【可愛い用心棒】隠剣乱舞
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:11〜17lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 20 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:10月15日〜10月20日
リプレイ公開日:2006年10月19日
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●オープニング
●伺う瞳
つい先日、万屋『雉屋』にて行われた大掃除の時‥‥二つの瞳がその様子を伺っていた事を知る者は、非常に少ない。
「ふーん‥‥」
その瞳持つ者、蔵より離れてこそいるが身を隠すには丁度いい木陰の中に息を潜め、油断なく辺りを見回せば蔵より雪崩れた出でた荷の中に、『黒い箱』を見付ける。
「あれっぽいよなぁ」
次いで青年が抱えるそれに視線を固定したまま、確信を抱くが
「どうしたものかな、簡単には済まない気はするけれど」
改めて蔵の周辺に視線を巡らして、和気藹々と雪崩れた荷を次々に運び出す冒険者達を見つめ、それぞれの動きから厄介そうな相手である事も確信すると‥‥次いで漏らす溜息。
「ま、スマートに行きますか。これ以上の騒ぎがご法度なれば‥‥ね」
だがその割、口元に緩やかな弧の字を描き微笑めば顎に手を当てて考え込む事暫し。
独り言を呟きながら一つのアイデアを思い付くも
「でもやっぱ、ねぇ‥‥あー、もう悩むなぁ」
思い付いた案が詰まらないものだったのか、再び嘆息を吐けば‥‥どうしたものかとその影は結局頭を抱えるのだった。
●届けられた手紙
以前の雉屋掃除より暫くして‥‥江戸の冒険者ギルド。
「‥‥ん、エドか。どうし‥‥」
「これ」
久し振りと言う程、以前の依頼より間を置かずにエドワード・ジルスの顔を見掛けたギルド員が彼へ声を掛けるも、その途中で言葉と共に差し出された手紙に遮られるとギルド員の青年はそれを受け取り開き、目を通す。
『黒い箱、引き取りに伺います。予定は十月の十四日頃、雉屋へ直接伺いますのでその時に黒い箱を素直に渡してくれればそれで良し。もし拒むのであれば‥‥実力行使に及びますので悪しからず。尚十人程度で伺いますが、長く滞在するつもりはないのでお茶菓子等は不要です。それではまた、後日お会いしましょう』
「ご丁寧な予告だな。署名はないが‥‥また、面倒な事になりそうだな」
その書面に踊る、ご丁寧な言い回しの言葉遣いにて認められた文字を見てギルド員は次に嘆息を漏らし呟けば
「うん‥‥だから」
「分かっている、依頼として引き受ければいいんだな?」
「‥‥ありがとう」
頷く彼は続き、相変わらず小さいながらも声を出せば今度は先の仕返しかギルド員、幼き魔術師が紡ごうとした事を察し尋ねれば、頷いた彼の表情に僅かではあるが笑みが宿る‥‥その、ほんの少し前までは見る事が出来なかった彼の表情を見てギルド員はまだ何も掴んでいないだろうと思いながらも、少なからず成長している事に気付き自身の表情も綻ばせるが
(「しかし、ここまで丁寧に予告をしてくると言う事はさて‥‥既に戦いが始まっていると見るべきか。厄介だな」)
再び書面に視線を落とせば、どんな意図が隠されているか読み切れずに彼はすぐ、渋面を浮かべたその時。
「‥‥何で、こんな事‥‥するんだろう。この人の考え、分からない‥‥」
「そうだな。尤も他人の考えている事は当然として、自身に付いても分からない事が多い。だから余り考え過ぎるな、答えは単純でいい」
「ん‥‥」
場に響くエドの声へ彼は何時もの無表情に戻すと、同意しながら諭す様に言葉を紡げば幼き魔術師も頷くが次いで、珍しく表情を変化させる。
「僕は‥‥」
宿ったその表情は、狼狽か驚愕か‥‥ともかく目を見開けば彼は青年へ何も言わず、その場より踵を返しては小さく小さく、呟くのだった。
「‥‥忘れていたもの、足りないもの‥‥怖い」
視界の全てが血の朱に染まったかの様な錯覚を覚えながら‥‥。
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依頼目的:手紙を差し出した、謎の集団から『黒い箱』を守り通せ!
