翼は導く

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月25日〜12月30日

リプレイ公開日:2006年12月31日

●オープニング

●来訪者
 ジャパン、京都はその港にて‥‥来訪者なのだろう、舐めした皮の帽子を被っては同じく皮の長衣を身に纏い、皮の長靴を履いた一人の珍妙な身形の男が今日新たに到着した船より降り立っていた。
「ふむ、此処がジャパン‥‥京都か」
 その皮尽くめな彼、周りから降り注ぐ視線には慣れているのか別段気にした風も見せず涼しく声を響かせ辺りを見回せば‥‥未だ生々しく残る焼けた跡を見止め、帽子を目深に被り直すが
「話に聞いた通り、戦禍の跡が未だ残るか。何処へ行っても戦いばかり‥‥全く。隠れているだろうその根、果たして根絶する事は出来るか」
 次いで哀しげに響いた声音はしかしそれだけ‥‥次にはすぐに顔を上げ、帽子の唾を持ち上げては厳しい眼差しを取り戻すと改めて何事か、秘めたる決意を胸に刻めば彼‥‥レイ・ヴォルクスは自嘲する様に肩を竦めた後、歩き出した。
「いや、それをする為に私は此処まで来たのだったな。さて、伊勢へ向かう前に肩慣らしでもするか」

●再会
 来訪者が京都に降り立ってからほんの少しだけ後‥‥冒険者ギルド、一つの依頼を見定めてはそれを受けようとエドワード・ジルスはギルド員の青年へその旨、申し出ていた。
「食糧確保の依頼だが、構わないか?」
「うん‥‥」
 その依頼内容からギルド員の青年は、彼には少々荷が重いだろう内容と判断して念押しに確認をしていた、丁度その時だった。
「山々に入っては自然の恵みを頂く、冬だからこそ中々に厳しい依頼だがこんな依頼も時には悪くないな」
「‥‥‥?」
 不意にギルド内へ響いた聞き慣れない声に青年が振り返れば、入口には全身皮尽くめの男が立ち尽くしていた‥‥外は雪が降り積もるにも拘らず、身動ぎすらせずに。
「久しいな、エドワード。健在で何よりだ」
 その二人と、ギルド内にいる他の冒険者達の視線を受けても彼はその身を揺るがさず、エドへ再会の挨拶を交わせば、僅かながらとは言え見覚えのある出で立ちの彼へ頷くだけのエドだったが、幼き魔術師の表情を見てレイは暫し間を置くと‥‥高らかに告げた。
「貫き通した事が全ては正しい。故に己を疑うな、今まで自らがしてきた事の全てが揺らぎ、崩れるぞ」
「何で‥‥?」
「顔を見れば分かる事だ」
(「こいつ‥‥旧知の仲だけではない」)
 すれば目を剥くのはエドで、驚きを露わにするも帽子を目深に被り直すレイは口元にだけ苦笑湛え答えれば‥‥その光景の中、黙したままのギルド員はレイを見据えたままにエドとの付き合いが空白だった一年があるにも拘らず、彼の迷いを間違いなく見抜いた伊達酔狂でそんな格好をしているのだろうレイにその身形だけでは分からない、確かな実力に内心で舌を巻くが‥‥その当人はギルド員の青年が考えなど気に留めず、言葉を続ければ
「自信を持て、惑うからこそ尚更に今まで己が歩いて来た道程を‥‥しかしこの一年で随分と表情豊かになったな」
 次に渋面湛えるエドの肩を叩く彼へ一つ頷き返してレイ、一年前とは見違えた彼を褒めれば今度はギルド員の青年へ改めて向き直ると
「よし、それでは‥‥私も久々に会った知人の為、この依頼に同道しよう。故に済まんが君、ジャパンの事は余り知らんので歴史や知識に長けた者も付けて貰えないか? まぁあくまで希望だが、色々と今の内に知っておきたいのでな」
「‥‥あぁ、分かった。が‥‥何でそんな格好なんだ?」
「格好いいからに決まっているだろう」
 エドと同じ依頼に同道する旨だけ告げ、自身の希望も添えるとギルド員の青年は‥‥その彼が内在する力を気にしつつも、やはりどうしても気になってしょうがないその身形に付いて先ず問えば、レイは愚問だと言わんばかりに肩を竦めながらも即座に答えを返すのだった。

