【何でもござれ】そば粉は何処に?
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 64 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月29日〜01月01日
リプレイ公開日:2007年01月01日
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●オープニング
●な、何だってー?!
京都にある、とある蕎麦屋にて早朝にも拘らず一つの事態が発覚してはそんな叫び声が辺りの迷惑顧みず、響き渡っていた。
「年の瀬を前に、蕎麦粉が切れたって?」
「はい」
その叫びを放ったのは蕎麦屋の店主、筋骨粒々な親父の問い掛けにそれを報告した蕎麦屋の店員の青年は頷く。
朝の仕込みをすると言った親父の為に彼が蕎麦粉を取りに何時も保管している小さな倉庫へ向かった所、そんな事態に陥っている事が発覚したそうな。
「そういや最近、いやに蕎麦の実の減り方が早かった様な‥‥」
「そうですね、それにしても思い切った事を‥‥最近では店内でも話に上がる様になったから多分昨日か今朝か」
「‥‥余り考えたくないが、身内の中で横流しをしている奴でもいるんじゃないか」
「まさか‥‥と言えないのが何ともやるせない話で、これも先日の乱の影響ですかね?」
その唐突な話に親父、毎日ではないが倉庫に足を運んでは量や品質のチェックをしており蕎麦粉の減り方がおかしい事には気付いており、近頃では店の中でも持ち切りの話題だったからこそ親父と青年、様々に推測を巡らせるが
「しかし今となってそれは過ぎた事‥‥しょうがない、今の時期は普通に買えば高いだろう事が目に見えている以上、少々此処から離れてはいるが俺が管理している倉庫にある蕎麦の実を使うとするか。あそこになら今年の年末分は凌げる量を備蓄してあるからな」
「それじゃあ私が取って来ますよ」
「頼まれてくれるか?」
「はい。では早速、行って来ます!」
推測だけで蕎麦粉が戻って来る筈はなく早々に親父が割り切ると、これからの事を考えて首を傾げるもやがて一つの案に辿り着けば青年の続く申し出に親父は感謝すると、その彼は早々と防寒義を着こみ雪降り積もる京都の町を後にした。
●
その翌々日、再び蕎麦屋にて。
やはり朝早い時間、蕎麦粉はないが習慣故に蕎麦屋へ自然と足を運んでいた親父は店の扉がけたたましい音を立てている事に気付くと足早にそちらへ向かい、その扉を開けてみればその視界に飛び込んで来たのは先日、離れた倉庫へ蕎麦の実を取りに行った青年の見るに堪えない姿だった。
「‥‥今、帰りました‥‥」
「お、おいっ! どうした、大丈夫か!!」
すれば防寒着のあちこちが破れてはそこより見える肌のあちこちが痣だらけの青年、親父の存在に気付き顔を上げては精一杯に声を捻り出すも、彼を抱えて親父は何があったか問い質せば次いでその青年は唇をわななかせると
「倉庫がある、森の中に‥‥餓鬼の集団が潜んで‥‥いて」
「そうか。確かあの辺りは昔、小さな集落があったな‥‥じゃなくておい、誰かっ!」
青年のその姿に納得しながら、ふとそんな事を思い出す親父だったが今はそれ所ではない事に再び思い至ると、確か店の奥にいた筈の妻を呼べば
「‥‥しかし済まねぇな」
「親方が気にする事じゃないですよ、つぅ‥‥」
遠くから駆けて来る足音が響く中で次には彼へ詫びるも、青年は首を左右に振るだけで‥‥だが遂には痛みを堪え切れず彼が気絶すれば、その姿を前に親父は腹を決めるのだった。
「こうなったら此処までしてくれたこいつの為にもこの一件、冒険者ギルドに願い出るとするか。それにうちの蕎麦を楽しみにしている奴だって多少に関わらずいるんだ。だったら時間が僅かでも残されている以上は悪い事でない限り、出来る事は全部やってやろうじゃないかっ!」
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依頼目的:蕎麦の実を回収せよ!
