刀剣収集

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:13〜19lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 8 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月10日〜08月17日

リプレイ公開日:2006年08月19日

●オープニング

●伊勢の夜、宿る影
 とある事より伊勢にて、巡察隊と名付けられた町民中心による巡回班が漸く軌道に乗ってきた、今日この頃。
「‥‥さて、今日のお勤めはこれにてお終い、っと」
 とある区画を見て回り『この辺りは』今夜も平和である事を確認する、町民らしい装いにて巡回していた侍は明るい声音を漏らし、家路へ着こうと渡ってきた橋の袂にて踵を返したが
「そう言う訳には、いかんな」
「っ?!」
 背後より響く声と、今までに感じた事のない恐ろしい剣気を受けて咄嗟に刀を抜き放ち振り返らずに鋭き剣閃を放つが
「見た所その刀、業物と見た‥‥頂く」
「‥‥貴様か、此処最近伊勢にて刀を集めて回ると言う辻斬りは」
「ふむ、そうだな」
(「こいつ‥‥かなりの手練か」)
 しかし刃は空を切り、即座に背後を振り返って飛び退れば唐突に沈黙を破った人物が橋の手摺に佇んでいる事を視界に捉え、言葉を交わす事暫し‥‥『彼』が放つ厳かな声音に自身の背へ怖気こそ走るが何とか踏み止まると、『彼』は侍と間合いを詰めるべくか彼の眼前へ舞い降りる。
「っせぇーーいっ!」
 不用意な『彼』の間合いの取り方に侍、僅かな逡巡も持たず宙へ舞った『彼』目掛けて正しく気合放ち、必殺の一閃を宙へ描く。
「な、い‥‥だと。確かに‥‥ゴフッ」
 しかし捉えたかと思われたその一閃はまたしても空を切り、次いで腹部に走る灼熱の痛みに血反吐を吐けば更に数度、全身に走る痛みに耐え切れず地へ倒れ伏す。
「目だけで追っていたのならまだまだ、だな。尤も私の声はもう、届かんだろうが」
 そして崩れ落ちる侍へ静かな瞳だけ向け告げれば、彼の手に握られている刀を引き剥がし、月明かりに翳してはその刀を食い入る様に見つめると
「これでもない様だ。尤もどんなものか知れぬし人の手に渡っているとも思えないが、さて‥‥まぁ暇潰しにはなるので良いか」
 次に紡いだ言葉の割、落ち込んだ風もなく音も立てずに二本の刀を鞘へ仕舞えば『彼』は再び夜空を見上げ、一言だけ呟いてはその場を去るのだった。
「今宵は良い月だな‥‥」

●過ぎる予感
 翌日、伊勢に帰って来たばかりの藤堂守也は頭を抱えていた。
「昨日でもう、十人目か」
「町民達にも件の話は届き、今では巡察隊の活動は現在殆どが休止しております」
「止むを得まい、むしろ当然の反応に私は安心している‥‥しかし刀狩りか」
 部下よりの報告を受け、町民達の対応には安堵しつつも伊勢藩主は顔を顰める。
 実の所、この一ヶ月は先日あった乱の完全収束の為に慌しく、実施する筈だった伊勢藩の部隊再編成がつい最近になって漸く始まったばかり。
 藩としては未だすぐに運用出来る兵力が限られているのが現状である。
(「そうなると、どうしたものか‥‥これを見越しての動きだとするなら、こちらの情報が漏れているのか」)
 それを思考の片隅に留めたまま内心でだけ呟く守也、爪を噛みながら部下達を見回すも‥‥一先ず今考えている事は後で対処する事に決めて、目下の問題に向き直り一つの結論を出せば静かに立ち上がった。
「するとやはり彼らの力を借りるべき、か。どうにも嫌な予感だけ拭えぬ、これが何かの発端でなければよいが‥‥」

――――――――――――――――――――
 依頼目的:伊勢の町を暗躍する辻斬りを捕まえろ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 NPC:藤堂守也(伊勢藩主)
 日数内訳:移動四日(往復)、依頼期間は三日。
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●今回の参加者

 ea0841 壬生 天矢(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea0858 滋藤 柾鷹(39歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2699 アリアス・サーレク(31歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea7197 緋芽 佐祐李(33歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea7871 バーク・ダンロック(51歳・♂・パラディン・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

