【可愛い用心棒】掃除番
|
■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:8人
冒険期間:09月10日〜09月15日
リプレイ公開日:2006年09月18日
|
●オープニング
●万屋『雉屋』
「参ったね、こりゃあ」
よりやや外れた所にある蔵の内部を見て肩を落としているのは先日、意図不明なならず者達の襲撃を受けた万屋『雉屋』の老婆だった。
「‥‥‥」
「ちょっと最近、家の中‥‥と言うか万屋が雑然としてきたから整理しようかと思ったんだけど、これじゃあねぇ」
そしてその傍ら、静かに佇んでいたエドワード・ジルスも続いて中を覗けば苦笑を湛えて老婆は肩を竦めると
「蔵は蔵で亡くなった爺さんが何やら色々と詰め込んでいたみたいだねぇ、爺さんに任せっ切りで今の今まで全く気付かなかったわ。これじゃあ万屋の整理もおぼつかないわなぁ」
次いで蔵を見上げ、何事か懐かしむ様に呟く老婆だったが‥‥しかしエドの思考は感慨に耽る彼女とは別の方を向いていた。
(『‥‥この前の襲撃に、何か関わりのある物がもしかしたら見付けられるかも‥‥』)
以前の襲撃より気になっていた事、一体ならず者達は何を狙って万屋を襲撃したのか‥‥それがもしかすれば確認出来るかも知れない。
それが今、一先ず自身に出来る事。
自身が抱える悩みより、一人旅立ったはいいが頼る当てもなく行き倒れとなり掛けた自身を救ってくれた老婆へ恩を返すべく、やらなければならない事だと認識して。
「さて、どうしたものかね」
「手伝うよ」
だがその彼の考えに今は至らず老婆、とりあえず目の前にある事象をどうすべきか思い悩むがエドの提案を受ければ彼女、少なからず驚きを表情に表して彼を改めて見つめるも
「でも、あんただけじゃあ」
「大丈夫‥‥」
小さな子供一人だけにそれを任せる訳には行かず、言い淀むが‥‥囁くエドの、続く話を聞けば納得して老婆は頷くのだった。
「‥‥あぁ、そう言う事かい。それならお願いしようかねぇ」
●エドよりの依頼
「‥‥掃除のお手伝いに、人手が欲しい‥‥」
それよりすぐ、冒険者ギルドへ向ったエドはギルド員と瞳が合うなり開口一番、依頼を告げていた。
「で、報酬は?」
「お金、ない」
「‥‥‥」
「でも‥‥蔵にある、お婆ちゃんが不要な物を代わりに‥‥って」
すると素っ気無く、だが内容が内容であるにも拘らず以前の件を知っているが為に引き受けると決めていたギルド員はある意味、大事な問いをエドへ投げ掛けると‥‥最初に返って来た答えへは唖然とするが、続きを聞いて納得すると頷いて彼は筆を手に取るのだった。
「分かった、内容も内容だ。それで構わないだろう」
――――――――――――――――――――
依頼目的:雑然としている万屋『雉屋』と蔵を整理整頓せよ!
