風塵氷雪

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:10 G 22 C

参加人数:10人

サポート参加人数:6人

冒険期間:01月10日〜01月19日

リプレイ公開日:2007年01月17日

●オープニング

●風は荒れ、舞うは雪
 伊勢より程無く離れた、とある山の中腹。
「はぁ‥‥はぁ‥‥‥」
 新しき年を迎えたばかりにも拘らず、まだ若い青年は深き雪に埋もれるその山を吹き荒ぶ雪の礫が顔を打ち据える中、進んでいた。
 既に息は上がり、白い吐息が彼の口から漏れれば遂には我慢出来なくなり手近な樹へ寄り添うと、一息付いては空を見上げれば‥‥その空から雪は舞い降りておらず、しかし風が舞えば多く積もる雪はそれに乗ってその身を鋭くして辺りへ飛散する中で顔を庇いながら彼は考える。
 その山の麓にある彼の村でも年末から雪が降っていないのだが山とは言え、これだけ降雪量に差があるのはどう考えてもおかしい、と。
「こりゃあ今年もおかしいな、去年は時期外れだったがその時と同じ位に雪が降り積もってやがる。もしかして‥‥」
 そんな事をぼんやりと考えながら、目の前に広がる異様な光景を前にする青年がふと既視感に囚われたその時だった。
「その‥‥もしかして、だったらどうするかね? 見覚えのあるお兄さん」
「っ‥‥!」
 己の背後より鈴の音の様な、女性の声が聞こえたのは。
 そして次いで青年は振り返るも‥‥視界にその声の主を収めるより早く青年は一年前と同じく、次には己が意識を手放してしまう。
「‥‥全く、今年も懲りずに山へ踏み入って来よる。これだから人間とは」
 そして一方の声の主、雪女は氷柱となった彼を見ながら‥‥しかし口元に手を添えてはその表情を顰め次に嘆息を漏らすと
「まぁ良い、今年もそうであるのならまた退ければいいだけの事‥‥とは言え、さて。手の内が見透かされているのが癪じゃがどうしたものか」
 思案顔にて悩みながら、とりあえずもう一度山中を巡ってみようと思いその場を立ち去るのだった。

 場面は変わり、京都の冒険者ギルド。
「‥‥とそう言う事だ」
「今年は早いな、まぁ去年がいささか時期外れだった気もするが‥‥」
「そうだね、去年は三月頃だったっけ? もう暖かかったよね」
「それ位だな‥‥とにかく、今年もその山は吹雪が厳しく困っていると言う話で今回こそどうにかして欲しいとの依頼を受けた。解決さえすればいいので、その手段は皆に任せると言う事だが‥‥」
 とある山にて今年も起きた、異常に降り積もる雪と山へ狩りに向かうもそれから帰って来る事のない未帰還者の存在を告げる冒険者ギルドのギルド員が青年の話はやがて本題の話を簡潔に語り出すと、場に居合わせる面子はその中でそれぞれ顔を突き合わせては昨年の依頼を振り返るも‥‥ギルド員の青年が一先ず皆を窘めれば先の話の続きを紡ぐと、その最後。
「どうする? 変わらずに厄介な依頼だろうが」
「勿論、受けるに決まっているだろう!」
 表情は変えないままに皆へ静かに尋ねると、直後に鼻息荒く答える剣士が即座に答えを返せば
「京都の冒険者ギルドで残っている、数少ない未解決の依頼だろう。それなら今度こそ解決してやるさ」
「それは頼もしいな」
 剣の柄を掴み、乾いた金属音を鳴り響かせる中で眼光鋭く断言すれば口の端を上げては青年が笑うと改めて皆を見回した後、告げるのだった。
「確かに前回と違い、相手の手の内が見えているとは言え‥‥変わらずに厳しい環境下で熾烈だろう敵の攻撃は決して甘く見るなよ。それと準備は抜かりなき様に」

――――――――――――――――――――
 依頼目的:荒れ狂う吹雪の元凶を見付け、断て!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要、忘れたら危険。
 また防寒着も必須な時期、忘れたらどうなっても知りません。
 それらは確実に準備しておく様に。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 日数内訳:移動六日(往復)、依頼実働期間は三日。
 推奨レベル:Lv15以上、但し厳しい環境下での戦闘を考慮するともう少し高い方が好ましい。
 それ以下の方に関しては十分に留意して臨んで下さい。
――――――――――――――――――――