アクテ・シュラウヴェル(ea4137

●リプレイ本文

●探るべき真意
「済まないな、自身らでやらねばならぬべき事であるにも拘わらず、手に負えず君らを呼んでしまって」
「いいえ、気になさらないで下さい。しかし刀を集める辻斬り、ですか。一体何が目的なのでしょう」
「さてな、それが分かるだけでも予防線は張れるのだが‥‥今の所、有力な情報はない」
 伊勢の街角にて一行を出迎えた伊勢藩主、藤堂守也は浮かない顔にて一行へ声を掛け呼び止めては、その第一声にてます詫びると静かな物腰にて緋芽佐祐李(ea7197)が紡いだ疑問に彼は顔を顰め深く嘆息を漏らすと
「刀を集めるのは『特定の刀』を探しているか、勝負を挑み勝った証に持っていったとか考えられますが」
「これだけ頻発していると言う事から考えるに犯人は『業物の刀』を狙っている訳でなく、『特定の刀』を狙っていると見るのが正しい気もする」
「いずれにせよ、対峙してみぬ事には分からぬな」
 その彼の、以前には見なかった様子に苦笑を浮かべながら佐祐李、自身の予想を次いで呟けば落ち着き払った表情でアリアス・サーレク(ea2699)も彼女に同意して頷くも、現状の結論を滋藤柾鷹(ea0858)が冷静に告げれば次に肩を竦めるバーク・ダンロック(ea7871)。
「ま、とりあえず碌でもねぇ野郎って事だけは確かだな」
「しかし刀は士の魂。それを力で奪い去るなどと‥‥被害者から聞いた話もある、と言う事は命を落とされた方ばかりではない様子。生きている方には刀を取り戻して返したい所です」
 豊かな体を揺らして鼻息荒くまだ見ぬ下手人に怒りを覚えると、その彼の言葉と共に頷いて御神楽澄華(ea6526)も真面目な面持ちにて決意すれば皆、気持ちを重ねて頷き交わす
「まさかとは思うが‥‥天皇の証である、須賀利御太刀(すがりのおんたち)が狙いだろうか」
「‥‥! 流石にそれは」
 だがその決意の後、壬生天矢(ea0841)が不意に呟いた言葉に守也は目を剥いて驚きを表すれば、他の皆が首を傾げる中で彼。
「そうだな、伊勢には他にも有名な刀は幾本かある事だしな」
 非常に低いだろう可能性に自嘲の笑みを湛え、自身の考えを戒めると
「とは言え、此度の依頼にこれらが関係なかったとしても‥‥話だけでしか聞かない名刀は刀を持つ者として一度は手にしてみたいものだな」
 しかしその次には苦笑を浮かべ自身、興味の尽きない、まだ見ぬ数々の刀に夢を馳せるかの様に高き空を仰ぎ見て言えば‥‥次に真面目な面子の鋭き眼光を受ける憂き目に遭い、素直に反省して詫びるのだった。

 そんなやり取りから僅かな時も惜しむと一行、それぞれ思い思いに散っていく。
 許されている時間は後、三日だけなのだから。

「ほんと、てんでバラバラだなぁ」
「故に下手人が住んでいそうな場所が絞り込めずにいる」
「確かにこれでは仰る通りですね」
 伊勢藩主の屋敷、若しくは巡察隊の本部であると言う守也の住まいにて、バークは被害現場が記された地図を見て、あちらこちらに描かれている紅き丸印を見て呻けば‥‥相変わらず嘆息を漏らす守也に慰める様、優しげな声音を響かせる佐祐李だったが
「それでは余り時間もありませんし、仮の巡回路も決めましたので少し外を見歩いてきます」
「な、ちょいと。どちらかと言うとこっちを手伝ってく‥‥」
 次に自身、取るべき行動を決めるとバークが引き止めるにも拘らずその言葉の途中で開け放った襖をパタンと閉めた。