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
日数内訳:五日間丸々、依頼実働期間とする。
――――――――――――――――――――
●リプレイ本文
●万屋『雉屋』前にて
それを営む老婆が持つ蔵とその軒先の掃除、整理を行うべく集う冒険者達。
普段は得物を手に、魔物やら悪党やらと戦いの日々を送っている者達ばかりだが今回だけは内容が内容だけにそれぞれ、掃除用具を携えている。
「こんな所に万屋があったとは、江戸にもまだ知らない所が多いな」
その小さな万屋、雉屋を目の前に並ぶ品物の多さと種類の豊富さに感心したのは壮年の渋さが光るジェームス・モンド(ea3731)だったが
「しかしながらその実、悪党が強奪しに来る物がある店‥‥ですか。気になりますね」
「そうだな。それ故に今回は丁度いい機会だ」
彼へ突っ込むかの様、非常に目立つ風貌のヒューゴ・メリクリウス(eb3916)が自身の左目を隠す金髪を撫で付け微笑湛えれば、一行の中で雉屋の事情を知る野乃宮霞月(ea6388)も頷くと改めて視線を軒先にいる、小さな用心棒ことエドワード・ジルスへと向ける。
「媼。そして、エドさん、初めまして。短い間だが宜しく頼む」
「こんにちは、エドくん。今回もよろしくだよ♪」
「姉からお話は聞いていますわ、姉や皆さん同様に宜しくお願いしますね」
「‥‥うん」
口数が少ない事で知られるその彼の周り、初めて見るエドと老婆へ笑顔を湛える志士の柚衛秋人(eb5106)の挨拶を皮切りに、一行の中で一番に彼の事を知っているだろうミリート・アーティア(ea6226)と直接的な面識はないながらも、たおやかな笑顔を向けるアクテ・シュラウヴェル(ea4137)が集い話を交わしていた。
「まぁ、何事もなければいいが」
「大丈夫大丈夫! 戦闘は苦手だけど、お掃除の一つや二つ、三つや四つでも出来るともさー。エドくんは何かを探してる様だから、それのお手伝いもしてあげたいしね!」
その彼を見て、たどたどしいながらも会話に興じる様子から思わず霞月が呟くも、そんな心配を払う様に魔法少女のローブを身に纏う幼き陰陽師の慧神やゆよ(eb2295)が明るい声音を響かせエドを見つめれば静かに笑う彼だったが
「とは言え、だ。蔵だけにお先真っ暗(蔵)、なんてな‥‥って、そんな目で見るなよ」
「とりあえず、お前のこれからが真っ暗な気がしてならん」
「会って間もないのに、いきなりそんな事を言うなよ」
次いで響いた、九竜鋼斗(ea2127)の駄洒落には皆、表情を凍らせるとその浪人は呻くが後に続いた秋人の余計な一言には苦笑を湛え、言葉を返しながら彼は内心で僅かに考え込む。
「それでは早速、始めましょうか」
「おーい、無視はもっと困‥‥っっうっ!」
それでもやはり、無視されて話が進行するのは辛くアクテの掛声に即座に突っ込み、皆を呼び止めるも次にはエドの、杖による突っ込みを脛へ貰えば鋼斗は不意なる痛みに思わず悲鳴を上げながら
「突っ込みはもう少し、優しくな‥‥」
大人気ないとは思いつつ、間近にある彼の髪を乱雑に撫で付けてから蔵の方へと足を向けた皆を追うべく、脚を引き摺りながらエドを伴い追うのだった。
●いざ、掃除!
そう言う訳で、掃除の舞台となる蔵へ視点を移してみると一行の目の前には想像以上の惨状が広がっていた。
「はやぁ〜、埃が凄いや。ホントに大掃除になりそう」
「と言うか、果たして大掃除と言うレベルで利くのか?」
その蔵内部を見て感嘆の声を漏らしたのはミリートであったが、どうにもその程度では済みそうにもない事から苦笑いを浮かべて秋人が呟くも
「とは言っても引き受けた仕事だし、しっかりやるとしましょうー!」
