【伊勢鳴動】黒門捕縛・裏
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 38 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月02日〜02月05日
リプレイ公開日:2007年02月10日
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●オープニング
●黒門の思惑、守也の意思
京都、黒門絶衣が邸宅の自身が部屋にて。
「状況はどうですか?」
「どうもこうも、見た目こそ静かだけど‥‥伊勢藩の志士達が十重二十重で困っているんだけど」
「機は逃さず、ですか。流石は伊勢藩主」
「褒めてどうするよ!」
少し、留守にしていた間の状況を側近の忍に尋ねる主へ彼は普段通りに軽やかな口調にて告げれば、次いで上がる黒門の賞賛へは思わず突っ込むも
「決して褒めている訳ではありません、色々と上手く乗ってくれてこちらとしては嬉しい限りで」
主はその突っ込みに動じる事無く柔らかくも何処か底意地の悪そうな笑みを湛えれば、次には忍も笑みを零す。
「‥‥それで、これからどうするのだ」
「そうですねぇ‥‥」
がそれも束の間、黒門と共に深谷水道まで足を運んだ十河士郎が紡いだ問いには彼、暫し言葉を詰まらせるも
「まぁ、手筈通りで問題ないでしょう。そう言う事で皆さん、『適当に』宜しくお願いしますね」
やがてそれだけを言えば、それ以上は場に介する他の六人に何も告げず解散だけ命じた。
「伊勢の状況は?」
「斎宮にて妖の群れが沸き、それに対して斎宮が持つ全戦力をにてこれよりぶつかるそうです」
「市街はどうか」
「少なからずその影響が及んでいるそうですが、北畠様が防備に残した志士達を指揮しているそうで今の所、大きな被害はないと」
一方、黒門の邸宅近くにてその内部の動きを探っていた伊勢藩主が藤堂守也は今、伊勢より来たばかりの部下が携えてきた情報に耳を傾けながら渋面を浮かべていた。
「そうか‥‥此方も少々手間取ったとは言えこのタイミング、まるで見計っているかの様だな。裏で一体、誰が手を引いているか」
今も続いているだろう斎宮の襲撃とその余波だろう、市街への被害の詳細を聞けば聞く程に爪を噛みながら守也は、人的余裕が出て来たからこそ打って出た自身の行動は間違いだったかと疑心暗鬼に陥るも
「しかし、今更手ぶらで伊勢へ取って返す訳にも行くまい。故に私達は今後、伊勢の禍根となろう存在を摘む事に専念する。予定は変わらず黒門の捕縛を最優先に、だが早急に動ける様に各自善処してくれ」
「はっ」
部下の目の前でそんな弱音等今更吐ける筈もなく、現状における正しい判断を間違いなく下せば場に居合わせる皆へ新たな指示を下すと自身も今は惑わずに踵を返した。
「さて、そうなると後は‥‥」
●小次郎の‥‥
そして藤堂守也が向かった先は京都の冒険者ギルド。
人的余裕が出来たとは言え、それでも敵地に乗り込む以上は有事に備えて人を多くしておきたいが為。
「済まないがこれだけ人手を集めて貰いたい、目的は黒門絶衣の捕縛だ」
「‥‥にしてもこれだけの数を募るとは、一体どの様にお使うつもりか?」
しかし藩主の意を察する事は出来ず、募る人員の数の多さ故に冒険者ギルドの年若きギルド員の青年が尋ねれば
「暗に京都へ連れて来ている伊勢藩の志士達と揃え、二班に分ける。片方は私にアリアと共に大々的に黒門邸へ打って出て陽動として動き、もう片方は小次郎と共に陽動の動きに便乗して黒門と彼に連なる主要な人物を可能な限り捕らえる為に」
「大丈夫?」
「何がだっ!」
「いや何となく、と言うか色々な話を聞いているからね。小次郎さんに付いては」
「‥‥俺だって、やる時はやるさ」
すぐに藩主より返って来た答えを聞いて、年若きギルド員の隣にいた妙齢の女性ギルド員が伊勢藩主の傍らにいた十河小次郎を見つめ問うと、その真意を察し憤慨する彼だったが今まで耳にした話を思い出しながら含み笑いを浮かべ言う彼女の内心をあっさり読み解けば小次郎は半眼湛え、返す言葉なく呻く様に呟くが‥‥今日はすぐにその表情を変えて彼。
「伊勢の平和を取り戻す為に黒門は捕まえなければならないし‥‥それより何よりアリアの為にも、奴に下っている父は俺が捕まえなきゃならない。色々と聞きたい事が沢山あるからな。だから、やり遂げて見せる」
「おー、珍しい。頑張ってねー」
真直ぐな光湛えた瞳でギルド員の彼女を見つめ、何時になく真剣な面持ちにて腰に挿す刀の柄を掴み鳴らすと、だがギルド員の女性が贈ったぞんざいな激励には肩を落とす小次郎だったが
「それじゃあこっちは出来る手筈の陽動と混乱の合間を縫って、黒門絶衣と彼の近くにいる主だった面子を可能な限り捕らえるって事でいいのね?」
そんな彼の様子は気にせず、彼女は改めて伊勢藩主に今回のもう一つの依頼内容を確認するのだった。
「‥‥あぁ、それで問題ない」
しかし、先とは違い守也の表情に僅かだったが苦渋が宿ったのを彼女は見逃さなかった。
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依頼目的:黒門の屋敷にて、その当人と彼に下る主要な人物を捕まえろ!