●今回の参加者

 ea0029 沖田 光(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0664 ゼファー・ハノーヴァー(35歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0858 滋藤 柾鷹(39歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2562 クロウ・ブラックフェザー(28歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb1528 山本 佳澄(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb2704 乃木坂 雷電(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 eb3529 フィーネ・オレアリス(25歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3824 備前 響耶(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)

●サポート参加者

カシム・ヴォルフィード(ea0424)/ エリーヌ・フレイア(ea7950)/ 神木 祥風(eb1630)/ 慧神 やゆよ(eb2295)/ シターレ・オレアリス(eb3933)/ 鷹村 裕美(eb3936

●リプレイ本文

●再び、白き闇を前に
 伊勢の市街地より近くなく遠くなく今年は時期相応に、だが昨年と同じく異常なまでの冠雪を誇る山があった。
 その状況は間違いなく昨年と同じだろうと判断した近くの村に住まう人々は今年こそその憂いを断つべく冒険者ギルドに依頼を出せば、程無くして集ったのは十人の勇士。
 その村へすぐに一行は駆けつけると手早く必要な準備だけ整え、必要な情報を仕入れれば村の住民達が期待を一身に背負いその山へ向かうのだった。
「もこもこ〜」
 が昨年も使った拠点の一つである小屋にて勇士の一人がゼファー・ハノーヴァー(ea0664)は何故か、まるごとレヲなるどを羽織り呑気に転がっていた。
「もこもこ〜、もこもこ〜」
 その、出立前とは違う彼女の様子に他の皆は無論鼻白むも彼女は十八の瞳から注がれる視線に構わず小屋の中をゴロゴロと転がる。
 何が彼女を駆り立てているのか分からないが、当分は此処ままだろうと他の全員が判断すると一先ずは様々な物の怪に対して知識が豊富である沖田光(ea0029)より今回の依頼に関連するだろう様々な物の怪の話を聞く事にするも
「‥‥それからこれは噂なんですが、雪女は泣かせたら溶けて消えるまで泣き続けるらしいですよ。でもそこを突くのは男としてどうか‥‥」
「確かに、事実であるならそれは卑怯だが‥‥そうでもないと思うのは自分だけだろうか」
「そんな事はない、果たしてこの調子で大丈夫なのか拙者は不安に思えてきた‥‥」
 次には噂話と言いながらも夢見がちな性格故にそれを信じているからこそ、惑いの表情を浮かべては言い淀む彼を見つめて備前響耶(eb3824)が表情変えずに呟くと、未だ変わらないゼファーの様子に嘆息を漏らしながら滋藤柾鷹(ea0858)は窓の外に広がる、白い闇を見つめ瞳をすがめた。
「‥‥前回は命拾いした感が強いが、いかな形であろうと此度で決着をつけねばならぬな」

 そして暫くの後、冷え切った体をしっかりと温めた一行は再び白だけが埋め尽くす世界を登り始めた。
 今年こそ、白き世界を生み出す元凶を断つべく。

●風塵氷雪
「一先ず、雪の元である雨は暫くすれば止むかと思いますわ」
「これで視界は確保出来たわね」
 そして再び山を登り出した一行が暫く歩くとやはり吹雪に襲われこそするが、それにはしっかり策を講じておりシェリル・オレアリス(eb4803)が巻物開けばもう何度唱えたかレインコントロールの呪文が徐々に効果を成し、開けた視界に広がる辺りの風景へ視線を彷徨わせながら警戒する南雲紫(eb2483)は安堵こそするも
「けれどインフラビジョンが使えないなんて」
「抱擁されれば体の芯まで冷やす事が出来る雪女に、吹雪の化身である雪狼ならですね」
 先に巻物開いた彼女は紫とは逆に浮かない表情湛えれば、光が語った話を改めて語りながらシェリルの母親であるフィーネ・オレアリス(eb3529)が宥めると娘は気を取り直し、毅然とした表情にて頷く‥‥元凶を探す事だけが目的ではないからこそ。
「しかし少なからずも手の内を知っているだろう者が来る事は相手も承知な筈、ならば無策で来るとは思えんが‥‥どう出てくるか。新たな伏兵か、或いは地形を利用してくるか?」
「とにかく、あんたらが以前に戦った話を聞いた限り一筋縄では行かない事は確かだろうな」
「あぁ。とは言え、相手を見付けない事にはなぁ」
「話をする為にも、ね」
 故に次に声を響かせる、先に皆の前で自堕落っぷりを披露したゼファーが格好はそのままに、しかし今は立ち直って思案顔にて呟くと彼女と柾鷹より聞いた話を思い出しつつ土の志士の乃木坂雷電(eb2704)がこまめに魔法にて捉えられる振動がないか気を払いながら素っ気無く、思考重ねるゼファーへ声を掛ければ一行の先導役がクロウ・ブラックフェザー(ea2562)も彼に同意し雪を踏み締めながら後ろを歩く皆へ振り返り頷くが、紫が白き息を吐きながら紡いだ言葉を聞けばにこやかだった表情を引き締めた。

