【伊勢鳴動】穏身偵察
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月21日〜12月26日
リプレイ公開日:2006年12月28日
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●オープニング
●動く伊勢藩
伊勢、市街の真中にある藩主が邸宅においてその主より呼び出されたのは魔法が未だ使えない、火の志士が十河小次郎。
「色々と済まなかったな、先日は」
「そう思うなら呼ぶなよ‥‥」
「それはさて置き、だ。今回もまた頼みたい事がある」
(「置くなよ」)
その主こと伊勢藩主、藤堂守也の部屋に招かれては第一声にて苦笑湛える彼より詫びられるとしかし小次郎は憮然とした面持ちにて未だ根に持っているのか、ぶつくさと以前請け負った女装盗賊団の依頼を思い出し不平を垂れるが、それはさて置いた藩主が本題を切り出すと内心では呻きながら小次郎、一つ頷くと
「京都にある、黒門絶衣の卸問屋を張り込み可能な限りの情報を手に入れて来て貰いたい」
「奴の下につく奴や、抱えているだろう私兵の調査と言う事か?」
「そうだな」
緩んでいた表情を引き締め、一枚の和紙を差し出しては今回小次郎を呼んだ理由を告げる伊勢藩主に対し、その内容を推測して真意を尋ねる志士が問えば藩主は首を縦に振るが
「‥‥しかしギルドに対して要求する冒険者の力量はこの程度でいいのか?」
「先日の京都の乱から暫し経つが、色々あって今は懐事情が厳しくてな」
次に今回の依頼内容が認められた和紙に視線を落としながら響かせる小次郎の更なる疑問が然程間を置かずに響くと、再び苦笑を湛える守也は伊勢の内情を語り‥‥次いでその胸の内を明かす。
「とは言え、伊勢神宮とも見解が一致するこの問題は私達からしても余り先送りには出来ない。とは言え調査もなしに事を起こすのは愚であり、だからこそ先ずは調査に重きを置くからこそ問題はないと判断している」
「心配だな」
「率直に私から言わせれば、小次郎殿も心配なのだがな」
「じゃあ呼ぶな」
さすれば小次郎、依頼の内容から真面目な面持ちにて参加する冒険者達の事を気遣うが‥‥伊勢藩主から返って来た言葉には半眼湛え、膝の上に頬杖をつくと
「今は伊勢のあちこちが慌しいから思い当たる節が貴殿しかいなかったのだよ。それに『彼』の周りに付いては小次郎殿が一番、詳しいと思ってな。そう言った事で済まないが頼まれてくれるか?」
「‥‥分かった」
苦笑を貼り付けたまま、窘める様に言葉を紡ぐ藩主の確認には周囲の状況と彼が言う、己が求める情報を得るべく為にやがて火の志士は頷くも‥‥それとは別に抱える、個人的な案件に付いて次に頭を巡らせた。
(「さて、アリアはどうするかなぁ‥‥」)
●
「行きます、絶対行きます!」
「‥‥たはー、そう言うと思った」
と言う事で場は変わり十河邸‥‥暫く家を空ける事から妹のアリア・レスクードへ簡潔に事の次第を話しては早々に家を後にしようとした小次郎だったが、無論それだけで済む筈もなく今は彼女に詰め寄られて頭上が天井を仰ぎ見ていた。
「だって‥‥お父様がいるのかも知れないのでしょう?」
「やっぱ迂闊に話すんじゃなかったかなぁ」
「‥‥お兄様は何時もそう、一人で何でも抱え込んで」
と言うのもつい先日、ふとしたきっかけで小次郎が彼らの父に出くわした事を妹に漏らしたからこそで、アリアとしては記憶に残っていない父親の面影を探すのは当然故、更に兄へ詰め寄り問えば今更ながらに後悔する小次郎だったが‥‥その呟きに対してアリアは次に顔を俯けると哀しげに声を響かせるも
「でも、今は私だっているんですから‥‥!」
「はがぁっ!!!」
「っぅー‥‥」
次には先と裏腹、声高に叫んで同時に己の頭を勢い良く上げれば兄の顎をもかち上げて彼女‥‥頭部に走る痛みを堪えつつ、余程痛かったのだろう畳の上に倒れもんどり打つ兄へ先に紡いだ言葉の勢いの割、穏やかな表情で兄を見つめれば暫く‥‥。
「‥‥しょうがない、連れて行くか。だが危険だと思ったらすぐに逃げろよ」
「はいっ」
強かに打ち据えられた顎を摩りながら漸く上半身を起こしつつ、己の敗北をアリアへ告げれば途端に笑顔浮かべる彼女の様子に小次郎は頭を掻くも、コロッと変わった彼女の表情を見て微笑みながらも小次郎はふとその表紙に考え込む。
(「しかし親父、家にいた頃とは随分と雰囲気が変わっていたな。いや、あれが本当の‥‥?」)
それは先日、出会った父親の事‥‥自身、父親の近くにいた時は常に昼行灯で通していた姿しか記憶していなかったからこそ、今更に妙なズレを覚えるのだが
「まぁ今考えてもやんごとなき事か、じゃあとりあえず準備でもするか」
ちょくちょく家を空けていた事があったのも思い出せば彼は自身、父親の知らない姿があるのだろう事を思い出すと今は割り切り、妹を促しては出立の準備を始めるのだった。
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依頼目的:黒門絶衣の身辺調査!
