【伊勢鳴動】戦場跡地
|
■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 89 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:02月11日〜02月20日
リプレイ公開日:2007年02月16日
|
●オープニング
●戦い終わりて‥‥
伊勢、二見の海沿いに佇む斎宮は何時にも増してくたびれた姿で今日も冷たい風を浴びていた。
そんな中、斎王の間にある窓から覗く事が出来る光景を前にしてやはり冷たい風を浴びていたのは斎宮の主が斎王である、祥子内親王。
「見事にドロドロのグチョグチョ‥‥こりゃ、お掃除でもしなきゃいけない勢いねぇ」
先日の大規模な戦闘にて勝利こそ収めたものの、斎宮周辺に広がる平野には今も死兵やら巨大な甲殻類やらが死屍累々と折り重なっているからこそ、それを見つめては渋面を湛えぼやいていたが
「斎宮の補修はあるし、まだ警戒も続けた方が良さそうだし‥‥そうなるとあれ、どうしたらいいかしら?」
「片付けるべきだな。広範囲に及んでいるのはまだしも、残存している死兵がいないとは言い切れない。自衛出来る者を中心にして‥‥そうだな、冒険者にも手伝って貰えれば尚いいか」
「そうねぇ、ご尤も」
次には何時もの調子にて振り返らず、背後にいる存在へ相談してみるとすぐに返って来た男性の答えを聞きながら彼女は平野が一端を見据え、然程離れていない所に在る死者の山から死人憑きの一体を蠢きだす様をたまたま見付け、肩を竦めつつ同意すると直後。
「‥‥伊勢の方も黒門の捕縛が終わった所で当分は混乱が続くだろう。それならば藩のバックアップを何時でも出来る様に斎宮は早く体勢を整える事が今、斎宮が取るべき行動の筈。伊勢の事を考えるのなら」
「そうなると要石は‥‥」
「長い間ではないだろうが、暫くは自重した方がいいな。相手の出方を見る必要がある」
「むー」
自身の背後より光の礫が幾多放たれれば、それを打ち倒した後に響いた『彼』の言葉に斎王は先に紡いだ自身の言葉忘れ、思わず尋ねるもそれは冷静な『彼』によって窘められれば次には呻き声こそ上げて彼女。
「それじゃあギルドの方まで行って来てくれる? まぁ後で私も足を運ぶつもりだけど」
「構わない、元よりそのつもりだ」
「‥‥点数稼ぎ?」
「暫く世話になる身だからな、これ位ならするさ」
だがすぐに立ち直ると『彼』へ一つだけ願い出れば、それは果たして受諾され踵を返したレイ・ヴォルクスのその背へ最後、素直に引き受けてくれた事から斎王は笑顔を浮かべ尋ねるも‥‥彼は素っ気無く答えを返せばすぐに斎王の間を辞し、京都にある冒険者ギルドへ向かうのだった。
――――――――――――――――――――
依頼目的:斎宮近辺の大掃除!
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要、また防寒着も必須な時期。
それらは確実に準備しておく様に。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
対応NPC:祥子内親王(同道せず)
日数内訳:目的地まで六日(往復)、依頼実働期間は三日
――――――――――――――――――――
●リプレイ本文
●望む斎宮、臨む‥‥
京都の冒険者ギルドで最近、頻繁に依頼がある地で有名な伊勢は二見に今辿り着いたのは十人の冒険者達。
「へー、此処が斎宮かぁ〜。誰か来た事ある人は?」
「いや、初めてだが‥‥これは」
目の前に広がる斎宮を初めて目の当たりにした魔術師のクリス・メイヤー(eb3722)は暗雲垂れる空にも拘らず明るき声音にて斎宮を眺めてが皆へ問い掛けると、着流しの上に防寒着を羽織る浪人の佐治千方(ea8687)が固い声音にて彼の問いへ応じれば斎宮よりその正面に広がる平野を見回し、次に皆も彼に倣い視線をそちらへ移して暫く後に絶句する。
「‥‥想像を超えていた、な」
「いやいや、本当に何て言うかこれは」
「何処から手をつけたら良いものか‥‥凄まじい量でございまするな」