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要、また防寒着も必須な時期です。
それらは確実に準備しておく様に。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
日数内訳:移動二日(往復)、依頼実働期間は一日。
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●リプレイ本文
●蕎麦屋の親父は言った
「まぁ、年の瀬で何処も忙しいと言うのは分かるが‥‥」
京都の冒険者ギルドを出て暫し、すぐに辿り着いた蕎麦屋の前にて一行を待っていた親父はそう呟いたそうな。
それもその筈、募集人員に対してその半分しか集まらなかったのだから‥‥とは言え、昨今の状況から鑑みればこれでも十分な数であるのだが、親父はそんな事など露知らず。
「これでもギリギリ、直前になって面子が集まったのだが‥‥済まない」
「あ、あぁいや。こっちこそ悪いな。で、やれそうか?」
「えぇ、問題はありません。確かに人数こそ少ないですが、やり遂げて見せますよ‥‥ですが」
「が?」
だがそれにも拘らず、志士の東雲八雲(eb8467)は親父の反応に対し素直に礼節を持って詫びると、その態度を前にした親父は自身も言い過ぎた事に対して一行へ詫び改めて四人を見回せばその後に大きな図体の割、不安げに問うも穏やかな笑みを浮かべ断言する神島屋七之助(eb7816)は頷くが‥‥続くだろうと思われた言葉のその後を濁らせる彼へ親父は何事かと尋ねれば
「申し訳ありませんが主人、貴方にも手伝って頂きたく思います」
「‥‥まぁ、そうだな。人数も少ないし、これで俺だけ傍観を決め込む訳にも行くまい。いいだろう! で、何をすればいいんだ」
「余り難しい事ではないので、余り気負わないで下さいね。それでは‥‥」
七之助より返って来た率直な要求を聞くと親父は暫し考え込むも、やがて肯定の意を示せば再び微笑んだ陰陽師は次にその口を開いて彼への要求を紡ぐのだった。
●そば粉は何処に?
さて、それから早く出立の準備を済ませた一行と親父は早く京の都を発つ。
「保存食は大抵、遠出の依頼には必須となる。覚えておいて損はないからな。それと己がやるべき事はしっかりと見定めておく事、それが分からなければ実際には仲間も自身も動きようがないからな。相談はしっかりする様、また分からない事も遠慮なく聞くと良い」
初めての冒険であると言う忍びが二人を前に旅立つ心得を八雲が説きながら、皆は出し得る速度で街道を突っ走っていた。
目指す目的地は京都からそう遠くない森の中にある、蕎麦の実が眠る倉庫‥‥尤も、何でも口にしてしまうらしい餓鬼に見付かっていればその限りではないが。
「しかし‥‥この時期に蕎麦が食せないとはな」
「実際、有り得ませんよね。しかし必ずや、何とかしてみせましょうね」
「むぅ、何か店のゴタゴタに巻き込んだみたいで済まないな」
「何を今更、気になさらなくて結構ですよ」
そんな急ぎ足の道中、幼いながらも戦闘馬である自身の馬を駆る八雲のボヤキが静かではあるが響くと、それを耳にした七之助も苦笑を浮かべ頭を左右に振りながら‥‥しかし皆を鼓舞する様に言葉を紡げば色々と複雑な心境の親父、今度は豪快な見た目の割にもう何度した事か一行へ詫びるも、うな垂れる親父に対して七之助は彼を嘘偽りのない言葉を紡いでは宥め、微笑んだ。
「さて、到着ですが‥‥どうされますか、八雲さん」
「無論、進む他にないだろう。覚悟は、いいか?」
「あ、あぁ‥‥」
がその直後、先ずは目指していた森の前へ辿り着くと今度は話の矛先を八雲へと変え尋ねれば、真直ぐに森だけを見つめ言う彼の最後の確認には蕎麦屋の親父が唾を飲めば
「余り主人を脅さないで下さいな。それでは、参りましょう」
