【斎宮雑事】選抜試験

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:10〜16lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:6人

冒険期間:08月06日〜08月15日

リプレイ公開日:2006年08月14日

●オープニング

●斎王様のご計画
 斎王である祥子内親王が宴会を思いつき、京都へ単身赴くより少し前のお話。
「この計画、どうでしょうか?」
「どうでしょう、と言われましても‥‥『彼ら』が存在しますので特には必要ないかと」
 斎王の間にて今日も変わらず、にこやかな笑顔を湛える彼女は尤も信頼出来る側近へ『ある計画』に付いて話を持ちかけていた。
 しかし手渡された、その詳細が記されている和紙の束をざっと一読するなり側近、はっきり自身の意見を言えば斎王が目論んでいるトンデモ計画を一蹴しようと言葉を紡ぐが
「ですが『彼ら』が動く時とは『彼ら』自身にとっても有事の際と判断された時のみ、常時は私の警護だけに専念する部隊。今回案件としているのは有事でなくとも動かせる、しかし『彼ら』に追随する能力を持った冒険者の皆様で編成する、柔軟性の高い部隊の設立‥‥」
「‥‥はい、意図は分かっています。ですがこの案は何と言うか」
 内容の割、重要視こそされていないが斎宮が抱えている不安要素の一つを眼前に佇む斎王が上げると僅かな間を置いて側近はその理由『だけ』には同意しつつ、再び和紙に視線を落として嘆息を漏らす。
 実はその計画、先日斎王来訪の際に人手が足りなかった巫女を補充すべく冒険者に対して募集し、その穴を見事に埋める事が出来たのだと言う話を神野珠より聞き及んだ事が端となっている。
 そして今回、斎王が立てた計画とはその流れを汲んだもので‥‥。
「素敵じゃないですか、常識を覆すでしょう悪の手から人々を守るべく戦う巫女達の艶姿‥‥ねぇ?」
「いや、同意を求められても」
 今、口元に手を当てては微笑む斎王が言った通りの事である。
 内容こそ確かに現状の問題点を的確に付いたものではあったが、そのアプローチの仕方が何とも微妙で‥‥生真面目な側近は今度、間違いなく断言するとうな垂れるのは祥子内親王。
「はぁ、全く貴方は何時も固いですね。しかし考えてみて下さい、『彼ら』が動く時には既に手遅れになっている可能性がある事も」
「ですが」
「無駄に戦力を保有するつもりはありません、戦う事が本位ではありませんから。ですが私達が独自に抱える、力ある者達だけでは自衛こそ出来ても伊勢の近隣までを守る事は出来ません。そしてそれは伊勢藩だけに任せるべきではなく私達も表に立たねばなりません、ですから試験的にでも‥‥」
「‥‥‥なればせめてもう少し、間口を広げては」
 それでも尚、食い下がってやはり尤もな事を言うと‥‥かしま付く彼女は呻きながらも折衷案を申し出れば暫し場に漂う、沈黙。
「しょうがありません、此処は私が折れる他になさそうですね」
 やがて、言葉を紡いではその沈黙を破ったのは斎王。
 微かに浮かない表情を浮かべながら、だが肩を竦めながらも一度だけ頷けば側近へ関係者を集める様に指示を下した。

●唖然
「‥‥で、それがこれか‥‥」
「はい」
 それより暫しの時を経て、斎宮を抜け出した斎王を追い掛け京都の冒険者ギルドへ顔を出した側近は彼女が出した酒宴の案内にもう今日は何度付いた事か、嘆息を漏らすも自身もやるべき事を思い出し、それをギルド員へと告げれば‥‥やはり彼も呆れる。
「何を考えているのか、いや‥‥話の本質は分かるのだが、どうしてそうなるのかが」
「全くです。斎王の御心こそ理解は出来るのですが、その方向性が‥‥一先ず、試験的である事を盾に方向性を矯正出来たのが幸いですが」
 そして先の酒宴の話も思い出せば彼、神宮の頂点に立つものとは思えない振る舞いや考えに頭を抱えれば、それを宥める様に斎王の側近はギルド員へ頷きながら声を掛けると
『‥‥はぁ』
 二人は次いで同時、飽きる事無く溜息を漏らす。
「とりあえず、貼っておく事にしよう」
「済まない、宜しく頼む」
 だが既にこの案件は斎宮の総意にて認められており、募集する他にない事からギルド員が側近より一枚の和紙を預かれば、頭を下げて彼女はまだ見付かっていない斎王を捕まえるべく、その場を後にするのだった。
 そんな彼女の背中が何処か、嫌に煤けている様に見えたギルド員が密かに静かに頭を掻く中で。