しかし直後、降りた沈黙は東雲八雲(eb8467)によってすぐ切り裂かれると次に神子岡葵(eb9829)が場に響かせた言葉の割、呆れながらも大仰におどけて見せれば続き雀尾嵐淡(ec0843)は今いる場所より遠くではあるが、今ではもう動かないだろう死兵の圧倒的な数を前に瞳をすがめ、呻くが
「弔って上げないといけませんが、これだけの人で果たして全てを救う事が出来るか‥‥厳しいですね」
「あぁ、けれど手がない訳ではありませんが‥‥斎王様には、処分中の私の所業をお見せする訳には行きませんね」
「‥‥もしかして」
「とにかく、死者は眠らせてあげないといけないよね」
僧兵である大神萌黄(ec1173)が紡いだ言葉は確かに皆の意思で、しかしその光景を前にすれば皆の意思は当初とは裏腹、やはり彼女が口にした様に挫けそうになるも‥‥彼女と同じく神を信奉する僧侶が雀尾煉淡(ec0844)が妙案を皆に囁くとそれを受けて一行は様々にこそ反応するもクリスが一先ず、この場を纏める形で言葉紡げば皆は揃い頷いて‥‥とりあえず必要な道具を借り受けるべく、斎宮へ向かうのだった。
●戦場跡地 〜死屍累々〜
さて、それより暫しの間を置いて斎宮前。
「準備はいいですか?」
「あぁ、何時でもいいぞ」
斎王より事前に許可も貰っていたので何事もなく手押し車や消火用の桶等の必要な道具を借りれば一行、防寒着を真先に着込み終えた萌黄が皆へ声を掛ければ千方が次に応じると皆もそれぞれに反応を返すが
「東雲さん‥‥は?」
「機能面に関しては問題無い筈‥‥ふむ、問題ない」
一人、返事がなかった八雲の方を見やって彼女‥‥防寒着にもなるマルチな着ぐるみ、まるごとおーがに身を包んでは掌を広げ、握り入念な確認を取っている彼の様を見て口をぽかんと開け放てば
「‥‥もしかして、天然さんですか?」
「そんな事はない」
「言い切る辺り、自覚がないと言うだけなのか‥‥うーん」
「まぁまぁ、それじゃあ張り切って行きましょう!」
萌黄は八雲へ面と向かって尋ねると、しかし平然と言い切る彼を訝り下から覗き込むがその光景を傍から見つめる皆を代表して葵が萌黄を宥めると、視線を斎宮よりその前に広がる平原見据えて意気揚々と声を上げれば一行は重苦しい空気を纏う平原を踏み締めた。
●
「しかし少々勘違いをしていたな」
「まぁ、依頼書も少し紛らわしかったからね〜」
「とは言え、だ。引き受けたからにはしっかり励むとするさ」
それより作業が始まればすぐ、平原を覆う様に転がり詰まれている死兵の山を前に千方は辺りを見回しながら頭を掻きぼやくと、彼に同意してクリスも頭上を見上げ頷くが‥‥その同意を得ても彼は一先ず、死体の山に向き直れば直後。
「それでは、始めますね。生命持たざる者よ‥‥その数、その動きの全てを私は神の御力借り看破せん」
凛と萌黄の声が響くと次いで、背筋を伸ばしたままに織られた詠唱はすぐに完成すればその効力を得て彼女。
「‥‥この山は大丈夫な様です」
「じゃあ行くよっ」
淡いながらも輝く白き光をその身に宿し、先ず手近な山を見据えては言うと葵の掛け声と同時に動き出した一行は先ず、念の為に死兵の群れから武具の取り外しを開始する。
「しかし思いの他、新しいな」
「そうだね、でもそうなると一体何処から来たんだろう?」
「恐らく、昨年に京都で起きた乱で非業の死を遂げられたのでしょう。この辺りでも少なからず小競り合い位はあったでしょうし」
「嫌な話だな‥‥」
すれば一つの死体が身に着けている鎧を見てはおーがさん‥‥じゃなくて八雲、雲から僅かに顔を覗かせている太陽の光を反射するそれを見たままボソリ、呟けば頷きながらも不思議そうな表情を浮かべ疑問を口にするクリスへ憶測ながらも筋が通る解説を萌黄がすれば、渋面を湛える嵐淡だったが
「ほらほら、そこのおーがさんご一行! キリキリ働く働く!」
「むぅ」
手よりも口が先ず動いている四人を咎めるべく葵が叫ぶと、矢面に立たされた八雲は呻きながらも彼女の言う通りだと理解して、きびきびと動き出すのだった。
●
その一方で千方は二人程を連れては葬送に相応しい場所を見繕い、良さげな場所の選別を終えては一行の元へ戻って来ると
「さて、一先ずこの程度集まれば十分か。それで佐治、場所は?」
「消火も考えればやはり海の間際がいいだろう。とは言え砂浜ではその痕跡が明確に残るだろうから、近くにある森との境目がいいと思う」
