霧の山脈
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:1〜3lv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月03日〜09月08日
リプレイ公開日:2004年09月09日
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●オープニング
「一月前位に、やーっと荘園の領主様から水車を借りる事が出来たんだがよぉ‥‥なんか川の流れがおかしいんだよな、つーかもうほとんど水車のある下流まで流れてきてねぇんだわ」
冒険者ギルドに駆け込んできたのは、がっしりした体格のおじさんで普段は荘園の内外で樵をして生計を立てているとか。
いつの頃からか暇な時にギルドに来ては、受付のお姉さんと話す事を趣味にしている。
お姉さんも今ではすっかり顔馴染みとして今日もおじさんの話に付き合っていた訳だが実は依頼だったりしたのでビックリしている。
その話の内容は困ったものであるが、表情や口調からはそんな様子は微塵も感じられない、いつもと同じ調子だった。
そんな訳でどう言った返事を返そうか、悩むお姉さんを傍目に彼の話はまだ続く。
「で、しょうがないから山をえっちら登って上流の様子を見に行こうとしたんだけどよ、途中でやったら濃い霧が出ててな。土地柄良く霧は出るんだけど、どうも普通の霧じゃない感じがしてそこから上に怖くていけないんだよな、ダハハッ!」
「それで、どう言った依頼を当ギルドに?」
おじさんの言葉を受けて、話の筋は分かったが念の為に問うてみる彼女におじさんは改めてこう言った。
「おう、上流まで行って川を堰き止めている原因を排除してきてくんねぇか? 最近大きな地震があったから土砂か何かで止まっているだけかも知れねぇな、それだけでいいわ」
そこで一息ついて、手近にあったコップの水を飲み干すと改めて口を開く。
「ただ、さっきも言ったけど薄気味悪い霧、もしかしたらなんかあるかも知れねぇから気をつけてな。山に慣れているオレでもあればっかりは御免被りたいぜ」
そう呟くおじさんの顔に、山の男らしくない発言をしてか一瞬翳りがさしたのを彼女は見逃さなかった。
「そう言うわけで最近は山にも行けずにどうしたもんかと思ったらよ、気付いたら五日後、月に一度の領主様の視察があるんだわ。さすがに今の状況を見られると下手したら没収されかねないから、それまでに何とかして欲しいのよ。なっ、頼むわ!」
そう言うとおじさんはカウンター越しに、彼女へ頭を下げるのだった。
「‥‥と言う依頼を受けました、日数制限こそありますが上流まで行ければ難しい事ではないと思いますので、準備だけしっかりね。山登りになるし、その山はこの時期でも夜に霧が立ち込めると結構寒いみたいだから」
そう言うと彼女は同じ地図を八枚、その場に置いた。
「それと山の地図、冒険者が迷ったら洒落にならないからねー。それとルートもしっかり選ばないと期日を過ぎてしまうからその点も気を付けてね。それじゃ、行きたい人はこの地図を持ってって」
その場にいる君達を見渡して、そう言うと彼女は一つ微笑んだ。
●リプレイ本文
●水車小屋にて
「これが頼まれたスコップだ、準備していない人数分揃えたから安心しな。」
「済まない、助かる」
睦月焔(ea5738)の申し出に依頼主の親父は嫌な顔一つせず、川を堰き止めている原因が土砂であった場合を想定してそれを撤去する為のスコップを、持ってきていない人数分貸してくれた。
「なぁに、こっちこそもっと色々準備してやれればいいんだけどな。何分まだ粉引きの代金とかが安定しなくてな、懐が心もとないのよ。申し訳ないな」
「あ、いや。何もそんな意味で‥」
「生きて行く為には金が必要だろう? んであんたらはそれに命を掛けている、あんたの言う事は尤もだよ」
睦月の言葉に親父は真面目な顔で頷き、彼の肩を叩きながら大きな包みを差し出した。
「まぁあんたらばっかに頼る訳にも行かないからな、気持ち程度ですまんが持って行ってくれ」
まだ少し温かい包みを睦月が受け取ると、それが何かを察して
