荒げて壁に手をつく者が一人‥‥微かに聞こえた『主』の声に安堵するも、それは直後に硬直し一足にて素早くその場より離れる。
「流石、と言う所かな?」
「貴様‥‥」
「貴方にはその様な、険ある表情を浮かべて貰いたくないな。さて‥‥何者だろうか?」
 すると先にいた場所より響く男性の声に彼女、斎王の側近はマナウスを睨み据えるも彼は変わらない口調にて彼女を問い質せば、話す事暫し。
「それならば話は早い。こちらの申し出は至極簡単な、唯一つの事だけ。少なくともこの五日間は誰にも危害や邪魔は加えさせない、それだけだよ」
「‥‥むぅ、止むを得まい。約束しよう」
 側近の素性に安堵して顔を綻ばせるマナウスは彼女へ一つ、提案すると渋面を浮かべる彼女だったが
「それなら交渉は成立、と言う事で貴方も一緒にどうだろうか?」
「遠慮する、私は私で斎王様をお守りする」
「‥‥やれやれ」
 続く彼の提案はぞんざいな答えだけ返すと身を翻してその場を後にすればマナウスは彼女を見送りつつ苦笑を湛え、己が頭を掻くのだった。

●二日目
 お世辞にも十分な休息を取っていない一行は翌日、日も明るい内から酒場の厨房にてフィーナの『お手軽簡単、誰でも出来る錬金術講座』を受けていた。
 確かに手順は簡単、入手してきたミョウバンを鉄鍋にて強烈に熱すれば立ち上る怪しげな気体が沸いた所で錫を入れ、後は更に只管熱していた。
「お分かりだと思いますが、この実験で出来る金は『金に見える』だけであって決して金ではありません。皆さん、詐欺には気をつけましょうね?」
『‥‥はーい』
 そして出来た黄金色の物体を皆に見せつけ微笑めば、ワンテンポ遅れて生返事を返す一行‥‥まだちょっと眠いその様子に錬金術師は苦笑する。
 因みに協力者はロア、炎担当。ガンガンに火を焚いています、今日も氷漬けな竹の棒の傍らで。
 非常時に備え、消火担当であるガイエルも忘れちゃいけない。
「あれ、そう言えばアリアさんは?」
「む‥‥いかん!」
 そんな話が一段落した時、見知った二人がいない事に気付いてイシュメイルが小次郎へ問えば、感心していた彼は途端に目付きを変え立ち上がるも
「はいそこ、お話はまだ終わっていません。むしろこれから‥‥静かに聞いて下さいね」
「それ所では‥‥っ」
 まだやる気満々なフィーナにねめつけられるが、負けじと食い下がる彼は踵を返そうとして一瞬だけ、彼女の表情を見てしまった。
「それ所では、何でしょう?」
 肩を震わせて、影を宿しては薄く微笑む彼女の表情を‥‥それを見てしまっては小次郎、その場から動く事は叶わなかった。

 と小次郎がフィーナに足止めを喰らっている頃。
 酒場より少々離れた場にて、圭介が自身見知る白き花畑を巻物広げて呪文を構築してはアリアへとそのイメージを送っていた。
「わぁ‥‥」
「一番似合う君に、幻想ではあるがこの風景を見せたかったんだ」
「‥‥皎潔と言うのかな、穢れの知らない白ほど美しいものはないだろう」
「そうですね‥‥っ」
 そのイメージを受け止めて彼女が感嘆の声を上げれば、その背後にて顔を綻ばせ言葉を紡ぐ圭介だったが‥‥頷くアリアのその背を不意に抱き締める。
「圭介‥‥さん?」
「‥‥何故だか君といると胸の奥がくすぐったく感じる」
 唐突な彼の行動にアリアは戸惑いこそ覚えるが、拒まずに抱き止められたまま何とか圭介へ顔だけ向けると僅かな間を置いて圭介は彼女へ自身の本心を囁き
「情熱など不要だと思っていたのに、今では奇跡にも似たこの感情をこの身に受けたいと感じている‥‥私らしくないとは思うがね」
 尚も続けて圭介は言葉を紡げば、頬を赤らめて俯くアリアの様子を見て彼は漸くその身を離す。
「いきなり、済まなかったね」
「いえ‥‥その‥‥」
「でも今言った事は素直な私の‥‥真実の気持ちだよ」
 そして圭介は自身、照れ臭さを覚える自身に自嘲しながらもアリアへ苦笑を浮かべて詫びるが首を左右に振る彼女へ改めて、本心である事を告げれば彼女は顔を俯けたままではあったがアリアは小さな声で‥‥しかしはっきりと一言だけ、圭介へ言うのだった。
「嬉しい、です」