――――――――――――――――――――
 依頼目的:新設される斎宮の特殊部隊選抜試験に挑め!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに(忘れても現地での調達は可とするが‥‥)。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自『予め』準備して置いて下さい。

 NPC:祥子内親王
 日数内訳:移動四日(往復)、準備期間二日、各試験日は一日ずつの計九日。
――――――――――――――――――――

●今回の参加者

 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0364 セリア・アストライア(25歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0606 ハンナ・プラトー(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea4460 ロア・パープルストーム(29歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea5001 ルクス・シュラウヴェル(31歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea6476 神田 雄司(24歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ea9275 昏倒 勇花(51歳・♂・パラディン候補生・ジャイアント・ジャパン)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

マナウス・ドラッケン(ea0021)/ 滋藤 柾鷹(ea0858)/ 御神村 天舞(ea3763)/ 久方 歳三(ea6381)/ 緋芽 佐祐李(ea7197)/ タケシ・ダイワ(eb0607

●リプレイ本文

●集う人材
 伊勢にて行われると言う、新造部隊の選抜試験を受けるべく京の町より歩く事、大よそ二日。
「綺麗な空と雲ですねぇ」
「此処が伊勢‥‥これからが楽しみです」
 辿り着いた伊勢の町を見回し、次いで空を見上げて感嘆の声を上げる神田雄司(ea6476)に続き頷いて、彼と頭一つ以上背丈の違う巨人の騎士であるミラ・ダイモス(eb2064)が一見平和な街並みを見て顔を綻ばせる。
「しかし弱りましたね。私、外国人ですから近江はともかく伊勢には疎いんですよね」
「はいはーい、私もー!」
「もしかして、皆そうだったりするのかしらー?」
 もその街並みを見ても尚、美麗な表情を顰めてベアータ・レジーネス(eb1422)が呟けば、ハンナ・プラトー(ea0606)も彼に同意して元気良く手を掲げ苦笑を湛えると、自身『花の乙女』と思っている男の浪人である昏倒勇花(ea9275)は皆を見回し艶っぽい声を響かせるが
「簡単な事なら大丈夫よ、私は」
「なれば『三人寄れば文殊の知恵』ともジャパンでは言いますし、皆で知恵を合わせれば何とかなりますよ」
 一行の半数は手を上げるが、難しい表情を浮かべながらもロア・パープルストーム(ea4460)が言えば、残る半数もなんとはなしに頷く光景を見てセリア・アストライア(ea0364)が笑顔で掌叩き、皆へ提案すると‥‥反対する者などいる筈もなく全員が全員、勢い良く頷く。
「おっし、門が狭かろうと通るだけだー。頑張れ私、皆も一応ガンバ」
「一応、な。では腰を据える場所を決めよう、まずはそれからだ」
「そうだな。しかし合格者は五人、か。ジャパンでは八という数字が末広がりで縁起も良いと聞くが、五の意味は何だろうか」
「何、此度の部隊設立は試験的な意味合いもあると言う話だ。なれば深い意味はないだろう」
「‥‥だと思うのだが、どうにも気になってな」
 すれば気合を入れて、自身の頬を叩いてハンナが屈託なく微笑んで言えばガイエル・サンドゥーラ(ea8088)は別段気にした風も見せず、冷静に次の手番を皆に指し示せば街を目指し歩き出すとその彼女の後に続くルクス・シュラウヴェル(ea5001)は一人呟き首を傾げれば、女装好きで名高いらしい天城月夜(ea0321)は僅かな間も置かず答えるも‥‥それでも彼女は何処か腑に落ちず、暫し思考をそちらへ奪われるのだった。
 しかし余裕があるのは今の内だけ、一行の前に立ちはだかる壁は非常に厚いのだから。
「そろそろ私も決めねばなりますまい」
 だが意気揚々と、伊勢の町へと突貫する一行を見つめつつ雄司は自身マイペースな割に何を思ってだろう、静かに呟いて‥‥皆の殿を勤めている事に漸く気付くと慌て駆け出した。