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
対応NPC:エド
日数内訳:五日間丸々、依頼実働期間とする。
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●リプレイ本文
●三度、雉屋
さて一行、江戸の冒険者ギルドを前に集えば早々と足を向けるは万屋『雉屋』。
「初めまして、かな。よろしくエド」
「宜しく‥‥」
その店先、一行を待っていたエドへ手を振って初めての挨拶を交わしたウォル・レヴィン(ea3827)へ彼も応じ、簡潔に言葉を紡いでは頭を下げると
「ほぅ、エドではないか‥‥久しいの。あちらには戻らぬのか?」
「うん、まだ‥‥かな」
「しかし何やら面倒な事になっておる様だな」
「でも、放っても置けない‥‥お婆さんに助けて貰ったし、僕も‥‥」
「‥‥暫く見ぬ内に一人前の顔になったな、エド」
再び上げた視界の先にはエドと同じ位の年頃で、彼より小さな緋月柚那(ea6601)とそれなりに付き合いの長いガイエル・サンドゥーラ(ea8088)の二人。
久々の再会にガイエルは顔を綻ばせるが‥‥次には嘆息を漏らすも、彼から返って来た答えに彼女は目を細め、感慨に耽る‥‥が。
「大丈夫。石の中の蝶も持っているし、どんな怪物が襲撃して来ても、たちどころに正体を見破って見せますから!」
「いや、今回は人間相手なんだが‥‥言っていなかったか?」
「えっ?」
「‥‥やれやれ」
そんな折、傍らより聞こえて来たランティス・ニュートン(eb3272)の連れと、その彼の今更なやり取りを聞けば苦笑を浮かべてガイエルは肩を竦めるも
「しかし、この手紙。相手は曲者ですね、ですが」
「手は見える、だが‥‥それでも気は抜けんな。狙いが分かるからこそ、様々な手を講じては振り回して来るだろう」
「えぇ」
そんな彼らの更に横、ランティスらとは真逆に真面目な面持ち湛えて話を交わす限間灯一(ea1488)と安積直衡(ea7123)の帯刀せし者達、エドと挨拶を交わした後に彼が持つ手紙を見れば、それを風にそよがせながら早くも『敵』が打ってくるだろう手を検討していた。
(「何処か影がある‥‥と言うのか、何か抱えている物がある様にも見え。少々気になりますね」)
が灯一は直衛と話を交わしながら、初対面とは言え何処か不思議な雰囲気を漂わせているエドへ視線だけ向ければ、義理堅い彼はなんと無しに放っておけない感に捉われるも
「よっし、今回もお仕事キッチリこなすよ! 頑張ろうね、エド君」
「うん‥‥」
「無事仕事が済んだら、皆で茶にでもするかのー」
次に響いた、パッと見男性と見受けられる装いのミリート・アーティア(ea6226)が明るい声音を響かせれば、頷くエドといささか気が早いながらも依頼が終わった後の提案をしては微笑む柚那らの様子を見て灯一は自身の考えが杞憂であればいいな、と節に願うのだった。
●
それより暫し、『雉屋』の中に招かれた一行は改めて状況の整理と情報の統一化を図れば納得して頷きながらもウォル。
「良く分からない話だなぁ」
「‥‥僕も良く、分からない」
「詰まらん。重箱みたいなものに何をそう、躍起になっておるのか」
たどたどしくもミリートの捕捉を受けながら皆に事の次第を話すエドと視線を合わせれば、端正な面立ちに苦笑を湛え真意が分からない旨をはっきり告げるとエドも同意して頷くが、輪を作る一行の只中に置かれている『黒い箱』を見つめては我慢を知らない柚那は『敵』の真意が見えないからこそ、退屈げに欠伸をする。
「とりあえず、同じ様な『黒い箱』は準備しておくべきかな」
