【伊勢鳴動】今度こそ決戦、夫婦岩!

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:5 G 32 C

参加人数:8人

サポート参加人数:7人

冒険期間:01月21日〜01月30日

リプレイ公開日:2007年01月28日

●オープニング

●渦巻く波間、佇む夫婦岩
 伊勢は二見、斎宮が建ちそびえるこの地は漁業が盛んで温泉も有名で伊勢神宮に連なる宮社も多くある。
 その宮社が一つの二見興玉神社。
 間近には先日、大量の海洋生物が発生した夫婦岩もあるが‥‥今はその時の光景など何処へやら、多少こそ波が凪いでいたがそれを除いては至って静かなもので
「やっと落ち着いたな」
「あぁ、全くだ。これからが仕事の盛りだって言うのに邪魔をされちゃあ叶わんよなぁ」
 漁師達もその光景に安堵すれば今日は船を出し、久方振りの漁を前に言葉弾ませ話を交わすも
「じゃあ始めるか、これ以上波が強くなる前に。それじゃあ今年も良い伊勢海老が獲れます様に、っと‥‥」
 これ以上波が凪ぐと漁をする事自体が厳しくなるだろうと判断したその内の一人が皆へ声を掛ければ、海へ頭を垂れて祈願したその時だった。
 海に出ている幾多の船より距離こそ離れているが、視認出来る位置にある夫婦岩のその懐にて巨大な泡が幾つも浮かび、割れたのは。
「お、おい‥‥何だ。何かやばくないか?」
「もしかして、まだ残っていたか」
「いや、そうじゃない。蟹とかがこんなにも海を爆ぜさせるか?」
「急げ、急いで岸まで‥‥っ!」
 その光景を前に船乗り達は流石に先日の一件を思い出し慌てると、誰かが紡いだ指示に従って船を手繰りその場より離れようとして直後、文字通りに海が割れるとその狭間から皮膚を青灰色に染めた一匹の巨大なミミズが現れる。
「おい、あれって」
「何でこの辺りに、海長虫なんているんだ‥‥」
 しぶく波のその隙間から、五間(約9m)に届かない巨大ミミズこと海長虫の姿を漁師達は己の船が櫂を操り、岸を目指しながらただ呆然と見上げた。

「‥‥斎王の留守に、活発化する妖怪の動き。何を睨んでのものか」
 後日、その報を聞いては京都の冒険者ギルドへ向けて駆けるのはレリア・ハイダルゼム。
 先日の経験がある事から斎王なき斎宮より抜擢され、冒険者ギルドへ此度の依頼の発行と再度夫婦岩へ派遣されるに至ったのだが
「これだけで終わればいいが‥‥どうにも、嫌な予感がする」
 先日起こった夫婦岩での一件にて腑に落ちない疑問を抱えたままだからこそ、間を置かずに再び夫婦岩の近辺に現れた巨大海洋生物の目的を訝るも
「とは言え、今は目前の事態を解決せねばならないか」
 先に何が待とうとも以前よりも酷い敵の登場を前にそれを検索する程の余裕は彼女にも、伊勢にも今はなく一先ずは今回の依頼に集中しようとして彼女。
「そう言えばエドは元気だろうか、変わりなければいいが‥‥」
 ふと何を思ってか、慌しいが故に最近顔を見ない少年の事を思い出すと尚更に駆ける速度を上げて一路、京都に至る街道をひた走った。

 一方の夫婦岩が直上‥‥その高みに一つの影が翼をはためかせ、浮かんでいた。
「出来ればもう一手、打ちたかったが‥‥今の機を逃しても困る」
「此処まで連れて来るの、大変だったんだから何かくれよー」
「油揚げが良いぜよ」
「あっぶらあげ、あっぶらあげー」
 その影、目下にて蠢く海長虫を見つめながら腕組みを崩さずに天魔は呟くが‥‥波間に浮かぶ一つの大きな岩の上にて三匹の妖孤が天魔へ叫び掛けるが
「‥‥出来る事なら牛鬼や雪女も傘下に加えたかったが、あの程度ではこれからに差し支えても困る。さて、どうしたものか」
「とりあえず油揚げ」
 それはあえて無視し、今よりも先の事に思案して天魔は呟くも‥‥無論、すぐに答えなど出る筈もなく次に肩を竦めると再び、妖孤が負けずに再度の要求をするがやはりそれは無視して天魔は翼にて空を叩き、その場を後にするのだった。
「おーい、油揚げー!」
 岩場に残された、未だ油揚げを要求する三匹の妖孤をそのままにして。

