妬む鬼達?

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 8 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月25日〜10月29日

リプレイ公開日:2006年11月02日

●オープニング

●冬が来る前に‥‥
 京都より十里も離れない所にある、人に良く知られている絶景の丘がある。
 明け方はそこより余り離れていない、深くない森の木々に辺りの草原へ朝露宿り輝けば、昼時は今なら映える紅葉の赤が鮮明に視界を覆うと、月が昇る頃には満天の星空が眺められる、そんなちょっと小高く開けた丘の上。
 今年も今年でカップルを中心に、沢山の人が訪れて『いた』‥‥そう、過去形である。
 今では閑散としているその理由として挙げられるのは‥‥鬼の群れ、である。
 しかしそれでも人によっては冗談半分に捉え、未だに足を運んだりもするのだが
「ボギャーーー!」
「ま、マジで出るのかよ‥‥」
 実際、現場に来れば襲われる事となり‥‥わざわざ遠方よりやって来た一組のカップルも現に今、その憂き目に遭えば驚かざるを得ない。
「あ、あっちにも人がいるじゃない! あっちはいいの?!」
 しかしそんな中で片割れの彼女、何かとんでもない事を言っては向こうを指差し、一人膝を抱えては佇むいい年の男性の存在を明らかにするも
「ギャーーース!」
「こっちだけかよっ!」
 彼らを見据えていた小鬼を中心とした群れは視線をそちらへ僅かに走らせただけで、すぐ二人へ視線を戻し再び咆え猛ると青年、納得行かずに叫ぶが‥‥次には続々と得物を掲げ出す様を見れば即座に立ち上がり、彼女の手を引いては脱兎の如く駆け出すのだった。
 その光景を見送り鬼の群れ、良くは分からないが満足げなのだろう表情を湛えれば辺りを見回し、他に『敵』がいない事を確認すると静かに近くの森へと去っていくのだった。

 とそんな事で、こんな依頼が舞い込んで来るのは必然と言えば必然だろう。
「近くの丘に現れる、カップルだけしか襲わない鬼の群れを退治してくれよ!」

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 依頼目的:鬼退治?

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 対応NPC:なし
 日数内訳:移動二日(往復)、依頼実働期間は一日(予備日一日)。
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●今回の参加者

 ea6334 奉丈 陽(27歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb8176 如月 嵐(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb8233 シルフィード・キース(22歳・♂・レンジャー・シフール・イギリス王国)
 eb8365 土師 楓(25歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb8397 来生 慶(46歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

奉丈 遮那(ea0758

●リプレイ本文

●初陣
 京都、冒険者ギルドを前に集う五人の冒険者達。
「楓と言います、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
 まず初め、肝要な挨拶交わす皆の最後、陰陽師の土師楓(eb8365)が手を差し出せばそれに応じて淡い色合いの袈裟を靡かせて奉丈陽(ea6334)が笑顔湛えて握り返すと‥‥初々しい雰囲気を宿す四人を前に彼女。
「でも皆、依頼は初めてなんだよね? 大丈夫‥‥?」
「えぇ、何ら問題はありませんよ」
「そうですね」
 気遣わしげな声音を響かせ尋ねるも、一行の中で一番に年長者である三十七歳の志士が来生慶(eb8397)は四六時中浮かべている笑顔をそのままに言い切れば、その断言と次いで頷く皆の姿を見て陽は安堵するが
「しかし恋人達しか襲わへん鬼‥‥どすか?」
「えぇ、可笑しな話ですけど」
 改めて今回の依頼内容を言葉にして紡ぐ、まだ着こなれていない旅装束を纏う如月嵐(eb8176)が疑問を聞けば、頷きながら多少なりとも皆より経験のある僧侶は自身も初めて聞いた珍妙な話に肩を竦める。
「恋人の逢瀬を邪魔する鬼の退治‥‥これは笑っていいものか悩みますね」
「慶はん慶はん、笑っとりますえ?」
「あぁ、これは失礼」
 すれば陽に倣うかの様、口元に手を当てて自身が言う事とは矛盾して微笑む慶へ嵐がしっかり突っ込めば、漸くその事に気付いた彼は詫びるも
「しかし随分身軽ですね」
「ん、必要な物しか持って来ていないですからね」
「保存食は持ってきました?」
「‥‥あぁ」
 その彼を見て陽、何事か気付いて尋ねれば彼は簡潔に答えるも、続き彼女の口から吐いて出た単語を聞けば暫しの間を置いた後に慶、両の掌を打ち鳴らせばその反応を見た楓。
「味気ない食事ですが、それでも無いよりはマシでしょう」
「それなら、うちも」
「困っている人を助けるのも大事だけど、冒険者同士も助け合わないとね」
「確かに、その通りですね。肝に銘じておきます‥‥それでは行きましょうか」
 苦労性であるが故か、己が持つ皮袋から余分に持って来ていた保存食を彼へ差し出せばその光景を見て嵐に陽も保存食を忘れて来た男性陣へ託すと複雑な面持ちを湛える彼らではあったが、その光景に苦笑を浮かべつつも陽が締め括れば慶も頷き応じた後に彼、皆の先へ立っては冒険者ギルドを後にしては現地へ向うべく、踵を返すのだった。