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要、また防寒着も必須な時期。
それらは確実に準備しておく様に。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
対応NPC:藤堂守也(同道せず)、十河小次郎
日数内訳:依頼実働期間のみ三日
推奨レベル:Lv18以上、それ以下の方に関しては十分に留意して臨んで下さい。
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●リプレイ本文
●黒門邸を前に 〜その刻は迫る〜
冒険者ギルドより集合場所として指定された黒門邸に程近い、陽動を行う班とは違う一軒の家屋の中にて挨拶を交わす一行。
「百目鬼女華姫よ、ヨロシクね〜♪」
「おう、宜しくな」
その第一声は女性の忍びの割、筋肉に身を包んだ‥‥オカマと見て取れなくもない百目鬼女華姫(ea8616)が発し、少なからず彼女を初めて見た面々はたじろぎこそするが十河小次郎に至ってはその限りではなく、平然と手を掲げ応じると
「兄や姉がお世話になっている様ですね」
「ん‥‥?」
「大宗院鳴と申します」
「あぁ‥‥」
余り見る事のない彼の反応に女華姫が頬を染める中、紅白の装束を身に纏う大宗院鳴(ea1569)の声が次に響くと、首を傾げる彼へ己が名を告げれば小次郎は果たして渋面を湛えるが彼女は何故そんな反応を取るのか分からずに首を傾げるだけ。
「しかしどうにもキナ臭いな‥‥」
「キナ臭い、か‥‥」
「‥‥つい最近に出会った黒門と言う者の感触、二重三重の回りくどいやり方を特に好む様に見受けられる。伏兵は勿論、脱出用の抜け道や迎撃用の隠し玉はあると見ていいだろう」
「まぁそうだろうな、ああ言った類は絶対に何か企んでいる」
「とは言え、何があろうと黒門は捕らえねばなるまい」
「そうだな‥‥」
「それと小次郎、余り前だけを見詰め過ぎるな‥‥大事なものを失うぞ」
「お父様だけが今回の敵ではありません、彼を追うだけでなく全体を見て下さいね」
「‥‥‥」
だが次に響いた寡黙の剣士がミュール・マードリック(ea9285)も声が響けば一先ず溜息をついた後、反芻する小次郎へ頷いてから剣士はつい最近に見たばかりの黒門が印象を呟くと火の志士も同意するが彼らの心配を傍目、ミュールと同じ頃に黒門を見たガイエル・サンドゥーラ(ea8088)は二人とは真逆に断言すると鼻を鳴らし、苦笑湛える剣士へ僅かに苦笑だけ返せば次いで小次郎へ囁き掛けると、緋芽佐祐李(ea7197)も続き荒れそうな戦いを前に彼へ言葉掛けるが‥‥小次郎はただ沈黙のみを返すだけ。
「動くのは明日、日が沈み闇が一番に深くなる頃とする。それまでは各自、目立たない程度で好きに動いてくれ」
その反応に二人は勿論ながら一行が困惑する中で直後、伊勢藩主は集った一行を見回してから改めて口を開き告げれば一行は一先ず散開した。
「‥‥そんな事は、分かっているさ」
こうして、静かにではあったが戦いの幕は切って開かれる。
「さて、そのお手並み‥‥拝見させて頂くとしましょうか、伊勢藩主」
●刻は至りて 〜落ち着かない足取り〜
「‥‥互いの意思疎通が不十分だったか、人が減っていますね」
「此処まで来た以上、今更に引き返す訳には行かない。なら後は前へ進むだけだ」
とは言え一行、静かに黒門邸のその内部へ潜入こそ果たすも‥‥神楽聖歌(ea5062)が言う様に事前の打ち合わせが不十分だったからこそ、それぞれが独自に動いている事を今になって漸く気付くも、今となっては遅く次いで硬く響いた小次郎の囁きに聖歌が小さく頷き返せば再び足を進める六人。
「‥‥タイミングは悪くなかったみたいだな」