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 依頼目的:斎宮と夫婦岩が目前に現れた海長虫を倒せ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要、また防寒着も必須な時期。
 それらは確実に準備しておく様に。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 対応NPC:レリア・ハイダルゼム
 日数内訳:移動六日(往復)、依頼実働期間は三日。
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●今回の参加者

 ea1545 アンジェリーヌ・ピアーズ(21歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea7905 源真 弥澄(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb0990 イシュメイル・レクベル(22歳・♂・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 eb1630 神木 祥風(32歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb4756 六条 素華(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb5009 マキリ(23歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb9999 大谷 由紀(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ヒースクリフ・ムーア(ea0286)/ ゼルス・ウィンディ(ea1661)/ 野乃宮 霞月(ea6388)/ 御神楽 澄華(ea6526)/ ガイエル・サンドゥーラ(ea8088)/ 若宮 天鐘(eb2156)/ ベルナベウ・ベルメール(eb2933

●リプレイ本文

●驚愕、巨大ミミズ!
 伊勢は二見、最近はこの辺りでの騒動が絶えない中で再びの珍客来訪に臨むのは冒険者達が九人。
「此処へ来るのも二回目ですが、良くモンスターに襲われる所ね。もしかしたら夫婦岩に秘密でもあるのかしら?」
「肯定も否定も出来ないわね。なんせ伊勢は此処最近、あちこちで妖による襲撃が多いから一概にはそうとも言えないかな」
 その二見の海岸沿い、二見興玉神社がある方を目指し砂浜歩く一行の中で嘆息を漏らしながらも先の一件を思い出し、夫婦岩へ疑問を抱くシェリル・オレアリス(eb4803)のその考えは当然ではあったが、源真弥澄(ea7905)が言う様に近頃の伊勢の状況に加えて確たる証拠もなければ次に呻くのはシェリルだったが
「しかし美味しい伊勢海老が獲れるこの場所に巨大ミミズとは‥‥想像しただけで寒気が致しますわっ」
「正直あんまりお相手したくない類だわ。気持ち悪いし、ヌメヌメでニョロニョロってのは‥‥ま、仕事だから割り切るけど」
 その一方、珍しく気を吐くアンジェリーヌ・ピアーズ(ea1545)が『それ』の存在に怒りを露わにすれば弥澄も同意の代わり、肩を竦めつつ半眼を湛えたその時だった。
「あ、見えました‥‥あれですよね?」
 次に響いた大谷由紀(eb9999)の声と彼女が指す方を一行が見れば直後、夫婦岩の間近にて盛大に水音を上げては海上へ顔を出した『珍客』こと海長虫を初めて目の当たりにしたのは。
『‥‥うへぇ』
 その光景を前に皆が皆、見事に揃い口を開けては呻くが未だ遠目に見えるだけの巨大ミミズはそんな一行の反応に気付く事は無く、口元に生える幾多の触手をのた打たせては暫し呑気に辺りを泳いだ後、再び海中へ潜れば
「こんなのいたら魚逃げちゃうよねー‥‥畑のミミズの何倍だろ」
 激しく上がる波飛沫と、暫くの間を置いて浜へと寄せる波を見つめながらイシュメイル・レクベル(eb0990)がただ唖然と呟くが、皆は遠目でも理解出来た海長虫の巨大さ故に言葉を失い答えを返せずにいた。
「‥‥あれがこの前の大騒ぎの元凶だった、って事?」
「そうだろう、と踏んでいる。でなければあれ程に大蟹等、大量に沸く理由が思い付かない。とは言え‥‥」
「普段、暗がりに潜んでいる筈の海長虫が何故にこんな浅瀬まで出てくるか‥‥恐らくは何者かの手によって、でしょうね」
「それだ、そこまでは分かる。そしてその存在も大よそ、見当は付く。だが一体何を目的に‥‥」
 だがそれでも気後れだけでもする訳には行かず、やがてマキリ(eb5009)が口を開いては今回も夫婦岩の一件故に同道するレリア・ハイダルゼムへ問えば、抑揚のない声音で答える彼女だったが次に言葉の途中、沈黙するとその後を六条素華(eb4756)が継いで言葉にして発すれば彼女に頷いてレリアは再び夫婦岩へ視線を投げ掛けるも
「しかし今は海長虫が沖に居座り大変でしょう漁師達の為にも一つ、骨を折ってみましょう。それが先ずは何よりも優先されるかと」
「‥‥そうだな」
 今も凪ぐ海とは裏腹に穏やかな声を響かせては神木祥風(eb1630)が微笑湛え皆へ提案すれば、レリアを初めに皆頷くと歩く速度を上げるのだった。
「とかこさん、一緒に海を荒らすならず者を倒しましょう♪」
(『とかこ、って風貌じゃねぇ‥‥』)
 やはり穏やかな声にて奮起するシェリルに一行の皆が皆、彼女の後を付いて歩く蒼き亀甲龍を見つめ呻きながら。