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 依頼目的:冬の山々にて食料となる物(食べられる物であれば何でも可)を確保せよ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要、また防寒着もそろそろ必須な時期なのでそれらは確実に準備しておく様に。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 対応NPC:レイ・ヴォルクス、エドワード・ジルス
 日数内訳:依頼実働期間、五日。
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●今回の参加者

 ea0858 滋藤 柾鷹(39歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2562 クロウ・ブラックフェザー(28歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea4460 ロア・パープルストーム(29歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea6065 逢莉笛 鈴那(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea6226 ミリート・アーティア(25歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6601 緋月 柚那(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb9572 間宮 美香(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●賑々しい一団
「これで全員か? 足りない気がするが」
「そうですわね。まだ一人、来ていない様で」
 雪が今日も降り積もる京都の冒険者ギルドがその中にて、集う一行を前に同じ依頼を先んじて受けたレイ・ヴォルクスがその入口を前に皆を見回し、頭数が足りない事を問えば僧侶ながらも目立つ風貌を携えるシェリル・オレアリス(eb4803)がにこやかに笑みを湛え返した丁度その時、戸が激しく蹴り倒されては開け放たれると
「ちょっと、何処よレイ! 噂をギルドで聞いて、慌てて駆け付けて見れば今回の依頼‥‥相変わらず突然なんだから! 手紙の一つ位、寄越しなさいよねっ」
 直後に現れたのは最後の一人がロア・パープルストーム(ea4460)で倒れた戸を思い切り踏み締めては甲高い声を張り上げるが、遅れ辺りを見回して皆が集まっている事とその中にいる筈の人物が居ない事に気付くと今度はその声のトーンを落として皆へ問う。
「って肝心のレイは何処?」
「その下じゃな」
 すると何時もと変わらぬ巫女装束を纏う緋月柚那(ea6601)よりすぐに答えが返ってくればロア、慌ててその場より飛び退くと彼を助け起こす。
「しかし何じゃ、あの全身皮尽くめの男は‥‥えげれす人とは皆、あの様に珍妙な者が多いのかの?」
「いや、あの人が特別なんだろう。言っておくけど、俺は英国生まれでも普通だからな」
「あ、済まん。これは失礼したのじゃ」
 その光景を呑気な視線にて見守る柚那がボソリ、呟くと出身国の聞き捨てのならない言葉を耳にしたクロウ・ブラックフェザー(ea2562)が苦笑を湛えつつ己を指差し彼女へ言えば、迂闊な発言だった事にすぐ気付いた柚那は真摯に詫びるも
「エドくん、今回もよろしくだよ」
「うん」
「ん‥‥前よりちょっと良い顔になったかな? でもほらほら、笑って笑って。気楽にしてないと楽しくないって♪」
「そうじゃぞ、笑顔でいる事が良い事を引き込む秘訣なのじゃからな!」
 そんな二人の傍らにて全員が集ったからだろう、ミリート・アーティア(ea6226)が何時もの笑顔を湛え、まだ小さき魔術師のエドワード・ジルスへ声を掛けると柚那もすぐその場へ雪崩れ込めばクロウが肩を竦める中で三人、エドの調子に合わせて話に花を咲かせるとその彼。
「何か今回のお客、意外に知っている人が多いのな‥‥まぁ俺は初めてだけど、二人とも宜しく」
「宜しく‥‥」
「こちらこそだ、ジャパンに来たばかりで迷惑を掛けるかも知れないが宜しく頼む」
 自身も話の輪に加わるべく初めて見る二人へ挨拶を交わせば返って来る挨拶よりふと、疑問が沸いたクロウは次いでレイへ問うてみると
「所で京都まで今時、何をしに来たんだ?」
「レイさんは英国より何らかの目的を持ち此処に来られたのですよね、多分」
「それは秘密だ」
 一行の中で一番に経験浅き若き志士の間宮美香(eb9572)が答えを憶測し、茶色の瞳を輝かせて彼の代わりに言うが‥‥その彼より返って来た言葉には二人、唖然とする中。
「格好いいだろう」
「いや、意味が良く分からないが」
「ふむ。レイ殿と言えば、一度友の見送りでお見かけしたあの御仁か。確か‥‥」
「それ以上は言うな」
 その様子は全く気にせず、白い歯を輝かせ断言するレイへクロウは正直に感想をぶつけるとその次に初めて口を開いた滋藤柾鷹(ea0858)が厳かな口調で昔を思い出し呟くも、その途中にて遮るレイの、静かながらも何処か張り詰めた声音が響けば場は次いで沈黙する。
「英国は今頃、聖夜祭かな‥‥って思って皆で食べようとケーキを作って来たよ。飾り無しのフルーツケーキだけどね。と言う事で今夜は良かったら皆で聖夜祭のお祝い、しよ」
「何か呑気だなぁ‥‥でもまぁいっか、屋外で寒いだろうけど。だからお喋りの続きは道中でするとして、そろそろ出ようぜ。これからもっと冷えて来るだろうしな」
 が、その場の雰囲気に厭わず忍びの割に何処と無く目立つ雰囲気を宿す逢莉笛鈴那(ea6065)が今は見ぬ英国へ想いを馳せながら明るき声音と笑顔にて皆へ提案すると、やがて苦笑を浮かべるクロウが頷けば次には顔を綻ばせる全員を見回した後に一先ず出発を促せば、踵を返すのだった。