佐祐李を先頭に、慎重に罠がないかを探りながら進むが‥‥その彼女のすぐ後ろを歩いていた乃木坂雷電(eb2704)が自身らの人数と同数の振動を魔法にて察知すると、すぐに歩を止めれば皆も倣い歩みを止めて同時。
「‥‥まぁ無難な手ですね、伊勢藩主とはどうやら真面目な方の様で」
「黒門絶衣」
「おや、見た時のある人が幾人かいる様で‥‥どうもその節はお世話になりました」
「今度は何を企んでいる?」
「いいえ、何も。ただ逃げるだけですよ、なのでこの場はこれで一つ‥‥」
響いた声を聞いてミュールがその名を呼べば捕縛対象である黒門は果たして安穏と応じ、次いで辺りを見回しては居合わせる冒険者の中にいる見知った顔を見付けると深々と頭を垂れるが、寡黙な剣士が次に響かせた疑問には肩だけ竦めると一つの包みを皆の前に投げてはまた見回し今度は反応を伺うも
「まぁ、退いてくれないとは分かっていましたが‥‥やれやれ。それじゃあ皆さん、適当にお願いしますね」
「言っておくが、俺は加減なんて出来ねぇからなっ!」
その包み、間違いなく金銭が入った包みであると分かるそれに免じて引けと言う彼の提案は無言にて六人は断わると、嘆息を漏らす黒門が背後にいる三人へ声を掛ければその言い草に息巻く雷電が叫びと共に床を蹴ると同時、黒門は愉悦の笑みを浮かべて尚皆を煽るのだった。
「それで十分です、そうでなければ貴方方は負けを認めないでしょう。ならば私達はそれを越え、完膚なきまでに打ちのめすのみです」
●
その頃、屋敷に潜入した面子の中にいない緋月柚那(ea6601)はと言えば伊勢藩士の一人をとっ捕まえては単身、一行が忍び込んだ出入口に愛犬と共に居座っていた。
そこは邸宅より一番に近く、また馬での脱出を考えるなら唯一通る事が出来るだろう大きさだったからこそで、全体の行動としては問題かも知れないがその判断は間違っていなかった。
「ん‥‥あれは何じゃ?」
そんな彼女、欠伸を噛み殺しつつ何時もとは違う少々薄汚れた装いにて子供らしさを全開にしながらその辺りを忙しなく徘徊していれば一瞬だけその瞳に影を捉え‥‥だがそれが何かまでは分からず、首を傾げる。
「‥‥ここは柚那だけでも行動を起こすべきか‥‥えぇい、考えていても埒が明かぬ! こうなれば行く他にあるまい、そら行くぞ!」
だが次に影が見えた方より僅か、土を踏み締める音を拾うとそれが幻ではない事に気付くが未だ背後にて鳴り止まない剣戟にどう動くべきか暫し逡巡し‥‥だがすぐに腹を決めれば、彼女は柴犬が一匹に跨ると意を決し傍らに立つ伊勢藩士へ声を掛けると同時、移動を続ける影を追うのだった。
●黒門捕縛 〜激戦〜
そして激しき剣戟が更に熱を増し、辺りに激しく響き渡る様になった頃‥‥分散していた一行はそれぞれ、黒門にその部下達と激戦の幕を切って開いていた。
その舞台となっている黒門邸、先ず一つは馬房が一番近い裏門にて伏せていた鳴と女華姫。
様子を伺いに来たのだろう一人の忍びと激突する。
「建御雷之男神の名において、正々堂々と勝負なさいっ!」
彼の油断もあったとは言え、穏身の勾玉にて身を潜めていた事が功を成したが故に初撃を奪った鳴は霊剣を手に即座、声高らかに告げては彼との距離を詰めるも直後。
「‥‥あっ、でもこちらが奇襲をかけているので正々堂々ではありませんね。すいません」
「うわ、何か謝られているし!」
刃と刃を打ち合わせているにも拘らず、呑気な声音にて眼前にいる忍びへ詫びると当然の様に驚く彼ではあったが
「‥‥でも、手加減はしないよ?」
「それはそれは、その方がむしろ願ったり叶ったりです」
彼女の真意を見越し、微笑んでは告げる彼が疾風の一刃を振るうが‥‥その事には気付かず鳴も微笑み応じれば刹那、彼は背に走る怖気に気付く。
「後ろがお留守よ〜、安心して逝ってね♪」