●戦いを前に
「‥‥一先ず、相談の通りに活動が活発になるでしょう夜に備えて準備をしましょう」
 そして一先ず、二見興玉神社が近くにある村へと日が明るい内に辿り着けば一行は素華が話の通り、それぞれに散開しては成すべき事を成す為に行動を開始する。
「エドは‥‥元気だよな」
「あら、聞き覚えのある名前ね。確か‥‥エド君なら、この前見掛けたけど友達と楽しそうにしてたわよ」
「うん‥‥?」
「挨拶がまだだったかしらね、初めまして」
 そんな折、幾多もの篝火の準備がある為にそちらの手伝いへ赴こうとしたレリアがボソリ、今も凪いだままの海を見つめて独り言を呟くとそれを聞き止めた弥澄は頬に指を当て考え込む事暫し、その名の人物が顔を思い出し彼女へその時の出来事を簡潔に告げるも弥澄とは初顔合わせなレリアはすぐに対する彼女の名前が出て来ず惑えば、苦笑を湛えて弥澄が改めて自身の紹介をすると
「でもどうしてそんなに気に留めるの? 彼とは赤の他人なんでしょ」
「私と同じ想いをさせたくないだけだ、だから伊勢を守り通したいと思っている」
 初対面故に詳しい話こそ知らないが、だからこそ先の彼女が呟きは気になり尋ねてみると‥‥やはり詳細こそ返ってこなかったが、小さな声音にて簡潔に纏められた答えを受けると弥澄は暫し考え込んだ後。
「‥‥ま、そんなに思い詰める事はないわ。今度もきっと、大丈夫だから」
 辺りを見回し、とある光景を目に留めると彼女は笑顔で断言した。

 そんな彼女らが見つめる光景、それは篝火を準備しながらもその合間を縫っては自身の体躯以上に長大な弓を操り、遠くにある篝火を射る練習に励むマキリの姿だった。
「惜しいです」
「意外に、難しい‥‥なぁ」
 慣れない弓故に苦慮しながら放った、既に何射目だろうその矢はしかし彼の補佐もする由紀の足元に突き刺さると、次に彼女から響いた言葉を聞いてマキリは顔こそ顰めうな垂れるも
「でも弱音ばかり言ってられないよね、皆を守れる立派なカムイラメトクになる為にも!」
 次にはすぐに顔を上げ、己が掲げる誓いを口にしては意思奮い起こして再び長弓を構えては矢を番え‥‥瞳に宿す光にて先ず篝火を貫けば、次には確かにその軌道を正確になぞり久方振りにそれを射貫いた。

「ほら」
「そうだな、皆を信じていない訳ではないのだが‥‥」
 そしてそれを見届けた後、弥澄が顔を綻ばせてはレリアへ言うと頷いた後に銀髪の剣士は続き、何事か言おうとするも
「すいません、数が多いので少しだけでも手伝って貰えると非常に助かるのですが‥‥」
「少し、話し込み過ぎたな」
「そうね、じゃあ行きましょう」
 それは途中、素華が申し出により漁師達も手伝っているとは言え篝火の設置等を一手に統括している祥風のヘルプによって遮られれば、彼女らは揃い苦笑を湛えながら砂浜にて慌しく動き回る輪の中へ加わろうと歩み寄るのだった。