「偽の箱を用意するというのは面白いね‥‥現れる襲撃者。さぁ黒い箱はと思ったら、警備の人間が全員黒い箱を持っている、どれが本物だと一瞬躊躇う。その間が命取り、すかさず俺達でご用! と‥‥」
「おぉ、それは面白そうな妙案じゃの!」
とは言え『黒い箱』が狙われているのは手紙にも記されている通りに確かで、今回の鍵でもあるそれを暫し眺めていた灯一が案を出せば、ランティスに柚那は諸手を挙げて賛同する。
「数にも寄ろうがもし、全ての箱が盗られたらどうするつもりだ?」
「全ての箱を盗まれたら‥‥か、それは」
だがその案に対し、早く疑問を抱いたガイエルの問い掛けが響けば提案者はふむと首を傾げて暫し沈黙すれば、その様子を見てランティス。
「考えてなかったな」
「そうですね」
『‥‥‥』
たったの一言紡げば、躊躇わずに同意する灯一へ皆は嘆息漏らすも
「それ、何‥‥?」
「これかい? 手紙には不要と書いてあったらしいが、それでも一旦は進めるのがジャパンの礼儀なんだろ」
「まぁ、そうだが‥‥」
とりあえず話題を逸らそうとしてかエド、ランティスが背後にある包みを見て尋ねればすぐに彼から返って来た答えに直衛はいよいよ持って呆れるが‥‥とは言え、まだ見えないながらも始まっている戦いの、その先を見据えれば彼は自身の『妥協しない』と言う性格とは裏腹に、自身らが把握している事を前提に多少の綻びは見せた方がいいのかも知れないと考える。
「これ、食べて見たかったんだよなぁ」
尤もその考えは次に響いたランティスの言葉によってすぐに霧散した。
●
「‥‥確かに変わってはいるな」
「そうだな、でもこの程度なら何とかなりそうだな」
と言う事で今度は蔵へと足を運ぶ一行の中‥‥老婆に差し出された『黒い箱』を初めて目の当たりにしたガイエル、回転させてはそれを凝視する傍らでやはり箱を眺めていた直衛は一先ずそれだけ判断を下すと改めて、所感を呟くと
「しかし相当に古い、痛んでいないのは魔法の為か?」
「さて‥‥どうだろうか」
それに応じて彼女、自身が持つ知識だけでは判断付けられず瞳をすがめると首を傾げながらも地の志士は一先ず割り切って皆へ声を掛ける。
「時間がどの程度あるか分からない故に作業を始めたいが、誰かしら手伝って貰えないか」
「任せるのじゃ!」
「‥‥手伝う」
すると直衛の呼び掛けに応じるのは興味を覚えてか、小さな子供達で彼は二人へ苦笑を湛えつつも頷き返せば、まずは箱を拵える為の材料探しへ赴こうとして自身より先に踵を返していたウォルへ尋ねれば直後。
「ウォル殿はどちらへ?」
「あぁ、ちょっと蔵の方に。でかい鋏があればいいけど」
「‥‥?」
彼より返って来た答えに瞳を瞬かせて直衛は暫し考え込むが‥‥肝心な案件を忘れていた事に気付けば、箱を見据えつつも皆へ向けて最後に一言だけ言うのだった。
「そう言えば各所の見張りも必要だったな、済まないが手隙な者は適宜散ってくれ」
●隠剣乱舞
さりとて、細かな打ち合わせより時は暫く経ち‥‥四日が経過した頃だったろうか。
「おい、女将は何処にいる?」
「‥‥どうかしたでしょうか?」
「話があって来た。手紙に書いてあった物を引き受けに来た、と言えば分かる筈だが」
店番を勤めていた灯一が蔵へ向おうとしたその時、上半身をはだけさせた男が一人、慇懃な態度で尋ねて来ると目を細めつつも丁寧な対応にて臨めば、早速本題を切り出す男だったが‥‥土間の奥に広がる板間が軋む音を捉え、そちらを見やればすぐに口を唖然と開け放つ。
「あ?」
「やぁ、良く来たね。尤もこちらはそちらが認めた手紙に記されていた曖昧な日付のお陰で待ちくたびれたけど‥‥と、少し数が少ないね。まぁ、それは気にしない事にするとして‥‥不要と書いてはあったが、折角なんでお茶菓子を用意したよ、ゆっくりして行ってくれないかな? それとも、君達はぶぶ漬けの方がお好みかい?」
