【再び、目覚めて】足掛かり

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:11〜17lv

難易度:やや難

成功報酬:6 G 24 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月05日〜09月12日

リプレイ公開日:2006年09月13日

●オープニング

●伊勢の街中、稀ではあるが、こんな光景
「ゴーレム、か」
 とある冒険者が連れて歩いている小型のゴーレムを見てボソリ、と呟いたのは水の精霊を手繰るウィザードで、以前はそのゴーレムに関する研究を行なってもいたアシュド・フォレクシーだった。
「昔に比べて、僅かだが身近になったみたいだな」
 その光景を見て彼は僅かに顔を綻ばせるも、次にはその表情に憂いが走る。
「‥‥燻っている場合じゃないか」
 そして嘆息を漏らせば直後、今の自身を改めて振り返って呟く。
 英国にいた頃、行っていたゴーレムの研究はジャパンに来てより今まで、全く行なっていなかった。
 ジャパンに来てより‥‥いや、来る前より色々な事があったからとは言え焦燥を覚えていた彼は漸く決意する。
「全てが守れる訳ではない事は分かっている。だがそれでも私は『あの時』の後悔をもう、したくない。だから」
 今もまだ残る自責の念を払うべく、苦々しい表情を湛えながら誓う。
「だから、私はこの力を持って守る。必ずだ」
 澄んだ蒼の下、間違いなくアシュドは断言する‥‥もまだ、惑いを残しているからこそ主語が抜けた中途半端な宣言である事に彼はまだ、気付かない。
「‥‥しかし、何をしたものかな」
 だが自身が下した決意の後には再び、別なる惑いの元に襲われてアシュドは髪を掻き毟る。
 それもその筈、必要最低限の知識こそ頭の中には入っているが詳細を記した文献の数々は英国に置いてきており、また異国の地にてゴーレムをどう研究すべきか思い悩んでいたから。
「施設がなければ材料もなく、それ以前に懐が‥‥参ったな」
 故に今後の事を思い悩み、恵まれていた今までの環境を思い出すと‥‥自身の甘さに対して歯噛みしてボソリと呟いた、そんな時だった。
「ならば、此処へ行ってみるがいい」
 背後より何者かに呼び止められたのは。
 聞いた覚えのない声の主の闖入に驚き、アシュドが振り返れば目の前にいたのは一人の老人だった。
 何故声を掛けられたのか分からず、アシュドは唐突な闖入者を訝るも老人は彼の思惑なぞ気にも留めず、一枚の地図を突き出した。
「此処ならば、西洋とは違ったコンストラクトに出会えるだろう‥‥それはきっと、君の力が一端になる筈。多かれ少なかれ」
 その地図と、老人の顔を交互に見比べた後にアシュドが疑問を紡ぐより早くそれを押し付ける様に託せば、老人は踵を返す。
「だが一言だけ言っておく、決して壊すなよ。私にとっても此処は大事な場所でもあるのだからな」
「‥‥貴方は?」
 だが、進めた歩を一度だけ止めれば彼は振り返らずに忠告だけすると漸く此処でアシュドは悩んだ末に一つだけ、老人へ問い掛ける。
「志を同じにする者よ‥‥この力、見誤るな。万能たる物は決して存在せず、存在するとしてもそれだけでは解決をもたらしてくれない。全てを成し遂げるのは己が意思だけである、と言う事を覚えておくがいい‥‥」
 すれば老人、意味深な言葉だけ返せば呆然と立ち尽くすアシュドをそのままに、その場より去るのだった。

●京都、冒険者ギルド
「‥‥挙げている遺跡を探索するに際し、護衛を求むか」
 数日後、伊勢より飛来した伝書鳩に結わえられていた文を解いてギルド員は静かにその内容を読み上げていた。
「ある意味では厄介だな、内部にあるだろう物は決して破壊するな‥‥か。となると、それなりの力量を持った者になるよなぁ」
 すると何時の間に近付いていたのか、一人の冒険者がその文を覗き込んでは勝手に納得し頷いている姿に気付くとギルド員は苦笑を湛えるが
「それもそうだがもう一つ、気を付ける事があるぞ」
「‥‥ん?」
 その文には書かれていない、誰から聞いたか記憶が定かではないが‥‥もう一つの注意事項を思い出して彼に関する、ある話を切り出す。
「アシュドって奴、確かゴーレムの類には目がない筈だ。恐らくこの遺跡にはそれらがあるのだろう、となるといざそれを目にしたら‥‥何をするか」
「なるほど、ねぇ」
 するとその補足説明に再び納得して冒険者は頷くと、文を手にしていた彼もまた頷いて同時、筆を取って墨に浸らせては呟いた。
「色々な意味で厄介な依頼かもな」

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 依頼目的:アシュドの研究補佐!(専ら彼の護衛と制御?)