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は不要ですが、自己負担になります。
また防寒着もそろそろ必須な時期。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
対応NPC:十河小次郎、アリア・レスクード
日数内訳:五日間丸々、依頼実働期間とする。
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●リプレイ本文
●行先不安?
京都、冒険者ギルドのその前にて一行は今回の依頼の主である十河小次郎とアリア・レスクードと邂逅を果たしていた。
「志士の東雲八雲だ 宜しく頼む」
「おう、こちらこそな。俺が十河小次郎で、向こうにいるのが妹のアリアだ」
殆どの面子が初見の中、だが何時もと変わらずに小次郎は気さくに皆へ手を掲げては呼ぶと志士の東雲八雲(eb8467)の挨拶へ応じれば、次には皆へ頭を垂れる妹を紹介すると
「ほぉー‥‥あんたかいな」
八雲の背後から飛ぶ生温い視線に気付けば小次郎、それが飛んで来た方を見ると刹那。
「大宗院沙羅ちゅうもんや、義弟から女装の趣味があるって聞いとるでぇ〜。ちゅう事でどや、この反物買わへんか? 今なら仕立てもサービスするで〜」
「え、何‥‥そんな趣味があるの?」
「いきなりそんな話はやめれやー! 他の奴がドン引きするじゃないか!」
「なぁにを今更、その話はすっかり筒抜けやで。シュマリの様に知らん者の方が逆に少ないやろ」
笑顔にて応じる大宗院沙羅(eb0094)の簡潔な自己紹介が響けばその次、小次郎が気にしている事を何の気なく触れながら商魂逞しい彼女は依頼人相手に色鮮やかな反物を広げ、商売を持ちかけるとそれが何を指す事か、何となく察した小さき蝦夷の戦士がシュマリ(eb7418)は目を剥いて小次郎へ問えば、彼のあどけない視線を受けて狼狽を露わに火の志士はいきり立つも‥‥既に皆がドン引きしている中で沙羅が止めの一撃を情け容赦なく放てばうな垂れるのは彼の方で今にも血反吐を吐きそうな苦悶の表情を浮かべ、小次郎は泣き咽ぶも
「アリアちゃんに会うのも久し振りね」
「あ、あの節はどうもありがとうございました」
「いえいえ、所でジャパン語は克服出来たのかしら?」
「はい、何とか馴染みました‥‥けど」
「けど?」
「ジャパン語って奥が深いですね、同じ言葉でも使い方次第で意味が全然違ってくるから」
彼の妹は久方振りに会い見えた浪人の皆本清音(eb4605)と以前の依頼から後、今に至るまでの顛末を楽しげに話していればその光景を見て小次郎。
「こう言う時は気付きもしないんだな、アリア‥‥」
「ほら、これなんか似合うと思うんやけど」
「そんな事は決してない!」
助け舟を求めるのは無理と察して地に倒れ伏すも、沙羅が尚もバックパックから別の反物を取り出しては彼の眼前へ突き付けると未だに抵抗を試みるその中で嘆息が一つ、場に響く。
「‥‥何かやはり、危なっかしいな」
その嘆息は妙艶な浪人の水上銀(eb7679)が紡いだもので、目の前の光景に肩こそ竦めるも
「まぁ浮き草の様な稼業じゃあるが、たまにゃ人様の役に立っとこうかね」
「そうだねっ」
次には僅か、口元を緩め言えばカムイラメトクの少年も笑顔を湛え彼女に同意するのだった。
「とは言え、だ‥‥この調子では何時出発するか分からないな。とりあえずは止めるべきか」
未だに続く、小次郎と沙羅の壮絶なやり取りを前に八雲が彼らを窘めようと判断し、動き出した中で。
●穏身偵察 〜黒門絶衣〜
それより暫しの刻を経て伊勢の街中、あちこちの卸問屋を駆け回る沙羅の姿が見受けられた。
「うち、最近なぁ取引先を増やそうと考えておるんや」
