【女装盗賊団】蹴散らせ、褌海女軍団!

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:5 G 81 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月25日〜09月03日

リプレイ公開日:2006年09月01日

●オープニング

●真珠ががが
 何故か、乱獲の憂き目に遭っていた。
「はっはー、姐者! 此方の鮑のがでっかいぞー!」
「な、何だってー!」
 とは言え、実際に狙われているのは真珠を内包すると言われている鮑。
 それを必死にかき集めてはいやにいかつい海女さんの一人が海面に顔を出して叫ぶと、その周囲に数人‥‥やはり最初の海女さん同様、ごつい海女さん‥‥と言うか男だろうお前ら、みたいな奴らが幾人も顔を出しては先に掲げられている鮑の大きさに目を見開くと
「活動の自粛を出してはいたが、屋敷に篭り切りとなっている『姐さん』もきっと退屈しているだろう。土産の一つでも持って機嫌を取らないと‥‥」
「い、言うなぁ! それ以上は聞くだけでも勘弁被りたい!」
「はっはー! 何はともあれ、頑張るぞー!」
『おー!』
 その鮑を持つ海女(?)さん、ふと空を見上げて呟けば‥‥別の海女さんが恐怖に打ち震え、彼が紡ごうとしたそれより先の言葉を自身の声にて打ち消すと中央の海女さん(?)はその気持ちを察し、豪快に笑えば野太い声にて皆へ檄を飛ばすと別の地点を目指し、泳ぎだすのだった‥‥波間に褌を漂わせながら。

「‥‥何だってあんな奴らにあたい達の漁場を取られなきゃならないのさ」
「知らないよ」
「でも、私達じゃ止められそうにないよね」
「と言うか、止めたくない。男連中でもこればかりは無理だろうしなぁ」
 その光景を岸辺から見守る者あり。
 正真正銘、女性の海女さん達で一週間ほど前から突如として現れた偽の海女集団をねめつけてはぼそぼそと文句を言えばその最後。
『馬鹿が伝染りそうだからねっ!』
「とにかく、だ。こんな状況じゃあ仕事もままならない。藩主様に掛け合おうじゃないか」
 皆は声を揃え笑うも‥‥その背後に立つ、海女さんの元締めだろう女性が皆を窘める様に声を発すれば、次いで再び偽海女軍団が悠々と泳ぐ海を見やり‥‥肩を落とすのだった。

●困惑する、伊勢藩主
「どうしてまた、こんな忙しい時期に‥‥」
 数日後、伊勢藩主である藤堂守也は自身の屋敷にて頭を抱えていた。
 その案件とは先日、鳥羽の海岸に現れた偽海女軍団‥‥恐らくは『華倶夜』だろう、その処置に対してであり目下の悩みである伊勢藩士の再編成で慌しい彼はそれ所ではないのだが
「誰か、手の空いている者は‥‥」
 鳥羽に住む人々も捨て置く訳には無論、行く筈なく微かな嘆息を漏らした後に守也は部屋へ声を響かせる。
「いる訳がないか‥‥さて」
 ‥‥しかし返ってくる返事はなく、此処で漸く顔を上げれば誰もいない事にやっと気付き、再度嘆息を漏らすと
「しょうがない、か‥‥ならば酷く気の毒ではあるが目には目を、歯には歯を。いや、それも違うか。しかし今は彼らを頼る他、ない」
 渋面を浮かべ、一つの決断を下しては頭を抱えるのだった。
「‥‥この案件もいい加減、対処せねばな‥‥」
 すっかり忘れていた『華倶夜』の処置を別に纏めていた、要対応案件の一つに書き加えながら。

●いい迷惑
 そして場面は変わり、冒険者ギルド。
「‥‥全く」
「ん、どうした?」
 何時もの様に受付に座る物静かな青年が漏らした溜息が聞こえてか、冒険者の一人が彼に近付き、問い掛けると‥‥その彼は一枚の和紙を答えの代わりに冒険者へと突き付ける。
「‥‥久し振りだなぁ、おい」
「出来る事なら、金輪際この名前は見たくなかったが‥‥止むを得ないか」
 するとギルド員に遅れて冒険者の彼が溜息を漏らせばギルド員の青年、伊勢の状況を鑑みつつ無理やりに割り切ると此処で漸く伊勢藩主から来た依頼を他の冒険者へ見せ付ける為、筆を走らせる。
「しかし、一体どんな奴らだよ。この『華倶夜』って奴等?」
「知るか、女装好きな盗賊団だと言う以外はな」
 するとそのやり取りを傍から見ていた別な冒険者、彼の手元に置かれている伊勢藩主からの文に視線を落とし、聞いた時のない盗賊団の名にギルド員へと問うが投げ遣りな答えだけ返すも
「だが、掲げている信念なり夢なりには命を懸けているのだろう。でなければこうも活発ではないし、しつこくもないだろう‥‥全く、叶わん」
「信念とか夢、って‥‥」
 だが続き、冷静に盗賊団の内情を察して呟けば‥‥女装盗賊団には似合わない単語が出てきた事に呻く冒険者達。
「とにかく、だ。何ともやるせない依頼だが‥‥誰か引き受けてくれ。先ずはこいつ等を捕まえる為に」
 それでも、ギルド員の青年が捻り出す様に喉を震わせ言葉を紡げば、冒険者ギルド内には次いで深い嘆息が一斉に響いた。