相変わらず穏やかな笑みを浮かべたままの陰陽師が志士を窘めると、次には皆を促していよいよ餓鬼達が潜んでいる森の中へ足を踏み入れた。
「ふん、薄気味悪いな‥‥」
そして森に踏み入る事暫し、急ぐ一行の中で森を見回す親父がその雰囲気を察して気丈にこそ呟き鼻を鳴らすが‥‥森へ入る前と同様に再び唾を飲む様を皆に見せるも
「主人、急ぎましょう。人手も少ないのです、蕎麦の実だけを回収して早くこの場を去らなければ」
「分かっている」
しかし今は餓鬼が何処に潜んでいるか分からない為、先までとは違い何処か張り詰めた口調にて七之助が親父へ告げれば、頷いて荷車を引く馬の尻を鞭にて叩く彼だったが
「本来であれば今後の事を考えて退治しておきたいが餓鬼の総数も知れぬし、この人数では止むを得ないか‥‥」
「えぇ、今出来る最善の事を先ずはしましょう。後の事は‥‥それからです、がまぁ何とかなるでしょう」
その中、何処かもどかしげに彼らの先を疾駆する八雲が呟くとその彼を厳しい声音のままだったが七之助が窘めると先を進む志士も彼の意見に頷けば
「一先ず、後の処置は冒険者ギルドと相談する事にして‥‥俺は先に倉庫へ行く、皆もなるべく早く来てくれ」
「えぇ、気を付けて下さいね」
「あぁ‥‥出来る限りの事はしてみせよう。ではまた後で」
出来る限りの速度を出しているとは言え、自身の馬より遅い親父達にそれだけ告げると手を振る陰陽師へ頷き返せば、拙い腕前ながらも自身が出せる最高の速度を持って八雲は愛馬を駆るのだった。
●
八雲が一行から別れ、どれ位の時間が経っただろうか‥‥気付けば日は沈み、夜となっては月と星だけが森を照らしていた。
そんな中、灯りを持たずに来てしまった八雲が静かに辺りの気配を探っていると‥‥遠目に見えた明かりに気付けば、少しずつ近付いてくるそれを見て彼。
「‥‥無事だったか」
「えぇ、途中に先日の物でしょう轍の跡と争った形跡こそありましたが、どうやらあれから以降よりこの倉庫は見付かっていない様ですね」
「そうだな」
声を投げ掛けると僅かな間を置いた後にそちらから返って来た、七之助の声に頷き返せば漸く倉庫まで辿り着いた荷馬車がその脇へ止まると灯りを携えていた親父は急ぎ地に降り立ち
「なら、今の内に積んじまうぜ!」
一行へ告げれば早く倉庫の扉を開け放ち、その内部も未だ安全である事を確認した後に皆を促せば自身も早く一つの俵に取り付きそれをあっさり担ぎ上げると、皆も遅れじと動き出したその時だった。
「せめてもう少し‥‥時間があれば。タイミングが良過ぎる」
「‥‥尾けられましたかね?」
ガサリと無造作に鳴った草の音を幾つか捉えた八雲は自身も倉庫に踏み込もうとした足を止めると、踵を返せば密かに舌打ちを一つ響かせれば次いで僅かな灯りの中にて蠢いている餓鬼を見付け呟くと、重い俵を前に苦戦する七之助が己の髪を撫でながら渋面を浮かべるが
「かも知れない‥‥だが今はそれを考えるよりも急いで荷車に蕎麦の実が詰まった俵を出来るだけ荷車へ積んでくれ、俺達は餓鬼の気を引く」
「分かりました」
‥‥今はそれを考えるべき時ではないと志士が一蹴すれば、それぞれが成すべき事を改めて皆へ指示した後に自身のバックパックを弄ると、余っていた保存食を惜しげもなく放る。
「これで‥‥どうだっ」
すると何かあると察し、徐々に倉庫との距離を詰めて来る餓鬼達は八雲が放ったそれに反応しては飛びつくと
「効果はある様だな‥‥だが、気を付けてくれ。無理に戦う必要はない、回避に専念して敵の気を引くだけで十分だ」
その光景に八雲は安堵して傍らにて同じ光景を見守る忍びへ告げるが‥‥与えられた時間は僅かに一時だけで、すぐにそれを平らげた餓鬼達は再び倉庫の方、その前に立ちはだかる八雲達を爛々と光る瞳にて見据えれば
「俺はそう言う訳にもいかない‥‥な、ちっ!」