●寒々しい空の下
 さりとて一行、すぐに京都を発てば程無くして辿り着いた依頼先の村にて今回、狩場となる山の情報を仕入れると鈴那の申し出により人数分のかんじきを拝借すれば早く山へ登る、その途中。
「あっ、そうそう。動物を極端に取り過ぎとかはダメだよ。取り過ぎて居なくなっちゃ後で困るだろうし、何より、自然に対して敬意を払うべきだもん」
「その通りだな、必要な量だけを山に分けて貰いに行くんだからな」
「ふむ、自然を大事にと言う事だな。二人ともブラボーだ」
 雪をかんじきにて踏み締めつつミリートが皆へ一言、忠告すれば一行の前を歩き先導するクロウも振り返らないまま、次いで賛同すれば皆が防寒着を着込む中、寒くないのか相変わらずの格好にて二人の発言に頷き賞賛するレイへ親友であるエドの傍らにいるミリート。
「いやぁ‥‥所で二人は知り合いだってお話だけど、レイおじさんは今までどんな事をしてたのかな?」
「おじさ‥‥!」
 その賞賛を浴びて素直に顔を綻ばせるも、次にはおじさんと付け加えて彼女が尋ねれば帽子の奥に覗かせる瞳を見開き、口を開く。
「せめてナイスミドルと」
『‥‥‥』
「まぁそうだな、一言では何とも言えん。詳しくは知っている者から聞いてくれ」
「美談にはしないわよ?」
 が彼の妥協案に対し一行は生温い視線だけ返せば、肩を竦めつつレイは自ら語ろうとせずロアや柾鷹の方を見やると、僅か先を歩くエルフの魔術師は振り返らずクスリとだけ笑い言うも
「五冊の本を追っていたのよね、でもまだ全部は回収出来なくて‥‥だから何でこっちに来たのよ。あの一件を片付ける、って言っていたじゃない」
「問題ない、その件に関しては全てが解決した。もう一年近くも経つんだ。その間、何もしていなかった訳ではないさ」
「え、それじゃあ‥‥」
 簡潔にだけ英国で彼が成していた事を口にして、次に一年前には解決出来ないでいた案件に付いて尋ねると、あっさりと答えを返すレイへ今度は振り返ってロア。
「だったらこれからどうするの? お金は? 住む所は?」
 表情は変えず、だが矢継ぎ早に自身が気になっていた質問を彼へぶつけるも
「さて、一先ず山の中腹に着いた様だな」
「駄目ね、まず私が落ち着きましょう。これはギルドのお仕事なんだもの」
「ブラボー、その通りだ。まぁ必要な話は刻が来たらまた話す事として、先ずは一仕事と行くか」
 雪を踏み締めては一際大きな音を鳴り響かせてレイは話を打ち切るかの様、言葉を響かせるとうな垂れるロアへのフォローは忘れず瞳だけ綻ばせれば、一行は二手に分かれた。

