【可愛い用心棒】途方迷走
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:7〜13lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 4 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:08月05日〜08月10日
リプレイ公開日:2006年08月13日
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●オープニング
●江戸にて
「‥‥‥」
「んのぉっ!」
黙するのはまだ小さな子供がたったの一人‥‥正確には何かを呟いていたが、子供が一人であると言う事実に変わりはない。
因みに彼の名はエドワード・ジルス。
一ヶ月程前までは京都にいた筈の彼が何故今、江戸にいるのかは此処ではさて置いて‥‥その彼と相対するのは見た目も態度も柄の悪い男達が三人、エドを取り囲んでいた。
尤もそれは過去系であり、既に二人が打ちのめされて地に転がっている。
エドが放つ、容赦のない魔法にそれでも残された一人は裂帛放ち野太刀を振るうも‥‥突如現れた、伸びる草木が織り成す壁に視界を遮られればその一刃をエドに当てる事が出来ず、舌打ちこそするが
「悪いが容赦は‥‥」
「しない‥‥よ?」
それでも更に一歩踏み込めば、ならず者は己が視界を覆う草木の壁の奥にいるだろう詠唱中のエドへ迫るべく振り抜いた野太刀を疾く腰だめに構え直すと、残る後ろ足で地を勢い良く蹴って自身の体を先よりも加速させるが‥‥紡がれた言葉を遮る様に、彼の口から言葉が紡がれればそれと同時にエド、壁を切り開いては己に迫る刃へ臆せず僅かな間だけで魔法を完成させて解き放った。
するとエドの後方より奔る、幾本もの樹木の槍を加速した御身に受ければたまらず吹き飛んだのはならず者の最後の一人。
「ずあぁぁぁっ!」
「まだ‥‥やる?」
その様子を見つつエドは戦闘中も余り変えなかった表情をそのままに、たどたどしい言葉遣いで今さっき地に転がった敵意持つ者へと問えば
「お、覚えてろっ!」
何とも詰まらない台詞だけ吐き捨て、未だ呻き声を上げるだけの二人を蹴り飛ばして叩き起こせば判断早く踵を返し、ならず者達はその場を後にした。
●探し物
「済まないね‥‥冒険者とは言え、まだ年端も行かないあんたに助けて貰う事になるなんて、あたしゃ自分が情けないよ」
「‥‥そんな事、ない。僕も、助けて‥‥貰った、から」
それから暫く、万屋の軒先にある長椅子にエドを腰掛けさせれば次に詫びる老婆だったが、彼が言葉少なく彼女を宥めて首を左右に振る。
「しかし何だって、あんたみたいな子が一人で旅なんかしているんだい?」
「‥‥探し物、してる」
そんな子供らしからぬ彼の、静かな反応に老婆は興味を覚えて一つ問えば‥‥やはり返って来る、静かなで見えない回答に彼女は首を傾げるとお節介だとは思いながら、再度問いを口にする。
「探し物ったって、たったの一人で京都から江戸まで来るなんて。一体何を探しているのか、良かったら教えてくれないかね? 何か、私にだって出来る事があるかも知れないし」
「何て言えばいいか‥‥良く分から、ない‥‥だから、探している」
「‥‥うーん?」
すると今度は先よりも不明瞭な答えがエドより返って来る事となり、益々持って首を傾げる老婆ではあったが
「それより、気を付けて‥‥さっきの感じだときっと、間を開けずにまた‥‥来る」
「そうだろうねぇ、こんな可愛い子にやられたとあっちゃあ‥‥でも一体あいつら、何が狙いなんだろうねぇ? 金目の物なんて此処には何もないのに」
彼によって話を変えられれば、これ以上の詮索は無粋だと感じて老婆は相槌を打ち同意しつつも自身、何故この様な立場に置かれているのか分からずに再三首を傾げる。
「分からない‥‥けど、今度も僕が追い払う‥‥次は、完膚なきまで」
「‥‥誰にそんな言葉、教わったんだい」
「レリア」