●見守る瞳は涙に濡れる
「何もこんな所であんな事やそんな事を‥‥」
「うぅ‥‥うちも何時かは‥‥」
 と言う事で場所は変わり、仲睦まじい恋人達の邪魔をする鬼達現れる結構に広い丘の上。
 今の所は大した被害が出ていない事からか、人こそ確かに少ないものの遠方より訪れる者は途絶えておらず‥‥そんな仲良き、つがいの者達を木陰より観察しながら思わず哀愁漂わせる悲しき独り身の楓と嵐。
 彼女らが見据える、更にその向こうに広がる話通りの絶景を見れば独り身である事が口惜しく、本気で涙こそ流れそうになるが
「‥‥今はそれを考える時やあらへんわな、鬼達が出打ちを待ちましょか」
 それだけはぐっと堪えて京都弁を扱う年若き忍者、依頼を果たすべく俯いていた顔を上げれば‥‥どの恋人達を見守ろうか逡巡し、暫く視線を彷徨わせた。

 それより暫し、夜の帳が辺りに落ちれば恋人達が熱い抱擁やら接吻やら、徐々に展開が熱くなっていく中‥‥その光景を木陰から何処か物憂げに、しかし頑張って見張る一行。
 流石に勇気に溢れ、慈愛に満ちる一行と言えども哀愁の血涙がそろそろ嫉妬の炎へ変わりそうな程の時間を経ても未だ現れない鬼達を、散り散りになりながら待っていた五人はそれぞれにどうしたものかと痺れを切らし掛けていた時‥‥いよいよ、漸く待ちに待った兆候が現出する。
「‥‥あらら?」
 それを察したのは楓‥‥草葉の奏でる、いささか乱暴な音色を捉えたが故。
 次いで彼女は散り散りに辺りを張っている他の四人を見回し、口元に左手の人差指を垂直に添えては音が聞こえた方を指差し合図をすれば‥‥申し訳ない気持ちと、これから起こるだろう出来事を何処か楽しみにしつつ、もう少しだけ見守る事にすると直後。
「ベギャー!」
「で、出たぁっ!」
 一行が集まったと同時、比較的離れた場所の、やはり木陰から沸いて出た鬼達の群れが飛び出せば、それに気付いた恋人達が叫びを上げる。
「‥‥‥」
「楽しいかも、なんて思った?」
「私も」
「とは言え、依頼ですからやらねばなりませんね」
 そんな光景に視線を固定したまま静かに集う一行の中、嵐が浮かべる表情からその内心を察して陽が問えば、頷くだけの彼女に次いで楓も嵐に同意すると‥‥彼女らのやり取りに肩を竦めながらも慶は皆を見つめ言えば陰陽師がまず、動き出した。
「それではまず‥‥記憶だけ、読ませて貰いましょうか」
 小声で囁かれる詠唱はすぐに完成されると次には即座に効果を成し‥‥鬼達の意思を、記憶を僅かにだけ汲み取って彼女。
「嫉妬、ですか‥‥案外鬼も人とそう、大差のない思考を持っている様ですね」
「モンスターでもモテル、モテナイとかあるんでしょうか? 人間の僕には違いが分かりませんけど‥‥とりあえず、行きましょうか」
 その思考を手早く皆に伝えるとそれを聞いて魔物に関する卓越した知識を持つ陽はだが、頬に手を当てて学んだ覚えのない話に首を傾げ惑うが、それは大事の前の小事であると言う事をすぐに察すると次には潜んでいた藪の中から飛び出した。
「‥‥ア?」
 すると当然、鬼達の視線は一斉に彼女へ向けられる事となり‥‥次いで飛び出して来た一行をも見止めるが、彼らを見ていた時間は僅かに少し。
 すぐに視線を別の恋人達へ移せば今度、鬼達はそちらへ向けて駆け出した。
「‥‥興味は戦う事より恋路の邪魔ですか、徹底的に変わっていますね」
「しょうがありませんね‥‥」
 するとその光景を前、鬼達に置いてけぼりにされた一行を代表して年長者の慶が頭を掻いて呆れるがそれと同時、何を思ってか陽が一匹だけ出遅れた鬼を目指して駆け出すと‥‥その首根っこを引っ掴んでは顔をこちらへと向けさせて彼女、唐突な行動に気付いた他の鬼達が再び視線を彼女に注げばその中で別段躊躇う仕草も見せずに陽は捕らえた子鬼を暫し見つめた後、接吻を交わすのだった。
『?!?!?!?』
「折角の場所なんですから、皆仲良くしないとダメですよ?」
 すると驚くのは、一行に鬼達にその他恋人達。
 皆一様に目を見開いては目の前の光景を疑うも‥‥探究心のみで行動した彼女は唇を離した後も動じる風は見せず、微笑み鬼達へ言葉を掛ければ
「グギャー!」
「ひょっとして‥‥羨ましいんどすか?」
「全く‥‥」
 直後に咆え猛るのは鬼達‥‥次いで陽と接吻を交わした小鬼へ迫ると同士討ちを始めれば、その見苦しい光景に嵐は彼らの心情を察し呟くと彼女の意見に同意して頷く陰陽師は一風変わった鬼達の、まだ当分は止まりそうにもない内乱を見据えたまま嘆息漏らすが
「しかし鬼、ね‥‥陰陽師には頃合な相手ですか」
 その隙を逃す訳にも行かず、独り言を呟き仲間割れする鬼達の元へと駆け出せば‥‥他の面子も彼女から少しだけ遅れて鬼達の元へ駆け出した。