 さて、その二手の内が一派の狩りを受け持つ班が方。
「よーし。良くやったぞ、ニーナにティナ」
 一行の殆どが在する中、二匹の忍犬が仲良く獲物を加え戻って来る光景に鈴那は褒め称えこそするが
「とは言え寒さは日に日に厳しくなるばかりの昨今、流石に獲物も少ないですね」
「そうだね、でもこればかりは私達には何とも」
「まぁ、それはしょうがないさ。むしろまだ初日だ、今日は辺りの地形を把握して目星を付ける事に専念出来れば、それで問題はないだろう。本格的な狩りは明日以降にするとしてさ」
「そうでござるな、今日はまだ雪が降り積もる筈。故にクロウ殿の案には賛成でござる」
 彼女の前に置かれた、小さな野兎の姿を見て美香が口を開くと同意して鈴那も浮かない表情を浮かべるも、そんな二人へ前向きなクロウは宥めるが
「‥‥そう言えば、柚那は?」
「あれ、さっきまでそこに居たんだけど」
「何か来ますっ!」
 膝まで沈む雪を必死に漕ぎながらエドがふと尋ねると彼の歩みを手助けするミリートが首を傾げれば、皆も辺りを見回した時‥‥振動を捉える魔法を己に付与していた美香が強い振動を発している何かを捉え叫べば、次に近くの梢が揺れると一行は一斉に得物を構えそちらを睨み据えるも
「ま、待つのじゃー!」
「柚那‥‥」
「いえ、彼女じゃなくて‥‥反対に!」
 直後、揺れる梢の奥から現れた巨大な猫‥‥ではなく、まるごと猫かぶりを身に纏う柚那が狼狽の声音を発すれば、エドは紡いでいた呪文を中断するも美香の警告の声が再び響けば慌て皆は振り返れば同時、一行の背後に現れる比較的大きな部類に入る大月輪熊がその姿を現していた。
「参ったでござるな‥‥と柚那殿、何を」
 事前に存在こそ察知していたが、初日からいきなりの大物を前に柾鷹が密かに驚くが‥‥次に何を思ってか柚那、それなりに距離を置いてはいたが大月輪熊と向き合えば
「な゛ー!」
「ゴガァァァ!」
「あうあう」
「その格好で煽るなよ‥‥」
 背を丸めては猫っぽく威嚇してみるも、熊対猫では勝負は見えたもの。
 すぐに返って来た巨大な咆哮を聞けば踵を返しエドの近くまで戻って来ると、彼女の行動に呆れ苦笑いを浮かべるクロウだったが
「とは言え、折角の獲物でござる。主には悪いが」
「‥‥待てよ」
「小熊?」
「ほんとだ、可愛いね♪」
「逃がすべきだろ」
「ふむ、止むを得まいな」
 次に刀を抜いては熊へ告げる柾鷹を手で制し、大月輪熊の傍らを指差せば次に響いたエドの言葉通り、ちょこんと佇む小熊を捉えるとミリートが寒さから朱に染まる頬を更に染めて声を上げれば、その中でクロウの再度の提案に対し柾鷹も皆の反応を見て素直に刃を収めると
「何、まだ冬眠を前にしているのが多分居るだろうし、個人的にはカモシカの方が理想だ。あれは肉が美味いからな」
「そうか、だが一先ずは代わりの獲物を探すとしよう‥‥飛べ、鷲羽」
 一行の先導役が話に耳を傾ければ、次には肩で暫し羽を休めていた鷲へ指示を下すとそれは一声鳴けば未だ雪降り積もる空へ飛翔するのだった。

 一方の野草や木の実等を集めるべく、また初日故に辺りの散策を手広に行なうべく木々が濃い方を目指し進むレイとロアにシェリルの三人。
「どんな所からいらして、どんな方で、どの様な異性が好みなのですか?」
「何故にその様な事を?」
「ジャパンでの常識ですから、尋ねているのですが」
 その中でレイとは初対面ながら、興味を覚えてかシェリルの問いが辺りに響けば首を傾げる皮尽くめの彼へ彼女は笑顔で言うも
「ふむ。そうなのか、ロア?」
「初耳だけれど、私は」
「あら、貴女もご存じありませんでしたか?」
「えぇ」
 次には己の顎を撫でながら一先ず、ジャパンの常識に付いてロアへ確認を取れば首を傾げる魔術師へシェリルがクスリと微笑めば次いで散る、静かな火花にレイ。
「おいおい、良く分からんがこんな寒空の下で変に二人だけヒートアップしないでくれ。まぁシェリルの質問には後で答えるとして、先ずは野草等を集めるのだろう?」
「分かっているわよ、全く‥‥」
 その原因(?)が自分である事に気付く素振りすら見せず、二人を宥めれば溜息を漏らしながらロアは半眼湛え彼を見つめるも、相変わらずな調子の彼が見せる振る舞いには内心安堵を覚えたその時、赤外線視覚を得ていた彼女の視界の中に五匹程の犬よりも大きな存在を察知すると
「ちょっと、二人とも気を付けて!」
「あら、狼ですわね」
「何を呑気に、結構いるぞ」
 警告の声をすぐに上げるが、次に響いたシェリルの呑気な声音には流石のレイも苦笑を浮かべると次に己が拳を打ち鳴らせば、二人へ告げ下がらせると単身にてその群れの只中へ駆け出した。
「しかし、これ位が肩慣らしには丁度いいか。二人は自分の身を守る事に専念していろ、此処は俺だけで十分だ」
 久々の戦闘を前に眼は引き絞りながら、しかし口元だけは緩めて。