「いやいや、その手には乗らないけどね‥‥って」
すれば直後に響いた声より早く、忍びの首筋目掛け振るわれた忍者刀の峰はしかし女華姫の存在を察知していたからこそ彼、素早く二人より距離を置けば肩を竦め呟きながら改めて対峙すべきもう一人の存在を見据えて‥‥すぐに渋面湛える。
「いやはや、参ったなぁ」
「むしろ参るのは、これからよ☆」
それもその筈、女華姫の存在に気付いていた時に見た華奢だった面立ちが今では明らかに逞しく変わっていたからで、先の面立ちが人遁の術であると気付きながらもうな垂れるが‥‥思惑の当たった筋骨隆々の彼女はその反応を愉しげに見つめ、顔を綻ばせると再び忍者刀を掲げ鳴と共に再び地を蹴った。
●
一方の黒門邸内部にて鉢合わせした六人と黒門らは家屋を確実に破壊しながらそれぞれに散り、激戦を繰り広げる。
「ふん‥‥その程度の疾さでっ!」
「尋常ならざるその速度‥‥余程の鍛錬を積まれていると見受けますが、それでも」
その中、速さを持って競うのは一人の浪人と聖歌に佐祐李だったが‥‥筋肉質な体の割、畳を抉りながら駆ける浪人の圧倒的な速度を前に佐祐李は舌を巻くも
「それでも私達は貴方方を‥‥っ?!」
「やれやれ、様ないね」
「うるせぇ‥‥誰も助けてくれなんて言ってねぇぞっ!」
それでも刀を振るう瞬間、僅かに緩む速度を見抜きそれに合わせ渾身の一撃を見舞おうとする彼女だったが、それは何時から居たか僧侶が編んだ結界に阻まれるとそれを機に佐祐李が距離を置けばその間、犬猿の仲なのか二人は唐突に内輪揉めを始めると
「この程度であれば、恐れるに足りません」
「ちっ、うぜぇな‥‥なら、これでどうだよっ!」
「馬鹿の一つ覚えだね、全く」
(「‥‥愉しんでいる? 余程の余裕がある、その理由は‥‥」)
その光景を前、息を整えては最後に大きく息を吐き出した後に瞳をすがめ呟きながら聖歌が地を蹴れば浪人も結界を飛び出し、激しい舞を披露する中で鼻を鳴らし呆れる僧侶の表情を僅かだが見た彼女は何か、不自然さを感じたが‥‥戦いの風は止まず、止むを得ず佐祐李は眼前の風をねめつけて今は立ち向かう。
「俺の狙いはヤツだ! お前なんかじゃあないんだよっ!!」
「宿す熱さだけで、敵を制する事は出来ない」
「なっ‥‥!」
その傍ら、黒門目指しかけるは雷電だったがその進路は冷淡な面持ち携える侍によって遮られると裂帛を持って彼を振り払うべく駆け抜け様、自身でも実感出来る程の会心の一閃を放つが直後に澄んだ音だけが響けば彼は先の一撃が流された事に目を見張り呻くと
「語るより先に、己が実力を把握しろ。何が出来て、何が出来ないのか。慢心なくとも、己を把握していない者は戦にて生き残る事、叶わず」
「足りない事は分かっている、だけど必要なら覚悟だって何だってしてやる! 今も、これからも! だからお前達はここで‥‥終わりだぁっ!」
その次に雷電が紡ぐべき言葉を察してか、彼は静かに剣気を纏いながら告げるが僅かに背後を見てから土の志士は力量の差が明らかにある侍へ、自身を叱咤するかの様に叫ぶとそれを詠唱の代わりに魔法編み上げれば途端、背後にある木々の枝を動かしては一斉に侍目掛け奔らせるも‥‥それは目に止まらぬ剣閃によって悉く薙ぎ払われる。
「‥‥なぁ親父、終わりにしようぜ」
「小次郎、か」
「何があったか今は聞かない、あんたを此処で捕まえた後にゆっくり話を聞かせて貰うから‥‥大人しく、縛に付いてくれ。アリアの為にも」
「‥‥だからこそ、引けないな」
がそれを隠れ蓑に一気に侍との距離を詰めたのは小次郎で、再び刀と刀がぶつかり合って生まれる澄んだ音が場に響く中、激情を堪え呟かれた息子の提案はしかし事も無げに十河士郎の意味深な答えによって一蹴されるも
