【再び、目覚めて】貫くべき意志
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:8 G 88 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:11月23日〜12月04日
リプレイ公開日:2006年12月02日
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●オープニング
●紅蓮
京都は今、猛々しく荒れ狂う紅蓮に包まれていた。
下手人は長州藩が強硬派、先の乱より様々な変哲を経て手を組む事となった五条の宮の帰還に合わせての蜂起である。
乱れるばかりの国をあるべき姿へ戻すべく、王道復古を掲げる為にも京都制圧を狙う長州藩は先の五条の宮が失敗から学んだ事より今回、京都内部の各所へ事前に手勢を潜入させれば遂には決起の日を迎えると躊躇う事無く町へ火を放ち混乱を増長させる間、各所にある要所を潰しに掛かるのだった。
義は国を混乱の渦中へ陥れてしまった無能な幼帝、安祥神皇にではなく我らにありと言わんばかりに。
しかしその影で泣く者が少なからずいる事は事実であり、果たしてそれが義と言えるかは‥‥誰の目から見ても明らかであった。
そしてこの混乱は諸国へも伝わる事となり‥‥僅かずつ、混沌は芽吹きだす。
●静かに猛る
伊勢の町に程近い、標高も然程高くない小さな山の中にある小屋を訪ねる者が一人いた。
「アシュド殿、いるか」
「いるが‥‥何だ?」
それは伊勢藩主、藤堂守也で小屋に住まう主は彼が呼んだ名の通りにアシュド・フォレクシーその人。
「余り驚かないで欲しい」
黒い着物を靡かせ立ち上がるアシュドは向き合っていた土くれの塊から伊勢藩主へと視線を移せば、彼の口より次いで語られる話を聞いて先の藩主が釘刺しは利かずに驚きを露わにしては口を開く。
「‥‥京都が?」
「ある程度の情報こそ抑えて警戒はしていたのだが、動きが急過ぎる。万が一の事を考えて警備の強化をしたいのだが‥‥」
「人手が足りない訳か。中心だからこそ」
事態が事態だからこそ、再度確認する彼へ守也は頷き伊勢藩の状況を語れば‥‥少なからずとも自身知る、藩の今までの動きを鑑みて推測すれば渋面を湛えたのは守也。
「あぁ、伊勢が境界の主要な場所への配備が済んでいるからこそ『五条の乱』と同じ動きであれば対応は取れたのだが、今回はまた状況が違う。京都が内部から打ち崩された、となればそれは伊勢においても何時何処で何があってもおかしい話ではない」
「それで手伝って欲しい、と」
「少なからず貴殿は人望があると見受けているからこそ有志を募り、市街の一画が警備を願いたいのだが」
表情はそのままに頷いてアシュドへ応じれば、改めて願い出る藩主へ彼は視線を逸らし‥‥鬱陶しくなって来た後ろ髪を払いながら小屋の片隅にうず高く積まれている埴輪の山を見つめ、一言ボソリと呟いた。
「構わないが、『これら』のテストをしたい。その条件付きでなら引き受けよう」
「むぅ」
「簡単な仕事しかさせないさ、例えば‥‥街中の巡回だけとかな。それだけでもこれなら皆の気を落ち着ける事は出来るだろうし」
(「‥‥果たしてこれを見て、落ち着くだろうか」)
その彼が提案に対し藩主は当然ながら逡巡するも、彼が添えた一言に対し初めて埴輪の山へ視線を投げれば、微妙な造形である土製の人形を見てその疑惑だけ拭えなかったが
「‥‥分かった、アシュド殿が担当する区域にはその様にお触れを出しておこう」
少なからず彼の評判を事前に聞いている守也は背に腹変えられず‥‥やがて、一度だけ頷くと
「しかし、くれぐれも民を危険な目に遭わせぬ様に‥‥それだけは肝に銘じておいてくれ」
「分かっている、自信がなければこの様な状況で申し出たりはしない」
(「その割、扱いがぞんざいな気が‥‥」)
