【何でもござれ】蛍光乱舞

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月15日〜08月20日

リプレイ公開日:2006年08月22日

●オープニング

●京都にて 〜相談される、十河兄妹〜
「‥‥むぅ、暇だ」
「ですね」
 京都、先日の宴会より暫く‥‥十河小次郎とアリア・レスクードは今日も変わらずにとある卸問屋を見張っていた。
 とは言えやはり、動きは別段見えず今日も今日とて欠伸を噛み殺す小次郎。
 実家から毎日、足しげく通っているアリアとは違い小次郎は風呂に入る為だけ実家へ戻っており、基本は此処にべったりなので根本的に疲労の度合いが違う二人。
 と此処で不意にアリア。
「どうやらもうお昼の様です、休憩にしませんか?」
「‥‥そうだな、腹が減っては戦が出来ぬと言うし」
 空の高みを見やり、上る太陽の高さと小次郎を案じての提案に彼は妹へ頷き返すと何時もの食事処へと足を向けた。

「おっさん、何時もの!」
「はいよ、しかし何をしているんだか」
「秘密だ!」
 と言う事で場を移し、食事を取るべく何時もの食事処へ駆け込めば二人は早々に注文を済ませれば、店主の親父より尋ねられる疑問を小次郎が一蹴するが
「でも暇そうだよねぇ」
「う、それを言うな」
 正しく図星を突かれれば、呻く他にない彼は気まずげに出された茶を啜る。
「あら、図星だったかい。ならさ、一つ頼まれて欲しい事があるんだけど‥‥どうだろう?」
「どんな話だ?」
「兄様‥‥」
「聞くだけなら只だ。で、どんな話だ?」
 その彼の反応を見て親父は厨房へ彼らの注文を叫んだ後、自身も二人が座る卓へと座れば身を乗り出し口を開くと、興味ありげな兄を窘める妹だったがニッとだけ彼女へ笑い掛ければ小次郎は親父へと頷き掛ける。
「いやね、此処からちょっと行った所に余り知られていない小さな小さな湖‥‥ま、大きめな池かも知れないけど、あるんだよ。最近その辺りに近頃の暑さに茹だってか、子鬼が住み着いたみたいでさ」
「それを退治すればいいのか?」
「ま、簡潔に言っちまえばそんな所」
「でも、暫くすれば勝手に出て行くかも知れないのにそんなお話をされるなんて‥‥そこに何かあるのですか?」
 すると口を開く親父、暫く本題を語れば頷きながら小次郎は話を纏めると彼に倣って親父もまた頷いたが、此処である疑問に思い至ったアリアは二人を見つめた後にそれを問う。
「そこが肝だ。実はそこ、蛍の群生地で今の時期になると凄い数の蛍が群れて飛んでさ。今年も見に行こうと思ったら‥‥あれだ。今後の事も考えると下手に荒らされちゃ嫌だからなぁ」
「へぇ、蛍か」
「毎年、私らや他に知っている人達は楽しみにしているんだけど」
「そう言う話なら尚の事、引き受けるべきかな。今の所は向こうも動きがなさそうだし。そうなると‥‥」
 その質問に際し、親父は初めて明るげだった表情を曇らせて彼女の問いへ答えると‥‥親父とは逆に感嘆の声を漏らして小次郎、置かれている状況だけ改めて考えた後にあっさりと判断を下せば昼食を食べた後に足を運ぶべき場所を一つ、追加するのだった。

――――――――――――――――――――
 依頼目的:蛍を見に行こう!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 NPC:小次郎、アリア
 日数内訳:目的の小さな湖まで往復二日、二日目に子鬼退治を行ない三日目に蛍の鑑賞。
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●今回の参加者

 ea2155 ロレッタ・カーヴィンス(29歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3610 ベェリー・ルルー(16歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea7905 源真 弥澄(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea9850 緋神 一閥(41歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0990 イシュメイル・レクベル(22歳・♂・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 eb1599 香山 宗光(50歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb2488 理 瞳(38歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb3834 和泉 みなも(40歳・♀・志士・パラ・ジャパン)

