【伊勢鳴動】決戦、夫婦岩‥‥?
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 32 C
参加人数:9人
サポート参加人数:2人
冒険期間:01月01日〜01月10日
リプレイ公開日:2007年01月07日
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●オープニング
●異様な光景
伊勢は二見、斎王が座する斎宮より見える夫婦岩にて近頃、異変が見受けられる様になった。
「何だ、あれ‥‥?」
その異変を初めて目の当たりにしたのは斎宮の警備を勤める一人の青年(二十三歳)。
「嫌に夫婦岩がある方の海が泡立っているな」
と思いそちらを見やれば、目を向く様な光景に彼は唖然として斎宮へこの件を報告すべく脱兎の如く駆け出した。
その次に異変を見たのは二見の海岸沿い近くに住む老婆(六十八歳)、今日も日課である畑仕事に精を出すべく海沿いの細い街道を歩いてはふと、夫婦岩の方を見やると距離がある割に大きく見える蟹を目にすれば
「こりゃ来年も豊漁かねぇ」
最初こそ呑気に呟くのだが、何やら動きがおかしい事に気付いて目をこらし良く見れば‥‥夫婦岩を数匹で囲っている蟹のサイズに漸く気付いた老婆は腰を抜かし、暫しその場にて言葉にならない言葉を発するだった。
そんな中、体験者は四十五歳の筋骨逞しい中年の親父は己が身でその異変を体験する。
「おおっと、今日は大漁だなぁ!」
寒空の下、何時もと変わらず引き網漁をしてみれば手に伝わるその重みに初めこそ彼は顔を綻ばせて懸命に網を引くも‥‥暫くして砂浜に上げられたそれの中には一匹の巨大な磯巾着が横たわるのみで
「‥‥これって食えるのか?」
その光景を前に絶句する親父は余程悔しかったのかボソリ、そんな事を呟くと身動ぎすらしないそれへ恐る恐る手を伸ばすもその直後、先まで静かだった巨大な磯巾着がその触手を親父目掛け伸ばして‥‥以下、お察し下さい。
ともかく、そんな報告ばかりが日々斎宮に伝えられるのだった。
●
夫婦岩近郊にて異変が起きてより最初の一件から一週間後、日を経る毎に増す報告に漸くそれを重要視し出した斎宮の上層部は揃い、頭を寄せていた。
因みに斎王はこれより行なわれる要石巡回の支度にと最近慌しい為に同席しておらず、その初めての事態を前に彼らが浮き足立つのも当然と言えば当然だろう。
「被害は今の所少ないが、それもやはり不安に思う人々が多い様ね」
「とは言えこのまま放置しておけば被害は恐らく、これから増えるだろう」
「場所も悪い、この斎宮が目と鼻の先‥‥夫婦岩を前に陣取っている。もしかすれば彼奴等の狙いは此処なのかも知れぬな」
とは言え、斎王抜きでもこの事態は切り抜けねばならず今日の議題をある巫女が切り出せばその後を継いですぐに二人の宮司が憶測を交わす辺り、少なくとも烏合の衆ではない様子。
「十分に考えられる事ですね、でしたら『闇槍』は?」
「黒門の警戒より動きは変わらず‥‥」
「まぁ、報告通りの存在しかいないなら黒門の件がなくとも動きはしないでしょうねぇ」
「とは言え、扱い辛い部隊じゃの」
「しょうがありません、斎王様が持つ唯一の刃なのですからその運用には今の制限が必要でしょう。しかし『五節御神楽』も出払うとなれば、後は‥‥」
そんな今はまだ憶測でしか過ぎない事に別の巫女が同意だけすれば、次にそれを薙ぎ払う為の存在を検討こそするも‥‥先ず槍玉に上がった『闇槍』に付いては報告に上がっている巨大海洋生物の群れが記された一欄を一瞥した巫女が重要度の割合から一人、物静かな青年が紡いだ答えに納得するが集う面子が中で一番に年を経る男性が嘆息を漏らすと、それを聞いて今度は一番に若い青年が彼を宥めるが『五節御神楽』をも動かせない事を告げるとその最後を言い淀めば直後、場に舞い降りる沈黙だったが
「珠、伊雑宮より戻って来たばかりで済まんが一つ頼まれてくれ‥‥皆もそれでいいな?」
暫しの間の後に長老がそれを破ると改めて場に介する皆を見回し全員が頷く様を見届ければ、急に妖怪達が引いた伊雑宮より帰還を果たしたばかりの珠へその内容を告げるのだった。
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依頼目的:斎宮を襲撃するかも知れない、巨大海洋生物の群れを倒せ!
