【何でもござれ】暇持て余す、雪女

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 97 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月15日〜02月25日

リプレイ公開日:2007年02月23日

●オープニング

●伊勢某所、とある山の頂にて
 静かに降る雪だけが微かに音を立て、地表に降り積もる静かなる領域の只中。
 目の前にて頭を垂れる伊勢藩士の一人を優雅に佇みながらもねめつけるのは先日に昨年、この山にて一騒動を起こした雪女。
「妾の暇を潰してくれる段取りはまだかの?」
「はぁ、何分色々と慌しくて‥‥」
 今日も変わらず単身で来た伊勢藩士の一人へ苛立たしさを露わに、厳しい声音にて詰め寄れば彼は辺りの寒さ故か、それとも雪女の剣幕故にか身震いしながら声音を萎ませ答えると
「何じゃ、まだか‥‥妾の折衷案を受け止めた割、行動は鈍い様じゃの」
「はぁ、申し訳ありません‥‥」
「まぁ構わんがな、そちらが動かぬのであれば妾が義理堅く約束を守る必要もある筈なく」
 それを聞いて彼女は嘆息漏らせば、藩士は更に身を縮め詫びるが‥‥その煮え切らない反応を前に彼女はまなじり上げると鼻を鳴らしながら立ち上がり、彼にまで歩み寄ればその頬を冷たき掌にて撫で微笑み言えば
「ち、一寸待って下さい! 今すぐに段取りを整えますので‥‥」
「‥‥言っておくが、これが最後じゃぞ?」
「は、はいっ」
「ならばはよう、先ずは態度で示してみい!」
 伊勢藩士は再び身を震わせればすぐに飛び退り、狼狽しながらも雪女へ再三の約束をこぎつければ次には彼女の言う通りに脱兎の如く、その場を後にするのだった。
「‥‥全く、妾も焼きが回ったものじゃ」
 すればその背を見送りながら彼女、肩を竦めては自嘲の笑みを端正な表情に宿せば踵を返し、自身の寝床である洞穴へと戻って行くのだった。

 と言う事で京都の冒険者ギルド。
「巡り巡って、と言う事か‥‥まぁ当然と言えば当然か」
 件の話を聞いて嘆息を漏らしていたのはギルド員の青年ではあったが、元はと言えば冒険者が引き受けて来た話であり、報告を受けた時点で現状の伊勢の情勢を考えるとこうなるのではないかと予想こそしていたが、やはりいざとなればある種厄介なその依頼には嘆息を漏らさずにはいられなかったが
「一先ず、詳細に付いて教えて貰いたいのだが」
「特にこれをやってくれ、と言った要望はない。故に好きにして貰って構わないだろう、尤も雪華を満足させられる様に、が条件になるが」
「雪華?」
「あぁ、雪女の名だ」
「‥‥とは言え、だ。どうすればいいのか、抽象的にも何をすべきか見えないのだが」
「そうだな‥‥随分と古い言い回しから考えると結構に長い年月を生きているだろう事は容易に察する事が出来る。それならば‥‥」
「古き頃を懐かしませるか、新しきを見て貰うか」
「また報告を聞く限り、下界には下りていない様だし無難に行くならそれが妥当だろう」
 だからこそ、忙しいにも拘らず冒険者ギルドにまで足を運んだ伊勢藩主が藤堂守也へ問えば返って来た答えの一端に立て続け首を傾げ問うと、それには納得する彼ではあったが‥‥次には肝要な、事例もない依頼の方向性に付いて尋ねると藩主も戸惑いながらではあったが部下より聞いた報告を交えつつ、冒険者に出来るだろう一例を示すと変わらず厳しい表情を浮かべたままの青年ではあったが、最後にやはり嘆息を漏らしながら守也を見つめ直すと‥‥頷いた後、間違いなく約束するのだった。
「まぁ分かった、伊勢藩も今は忙しいだろう事は知っているし元は冒険者が引き受けて来た話なれば断る理由は当方にない。至急、人を揃えよう」