●リプレイ本文

●いざ行かん、光舞う地へ
 京都から、何処へ続いているのか延びる小道を前に十河小次郎とアリア・レスクードは今回の依頼に当たり、要請していた協力者の到着を待っていたが
「小次郎さーん! ‥‥元気にしてた?」
「‥‥何だ、イシュメイル。その一瞬の間と硬直は」
「ななな、何でもないよ。この前の宴会の事なんてもう忘れたからねっ!」
「‥‥‥」
 落ち合う予定の刻より僅かだけ早く一行が二人と合流すれば、その先頭を進んでいたイシュメイル・レクベル(eb0990)が小次郎を見るなり彼の名を遠くより呼んで‥‥僅かに固まり間を置き続いて尋ねると、躊躇する理由が分からず志士が尋ね返せば小次郎の前へ至った小さな彼、真っ直ぐ過ぎる性格故に正直にその理由を明示してしまい、小次郎を凹ませる。
「お久し振り、アリア。ジャパン語嫌いの方はもう大丈夫?」
「その様子だと『ジャパン語』は克服出来た様ですね」
「お二人ともお久し振りです。お陰様で何とか、と言った所でしょうか?」
 その傍らに佇み静かに笑うアリアだったが、ジャパンへ来て初めての依頼の際に世話になった源真弥澄(ea7905)と和泉みなも(eb3834)の二人よりジャパン語にて呼び掛けられれば、苦笑を湛えながらも頷くアリア。
「それは良かったわ‥‥所で、こちらがアリアの兄上?」
「えぇ、そうです」
「初めまして。同じ火の志士なんですね。先輩、宜しくお願いします」
「む、先輩‥‥いや此方こそ宜しく頼む!」
 その様子に安堵すると弥澄も彼女へ微笑み返せば次いで視線を隣で肩落とす志士へ配し、アリアへ尋ねると頷く彼女の返事を確認した後に明るい声音を響かせて初対面である小次郎へと礼儀正しく挨拶交わせば、先まで凹んでいた志士は唐突に立ち直り胸を張る。
「所で、依頼書に書いてあった『子鬼』と言うのは『小鬼』の事でしょうか?」
「ぅぁ‥‥誤字だ、気にするな」
(「本当に、元ケンブリッジの先生だったのか‥‥」)
「そ、そんな目で見るなぁ!」
 が彼にとって、喜ばしい時間は僅かにそれだけ。
 次いでみなもの、依頼書を掲げながらの疑問には呻き正直に答えると‥‥皆の視線だけ自身に注がれる中、内心にて声ならざる声を上げる一行の声を聞いてか、小次郎は狼狽しながら叫ぶも
「大鬼や熊鬼の子供と言う訳ではないですよね?」
「話の限りでは、大丈夫だと思う」
『‥‥大丈夫かなぁ』
「だからそんな目で見るなぁ!」
 続く彼女からの更なる問いには今度、先の汚名を雪ぐべく早く答えたが‥‥今度は声にして一行、正直な胸の内を言葉にすると彼が憤慨する様子を見て笑うのだった。
「ジャパンの夏の風物詩である、蛍を見るのは初めてなので快く楽しみたいものですね」
「しかし花鳥風月、愛でる心あらば相手が小鬼と言えど刀を振り翳す無粋も無用ですが‥‥何ともやるせない気分ですねぇ」
「それでは一度、お話してみましょうか?」
「‥‥分かって貰えるのなら、苦労はしないさ」
 その志士をイシュメイルが宥める中、微笑を湛えながらその光景を見守りつつ緋神一閥(ea9850)が凛とした面立ちに影を落とし、この道の先にいるだろう小鬼の行動と思考に嘆息漏らせば常に緩やかな笑みを湛えるロレッタ・カーヴィンス(ea2155)の、天然マイペースな発言に道中物静かだった焔の志士は苦笑を浮かべる。
「‥‥とりあえず、最後に確認するが追い払う方向でいいんだな。まぁそっちの方が楽でいいが」
「えぇ、蛍が舞う場を血で汚したくありませんからね」
「そうだねー」
 すると漸く落ち着いたのか、肩で息を荒くしながらも小次郎が一行へと方向性だけ問えば頷き答える一閥に他の皆を代表し、緑の髪を揺らし宙舞うシフールのベェリー・ルルー(ea3610)が手振り身振りを交えつつ同意すれば、一行の意を理解して小次郎とアリアは頷くが
(「ソノ方ガ‥‥面白ソウデス」)
「何か言ったか?」
「イイエ、ナンデモ」
「とにかく小鬼とは言え、油断は大敵でござる。出来る事は今の内に何でもやっておくでござる」
「はいー。それじゃあ、行きましょーっ!」
 その折、微かに呟いた理瞳(eb2488)の声を捉えて小次郎。
 何を思ってだろうその発言が気になって彼女へ尋ねるが、首を振る理がそれだけ言えばその真意が気になる小次郎ではあったが次に香山宗光(eb1599)の、一行の中で一番に年上らしい発言が場に響くとベェリーが一行を導くかの様、先頭に立って羽ばたけば先ずは気を取り直して小次郎は皆と揃い歩き出すのだった‥‥ 蛍達が舞う、幻想の地を目指して。