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 NPC:アシュド
 日数内訳:移動四日(往復)、遺跡の探索期間は三日。
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●今回の参加者

 ea0340 ルーティ・フィルファニア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea0606 ハンナ・プラトー(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0858 滋藤 柾鷹(39歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5603 ユーウィン・アグライア(36歳・♀・ナイト・ジャイアント・モンゴル王国)
 ea6601 緋月 柚那(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea7197 緋芽 佐祐李(33歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea7871 バーク・ダンロック(51歳・♂・パラディン・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

滋藤 御門(eb0050

●リプレイ本文

●踏み出して、先ず一歩目
「遅いっ!」
 京都の冒険者ギルド前‥‥果たしてどれだけ前から待っていたのか、自身が歩き回って作ったのだろうわだちの中で漸く一行の姿を見止めたアシュド・フォレクシーは開口一番、皆へ叫ぶ。
 尤も一行が来た時間は定刻通りであり、早く来過ぎた彼にそう言われる筋合いはなかったりする。
「アシュドー! 久し振りなのじゃっ!」
「ぶっ‥‥ひ、久し振りだな」
 と言う事で、そんな事は気にせず緋月柚那(ea6601)がフライングクロスチョップ宜しく彼に勢い良く飛び付けば、それを受け止め損ねたアシュドはたたらを踏んで後方へ退く。
「所で、江戸でエドに逢ったが‥‥はて、こちらにはまだ戻っておらぬか?」
「そうだな」
「ではまだ、江戸におるのだな。エドも苦労しておったの」
 すればその彼女、アシュドの様子に笑うが不意に先の行動が照れ臭くなってか、話を反らす様に未だ江戸にいる同じ年の頃の人物が話を切り出せば、暫し彼の事を話す柚那。
「アシュドさんがゴーレムの研究をしていたのは噂で聞いてましたが、余程お好きなんでしょうね。何だかそわそわしている様に見えます」
「そうだねー」
「‥‥そう見えるか、そうか」
 その二人が語らう光景を見て、語らうアシュドが密かに纏う雰囲気を見抜いた緋芽佐祐李(ea7197)がそれを口にすればハンナ・プラトー(ea0606)も赤毛を揺らし、頷くと彼女らのを耳に入れた彼は振り返り、苦笑を浮かべるが
「とにかく、進むんなら手伝うね。ゴーゴー、直進だー」
「とは言え、『物は壊さない様に』宜しく頼む」
 それは些細な事と笑顔と共にハンナが彼へ言い、出発を促すもアシュドは改めて皆へ注意事項だけ告げた、その次。
「‥‥物を壊しては駄目な遺跡の調査、あたし達冒険者は壊すのは得意でも壊さないのは‥‥」
「確かに中々面倒な依頼だが『鉄壁の防壁』と呼ばれた俺にはピッタリかもな、はっはぁ!」
「まぁ、何とかしてみるかぁ」
「折角やる気になったアシュド殿の気勢を殺ぐ訳にも行かぬしな」
「そうだね」
 彼の警告へ困惑の表情を浮かべて静かに、呻く様に呟いたのはユーウィン・アグライア(ea5603)だったが、彼女と同族である巨人のバーク・ダンロック(ea7871)の豪快且つ自信有りげな声が辺りに轟かせればユーウィンは肩を竦めながらも、しかし久々に見た明るげなアシュドの為に頑張る事を決意すると彼女と同じ事を考えていたのだろう、滋藤柾鷹(ea0858)が落ち着いた表情ながらもそれを口にすれば漸く彼女も笑顔を浮かべた。
「よし、それじゃあ行こうか!」
 すれば柚那との話が一時落ち着いたアシュドが皆へ呼び掛ければ一行は地に足が付いていない彼の後を追い、謎の遺跡へ向けて歩き出すのだった。