「事が済めば巡察隊にも復帰して頂きたくありますが‥‥」
 それより暫し、伊勢の街を見回りながら下手人を誘き出すに良い場所を探していた澄華は今、街の中央を流れる川の岸辺にて駆け回る子供らを見守りながら呟いていたが
「やっぱり、澄華さんでしたか。どうですか?」
「‥‥そうですね、この辺りがいいかも知れません」
「なるほど、程好く木々もありますし」
 その川の両岸に掛かる橋の上から佐祐李に呼び止められれば、その問い掛けに対して彼女は辺りを改めて見回し言うと、佐祐李も頷き賛同すると
「私はもう少し、辺りを見て回りますが‥‥佐祐李様はこれからどうなさるのですか?」
「そうですね、行きたい所もあるので此処で」
「はい、お気を付け下さいませ。幾ら昼だとは言え」
 澄華に次いで問われれば踵を返し答えると、その大きな背へ投げ掛けられた真面目な声音での忠告には振り返り、苦笑を湛えて頷いた。

「‥‥見た時のない刀と、剣術を使っていた」
「刀はさて置いて、見た時がないとは‥‥我流か?」
「恐らくは、っ」
「療養している中、訪ねて済まなかったな。養生してくれ」
 深手を負いながら、それでも生き延びた被害者の自宅を訪ねていた柾鷹は未だ傷が痛むのだろう、苦悶の表情を浮かべて語られた話の一切を聞き終えれば彼を労ってその場を辞するが
「おう、柾鷹か。来ていたんだな」
「時間が限られているからな、下手人の情報は少しでも多く欲しい」
「それで、どうだ?」
 立て付けの悪い木の扉を閉めると同時、情報整理に根負けし守也の屋敷を脱出してきたバークと鉢合わせすれば、次に尋ねられた彼の問いには柾鷹。
「下手人と交錯している時間は僅か故、主だった事は分からないが風貌と身形からして浪人の様だな。後は皆が口を揃えて言うのは、変わった剣術を使うそうだ。剣術‥‥と言うよりは体術なのかも知れない、気が付いたら目の前から消えていたそうだ」
「‥‥手強そうだな」
 厳かに口を開けば、下手人の大まかな特徴を分かっただけ屈強な巨人の騎士へ伝えるとバークがその話から率直に抱いた、簡潔だが確かな敵のイメージに賛同すると
「そう言えば、刀の情報を集めに行った二人はどうしている事か」
 ふと、皆とはまた違う情報を探しに行った二人の事を思い出し‥‥何となく空を流れる雲行きが怪しくなった事から生真面目そうな面立ちの侍は、何を思ってだろう溜息を漏らした。

「どうだい、この刀。こいつは誰が作ったか分からないから銘はないが、これを作った奴はいずれ刀鍛冶師として大成するかもな」
 その彼らこと、アリアスと天矢は揃って守也より聞いた刀家事師達が集う通りへ赴けば、情報を集めながらではあったがその折に聞かされる、様々な刀の話に耳を傾けていた‥‥勿論、たった今も一人の鍛冶師からとある一本の刀を見せ付けられれば
「ふむ。確かに波紋といい、色艶といい申し分ないな」
「刀について詳しくは分からないが‥‥その俺が見ても確かに、この刀からは何かを感じる」
「それだけ分かれば十分だ」
「兄ちゃん達、話がよく分かるねぇ。て事は伊勢の神宝についちゃ‥‥」
「極一部の者しか目の当たりにした事がない、須賀利御太刀の事か」
 天矢とアリアス、揃い差し出された刀に魅入れば頷き合うと顔を綻ばせて鍛冶師は更なる話を紡ぐが口の端を吊り上げて天矢、彼の言葉を遮り言うと額を叩いて鍛冶師は笑う。
「おう、よく知ってるな! だが実はあれ、天皇即位の時や式年遷宮の度に作られている事は知ってるかい? つまり、一振りだけじゃあないんだよなぁ」
「そうなのか? ならば俺でも何時か手にする時が‥‥」
「あるかもな?」
 そして此処だけの話と言わんばかり、二人へと耳打ちすれば‥‥落ち着き払った表情を僅かに紅潮させ、鍛冶師が浮かべたままの笑顔に釣られアリアスは笑顔を浮かべるのだった‥‥暫し依頼の事を忘れて。