●翼は導く?
「私も余り良くは分かってないんだけど、神皇の親戚の五条の宮が反乱を起こして神皇の象徴たる神器を奪ってったから大変。で、伊勢の地を早く平定しなきゃって祥子内親王様や藩主様が頑張ってるみたいだよ」
「守護代の反乱に長州藩の便乗と神器の争奪‥‥話に聞いていた以上、厄介な事になっているな。そして何より、小難しい」
「そ、そうですね。この一年でジャパンの政治情勢が大きく流転していますし」
 それより一行、期間内で無事に食料を確保する事に成功すると今は山を降りては村へと戻る中でレイへ今までにあった、ジャパンでの出来事を掻い摘んで教えるも‥‥次に響いた彼の苦言を聞けば美香も苦笑浮かべ頷くが
「それなら先ずは、ジャパンでの生活についてならどうでしょう?」
「ふむ」
 次には話題を置き換えてみると、頷く彼へ一行は様々に生活するに当たっての基本的な話を幾つも並べるが
「しきたりやらで煩き部分はジャパンの方が圧倒的に多いでござるな」
「むぅ、そうなのか‥‥」
「何じゃ、レ‥‥なんちゃらは礼儀作法は苦手か、ならばうちが教える故に心して聞くがいい!」
「あ、いや、ちょ、それは‥‥」
 やがて柾鷹が語る礼儀作法の話を聞けば、先の情勢の話の時より露骨に顔を顰めてみせる彼だったが、そんなレイの様子を見て横文字の名前が上手く呼べない柚那は言葉を詰まらせながらも迫ると、彼の答えを待たずに無駄に長い説教の如く言葉を立て続けに紡ぎ出せば
「犬、好きかな。良かったらうちの子撫でてみてよ」
 その光景を見ては残る皆、忍び笑いを漏らすもその中で何処か浮かない面立ちを浮かべているエドを見付けると鈴那、その彼へ声を掛けて手招きすれば恐る恐るだが一匹の忍犬に触れる彼と、撫でられているその忍犬の反応を見て彼女。
「何を悩んでるのか分からないけど‥‥エドくんは信頼に足る良い子だよ。うちの犬もそう言ってる。もっと自信持って大丈夫」
「そうそう、エド君って悩み過ぎなんだよね〜。もう少し、顔を上げて辺りを見回してみようよ‥‥きっと、もっと沢山の事が見える筈。そうすればいずれ、答えは出るよ。多分ね」
「‥‥今在りし自分は過去を積み上げてきた物。今まで行った事で悔やむ事は繰り返さぬ、こうしたいと思った事は貫く。そして、悩む事は言葉にし己の信じる者に相談する‥‥拙者に言えるのはそれ位でござるな」
「うん、分かった‥‥よ」
 一人頷いて次にはエドの頭を撫でては顔を綻ばせ言うとその鈴那の後、少し意地悪めいた笑みを湛えながらミリートも続けば正孝は真剣な面持ちにて、声音こそ優しく告げれば三者三様、それぞれのアドバイスを受けてエドは頭を巡らせるもやがて何事か決意し、俯きがちだった顔を上げては頷くと返ってきた反応に三人は一先ず頷くと同時、漸く柚那達が戻って来た事にクロウが気付くと皆を促せば先頭を再び歩き出し、だが一度だけ山頂の方を振り返れば静かに祈るのだった。

「来年も山の恵みを得られる様に‥‥それと、皆に取って良い年になる様に」

 〜終幕〜