●守るべき、自然の輝き
「‥‥この暑さなら、ゴブリンも壊れちゃうよねー」
「そうでござるな、だからこそ探すべき場所が絞る事も出来ると言うもの」
 それから一行は道中何事もなく、目的地である大きな池だか小さな湖の近くにまで至るも‥‥木立の中にいても尚、容赦なく照らす太陽の光にイシュメイルは呻くが宗光は別段気にも留めず、冷静に判断を下すと
「これだけ暑ければ‥‥蛍達の住まい近くにいそうね」
「なら此処は、僕達の出番だね」
「うん、じゃあいこっか?」
 彼の意見に同意して弥澄も頷き、具体的な場所を指し示せばベェリーとイシュメイルは揃ってそちらの方へと歩き出す。
「それではその間、私達は辺りの散策をすると共に子鬼達を誘い出すに相応しい場所を探しておきましょう」
「なら、此処で夕刻‥‥日が沈む前に一度落ち合う事で宜しいでしょうか?」
「じゃあ皆、気を付けてくれよなっ!」
 すると彼らの行動に対して一閥、彼女らとは違う行動を打ち出せば同意する一行は大まかには二組へ分かれるとその一行の中、近隣の散策に加わるアリアが詳細を摺り合わせれば小次郎の大きな声の後に一行は二手に散開した。

「この辺りは比較的開けていて、誘い出すに相応しい場所ではないでしょうか?」
「そうですね、此処なら無用に木々や動物達を傷付ける事はなさそうですし」
「なれば、場所は此処で」
 まず片方、小さな湖の周辺を散策し小鬼達を誘き出す場所を探していた面子。
 周囲をぐるりと一周し、程好い場所を見付けた一閥が皆へと問えばアリアの賛同に皆も頷くと、小さなパラの志士が皆を見回し確認すれば
「どうしました、理殿?」
「イエ、何モ‥‥デスガ少シコノ辺リヲ見テ回リタイノデ、外シテモ宜シイデショウカ?」
「はい、大丈夫だとは思いますが気を付けて」
 会った頃より変わらぬ表情を湛える理を見つめると、その表情の割に何処か落ち着かなさげに辺りを伺っている様子からみなもが尋ねれば、首を振りつつも理はそれだけ確認して皆の了承を得ると梢の深い方へと歩いていくのだった。
「クツクツ、素敵ナ夏ノ思イ出ヲ‥‥差シ上ゲマショウ」
 肩を震わせながら、自身が出来る事を成す為に。

 その頃、目的地を警戒しながら目指していた組は森に慣れ親しんでいるベェリーとイシュメイルが先導の元、池を目前にした木陰に潜み件の敵の様子を見守っていた。
「あそこ、かしら?」
「うん、そうだよ〜」
 鬱蒼とした木々の中に潜む者の識別が出来ず弥澄が宙に舞う、周囲の木々と同化しているシフールへ問えば明確な場所を指差しながら答える彼女のその先々を追うと
「‥‥やはり、武装している子鬼戦士もいるわね」
「少々手強そうですわねぇ」
 力量は然程ではないものの、子鬼の群れを見付ければ中にはしっかりした武装に身を包む子鬼を確認し、自身の予想が当たった事に対して炎の志士は呆れるが‥‥久々に依頼を受けたロレッタはそれでも幾許か、緊張した声音を響かせる。
「あぁ、それに数も多いな」
「‥‥先輩」
「ん‥‥あぁ、そうか。済まなかったな、まぁあの程度なら大丈夫だ」
 だが彼女への気配りは小次郎、出来ずに一通り周囲を見回しては確認出来た数で判断し呟けば‥‥弥澄に小声で囁かれ肘で小突かれると、そこで漸くロレッタの心情に思い至り苦笑いを湛えて神聖騎士の彼女へ詫びるも次いで、空を見上げれば集合予定である刻に近い事を皆へ告げると揃い踵を返すのだった。