「それはそれは」
先ずその第一声は決まりきった文句で始めれば、対する卸問屋は顔を綻ばせつつも彼女を品定めする様に視線を這わすも三件目の此処でもやはり変わらない対応に、しかし沙羅は特に気に留めず携えて来た反物が一枚を取り出し言えば、今度はそれを己の目にて確かめる卸問屋が主人へその合間にさりげなく、やはり決まった問いを投げ掛けると
「そや、次に伊勢で一番に大きな卸問屋に行こうと思うとるんやけど‥‥どんな感じやねん」
「まぁ仰る通りなのですが、余り宜しくない噂も耳にしますね」
「あぁ、少しなら知っとるで‥‥はぁ」
今までと同様に同じ答えが返って来た事に微か、嘆息を漏らせば彼女はしかしそれでも違う話が聞けないかと顔を上げては話の矛先を変え、先ずは外堀から黒門の情報を得ようとするのだった。
「まぁやっぱ、噂は噂やな。何処も似た様な話ばかり‥‥となればや」
が、それからまた数件を巡り沙羅が得た情報は小次郎より聞いた話と寸分違わず、そうとなればいよいよ開け放った扉は黒門が商う卸問屋のもの。
「失礼するでー、黒門っちゅう人はおるかいなー」
「今は生憎と留守にしておりますが、何用で?」
戸が開くと共に早速卸問屋の主を呼ぶ彼女に、その中にいた全員が一斉に振り返ればその視線を前に沙羅は背筋に一瞬、寒気こそ感じるが‥‥僅かな間を置いた直後、すぐにそれが消え去ると同時に響いた番台にいる青年の問い掛けに対して彼女。
「いやな、おたくんとこと商売の取引をしたいやけど‥‥どやろか?」
「そうですね‥‥今はいささか慌しいのですが、物によっては主人が考えるかも知れません」
「そか! ほな早速、掘り出し物を持ってくるさかいにちと待っといてな」
何とか気丈を保ったまま、何時もと変わらぬ声音にて伺いを立ててみれば‥‥返って来た彼からの答えに笑顔を湛えると一先ず踵を返した。
「あかん、何やあの空気。けったい過ぎるで‥‥やっぱ何かあるんやろうな」
と言う事でそれより卸問屋を出てすぐに沙羅、僅かとは言え感じ取った怖気へ苛立たしさを露わに髪の毛を掻き毟るが
「とは言えや、これも金の為! と思って‥‥はぁ」
次にはすぐに自身を鼓舞するも直後、あの場の空気を思い出せば気が滅入って頭を垂らすのだった、きっかけこそは上手く作れたものの肝心の話はこれからなのだから。
●
今は沙羅だけが表立って動いている中、残りの面子はそれぞれに散りながら身を潜めて黒門が卸問屋に張り付いていた。
「思っていた以上に慌しいな」
「此処最近、常にこんな感じだな」
「そして規模も意外に大きい」
「俺達だけで全容が把握出来ない程だから、そこら辺の小悪党と一緒にしない方が‥‥」
その中の一人が八雲は小次郎と共に卸問屋の裏手にて様子を見守れば、予想以上に多くの人々が行き交う光景を言葉の割、平然と見守りながら何度か行き来する者を簡単に記し油断なく辺りへ視線を配すると、近頃より変わらない卸問屋の状況を告げる小次郎と話をしていた折、微かに土を踏む音を捉えた二人が振り返ると、そこには簡素な旅装束を纏う清音がいた。
「‥‥清音か、お疲れだったな」
「いえ、驚かせてしまったみたいでごめんなさい」
「こちらこそ、変に殺気立って済まなかった。それで首尾はどうだった?」
その、見慣れた顔があった事に安堵して小次郎が彼女を労えば、詫びる清音に対して八雲も丁寧に詫びながら彼女が探っていた、黒門の卸問屋で扱っている物品の流通経路を尋ねると
「取引先は普通の商人が殆どだったけど、おかしいのよねぇ」
「何がだ?」
「卸問屋の割、相手に品物を卸すだけでね。自分とこは何も仕入れないのよね」
「そうか」
その答えを返すより先ず、首を傾げる彼女の反応に訝る小次郎が更に尋ねると漸くその答えを紡いだ清音の話を聞けば、僅かな間を置いて一人納得する小次郎の様子から何となく察して八雲。