●いざ、試験!
●筆記
 準備期間として与えられた二日を終え、試験会場とされる斎宮に参じれば一行はまず筆記試験が行なわれる斎宮の、五十人いても余るだろうだだっ広い間へ通される。
 無論、試験の際に盗み見を防ぐ為の措置と、それに付け加えて精神的な重圧下でのみなの立ち振る舞いを観察する為の状況設定ではあったが
「猛勉強の成果を見せるべく、一生懸命回答するわよ!」
 この様に勇花が意気込む姿から、準備期間の二日で出来るだけの事を精一杯にした一行はその様な行為に出る事は全く考えておらず、確かな自信を持って筆記試験へ臨んでいた為に場の広さなど些細な事と受け止めていた。
「それでは、試験を開始します。どうぞ」
 その様子に一先ず内心、安堵を覚えながら斎王は場の空気を乱すまいと厳かな口調にて試験開始の旨を告げれば、一行は一斉に目の前に置かれていた和紙を表へと翻した。

 問:お伊勢参り、内宮と外宮のどちらから回るのが正しいか?
「これは‥‥あぁ、簡単ですね」
 先日、行われた勉強会に参加しては一番熱心に取り組んでいた雄司は一瞬考え込むが‥‥その答えを不意に思い出せば、後は惑う事無く解答用紙へ筆を走らせた。
 尤も二択である以上、運が良ければ当たる問題である為に他の皆もさほど悩まず、中には直感に頼っていた者もいたが回答を書き示した。
 答:外宮

 問:伊勢の名物を一つ上げよ、因みに‥‥
「ん、因みに?」
 別の問いに掛かる月夜はその文を見て、まだ続きがある事に訝りながら視線をその先へと走らせると
 『一番多かった回答を正解とする』
(『な、何じゃこりゃー!』)
 とんでもない問題である事に月夜はおろか、一行は驚きを禁じえず直後、同時に顔を上げると視線を走らせアイコンタクトにて意思の疎通を図るのだった。
(『分かっているな?』)
 答:赤福、返馬餅や二見の温泉等々

 問:斎宮には里からやんごとなき事情にて追い出された河童が住んでいるが、彼らの里は何処?
「‥‥これが問題で出ている、と言う事はまだ解決していないのね」
 問題用紙に視線を落とし、この問題を見るや一人ごちたのはその経緯を知っているロアだったが
「何処だったかしら? 喉元までは出掛かっているのだけど‥‥」
 肝心の答えについては大分時間が経っている事もあり、それから当分しても答えは出てこなかった。
 答:鳥羽

 とまぁこの様に、所々(?)捻った問題こそあったが一行が協力し合って学んだ事もあり最初の筆記試験は取り立てて悪い点数を取った者はおらず、終わった。

●面接
 問:何故、この試験に参加しようと思いましたか?

「私は誓いましたから。『困った事があれば、必ず駆けつけ力になる』と。その誓いは、今も一寸毫たりとも揺らいではいません」
 正面に座る斎王、以下に彼女の側近や只ならぬ気配を纏う男性に神宮関係者と思しき人物らが居並ぶ中、祥子から問われた事に対してセリアは微塵の迷いも見せずに自身が持つ答えを口にすると
「‥‥私は、貴女のあの斎王群行路で見せてくれた笑顔を守りたい。その為に、そして貴女の力になる為に、私はこの地にいるのです。でなければ、江戸に帰っています。そして願う事が出来るなら、只の私兵ではなく貴女の願いや正義を叶える為の手足として、存分にこき使って下さい」
「‥‥そう言われると照れますね、でも分かりました。貴女の真意の程が」
 至って真面目な表情で理由を断言すれば斎王、自身が言う通り照れ臭げに頬を朱に染めるが次には頷き微笑むとそれから暫し問答を繰り返せばその際、一枚の紙片を彼女へ託した。
「因みに件の衣装ですが、こんな感じでどうでしょう?」