●夜行強襲
 その夜の内、初日であるにも拘らず一行は早速動き出す‥‥子鬼達を追い出すべく。
「鬼さん、こっちらー」
「手の鳴る方へっ!」
 響いた叫びはすっかり仲良くなったイシュメイルとベェリーが上げたもので、次いで池の畔で涼んでいた子鬼達は一斉に振り返ると暫し互いに目線を配して自身らが取るべき行動に惑うが、辺りを伺って人気がない事を察したのだろう、十と数匹が同時に駆け出すと二人は僅かにたたらを踏んだ後、遅れて駆け出せば暫し追い駆けっこに興じる二人と子鬼達‥‥だったがその途中、子鬼達の更に背後から一斉に現れる一行。
「さぁ、ここで仕舞いにしましょう」
 みなもが声を響かせるその中で池への退路を断てば、子鬼達は自身らが陥った事態に僅かな間を置いて気付き狼狽すれば、その間隙を見逃さずにベェリーがテレパシーにて説得を試みる。
「暑い場所は嫌だから、あの場所は渡さない。返せ、って‥‥」
「ならば此方の都合で申し訳なく思うでござるが、退散願おう。抵抗するなら已む無く斬るしかないでござる」
「相応に、相手をして頂きますよ!」
 だが、緑の髪のシフールが説得は早く決裂すると止むを得ず、追い打つ様に宗光は己の声を響かせて威圧すればみなもが放った威嚇の矢が子鬼達の眼前に突き刺さると同時、一行は動き出した。
「ちょっと湖から出てってー!」
 するとイシュメイル、先とは逆に果敢に子鬼達の只中へ飛び込めば幼い割、巧みな剣捌きにて確実に急所を捉え、昏倒させては奮戦すれば
「久々に剣を振るいますので、手加減して下さいね?」
「言うなら、『手加減出来ません』じゃないのか」
「あら」
 その傍ら、おぼつかない手つきで微笑みながら木剣振るうロレッタの呟きへ小次郎が突っ込むと首を傾げる彼女に僅かだが苦笑を湛えるが、生まれた隙を見逃さず武装した子鬼が彼へ迫る。
「‥‥済まん、油断し過ぎた」
「いいえ、でも貸しは一つですよ」
 しかし倍近くいる子鬼達の動きを備に見つめていた弥澄の軍配に阻まれれば、次いで即座に抜かれた刀によって打ち倒されると、すぐに踵を返す彼女へ詫びる小次郎だったが‥‥嫌味なく弥澄に笑われれば、漸く彼は真剣な面持ちを湛えるが
「‥‥いざや、去らねばこの葬送火にて地獄へ案内仕る」
「よっし、しょうがないけど‥‥これで!」
 浮き足立っている子鬼達を早急に追い払うべく、一閥が厳かなる声にて詠唱紡いで掲げた刀に紅蓮の業火を宿して告げれば、同時にベェリーは彼とは逆に明るげな声音を凛と響かせ巨大な幻影の炎を彼の周囲に生み出すのだった。
「‥‥これ以上、やる? どうなっても知らないけどね〜」
 その幻影の出来に満足し微笑みながら、改めて彼らへテレパシーを用い問い掛けながら。