「お名前は?」
「ハンナ・プラトーだよ」
「あぁ、プラトーさんですか。あの節は此方こそお世話になりました」
「いいえー、こちらこそっ!」
「そう言えば祥子様は牛乳を飲まれていますか?」
「牛乳、ですか?」
 さりとて酒場内では祥子の元でも話はやはり盛り上がっていた。
「それで、伊雑宮で何があったの? 珠もいないみたいだし、もしかして‥‥」
「‥‥実は、また何度か襲撃に遭って」
 だが何気ない話のその傍ら、優へ再び問うていたロアは彼女が紡いだ次の句に絶句する。
「勇さんのお父上が‥‥殺害されました」
「‥‥何とも重い話ね、それで犯人は? それと勇さんは今、どうしているの?」
「それが‥‥私達には分からないのです」
「姿を眩まして、且つ犯人がいるのなら彼しかいないと言う事ね」
 唐突なその話にステラは沈痛な面持ちを湛えながら、またいずれ拘るかも知れない事から状況を聞けば、歯切れの悪い答えだけ返す巫女。
 尤もその表情を見る限り嘘はついていない事と察し、それ以上の詮索は止めると
「でもどうして、一体何が目的で。それに他のお寺とかは大丈夫なの?」
「それは‥‥」
 ステラの問いより幅を広げて伊勢の状況を案じてロアは優を見つめるが、彼女は祥子へ視線を走らせて言い淀む。
 その答えを紡いでいいのか、判断を仰ぐかの様に。
「まだ秘密、かな。近々手を打たなきゃならないけど」
『‥‥‥』
「ごめんね」
 するとそれに気付いた祥子は自身を囲む皆より一時視線を逸らし言えば、水を打った様に静まる場へ一言だけ詫びる。
「そう言えば、伊勢の街は大丈夫なんですか?」
 すると不意に、今日も月夜と一緒になってヴィーを弄り倒しているルーティが伊勢藩主を見つめ問う‥‥も傍らに血染めのハリセンが突き刺さり倒れている馬鹿騎士の事はどうでもいいのだろうか?
「そうだな、幸いにも今の所は何もない。町民主体で活動している巡察隊も何とか軌道に乗ってきた所だ、とは言え」
「予断は許さない状況の様ですね。神宮の近隣は今までの話を聞く限り、あれからも余り変わらない様ですし」
 しかし守也はその事に気付かず、彼女に視線を合わせてからすぐに天井を見上げ答えると一先ずの状況を簡単に把握したステラは難しい表情を浮かべるが
「うん、でもまぁ此処で変に話を湿らせてもあれだ。呑もう、ほらっ!」
「祥子殿の言う通りだな、今は酒宴を楽しもう」
「じゃあ誰か、お話! 血沸き肉躍る冒険譚ねっ」
 趣旨が逸れている事に祥子が皆へ諭し掛ければ、彼女の意に同意してルクスが微笑み頷くと立ち上がり斎王は酒場中へと大声を響かせるのだった。