●激突
「‥‥でも改めて見ると、意外に数が多いですね」
「それなら今の内、出鼻を挫きましょう」
 とは言え駆けたのは数瞬、然程離れていない間合いを一気に詰めると楓は目の前にまで迫っているにも拘らず、未だ袋叩きを続けている鬼達の数を確認して呻くも陽の提案を聞けば頷いて彼女達。
「我、放たんとするは夜の闇を照らす月の光が生みし矢‥‥そよ、早く鬼を貫かんっ」
「闇を照らさんまばゆき光、我が決意の元に更なる強さを持っては前に立ちはだからん敵を討て!」
 凛とした声を場に揃い響かせ、詠唱を織り紡いではそれぞれに白と銀の光を舞わせれば‥‥その呪文が完成を待つ三人は早く飛び出せる様にと身を縮こまらせると刹那、宙を飛ぶ白き礫に月光の矢。
 それは間違いなく、まだまだ気が治まらないのだろう袋叩きに参加する犬鬼を穿ち貫けば此処で漸く、鬼達は自身らが置かれている状況に気付いて動き出す‥‥とは言えまだ、全体の半分程だが。
「ふふっ、私は臆病なんですけどね」
 だからこそ動き出した鬼達の眼前へ、既に自身の得物が間合いにまで距離を詰めていた慶が漏らした言葉と裏腹に笑顔のまま、右に構える刀を振りかざす。
「残念でした、こちらの攻撃が本命です」
 しかしそれは最後まで振り下ろさず、対峙する子鬼が掲げた小太刀と打ち鳴らされる直前にて寸止めすれば更にそこから一足飛び、間合いを完全に零にまで詰めれば左手に持つ短刀を疾く小鬼の腹部に浅くも埋め込むと‥‥たじろぎ出来たその隙見逃さず、更に右手に携える刀を両手に持ち直しては振り抜いて辺りへ血を撒き散らす。
「その程度ですか、少々期待外れどすな」
 そんな血風が舞う中、数が多い事を念頭においているからこそ嵐は彼とは逆に慶へ迫らんとする鬼の眼前へと躊躇わず飛び込んで、片端から振るわれる攻撃を舞う様に避け続けては鬼達の目を自身へと惹き付ける。
「‥‥とも限らない様ですよ」
 とは言え、小鬼や犬鬼ならまだしも‥‥緩慢ながらも動き出した豚鬼を前にすれば肥えた分だけに厚い、それが纏う肉の鎧が志士の振るう攻撃を完全ではないとは言え悉く緩和させれば、それを前にどうした物かと流石に悩む一行。
「それなら」
 だがそれならばと前に一歩踏み出した楓、遅々としながらも自らに突っ込んで来る豚鬼に怯まず詠唱を高らかに紡ぎ上げる。
「我、もたらし誘うは夢の世界‥‥さぁ、永久なる安らぎの淵へと落ちなさい」