笑顔を浮かべるアシュドへ念の為に釘だけは刺すとその彼の答えに伊勢藩主、益々疑問こそ増すが‥‥やるべき事は他にも沢山あり、彼だけに時間を割く訳にも行かず踵を返せば最後に一言だけ告げると早く小屋を後にする。
「それでは済まないが、宜しく頼む」
「分かった」
すれば藩主の申し出に応じてアシュドは彼を見送り、暫くした後に小屋の外へ出て‥‥僅かな高さしかないとは言え、裾野に広がる伊勢の何時もと変わらぬ街並みを見下ろして瞳をすがめては呟くのだった。
「‥‥もう誰も、傷付けさせはしない。それは絶対に、絶対に‥‥誰でもない『彼女』に誓って」
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依頼目的:伊勢の町を守れ!(ついでにゴーレムの監視も忘れずに)
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
対応NPC:アシュド・フォレクシー
日数内訳:移動四日(往復)、依頼実働期間は七日。
推奨レベル:Lv15〜、それ以下の方に関しては十分に留意して下さい。
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●リプレイ本文
●山奥の工房にて
京都にて起きている乱の、伊勢にまで及ぶかも知れない影響を考慮してかの地は暫くの間、内情が落ち着かない事から今は国司に藩主が指示の元で伊勢全体に全ての藩士を動かし、厳戒態勢を敷いては防備に専念していた。
しかし、伊勢全体ともなれば未だ僅かにだけ人手が足りず、冒険者へもその協力を募れば今。
「‥‥相変わらず、整理とか整頓とかと縁遠い生活みたいだね‥‥」
「一朝一夕で直れば苦労しないさ」
伊勢藩主に抜擢されたアシュドが呼び掛けにより更に冒険者が集うと、その彼が住まう工房を訪れた一行の一人、彼とは旧知の中であるユーウィン・アグライア(ea5603)が小屋の激しい散らかり具合を見れば彼を見つめ微苦笑を湛えると、肩を竦めながらもアシュドは開き直るが
「お久し振りです、アシュドさん。ゴーレムもお元気そうで」
「いや、皆も元気そうで何よりだ」
長身な彼女の背後から手を振って久々に見えた彼へ手を振り挨拶を交わす沖田光(ea0029)を見止めれば改めてアシュドはこの場に集った皆を見回し、顔を綻ばせる。
「和風ゴーレムかー‥‥」
「ん、どうした?」
「‥‥とりあえずゴーレムに関しては見た目も機能の内だと思うんだ」
「うん、やっぱり微妙だね」
「何か、違う気がします。全体的にバランスが悪いというか、いびつと言うか‥‥」
「‥‥悪いな、気にはしているのだが余り手先は器用でないから土をこねくり回したりするのはどうにも」
がその中で一人、部屋の片隅に積まれている埴輪を見ては首を傾げているユーディス・レクベル(ea0425)を見付けると、その様子に訝って彼はすぐに何事かと尋ねれば‥‥相変わらず首を傾げたままの彼女を筆頭に、今度は苦笑だけ湛えるユーウィンと静かに佇みながら真面目な面持ちにて山積みの埴輪へ率直に評価を下す御神楽澄華(ea6526)らの意見を聞けば彼は三人の発言を聞くと自覚しているのだろう、渋面を浮かべるも
「でもアシュド、研究は順調そうね」
「見た目を除いては、お陰様でな」
「羨ましいわね‥‥」
「ん、どうし‥‥」
「市街の巡回と同時、その埴輪のテストと言うか監視と言うかも兼ねるとの事だが‥‥どこまで考えればいい? 隙あらば破壊してもいいのだろうか?」
次に響いたロア・パープルストーム(ea4460)の賛美にはすぐ反応して彼女を見るが‥‥先に響いた声音の割、曇っているロアの表情を見ると彼は口を開こうとするがそれは外套を目深に被り、挨拶を交わした後は先まで静かに佇むだけだった寡黙な剣士のミュール・マードリック(ea9285)が紡いだ質問に遮られると
「それはいきなりに飛躍し過ぎだ‥‥とりあえず私が出す指示に対するゴーレムの動向だけ、伺って貰えればそれでいい」