 それより何度か小屋にて休息を挟みながら一行は山を更に奥へ奥へと進み続ける。
 降る雪はシェリルに払われ、しかし降り積もったままの雪に寒さだけは厳しくなる一方。
 だがそれでも一行は惑わずゼファーが作る炎の地図に、シェリルが得る望遠視覚と雷電が振動を察知し、その原因を追究出来る魔法を展開しながら進み続ける。
「急に霧が?」
 そんな折、苦労しながら慣れない雪道を歩いていた山本佳澄(eb1528)がこの山に入ってより初めて見た現象に早く気付くと、皆へ警鐘鳴らせば
「幾ら何でもこれは急激に気温が下がり過ぎている。漸く、当たりか」
「いるなら出て来いよ、近くにいるのは分かってるんだ」
 直後に一歩、雪を踏み締めた響耶が僅かにだけ眉根を顰め囁いては瞳に宿す光だけ強くすると、その彼の肩を叩いてはクロウ、皆へ頷き掛けて響耶より更に前へ一歩踏み出せば白だけに覆われる世界へ声を投げ掛けると次に響く、小さくも艶のある嗤い声。
「またか、まぁ十分に考えられた事じゃったが」
「やはり貴殿か。当然‥‥引けぬのでござろう?」
「何じゃ、またお主らか‥‥今年も妾と遊びにきおったか。じゃが生憎とこの時期は療養したくての、主らが相手なぞしたくないのじゃが」
 そして一行より高い位置にその姿を現す雪女は皆を見下ろしたまま、大仰なまでに肩を竦め嘆息を漏らせば彼女に見覚えのある柾鷹は出会うなり尋ねると、どうやら柾鷹と一行の中程に位置するゼファーに雪女も思い当たれば、二人へ視線を配し頭を左右へ振るも
「な、なぁ‥‥あんた。今回は何も戦いに来た訳じゃあないんだ、少し位‥‥俺達の話を聞いてくれないか?」
「‥‥ふん。いいじゃろ、お主の言い分を聞いてくれよう」
 次に雪女の艶っぽい姿に戸惑いながらクロウの問い掛けが場に鳴り響くと彼女は暫しの逡巡を挟み、やがて鼻を鳴らせば高圧的な答えながらも話を許された彼は黒い手袋を嵌め直した後に口を開く。
「冬に少し位吹雪いたってそりゃ構わねえよ、でもこれは限度を超えてるだろ? このまんまじゃ生きる力の弱い獣の子供は冬を越せないぜ。それに獣だけじゃない、木々だって雪で枝を折られて弱ったり、下手すりゃ枯れちまう。あんた、山を殺す気かよ?」
 すれば先まで浮かべていた困惑の表情は消し、白い息を吐きながらも漂う冷気を払う様に語気を強めて語れば彼女に口を挟む暇与えず、クロウは捲くし立てる。
「山の理を守りながらやっていこうぜ。麓の村人だってその辺弁えながら、生きてくのに必要なだけの恵みを山から貰って暮らしてるって話を聞いたぜ。人間に出来て、あんたに出来ないって事は無いだろ?」
「ふむ、それはそうじゃな」
「俺達は麓の村人に『吹雪を何とかしてくれ』って頼まれた。あんたを倒せとは言われてない。山奥に居るのが退屈なら、酒でも持って遊びに行くぜ?」
 麓の村にて聞いて来た、自然との接し方に付いて話すと頷いた彼女へ今度は語調を弱め、優しく語り掛けるが‥‥雪女は次に鼻で小さく笑い、だがそれとは裏腹に顔を俯け哀しげに瞼伏せれば
「じゃがな、妾が己の存在を実感出来るのは一年で今しかないのじゃよ。それなのに妾だけ常に我慢しろと、お主は言うか」
「な、何もそこまでは」
「‥‥所詮は住む場所が違うのじゃ、妾とお主らとはな!」
「っ、いきなりかよ?!」
 先程までの語気は何処へやら、静かな声音にて離れている皆にまで聞こえるか怪しい程度の声音で呟くと、唐突に見せた雪女の態度に思わず素に戻ったクロウがたじろげば‥‥やがてゆっくりと顔を上げた彼女は鋭き視線携え、彼を睨み吐き捨てる様に叫べばその口を大きく開け放ちクロウを眼前に一行を纏めて薙ぎ払わんと氷の息吹を放つも、しかし警戒を強めていたフィーネが早く詠唱を完成させた結界にて凌がれる。
「先ずは一人、かの」
「それ以上はさせんっ」
 とは言え雪女の間近にいたクロウだけは別で、他の皆が後ろへ下がり過ぎていたからこそ結界の範囲内に存在する事は出来ず直撃を被れば、膝を屈する彼を見下し嗤いながら次なる魔法の詠唱紡ぐがその暇は逃さず、一気に間合いを詰めて来たゼファーが放った宝剣によって阻まれるとそれを機に、静かだった白き闇の中で遂に戦いは始まった。