――――――――――――――――――――
 依頼目的:鳥羽の海岸にて鮑を乱獲する、女装盗賊団『華倶夜』を捕らえよ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 日数内訳:移動六日(往復)、依頼実働期間は三日。
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●今回の参加者

 ea0127 ルカ・レッドロウ(36歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea2630 月代 憐慈(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4331 李 飛(36歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea4675 ミカエル・クライム(28歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea7871 バーク・ダンロック(51歳・♂・パラディン・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea8214 潤 美夏(23歳・♀・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 eb0050 滋藤 御門(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0370 レンティス・シルハーノ(33歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

神木 秋緒(ea9150

●リプレイ本文

●海は広いな大きいな
「はてさて、今回は世にも微妙‥‥ではなくて、奇妙な女装盗賊集団が相手ですわね。流石ジャパンですわ、狭い国だけあって変態も濃いですわね。まあ、変な奴には頭でも叩いて再教育‥‥」
 伊勢へと辿り着いた一行、今いる場所から海は望めないがそちらがある方を見やり今回の依頼の概要を淡々と語り口調にて述べているのは潤美夏(ea8214)だったが、生憎とそっちの方には誰もいません。
 しかしそれは途中で途切れると
「出来るので?」
「知らんよ」
 唐突に振り返り、首を傾げては伊勢藩主である藤堂守也へ問えば返って来たのは素っ気無い返事のみ。
 その答えに難しい表情を浮かべる美夏ではあったが、その隣でやはり海がある方を見つめている巨躯の神聖騎士であるレンティス・シルハーノ(eb0370)。
「一先ず伊勢へ着いたぜ‥‥蒼い海が俺を呼んでいるっ!」
「いかつい海女さんですって?」
「あ?」
 大柄な体格に相応しい声音を張り上げ叫ぶも、長き金髪を鬱陶しげになびかせながらミカエル・クライム(ea4675)が漏らした呟きに彼は思わず間抜けな声を上げる。
 それもその筈、依頼の直前になって漸く京都に辿り着いたのだから実の所、詳細を余り把握していない。
「何とも訳の分らん連中だな。しかし海の男として、海を汚す様な真似をする連中をのさばらせておく訳には行かん。とっとと捕まえて、その性根を叩き直してくれるわっ!」
「褌の女装した男が海から上がってくる訳か‥‥見たくないなぁ、そんな光景。いや、来てくれないと困るんだが‥‥褌女装男の土左衛門なんざ見たくないし‥‥」
「だが女装と聞くと‥‥経験者なもんで何だか複雑な心境だが」
 その彼が見守る中、禿頭を太陽の光によって眩しく輝かせるバーク・ダンロック(ea7871)が鼻息荒く憤慨するも、黒染めの衣を揺らして月代憐慈(ea2630)が扇子で掌を叩き葛藤している中、ルカ・レッドロウ(ea0127)が帽子を器用に指先で回しながらボソリ、とんでもない事を言う。
「や、それでも許可なく漁場を荒らすのは良くねェさな、うん」
「何の話だ?」
「今回の依頼の話に決まっているだろう。変態褌偽海女軍団を捕まえる、と言うな」
「‥‥なんてこった」
 すると途端、皆の視線が彼を射抜けばルカは先の失言を詫びる様に改めて他の皆と気持ちを合わせ頷けば、此処でやっと口を挟む暇を見付けたレンティスが尋ねると引き締まった体躯の持ち主である李飛(ea4331)の答えを聞いて即座にその場に屈み込んでは頭を抱えるのだった。
「お忙しい藤堂様のお手を煩わせるまでもありません、お任せ下さいませ」
 そんな激しく落胆する神聖騎士の様子を見て、普段と変わらずたおやかながらも苦笑いを浮かべながら滋藤御門(eb0050)は伊勢藩主へと向き直れば、固く決意こそするが
「ですが前回、どなたかが追跡して根拠地等の情報を得た気がしたのですが?」
「あぁ、そう言えばそうだな。どうなっているんだ?」
 一つ、以前の依頼に携わっていた事から沸いた疑問を真直ぐ守也へぶつければ憐慈もまた頷きながら御門に同意すると伊勢藩主。
「確かに根拠地は把握している、しかし伊勢藩士の再編成とかに時間を食われて中々な。だが漸く最近になって落ち着いて来た事からいい加減、対応しようと思った矢先にこれだ‥‥とそう言う事で正直、討伐はこれからだな。この件も早急に対応しなければならない案件であり、早めに動くつもりだ。尤も」
「尤も?」
「対応に手馴れている君達の動員を今後も考えている、藩士達だけではきっと戸惑うだろうからな」
『‥‥はぁ』
 彼らの質問に対して明確な答えを返すもその最後、言葉を途切らせれば改めて尋ねる御門の予想が当たる事となり、誰からともなく深い溜息が口より吐いて出る。
「こう言う連中の事をジャパンの諺では‥‥『偽海女に真珠』と言うのでしたっけ?」
『言わない言わない』
 そんな光景の中、自身の髭を撫でながら何事か考え込んでいた美夏が不意に呟けば‥‥間違ったジャパンの諺へ皆が皆、しっかりと突っ込むのだった。