するとエドより返って来る答えはやはり、同じではあったが相変わらずな淡々とした口調に難しい表情を湛える老婆は三度、彼へと尋ねれば‥‥今は僅かにだけ表情を綻ばせてエドはある人物の名を告げて、次には背を向けて密かに呟くのだった。
「‥‥僕は、冒険者として‥‥何をしたいんだろう‥‥」
●黒幕
「やれやれ、情けないですね」
「うっさい、次こそは絶対に‥‥あのガキ一人だけなら」
「そうも行かないでしょう、次は冒険者達が出張ってくるでしょうから。となれば今の予定よりもっと多くの人手を集める事をお勧めしますよ。何なら少し、お貸ししましょうか?」
「‥‥そこまでして欲しいのか? 俺にはあれの価値は全く分からんが」
「えぇ、是が非でもね。だから協力は惜しみませんし、今後も貴方方とは良い関係でいたいとも思います」
「本気かね‥‥まぁ、俺達からしてみればいいけどな。じゃあ折角だからあんたの好意、頂戴するぜ」
「分かりました、時間が掛かりますので暫しお待ち頂く事になりますが‥‥宜しくお願いします。朗報を期待していますよ」
「あぁ、任せろ」
「それではいずれ、京都で会える日を楽しみにしています」
そんな動きは露知らず、だがエドの身を案じて万屋を営む老婆は彼の言葉を信じ‥‥また近々来るであろう、ならず者を追い払うべく冒険者ギルドへ足を向け懐より幾許かの金銭を出しては一つの依頼を申し出るのだった。
「近い内にまた、ならず者達が来るらしいんだけど‥‥可愛い冒険者が一人だけでね、これでどうか協力して貰えないかねぇ? 後、そのついでと言っちゃあ何だけど可愛い冒険者の話を聞いても貰えないかね‥‥私じゃ多分、何も出来ないだろうから」
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依頼目的:ならず者を追い払え!
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
NPC:エド
日数内訳:五日間丸々、万屋の防衛に当たる。
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●リプレイ本文
●江戸のエド
冒険者ギルドより出された依頼を請け負い集った一行、依頼主がいる万屋へと馳せ参じればローブを纏った、まだ年若い‥‥と言うより幼い冒険者と思しき少年にまず出会う。
「もしかして、あの子が?」
「うん、そうだよ。あの子がエド君。ちょっと久し振りに会うけど、変わってないかな」
その物静かな彼を見て、野乃宮霞月(ea6388)が『彼』を知っていると言っていたミリート・アーティア(ea6226)へと問えば、明るい声を響かせた後に彼女が頷くと
「ほ〜、エドではないか。久し振りじゃの? 一人で来たのか?」
「エドちゃん、江戸に来てたんだね〜。‥‥正直、コッチで会えるとは思ってなかったよ」
「‥‥うん、そう‥‥だね」
エドを見知る、年の頃が同じ緋月柚那(ea6601)とミネア・ウェルロッド(ea4591)が彼へ声を掛ければ、以前と変わらぬたどたどしい言葉遣いで頷くエドは次いで辺りを見回すと皆へ依頼を引き受けてくれた事に感謝してか、頭を垂れて一礼する。
「宜しく‥‥」
「こちらこそ。さて、エドワードさんは探し物の途中だとか」
「‥‥うん」
「見付かるといいね」
そして続く言葉に頷いて多嘉村華宵(ea8167)が尋ねれば、表情を変えずにエドは肯定の言葉だけ捻り出すと彼は今、深くは言わずに微笑むが
「ありがとう‥‥お姉ちゃん」
「‥‥うーん、私は男なんだけどな」
エドの感謝へは頬を掻いてその一部を改めると場は途端、和やかになる。
「しかし、何故こんな所に用があるのか‥‥」
「さぁ、気にはなりますがね」
だがその中でも気は緩めず、辺りを見回して白九龍(eb1160)がボソリと冷淡な声音で呟けば、肩を竦めて霧島奏(ea9803)が微かに微笑みおどけて見せると
「襲ってくる連中の目的が分からんってのはやり難いが‥‥期間内、守り通せば勝ちって訳だろ? なら、返り討ちにしてやるよ」
その彼とは逆にモードレッド・サージェイ(ea7310)が難しい表情を湛え呟くが、次いで不敵に微笑むと辺りの地形を自身の頭へ叩き込むべく、皆より一足先に動き出すのだった。