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 依頼目的:雪女、雪華の暇を潰せ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要、また防寒着も必須な時期。
 それらは確実に準備しておく様に。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 対応NPC:藤堂守也(同道せず)
 日数内訳:目的地まで五日(往復)、依頼実働期間も五日。
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●今回の参加者

 ea0029 沖田 光(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1057 氷雨 鳳(37歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1569 大宗院 鳴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2562 クロウ・ブラックフェザー(28歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea4236 神楽 龍影(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ea8214 潤 美夏(23歳・♀・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 eb9999 大谷 由紀(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●雪山にて
「ようやっと来たか‥‥待ちくたびれたぞ」
「悪いな、色々とあってさ」
 伊勢藩主より聞いた、雪華が住まう洞窟へと一行が至ると苛立たしさを露わにしながらも皆を出迎える彼女に、手を掲げてはクロウ・ブラックフェザー(ea2562)が詫びながら応じると
「で、集まったのが主らかえ?」
「私の名前は新撰組十番隊隊士、氷雨鳳‥‥これから数日間、雪華殿とご一緒する事になった。宜しく頼む」
「雪女さん、と言う事は国津神様ですね。建御雷之男神に仕える巫女の大宗院鳴です、宜しくお願いします」
「ふん、多少の暇潰しにはなりそうな面子が集まったの」
「至極、恐悦の極みで」
 雪女は一行を見回して問えば、それに先ず応じる氷雨鳳(ea1057)と大宗院鳴(ea1569)を見つめれば彼女は鼻を鳴らすも‥‥それに対し、ガイエル・サンドゥーラ(ea8088)が皮肉とも受け止められかねない礼を紡げば雪華は豪胆な彼女の振る舞いに思わず嗤うと一先ずの接触は成功と確信する一行。
「所で何処か、行ってみたい所はありますか?」
 と言う事で間を置かずに沖田光(ea0029)が早速彼女の希望を尋ねれば雪華。
「妾はこの地以外、殆ど記憶にないが故に主らに任せるわ」
「なら今の伊勢がどうなってるか、見てみるのも面白いと思うがそれでどうだ?」
「ふむ、人里に下りるか‥‥まぁ良いじゃろう」
「では、その格好ではいささか目立つ故に着替えて貰えればと思う」
「‥‥それにか」
 思案する事無く、一行に背を向けては言うとその彼女へ一つの提案をぶつけるクロウへやはりすぐに答えこそ返すも、先より声のトーンを下げながらも彼女が同意すれば次に鳳の声が響くと振り返って雪華は浪人が掲げる着物を見ては嘆息こそ漏らすが
「まぁ此処でとは言わん、私達が耐えられないのでな。故にそれまでの間に心の準備はしておいてくれ」
「その格好だと、街中では変に目立ちますからね」
「‥‥全く、暇を潰すのも一苦労じゃの」
 何処となく雰囲気が和らいだ彼女を鳳と大谷由紀(eb9999)が揃い宥めれば、頭を振っては呟いた雪女が再びの嘆息が辺りに木霊すると一行は顔を綻ばせるのだった。
「何が可笑しいのじゃ!」
「いえ、至極その通りの事を仰られたので思わずですわ」
 その一行の反応に際し、憤慨する雪華の様子に肩を震わせては潤美夏(ea8214)が応えるその中でも。

●街に下りては
「雪華殿は綺麗だな‥‥羨ましい限りだ」
「世辞を言っても、何も出はせんぞ」
「素直じゃありません事」
 簡素な着物のみ羽織る雪華を着替えさせるべく女性陣は伊勢の町に下りてすぐ、予め拝借していた家屋の一室にて盛り上がる一方‥‥男性陣はと言えば無論、女性達が着替え終わるのをただ只管に待っていたが、その中で着替えが始まってより四六時中首を傾げていた光が唐突に疑問を口にする。
「昔から不思議なんですが、女性の仕度ってどうしてこんなにも時間が掛かるのでしょう? 僕には吸血鬼の生態の方が分かり易くて‥‥」
「おいおい、洒落でも余り面白くないぜ」
「そうですね、失礼しました」
「まぁでも、確かになぁ。そこんとこは良くわかんねぇな」
 とそれに応じるクロウ、第一声では彼を窘めこそするも直後に響いた詫びの後に同意すれば首を傾げて二人、暫しの間を置いた後に声を重ねるのだった。
『とりあえず、早く出て来ないかな‥‥』