「そうですね、一先ずは蔵の荷の運び出しから‥‥ですか。では、男連中は力仕事を」
次に自身が携えてきた箒を手にしているやゆよの快活な声が響けば、同意してヒューゴも頷きながら皆へ指示を出すが直後、他の皆は疑問符を頭の上に掲げる。
「あれ、ヒューゴさんは?」
「‥‥実は僕、女の子で」
「ふむ、ついぞ今まで気付かなかったがそうだったのか」
「冗談ですよ。さ、始めましょう」
すればすぐに声にしてルクスが尋ねれば、整った風貌のジプシーは顔を背けて皆へ言うとジェームスが真顔で詫びるも彼、一度だけ笑い否定すれば率先して埃舞う蔵へと足を踏み入れた。
「‥‥しかしこんなにも埃が残っているとは」
「どうかしたか?」
「故郷の我が家だったらと思うと、ついな」
その彼の背を追いつつ、自身も蔵へ足を踏み入れたジェームスが何を思ってだろう、感慨深くも何処か苦々しい、複雑な表情を湛えて呟けば漸く追い着いた鋼斗がその様子を見て尋ねると、一瞬だけ肩を震わせ答える彼。
「何だか分からないが‥‥っだぁあっ?!」
すれば首を傾げつつ、静かに笑んで浪人も仕事をすべく蔵へと足を踏み入れるのだが‥‥僅かに足元がふらつけば、山積みとなる荷へ手を付くなり盛大にそれを崩してしまう。
「つうぅ‥‥ってこれ、何だ?」
そして直後、辺り一面に皆の視界を塞がんと埃が立ち込めればその只中にいる鋼斗は額を押さえつつ退けられる所だけ荷を退けて、その眼前に一つの『黒い箱』が転がっている事に気付く。
「酷く厳重に封が施されているな」
「もしかして、これかな?」
「始まったばかりで何とも言えないが‥‥別に管理をしておく必要はありそうだな」
そんな中でやがてバケツリレーの要領で崩れた荷の中から皆に助け出されれば、鋼斗が携えていたそれを見て霞月は簡単に解けそうにもない封に訝ると、盛大な音を聞いて場に駆けつけたミリートが先日の一件を思い出し、ならず者達の狙っている物かと察するが‥‥それを解とするには早いだろうと霞月が判断すると、とりあえずそれだけは抱えて皆へ改めて指示を出した。
「さて、では慎重に荷を運び出そうか」
●
と開始早々から慌しくはあったが、人手がある初日の内に何とか蔵の中で眠っていた荷の大半を出し終えれば、一応無事に初日を越した一行だったが‥‥その翌日。
「なんだなんだお前達、これ位でへばるのは情けないぞ」
「と言われてもな、あれだけの荷を運び出したんだ。慣れない作業故に少しは勘弁してくれ」
日が昇り、まだ間もない頃にジェームスが男性陣の寝床を前にすれば、未だへばっている他の面子を見て叱咤するも、秋人の口から出た言葉を聞けば蔵の前の土地をも占拠した荷の多さから、それも止むを得ないかと思った直後。
「そう言うジェームスさんはどうなんですかー?」
「ん、俺か? その点は鍛えられ方が違うんで問題はない。だがお前達も結婚する時は気を付ける事だ‥‥」
「良く分からないけど、分かったよ!」
彼らとは逆に朝から元気に動き回っていたやゆよに尋ねられれば彼、遠く彼方を見つめ言うも‥‥しかし彼がその背より醸し出す哀愁と真意は年若いが故に彼女は気付かず、だが返事だけは明朗に返すと
「とは言え、中々に手並みは良かったのぅ」
「昔、色々と鍛えられましたのでな」
「まぁ大方は、嫁や姑絡みと言った所じゃろうか?」
「‥‥お察し頂ければ、これ幸いかと」
一行を労うべく、寝屋に茶を運んできた老婆が先日の光景を思い出しジェームスへ言うと苦笑を湛える彼に推測した事情を言えば、僅かな間を置いて神聖騎士は肩を竦めた。
●
さりとて、それでも二日目までに蔵から全ての物を出し終えた一行は三日目よりそれらを本格的に整理、清掃しながら拵えた台帳に記しつつも雉屋の土間や部屋にある不要な物を空いた蔵へ押し込むべく、励んでいた。