 果たしてどんな事が待っているやら、色々な意味で不安を覚えながら。

●遺跡にて、二歩目?
 やがて辿り着いた遺跡は話の通り、山の麓に入口を構えており一見すれば洞窟の様にも見えた。
 とは言え、それはアシュドにとって些細な事であり意に介さず彼が足を踏み入れれば、一行もまた不思議な趣きの遺跡へと入る。
「アシュドさんは後ろをお願いします」
 だが暫く遺跡内を歩けばアシュド、佐祐李らの提案から一行の後ろへと回されれば止むを得ないと頭では分かりつつも不機嫌そうな表情を浮かべていた、その時。
「そう言えばアシュドさんって、ゴーレムの研究をされていたんですよね?」
「そうだな、研究だけでなくそれなりのものを作れたんだが」
「今は?」
「‥‥聞くな」
 彼の気持ちを和らげようとルーティ・フィルファニア(ea0340)が声を掛ければ、途端に表情を嬉々としたものに変えて話し出すも‥‥続く問いには呻き、答えの言葉を濁らせればルーティは静かに肩を震わせ笑い‥‥だが、次に寂しげな表情を湛えて呟く。
「意外に知らない事が沢山あります、それなりに長い付き合いなんですけどね」
「そう言う物だ。時間が長かろうと短かろうと‥‥自分以外の人の心を全て理解は出来ない。だから別段、ルーティがその事を気にする必要はない」
「‥‥必ず、そうなんでしょうか?」
「ん?」
 そして苦笑を湛える彼女だったが何処か達観した、何処か憂いを帯びた表情を浮かべて言うアシュドへルーティは疑問符を投げ掛けた。
「上手く言えないんですけど‥‥それは、絶対じゃないと思うんです。何て言うか‥‥その、あれですよ。あれ‥‥あれですー!」
「‥‥そうだな」
 そして続いた言葉は非常に不明瞭で、喉元まで出掛かっている言葉を紡げずにいたが‥‥頭から煙を吹かん勢いの彼女へアシュドは何を思ってか微笑み頷くと
「ん〜‥‥アシュドー、『ごーれむ』とは何じゃ?」
 アシュドとルーティが語らう不可解な精神論の区切り目を見切って柚那、遮る様に自身携えていた疑問を漸く紡いで彼を見上げると嬉々とした表情を浮かべるアシュドではあったが‥‥それが後悔の始まりである事を彼女はまだ、知らなかった。
「そうだな、一言で言えばゴーレムとは‥‥」

 と言う事でそれから小一時間、一先ず罠には掛かる事無く意外と起伏に飛んだ遺跡の中をルーティの魔法用いて進む一行の中、柚那の表情は冴えなかった。
 つい今しがたまでアシュドの、独自の見解を踏まえた一言では済まない薀蓄話を聞かされる羽目にもなれば、それは当然であったが
「しかしはて? 此処は何の遺跡なのかの?」
 意外にも立ち直り早く、今まで歩いてきた土壁の遺跡へと思考を寄せれば首を傾げる。
「霊的なものが拘わる、墳墓の様なものかも知れぬな」
「良くは分からんが気を付けてくれ」
「アシュドさんもねー」
 すると同じ疑問を抱いていた、一行の先頭を歩く柾鷹も振り返りこそしなかったが自身なりの推測を口にするも、その事には興味のないアシュドが警告だけ改めて告げればそれに突っ込んだハンナの視界の片隅に何か映り‥‥だが次いでその存在が何か分かった、一行の中で抜群に視力に優れた小さなエルフはすぐにこう叫ぶのだった。
「ゴーレム! ‥‥じゃなくて、埴輪!」
 そしてルーティが叫んだその直後‥‥珍事は当然の様に起きた。
 一行が警戒するより早く、輪の中から脱兎が如く飛び出したアシュドが埴輪の群れの只中へ飛び込めば、警戒すべき人物と埴輪達に認識された彼はどつき回されているにも拘らず愉しげな声を上げる。
「あはははぁ、そんなに叩くなよ〜♪」
『‥‥うわぁ』
「はしゃぐアシュドさんって、え〜っと?」
 すれば唖然とするのは一行で、その中でも長い付き合いである者達ですら口を開け広げ普段は見せないだろう滑稽な表情を湛えるが、しかしそれは僅かな間だけ。
「やめるのじゃー!」
「壊したら駄目、って厳重に言われたんでしょー?!」
「もう少し、落ち着いて下さい」
「えいや」
「‥‥済まんな」
 どかべきぐしゃばき。
 柚那のコアギュレイトにアシュドが拘束されればその彼の服の襟を更にユーウィンが掴むと、埴輪達の隙間を静かに速く縫って佐祐李が近寄り、忍者刀の柄に小突かれては次いでハンナのリュートベイルと何時の間に持ち替えたのか、柾鷹のハリセンに頭部を打ち据えられれば‥‥その光景を間近で見た埴輪達が驚き散る中でアシュドは正しく血反吐を吐いて、崩れ落ちながら呻くのだった。
「‥‥殆ど、全員じゃないか」