●壮絶悶絶! 問答無用の大双六大会!
 三日目、お昼時に差し掛かった辺り。
「‥‥で、これは何だ?」
「双六だよ、小次郎さん」
「いや、それは見れば分かるが‥‥」
 座敷に置かれていた卓を退け、出来たスペースにデンと引かれた和紙の集合体とそれに描かれている数多のマスを見て‥‥いや、正確にはその脇に多数広げられている女性物の衣服を見て呻き小次郎が誰へともなく問えば、発案者であるイシュメイルは眠気に目を擦りながら首を傾げ返すが話が噛み合っていない事から小次郎は尚、同じ問いを口にしようとするも
「お互い、同じ星の下に生まれたんだ。いい加減に腹を括ろう、な?」
「ふ ざ け る な」
「にゃにをしゅるんだ、こひろうー!」
 後ろよりマナウスに肩を叩かれ、ナイススマイルと共に親指を突き立てられると静かに憤慨して小次郎は彼の両頬を思い切り掴み、伸ばすが場に木霊する静かな笑い声だけは収まらない。
「あぁ、アリンコさんもそんなに怖がらないで」
「‥‥誰のせいだボケー! 褌で簀巻きにして斎宮の天辺に吊るし殺すぞー!」
「本当にやったら許さないから、そこだけ宜しく」
 もその中、誰かの絶叫が轟けばそれが誰かを察し宥めるルーティだったが逆効果だったそれはヴィーに更なる決意をさせるも‥‥斎王に睨み付けられれば沈黙せざるを得ない彼。
「それじゃあこれが肝心のルールね、しっかり読んで頂戴!」
 そんな静かに騒然とする場の中、イシュメイルを伴って祥子は一息ついた後に手に持っていた和紙を掲げれば高らかに声を張り上げた。

 ルール
1.至極普通の双六である、賽を振って出た目の数だけ進み『上がり』を目指す。
2.イベントマス(強制停止の場合もあり)に止まった際、番号を指定する。
 その番号が記されている紙を見て、記述されている内容を『必ず』実行する。
 実行するまでは、自分の手番に回って来ても賽は振れないものとする。
3.最初に上がった三人は、最後に上がった三人より奉仕を受けられる権利を得る。
 最下位三人に男性が含まれていた場合、女装にて奉仕する事。

「‥‥何だ、このルールも」
「いや、相談の結果」
「どんな宴会で女装なんてするんだー!」
『この宴会』
「まぁ勝てばいいのですから、そうお気を落とさずに」
 そして再び小次郎、マナウスの両頬は離さずそのままにやはり皆へ呼び掛けるが‥‥取り付く島がない事に気付けば此処で漸くマナウスを解放し、膝を付いてはうな垂れるとフィーナに慰められるが
「‥‥尤もイベントはその限りではないかも知れませんけど」
 次には彼方を見て彼女、言葉を紡げば再三マナウスに肩だけ叩かれる小次郎は突っ伏しもう当分、動きそうにもなかった。
「僕が入賞したら女装無しねっ!」
「まぁそれは勿論。でもイベントで『女装する』なんてあったらそれはこれに書いてある通り、実行する事」
 そんな中、初日にあわや女装の憂き目に遭う所だったイシュメイルは熱く決意を告げるも祥子の静かな回答にはやはり肩を落とすが、若さ故に小次郎より早く立ち直れば手近に転がる賽を掴み、振る練習を始めると
「それでは私が一位になったら‥‥アリアにキスでもして貰おうか?」
「え‥‥えと、あの、その‥‥?」
「そう言った個人的ルールは関係する各人で可否を相談して決めてね」
 彼の傍らにいた圭介、ルールにないルールを設けようと口を開けば次に皆の視線を集めたアリアはどう反応すればいいか分からず祥子を見つめれば、その裁定者は至って冷静に判断するとアリアの手を取る圭介を傍目に捉えつつ、告げるのだった。
「‥‥と言う事で、早速行って見ましょうか!」