「でも試験運用するって事は、アシュドさんが記録を取るんだよね? アシュドさん以外の命令は聞かないの? 後、無いと思いたいけど暴走とか命令権が変なのに奪われた場合、対処法に希望はある?」
「そうだな‥‥前者はイエスだ、後者は」
「最悪、破壊してでも止めねばなるまい。その覚悟は良いな?」
「そうだな、ゴーレムは何時でも作る事が出来る」
立ち上がり外へ出て彼、思っていたより高くにまで昇っている太陽を見上げると一先ず彼の疑問へ苦笑を湛えながら答えれば、ミュールの後に続いて疑問を響かせたユーディスへも簡潔に答えを返すが‥‥途中で言い淀むと、その様子にガイエル・サンドゥーラ(ea8088)ははっきりとした口調で問えばアシュドもうず高く積まれているゴーレム達の起動を始めながら、惑い見せずに頷く。
(「けどそんな事言うなら、もうちょっと安全な所でやればいいんじゃねぇかな‥‥」)
「何となく、言いたい事は察しが付くぞ」
次々に埴輪達が動き出す中、見慣れない光景ながらも静観しつつ頬を掻いては内心でだけぼやくクリムゾン・コスタクルス(ea3075)の湛える半眼から注がれる視線に気付けば彼は彼女に向き直り‥‥すぐに過度な露出を誇るクリムゾンから視線を逸らし、とりあえず肩を竦めると
「実戦でなければこの試験に意味はなく、机上の空論とは言え考え得るリスクを取り除いたからこそ願い出たんだ。そこまで至っていない状態で事に臨む程に私は愚かではな‥‥」
『‥‥‥』
「‥‥なら、しかとその目で見ていろよ」
「そうだな、楽しみにする事としようか。それだけの意気を吐いたのだからな」
この急務に際し、真意の一端を動き出す埴輪を見つめながら紡ぐが‥‥それは途中、背中に注がれる八人の視線に気付くと止めざるを得ず、だが鼻息を荒くして皆に向き直り負けじと告げれば珍しく微笑むガイエルに、その緩やかな表情の奥に潜む真意を感じてアシュドは静かに呻く。
「だが、何かあればその時は遠慮なく言え。あの時より少なからず前に進んでいるだろうアシュド殿になら何時でも力を貸そう」
だが彼女はその彼の様子を目の当たりに、再び微笑むと埴輪達に全て彼からの命令が下っただろう事を察してその視線を今はまだ静かな伊勢の町へと移せば、次には歩を進め外へと出た。
●闊歩する、埴輪の群れ
さりとて、あれより一行にアシュドは早々と山を下りれば今は伊勢の町中。
多数の埴輪を従えては広がるその光景に通り掛かる人々は何事かと様々な表情を湛えるが
「さて、アシュド君渾身の力作ゴーレム達と伊勢の平和を守っていきますかー!」
『おー!』
守るべき彼らの視線は今、気にしない事にしてユーウィンが依頼開始に先立って雄叫び上げれば、残る皆もまた彼女に倣い続くが
「でも万が一に備えて、か。火付けか、押し込み強盗か、盗難か、悪巧みか、そんなのかなぁ‥‥ま、何でも注意しておくに越した事はないな」
「そうだな、可能性は絶対に零でなければ疑って然るべきだろうし」
「と言う事で後は相談通りに宜しく」
「‥‥分かった」
「はい、それじゃあ散開!」
ふと今更、確認の為にだろう注意すべき事項を指折り挙げるユーディスへ今日は全身にマントを巻き付けるクリムゾンが頷けば、彼女に便乗する形でロアが皆を見回し言うと静かに呟いては動き出すミュールの後を追う様、ロアは手を打ち鳴らした。
●
それより時間は僅かにだけ過ぎ、日が頂点を過ぎた頃。
「とは言え、だ。これもどうなんだ?」
初日は休みであるクリムゾンは土地勘がない事から、同じく伊勢に馴染みのない光を伴い街中を彷徨っていたのだが‥‥とある茶屋にて赤福を頬張ってはお茶を啜り、傍らにて興じられているおばさん達の話に耳を傾ける見た目麗しい彼へクリムゾンは嘆息を漏らし尋ねるが
「大事な事じゃないですか、私達が今よりすぐに力を誇示する必要はありませんよ」
「だけど、なぁ‥‥のんびりし過ぎじゃねぇか?」
「元より今日は私達、お休みの日ですし」
