刻の音を取り返せ

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月06日〜09月13日

リプレイ公開日:2004年09月13日

●オープニング

 定刻に鳴らす教会の鐘を欠かさず確実に打つべく、いつもの時間に起床して日時計で時間を確認しているのはその教会の神父。
 神父としてはまだまだ若いが、性格なのか何事にも細かくしっかりしておかないと気が済まない彼は、布教等の教会の仕事も然る事ながら可能な時間に行うこの仕事に一番のやりがいを覚え、日々その勤めを頑張っている。
 今日も今日とて教会に備えついている日時計を確認し、いそいそと教会内部にある砂時計を更に確認、鐘を打ち鳴らす時間だと判断すると喜び勇んで教会の天辺にある鐘へと至る階段を駆け上がる。
「朝一番に鳴らす鐘だけは、譲れん」
 明るい日差しが出口から見えてきて、彼は更にそのスピードを上げて出口を目指す。
 そしてついに彼は外に出た、鐘が待っている教会の屋上に。
 直後、鐘の代わりに彼の叫び声が村中へと響き渡った。
「鐘がねーーーーーーーーーーーー!」

「‥‥と言う事でその村の鐘を探して来て下さい」
「どこ行ったとか、詳しい情報とか分かんないのか?」
「残念ながらそこまでは‥‥もしかすればモンスター絡みかも知れないと言う事で、こちらにお鉢が回ってきたんです」
 簡単に今回の依頼内容を伝える受付嬢のお姉さんに尋ねる一人の冒険者だったが、彼女にもそれは分からない様でそう言うだけで精一杯の様子。
「それで今回ですが現地に向かって貰い、まずは情報を集めて下さい。そしてその情報を元に鐘を探し出して教会の元ある位置に戻して下さい」
 頷く一同を見て、彼女は更に続ける。
「モンスターであるとすれば、金が教会の屋上にある事から有翼系のものに限られるかとは思いますが、もしかすれば村に住む誰かしらの可能性も捨て切れません。とにかく情報を集めて、この依頼を解決に導いて上げて下さいね♪」
 それを一同に伝えると彼女はウィンクを一つ飛ばし、依頼の成功を祈念するのだった。

●今回の参加者

 ea0387 シャロン・リーンハルト(25歳・♀・バード・シフール・ノルマン王国)
 ea0672 ミスト・エムセル(22歳・♀・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea0964 アイオーン・エクレーシア(26歳・♀・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea5456 フィル・クラウゼン(30歳・♂・侍・人間・ビザンチン帝国)
 ea5731 フィリア・ヤヴァ(24歳・♀・レンジャー・シフール・イギリス王国)
 ea5810 アリッサ・クーパー(33歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea6015 ライカ・アルトリア(27歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●聞こえない鐘の音
 依頼人が待つ村を前に、一同の目に飛び込んで来るのはその中央に聳える教会。
 遠目から見ても教会の天辺にあると思われる鐘はギルドのお姉さんの話通り、影も形もなかった。
「鐘か、あんな物を盗んで何をするつもりやら?」
 さも疑問、と言った感じのアイオーン・エクレーシア(ea0964)は呟き首を傾げた。
 まぁそれも尤も、詳しい話は知らないが鐘なんか盗んでどうするのか全く謎である。
 だが、それでも依頼は依頼。現に困っている人間もいる訳で
「皆さんの生活に欠かす事の出来ない、時の鐘です。早く見つけ出して安心させないといけませんね」
 それを思い決意するのは神に仕える騎士のライカ・アルトリア(ea6015)と
「教会の鐘を盗むなどと言った不逞の輩を神に仕える者として放っておく訳には行きませんね」
「でも今回の件は盗難事件なんでしょうか? 例えば、何か鐘を隠す必要があった‥‥とか?」
 神に身を捧げたクレリックとして、ほんの僅かに怒気を込めて言い放つアリッサ・クーパー(ea5810)にふとした疑問を口にしたのはラシェル・シベール(ea6374)。
「情報を集めない事にはなんとも言えませんが、現状では色々な可能性を考慮しておく必要がありそうですね」
 そんな彼女達に、なんとなく重そうな装備に身を包みながらも女性らしからぬ凛々しい表情を浮かべて呟いたミスト・エムセル(ea0672)の言う事は確かだった。
 何はともあれ、今はまだ何も分からない一同にとって情報がなければ何も出来ないのだから。
 その光景を神が見ていればどれだけ心強く思った事だろうか、だがそんな民と神を心配する女性がいる中、
「かねがね鐘がねえ‥‥」
「やっぱり決まった時間に鐘の音がないってのは寂しいよねぇ。うん、村の皆の為にガンバロ☆」
「そやそや! それにあたいにとってこれが初めての依頼でもあるさかい、頑張るで〜☆」
 今回の依頼において唯一の男性であるフィル・クラウゼン(ea5456)が場を和ませようとしてか、ちょっと慣れない冗談を口にするがしかし他の皆はそんな彼の言葉に反応する事なく、続くシャロン・リーンハルト(ea0387)とフィリア・ヤヴァ(ea5731)、二人のシフールが同時に飛ばした檄には反応して村を目指す。
 彼女達も視線を合わせると、微笑みを交わしてから一同の後を追い掛けると
「ちょっとした冗談だ、忘れてくれ‥‥って待てよ」
 硬派なフィルが一同から自らの発言に照れて視線を逸らし、遅れてフォローしたが既に先を歩いている光景を見て慌てて駆け出す。
 やはり慣れない事はするものではない、とその時の彼は思ったとか思わないとか。