●四日目
 昼も昼、太陽が真上に来ている為に暑さも最大な今この時‥‥酒場では常に明るかったり暗かったりと様々な音色が響き渡っていた。
「お召し変えが終わった、小次郎さんのご登場ー!」
 その音色を奏でるハンナの、明るい声とリュートベイルより生み出される音色が同時に場へ響けば次いで現れる小次郎の、振袖に身を包んだ姿を見て一行は祥子を筆頭に酒精が入っている事からもう大騒ぎ。
「小次郎、もう貴方二十八なんだから、少しは落ち着いて‥‥いられないわねぇ」
「五月蝿い‥‥」
 そして不機嫌そうに自身の席に座る彼へ何とか傍観者となったロアが宥めるも、小次郎は変わらずむすくれたまま。
「良く似合っているわよ、だから頑張って頂戴。お酒でも飲む?」
 背後にて圭介が密かに笑っているからだろうか、小次郎の表情は憮然としたままで止むを得ず苦笑を浮かべれば、ロアは彼へ酒を勧めると居た堪れない小次郎はそれを一気に煽った。
「何故に茄子‥‥」
「何か多くなっている気がしますけど、気にせず頑張ってですのー」
 しかしそんな事にも構っていられないのはレリア、頬を染めながらも至って真面目な面持ちで目の前に山程ある棒状に刻まれた生の茄子を見つめ呻けば、そのイベント発案者であるルーティが自身課せられたイベントを笑顔で行ないながら、宥める。
「よっし、いっくぜぇ〜!」
 とこんな調子で双六のイベントにて罰ゲームに近き行為を殆ど皆が行なっている中、躍起になって今賽を振るうマナウスだったが、やはりイベントが起こるマスに止まれば予め決めていた番号の内、一つを指定して‥‥表情を歪ませる。
 いや、心なし嬉しそうな表情にも見えるのは気のせいだろうか?
「さて、その賽の目だと‥‥これか」
「‥‥逃げられないのは分かっているさ」
 それはさて置き、そして次いで振る賽の目を見て片手にハリセンを持つ月夜、顔を邪まに綻ばせて魔法少女のローブやら一式を指差すと彼は肩を竦めて嘆息漏らし、いそいそと着替えすべくその場を一時退席する。
 しかし今日の双六の終点はまだ遠い‥‥どうやら先日、祥子が何時の間にか手を加えた様子。
「これでは京都、ではなく、狂徒ですわね」
「全くです〜、と人数もいるから〜脱落している人を中心に〜交代で仮眠を取っておきますか〜」
「そうですわね」
 その終わりの見えぬ双六大会と、真昼の茹だる暑さの中でサンタクロースの格好をさせられ息も絶え絶えに座敷の片隅でダウンしている守也を見やり、合掌しつつ鼻に花を刺している美夏がボソリ上手い事を呟けば、同意して歌う様に聖歌が彼女に返し頷くと場の狂気に飲まれる事無く理性的な判断を下し、屍と成りかけている彼を介抱すべく歩み寄るのだった。

●五日目、未明
 むくり。
 唐突に目が覚め、灯りが落ちた酒場の座敷で身を起こしては辺りを見回す美夏。
「何だ、この空間」
 目の前に広がっている光景を一瞥し、珍しく素に戻っては呟く。
 それもその筈‥‥彼女の目に前、薄暗がりの中に広がる光景とは端的に言うと
『死屍累々』
 全く持ってこの言葉がぴったりである惨状が展開されていた。
 あえて詳しくは書くまい、と言うか余りに凄過ぎて書けません、ご想像にお任せします。
 予め酒場内でも寝床を確保していた聖歌や、酒を飲んでいないフィーナやイシュメイルら等一部難を逃れた者こそいたが、それは全体で見ると小数であった。
「‥‥ま、いずれ夢からは醒めるもの。なればもう一眠りした方がいいですわね」
 とそんな状況であるにも拘らず彼女、僅かな間で立ち直ったのか何時もの調子に戻ると誰も起きない場へボソリとそれだけ呟いて、再び眠りの淵へと落ちるべく畳へとその身を横たえた。