光は一切動じず、微笑み答えるもクリムゾンは尚納得出来ずに食い下がるがそれでものんびりとお茶を啜る志士は微笑み絶やさず、マントに包まれている彼女へ諭し掛ける。
「旅する人達が何か見掛けたとか、そう言う噂も貴重な情報源ですから‥‥あ、もし良かったらお団子でもどうですか?」
「‥‥じゃ、そっちはお願いする事にするわ。あたいは体を動かしての調査が性に合うんでな」
もその途中、おばさん達が会話の中に気になる話でもあったか、立ち上がっては井戸端会議の方へ声を発して光が立ち上がるとクリムゾンは、その場を彼に任せて後にした。
●二日目
初日は何事もなく終えた一行、引き続き面子を変えては二日目に臨むその中でそれなりに伊勢を見知るロアは巻物を解き放ち今、詠唱紡いで地から足を離し浮いては埴輪達と共に担当の一画を見回っていた。
「背中から羽根が生えないかしら。そうしたら私は‥‥」
その、視界に時折映る埴輪を見つめながら彼女はボソリ、ふと英国の事を思い出して呟くも
「感慨に耽っている場合じゃなかったわね、全く。でも」
次にはすぐに唐突に沸いた感慨に対して自嘲の笑みを浮かべるが‥‥何故か収まらない、胸の高鳴りがどうしても気になって独り言だけ、続けるのだった。
「でも、何かしら。この感じ‥‥」
●
「案外、早いな‥‥」
しかしその日の夜‥‥異変をいち早く察したミュール、眩しき月光の元の一点が黒く歪む様にそれが何かを悟るとその規模から彼が次に取った行動は早く、程無くして一行は管轄の区域に全員集う。
「やれやれ、早速か。最近も襲撃こそあった様だが、これ程の規模は久しいとか」
「‥‥人じゃないんだ。でも土地柄とは言え、余り夜には見たくない光景だね」
「全くだ」
取るに足らない雑兵でも群れては広がるその光景は正しく百鬼夜行と言った感だが、それを目の当たりにしても平然と嘆息を漏らしながらガイエルは即座、自身が張り巡らせる限界までに聖なる結界を広く施し言えば、彼女とは逆にその光景を唖然と見入るユーディスはそれでも抜剣すると、今まで寡黙を貫いていたミュールが伊勢に来てより初めて、外套から僅かに覗く碧眼すがめ呆れるが
「とは言えその数に自身の感情は今、関係ない‥‥必ず守り通す」
「その通りだな、さて『家を守れ』よ」
「ゴーレムも動かせてようやっと、本気になったか?」
「‥‥茶化すな」
「この町の平和と人々の笑顔は、誰にも乱させはしません」
「潔く、散れ」
すぐに普段の眼光湛えると魔力宿る長剣を抜き放てばアシュドも彼に倣って声を張り上げるが、その様子に艶やかな笑みを浮かべるガイエルを見れば途端に顔を顰めるも‥‥次には一行の先陣を駆る光とミュールが迸らせる剣閃を見止めれば、己も負けじと地に降り立たんと上空に漂う妖怪の群れ目掛けて氷雪の嵐を解き放つのだった。
●四日目
「そうさな、不安がないと言えば‥‥嘘じゃろうな」
「やっぱ、そうだよねー」
二日目にあった、何を考えてだろう妖怪が群れを成しての襲撃より暫し‥‥唯一の休みとして宛がわれているこの日を使い、今は平穏な街中を軍馬引いては闊歩する澄華と手持ち無沙汰故にとは言え、市女笠を目深に被り彼女の傍らを怪しげにコソコソ歩くユーディスは揃い伊勢の町に住まう人々から様々な話を聞いていた。
伊勢もそうだが、ジャパンにて度々起きている乱に人々が果たしてどれだけ不安を覚えているか、雑談ついでにでも知りたくて。
「とは言えお嬢さん方、伊勢よりも先ず京都の乱を鎮圧しようとは考えなかったのかね?」
「この時勢に京を離れるは心苦しくありますが、伊勢からも援軍派遣との報がありましたし‥‥だからこそ、その間に伊勢に何かあれば義に反します。京の都のみでなく、周辺諸藩をも太平の世としてこそ真に神皇様の世を守れると信じているので」
「ふむ、立派な娘さんじゃ。しかし‥‥」
だがそんな考えの中、逆に今話している老人からその考えを見透かされてか問われる事となればユーディスは首こそ傾げるが澄華はしかし、惑う事無く答えを告げると次に微笑む老人は辺りへ視線を配し