「そう言えば理はどうした?」
「単独で動くと仰っていたでござる」
「‥‥何をしているんだ」
 月が高き頃、逃走した子鬼達が戻って来ない様に先までの騒乱の場にて一息付く一行だったが‥‥理の姿が見えない事に小次郎は誰彼へと問えば宗光より帰って来た答えに彼、行動が全く読めない彼女が今何をしているのか気になって首を傾げたが
「タダ今、戻リマシタ」
「お、理か。何だか分からんがお疲れだったな、何をしていたんだ?」
「シバラク戻ルナイコト、念ヲ押シテイマシタ」
「そ、そうか‥‥」
 噂をすれば何とやら、何処からか戻って来た理の姿を見止めれば小次郎は一先ず彼女を労うと、尋ねる彼へ端的な報告だけ返す理に言葉を詰まらせつつ、だが彼女が取り組んでいた何事かは上手く行ったのだろうと察し頷くのだった。
「‥‥素敵ナ夏ノ思イ出、間違イナク染ミ込ンダ事デショウ」
 勝利の確信を呟きながら袖に隠し持つ、子鬼達を殴り飛ばした鋼塊を触れては理が首を回して微笑み浮かべる月の下で。

●蛍光乱舞
 さて一行、来て早々に子鬼を退治した事からいずれ来るだろう人々よりも一足先に夜行の元で乱舞する蛍が放つ、数多の光に魅入っていた。
「あー、涼しい‥‥」
「ボーっと眺めているだけでござるが、中々良い物でござるな」
「初めて見ましたが、素晴らしい光景ですね」
「‥‥出来る事なら、この光景を妻や子にも見せたいですね」
「あら、ご結婚なされているんですか‥‥羨ましいです」
 寝そべる自身の愛犬に凭れ寄りながらベェリーの静かだが、何処までも澄んで響く歌声の中で皆はそれぞれ、一閥や理が持ち寄った酒を飲める者達は交わしつつ談笑を楽しめば
「‥‥無性に刀の手入れがしたくなってきたでござる」
「思った事をするのが一番だよー」
「ソウデスネ」
 場違いではあると思いながらも率直に思った事を呟く宗光だったが、イシュメイルと理が和んだ場の空気からそれぞれ頷けば途端、自身の刀を抜いては幻想的な光景の中で掲げ目を細める。
「この美しい光を一刀殿と一緒に見たかったですね‥‥」
「ん、何か言ったか?」
「な、な、何でもありませんよ‥‥」
「そうかー、でも気にな‥‥っう!」
「兄様ったら、わざわざ聞かなくても。ね、みなもさん。もし良かったら向こうでお話、聞かせて貰えないでしょうか?」
「え、えぇ‥‥でも、秘密ですよ?」
 その傍ら、一人静かに池の水際にて蛍を見つめていたみなもの呟きをたまたま聞いていた小次郎は何の事かと尋ねれば、僅かな光源だけでも分かる程に頬を朱に染め言い淀むが尚も食い下がる彼はその途中、悲鳴を上げると兄へ肘打ちを繰り出したアリアが地に転がる小次郎を窘めると次いで、みなもに呼び掛ければ小さな声にて答えを返す彼女へ微笑み頷いた。

「良い夏の思い出が出来たわ。蛍に感謝しないとね」
「そうでござるな。きっとこれから、良い仕事が出来るでござる」
「そりゃ良かった、なら俺も負けじと頑張らないとなぁ」
 そして一行、人々が集まった初日も見守り一先ず危険は去った事を悟れば蛍達が今も舞う池へ振り返ると、素直な感想を紡ぐ弥澄と宗光に笑い掛けて小次郎も自身を鼓舞するが
「二人だけじゃ大変だから、手伝える事があれば僕も手伝うよ」
「それには及ばないさ」
「でも、辛そうだよ?」
 彼の様子を傍らにて見ていたイシュメイルがその表情から何かを察し声を掛けるが‥‥拒む小次郎の僅かな暇に見せた内心を、幼いからこそ敏感な感覚にて今度こそ捉えた彼は元先生の心情を言葉にて射抜くと
「‥‥参ったな、全く」
「ありがとうございます、イシュメイルさん」
「じゃあ、何かあったら宜しく頼む‥‥約束だ」
「うんっ」
 図星を突かれた小次郎は苦笑を湛えれば、兄の気持ちを代弁してアリアが礼を述べると彼も漸く素直な自身の気持ちを紡ぎ約束交わせば、頷くイシュメイルの頭を撫でるも
「あ、先輩。貸しも忘れないで下さいね」
 次に響いた、弥澄の屈託なく響かせた声には肩を竦めると小次郎は二人を見つめて言い切るのだった。
「必ず守るし返すから、安心しろっ!」

 〜終幕〜