「此処を引き払うのか?」
「だろうな、とりあえずお前達は適度に休みながらこっちを頼む。俺は別の方の様子を見てくる」
「小次郎も休めばいいものを‥‥」
「でも、お言葉に甘えて少し休まない?」
その行動が意味する事を口にすれば、彼の答えに頷いて小次郎は二人へそれだけ告げれば踵を返し、その場を立ち去るとその後姿を見送りつつ八雲は探りを入れ始めたばかりだが未だ休みを取らずにいた小次郎を心配するが、清音はそれでもと割り切って八雲へ声を掛けた‥‥その時だった。
卸問屋の裏口より黒門絶衣その人と、小次郎より人相を聞いていた内の一人が揃い現れたのは。
「あ、あれって‥‥」
「‥‥そう言う訳にも行かなくなったな。済まないが俺も外す、清音はここを頼んだ」
すれば黒門絶衣がその脇を歩く者の面立ちが彼らの父が十河士郎だと気付いた清音が茶色い瞳を剥いて驚くと、その傍らで指を鳴らした八雲は彼女へ再び詫びながらかなりの距離を置いた後、二人の後を追うのだった。
●穏身偵察 〜まだ見ぬ父〜
一方その頃、のんびりと伊勢の街中を歩いていたアリアにシュマリと銀。
「僕はカムイラメトクだから、女の人には優しいんです」
「そうなんですか?」
「さぁ、あたしゃ初耳だけどねぇ」
「まぁそう言う事にしておきましょうか」
小次郎が言う『虫』避けに努めるシュマリがアリアの腕に引っ付きながら、それを傍らにて見守る銀と楽しげに会話を交わす彼女らが三人の目的はと言えば、アリアの父親を探す事。
どうやら彼らの父親が黒門の一派に加担しているらしい話を聞いた二人、早くアリアへ協力を申し出れば今へと至るのだが‥‥その捜索が困難を極めるのはそれより暫く後の事だった。
「さて‥‥どうしたものか」
「全く、何処でも見掛けた事がないの?」
「えぇ、確率的には会ってもおかしくはないんですけど‥‥残念ながら」
彼女の家を中心に先ずは聞き込みを行なうも『最近は全く姿を見ない』との答えばかりが集まるなら早々と手詰まりに陥った三人、顔を見合わせては至る最後にして唯一の手掛かりと言えば。
「そうなると、後は‥‥黒門の所かねぇ」
「ですが考えなしで迂闊には‥‥」
「それなら任せてっ、僕が行って来るよ!」
銀が言う通りの場所しか思い浮かばず、彼女が呟いた後にアリアはどうした物かと言い淀むも‥‥二人が悩む間にシュマリが早く決断を下せば、止める間も無く目の前に近付いていた黒門の卸問屋へと突貫していくと、挨拶と共にけたたましく戸を開けてはその中へ消えれば
「行っちまった、人生半か丁かのあたしのお株が取られちまった様だねぇ」
その彼を見送りながら銀は苦笑を湛えボソリと呟けば、自身に視線が注がれている事に気付くとその主であるアリアを見ては問い質す。
「ん、何だい?」
「その考え方、ちょっと羨ましいです」
「そ、そうかい‥‥?」
「はい、自分でも結構行動的だとは思うのですがいざと言う時、咄嗟に行動出来なくて‥‥だから、羨ましいです」
すると瞳を合わせてははっきり返って来た彼女からの答えに、視線を先に逸らした銀が照れ臭げに改めて尋ねると即答するアリアへ余計、視線を合わせられなくなればその反応に首を傾げる彼女に背を向けたまま、声高に返すのだった。
「そんなこたぁないよ、買い被り過ぎさねっ」
さて、それより数刻を経て‥‥シュマリの帰りを待つ二人、黒門が商う卸問屋を影から見守っていればやがて、戸が開けられると二人の視線がそちらを向けば次いで転げる様にシュマリが出て来れば、その後を追って見た目だけでは年齢が分からない女性も現れると
「植物の仕入れや山への薬草採取なら役に立つと思うんです!」
「悪いけど生憎と人手は間に合っているんでね、悪いけど別な所を当たっとくれ」