「すまん」
彼の一礼に続く言葉に、親父はただニッとだけ笑った。
「毎回はともかく、健康の為にはたまにこう言った体力勝負の依頼を受けるのも悪くないわね」
「ま、たまにならな」
親父から情報を聞きだした後、ナツキ・グリーヴァ(ea6368)の漏らした呟きに時雨桜華(ea2366)が直上にある太陽を見つめながら頷く中、夜枝月奏(ea4319)は一同を見回して
「上流に至るまでのルートですが、最短で怪しい霧の出る道を進む事で異論ありませんね?」
提言すると一様に頷いた。
「‥危険だが、間に合わなければ元も子も無いか‥」
琥龍蒼羅(ea1442)が懸念を込めて呟くと
「でも気にはなるよね、個人的にはあの霧にちょっと興味があります」
それを聞いても尚、臆する所か気楽そうに言うアーヴィング・ロクスリー(ea2710)に、リーベ・フェァリーレン(ea3524)は霧とは別の事を考える。
「全ての事象が同時期に重なり過ぎてないかな? 誰かが意図的にやった事なのかも」
「まぁ色々と考えてもしょうがないよね。とにかく今は行動、と」
そう漏らす彼女を窘めるかの様にリーン・エファエイム(ea3198)が言うと、先頭を切って歩き出したが、ふと何事か思い出し振り返るなり睦月を見るや
「そう言えば今回も同じ依頼ですね、宜しくお願いします。」
「あぁ、こちらこそ宜しく頼む」
互いに挨拶を交わし微笑むと
「じゃあ行きましょう!」
リーンの掛け声を合図に一同は親父が見送る中、川の上流へ向けて歩き出した。
期日まで、後五日。
●飛んで、三日目
山を登り始めて早二日が経ち、今日が既に三日目。
初日及び二日目は特にこれと言った事もなく予定通りの距離を進んでいた一同だったが、二日目の夜も間近な頃に発生した霧で足を止めざるを得なかった。
途端下がる気温の中、準備していた防寒具を羽織る一同は霧を前に野営を築いて見張りを立てながら夜を越す。
「嫌な霧ですね‥‥魔法だとすれば私には専門外ですが」
そして三日目の朝を迎え、誰よりも早く起きたアーヴィングは辺りを見回すと既に霧に包まれている事を見て一人ぼやいた。
「今日が一番苦労しそうです」
彼が抱いたその懸念はもれなく的中し、昨日までとは打って変わって一同の歩くスピードが落ちる。
「かーっ、こうも霧が濃くちゃあおてんとさんも見えやしねぇ。道は大丈夫だよなぁ?」
頭上を見上げる時雨だったが霧が彼の視界を阻害し、太陽の位置を確認させる事を許さなかった。
「川沿いを歩いていますから、地図に記されている道を歩いているかは分かりませんけど少なくとも目的地には着きますよ」
「しかしこれ、どうにかならんのか?」
「皆がはぐれない様に‥‥なんですけど、誰も見ていないとは言え恥ずかしいですね」
夜枝月の尤もな発言に、しかし時雨は手に持っているロープをふと思い出してごちた。
霧の中を進む際、リーンの提案によって一本のロープを皆で持って進めばはぐれる事はないとの提案を受けてのものだったが、そんな一同の姿はちょっと恥ずかしい。
そんな一同の中、ナツキがバイブレーションセンサーで周囲にいる小さな動物達を逃がした事を確認すると、琥龍とリーベは緑と青の光を纏いて各々が使える魔法で霧への対処を試みる。
「荒れ狂え、疾風の牙よ‥‥ストーム」
「集えよ水、そして全てを散らせっ、ウォーターボム!」
途端、巻き起こる風の渦に前方の霧は薄くなる程度。
続いて周囲の水分を元に生成された水球もまた同様に霧を完全に消す事は出来ず、視界こそ多少は広がったが霧は以前辺りに立ち込めたまま残る。
「思ったより効果ありませんね」
「もう一度、試してみよう‥‥」
アーヴィングはそれを見ていささか落胆した表情を浮かべ、それでも琥龍は再び試そうと静かに呪文を唱えようとする。
「この霧、魔法なんでしょうか?」
その様子を見てナツキはランタンを掲げて続けてのバイブレーションセンサーで察知した動物達を逃がしながら振り返って先輩ウィザードのリーベに尋ねた、そんな時だった。
「何かいますっ!」
木を登り遠くの様子を伺っていたリーンが叫ぶと、霧を裂いて鞭の様な何かがナツキを襲う!