●犯人と鐘の行方
 さて、村へと入った一同は当然の事ながら現場である教会へと足を向ける。
 依頼主から話を聞くのと現場検証は捜査に置いてはまず基本であるのは時代が違えど一緒であるようだ。
 細かい突っ込みはご容赦頂くとして、話を戻そう。
「アリッサ・クーパーと申します。鐘は必ず取り返して見せますのでご安心下さい」
 黒髪を靡かせて笑顔を浮かべて言う彼女の挨拶、しかし表情はどことなく無理をしている様な感じを漂わせていたが、今の神父はそれに気付く所ではなく
「あ、あぁ。宜しく頼むよ。しかし、あの鐘がなければ私はー!」
 事件当日からそれなりに日は経っているものの、落ち着いてはいられない様子であった。
「落ちついて、まずは少し質問を。鐘の形や重さは如何程だったろう?」
 そんな神父を宥めつつ、まずはアイオーンが真っ赤な瞳を神父に向け問い掛ける。
「んー、それほど大きくはないな。大人二人で抱えられる程度の大きさと重さかな」
「で、その鐘はいつ頃まであったか?」
 一つ目の問いに答える神父のすぐ後に続くフィルの質問に、今度は首を傾げて神父は唸りながらも
「夕刻に鳴らす最後の鐘の時にはまだありました、が夜の日課である鐘磨きはその日少々疲れていたらしくいつもより早く寝てしまい、その時間にあったかまでは確認していません」
「心当たりは?」
「鐘はいつも何人で鳴らしているんですか?」
「最近見知らぬ参拝客は居ませんでしたか?」
 やる気満々なその場にいる一同のかわるがわる続く質問に目を丸くする神父は、まず自身が落ち着こうと一つ深呼吸をして皆の質問に答え始めた。

 そんな彼女達を遠目で伺いながら、シャロンは一人先んじて現場の調査をしていた。
「足跡は無数にあるけど、大きいのと小さいのがあるなぁ。変わった足跡はなし、っと。でもなんだろこれ、鐘が落ちた跡?」
 鐘があったと思われる真下に足跡以外の痕跡を見つけ、屋上から地上を覗き込むも他に鐘が落ちたと思われる痕跡はなかった。
「落ちたのか、落としたのか分からないけどそう仮定すると‥‥湖に鐘が落ちたのかな?」
 怪しい痕跡の方角にあるのは、教会の裏手の湖。
 それを見て彼女は首を傾げ呟きながら羽ばたくと、今度は鐘を吊るす鎖を見るシャロンの目にそれは腐食が目立ち半ばから切れている事が伺えた。
「鐘の高さは思ってた程じゃないかな、大人の人間でも届きそう。それとこの鎖の状態は覚えておく必要がありそうだね」