●途方迷走
それより数刻を経て、早速一行は万屋を営む老婆に相談してはすぐに警戒の網を厳に張る。
「いらっしゃいませー」
ミリートは店員に扮装し、他の者も皆一様に客に成りすましたりして密かに万屋の防衛に当たっていた。
「‥‥今の所、どうか?」
「うん、一応は大丈夫かな?」
元より客足はある方ではない為、さほど不自然には見られないその光景の中で霞月の静かな問いにミリートは辺りへ視線を巡らせながら、首を捻りながらも彼へ答えると
「でも、いるよね‥‥外の出るのを待って成敗した方がいいかな」
「下手を打つとまずい、ここは相手の出方を伺うしかない」
「‥‥暇だなぁ」
それでもミネアは気にせず小さな声ながらも皆へ確認し、次いでその怪しげな人物へ視線を走らせては腰に隠すナイフへ手を伸ばすも、托鉢僧に扮する霞月に静止されれば頬を膨らませる。
「むしろ、その方がいいのじゃがな」
「とは言え、このままでは埒が明かない事は分かっているな?」
すると彼らのやり取りを聞いていた柚那は陳列されている骨董品を見ながら苦笑を湛え呟くが、やはり客に成りすましている九龍が紡いだ密かな問いには厳しい面持ちにて頷くのだった。
「言われるまでもないじゃろう」
●
それからまだ日が沈んでから間もない頃、一先ず状況を整理すべく皆が万屋の片隅に集えば、そこにある椅子へ腰を掛けて今はエドの疑問と向き合っていた。
「だう? 冒険者を続けている理由?」
「‥‥うん。良く、分からないけど‥‥多分」
その問いを再度口にして首を傾げるミリートへ、彼は微かな返事と共に頷くと途端に皆は難しい表情を湛えると
「良く分からない物を探していらっしゃるのですか。でしたら、私とも似ていますね」
「そう、なの?」
「えぇ」
「他人事に関心は無い‥‥」
皆へ視線を走らせて答えを待つエドへ、華宵が微笑を浮かべて共感の旨を告げれば僅かに顔を綻ばせるエドへ頷くも彼が辺りを見回せば、次に九龍と視線こそ合うが、小さき武闘家は我関せずとそれだけ呟いて小休止に終わりを告げれば彼方へと姿を消す。
「そうだね、色んな人や出来事と出会えるから‥‥かな」
その彼の背を見送りながら、頭上の蒼を見上げてミリートは自身の理由を紡ぎ出した。
「冒険者になって歌がもっと好きになったり、親友が二人も出来たし‥‥他にも翼竜の背中で歌ったり、悪魔の島でお茶したり、マジカルミラージュで大軍を遁走させたりとイッパイだよ♪」
そして神妙な面持ちにて語り出したかと思えば暫し考え込んでか、間が空くと‥‥何時もの笑顔にて今までに受けた依頼の話を切り出せば
「家にいた時じゃ絶対に無理だった。大変な事は勿論あるけど、今はとても充実してるの♪ それが私にとっての理由かな?」
「羨ましい理由です」
うん、と一つ頷いて自身納得すれば微笑んで躊躇なく言い切る彼女に華宵はミリートを見つめ、何処か陰のある声音で呟く。
「私は一族と似つかない容姿の所為で厄介払い同然に冒険者となりました」
すればその次、響く彼の言葉は暗く場に響き渡るも
「ですが、それは切欠。今は『如何に自分らしく生きるか』、その為に冒険者を続けていますね‥‥何時、答えが出るか分かりませんけど」
華宵は自身の言葉にて淀んでしまった場の空気に気付き、それを払うべく自嘲の笑みを湛えると先に紡いだ言葉を笑顔にて否定し、次いでエドの真摯な眼差しを受けている事に気付けば華宵は苦笑を浮かべ、補足する。
「なるほどな‥‥うちは親の言いなりになりたくなかった故、定められた寺を抜け出し今に至るこの身じゃ」
その彼の話を聞いて、珍しく神妙な面持ちを浮かべていた柚那。
己が口を開けば自身が冒険者としての出自を明らかにすると、僅かではあったが目を見開くエドの反応を見て彼女は頬を膨らませると
「当初はいきあたりばったりだったが、一人前の巫女になると言う目標があるからの。京の都だけでは狭いと感じ、こうして旅を続けておるのじゃ。旅は良いぞ? 様々な出会いがあれば学ぶべき事も多々ある」
彼に対し、そっぽを向きつつも自身の志を相変わらず静かなエドへと告げ、改めて自身でも噛み締めれば不意に彼へ向き直って顔を綻ばせる。