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要、また防寒着も必須な時期。
それらは確実に準備しておく様に。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
対応NPC:神野珠、レリア
日数内訳:移動六日(往復)、依頼実働期間は三日。
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●リプレイ本文
●凍て付き海を潜むのは
京都から東海道を経て、伊勢へと辿り着けばすぐに二見へ至る街道をひた走る一行。
「波の音、潮の匂い‥‥結構いいかも知んない」
やがて街道から海を望める様になった頃、徐々に強くなってくる浜風に波が弾ければ潮の香りも一層に強くなる中、それを敏感に感じ取ったマキリ(eb5009)は今まで気にして触れた事のない海を前に歩きながら感慨に耽るが
「けど、これだと敵の兆候は分からない‥‥かな。目が頼りになりそうだね」
「結構に海が荒れてる‥‥鼻と耳は、利き辛いかも、な。おいら達は問題ないがよ」
「まぁ何事も慣れかと思うです」
「‥‥そうだね」
慣れない環境下であるからこそ今まで頼っていた感覚の一部が上手く働いていない事にも気付くと溜息を漏らせば、強く凪ぐその海を前に河童の黄桜喜八(eb5347)と斑淵花子(eb5228)が彼の言葉に頷きながら簡単にだが助言すれば、一先ずは彼らの話を素直に受けてマキリが頷き応じると
「夫婦岩故、大量に交尾に集まったと言う訳ではないのか? 蟹はこの時期、かなりの数が集まったりするからな」
「ふむ‥‥海洋生物の類の生態は詳しくないので良くは分からないが、その可能性は考えられるか。それか、他の要因が働いている可能性も捨てられないが‥‥」
「まぁ正直に、分からないと言えば?」
その彼らが前方を進む、マキリと同郷のシグマリル(eb5073)はマキリと同じ立場とは言え冷静に、今回の依頼が同行人である剣士のレリア・ハイダルゼムへ夫婦岩の周辺に群れだした巨大生物の発生原因に付いて問うており、彼の問い掛けへ彼女は暫し考え込んでは答えを返すもはっきりしないその物言いには彼女の友人であり、伊勢神宮では高位の巫女とされている神野珠に突っ込まれる事となれば、苦笑だけ湛えるレリアに釣られシグマリルもまた微笑を浮かべると
「しかしホンマ、珠さんもレリアさんも大変やな〜。妖怪大戦争の次は怪獣大決戦とは‥‥」
「大戦争やら大決戦やら、それ程大仰なものではない。大丈夫だ」
「でもとりあえず、これが終わったら蟹鍋でもやろな〜。宴会で去年の疲れをぱ〜っと忘れようや〜」
「私はちょっと‥‥遠慮しておきますね」
「それよりも先ずは、退治が先だな」
「え〜っ」
そんな折、浪人が飛火野裕馬(eb4891)より一通りの事情を知っているのだろう、伊勢のあちこちを転戦している彼女らへ冗談めかした労いの言葉が紡がれれば、肩を竦めてはレリアより真面目な答えが返って来るとそれでも彼は依頼が終わった後の事に付いて提案すれば‥‥静かに響いたアンジェリーヌ・ピアーズ(ea1545)の返事と、それはまだ目にも入れていないレリアより答えが返って来る事となれば女たらしの浪人は素直に不満の声を上げる。
「今回は海岸での戦い‥‥地の利は完全に向こうにあり。油断すれば私達が彼らの餌になります、気を引き締めて行きましょう」
「うん! それに海岸はね、恋人達が『あはは〜、待て待て〜』って言って追い駆けっこをしなくちゃ行けない神聖な場所なんだよ。それなのに‥‥蟹さん達が邪魔するなんて許せないから」
がそのやり取りを耳にして一部、浮き足立っている気がしなくもない皆を戒めるかの様に六条素華(eb4756)が静かに告げるが‥‥その意を察せず、明るき声音にて慧神やゆよ(eb2295)が見える海を前に一人小芝居を披露して見せれば
「よーし、伊勢の恋人達が砂浜の波打ち際で追い駆けっこ出来る様に頑張るよー! ねっ」
「え、えぇ‥‥そうですね、頑張りましょう」
皆が唖然と見守る中でも彼女はずびしっ、水平線の彼方を指しては間違いなく断言した後に素華へ振り返ると彼女はやゆよへの返事に窮するが‥‥やがて勢いに押し切られ、頷くのだった。
さてはて、こんな面子が繰り広げる夫婦岩を前にした決戦は如何様になるか‥‥それはまだこの時、誰にも分からなかった。
「‥‥ま、なる様になるわよね?」
●決戦、夫婦岩‥‥?