 すれば再び白銀の淡き光を纏いながら完成したそれは、彼女の眼前にまで漸く迫った豚鬼へとすぐに効果を成し‥‥直後、肥えた鬼は転がる様に地へ倒れ込みそのまま豪快ないびきを掻いては眠りの淵へと落ちれば
「さりとて、これで一段落という所でしょうか‥‥後は」
「さっきまで仲間割れをしてはった鬼さんだけどすね」
「‥‥なんだかなぁ」
 先から変わらずに繰り広げられている戦闘に漸く残された鬼達が全員気付き、内輪揉めを止めれば今更ながらに得物を掲げる鬼達を見て一行はそれぞれに嘆息を漏らしつつ、やっとやる気になってくれた鬼達に態度だけ呆れながら‥‥しかし緊張感こそ改めて宿しつつも真直ぐな光を宿した視線だけ向け、初めて鬼達と対峙した。

 そしてそれより漸く行なわれた実戦に、初陣の者が多き一行はほぼ同数になった鬼達を相手に所々苦戦を強いられつつも勝利を得たのは当然と言えば当然の結果だろう。
「やれやれ、ですね」

●戦い終われば‥‥
「相変わらずヒトと言うものは見ていて飽きない‥‥」
 暫しの時間、その丘に佇み絶景を観ながら休息をしていた一行。
 その中で楓は辺りへ視線を巡らして‥‥夜遅くにも拘らず未だこの場から去ろうとしない恋人達を見据え微笑めば急ぎ、静かに木陰へ隠れて虚しき人間観察を再び始めようとするが
「鬼達はいなくなった訳ですし、これ以上の無粋を私達が働く訳にも行かないでしょう。此処は静かに帰る事としませんか?」
「‥‥そうですね」
 笑顔を湛えつつも慶に窘められれば彼女、少々考えた後に自身の考えを折ると次に頷いた笑顔のままな彼を見て肩を竦めれば、皆が笑顔を浮かべる中で陽。
「とにかく此処も平和になった様ですし、慶さんの言う通りにこれ以上の無粋を恋人の皆さんに働かない様、早々に帰りましょうか」
「そうどすね、私達も見ているだけでは哀しいだけやし‥‥」
「それではまた、縁があれば何処かで」
「色々とお世話になりました」
 すぐに皆へ呼び掛ければ、相変わらず恋人達へ視線を向けたまま哀しげな声を響かせる嵐と、さっぱりと此処では一時の別れを告げる楓に‥‥依頼書に書いてあったにも拘らず、保存食を忘れてしまったが故、冒険前から一手間掛けさせてしまった慶が詫びれば彼女はそれでも顔を綻ばせたまま、初めての依頼を無事に終えた皆へ笑顔を向けて檄を飛ばすのだった。
「冒険者、って色々と大変だけど‥‥お互いにこれから、頑張って行こうね!」

 〜終幕〜