「エドに出会ったのもその一つじゃったしな」
「‥‥あ」
そして次に響いた柚那の言葉にエドは今度こそ間違いなく目を見開いて何を思ってだろう、一度だけ巫女を見つめて頷く。
「‥‥しかし目的とか、理由とか、そんな事を人から聞いてどうします? 人はそれぞれ、立場なり何なりと立っている場所が違いますからね」
だがその次に響く奏の厳しい問いにはエドは答える事が出来ず、即座に押し黙る。
自身でもそれは十分に理解しており、誰かしらから話を聞けば何かを得られるとは必ずしも思ってはいなかったから。
「ですが貴方にも、貴方だけの理由が、何時かきっと出来ます。焦る事はありません。ゆっくり探していけば良いと思いますよ」
「うん‥‥」
その光景を皆が固唾を呑んで見守る中、エドの沈黙とその中でも変わらない瞳に宿す光を見て奏は年若いにも拘らず彼がその事へ思い至っている事と察すれば、次に顔を綻ばせると優しく言葉を掛ける‥‥がそれはどうやら逆効果だった様で、顔を俯かせるエドを見ては華宵が苦笑を湛えると一言だけ彼へ贈った。
「誰しも一度は通る道の筈です、貴方が思い悩んでいる事に付いてね。ですから、間違いなく自身と向き合って下さいね、視線を逸らさずに」
●真向勝負
そして時間は過ぎ‥‥依頼の最終日にそれは起きた。
「‥‥馬鹿か、こいつら」
「考えるのは性に合わないんでな!」
正面から堂々と乗り込んできた、一行の三倍近くもいるならず者一団へ嘆息を漏らすモードレッドにその先頭を担う男が本当に何の考えもないのだろう、そう叫べば場に居合わせる皆は肩を竦めるが
「まぁいい、手間が省ける‥‥さぁ、やろうか」
彼らとは逆に、九龍は肩口から包帯が巻かれている左腕を振るい、掲げて不敵な笑みを浮かべると‥‥その一団目掛け、疾駆した。
「来るね、数は‥‥表よりは少ないと思うけど」
「それならば狙い通りです、ね」
一方の裏手、巻物を広げて告げるミリートに奏は微苦笑を湛えたまま呟き得物を手にするも‥‥場は静かなまま。
「‥‥取り囲んでいるだけで、動かないですね」
「見通しが悪いですから警戒しているのでしょう、きっと」
幾分精度の悪い巻物から目視に切り替えて華宵が窓の隙間からざっとだけ見える敵を確認すると三人、次にどうした物かと悩むが‥‥それは暫しだけ。
「全く‥‥暫く歩けなくなって貰うよ!」
互いに視線を合わせれば、戸を開け放ちミリートが矢を一先ず狙わずに燻り出すべく乱射すれば、慌てて飛び出して来たならず者達はたまらず木陰より飛び出して‥‥次にはあちこちに仕掛けてある罠へと自ら飛び込む。
だがその中でも罠を乗り越えてきた比較的厚めの鎧を身に纏う、ならず者の一人が華宵へと迫ると
「っ‥‥ですが幾ら身を固くしようとも、伝わる衝撃までは‥‥殺せないでしょうっ!」
「クックッ‥‥それにどの様な装備でも、私にとっては無用の長物ですがね!」
彼が振るった刃こそ弾くが次に胴へと目掛け放たれた蹴りはまともに受けてたたらを踏んで、体勢が崩れたその暇に懐に飛び込まれれば、奏が振るった忍者刀は過たず鎧の隙間を縫い貫いて敵に致命的な一撃を負わせる。
すると彼は次に携えている刀の刃を下に向け、未だ罠の森で足掻くならず者達の判断力を奪う為か煽る様に声を響かせた。
「そう言う事で貴方方には悪いのですが、此処から先は一歩も通しませんよ」
その頃、表では数が数故に乱戦の様相を呈していた。
「‥‥小太刀が重いのじゃっ」
「貰った!」
「っ‥‥いかん!」
その最中、後退しては数で迫るならず者達をコアギュレイトにて確実に縛する柚那だったが僅かな隙を見せた暇、倒れ込むならず者の影から飛び出して来た、一人の忍びに迫られれば急ぎコアギュレイトの詠唱を織り上げるが、それは途中で虚しく霧散し次には己の眼前に白刃が迫れば己が身を固くするも
「‥‥やらせない」
「甘いよぉっ!」
響く、小さな声に次いで彼女を救うべく辺りの木々の枝を操りエドが忍びを盛大に吹き飛ばすが‥‥中空で軽やかに身を捻り、地に着地してはすぐに駆け出すも叫び既に駆け出していたミネアと交錯すれば、烈風の如き逆胴を避け切れず血を撒き散らして両断される。