 雪こそ未だ止んではいるが、漂う冷気は相も変わらずの戦場を疾駆し一行を制圧せんとするは周囲に潜んでいた雪狼だったが、雷電によって事前に察知されていたが故に奇襲が成り立たなければ
「元来獣は火を恐れます、それが弱点である雪狼なら尚更‥‥本能には逆らえませんよね」
「やはり手応えが違うな、先の光殿の話から考えても獣殺しの剣は利かぬだろう」
 にこやかな表情を湛える光が放った業火の球を前にすれば直撃せずともそれには流石に怯むと、その間隙を逃さずに響耶が一気に間合いを詰め一匹の雪狼を自身の刃が領域に取り込めば次に振るう、燃え盛る疾き刃がにてその首を落とすも返って来た手応えから普段の口調にて呟きながら再び隙なく野太刀を構え直す。
「‥‥っ、いかん。抜かれた」
 だが雪上ではかんじきを履いているとは言え、それでも一行より勝る機動力を持つ雪狼は響耶には目もくれずその脇を駆け抜けるとその後衛へ迫り、本能で弱者と感じ取ったシェリルへ迫るも
「とりあえず、結界が突破される心配はなさそうですね」
「以前の借り、返させて貰う」
 それより早く、クロウを魔法にて癒していたフィーネが再び早く構築した結界に辛うじて阻まれれば迫った三匹の雪狼は低く悔しげに唸り声だけを上げるが次にはそこへ静かに駆けつけた柾鷹の剛剣を喰らえば、一匹が盛大に雪を舞い上げながら吹き飛ぶと止むを得ず標的を剣士達へ変えた雪狼の群れを前に、彼らは再び静かに対峙する。
「流石に前と同じ様には行かぬか」
「当然だ、今回こそ倒させて貰うっ!」
「ご覚悟っ!」
 だがその中で未だ余裕なのか、ゼファーと佳澄に迫られ僅かずつ手傷が増えているにも拘らず舌打ちする雪女に、それでも二人は尚も裂帛放ち詰め寄るが
「足元がいささか、留守ではないかのぅ? 火を放てば‥‥さて、細工は粒々じゃよ」
「‥‥え?」
「皆、散れっ! 雪崩だ!」
「ふん」
 次に響いた白き女の問い掛けに思わず佳澄が首を傾げた時、結界の中で漸く起き上がったクロウの叫びに雪女が鼻を鳴らすと同時、彼女らの周囲に降り積もっていた雪が突然に崩れだす‥‥もクロウの警告が功を奏し、雪崩に巻き込まれた者こそいなかったが
「俺達と同じく、分断を考えていたとはな‥‥良くもやる」
 更に一行と距離を置く様に後退した雪女と、彼女を追う三人の女性が今出来たばかりの深い溝を挟んで分断された事に雷電は舌打ちするが、それでも彼は辺りを見回し大分数が減じた雪狼を見るとその整った面立ちには出さず、内心でだけ胸を撫で下ろす。
「流石‥‥と褒めるべきかの?」
「そんな事はないが、今となっては手遅れだろう?」
「そんな事はないじゃろうて‥‥ほら」
 しかし彼らの対岸にいる雪女はそれでも余裕を持って微笑めば、忍者刀を突き付け問う紫へ上空を仰ぎ見ては舞い降りて来る幾多の白き影を確認し、己が肩を静かに震わせた。