 それよりしっかり一刻を経て、漸く着替え終えた雪華と女性陣が出て来れば
「何か分からない事、気に食わない事が有ったら、まず俺達に言ってくれ。何とかするから」
「‥‥主らの手を借りるまでもないわ、安心せい」
「だといいんだけど」
 強張っている背筋を伸ばし立ち上がってはクロウが雪華へ釘を刺すも、それに彼女は気丈に応じると苦笑を湛えながらも彼は先とは全く違う、艶やかな立ち姿を見せる雪女に背を向ければその眼前、唐突に一本の傘が飛び込んで来る。
「‥‥ん?」
「こう言うのは、殿方のお仕事ですわよね?」
 首を傾げてクロウは視線を傘の先端からその持ち手へと移し‥‥漸く美夏の姿を捉えると同時、それを押し付けられれば返事をする暇与えずに彼女は踵を返して皆へ呼びかけた。
「さ、それでは参りますわよ。準備は‥‥まだでしょうから、市街をグルリ回ってからですわね」

 一方その頃、神楽龍影(ea4236)はと言えば単身にて雪華を迎え入れる準備を行なっていた。
 材料の手配に借り受ける小料理屋が座敷の確認や、ガイエルの打診もあって忙しい合間を縫って来て貰った伊勢藩主が藤堂守也と予算の摺り合わせ等、細かい所までを確実に。
 そして漸く一息付ける様になれば彼は早くやって来た鳴に美夏が台所にて勤しむ中、一服だけと言う事で付き合う伊勢藩主へ何時もとは違う言葉遣いにて問いかけた。
「初対面にていきなり失礼かと思いますが、先に起きた長州の乱‥‥どう見ております?」
「‥‥さて、何と言ったらいいか。長州藩を挫くだけで事が済めばいいとは先ず思っている」
「まだ何かあると?」
 その問いとは先日起きた、長州藩が乱の事に付いてで今後深く関わるだろうそれを見越しての龍影が質問に対して伊勢藩主はいきなりの問いに渋面こそ浮かべるが自身抱く、率直な考えを口にすれば小面を付けては表情の読み取れない志士が再びの問いに頷く守也。
「何となく、はっきり言って勘だがな‥‥まぁ何にせよ、討伐の機が来れば伊勢藩としては全力を持って動くつもりだ。斎王様がやる気でな」
「鏡の奪還やね」
「本人も御所に本物の鏡が置かれているとはその時まで知らなかったと言う話だ、それであの性格なら当然だろう」
「龍影殿、準備は整っただろうか?」
 断言、と言うにはその表情は余り自信なさげではあったが確かな事を一つだけ言えば龍影の的を射た発言には、苦笑を湛えつつ余計な一言を漏らした丁度その時‥‥志士の名を呼ぶガイエルの声が響くと話は此処まで。
「ふむ、どうやら来た様だな。それでは済まないが後は任せた」
 一行の来訪と同時、藩主は立ち上がれば茶碗を置くと詫びを残してその場を辞した。

●催されるは
 さて、そんな話があった事は他の面々知らずとも刻が進めば雪華の為にやるべき事に追われる一行。
「‥‥これは何じゃ?」
「本来、人が夏に暑さ凌ぎで出す料理ですわね。ただの汁かけ飯に見えますが、身をほぐした魚、煎った胡麻、焼き味噌で味を整え、季節の野菜と豆腐でさっぱりと仕上げましたわ」
「ふん」
「まぁ騙されたと思って食してみて下さいな」
 市街をあちこちと見て回っただろうその彼女を先ずは労うべく、美夏が一つの椀を差し出せば覗き込んでは初めて見るそれを訝る様な視線にて見つめながら問うと、毒舌家で有名な彼女の口から至極全うな回答を頂けばしかし、そんな事は知らないながらも鼻を鳴らす雪華に小さな毒舌家は皆へ同じ椀を振舞いながら勧めるも
「‥‥因みにこれは冷たくないよね?」
「勿論ですわ、ご安心下さい」
 雪華の前に置かれた椀と、自らの前に置かれている椀を見比べながら皆を代表して問う由紀に美夏は珍しく笑顔を湛え断言すれば、暫しの間の後に揃い彼女が見守る中にて椀に箸を付ける皆。
「へぇ」
「‥‥見た目の割、高尚なものを」
 次には様々ではあったが皆、感嘆の声を上げれば雪華を見つめる美夏は遅れて彼女から返って来た反応を前にすれば頭を垂れると、その後を継いだのは鳳。
「さて、折角なので私からは横笛の演奏をしたいと思う。雪華殿に気に入って貰えるか分からないが」
 やおら立ち上がり言えば、肯定も否定もない彼女の反応を一先ず良しと見て彼女は横笛掲げると軽やかな音色が響く中、雪華が正面に見据える襖が僅かな音だけ立て開かれると狐面を付け女性者の着物を身に纏った龍影が現れ、おどけた風に小首を傾げれば鳳が奏でる笛の音色に合わせて彼の舞が始まった。