「何だか分からんが、血を分けた親子で刃を交えるなんて‥‥悲し過ぎるだろうがっ! 目を覚ませよ!」
そのやり取りにて辛うじて分かる彼らの関係に、持つ優しさから更なる激情を持って雷電が叫べば僅かにこそ気圧され、狼狽露わにその身をたじろかせる士郎だったが‥‥すぐに己が表情に冷徹な面を被せ直すと小次郎を弾き飛ばし雷電へ迫った。
「やれやれ、見事に分断されてしまいましたか」
「‥‥‥」
「これは気が抜けない様ですが、さて」
その中、肝心の黒門と言えばその二組とは別の場所にて残る二人と対峙していた。
とは言え、黒門に導かれた様な気も覚えたミュールは彼の軽口には無言にて返すと瞳を細めたのは黒門。
珍しく真面目な面持ちにて二人を見据えるが、ミュールは既に腹を括っており罠だろうと構わず、突貫を開始する‥‥が
「ふんっ!」
「‥‥っ、こいつ」
「私の部下の中で一番に強力を誇る彼の一撃は如何でしたか」
「温いな」
此処で漸く、姿を見せていなかった一人が騎士は姿を現せばその巨躯に似合うだけの長大な剣を突っ込んできた剣士へ叩き込む。
しかしそれは寸で、力にて受け止め踏み止まれば微笑む黒門の問いへミュールは表情崩さず答えるも
「そうですか、それでは‥‥」
「全てを拒み、阻めよ結界!」
「流石と言うべきでしょうか、見透かされていましたか?」
「何となくだがな」
「‥‥やれやれ、思っていた以上に苦戦する事となりそうですねぇ」
直後、今度は黒門が背後より放たれた雷撃が彼目掛け空気を焦がしながら奔るが‥‥それが到達するより早く、彼を覆う様に構築された結界によって阻まれると顔を顰めた黒門に対し、その術者であるガイエルが素っ気無く返すと眉根を押さえ呟いた彼へ黒き僧侶は厳かに告げるのだった。
「苦戦? とんでもない‥‥その身、今宵こそ頂戴する」
そしてやがて夜は明ける、確かな決着を付けた上で。
●夜は明けて 〜宿る不安〜
一進一退の攻防は遅くまで続いたが、確かに一行は黒門らをその場に縫いとめていたからこそやがて表の騒動を静めた伊勢藩士達が駆け付ければ、多勢に無勢となった黒門らはあっさりとその両手を掲げた‥‥それまで繰り広げていた激戦とは裏腹に、いともあっさり。
「半ば力押し、と言う感こそあったけれどまぁ何とかなったな‥‥つっ!」
「お、済まんの」
「二人とも大丈夫〜?」
『‥‥な、何とか』
そして今、日が既に真頂点に至る頃‥‥漸く一息を付いた一行の中で一番に深手を負った雷電は柚那より治療の魔法を受けていたが、治ったばかりの傷口を荒々しく叩けば思わず叫ぶ志士に彼女は素直に詫びるが、その内心では不審な影に結局追い着く事が出来なかったからこそ荒れていた事には自身すら気付かず、だが次に女華姫に覗き込まれれば二人は揃って気付けになるだろう彼女の顔を見つめ頷く。
「しかし、腑に落ちないな」
「手放しでは喜べない所だが‥‥」
「今は至った結果に喜びましょう、予断こそ許さないのでしょうが」
だが伊勢の事情を深く知る者は戦い終わった今でも休む事なく、あっさりした幕切れにガイエルとミュールは黒門の真意に疑念抱くが、それを鑑みながらも佐祐李が二人を諭せば一先ず此処にて黒門との戦いは幕を下ろすのだった。
「所でお腹が空きました、何処かこの近くで美味しいお店はないですか」
「さっき食ったばかりだろ‥‥」
小腹を空かせた鳴が呑気に小次郎へ問う中で。
「‥‥一体、何があったって言うんだ」
そして踵を返し、適当な食事処に付いて検討する彼ではあったが‥‥未だ彼の心は目の前に広がる蒼天の空とは裏腹、晴れていなかった。
だが伊勢から見ればそれは瑣末な事であり、ともかく今まで手を焼かされていた黒門絶衣の捕縛は此処に成った。
彼が今まで取っていた行動とその真意は未だ謎のままだが、いずれ日の目を見るのは明らかだろう‥‥何事もなければ。
〜終幕〜