「ふんふふんふふーん」
そんな事でやゆよ、持参した箒で明るげな鼻歌を歌いながら蔵の内部を掃きまくる。
蔵の中、と言う事で魔法少女の格好をした彼女は何となく浮いている気がしなくもないが魔法少女に箒と言う取り合わせは間違いではなく、そんな不可思議な光景に老婆は首を傾げつつも苦笑を湛えれば
「おーい、これはどうすればいいー?!」
「それだけの大物は、蔵の奥の奥か?」
「そうじゃの、一人で使うにはいささか大振り過ぎるし仕舞って貰えるか」
次に響く、とある部屋にあった大きなタンスを抱えて霞月が叫ぶとそれを一緒になって抱えるジェームスに問われるなり、そちらへ視線を巡らして頷く彼女。
その判断に結構な重量物である事から急ぎ蔵へと運ぶ二人であったが
「済まん、邪魔だったな」
「気持ちは分からなくもないが、一先ずそれは後に‥‥とヒューゴは一体何をしているんだ?」
「天井裏の方を一寸ね、ゴホゴホ」
進む先を阻む形で座り、庭に広げられている刀剣の類を眺める鋼斗が彼らの存在に気付いて慌てて避ければ、ジェームスは先までの彼の頑張りを認め苦笑を浮かべるが‥‥庭の一帯にいないジプシーの青年の名を呼べば、庭に近い一室の天井から顔を出して彼は答えながら舞う埃にむせる。
「何もないぞ、多分じゃが」
「だろ、だから見ているんだよ。忍者の通り道なんかあるんじゃないかな、と思ってね」
その、ぶら下がっている事から髪の毛が垂れれば両の色が違う瞳を覗かせるヒューゴの懸念へ老婆ははっきり答えるが‥‥今後の事を考えてか、彼は再び天井裏へと潜る。
尤も、彼の懸念は杞憂であったがその配慮に対して老婆は顔を綻ばせると自身も一行だけには任せておられず着物の裾を捲くり、皆の元へ馳せ参じる。
「しかしこれだけの物を出したとなると、やはり怪しいのはこれか」
そんな中、先のタンスを運び終えた霞月は今度、台帳の一つを携え庭に広がる荷を記せば少なからず先日までの荷の中で一番に怪しいだろう『黒い箱』を見つめて呟く。
「魔法の品物ではなく、書物と言う話だったが‥‥下手に開けていいものか」
「多分、このままが‥‥いい」
やゆよやヒューゴの魔法にて見て貰った結果を思い出すと、気にならないと言えば嘘になる彼はそれを前にして逡巡するも、エドの静止が無難だと自身も思っていたが故に頷くが
「先日の話、悩むのは分かるがそう急いて結論を出す必要はないからな」
「そうですよ。でも折角ですから私も少し、お話をさせて貰っていいでしょうか?」
微かにだが幼き面立ちに浮かぶ惑いを捉えた霞月が宥めれば‥‥その次にアクテ、件の話を知っているのかエドへ問うと、静かに頷くだけの彼へ自身の話を紡いだ。
「私が冒険者になったのは、魔法がもっと上手くなりたかったから。でも学んでいる内にその力をもっと困っている人の為に役立てたくなったのです」
その話に対して彼、静かに聞き入れば別段目立った反応も見せなかったがそれでもアクテは微笑むと、エドへ伝えたかった想いを告げる。
「放っておけないと思うその心が大事、育てれば貴方の進む道がいずれきっと見えてくると思いますわ」
すれば彼女の想いを受けてエドは小さな呻きだけ漏らすが
「!?!?」
「あははっ、ごめんごめん。色々と溜め込んじゃってる風に見えちゃったから、ちょっとね」
「そう、かな‥‥?」
「そうだよー、少しでいいから笑うとすっきりするよ? 肩の力抜いてさ、ねっ♪ 何なら一緒に歌でも歌おっか?」