「良くは分からんかったが‥‥中々に見られた物じゃった、ご苦労」
「ありがとうございます」
 そして滑稽調の舞が終わると頭を垂れては龍影が座敷に戻って来れば雪華の感想が響く中で今度は話に花を咲かせようと試みる一行‥‥だったが、暑いと言った雪華の為にガイエルが施した氷結の領域の効果から雰囲気を和らげている彼女とは裏腹に口元が震える一行は中々切り出せずにいた。
 範囲や効果の調整が出来ない故に一行の反応は当然であったが
「そうそう、暇な時用に本も持って来ました。わたくしには難しくて読めないので誰か読んで頂けませんか?」
 それでも鳴が何とか口を開くと、掲げられた一冊の怪しげな色合いの本を見ては雪女。
「本、とな‥‥ふむ。貸してみい」
「‥‥あ! 一寸それ待った!」
 興味を覚えたのか、それを早く巫女より借り受けると、その本が何か気付いたクロウが遅れて静止するも時既に遅し、それは聞かずに雪女は目を通して暫し。
「ななな、何と破廉恥な!」
「ぷぎゃ」
 見る見る内に頬を紅潮させれば遂には彼女、照れ隠しにか‥‥それとも本当に憤慨してか本をその持ち主が顔へ叩き付けて返せば、可愛らしい悲鳴を上げて倒れるのは鳴。
 つかこの本、常人では読めない筈なのだが‥‥流石は雪女、と言うべきか。
「こんな事を聞くのはあれなんだが、雪女にも好みの男性のタイプとかあるのかな?」
「何を藪から棒に‥‥」
 だがそんな事は気にせず一行、どの様な形であれ機を得た事から先の出来事から続ける様に鳳が問い掛ければ彼女、息を荒げながらも瞳をすがめ彼女を見据えるも
「此処にはおらんな」
 先の反応は照れ隠しだったらしく落ち着いた表情を取り戻した彼女、数少ない男性陣を見回せばしかし、素っ気無く答えを返す雪女に彼らは何となくだがうな垂れると女性陣はそれを肴にして尚、盛り上がった。

「こんな事もあろうかと調べておいたんですよ。この間、依頼の最中に食べましたから味に付いては折り紙付きです!」
 それより一行、小料理屋を後にすると今度は光の案内にて伊勢でも有名な甘味処が一軒に場を代えれば今の時期だけ食す事が出来る赤福善哉の素晴らしさを力説する彼に頷きながら頬張る皆。
「もふもふ‥‥やっぱり、美味しいお菓子を食べるのは楽しいですよね」
「とは言え、さっきしっかり食べはりましたが‥‥」
「別腹ですよ、別腹」
 先に座敷で自身拵えたかき氷を食しながら、それでも平然と三杯目を頼む鳴の笑顔を見ながら龍影は一杯目の半分にて箸を止めながら呟くも、由紀が漏らした言葉には納得して苦笑を浮かべる。
「そうじゃの」
 すればその次の間、然程の間隔を置かずに紡がれた雪女の同意には皆驚くと一斉に視線をそちらへ向ければ彼女。
「何じゃ、その意外そうな顔は」
「案外に普通なんですね、って思って」
「‥‥ふん」
 不満げな表情を露わに一行へ問えば、艶っぽい笑みを浮かべて由紀がその意を確かに示せば彼女はやはり鼻こそ鳴らすも
「しかしまだ、少々熱いの‥‥済まんが凍らせてくれるかの?」
「分かった」
 余程気に入ったのか、皆が持つものより冷たいとは言えまだ多少熱い器をガイエルに差し出し言えば冷気を掌に宿すべく巻物を開き唱えると、それに気付いた店主の訝しげな視線が一行に注がれればそれを最初に気付いたクロウは密かに立ち上がり、小声にて彼へ詫びる。
「‥‥あー、すいません。うちのお嬢さん、世間知らずで‥‥ぶっ」
「しっかり聞こえておるが‥‥何がどうしたとその口は言っておるのじゃ?」
 直後、手近にあった空の器を放る雪華が一撃を受けて彼は噴くと‥‥それでも最後に店主へこう告げるのだった。
「‥‥空いている器は投げて返すものだと思っている位の筋金入りで‥‥」
 無論、その後に盛大な反撃を彼女から受けたのは言うまでもない。

