●リプレイ本文
●祭を前に 〜鹿の角ゲットだぜ!〜
「‥‥と言う事で、鹿は可能な限り殺さずに角だけを確保して下さい」
鹿が住む山を目の前に、山小屋の中で経験豊富な猟師達から鹿の狩り方について話を聞く七人。
「それじゃあ手筈通り、宜しく頼む」
「よお―っしゃあ!いっくぞ――――!!」
鹿の角確保に向け、狩猟についてそれなりに知識がある尾花満(ea5322)が一同を見回すと、余りある元気を気合の掛け声に変えて崔煉華(ea3994)が叫び猟師達と一緒に山へと雪崩れ込んで行く。
山に入って暫く、猟師と冒険者達はある程度の人数に分かれ散開する。
そんな中、鹿狩りとは別の方に意識が行っているのはトオヤ・サカキ(ea1706)。
彼のいる場所から見える夜にチョンチョンが出ると言う町外れの広場を見渡す為、クレアボアシンスを唱えるも慣れない土地故その視界は霞んでいた。
「やはりアテにはならないか」
苦笑を浮かべて彼が呟いた時、背後で草が鳴り鹿が駆け出すのを振り返って彼がまだぼやける視界で確認すると、慌てて鹿が逃げていく方向へ叫んだ。
「そっちに一匹行ったー!」
彼の声を聞いて反応したのは、華麗な顔立ちのノース・ウィル(ea2269)。
彼女は視界に鹿を捕らえると尾花と崔の指示通りの場所に追いこむ為、タイミングよくその前に立ちはだかる。
彼女の行動に気付くと鹿は再び慌て、コースを変え駆け出すとノースも静かに
「こっちで良かったか‥?」
やや心配そうな面持ちを浮かべながらもその後を追う。
「ドッペルゲンガーである僕が依頼を受ける事になるなんてね。ま、影だろうがなんだろうが僕は僕。自由にやらせてもらうさ。魔法の使えない欠陥品の体でどこまでやれるか試してやる」
誰にともなく、自分に言い聞かせるかの様に呟いたサヤ・シェルナーグ(ea2195)の視界に鹿が飛び込み、遅れてその後ろからノースも飛び出して来た。
ノースの「向こうに!」の声に従い、両手に持つナイフを振るい鹿を罠が仕掛けられている方へと追いやると暫く、鹿は木々の間にある網に絡め取られそのスピードを落とす。
今、ここにはいないラス・バゼット(ea5795)から借りた漁師セットにある投網を使っての発想的な作戦が成功すると、直後木々の隙間を縫って飛ぶ崔の投げ縄が何とか鹿の角へと引っかかる。
駆けつけて来た一同が角から縄が抜けない内に手近な木に押さえつけると、それを持った彼女は投げ縄の余りで鹿を木々に固定する。
「まずはいっぴーき!」
「んじゃ、角を切り落とすな」
「だ、大丈夫?」
崔の雄叫びに動じず、スタール・シギスマンド(ea0778)は言うなり、ハラハラと見守る姉のユージ・シギスマンド(ea0765)の前で猟師達が貸してくれた鋸を使って角を切り落とすと、まずは一本目の角を確保する。
「中々やるねぇ、こりゃ俺達も負けてられないぞっと」
その様子を眺めていた猟師の賞賛に、彼らは顔を見合わせると
「よし、この調子で次に行こうか」
意気揚々と鹿を絡めていた網とロープを解いて山に放ちながら言う尾花の言葉に、七人はまた山を駆けるのだった。
「チョンチョン駆除が終わる迄、夜は現場に近づかぬ様に村人達へ徹底をお願いする」
その頃、ウィザードらしからぬ筋肉質な体を揺すってラス・バゼット(ea5795)は鹿の角を取りに行った七人と別れて一人、村長の家に行き草刈の道具を借りたついでにそれだけ断りを入れ、村外れの広場に向かう。
何をするかと言えば灯りとなる篝火を焚く場所を確保する為で下手な場所で焚いては周囲の草木に延焼する恐れを考えての、その体躯からは想像がつかない細かい配慮故の単独行動だった。
「‥‥やれやれ」
そう呟きながらもラスは黙々と草刈を続けるのだった。