そして辿り着く二見の海‥‥斎宮を遠目に一行は今、二見興玉神社にて夫婦岩を望んでいた。
「はい、此処が二見興玉神社であそこに見える二つの並んだ岩が夫婦岩よ。ご神体と勘違いしそうだけど、あれは二見興玉神社の鳥居なの‥‥変わっているわよねぇ。因みに昔から伊勢神宮に参拝する者は、その前に此処に立ち寄って禊を行う慣わしがあるの」
「それもそうですが、どうしてあちらこちらにカエルが?」
「此処のご祭神が猿田彦命とかだから、『道開きの神』である猿田彦命の使いである蛙があちこちに配されている訳。無事『カエル』様にね」
「へー、なるほど」
「夫婦岩かぁ、あっちの背の低いのが私だとすると、背の高いのが‥‥あはー、照れちゃうなぁ」
「何一人で妄想に耽っているの‥‥まぁいいけど、さっきも素華が言った様に皆気を引き締めて掛かって頂戴ね」
「そうやね、ありゃ流石に‥‥」
すればそれを前に、珠は正しく案内役として夫婦岩を指し示し皆の質問に答えながらその由縁等を簡単に語ればそれを聞きながら恋に恋するやゆよは想像膨らませ、口にもすれば珠は苦笑を湛えて彼女を宥めると夫婦岩を見つめ、肩を竦めれば裕馬を筆頭に皆は目の前の光景に呻く。
何か余りにも非常識なまでに多数の蟹やらが夫婦岩を中心に沸いていたからこそ。
「しかし冬の海は冷たそうですね‥‥こんな所には何があっても落ちたくないものです‥‥」
「だから、私が先んじてこちらに参り準備をしておきましたので大丈夫ですよ」
だが、それより先に目の前に広がる白く濁る海を見ては震え上がるアンジェリーヌの危惧は尤もだったが‥‥その時にシェリル・オレアリス(eb4803)の声が響けば、漸く一行と合流を果たした彼女は笑顔にてそう告げて近くの岸を指差すと、そこには‥‥。
「とりあえず、すぐ行動に移れるのは助かる。体が冷えなくて済むからな」
「それに、これ‥‥何だっけ?」
「連環の計、ですわ」
それから暫くして早く準備を整えた一行は海岸沿いに居並べば、既に船と船頭は揃っており準備万端なその光景にシグマリルが微笑むと、マキリも彼に頷いた後に橋の様に木の板で固定されては複数並ぶ船を見て問えば、その考案者のシェリルが答えると
「これは助かるかも」
「波と蟹にさえ気を付ければ、確かにな」
「ありがとうございます」
カムイラメトクの戦士達は夫婦岩までこそ届かないも、船上に比べ僅かだが足場良く船に乗らずともある程度までなら敵を射る事が出来るその計を褒めれば、彼女は頭を垂れて一礼する。
「さて、準備はいいかな皆の衆?」
『おー!』
と直後、珠の問い掛けが場に響けばそれに元気良く返す一行へレリアは剣を夫婦岩へ突き付けて告げるのだった。
「‥‥それでは、始めよう」
●
「出ましたね、大蟹獣カニギンチャク!」
「うは、凄いネーミングセンスやな‥‥まぁ確かにその通りやけど」
しかし戦いが始まれば第一声の口火を切った花子の叫びに皆は僅かながらに脱力感を覚えるも、裕馬が納得する通りに早く陸に上がってきた蟹の一匹が確かに磯巾着を背負っているのだから、それはそれでしょうがない。
「花子の天国ちゃんはカニカニ装甲なんかに‥‥負けないのですよっ!」
と言う事でそれを見付けた花子が一番に先ず迫れば気合一閃、猛烈な勢いにて太刀をそれへ叩き付けると磯巾着を切り裂いてもまだ奔る刃がやがて蟹の装甲にぶち当たり、甲高い音が鳴り響くけば蟹をも真っ二つ‥‥とまでは行かないものの、甲羅の一角を叩き割る事に成功すれば