●別れ際
 しかし伊勢に滞在出来る時間は多くなく、やがて一行と雪華は山へと戻るべく来た道を引き返す、その道中。
「昔とは色々変わったかも知れないけど、今もそんな悪くないだろ?」
「そうやもな」
「まぁ例えばとして十年‥‥人にとっては十分長い年月ですわね。それだけの間に変われるのも人の良さだとは思いますわね。ただ単に落ち着いてないだけ、とも言えますけれども」
「面白い事を言いおる、が確かにそうじゃな」
「正直、久々の下界を見てどう思った?」
「‥‥羨ましいの、変わる事が出来ると言うのは」
 黙してただ歩くだけの彼女に声をかけたクロウに対して雪華の答えは至極あっさりとしたものだったが、それ故に雪女が抱いている感慨を察して美夏が続き言葉投げ掛けると同意して彼女はガイエルの問いに足を止めると自身が住まいである洞の前にて立ち止まったまま、肩を竦める‥‥それは自嘲か、本心か。
「そう言えばこれはどうしたものか?」
「その着物とかんざしは雪華殿に差し上げよう。これが最後な訳でないし、また暇になったらこっちに来ると良い」
「‥‥さてな」
「その時は俺で良けりゃ付き合うぜ」
「知らんっ!」
 しかしそれを考える暇は一行に与えず雪華は歩を進めるしかし、借りていた着物やらかんざしの事を思い出し振り返るが笑顔を湛え言う鳳に礼は言わず、確かな答えも返さずに鼻を鳴らし笑う彼女は次いで響いたクロウの誘いは断固として拒否すれば、うな垂れる彼の様子とは裏腹に他の皆が笑顔浮かべると
「今日は楽しかった。本心から言おう、ありがとう‥‥」
「それではまた、何処かでお逢いしましょう」
 その中で響いた鳳と光の感謝と再会の言葉には腕だけ掲げ、応じて姿を洞の中へ消した。
「‥‥まぁ、良い暇潰しとなったかものぅ」

「やっぱり、暖かいおでんは美味しいですね」
「つか、やっぱ寒かったなぁ」
 そして山より降りては一行、伊勢藩主への報告にと向かえば彼は皆を労うべく暖かい座敷にて鳴が所望したおでんを振舞うと、しみじみとそんな事を実感する彼女だったが多少の温度変化には流石戸惑い、咽れば
「とりあえず、良い方向に転びそうで何よりですわ」
「全くだな、これで一通りの騒動は終いか?」
「まぁな‥‥とは言え長州藩の事もあれば未だ掴めない事も多い故に一応、としか言えないが」
 皆もやはり苦戦する中、卵を割り崩しながら美夏が漸く安堵の溜息を漏らすと同意してガイエルも頷きながら藩主へ問うがしかし、やる事は未だに多いと言って彼は相変わらずの厳しげな表情のまま、半分に裂いた大根を頬張るも
「でも今は、これでいいと思いますよ。またその時になったら、私達も手伝いますからね」
「‥‥済まんな」
 次に響いた光の応援を聞いて守也、一様に皆が頷く様を見届けると大根をしっかりと飲み込んだ後、頭を垂れるのだった。

 これにて伊勢で残されていた課題はその全てを消化するもそれは一時的なもので、むしろ難題は完全な解決がなされていないからこそ、これからが正念場とも言えよう。
 そして雪華が今後の動向も気になるが、それはまた別な話になるかも知れない事を添えて一先ずこの話は締め括ろう。

 〜終幕?〜