 それから暫く、教会周辺に何か残っていないか目を皿にして探すミストと遅れて彼女に協力するライカだったがめぼしいものは見つけられず、質問攻めに遭った神父を落ち着けようとミストの提案の元、お茶を振舞っている。
 質問攻めから解放された神父は彼女のお茶を飲んでやっと一息つけた様で、落ち着いた表情を浮かべながら一人喋り出す。
「この教会には身寄りのない子供達がいるのですが、最近‥‥鐘が無くなった事に気付いた日を境に元気がなくなったのが少し心配なんですよ。今日は少し気分を変えて欲しかったので勉強の方を休ませて遊ばせているのですが」
「そう言えば教会の外を調査していた時に子供を見掛けたのですが、彼らは教会に住んでいるのですね」
 自らが入れたお茶を飲んで、出来栄えに満足しながらも言うミストは神父の言葉に引っかかりを覚えて頭の片隅に留める中、彼は頷き
「見ての通りうちの教会は手伝いをしてくれる人が少なくて、でも子供達はそれを心配して教会のお手伝いをしたいと言ってくれるんですよね。でも彼らの事を考えると今色々な事を学んで欲しいから、彼らの為とは言えいつも勉強ばかりさせて‥」
「言葉にしないと伝わらない事って沢山あります、相手は子供ですしもう少し交流を持たれては如何か?」
「そう‥ですね、この件が落ち着いたら話してみる事にします」
 言って落ち込むが、ライカの言葉に神父は少し微笑んだ。

 フィリアは教会での聞き込みは他の面子に任せ、一人先に村人からの話を聞き込みつつも今は村に何か変わった事がないかと目を凝らして空から散策する。
「んー、最近の変わった事と言えば村には今珍しく参拝者が来ている事と、教会に住んでいる子供達の元気が最近ないって事位なのかぁ。これだけじゃあ全くわからへんなぁ」
 彼女が村人から聞いた情報を一人高みで整理しているがそれだけの情報故、全く要領を得なかった。
「まぁ夜に情報をつき合わせる事やし、取り敢えず村の様子でも眺めとこかなー」
 その時、彼女の青と紫の目に教会の裏手に広がる湖を前に佇んでいる子供達の姿が見えた。
「ん、なんやろ? なんかあるんかなー」
 その光景が気にはなったが、何をして遊ぼうか相談しているのだろうと思い一応気には留めて彼女は別な場所へと飛翔する。
 まだ経験の浅い彼女故、子供達の何かに落ち込んでいる様な表情にまで気付く事はなかった。

 そして日は落ち、夜を迎えると一同は教会に集まる。
 神父の好意で食事込みでの寝泊りの申し出を受けての事だった。
 夕食をご馳走になった後、一同はその場で今日一日で得てきた情報を交換し犯人の目星をつけようとしたが、思っていた以上の情報は得られず揃って頭を抱える。
「戸締りは毎夜やっていて、事件があった夜もちゃんと神父様がやっていたようです。それを考えると犯人達は空から飛んできたか、それとも内部に入っていたのかも‥」
「これで全部か? だとすると、鐘はともかく犯人までは判らんな。特に最近、モンスターが出たとか言う話も村人からは聞かなかったしな」
「鐘が無くなった前日の夜に大きな水音を聞いた、と言う村人の話から恐らく鐘はここの裏手にある湖に沈んでいるのでは、と考える事は出来るのだが‥」
 アリッサの情報を最後に全ての情報をまとめてぼやくフィルに、アイオーンは自ら仕入れた情報を元に推測を口にすると食後の運動か、シャロンと一緒になって宙を飛び回っていたフィリアが何か思い出したのかいきなり止まると、その場で滞空し
「そう言えば、お昼頃だったかな。教会の子供達が湖の所に皆揃っていたんやけど?」
 言うと追ってたのか、追われていたのか分からなくなっていたシャロンが彼女の背中にぶつかり二人仲良く地に落ちていく。
「子供達は鐘のある場所に気付いているんでしょうか? それとも‥」
 そんな光景を見ながらフィリアが初めて口にする情報を聞いて、盗難ではないのではと考えていたラシェルがすべての情報を元に自らの推理を披露しようとした、その時だった。
「あの‥‥相談が、あります」
 一同の誰でもない発言に皆はビックリして声が聞こえた方向を振り向くと、闇を照らす蝋燭の下に一人の少年がいた。
 一同の視線を受けて彼は少し後ずさりするも、意を決すると静かに口を開いた。
「‥‥実は‥‥」