「そうだな」
その彼を見止めて声を掛ける煉淡、早速にその場所を尋ねれば返って来た答えに頷きながら印を組み始め、やがてとある呪文を発動すべく詠唱を織り紡ぐ。
「器しかあらざる者よ、今一度だけ仮初めの生を与えし我に付き従えよ‥‥」
やがて正確に織られたそれは果たして効果を成せば先ずは一つ、既に生を終えた躯がもぞりと蠢き、やがてゆっくりと起き上がる。
「‥‥それでは一先ず、森の方へ進め」
するとその光景に前に術者が煉淡は渋面こそ湛えながら‥‥だが僅かな間を置いて後、次々に他の躯へも仮初の命を宿していくとそれなりの数の死人が動き出した所で黒の僧侶は千方が見付けた葬送の場がある方を確かに指し示し、導く。
「うわぁ‥‥何て言うか、これは確かに」
「斎王様には見せたくないな」
「あぁ、死者を冒涜しているのと同義だからな‥‥」
すると丁度その折、遠くにある山を片付け終えた他の面子が戻ってくれば即座、唖然としつつも初めて目にする光景へ葵と八雲が呻けば厳しい表情はそのままに彼女らを見つめて煉淡は自身を戒めるべく囁くが
「分かってはいるが、それでも理想だけで事を進めるのは今の俺達には難しい事」
「だからと言って出来ないと決めて掛かり、諦めるのは違うが」
「それは無論だ、出来得る最善の策を講じてそれが駄目だったとしてもまだ打つ手があるのなら、な」
それでも次いで、目の前に広がる未だ多くの死兵が地に寝そべる現実故に再び口を開き自身へ言い聞かせる様にも言葉紡げばそれを聞いた千方が問い質すも彼は瞳に真摯な光を宿して浪人を見据え、頷くと
「それで、次は?」
「そうだな‥‥では少し休もうか。数が多い故にクリエイトアンデッドを常に使っていては俺の身が持たん」
引き締まる場の空気の中、それに厭わず尋ねた萌黄の問いへ煉淡は改めて辺りを見回せば、未だ多く残る様々な躯を目にして僅かに惑うもすぐに言い切れば物言わぬそれの一つが眼開いている事に気付き、瞼を伏せては囁くのだった。
「もう少しだけ、待ってくれよ‥‥架せられた鎖は必ず、断ち切る」
●戦場跡地 〜死兵流浪〜
とは言え一行、折り重なる死体から武具を外してはある程度に纏めこそしたが未だ本格的には手を付けずにいた。
その理由は一つの懸念事項があったからこそで、暫くしてそれは皆の目に見える形となって現れる。
「やはり、潜んでいたか」
「そりゃああれだけあるんだもの、紛れる事は造作もないわよね」
「そうだな」
萌黄が常に張り巡らせていたデティクトアンデッドにて幾つかの反応を捉えると同時、行進のみ続ける煉淡が操る死兵に反応してか山の中から這い出て来たのは未だ生き永らえていた邪なる死兵の姿で、それを目に比較的最近に残された足跡等からそれが潜んでいる場所を言い当てた千方が瞳すがめると、さも当然の様に言う葵の意見に同意すれば果たして一行は駆け出せば‥‥機敏に動く冒険者を見止めた死兵達は目標を皆に変えて動き出す。
「‥‥とりあえず、この辺りでいいかな?」
「そうだな、問題あるまい」
そして暫しの駆けっこの後、先を走っていたクリスがその歩を止めると頷いて千方が太刀抜けば、皆も倣いそれぞれが得物を手にするも
「でも、可哀想だよね」
「ん?」
「‥‥残された想いがその身、死して尚も突き動かすからか」
ボソリ、唐突に囁いた魔術師の言葉は揺らめき一行へ向かって来る死兵に視線を向けたままの浪人には聞き取れず首を傾げられるも、相変わらずな格好の八雲には言い当てられるとクリスは神妙な面持ちにて頷くが
「だからこそ、断たなければならない。情を持つからこそ、確実に」
「優しさだけで魂は決して救われない、その気持ちこそ確かに持つべきだが‥‥それだけでは足りないから」
「‥‥そうだね」
眼差しに湛える光はそのままに、振り返らずに太刀を掲げる千方が言い切れば続き嵐淡も生と死を理解する僧兵だからこそ彼に同意して言葉紡げば自身、納得してクリスが漸く顔を上げると同時。
「そこっ、しんみりしていないっ! 意外に数が多いよ!」
「気を引き締めて参りましょう」
詠唱織り紡いでは先手に呪文を放った葵と萌黄に叱咤されれば男性陣、確かに彼女らが言う様に思いの他多い死兵を目の当たりに、しかし怯まずねめつければ静かに紡がれた萌黄の祈りが掻き消えると共に一行は地を蹴った。