●戦慄、巨大ミミズ!
 そして夜を目前に、一行の準備はその全てを終える。
「準備は万端、後はその刻を待つだけと言った所でしょうか」
「そうですね、尤もそれも後僅かですが」
 未だに凪ぐ海を前に自身、やり遂げた仕事に満足してか微笑みながら既に黒い海を見つめ呟く祥風に頷いて素華は海へ投げていた瞳をすがめれば、それより僅かな間だけを置いて夫婦岩の辺りが泡立つと、次には皆が挫くべき敵である海長虫が日中に見た時以来、漸く海面へその姿を現せば
「それじゃあ、行くよー!」
 暗がりの中、だが巨大であるからこそそれをすぐに確認したマキリが声高らかに皆へ合図すれば松明を掲げていた由紀に頷きかけると彼女は静かに眼前の、未だ火が灯っていない篝火へそれを近付けた。

 それより程無くして、戦いは始まる。
 漁師達の話の通り、火や光を嫌う為に普段は暗がりに身を潜めている海長虫は唐突に砂浜を照らす様に灯った幾つかの篝火と、シェリルの案にてそれを光源として漁師達の力を借りては数多の銅鏡より放たれた光を浴びると‥‥猛り狂ってか、夫婦岩より一行がいる砂浜目掛け猛烈な勢いを持って荒れる海原を切り裂く様に先ずは火が灯されている篝火の一つへ突っ込んで来るのは当初の目論見通り。
「‥‥何か今更ですけど、圧巻ですね」
「同意はするが、そうも呑気に構えていられる程の相手ではなく庇い合える程の余裕もない‥‥だからそれぞれ、心して臨んでくれ」
「えぇ‥‥とかこさん!」
 その光景を前にすれば額に張り付く髪を払いながら、ただ唖然とするシェリルが振る舞いは当然ではあったが、それでもレリアが皆へ声を掛けると鋭く吐息を漏らしてシェリルが蒼き亀甲龍の名を呼べば、それを合図にして戦端はいよいよ開かれる。
「たかが知れている威力かも知れないけど、それでも絶対に今は引く時じゃあないから‥‥届けて見せる!」
 やがて砂浜に海長虫が辿り着くと同時に蒼き亀甲龍のとかこと衝突すれば、それを視界に収めながら火が灯る近くの篝火に矢を翳したマキリが小さな体を一杯に長弓の弦を引き絞って矢を放てば‥‥それは間違いなく海長虫に突き立ち、僅かではあったが身をよじらせるとその反応に安堵すれば、レリアに由紀と共に砂浜を駆けるイシュメイルが一気呵成に海長虫との間合いを詰め、素華曰く『削り』の段階へと先ずは移行する。
「夜は苦手なんだけど‥‥ここまで大きかったら見失わないで済むよねっ、そらっ!」
 波の音が響き、篝火と月星の僅かな明かりだけが存在する闇の中で聖なる槌を翳したイシュメイルの呟きはまだ幼いからこそか、最初こそ心もとなく響くも‥‥やがて闇の恐怖を振り払えば、轟と唸って振るわれた槌は海長虫を激しく打ち据える。
「手応え‥‥ありっ!」
「でも気を付けて下さい、漁師の人の話だと‥‥」
 すれば返って来た掌に伝わる感触に、彼はマキリ同様安堵を覚えるが次に海長虫を単一の目標に絞らせまいと囮だけの役目に専念する、経験が他の皆よりも圧倒的に低い忍びの由紀がとかこを無視して突っ込んで来た海長虫を見止めながらイシュメイルへ声を掛けるもそれは途中、振るわれた触手が一本によって遮られ‥‥だが彼女はそれを寸での所で回避すれば
「麻痺毒があるのでしたね。でもその時は私が癒しますので‥‥早く倒して下さいっ!」
「う、うん‥‥」
 由紀の後を継いでアンジェリーヌが間近で見る海長虫への嫌悪を露わに、半ば悲鳴の様に叫ぶと彼女に気圧され後押しされてイシュメイルを筆頭に、攻撃に携わる面子は尚も意気吐いて素華より付与された炎を武器に、体に宿して巨大な海長虫を追い詰める。
「確認されている敵は一、確かにその通りですがしかし他にいないとも限らず‥‥視野を広く持ち、気は緩ませず冷静な対処を‥‥」
 だがそれでも巨大ミミズの攻撃の手は緩まず、一行の激しさに当てられてか更に触手を唸らせ食い下がる中、瞳を紅に染める素華は一人冷静に海長虫を視界に捉えたまま‥‥しかし最近の伊勢の情勢を鑑みて他にいるかも知れない存在を気に留めながら、今はその存在がない事を確認した後に彼女は海長虫へ枷を与える呪文の詠唱を織り紡ぐのだった。