 何はともあれ、依頼書より詳しい話を守也より聞けば一行は早速鳥羽へ向けて歩き出す‥‥気が抜ける事必死な変態褌偽海女軍団と相打つべく。

●誘引
 と言う事でやって来ました、鳥羽の町。
 辿り着くなり一行は早朝であるにも拘らずでっち上げた情報を流すべく、鳥羽の町から港に海岸沿いへ至るまで足を運んでは声高に偽情報を流布する。
「それらしい人を見掛けなかったのですが、この海岸沿いでも」
「あぁ、そうだねぇ」
 だがその夕刻、一行は海が望める海岸沿いにある宿へ集うも女装盗賊団(部隊名不明)の姿は一切見られなかった事に御門が訝り呟くと、それにルカも頷き‥‥次いで他の皆を見回した御門の視界にはやはり、一様に頷く残り六人の姿が入って彼は次に肩を落とす。
 とは言え一行のやり方に問題があった訳ではなく、しかしそれにも拘らず妖しいだろう女装の一団の姿を全く見なかった‥‥となると。
「鮑を獲るべく、ずっと海にいるのか?」
『まさか』
 真剣な面持ちと声音で呟いた飛の言う通りになるのだがが、それは信じられずに一部の者は否定するが
「でも、完全に否定は出来ませんですわ」
 常識知らずな女装盗賊団との遭遇経験がある美夏が珍しく顔を顰めて呟けば‥‥否定した面子は次に掌を返し、同意の代わりに一度だけ呻く。
 すると次に打つべき手を考えるべく一行は沈黙し‥‥だがやがて、皆の視線は一人の男性へと注がれる事になる。
「分かった、それじゃあ俺が一肌脱ぐぜ」
 その皆の視線を受けたのはレンティス、すぐに立ち上がれば高らかに宣言した。

 と言う事で翌日、天候は快晴、吹く風は少し強め。
「‥‥おい、そこのお前。誰だ!」
「俺? 俺は通りすがりの河童だっちゃ」
「‥‥河童?」
 少し荒れている気がしなくもない鳥羽の海にて、変態褌偽海女軍団の一人が視界の片隅に緑の塊を見付ければ、荒々しく尋ねると見事な泳ぎを披露する、河童だと自身の事を言う緑の塊をねめつけた褌偽海女の一人だったが、彼はそんな事など気にしない。
 お互いに不審人物だし。
「実は此処だけのお話があるっちゃよ」
 実際には聞く耳を持たない様にしているだけだが、その河童もどきは褌偽海女へ泳ぎ近寄れば静かに囁いた。
「‥‥伊勢神宮から海女さん達に新しい衣装が届けられたって聞いたっちゃ。それに際して鳥羽の港で明日、神事が行なわれるっちゃよ。そこでその衣装が公になるらしいっちゃね〜」
「それは聞き捨てならないな」
 その話を聞いて褌偽海女、耳寄りな情報を聞いたと笑顔こそ浮かべるが‥‥それも僅かな間だけ。
「だが、蛙と言うのがなぁ」
 次いでどうしても気になる彼の身なりから、蛙ではないのかと疑う‥‥まぁその疑問は当然ではあったが
「蛙? 緑で泳ぎが得意だから河童に決まってるっちゃ」
「‥‥‥」
「信じる信じないは好きにするがいいっちゃ。でも確かに伝えたっちゃよ? 後で後悔しても知らないよ〜」
 その彼は別段動じずに尚も言い切れば、それでも疑念を払えずに彼がジト目で河童だか蛙を見つめると、潮時と察した蛙だか河童に扮していたレンティスは来た時と同様に颯爽と泳ぎ去った。