 そんな珍事もありながら一行、それからは上手くアシュドを宥め抑えて進めば漸く翌日。
「何やら広い場所に出ましたね」
「此処が最深部、だろうか?」
「多分な」
 思っていた以上に罠がない事から意気消沈としながらも、それはおくびにも見せず佐祐李が辿り着いた部屋を見回して、のんびりとした声音を響かせればただ広いだけで次の部屋へ続きそうな回廊が見当たらない事に柾鷹が尋ねると頷くアシュドだったが
「アシュドー、これは知っておるか?」
「いや、知らん」
 次に響いた柚那の問い掛けから彼女が指差す方へ視線を向ければ、その場を守る様に幾多も鎮座する犬の石像を見て首を傾げると、その様子に柚那は満足げな笑みを浮かべて胸を張り口を開いた。
 不意に身構えた、アシュドの様子に気付く事無く。
「狛犬、と言うんじゃぞ。神社等の守り神として奉られておるのじゃ! 因みにこの狛犬じゃがな‥‥」
「危ないっ!」
 そしてその彼女は何事にも気付かぬまま、岩盤の天井を見上げれば自身が得意とする知識を披露するも‥‥それは途中、アシュドの警告とそのすぐ直後に柚那を襲った衝撃によって遮られる。
 尤も彼女を見舞った衝撃は彼に抱き止められ地を転がった結果からだったが、だからこそ柚那はこの様な展開に至った事象を確認しようと彼の腕から顔だけ覗かせれば、その光景を見て彼女は愕然とする。
「狛犬が動いている、じゃと」
「初めて見ますね、埴輪だけかと思ったのですが」
「そう、なのか。しかし興味深いな」
 その、十数体‥‥下手をすれば二十体以上いるだろう動き出した狛犬達に柚那だけではなく佐祐李を筆頭に皆驚くが、その光景には動じず‥‥と言うよりは瞳を輝かせて呟いたのはアシュド。
「この数を前にそのコメント、呑気だねぇアシュドさん」
 そんな彼へ、やはり狛犬達が群れる光景を前にしても普段と変わらない笑顔を湛えてハンナも十分、彼に勝る呑気な口調で言うが
「アシュドさん、アイスコフィン使えますよね。これだけの数だと、アシュドさんにも手伝って貰わないと‥‥」
「っ、駄目だっ! あのつぶらな瞳を前にして呪文など無粋っ!」
(『あいたー』)
「はいはーい、それならアシュド君はこっちね」
 じわじわと一行を包囲する様に動いている狛犬らを見つめていたルーティは珍しく切迫した声音で駄目元、アシュドへ声を掛けるも‥‥この遺跡に入ってより見せていた反応と変わる事はなく、内心で一行が呻けばユーウィンは彼の両肩を叩き掴んで、自身の後ろへと退場願う。
「さてさて、どうしよっかー」
「無論、突っ切る他にないだろうな!」
「そうですね。今までの道中から考えれば罠はないと思いますし、それこそ下手に後手へ回れば‥‥」
 すれば彼女らが繰り広げる光景に今度は苦笑を湛えハンナ、改めて皆を見回して問うと簡潔且つ明瞭な答えを、はっきりとバークが口にすれば辺りの状況を見回した後に佐祐李も彼の意見へ同意すればバークは皆を見回して、否定の答えがない事から一度だけ叫ぶのだった。
「では皆、準備はいいか‥‥行くぞぉっ!」