「いや、まぁ‥‥」
「じゃあ好きな方を食べるといい」
それもその筈、板間の方より現れたランティスが掲げ持つ盆に十もの湯飲みとお茶菓子を持って出迎えに出て来たのだから。
(「あいつ、かなぁ」)
「無駄な話は嫌いなのだが、単刀直入に言う」
「どうぞ」
「大人しく出す気はない、と言う事でいいな」
その彼の対応を前に流石、男も言い淀むもランティスは変わらぬ調子で尚尋ねれば前に立つ男より後ろに控える幾人かのならず者達の中にいる浪人風の男を見やると‥‥その彼、赤髪の騎士の視線に気付き口を開くと最終宣告を告げては同時、懐に挿す刀を抜き放った。
「よくもまぁ、ご丁寧に」
その頃、蔵‥‥より少々遠く。
目をすぼめてはそちらを見る者一人あり、嘆息をついてはウォルの手によってすっかり綺麗に剪定された木立を暫し呆然と眺めていた。
「少し詰めが甘かったかな‥‥けどま、いいか」
だが反省だけすれば『彼』、早く気を取り直せば次いで遠くから聞こえて来た剣戟を捉えた後に片手を挙げれば、背後に控えていた部下達へ指示を下した。
●
「しっつこ〜い! どうしてそう暇人なのかなぁ!」
「前は任せろよ、エド」
「うん‥‥」
そして始まるのは戦い、愛犬が咆え猛れば友人の仕掛けた鳴子が鳴る中でミリートが珍しく怒声が響かせ、矢を放つその中で‥‥しかし検討とは違う方向から出て来た四人の侵入者達にしかし彼女は怯まず矢を放てば、その彼女を援護する様に前へ一歩踏み出し詠唱織り紡ぐエドだったが、僅かに見えた彼の躊躇いを察してウォルが更に彼らの前へと飛び出ると
「怖いか? でも怖いのって大事だぞ、誰でも戦いは怖いモンだ」
下がらずに詠唱を完成させ、周囲の悉くを薙ぎ払わんと木々の枝を奔らせる彼に囁けば蔵へ迫らんとする黒づくめが二人を抑えながら先よりも声を大に、エドへ呼び掛ける。
「けれど本当に怖いのは怖がっている自分を見ずに突っ走る事だ‥‥だから怖さから目を逸らすな」
「無駄話が過ぎるな」
「‥‥ちっ!」
だが僅かに出来たその隙、影を縫う様に疾駆する一人の黒づくめが通過を許せば彼が舌打ちをする間に早く蔵へと辿り着き、扉の錠をあっさり壊し開け放つも言葉を失う侵入者のその眼前に広がる蔵の中は‥‥無造作に転がる、幾多もの『黒い箱』と結界を張り巡らしては侵入者を出迎える柚那の笑顔。
「どうした? 遠慮なく持って行くがいいじゃろう。でなければ‥‥大人しく縛に付くのじゃな!」
一瞬だけ我を忘れた彼が動き止めれば彼女はその暇を逃さず、敵を拘束すべき呪文の詠唱を織り紡いだ。
「表はあくまで陽動ですか。思った通りとは言え‥‥」
一方の『雉屋』表口、店内での乱闘は流石に避けつつもそれ以上は許されずに灯一と直衛、ランティスの三人はすぐ目前の道にて倍以上のならず者達を相手に大乱闘。
灯一に呟く余裕がある辺り、ならず者達の殆どは彼より格下の腕前しか持っていなかったからだろうが
「婆はのんびりしているといい」
「しかし店が‥‥」
「‥‥もしもの時は、後で片付けを手伝おう」
店の中、その光景をただ眺めるだけの老婆の心中は穏やかではなく‥‥冷静なガイエルが生み出した結界の中にいて尚、不安げに瞳を彷徨わせれば黒き僧侶はそれしか掛ける言葉が見当たらずに苦渋を表情に宿し言うと改めて視線を収束しかけている大乱闘の方へ移し、冷淡な声音で呟いた。
「首謀ははっきりせぬ様だが‥‥この所業、決して許さぬぞ」
●
「えぐしっ!」
ガイエルが呟きと同じ刻、未だ剣戟響く蔵が見える木立の中で『彼』は盛大にくしゃみをしていた。
「どうする、かなぁ。隙を見計らっての婆さん人質計画は無理そうだし、蔵の近くに潜伏出来てもあれだけ似通った箱があれば‥‥人海戦術しかない様な。でも今日は人手が多くないんだけど」