「どうする?」
「どうするもこうするも‥‥そうだなぁ」
 そんな事でそれより暫く‥‥謎の河童の話を受けて、変態褌偽海女軍団の面子はそれぞれどうすべきかと思い悩むが、一団を束ねる男性も暫し悩んだ後、一つの決断を下した。
「殺られる前に殺れ、だ!」
 何か違う気もするが、腹は決まった様だった。

●決戦
 と言う事で更に翌日、天候は晴れ、風は昨日よりも少しだけ強い。
「ほんにゃらー、ふんにゃらー」
 憐慈が織る、適当な呪文(?)が蒼き空の下、鳥羽の港の一角で響いていた。
 そんな訳で今、一行が主導により海女さん達の協力を受けて適当にでっち上げた神事が執り行われているのだが
「あれ、かねぇ?」
「あれ、だろうな‥‥」
 神事を執り行っている面子と海女さん達に主役である白き海の衣を警護する様、隙無く立ち尽くしていたルカとバークは初めて見たそれらしい存在を見付けて囁きあう。
 それは近くなく、遠くもない海面より顔だけを出し、こちらの様子を見守っている様子。
「近寄ってくる気配はありませんわね」
「それなら」
 今すぐ動き出す気配は感じられず、美夏が僅かにだけ緊張を走らせると見ているのも見られているのも辛く感じたミカエルが神事を主に執り行っている憐慈へ視線を走らせた。
「‥‥これにて神事の一切を終了とする、それでは暫しこの衣を海の神に見て頂くべく我々はこの場を辞そう」
 すると彼、紡いでいた呪文を止めればこの場に居合わす皆へ視線を巡らせ芝居掛かった口調にて告げ、踵を返すとその直後。
「モギャー!!!」
『‥‥早っ』
 どんな身体能力を持っているのか、何時の間にか海の衣の目前に迫った変態偽海女軍団が一人の叫びが響く、憐慈が予め張り巡らせておいた雷撃の罠に引っ掛かって。
 その行動の速さに一行は様々な意味で驚くが
「これは我々、女装盗賊団『華倶夜』が海戦部隊『海神』が頂く!」
「掛かったな」
『あ?』
 黒焦げになっている同胞も気にせず、残った変態褌偽海女軍団の面々は声高らかに宣言するが‥‥飛が静かに微笑み紡いだ句には間抜けな声を上げる彼ら。
 すれば次には既に取り囲まれている事に気付き驚くと、舌打ちすれば彼らの頭は一行へ視線を巡らして‥‥憐慈と御門の存在にはと気付くなり、烈火の如く怒り出す。
「貴様、もしや‥‥我らが同胞を次々に屠った奴だな。そしてそこのお前もぉっ!」
「変な方面に名が知れ渡っていて、至極恐縮の極み」
「‥‥困りますけどね」
 その怒りを目の当たりに、海女さん達を避難させていた二人は困惑するも
「因みにそれ、普通に海女さんが着ている奴だから宜しく。おまけの巫女装束も在り来りな奴だし」
『た、謀ったな!』
「‥‥始めようか。その性根、俺の拳で叩き直してくれる」
 とりあえず出鼻を挫くべく風の志士が微笑み紡いだ衝撃的な一言に、変態褌偽海女軍団は騙された事からやはり怒るがそれには構わず拳を掲げ誰よりも疾く駆けていた飛の宣言を持って、戦いが始まった。