「みけー、とらー、何処に行ったのー?」
「アシュド、とか言う者は大丈夫なのかの」
「‥‥どうなんでしょうか?」
いびつな埴輪の数体が予定のルートから外れたのだろう、それを探し駆け回っている今日は夜番の筈であるユーウィンを見つめ、埴輪の使い手に付いて問うと彼の事を良くは知らない澄華は正直に答えるが
「でも、大丈夫だよ。きっとね」
「そうか、なら安心して‥‥」
「わー、みけ! 何をしてるのー! ちょっとアシュドくーん!」
『‥‥‥』
僅かな間を置いてユーディスが笑顔で根拠なくとも断言すれば、老人も顔を綻ばせて頷こうとして‥‥だが次に響いた盛大な破壊音とユーウィンの叫びを聞けば三人は沈黙し、だが次に顔を見合わせると静かに微笑を交わした。
●貫くべき意志
そして迎える最終日‥‥結局の所、目立った騒動は二日目以外、特に何もないままに一行は此度の依頼を終える事となる。
それは果たして一行の巡回が抑止となってか、それとも少々不気味な埴輪の群れが功を成したのかは分からないが、とにかく無事に終わった。
「んー、お疲れー!」
「あれ、まだ起きていたんだ?」
最後の夜の見回りを終え、アシュドの工房に戻って来たユーディスらを夜更けも近いに拘らず出迎えるユーウィンに彼女は首を傾げ、尋ねるとアシュドの親友は答えの代わりに工房の奥を指差せば‥‥そこでは男二人が真夜中にも拘らず何やら熱く語らっていた。
「あの調子だから中々寝れなくてねー」
「いい迷惑だっての」
その、時間を問わずな光景に巨人の騎士は微笑みながら続けるも、クリムゾンが生欠伸を織り交ぜた返事をすればその様子にはユーディスも苦笑を浮かべ同意するが、そんな彼女らの会話には気付く事無くアシュドと光の話は続く。
「所でアシュドさんは、材料に樹は使わないのですか? 元々精霊力と生命力の高い魔樹の類を材料にしたら、普通の樹には無い効果が生まれ無いかなぁと」
「色々と検討はしているよ。光が言う樹もそうだが石に岩‥‥その他にはサイズの検討も含めて色々とな」
「サイズ‥‥?」
「‥‥アシュド様って、何時もこんな感じなのですか?」
「まぁ、ゴーレムが絡むとね。いずれはゴーレムと話がしたいとか言ってたし」
「そう、なんですか?」
そんな二人が交わす会話を見つめながら、熱く話すアシュドに付いて未だ人物像が掴み切れていない事から尋ねる澄華へロアが答えを返すと、真剣な面持ちにて頷く彼女に
「まぁ、冗談よ冗談‥‥多分。でも安心したわ」
「何がですか?」
「もう一年位前になるのか、腐っていた時期があってな」
「‥‥昔話はするな」
「恥じる事はないだろう、その経験が今の糧となっているのなら」
「そうだよ、偉い偉い」
慌ててロアがフォローするも、次にボソリと漏らした彼女の発言には何も知らない澄華は彼女が何に安心したのか気になり尋ねるとロアの代わり、部屋の片隅にて今は呑気に茶を啜るガイエルが端的に答えれば‥‥それには過敏に反応するアシュドだったが、エルフの僧侶がすぐに窘めればユーウィンも賛同して彼の頭を撫でると、それから逃れようとしてアシュドは後ずさるも
「守るべきものを知らず戦い続けるのは難しいものです‥‥でも、それと決めたのなら必ず、貫き通して下さい。その大小に関わらず、必ず」
「あぁ、分かっている‥‥」
しかし執拗に彼女は追い駆ければ次に始まるドタバタの中、澄華はその場の雰囲気を気にせず凛とした声を場に響かせれば‥‥ユーウィンに捕まり屈するアシュドは彼女の呼び掛けに間違いなく頷くと
「今回も色々と助けて貰い感謝する、だから‥‥皆の前でも誓おう、伊勢は必ず私が守ると」
「でも、皆でね!」
地に打ち倒された締まらない体勢のまま表情だけは真面目に、決然とした声音にて皆へ告げるがユーウィンと、その後に続き浮かべる皆の笑顔を見ればアシュドは張り詰めていたその表情を確かに緩めるのだった。
〜終幕〜