それから暫く、夕日が沈む頃になって草刈を終えてその場で一休みをしていたラスの前に山から結構な数の角を抱えて降りて来た七人と猟師達を出迎えると、他の七人と合流して猟師達を見送りながら、今度は皆でチョンチョンを迎え撃つ準備を始めた。
●祭を前に 〜チョンチョン退治〜
夜を迎え、漆黒の空に月と星が天空に瞬く。
そんな夜空の下、日中一人で草刈をしていたラスに鹿狩りの様子を皆が話していた時、いくつか準備した篝火を絶やさない様留意していたサヤと鹿狩りの話を聞きながらも辺りを注意深く警戒していたラスの目にそれらが飛び込んで来た。
「来たよ、十‥三匹」
サヤはチョンチョンの数を冷静に把握して皆に伝える中、一同は行動を開始する。
そんな彼らを気にする事無くチョンチョン達は暫く何もせずにいつもと変わらず辺りを羽ばたいていたが、崔とノースの牽制にモンスターとしての本能を徐々に目覚めさせる。
やがてそれは覚醒するも
「ラスッ、東南の篝火を目標に!」
僅かに早かったのは崔の指示。
「よし‥‥荒れ狂え、氷雪の刃」
その牽制に一所に集められたチョンチョンの固まる方向を指示通り、ラスは狙いを定め二人がアイスブリザードの効果範囲内を外れると同時にそれを解き放って薙ぎ払う。
だが、それだけでは致命傷には僅かながら足りず今度こそ一同目掛けて襲い掛かってくるチョンチョンだったが既にその動きは鈍く、それを見逃す事なくスタールに尾花と崔は群れに飛び込むと殲滅を開始した。
「‥どうも最近、チョンチョンづいておるな」
最近、チョンチョンと戦闘経験がある尾花が苦笑を浮かべて呟くとスタールも賛同して静かに頷きながら、冴える刃を振るって的確に羽を切り裂きその動きを封じる。
一方、崔はその動きに初めこそ戸惑うも
「吹っ飛べー!」
気合と己の感覚だけで拳を振るって大雑把なながらも蹴散らす。
「皆さん、背後にも気をつけて下さい」
戦う面子のサポートを、と消えかける篝火に油を投げ込みながら群れの中で奮戦する戦士達に警告するサヤの声。
それより早く前衛の三人のバックを取る数匹のチョンチョンだったが、
「この程度なら」
「当たれば儲け、っと」
一拍遅れてフォローに入るノースの剣と、トオヤが投げる縄にそれが絡め取られた直後続くナイフの一閃にその身を地に落とす。
初撃が決まった時点で決した勝敗はそのまま維持され、程無くしてチョンチョンの群れを殲滅した。
「しかしまた、なんでこいつらは此処に何する事無く現れたんだ?」
戦闘を終え、さも疑問だと言わんばかりのスタールの問いに邪魔にならない位置で待機していた双子の姉が駆けつけるとこう答えた。
「季節の変わり目を惜しんで、じゃないかな?」
ないない、と言う面持ちで首を振る一同にユージは不服そうな表情を浮かべ、続けて微笑むと釣られて皆も笑うのだった。
こうして、祭の準備は整った。
●秋を迎えて
九月四日の後の日曜日、更にその翌月曜日。
今年はその日が九月十三日、その日をこの村では「祭の月曜日」と決め呼んでいる。
「祭の月曜日」はその名の通り朝早くから夜遅くまで祭が開かれ、日中はこれから一年の狩猟者達の安全祈願を願って角踊りが行われ、夜は綺麗な夜景を望んで未来の安泰を願うのだ。
日中に行われる角踊り、その始まりは朝の八時半からまずは決められた村人達が教会に保管されている踊り用の角を受け取った後に牧師館へ向かい、その庭で最初の踊りを演ずる。
踊り手は全部で十人、独特な衣装に各自一対ずつ二色に塗られた鹿の角を取り付けた木製の鹿の頭を携えて踊る六人、そして続くのは木製の柄杓を持って女性衣装を着込んだ男性こと「マリアン姫」と、ゆったりしたケープを着て木製の馬の頭を持っている「棒ウマ」。そして矢をつがえた弓を携える少年に、道化師。
彼らは伴奏者の奏でる曲にのって一列になって行進し牧師館の庭に現れると、それに合わせて素朴なカントリーダンスを踊り出す。