「その褌、明らかに邪魔ですわね?」
「ひ、卑怯な!」
 呟きながら動じる事無く風にたなびく褌を踏みつけ肉薄すれば、美夏が『海神』の一人は動きを封じられて歯噛みするも
「その様な格好をしている貴方方が悪いのですわ」
 僅かなその狼狽の間に彼女は木剣の柄で彼の手の甲を打ち据え、武器を叩き落すなりすぐに木剣の軌道を変えて思い切りその横面を張り飛ばし、微笑む。
「これがまな板の上の鯉、って奴かねぇ?」
「良く知っているな」
「くぅ‥‥後退する! 我らが戦場は海‥‥」
 一行が優勢なその光景に日本刀を振るい、転倒させた『海神』の一人をまた蹴り飛ばしてルカが黙らせれば感心して憐慈は余裕の笑みを湛えるも、頭の号令が次に轟き‥‥だがその前。
「海に逃げようったって、そうはいかねぇぜ!」
「‥‥焦げてしまいなさいっ!」
 それを打ち消さんと、バークにミカエルの声が辺りへ響けば闘気の奔流に火の鳥が暴れ狂えば、海へ飛び込もうとした『海神』達の周囲を焼き焦がす。
「それでも僅かに海へ逃げられてしまいましたね」
「出るしかないかねぇ、余り気乗りしないが」
 しかしそれでも海へ幾人か逃れた事に水晶の剣を振るい立ち回っていた御門が気付き、ルカも周囲が静かになった事を確認すると彼らを追うべく手漕ぎの木船へ駆け寄るが
「がははは、こんな何も無い所で俺のオーラから逃げられると思うなよ!」
 勢いづいたバークは止まらずに、豪快な笑いと共に海へ颯爽とダイブする‥‥が
「気を付けろ、何か来るっ!」
 海にて蠢いている彼らの動きがいささかおかしい事に気付いて自身も海へ飛び込もうとした飛が慌て、叫ぶも時既に遅し。
 誰かが呟きが消えれば同時、それは海面スレスレで闘気を炸裂させたバークと海に出た小さな船を中心に効果を表し、海面を落とし下げる。
「覚えてろよぉーーーっ!」
 多少の手傷こそ負わせただろうが、その間隙に『海神』の頭の絶叫だけが響き渡ると次いで、激しき水音だけが水の壁に行く手を阻まれている一行より遠ざかって行くのだった。

●大海原を望むは
 ロープにて全身を隈なく簀巻きに縛り上げられている変態褌偽海女軍団『海神』のご一行様と冒険者の皆。
「女装が好きなのでしたら、この様な服を着て大道芸でもしてお金を稼げば良くなくて?」
「あぁ、何かそれも面白そうだな」
 その、簀巻きにされた一団を見下ろしては嘆息と共に尋ねる美夏だったが、返って来た答えには肩を竦め呆れるも
「女装は良いわ‥‥でも、やるからには女性らしい姿を目指しなさいっ!」
 小さき戦士の肩を叩きミカエル、様々な姿で転がる偽海女達を肯定するが、次には厳しき口調で彼らを責め立てる‥‥確かに彼女の言う通り今までの部隊の中で彼らは最も微妙な女装具合だから、その言い分も分からなくはない。
「な、何て事だ。そんな大事な事を忘れるなんて‥‥」
「女装は如何に『美しく』なるか、それが大事なのよ。あ、『面白く』も大事だからね? それを何‥‥その体つきは? そして、話し方! 努力が全っ然足りないわね。大体女装たるもの‥‥」
 告げられた衝撃的な彼女の宣告にうな垂れる彼らだったがそれでも尚、ミカエルは女装の真髄を説くのだが‥‥その傍らでは何時の間にか海女さんが準備した炭にて鮑を炙っては、焼けた端から他の面々が次から次にと頬張っていた。
「ほぅ、こりゃ美味いねぇ」
「そりゃそうさ、此処で獲れた鮑は伊勢神宮にも奉納しているからね」
「なるほど、道理でなっ!」
「‥‥」
 ルカの提案が通った結果の追加報酬で‥‥その本人は勿論の事、海女さんの解説を聞いては納得するバークに、鮑の美味さを実感して黙してしまう飛が舌鼓を打つ。
「ミカエルさんは食べないのですか? 美味しいですよ」
「ま、ひひんひゃないは。はれははれへ楽ひほうはし」
 だが女装に付いて熱く説くミカエルも呼ぼうと御門は声を掛けるが、次の鮑を頬張りながらルカはその光景を見つめ笑いながら彼を止めるも、漸く事の事態に気付いたミカエルは早く振り返るなり一度だけ叫んで皆の元へ駆け寄るのだった。
「‥‥ちょっと待ちなさいよ、私も食べるわっ!」
 何はともあれ、此度の戦いも無事に終わった‥‥次はそろそろ本丸攻略と行きたい所だが、さて。

 〜一時、終幕〜