狂気の光宿す複数の視線を浴びながら、しかし数の上では向こうに分があるにも拘らず平然として志士が刀を抜けば、同時に飛び掛って来たその一匹へ舌打ち指打ちと共に魔法を瞬時に構築し、その餓鬼の周囲の重力を反転させては空の高みへ打ち上げると
「土の志士、と名乗る程の実力は持ち合わせていないも‥‥この場は俺の身に代えても塞き止めてみせる。さぁ‥‥もう一度、黄泉路へ渡りたい者だけ掛かって来るがいいっ!」
次いで高らかに己が意思を口上にて述べた後、一切臆す事無く餓鬼の群れへ飛び込んだ。
‥‥星が煌き、月は昇ってより変わらず静かに地上を照らす中で餓鬼達との戦い続いている傍らにて、蕎麦屋の親父の声が何度も轟く。
「どっせーい!」
七之助もささやかながら手伝いながら、だが闇の方が濃い森の中にて未だ戦い続ける志士の姿を見止めれば、陰陽師の彼は獅子奮迅する八雲へ呼びかける。
「八雲さん、引きましょう!」
「全部‥‥積み、終えたか?」
「全部を積み終わるより早く、お二人の方が‥‥」
「っ‥‥しょうがない、か‥‥」
すると噛み付いて来ようとする一匹の餓鬼がその開け放たれた口へ鋭く突きを放ち、頭部を穿った彼は振り返らずに息荒いまま尋ねると、次に響いた七之助の不安げな声を聞けば漸く己を省みて彼、走る痛みに初めて顔を顰めると‥‥遠巻きに様子を伺い出した、この場に残る二匹の餓鬼を前に八雲は唯一持っていた回復の妙薬が栓を開け、飲み干せば次には早く判断を下すと忍びと二人、踵を返せばそれより一行は惑う事無くその場を後にするのだった。
●年越しを前に‥‥
場面は変わり、京都の親父が商う蕎麦屋‥‥その後、餓鬼達の追撃を受ける事無く無事に帰って来た一行は疲れ果てれば、親父の許可を得て今その蕎麦屋の内部が一画を借り受けて年の瀬の最中、伸びていた。
「個人的には納得の行かない終わり方だった‥‥な」
「まぁまぁ、しょうがないですよ。少なからず、依頼の目的は達する事が出来たのですから今回はそれで良しとしましょう、ね?」
「あぁ、そうだな」
そんな年の瀬を目の前に、その蕎麦屋は昨日まで閑散としていた光景など何処へやら人で賑わっており‥‥だが八雲はその光景が目に入らないのか、まだあの森に居るだろう餓鬼達を全て退治出来なかった事に静かに悔しがるも、相変わらず彼の宥め役に終始する七之助がこの依頼で何度目だろう、八雲へ苦笑を浮かべつつ言葉を掛ければ旅装束のあちこちが綻んでいる事を気にしながら志士は頷き、卓より体を持ち上げれば同時。
「へい、お待ち! うちで今年、初打ちの年越し蕎麦だっ」
「‥‥いいのですか?」
「あぁ、とりあえず持って返って来られた量だけで一応年越しだけは何とかなりそうだからな。それによ、先ずはあれだけ頑張って貰ったあんたらに食って貰いたいんでな」
いきなり目の前に置かれた、湯気立てる器を目にして一行は目を見張るとその中で決して大量ではない筈の蕎麦の実を目にした陰陽師は問うが、満面の笑みを浮かべる親父が間違いなく断言すると、それから暫しの間を置いた後。
「それでは遠慮なく、頂きますね」
七之助を初めにして皆が皆、箸と器に手を伸ばしては即座に蕎麦を啜ると親父。
「‥‥どうだっ?」
「美味しいですよ、十分にね」
「そうだな‥‥問題ない、どうやらこれで年は越せそうだな」
今年最初の蕎麦の出来が気になるのだろう、皆の顔をそれぞれ覗き込んでは尋ねると‥‥皆が顔を綻ばせれば、年越し蕎麦の温かさに触れて八雲は漸く一息付いて静かに笑顔を浮かべるのだった。
‥‥そうして京都にある、一軒の蕎麦屋は今年も何とか無事に年を越す事が出来た。
それぞれが依頼の道程にて成した事は違えど‥‥だが小さな温もりを確かに守り通した事を、今回学んだ教訓を皆には何時までも忘れずに覚えていて貰いたいと思う。
結果として人々の笑顔をも守ったのだから。
そして、今回の一件を糧にしてこれからも‥‥。
〜終幕〜