遠目ながらも見える光景と、予想通り慌てて引き返して来たならず者の一人から受けた報告を聞いて、些細な事ながらも至る所に手を回していた冒険者達の作戦に感心するも
「とりあえず、もう少しだけ様子を見るかな‥‥」
引くに引けず『彼』、部下達へ一時撤退の指示を告げればもう暫くだけ、この木立に潜む事を決意するのだった‥‥がそれは襲撃が終わった後も厳戒態勢を敷く事と決めている一行を前に、骨折り損のくたびれ儲けとなる事にはまだ気付かずにいた。
●浮かび、消える道
「どうしたのかな?」
「血‥‥赤、怖い‥‥」
戦い終わりて暫く、蔵の前に一度集う一行の中において地に撒かれている紅の血を凝視するエドを見て、ミリートの問い掛けが響くと彼は静かに一言だけ呟けばポツリと漏らす己の過去。
己の眼前、鮮やかな血を吹き散らして鼓動を無くす両親を目の当たりにした話を紡げばエド。
「だから‥‥殺したくなくて、守りたいだけなのに‥‥どうしてっ! どうして‥‥っ!」
瞳を潤ませ今まで誰も見た時がない絶叫解き放ち、肩を震わせ嗚咽を漏らす彼の思いの丈は如何程のものか、改めて感じる一行ではあったが
「物事、考え過ぎると中々思い浮かばぬものじゃ。忘れた頃に浮かぶ故、これまた妙なものじゃの」
「それにあんまり悪い方に意識しない方がいいよ? じゃないと、上手くいくものもダメになっちゃうもん。ボクなんか、男の人とかって変に意識しちゃうとダメだし‥‥」
初めて耳にしたその話は当然ながら、彼が不意に見せたその反応に惑うも‥‥柚那、何処か達観した様な表情で彼へ声を掛ければ、ミリートもまた例え話こそ方向性が違うが笑顔を浮かべれば
「だから、ね。気楽に、気楽に♪」
「うむ、いきあたりばったりなのじゃっ」
益々その笑顔に花を咲かせ言うと小さな僧侶もまた笑い、頷くが‥‥彼はそれから暫く、口を開く事はなかった。
『雉屋』の母屋、小さいながらもある庭を前に一行とエドに老婆は秋の陽光を浴びながら柚那が最初に言った提案の通り、大福を抓んではのんびりと茶を啜っていた時‥‥不意に響いたエドの声。
「ありがとう‥‥」
「いいえ、僅かでもお役に立てたのなら幸いです」
その彼の、今回の依頼に対しての礼だろう言葉へ僅かだけ表情を綻ばせて灯一は頷くも、先の反応からエドへ次にどう言葉を掛けるべきか悩むが
「‥‥やるべき事を心の中心に据えれば案外どうにかなるんじゃないかな。つまり、腹を据えれば道も開けるって事だ。少なくとも俺はそうだ」
「一人じゃない事だけ、それだけは覚えていてね」
「そうじゃぞ」
「‥‥うん」
臆する事無く、再び先の話題に触れるウォルに諭されればエドは再び押し黙りつつ、いまいちピンと来ないか首を傾げるも‥‥その様子に苦笑を浮かべるミリートが付け加えれば、それには納得して彼は微笑むと、便乗した柚那が頷く中でエドも漸く頷いた。
「しかしどうしたものかの‥‥」
「箱の中身に心当たりはないのだったか?」
「死んだ爺さんが管理していたのでな」
「このまま此処に置いておけば、又狙われる恐れがあるだろうな‥‥さて」
だがそんな彼らの傍ら、裏腹に溜息を漏らしていた老婆に対していたガイエルは思案に暮れる。
それは『黒い箱』の今後の所在に付いて。
老婆からの話を聞きながら彼女は一つだけある案を思い浮かべれば西の方を見やり、一先ず行動に移してみる事だけはこの場で決めるのだった。
「とりあえず話だけ、してみる事にするか」
彼女の行動が吉と出るか、凶と出るかは果たして‥‥もう暫くだけ時を経ないと分からない事ではあるが一先ず、今回も万屋『雉屋』は冒険者の手によって無事、守り通されたのだった。
〜一時、終幕〜