次に中でも頑張ったのだろうシュマリは尚、食い下がるが‥‥その彼へはっきりと声音こそ柔らかかったが、何処か棘のある響きを含ませて彼女が断わり踵を返すと卸問屋が中へ戻っていけば、戸が締まってから暫しの間を置いた後に彼。
「ぐすぐす‥‥」
「お疲れ様でした」
「けど、その様子じゃ何か分かった事があるみたいだけど?」
二人の存在に気付けば泣きじゃくりながら歩み寄るシュマリの、その頭を優しく撫でては労うアリアだったが彼の雰囲気から何となく勘が働いた銀が彼を問い質せば
「何かガランとしていたよ」
「卸問屋なのに、か。気になるねぇ」
「それとアリアさんのお父さんはいなかったけどチラッとだけ、刀狩りをしていた人とかが見えた‥‥気がするよ」
カムイラメトクの戦士は次に彼女へ視線を向けると、邪気無く笑いながら銀の問いへ簡潔に答えるとそれを聞いて考え込む浪人へ次いではっきりと見た訳ではなかったが為に惑いの表情を浮かべつつ‥‥その話が途中を聞いて今日も父とは会えない事を悟ったアリアが沈痛な面持ちを携えると、その表情を見てシュマリは渋面を湛えながらしかし、最後まで言葉を紡ぐのだった。
「もしそれが確かなら、厄介な話ね」
●ささやかな宴
さりとて、時間とはあっと言う間に過ぎるもの‥‥と言う事で最終日の夜。
「それは分かるがその費用が何故、俺持ちなんだ?」
「丁度ジャパンでは忘年会の時期だし、折角だからね」
「余り細かい事は気にしない方がいい」
「気にするわっ!」
清音の提案にて十河邸にて催される忘年会のその中、己の財布の中を見つめてはぼやき誰へともなく理由を尋ねる小次郎へ、その提案者の清音が明朗に答えると何故か渋面を湛えている八雲も次いで言えば叫ぶ小次郎だったが
「まぁ、いい。一先ず集まった情報を纏めると黒門の取引先とその私兵の大まかな数に構成、伊勢で騒ぎを起こしていた存在との接点がほぼ認められた事に今とこれからの動きに付いて位か‥‥ま、真新しい情報こそなかったがこんなもんだろうな。大勢も決まった事だし」
「何が?」
すぐに我へ帰ると忘年会を始める前に一通り、皆が集めてくれた情報を纏めてみればその話を聞いてシュマリ、話が見えずに彼へと問うと
「何を狙って起こしていたのか伊勢での活動を一時、自重して江戸に身を伏せるってな。恐らくこれから力を蓄えて出直しでも図るんだろう」
「ならばこれから、どうするのだ」
「下手に動かれる前‥‥恐らく年明け早々にでも押さえるだろうな、黒門が江戸へ逃れる前に。とにかく、色々と助かった。俺達だけじゃあこの期間で此処まで細かくは調べられなかっただろうし」
また協力を乞うかも知れない彼らを前に小次郎がすぐにその問いへの答えを返せば、それを察しつつ黒門らに見事撒かれた土の志士がシュマリの次に尋ねると曖昧に返せば依頼の話は此処までと言わんばかり、溜息をつくと礼を言いながら小次郎が皆を見回せば
「うちの義母と同級生だったらしいやん。今ならこの羽織、友達価格で提供するで」
「あ、あはは‥‥どうしましょう?」
「‥‥皆との触れ合いが少なからず、アリアの気晴らしにもなったみたいだ」
「好きだよ、こう言う娘。願いを叶えてやりたいもんだ」
「僕もー」
黒門と直接話しては情報を得る事が出来なかったからか、反物を手に何時も以上に商売に勤しむ沙羅へ迫られ、苦笑を返すアリアを見ては今まで張り詰めていた感が多少なりとも拭えている事に対しても礼を言うと、銀とシュマリが笑顔を浮かべ言えば小次郎。
「‥‥そうだな。とまぁ話してばかりじゃ何時まで経っても忘年会が始まらないな」
「じゃあ乾杯やー!」
顔を綻ばせると漸く、忘年会の開始を告げれば同時に何時の間にか杯を手にした沙羅が音頭を取れば次に杯が打ち鳴らされる中、小次郎は一気に酒を煽るのだった。
〜一時、終幕〜