次には余り変わらない表情を驚きで満たし瞳を白黒させれば背をくすぐった主を確認すべく振り返ると、そこには先まで蔵に長くあった荷の掃除をしていたミリート、満面の笑顔を宿して言うも首を傾げるエドへ彼女は尚はっきり告げればすぐに口にした自身のアイデアに再び顔を綻ばせ、指揮者宜しく手を掲げ振ろうとしたその時だった。
「っきゃー!」
やゆよの悲鳴が辺りに騒然と轟いたのは。
「どうした?」
「黒くて光って疾くてわしゃわしゃ飛ぶのがいるぅー!」
すれば無論、驚いた他の面子で言葉短く鋼斗が問えば、偉い抽象的な言い回しを持ってエドに抱き付き答えた魔法少女へ皆は次いで嘆息を漏らすと
「季節柄、そろそろ見られなくなる筈だがまだいるのか。しょうがな‥‥」
「‥‥ここで会えるとは思いませんでしたわ、うふふ」
年長者の威厳からか、ジェームスが一先ず抱えていた荷を置いて蔵の方へ歩くもそれを遮り響く、低く艶やかな声。
「うぉ、ち、ちょっと待て!」
「問答無用、私の二つ名に賭けて‥‥Gは全て、滅殺せん!」
その声の主、アクテは身を揺らし立ち上がれば憎き宿敵を見付けるなり即座に掌へ灼熱を宿すと狼狽しては自身を静止しようとするジェームスを傍目に、地を蹴るのだった。
「‥‥?」
そして業火が暫しの間、舞い散る事となるが‥‥その合間、一行より僅かに離れ庭やら部屋に展開されている荷を見張るべく秋人が瞳を光らせ辺りを警戒していた今、己が視界の片隅に一つの『影』を捉える。
「気のせいか? なればいいが‥‥」
だがそれは本当に僅かな間だけであり、視力に絶対なる自信がある訳ではない彼はそれが何かを判断出来ず、だが他の皆へは話だけすべく騒然とする場へ足を向けた。
●
そしてそれから無事、一行は雉屋の掃除に整理整頓を終える事となるが
「別段何事もなかったな、杞憂であったと済めばいいが」
「さて、どうでしょうね」
小さな刀を懐に抱く鋼斗が言う様に秋人が見たと言う不審者はあれから見られず安堵を漏らすが、正直に言えばヒューゴと同じく、紡いだ言葉とは裏腹に嫌な予感は拭えなかった。
「それでも雉屋を綺麗に出来たし今はまず、お疲れ様っ」
しかしそれでもミリートは綺麗になった雉屋を見つめると、一先ず依頼を達成した事に満足して今は微笑むのだった。
因みに『黒い箱』のその後だが、扉以外に出入り出来る所は小さくとも全て塞いだ上で蔵の中へと仕舞われ、再び眠りについた事を添えておく。
●危険域
江戸の何処か。
「‥‥そうですか、分かりました。下がって構いませんよ」
「どうした」
情報をもたらした部下を下がらせて、嘆息を漏らす黒門絶衣へ長身の侍が尋ねれば肩を竦めて黒門は口を開く。
「少々動き過ぎた様です。誰でもなく、皆がね‥‥どうやら今の風向きは余り思わしく方向へ吹いているみたいで、このままでは大目玉です」
「そうだろうな」
「一時、身を隠す必要がありそうですが‥‥さて、あれだけでも押さえたいのですが」
その答えを聞けば侍は何を今更、と言わん代わりに鼻を鳴らすも彼は別段気にせず、抱えている問題への対処を早く考えれば、しかし再び溜息を漏らすと
「引き際を中々見極められませんね」
「欲を持ち過ぎると破滅へ向かうだけだが?」
「今に始まった事ではありません、ですが今回は流石に悩みますね」
次に自嘲の笑みを浮かべる彼へ長身の男は警告だけ告げるが、聞く耳持たずに立ち上がった黒門は暫し考え込んだ後、彼へ振り返ると真顔で一つ提案する。
「人里離れた場所で仲良く暮らしますか」
「‥‥獅子心中の虫を飼っている割、よくそんな事を言えるな」
「貴方こそね」
するとその提案に長身の男はやはり真顔で言うと、黒門もまた目を細め言葉を返すが‥‥息を吐き、張り詰めた場の空気を緩めると江戸の町並みを改めて見つめ、呟くのだった。
「さ、一先ず私達は江戸から完全に引き上げましょう。後は彼に任せてね」
〜一時、終幕〜