 因みに四日目の勝者及び敗者は皆の記憶が曖昧である事から定かではない、余程の事があった様であるらしい事だけ付け加えておく。

●再動
「あ、頭痛い‥‥」
「やめて‥‥誰か、お日様止めて‥‥」
 五日目の夕刻、夏故にまだ太陽も高い中で漸く酒場より出て来た一行は誰とも知れず‥‥と言うか、酒ばかり飲んでいた面子は皆一様にそんな呻きを漏らしていた。
「皆さん、鍛え方が足りないのではないでしょうか?」
『‥‥‥』
 そんな中、静かに微笑み呟く斎王は何時もの口調で皆を見つめ言えばジト目にて二日酔いから顔を歪める面子は覇気なく彼女を見つめる。
 尤も、若い割にペース配分がしっかりしていたと言う理由があるが。
「祥子さん、こいつをやるよ‥‥」
 その彼女へ、二日酔い故に軽く顔を顰めながら声を掛けるマナウスは唐突に、何を思ってだろう水晶が吊るされたペンダントを差し出す。
「水晶は気を集め、浄化するものだと聞いた。貴女がこれから何をするにしろ、邪魔にはならないものだろ」
「邪魔にはなりませんが‥‥」
「ま、そうだな‥‥面白い趣向の宴会を開いてくれたお礼って事で受け取って欲しいんだがね? それならどうだろう」
「そう言う事であれば、頂くのが礼儀ですね。ありがとうございます」
「いや、何て事はない」
 それを見て祥子は首を傾げ、言い淀むが彼女の様子に暫し逡巡だけしてマナウスは改めて理由を提示すれば、やっと納得が行ったのか祥子は頭を垂れ一礼すると走る頭痛に顔を歪めつつも何とか笑う彼。
「何時も皆さんから何かしら頂いてばかりですいません、ですが‥‥」
「そう気にしないで下さい。私達は誰かを、何かを守る為にいるのですから」
「あぁ、だから何かあればその時は気兼ねなく呼んでくれ。必ず、馳せ参じよう」
「‥‥ありがとう」
 屈託のない彼のその表情を見て、初めて睫毛を伏せる斎王だったがセリアと月夜が微笑み宥めれば漸く笑顔を浮かべる彼女。
 しかしながら気だるげな場の雰囲気は変わらず‥‥と思いきや、圭介とアリアを取り巻く雰囲気だけは明らかに場のそれとは違っていた。
「‥‥その、これ」
「これは」
 言葉少なくアリアから差し出されたものを見て圭介は内心でだけ驚いて何か、尋ねようとするが‥‥それは何処か無粋な気がして、紡ごうとした言葉を途中で何とか飲み込むと
「大事にして‥‥下さいね」
「あぁ、ありがとう」
 尚も言葉少なく言って彼女は圭介に一つの指輪を託せば二人、微笑を交わす。
 因みに小次郎は精神的ショックから未だ立ち直れずか、酒場の入口で伸びてはイシュメイルに介抱されているので二人の間に入る事すら叶わない。
「やっぱ、集まって騒ぐと楽しいね」
「まぁ‥‥そう、だな」
 とまぁ様々な場の光景を見て相変わらず最後までリュートベイルの弦を弾くハンナ、久々に満足を覚えて一人納得すればその傍らで何時の間にかアシュドが顔面を蒼白にしつつも頷くが、その視線が何処か遠くを見つめている事に気付いた彼女は静かに呟いた。
「信じていれば、またきっと会えるよ‥‥うん」
 もしかすればその日が近く来るかも知れない事に気付いていないからこそ、ハンナはそう呟いた。

「‥‥楽しい事になると、いいですねぇ」
 その光景を遠目に静観する者あり。
 彼、黒門絶衣は微笑めば次に立ち上がると踵を返しては近くにいた部下に告げるのだった。
「江戸へ行ってきます、私にとって必要な件の物が見付かった様なので。その間、行方知れずになっていると言う『あれ』の捜索をお願いしますよ。それ以外の行動は私が戻るまで特に不要です」
「分かった。出来る限りの事は、やってみる」

 〜開幕〜