「‥‥はぁ、はぁ」
 誰が漏らしたか、荒い息の音が凪ぐ波の音の合間に響く。
 一行の準備に調子に攻撃は確かに万全且つ確実たるもので、手数では明らかに海長虫を圧倒していたが‥‥しかしそれでも巨大ミミズの生命力は一行の予想を大きく上回っていた。
「元はミミズなのですから、いい加減にっ!」
「体躯から伺える通り、流石に頑丈ですね‥‥このままでは」
 素華が懸念していた闖入者も今までは特になく、未だ続く戦いの舞の中で戦況を間違いなく確認しながら、だが目の前で未だ健在である不気味な海長虫へ珍しく嫌悪感を露わにして光球を放ちながら叫ぶアンジェリーヌに祥風も海長虫と面向かって戦う者の動きを見れば‥‥皆が皆、特にレリアが顕著に鈍らせている事を気付き、だが次に打つべき手こそあるもそれが今か思い悩むも
「かはっ‥‥! だが、この身朽ちようとも‥‥必ず、私は、守り通して‥‥みせるっ!」
「アンジェリーヌさん!」
 遂には血反吐吐くレリアの、しかしそれにも拘らず足は止めず最早気力だけで巨剣を掲げ、叫んでは海長虫へ迫る光景を目にすると彼は今が思い悩む時ではない事に至り、傍らにいるアンジェリーヌへ頷き掛けては共に詠唱を織り紡いだ。
「織りては響くこの祝詞、縛鎖を編みては闇なるものへ戒めを与えん‥‥!」
「縛なる光輪、我が眼前にて蠢くかの敵を縛り戒め沈黙させん!」
 静かに響く祥風の詠唱と、それに重なってアンジェリーヌの詠唱は強く響けばそれはやがて自身らより五倍以上もの大きさを誇る、海長虫の動きを確かに止めるのだった。
「‥‥これで詰み、ですね」
 そして一行に与えられた刻限は六分ではあったが、その十分な時間を前に素華は漸く勝利を確信して静かに顔を綻ばせた。

●静かな海
 翌朝、まだ日は完全にその姿こそ現してはいなかったが砂浜で一時の休憩に身を委ねていた一行の前には苦労の末に打ち倒した海長虫が静かにその身を砂浜へ横たわっていた。
「流石に頑丈でしたね」
「これだけ大きいのですから、当然でしょうけど‥‥もう少し粘られていたら」
「でもでも、無事に今回は倒す事が出来たんだからそれで十分だよ」
「そうだね〜」
 それを目にしながらアンジェリーヌが辟易と、呆れた声音を上げるとそんな彼女とは裏腹に由紀は初めて挑んだ強敵との戦いを思い出し、今更に身を震わせるが‥‥まだ経験浅き忍びを落ち着かせる様に至って明るい口調にてイシュメイルが笑顔を綻ばせると、彼に同意してマキリも幾度となく頷けば
「‥‥今回の獲物は食べられるのかな?」
『無理無理』
「そりゃそっか」
 次に由紀から最早動く事がない海長虫へ視線を移して彼は一人、首を傾げては疑問を呟くもそれはしっかりと聞いていた皆は間違いなく一斉に突っ込めば、苦笑を湛える彼だったが
「でも、自然発生にしては出来過ぎてないかな? ここの所、伊勢では変なのばかりが続いてるし‥‥何かあるのかも」
「こうも次々魔物が現れる辺り‥‥そうね、誰かが誘導でもしてるんじゃないかしら?」
「十分に考えられる可能性ではありますね。未だその存在が明確ではなく、目的も見えませんが」
 その傍らにいたイシュメイルが次に響かせた疑問には弥澄も同意して友人より聞いた、此処最近の伊勢の状況を思い出しながら仮説を立てると紅き智将も彼女の話には頷くと静かに思考の渦へ陥るが‥‥今はそれが分かる筈もなくやがて一行はレリアが静かに見送る中、今回も無事に守り通し平和になった二見の海と夫婦岩を後にするのだった。
 今はこの平和が続く事を願い、何時かはこの平和が伊勢全体に及ぶと今は信じて‥‥。

 だが、実はまだ深く暗い海の底に瞳を輝かせる巨大な生物の存在がある事を皆はこの時、知らなかった。

 〜終幕〜