彼の叫びにまだ戦闘経験の浅い彼女だけが、反応する所か思わず尻餅をついてしまったがそれこそ功を奏し、直撃しかけたそれはナツキの頭上の霧を薙ぎ払うだけで済んだ。
いち早く反応出来たリーンとリーベがそれを逃がすまいとそこ目掛けて木上から矢と先程完成させた水球を放ったが、霧の中から反応は帰って来ない。
「ちっ、逃げたか。しかしなんだあれ?」
「本か何かで見た記憶はありますが‥‥残念ながら思い出せません」
遅れて抜刀した時雨が悔しそうに呟く中、木から降りるリーンもまた悔しそうな表情を浮かべると再び霧が深く立ち込めてきた。
「さっきの奴の仕業ですかね?」
「まぁ、間違いないでしょうね」
察しはついたが念の為、一同に問う夜枝月に断定して答えるのはアーヴィング。
「向こうがこちらを相手にする気がないのなら、先を急いだ方が懸命ですね」
見回して言う夜枝月に賛同する一同は再び情けない隊形を組んで前進を再開した。
●いよいよ、四日目
霧を魔法で多少なりとも掻き分けて進むもその度、何者かの妨害を受けながら進むが昨日は霧の道を抜けるのが精一杯で、予定より遅れた昨日の挽回をすべくラストスパートを掛けていた。
そんな一同が川を堰き止めている原因の元へと辿り着いたのは、日が沈み掛けた頃だった。
「どうやらおじさんの予想通りでしたね」
リーベは此処に来るまで川が堰き止められた原因について色々な予測を立てていたが、土砂を目の当たりにして安堵したがしかしその土砂の量は尋常ではなく、一同の背丈を軽く越えていた。
「‥余り時間がない、急いで作業を始めよう」
琥龍がスコップを手に、その山に向かうとそんな彼の行動を皮切りに一同もそれぞれスコップを手に、急いで土砂の撤去作業を開始する。
「脚がぁ‥‥歳かも知れんなぁ」
急いで土砂を取り除いている面子を傍目に、一人ぼやきながらゆっくりと準備をする時雨だったが、そんな彼のすぐ横を駆け抜けていくのは重力波の塊。
「ごめんね、なんか手を抜いてる人がいたからつい」
それは、彼の様子を見てからかい甲斐がありそうな標的だと思ったナツキが放ったグラビティーキャノン。
閃きの行動ではあったが、二次被害を考慮して放たれたそれは彼女の計算通り時雨の横を通り過ぎると土砂の山に当たり、川の向こうへと舞い散らせる。
「当たったらマジで洒落にならねーじゃん‥‥って分かった分かった、精々頑張らせて貰いますぜ」
続く第二射の詠唱を聞いて、彼も観念してスコップを片手に土砂の山へと小走りで向かうその様子を見て頷くナツキに、一同は彼らのやり取りに苦笑いを浮かべながら
「後は時間との勝負、か」
「頑張りましょう、ここまで来れたんですからね。まだ間に合いますよ」
「そう言う事だね」
まだその量を減らさない土砂目掛けて攻撃を続けるも、ソニックブームを放ちつつ思った事を口にする睦月。
そんな彼を窘める様に少しずつながらスコップで削る夜枝月とウォーターボムで土砂を豪快に弾け散らすリーベ。
そんな中、アーヴィングは黙々と手を動かしながらも頭上を見上げるとまだ月は然程高くない位置で輝いていた。
「夜はまだ長い、な」
「頑張りましょー!」
琥龍の静かな呟きに今まで先頭を歩いていた為か、すっかり一同のリーダー役のリーンが前向きに叫ぶと皆もそれに応えて叫んだ。
『おーーー!!!』
●そして、五日目
冒険者が霧に煙る山から流れ込む上流を目指してから五日目。
朝を迎えてもまだ彼らは水車小屋まで戻ってきておらず、また川の流れは彼らが出て行く前と変わらず少なく緩やかなまま。
「間に合わなかったか? こうなりゃこちとらも腹括るしかないか」
言って踵を返し、水車小屋へ引っ込もうとする親父の耳に聴き慣れない音が飛び込んで来る。
それは川の上手から聞こえてくると徐々に大きくなり、遂には川に水がドッと雪崩れ込んできた。
その光景を見て、親父は安堵の溜息を漏らした。
その後領主の視察は無事に終了し、翌年の今日まで水車小屋を貸して貰える事が決まると領主が立ち去った後、山から下りてくるだろう冒険者達の為にあるだけの金で労いの晩餐を開こうと親父は町に慌てて買出しに向かう。
土砂を撤去した後、一同は夜枝月の「霧に棲む者はやはり退治しよう」と言う提案を受けて退治しようと試みたが、山からは追い払うものの後一歩の所で逃がしてしまう。
そのモンスターについて一同は普通の武器が通じない事から悪魔とは察したが、誰も詳しい知識までは持ち合わせておらず、僅かな疑問を残したまま下山となった。
そんなこんなを経て予定より遅れて下山してきた一同だったが、それでも親父は「おかげで今年も水車を使わせて貰える事になったぞ!」と笑顔で叫びながら、大盤振る舞いの食事を前に出迎える。
彼らは大量の飯を腹に詰め、ささやかではあるものの各々一本の酒を親父からの手土産に貰うとキャメロットへと帰って行くのであった。