 と言う事で、僅かな間の後に一行は祠と思しき前に辿り着く。
「これは‥‥」
「ご神体でも奉っておるのじゃろうか?」
「はっは! 他愛ないな!」
 それを前、首を傾げる役立たずなアシュドへ柚那が自身の予想を打ち明ければ皆は判断付かずに首を傾げるも‥‥その中で一行の盾として活路を見出したバークが高笑いを上げれば視線を巡らし、先まで一行目掛けて群がって来た狛犬達を見つめる。
 それらは何故か、今では一定の距離を置いて一行を見守っており、その事から祠の中には確かに柚那が言う通り、『何か』があるのは明らかであった。
「‥‥さて、どうされるか」
 だからこそ、余計な事は何も言わずに柾鷹が落ち着いた声音でアシュドへ問うとその彼。
「戻ろう」
「いいの?」
 一も二もなく、断言する彼へユーウィンは予想を裏切るその答えに思わず問い質すと
「正直、覗いてみたくないと言えば嘘だが、違うんだ」
 本音を漏らしつつもアシュドは首を左右に振って、その続きを紡いだ。
「誰が造ったか知らないが、冒険者達の中に存在する様になったあのゴーレム達を作った人物。きっと様々な資料を集めて作ったのだろう。だが違うんだ、私が求めているものは。私は、私だけにしか作れないゴーレムを作りたい」
 真摯な眼差しを湛えたまま、開かれた掌を固く握ると彼は頭を垂れて再び呟く。
「『あの頃』はその知識を追求するだけで良かったし、それだけしか見えなかった。だが、今は違う‥‥思い出したんだ、再び触れてみて」
 俯いたその表情に宿す、陰を見て取ったルーティはアシュドへ何と声を掛けるべきか逡巡するも、だがその暇にも彼は再び顔を上げる、迷いのない表情を湛えて。
「形に、力に固執しない私らしいゴーレムを作りたいと言う事を。故に例えこの中に重要な知識があるにしても、それを私は欲しない。今は誰の為でもないが、な」
「そうか、ならば戻るとしよう」
 そして次に間違いなく言い切れば、柾鷹は顔を綻ばせながらも素っ気無く言うとアシュドは次に難しい顔を浮かべるが
「そんなすぐに自信のない顔をしないで下さい」
「そうですよ。それにもしかしたら、『彼女』が何処からか見ているかも知れませんよ?」
「何時も、済まないな‥‥」
 即座、佐祐李とルーティへ突っ込まれれば彼は顔を顰めるも感謝だけは忘れずに、だが皆へは背を向けてそれだけ告げれば呼び掛けるのだった。
「さ、帰ろうか」
「しかしじゃな‥‥この中をまた、進むのか?」
『あ』
 だが的確に現状を察していた柚那に言われれば一行、未だ狛犬達に囲まれている事を思い出しすと‥‥次には揃ってうんざりとした表情を浮かべた。

●決意して、三歩目
 それから一行は遺跡内をくまなく歩き倒し、アシュドを散々にいさめながら苦労しつつも遺跡を踏破して彼を満足させれば、今はその外で疲労を癒すべく一息入れていた。
「一時はどうなる事かと思ったが、中々に楽しかったな!」
「全くです‥‥」
 しかし壁役として貢献し、それ故一番に疲れているだろうバークが疲弊した素振りも見せず豪快に笑い言えば、その彼を見て嘆息を漏らすルーティではあったがそれでもアシュドの表情を見て、確かにバークの言う通りだと感じれば顔を綻ばせて彼がいる方を見やる。
「前に進もう。行き先が分からなくても、先が見えなくても、迷うよりはよっぽどマシだよ」
「そうだな。生きている以上、迷い惑う事こそあろうが歩みだけ止めねば何時しか道は開ける筈だ」
「ですから是非、頑張って下さい。大変だとは思いますが、好きな物が人の役に立つ物であれば言う事はありませんし、私達も応援していますから」
「あぁ、ありがとう」
「いいえー、何時でもドンとこーい!」
 そのアシュド、ハンナの激励を端に柾鷹や佐祐李らから励ましの言葉を贈られれば改めて感謝を皆へ告げ、微笑んでいた。
「それじゃあアシュド君‥‥またね。あの話も楽しみにしているけど、ポチやタマと会える日が来るのも楽しみにしてるから♪」
 すれば一行の最後、アシュドの様子に漸く安堵して笑顔を湛えるユーウィンが彼へ自身が抱く期待を託すべく手を差し伸べて告げればしかし、暫く間を置いて彼。
「ん、何の事だ?」
「‥‥ばっかーぁっ!」
 真剣な表情を湛え、首を傾げると今回は唸る予定がなかった彼女の鉄弓が此処で漸く、火を噴くのだった。

 〜一時、終幕〜