「‥‥黒影葬」
 舞い降りた白き影、白大鷹をも更に戦場に加え雪女達は更に意気を吐いて一行へ迫るも血みどろになりながら漸く近場にいた雪狼を屠った響耶を始めとする一行を前にすれば、その気勢がやがて殺がれるのは必然か。
「余り無理するなよ。っと、やっぱ冬は動きが悪いか」
「あぁ、だが‥‥未熟の極みだ」
 だが引く訳に行かないのは敵も同じく、次に膝を折る響耶目掛け天上より迫る白大鷹が振るう爪は木々揺り動かした雷電が作る幾多もの枝を交差させ作った盾にて弾かれると、直後に響く彼の呟きへ荒く息を吐きながら浪人は返すが
「俺より役に立っておいて、そんな事を言うなよな。それに俺達はまだまだこれからだ」
「ならば残った大白鷲とやらは任せても良いか?」
 再び響いた雷電のぼやきへは今度、柾鷹が珍しくも冗談めかして問い掛けると僅かにたたらを踏んだ彼へ微笑だけ返すし治療薬を飲み干した後に侍はフィーネが操るグリフォンと多数の白大鷲が上空にて戦う光景を見止めてから穿たれた溝を迂回しては雪女へ迫るが丁度その時に勝負は決する。
「刹華‥‥」
 ゼファーが牽制に徹する中、白刃煌かせた佳澄の一撃に体勢を崩した雪女へ迫った紫が放つ、紫電の一撃にて。
「もう一度だけ問う、折れる気は‥‥ないか?」
「‥‥良かろう、主らの意に従うてやるわ。但し‥‥」
 そして三方より雪女の首筋に掲げる剣が一本を持つ彼女が最後の問いに対し、白き彼女は果たして静かに応じるのだった‥‥が。

●白き闇が晴れた時
「不都合だから排除する。実に傲慢な理屈だが‥‥互いに生きる事に必至だからこそ」
 そして戦いは終わり、再び沈黙する白き世界の中でフィーネより魔法にて治療を施された響耶はボソリ、静かに呟く。
「相手は領域を侵食する人間を排除して、自分は人間だから人を襲う妖を斬った。人同士の争いよりは高尚と思うのだが、さて‥‥何が正しいか、その道を常に辿るのは流石に難しい」
 互いに折れぬ意思と意思とのぶつかり合い、どちらも自身が正しいと思うからこその戦いに先の京都で起きた戦乱を思い出しながら今回の結果に向き直れば彼は相変わらず表情を変えぬまま、思案する。
「‥‥それもそうですが、これからどうするのでしょう?」
「知らぬわ、主らが考えい」
 と響耶の呟きに皆もそれぞれ考える中、次に響いたシェリルの問い掛けへ皆は一斉に雪女を見やると‥‥肝心の彼女は素っ気の無い答えを返すだけ。
 因みに彼女より一行へ対し、相変わらずな態度のままで突き付けた要求は以下の通り。
『但し、妾を退屈させるでない事。こうする以外に冬の過ごし方を知らぬのじゃからな』
「これはこれで良かったと思うけど、厄介ごとを抱えた気もするのよねぇ」
 こうなってはどっちが勝ってどっちが負けたのかはっきりしない所もあったが、溜息を漏らしながらも紫は先ずは依頼を無事に達する事が出来た事に顔を綻ばせた。

 そして一行が雪女と別れ、山を下っていく中‥‥此処にも影の姿があった。
「‥‥結局、この程度だったか。わざわざ足を運ぶまでもなかったな」
 今はもう、然程大きくない白き欠片がしんしんと降る中でそれとは対極の黒が天魔は瞳すがめ肩を竦めるも
「そうなるとさて、少々手駒は少ないがこの機を逃す訳にも行かず‥‥斎王なき斎宮を攻めて見るとしようか。落とせるのならそれで良し、落とせぬとしても‥‥それは決して無駄ではなく、今の斎宮を見定めるだけの価値はあるだろう」
 すぐにその事は忘れ、次に打つべき手を不安要素掲げながらも呟けばその身を翻しては斎宮がある二見の方を見据え羽ばたき、今は白き闇が晴れた山より去るのだった。

 〜終幕‥‥?〜