「先日伊勢を廻って思ったのですが。良い場所だと思います。同時に、揉め事の火種を多く抱え込んでいる地域とも思えました。これは、今のジャパンのどこでも同じ事だと思います」
 緊張漲る場にも拘らず、穏やかな微笑を湛えたままで‥‥しかし何処か哀しげな雰囲気を漂わせて言の葉を連ねるのはベアータ。
「今度新設される部隊についてですが、斎宮内や神宮を守る事は勿論ですが部隊にも得手不得手はあると思いますから、今までに設立された部隊や伊勢藩の防衛部隊等、既存の部隊の個性を活かし、新設される部隊が持たない部分を補って貰う様に、お互いを補える様な多様性のある部隊として、伊勢に作って貰いたいと思います」
 次いで紡がれるのは、試験的にではあるがこれから斎宮に新設される部隊に対して望む事であり、
「今回設立される部隊が、伊勢を守る部隊の多様性を発揮させてくれる存在になってくれる事を願っています」
「なるほど、良く分かりました。その事はしかと肝に銘じておきます‥‥しかし」
「しかし?」
 そしてその最後を締め括り、彼は一息付けば直後に斎王は頷いて彼の意をしかと受け止めるも‥‥その最後に首を傾げれば、続くだろう斎王の話の先が見えずにベアータもまた彼女に倣って首を傾げると
「動機に付いては、これからお話して頂けるのですよね?」
「勿論です」
 肝心な問いの答えがまだだった事に気付き、苦笑を湛えながら今度は厳かに己が口を開き、自身の意思を告げた。

「しかし、何故その様な口調で話されるかな?」
「あたしは、身体は男だけど心は乙女だからよ!」
 最初は暫し、大人しく正座を組んでは斎王以下五人と話していた勇花だったが、白髪の男性より問われると彼女、ではなく彼は勢いよく啖呵を切り出す。
「身も心も巫女に近付く様懸命に努力、入隊後も努力するわ。そして、近隣の住民を守るべく正体を隠し奮闘するわね!! 間違いなく誓うわ!」
「う、うむ」
 そして己の内に秘めていた決意をそのままの勢いで口にすれば、その彼を鼻白ませて‥‥そこではと自身が行った行為に気付き、反省してかしおらしく頭を垂れるも
「気になさらなくて構いませんよ、此処で見たいのは貴方がどう言う人か‥‥その本質を見たいので、むしろ今の貴方の振る舞いについては自信を持って頂いて構いませんし偏見は持ちませんので大丈夫ですよ」
「あ、ありがとうございます」
 場にいる皆とは逆に、斎王が勇花へ微笑み言えば性根は至って真面目な彼は酷く感服して彼女へ礼を述べるのだった。

「多くの地で‥‥そして此処伊勢で人々の災禍を払う為に、今回志願した」
 先の勇花とは違い、静かな声音と面持ちにして騎士らしい、毅然とした態度で面接に臨むミラ。
「この地に住む人々を救う為の力になれる部隊を考え、意を決し志願しました」
「模範の様な回答ですね、故に私は貴方の姿が真実であるのか疑わしいのですが‥‥」
 その真摯な態度と言葉に皆は感心して頷くが、斎王だけは何処か浮かない表情を浮かべ思った事を率直に彼女へ告げ、尋ねると巨人の騎士。
「嘘偽りがない事を自身の命賭して約束します、そして誓います。入隊の際には、斎王様の為、伊勢の人々の為に動く事とこの地の災禍を事前に祓い清めるべく様々な事へ積極的に関わり、調査をしていく事を此処に」
 騎士らしく纏う雰囲気をより鋭く、強固にして勢い良く頭を下げれば変わらずに静かだが厳かな口調で自身の意思を変えず、曲げずに紡ぎ上げた。

「これでもナイトの端くれ。困っている人を見たら助けたいとも思うし、世の中平和が一番だと思うよ」
 一行の最後を勤めるのはハンナで、やはり場の雰囲気に構わず普段通りの口調で斎王より尋ねられた答えに対し、自身の意思を真直ぐな言葉遣いで場にいる皆へぶつけると
「私に何が、何処まで出来るか、今は分からない。だけど、この力続く限りは‥‥うわ、やっぱ似合わないや」
「下手に飾らなくていいですよ、ですが答えはまだですよね?」
 続き、勇んで語る彼女ではあったが‥‥それは最後まで続かず、舌を出して笑うと斎王以外の面子は僅かではあったが顔を顰めるも、祥子だけは別段気にせず彼女へ尋ねれば
「えぇと‥‥私の歌で私自身を、それ以上に皆を‥‥伊勢に住む皆を楽しませて笑顔に出来たらいいな、と思ってこの試験に臨みました!」
 頷いた後にハンナはその最後、自身が言いたかった言葉を確かに間違いなくその場に居合わしている皆へと告げた、誇らしげに胸を反らして。