●刀剣収集
 下手人を捕らえるべき、重大な鍵が見付からないまま一行は二日目を終えようとしていた。
「よよいよいよい、良い月だー」
 その夜の出来事、昨日と同様に酒を飲んでいる事から上機嫌に鼻歌を口ずさんでいたバークだったが‥‥不意に背後より伸びる影と、猛烈な剣気に振り返れば同時激しく打ち鳴らされる、刀と刀。
「てめぇ、何もんだ!」
「話す必要はない、その業物さえ貰えればな」
 次いで詰め寄り肉薄しては確かに見た目、浪人風な男を問い質すも月が暗がりに隠れれば、その闇に顔を隠す様に浪人風の男は至って静かに、それだけ呟くが
「そうか、じゃあ無理にでも話して‥‥貰うぜっ!」
 それを宣戦布告とみなしたバークは次の瞬間、己が闘気を周囲に炸裂させればそれを合図に僅かな間を置いて近くの木々に待ち伏せていた、残りの五人が駆けつける。
「一瞬で業物と見抜くその目、目的は何だ」
「それも同じく、話す必要はない」
「貴様が探している物が何なのか、教えて貰おうか」
「‥‥ならば、掛かって来い。答えは戦いの後にあり」
 すると炸裂した闘気を受けてか僅か、身動ぎする男へ問う天矢だったが‥‥バークが持つ刀を見つめたままである彼の答えは変わらずに短く、だがそれでも尚問う歌舞伎な浪人の同じ問いに彼は嘆息を漏らすと答えを一行へ告げ、腰に携えていた刀を抜く。
「その考えは間違って‥‥」
 その彼へ反論するべく佐祐李が一歩、前へと進み出るが澄華が彼女を静かに手で制すると、巨躯の忍びよりも更に一歩前へ踏み出して人斬りの答えに応との代わり、抜刀すれば
「鬼道衆が一人、隻眼の若獅子‥‥壬生天矢、参る!」
 次々に皆が得物を手にする中、最先に天矢が名乗りを上げて駆け出せば‥‥その数瞬後には銀なる煌きが幾筋も、月光のみ輝く黒き空の下に描かれた。

「マジかよ」
 戦いが始まって直後、ニードルホイップを振るって件の下手人が動きを牽制する事に専念するアリアスだったが
「川のせせらぎが如し、その程度では私の足は止められぬ」
「圧倒的なこの足力、そう言う事だったのですね」
 恐るべき速度で駆ける浪人風の男には確かな実力を持っているアリアスでもその殆どが避けられ、たまに刀であしらわれれば呻く彼と同様、その光景に下手人の刀を狙って鎖分銅を構える佐祐李もまた舌を巻く。
「刃に込めるは誇り、瞳に込めるは意志‥‥それが分からぬ貴方には相応しき罰を」
 だがそれでも数は一行が当然ながら勝れば、男を囲みながら一瞬だけの急制動を見抜いた澄華が一足にて下手人へ迫ると、紡いだ自身の在り方と共に銘無き太刀を振りぬかんとするが
「っ‥‥!」
「惜しいな、だがまだその動きは余りにも真っ直ぐ過ぎる」
「だがお前も‥‥甘いわぁっ!」
 鈍い衝撃を次いで掌に感じれば、敵が持つ刀の柄にて打ち据えられた自身の太刀の柄を見て澄華は微かに驚きを覚えるも、それが驚愕に代わるより早く男が恐るべき速さで白刃振るえばそれは彼女の眼前へ迫るが‥‥それは突如、場に割り込んで来た闘気を纏うバークの頑強な肉体に阻まれると次には彼、一行が描く輪の中心へと飛び退る‥‥やはり、一瞬で。
「隙がない。だが、それならばっ!」
「天壬示現流‥‥」
「‥‥今っ!」
 その一連の動作に今まで見守っていた柾鷹だったが、漸く見切ってか動き出せば彼の対面にいた天矢もまた両刃の直刀を翳し駆け出すと、男へ振るった柾鷹の連撃を悉く、だが止む無く受け止めたその瞬間を狙い、剛剣振るえば下手人が天矢の刃に合わせる様、己が刃も振るえば同時に待っていた大きな隙が出来た事から佐祐李は遂に鎖分銅の鎖を放る‥‥のだが、その時だった。
「‥‥! 何奴!」
「クスクス」
「ちぃっ!」
 天矢が激しく下手人と刀を打ち合わせた直後、体の自由が利かなくなった事に天矢が新たに感じた気配へと叫べば‥‥人を小馬鹿にした様な笑い声が場に響き、僧衣を身に纏う背の低い男が月下の元に現れれば眼帯の浪人は警戒していたにも拘らず自身、気付かなかった事に硬直したまま舌打ちする。
「ほら、言ったじゃないか。もう少し大人しく行動しないと彼らが動き出すってさ」
「むしろ、その方が都合良く私も退屈をせずにも済む」
「‥‥っ! お前達は一体何者だ! その物言い、俺は許さないぞ!」
 だが僧衣を着込んだ優男は一行に構う事無く、拘束されていない血に塗れたバークを牽制する様に見つめながら刃を鞘に納めた浪人風の男へ言えば、何の感情も籠めずに彼が喉を震わせると今までクールな表情を湛えていたアリアスが激昂するも
「僕達? あぁ、そうだね。彼の事だから何も言っていないでしょ? 僕達は黒門さんの‥‥」
「‥‥‥」
「はいはい、ごめんね。ま、こう言う事でこれ以上は勘弁してね。なので、今日はこの場で退散」
 彼が激昂した真意にではなく、自身らについて問われた事に反応して優男は口を開くがその途中‥‥浪人風の男が何時抜いたのか分からない刀の刃が喉元へ突き付けられれば優男は仲間に詫びると一行に掌翳し、踵を返す。
「待て‥‥っ!」
「待っていたら、いずれ君達が動き出すから遠慮するよ。二人だけで君達全員を相手にする程、馬鹿じゃあないし、まだ機も熟していないから、またね」
 御身が動かない、その只中でも柾鷹は二人を呼び止めるが彼らは振り返らずにそれだけ告げれば、月下の闇へと姿を消すのだった。