「‥‥良かった、負けなかったのです」
「負ける気だったのかい」
「一寸だけ、不安でしたです」
「‥‥んまぁこいつらが一番に厄介やなぁ、早い所倒しましょ」
返した刃をすぐに見て安堵の溜息を漏らした花子へそれを耳にした浪人が目を見張りながらも尋ねれば、その彼女がクスリと笑う様に肩こそ竦めるも‥‥改めて場を見回した彼は場にいる敵の総数を確認して溜息を漏らすが
「おい‥‥飛火野」
「あー、そっちもあったかいな。しゃあない、先ずはそっちから行きますか」
グリフォンにまたがり投網を携えている河童の喜八に呼び止められれば彼は辺りの海面中に漂う大量の毒海月を見止めると、近くに転がしていた木臼へ念を込めてはそれを浮かび上がらせると先に待っていた喜八とやゆよの隣へ並べば彼ら。
「準備は‥‥いいかよ?」
「オッケーだよー」
「しかしまぁ呑気に泳いではる、とは言えこれはこれで鬱陶しいわな」
喜八の確認を持って動き出すといよいよ三人は海上へ向かい、裕馬が言う様にのんびりと漂っている一匹の海月を投網にて捕らえればすぐにそれを皆で持ち上げ、陸へ向かいて地へ叩き落す。
「‥‥偉い地味な作業だな」
「飽きる方が早いかも〜」
「全く、同感や‥‥」
すれば三人、形を崩しピクとも動かない海月を見届けた後に再び海を見やれば‥‥未だ多く漂う海月を確認し、根気の要る作業である事に今更ながら気付き呻くのだった。
一方、彼らとは別に先ずは海より迫る蟹の群れを主として退治する面子は目まぐるしく変わる戦場の状況を把握しながら、橋の様に海上に掛けられた船の上や波打ち際にて巨大海洋生物の群れと戦っていた。
「シェリル、あっちの群れに!」
「再現神よ‥‥万物砕きし黒き鉄槌を振り下ろさん!」
「ありがとう、助かりました」
「いえいえ、お気を付け下さい」
その最中、デンと構える珠が出した指示にシェリルが頷けば再三放ったディストロイにて群れては素華に襲いかかろうとする蟹を散らせば、彼女の感謝に黒の僧侶は顔を綻ばせ応じるも
「しっかしうざいわね、此処も相変わらず数だけは多いんだから‥‥っ!」
「花子さんの話では海底にも磯巾着がしっかりといる様で‥‥しかしそうなると、以前からいたと言う事になりますね。磯巾着はそれ自体、動く事が出来ませんから」
「すると何かを切掛けにして動き出した、と言う事か」
「でも今はそれより‥‥っと!」
「蟹だけでも数が数だ、まだ日はあるが蟹は今日の内にある程度蹴りを着けておこう」
次には珠が苛立たしげな声音を響かせ、八つ当たりかの様に迫る蟹を思い切り金属製の篭手着けた右腕にて殴り飛ばすと、瞳を紅に染め遠くにいる蟹目掛けて縄ひょうを振るう素華が様々な状況から考えられる憶測を並べれば、蟹をあしらいながらも確実に潰すレリアが余裕を持って彼女をフォローしながら応じるが‥‥今は砂浜に点在する岩の高みより矢の雨を降らせて、先ずは大蟹の第一波を退けるカムイラメトクの二人が呼び掛けを聞くと直後。
「皆さーん! 次の蟹さん達が来ますよー」
今は一行の後ろにて何時でも支援が出来る様にと瞳を凝らしていたアンジェリーヌが警告の呼び声を聞けば、それより早く矢を弓に番えていたシグマリルは鋭く瞳を細めると呟きと共に蟹の柔らかき腹部へ狙いを定めた矢を放つのだった。
「カムイ宿る弓にて、全ての災厄を払わん!」
●戦いの果てに
それより三日を経て一行‥‥地道にではあったが確実に大蟹や磯巾着に海月の群れを駆逐すれば何とか刻限内に依頼を果たし、今はそれぞれ思うままに残された時間を活用していた。