カントリーダンスとは言ってもそれは独特で、一列に並ぶ一同は蛇の様にくねくね曲がりながら前進、次いで角の担ぎ手達が輪になって右へ左へ何度も回ると全員が向き合うと角踊りのクライマックスを迎える。
角の担ぎ手達は雄鹿同士が争うかの様に角を突き出したり振り上げたりしながら前進をしては後退をし、他の者は各々が持つ道具で曲に合わせて音を出す。
それを数度繰り返すと一同は登場した時と同様に全員が一列になって退場を始める。
これが角踊りだが、これだけで終わる事はなく此処から村の至る所、村の中心部や市場に止めは村中全ての家の前で一日に渡って巡り、踊ると言う。
如何に冒険者とは言え、その話を聞いた一同は今までこなして来た仕事以上にハードな事を悟って愕然とした。
「祭の月曜日」と言うだけあって、村中のあちこちの家で各々の料理を振舞い自慢している中に料理を作っては色々な人に食べさせる事を一つの生き甲斐に感じている尾花の姿があった。
何をしているかと言えばそんな生き甲斐故、自らが得意とするジャパンの料理を開けっぴろげな村人達の好意で集まった材料で何とか工夫して作るそれを振舞いながら、村の名物料理について事細かく尋ねながら学んでいた。
そんな事に集中しながらも人が増えてきた事にふと気付いた彼は辺りを見回すと、共に今回の依頼をこなした面々の顔をそこかしで見掛け折角だから自分の料理を振舞おうかと思った瞬間、角踊りを舞う一団が彼らのいる界隈へとやってくる。
やはりその一団の中にも見覚えのある三人がいる。
ハードな事を知って尚角踊りに参加したのは踊りを嗜んでいるノースを筆頭に友人との話の種にと考えるトオヤと、密かに自分の安全祈願も兼ねて参加した崔だった。
「これしきの事に音を上げては今の世の中、生きていけないー!」
「まぁ、間違いなく土産話にはなるなぁ‥‥」
「やはりソシアルとは違うのだな」
一人だけいつもと変わらず元気な崔の叫びにしかし二人の表情は冴えなかったが、それでも余りない機会に十分堪能していた。
しかし次の踊り手達と変わるまでまだ時間もたっぷりあれば村も思っていた以上に広く、回る家もまだまだある。
気合で頑張る崔を除く二人は腹を括ると、流石に踊り慣れた鹿踊りを再び人々の前で舞うのだった。
「参加しなくて良かった」
古い鹿の角はこの祭が終わってからでないと貰えない事を聞いて、楽しみにしていたアクセサリー作りが出来なくなった事に意気消沈するサヤだったが、そんな彼らの様子を見てそれだけは救われたと一人安堵の溜息をついた。
そして夜を迎えると日中とは打って変わって村全体が静まり返る。
大部分の村人は広場へと集まると何をする事なく静かに夜空を眺めていた、この光景は冒険者達の活躍無しでは見る事が叶わなかっただろう。
草原に横たわり静かに夜空を見上げる青年がいれば、流れ星を見つけてはしゃぐ子供達がいる中にユージ達の姿があった。
「お祭りなんてちっさい時以来だからだねっ、スタール」
「そうだっけか‥?」
辺りに佇む人を危なっかしく避けながら先頭を歩くユージにそっけなく返すスタールだったが、もう何度目になるのか夜道で転びそうになる姉を支えると彼女の転び掛けた回数以上に頭を振る。
「たまにはお守り役位、解放させてくれよ‥」
「何よー、その言い方っ」
弟の、いつもと変わらない冷たい言い草に頬を膨らませるユージの姿を見て笑う三人。
その楽しそうな様子をのんびり眺めながら、一人持参した発泡酒を飲むラスの目に一つの流れ星が飛び込む。
「あいつは元気にしているかな」
養っている子供の顔を思い浮かべると、慌てて彼は流れ星に願うのだった。
私の子供と、皆が幸せになります様に。
ちなみに鹿踊りに参加した三人は、踊りから解放されるとすぐに宿で寝入ってしまった事を余談として付け加えておこう。