「相変わらずだなぁ、エドちゃん。敵なら情け容赦なく、見敵必殺の心情で臨まないと!」
「‥‥とても同い年には見えないな」
それを上下に断ち切った太刀振るい、血糊を払ってミネアがクスリと笑いエドへ言えば、黙する彼に厭わずまだ多くいるならず者達の群れの中へ駆け出すも、その只中で彼女とは逆に舞う様、敵の攻撃を悉く避けながら確実に急所を打ち据えては沈めて行く九龍に笑われる。
「俺にとっての祈りは、戦いだ。敵を倒す為だけじゃねえ、何よりも己の生き方で信念を体現する為に‥‥この仕事が俺の性に合ってた」
その最中、後衛達を守りながら十字の剣を振るうモードレッドがその最後にエドを下がらせた際、今この時に彼の問いに答えれば霞月に彼を託して雄叫び上げては駆け出すのだった。
「さぁ、来いよっ! 俺の祈りを神の御許にまで轟かせん為に!」
●
‥‥さりとて戦い終われば、万屋の前に連ねられるのは縛り上げられたならず者達の顔顔顔。
「冒険者は、見かけで判断しては‥‥痛い目を見る事がありますから御注意下さいね。尤も既に痛い目に合った後ですが」
その彼らを一通り見回し、華宵が艶やかな顔に笑みを浮かべるが留めの一言を笑顔のままで紡ぐと呻く、ならず者達。
「しかし店一件にしちゃあ、やる事が大袈裟だなぁ‥‥ちっとばかし、話聞かせてくれよ。礼代わりに、ありがたい黒の教義で介錯してやるからよ」
そんな彼らを見つめ、サージェイは頭目と思しき男の眼前に十字の剣を突き立てれば彼を見下し冷ややかな笑みを湛えると肩を震わせては、最後に一言添える。
「うわっと、いきなりかよ! まだ死にたかねぇよ、なぁ?」
「ならば吐け、貴様らの狙いは何だ? 吐かねば‥‥」
だがまだ軽口を叩く余裕がある頭目は大仰に驚き部下達を見回すが‥‥しかしその様子を見ていらついたか、九龍が改めて告げれば彼らは口笛を吹き出す始末。
「‥‥言えぬのなら別に構わん。どのみち依頼の範疇外だ‥‥逝け‥‥」
「うわ、ま、待った待った!」
あからさまに見た目だけで判断されている彼らの態度に対し彼は静かに激昂すると、己が拳を打ち鳴らして最終宣告を告げれば一行、僅かだけ遅れてならず者達へそれぞれの得物を掲げ不敵な笑みを湛え凄み、最後に改めて告げるのだった。
『さぁ、どうする?』
●見つめる先は
「‥‥結局、分かった事は今回の黒幕が黒門絶衣と言う事だけか」
「とは言え、確実な証拠はなく重要な情報を知っている者もいませんでしたからね‥‥なればまだ当分安心は出来ない、ですか。さてはて」
「それでも助かったさ、済まないね」
「御礼には及ばないよっ」
真昼の攻防より暫くして、ならず者達をお上に引き渡した一行は彼らより聞いた不確かな話を思い出し九龍と奏が揃って呻くも、それでもと万屋の老婆は皆へ礼を言えばミリートが謙遜しながら、依頼を成し遂げた事から満面の笑みを浮かべる。
「それでも‥‥ありがとう」
「エドちゃんもまぁ良く頑張ったからね、こちらこそありがとう〜」
「じゃな!」
だが次いでエドも皆に感謝して頭を下げれば、ミネアと柚那も負けじと彼へ礼をすれば感謝の応酬に場の雰囲気は和む。
「そもそも冒険者になろうとしたのは何故だったか一度思い出してみるといい、それがしたかった何か‥‥目標だったんではないか? 悩んだ時は初心に戻る事だ」
しかしその中、それでも何処か浮かない表情を湛える彼を見て奏は頬を掻けば、同じくその様子を見つめていた霞月が不意にエドへ諭し掛ける。
するとエドは顔を上げると次に彼を凝視する、口を開きかけては閉じながら。
「‥‥俺か? 参考にならんぞ。家の跡を継いだと言うか、そのまま自分の修行も兼ね、依頼を受けて仕事をこなし現在に至る。俺でも役に立つ事はある様だからな」
その彼の眼差しの真意が何か察すると霞月は自嘲の笑みを浮かべながら、自身の話を口にすると晴れ渡った空を見上げ、誰へともなく呟くのだった。
「人が使える時間こそ限られているが‥‥それでも俺達は何処にでも行ける、自身が望む限りな。だから気が済むまで追い掛ける事だな」
「‥‥うん」
厳しい言葉尻ではあったが、それでもエドが彼の言葉に応じ頷く姿を皆は微笑みながら見守るのだった。
〜一時、終幕〜