●避けられぬ決断
 刀を奪う人斬りに襲撃された翌日、昼は更なる情報の追及と夜は誘き寄せを再度敢行したが‥‥多少、有益な情報を得られた程度で人斬りと巡り合う事はなかった。
「‥‥どうやら、止むを得んな」
「何が、でしょうか」
 その一行を見送るべく伊勢の街の外まで同道する守也だったが、不意に響いた呟きを聞けば彼の隣を歩いていた澄華、首を傾げて問うと
「伊勢巡察隊にも伊勢に仕える侍達や冒険者達を中心に構成した部隊を設立し、組み込む必要がありそうだ、と言う事だな」
「本気か?」
「状況が状況故、進言するつもりだ。それによって伊勢の軍備を割く事になろうが」
 頬を掻きながら、だがやがて一行へ胸の内を明かす守也の答えに柾鷹は声音だけ驚きを隠さずに問い質すも、返って来た次なる答えには微かな惑いすら見せず言い切る藩主。
「ですが、それでは外敵が攻め込んで来た際の防備が‥‥」
「斎宮でも同様の動きがあったと聞く。そちらが動いている以上これから間違いなく、何かが起こる。なれば私達は先ず真先に伊勢に住まう民を守る必要がある。それすらおぼつかず、ないがしろにする様ではこの藩に未来などない」
「その通り、ですね」
 だがその答えに佐祐李は伊勢を案じ、藩主へと尋ねるが彼の真意を聞くと納得したからこそだろう押し黙る彼女に代わって澄華がその答えを紡ぎ、絶やさなかった真面目な表情に僅かだが微笑みを湛えれば守也は頷くが
「しかし今回も助かった。下手人こそ捕まえられなかったがその尻尾は僅かながらに見えて来たし、少なからず敵への牽制にもなっている筈だ」
「そう言って貰えると嬉しいが‥‥」
「何、どちらにせよこれから先は私達の仕事だ。詫びる必要はないさ」
 改めて一行を見回し、今回の依頼について再度感謝の言葉を皆へ掛けるも、しかし浮かない表情を浮かべバークは藩主の礼に言い澱むが、首を左右に振って守也が苦笑を湛え否定すれば
「それではな、縁があったらまた会おう」
 目の前に広がる、街道の前へ至るとその場にて歩を止めて彼は名残惜しくも再会を願い、皆と握手を交わした。

 〜一時、終幕〜