●エピローグ
 教会に住む身寄りない子供達と神父の、些細な気持ちのすれ違いから今回の事件が生まれた。
 神父は子供達の事を思い、教会の手伝いは一切させずに勉学に集中させた。
 子供達は自分達を育てながらも日々教会の祭事等で頑張っている神父の手伝いをしたかった。
 そして彼らは事件の夜、遂に行動を起こした。
 その日余程疲れていたのか、珍しく早い時間に寝てしまった神父の代わりに夜の日課である鐘磨きを屋上に行ってやろうとしたのは。
 所が磨いている最中にほんの少し鐘が振れたその時、経年劣化によって鐘を繋ぎ止めていた鎖が切れるとそれは静かに湖に落ちた。
 鐘の音が鳴らなかったのは鐘を鳴らす槌を綿で包んでいたから、とは言え質量が質量で湖に落ちた時の水音だけは村人の耳に聞こえる事となった。
 それからどうしようかと困るも彼らだけの手には負えず、かと言って神父や村人に話す訳にも行かず悩んでいた時に冒険者一行が来た。
 最初は神父が呼んだ犯人探しでこの村に来た事を人づてに聞いて、尚更言えなくなったものの一同に真実を話す他ないと決意し、事の真相を話したのだった。
 翌日、アリッサの報告で子供達の気持ちを知った神父だったがそれでも彼はその事に怒り、その後彼は泣きながら彼らを抱き締めた。
 やっと噛み合った気持ちに子供達も神父に抱き締められると、釣られて泣きながら詫びるのだった。
 ちなみに最近やって来た珍しい参拝者とは、神父の古くからの友人だった事を付け加えよう。

「さぁお昼ですよ、でもその前に後一仕事だけして貰います。屋上に行きましょう」
 アリッサの提案で、子供達は教会の掃除をしていたがその提案者の合図に手を止めると先に屋上に向かうアリッサの後を追う様に屋上へと続く階段を登る。
 暫くして眩しい光が皆を照らす、それは陽光を反射して輝く鐘で子供達はそれを見て様々な反応で喜ぶ。
「ここまで持ってくるのは大変だったぞ‥」
 そんな子供達の様子を見ながら、村人の力を借りても中々な重労働を思い出して一人ぼやいたのはフィルだったが、彼の言葉は子供達の歓声に掻き消される。
「はい、静かに。それではお昼を告げる鐘を鳴らして午前のお勤めを終わりにしますね」
 カーーーン
 アリッサの合図の後、村に響き渡る久々の鐘の音。
 村人達もそれに反応して、家々から姿を現す光景を見てライカが一つ提案した。
「折角なので、私達にも鐘を鳴らせて貰えるだろうか?」
 彼女の言葉に子供達が一斉に頷いたのを確認してから、槌に繋がる綱を一同が持つと遠慮なくその綱を振るった。
「せーのっ☆」
 カーーーーーン!
 シャロンの合図で大きく鳴り響く鐘、その音に紛れて大きな足音が一つ聞こえた。

 神父が決めたルールでは鐘は一時間毎に一回、子供達もその事については知らなかった。
 昼食後、神父の説教を貰った一同は午後になると子供達と一緒に教会内外の掃除をする羽目になる。
 ちょっと最後にやってしまった感があるが、それでも村には鐘の音と笑顔が戻った。
 それを考えれば掃除の一つや二つなど容易い事、一同は子供達に負けず劣らず掃除を頑張るのだった。