「せめて、御国では安らかに‥‥」
皆も同じ想いだったからこそ、その祈りを、願いを体現すべく。
●その思惑は果たして
やがて戦闘が無事に終われば一行は丸一日を掛けて潜んでいる死兵を探し、根絶するとそれより本格的に平野の掃除に取り掛かる事、やはり一日。
「わぁ〜、綺麗に片付いたね」
感嘆の声を上げる葵が見据えるその先に広がるのは、所々こそ焼け爛れているが確かに以前と同じく広がる平原で、一行が引き受けた依頼は此処に果たされたと言っても問題ないだろう。
後に残されているのは‥‥弔う事だけ。
「‥‥おいらはこの国の宗教の事は良く分からないけど、セーラ様の慈愛もこの人達にもたらせる事を祈りたいよ」
「そうですね、国は違えど神の願いはきっと一緒の筈ですから‥‥大丈夫ですよ」
辺りに置かれている数多き死兵から漂う腐臭にしかし一行は顔を顰めず、黙祷を捧げると場に沈黙宿るが‥‥やがてクリスが笑顔を浮かべ払うと、萌黄も力強く頷きながら煉淡が使役した最後の死人を魔法にて浄化し、土へと還せば
「さて、じゃあそろそろいいか?」
「最早枷は解かれた、今こそ天に地に還る時‥‥」
「今より先を、必ず平穏な世にすると誓おう」
「‥‥だから、安らかにお眠り下さい」
手に持つたいまつを掲げて問う八雲へ皆は頷くと、神に仕える者達が紡ぐ手向けの言葉響く中で彼は油に塗れた器だけの存在へ、火を放った。
「何時か、違う形で逢えるといいな‥‥」
それより一行、最後まで燃え盛る火の中で天へ還って行く者達を見守れば今は煙だけ上げるそれを念入りに消火する、その中。
「因みに今回の事はご内密に願います」
「あぁ、分かってい‥‥る」
手早く場を片付けながら皆を見回して煉淡、良心こそ咎めはしたが色々な意味でこの事が周知の事実になるのを避けるべく念を押せば、相変わらずにおーがな格好の八雲が応じるも‥‥視界の片隅に見慣れぬ人影を捉えるとその最後が淀めば
「ざーんねーんでーしたー」
「‥‥なっ」
次に響いた声は一行の中の誰の者でもない声で、慌て声がした方を見て煉淡‥‥瞳に納まるその装いに佇まいから何時から背後にいたか、声の主が斎王こと祥子内親王である事に即座気付くと常に落ち着き払っている彼でも僅か、驚きの声を上げたのは当然か。
「生憎と斎宮は見晴らし良くてね、気晴らしに良く斎宮の間にある窓からこの辺りを見ているんだな。あ、でも言っておくけど皆を監視していた訳じゃなく、たまたま見ちゃったんだけどね。で折角だから労いに来たんだけど‥‥驚かせちゃったわね」
「‥‥それで、斎王様は‥‥」
そんな彼の様子を楽しげに見つめつつ、斎王は肩を揺すりながら此処へ至るまでの理由を驚く皆の顔を見回しながら語れば、未だ固まったままの煉淡に代わり嵐淡が尋ねると彼女。
「まぁこれだけの人手だし、止むを得ないわよね。確かにその手段はちょーっとあれだけど代わりにちゃんと弔って上げたんでしょ? それなら今回は咎めたりしないわ、他の人も『偶然に』見ていないみたいだし」
「‥‥ありがとうございます」
「いえいえ、まだまだ皆はこれからだから今の内に沢山経験積んで貰えればそれでいいわよ。と言う事でお疲れ様」
笑顔にてあっけらかんと言い放てば頭を垂れる八雲に尚微笑んで斎王が言葉紡ぐと、途端脱力する一行だったが
「あ、斎王様斎王様! 斎宮の見学をしたいんですけどいいですかっ?!」
「仕事も終わったし、問題ないわよ。尤も、まだ斎宮の中はごちゃごちゃしているけどそれでもいい?」
「おいらみたいな他国の人間にとって、こんな機会は滅多に無いし色々と見聞を重ねたいんです」
クリスだけは声高らかに斎王へと問えば、お世辞にも人を迎え入れられる状態ではない事に斎王が肩を竦めつつも応じるとその意気込みを露わにする彼へ彼女も顔を綻ばせれば
「よっし、それじゃあ皆もどう? 赤福にお茶位は出すわよ」
皆を見回して今度は斎王が皆へ尋ねると、それに対する一行は断わる理由無く彼女の提案に応じるのだった。
こうして、伊勢の一騒動もこれにて一応の幕引きとなる‥‥が未だ多くの謎を孕んだままである伊勢に吹く風はこれからむしろ強くなる事を今はまだ誰もが知らずにいた。
〜終幕〜