「思っていた以上に、何もありませんのですね」
「そうですね、二見興玉神社にも特に何かの痕跡と言った物は見受けられませんでしたし‥‥」
その一つが夫婦岩の調査で、海中に潜ってまで調べた花子がやがて海上に顔を出し素華へ頭を左右に振っては告げると彼女もまた海岸沿いに立つ神社を見つめては収穫がなかった事に頭を巡らせると
「じゃあ何で、こんな所に?」
「シグマリルさんが言った様に、繁殖期を迎えてからか‥‥直接、斎宮を狙っての行動も考えられますね」
「‥‥まさか、とは言い切れないか。今の伊勢の状況を鑑みれば」
「えぇ、ですがこれ以上は調べても何も分からないでしょうし‥‥戻りましょう。鍋も出来ているでしょうしね」
同道するマキリの問い掛けに素華が答えるとやはり同道したレリアが考え込む中、銀髪の剣士へ頷いた後に智将は早く判断を下せばその身を翻して夫婦岩より船へ飛び乗り、その場を後にした。
「よっ、遅かったやん。こっちはすっかり準備が出来てはるでぇ」
そして夫婦岩を調査していた一行が丁度戻った頃、砂浜にて手を掲げて叫ぶ裕馬を見やれば戻って来たばかりの皆は遠目にも見える光景を前に目を見張る‥‥なんせ、幾つかある鍋の一つには大蟹の鋏が一本丸々入っていたりするのだから。
「‥‥凄いな」
「さ、召し上がれ」
その、幾つか並んでいる鍋に近付きながらレリアが静かにではあったが驚くと、その反応に満面の笑顔を湛えて裕馬が戻って来た彼女らを出迎えれば鍋に向き合う一行。
「刺身は‥‥大き過ぎて流石に無理か。そう言えば漁師から話を聞いたが、彼ら曰く数の多い海月こそどうにかしたいとぼやいていたが、どうなんだ?」
「‥‥流石にあれは。それに磯巾着もどうしようもないかと」
「話を聞いてきたけど、磯巾着って食べられるらしいわよ。実体験はないからどうなっても知らないけど」
「そうなの、かよ‥‥タカシなら、食うかな?」
「あたしは変なトラウマを背負い込みたくないので、見てるだけでいいです」
「あーと、僕も遠慮しておこうかな」
「うん、そうか。じゃあま、食べたい奴が食べるって事で‥‥頂きます!」
未だ転がっている大蟹の骸を前にシグマリルが静かな声音で尋ねると、調理を担当したシェリルは渋面湛え言い淀む姿に珠は空を見上げながら呟けば、喜八が半眼湛えてやはり波打ち際に転がる磯巾着を見つめるも次には振り返り、己が養うグリフォンを見て尋ねるが‥‥答えが返ってこないその中で花子はその鍋が一つを凝視して呟くと、他にも彼女同様に頷く者を見て裕馬が言えば箸を持つ者はそれぞれが持つ器によそわれた蟹を食す。
「‥‥蟹だ、確かに蟹だ」
「けど、大味よね」
「大きいですから、当然と言えば当然なのかも知れませんね」
「あつ‥‥ふん。甘からず、辛からず、だが美味からず」
すれば暫しの間を置き、その彼が静かに呟くと珠が次いで紡いだ率直な感想を聞いて見ているだけのアンジェリーヌがその感想に納得して頷けば‥‥猫舌故に口に含んだ蟹の身に咽ながらも飲み込んだ喜八の、妙な言い回しによる感想も次に響くがそれには一行は何と返すべきか悩み、視線だけ彼へ送ると
「‥‥まぁ食えなくはないが好んで食いたいとは思わねぇ、って事だな‥‥タカシ! よう食えよ」
懇切丁寧に皆へ説明した後、未だ熱いままの器から視線を逸らすと海月退治に活躍したグリフォンの名を呼んで彼は鍋で煮えている蟹の足が一本を放るのだった。
〜終幕‥‥?〜