 こうして、それぞれがそれぞれの意思や想いを表した面接試験は終わった。

●実技
 さて、試験も三日目といよいよ佳境。
「力たすきと巫女服で、力の巫女をイメージしてみたのですが、どうでしょう」
「うん、悪くないと思いますよ」
 試験の場を伊勢神宮内宮へ移した本人、祥子内親王がミラの纏う衣装を見て顔を綻ばせては頷くと改めて、決意に満ちる皆の表情を見回した後に口を開く。
「それでは、実技試験の説明を致します」
 そして響き渡る厳かな声に一行は聞き入ると彼女、次いで手を内宮の片隅を指し示す。
「何の事はなく、こちらの入口より入って頂き、奥にいる者より石の欠片を貰って来て下さい」
「それだけだろうか?」
「はい」
 そこにあるのは何の飾り気もない一つの入口で、その試験内容を聞いてルクスは余りにも単純過ぎる内容から逆に意味が分からないと首を傾げ確認するが、斎王の答えは変わらない。
「あ‥‥ですがもし、何か気付かれた事がありましたら後で私に教えて下さい」
「???」
 だが、一言だけ捕捉して付け加えると問うたルクスを筆頭に一行は皆、疑問符を浮かべるも
「それでは、これが最後の試験になります。頑張って来て下さいませ」
 その事には気付いていないのか斎王は最後、試験の開始を告げて微笑んだ。

「‥‥何だ、この感覚は」
 それはガイエルが内宮に入り、そろそろ指定された最奥へと辿り着く頃に覚えた感覚だった。
 因みに彼女曰く
「別段何事もなかったのだがある場所で唐突に、場が暖かくなった気がした‥‥だが、それ以上に踏み込めぬ程厳かで乱したくない‥‥いや、自身が踏み込んで僅かにでも乱すべきではない場だと感じた。故に、退いた」
「同じく‥‥あれ以上奥には入れるな、私も。不用意に足を踏み入れてはならないと思った」
「‥‥なるほど、お疲れ様でした」
 との事で、ルクスも彼女の話に同意して頷けばそれを聞いて斎王は本当に一瞬だけであったが難しい表情を浮かべ、だが次には顔を綻ばせて彼女らを労った。
(「恐らく、内宮の奥には何かがある。もしかすれば、伊勢に深く拘っている事から生じた思い込みなのかも知れないが‥‥そんな気がする」)
 だがその僅かな変化を見逃さなかったガイエルは冷静に現状だけ整理し、判断すれば未だ一行の誰かしらが入っている内宮を振り返り、仰ぎ見た。

●そして、発表
「かなり、悩みました」
 実技試験が終わってより暫し、内宮の片隅にある広間にて試験の総合結果を待つ一行が一刻以上も待った頃、漸く斎王が姿を現せば皆を見つめ紡いだ第一声は苦しげな表情にて発せられるも
「月夜様、セリア様、ルクス様、雄司様、ミラ様‥‥以上になります」
 その次には早く、当確した者の名を彼女が告げれば‥‥場は静かではあったが、やはり人ぞれぞれに一喜一憂の様相を表情へ表す。
「他の方はもしもの際、お手伝い頂けると幸いです。一通り名前も覚えましたので、これからも皆様が宜しければ何卒良しなに」
「はい、こちらこそー!」
 そんな皆の顔を改めて見回し、同情ではなく本心から場にいる全員へ凛とした表情を携え告げて頭を下げると、いち早くそれを察したハンナが笑顔で彼女へ応じれば斎王もまた微笑めば
「因みに部隊名ですが‥‥」
 肝心要の話題を次いで切り出すと、それには皆もある意味では先より緊張してか、続くだろう答えを固唾を呑んで待つ事暫し。
「少々、人選を確定するまで時間が掛かったので、皆様から頂いた案を基にこれから考えてみます」
『えー!』
 斎王の口より紡がれた、意外な答えに皆は不満の声を一斉に上げるのだったが
「ともあれ皆様、これからも何卒宜しくお願い致します。有事の際には改めて連絡致しますので、今日はこれにて解散です。お疲れ様でした」
 今度は彼女、苦笑を湛えながら逃げるかの様な締めの言葉を言えば、次には正しく逃げる様に踵を返した。
 一行が引き止める声にも振り向く事無く。

 〜一時、終幕〜