【伊勢巡察隊】復興に向けて
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:8 G 32 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:02月28日〜03月10日
リプレイ公開日:2007年03月08日
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●オープニング
●戦い終わりて
伊勢市街、所々で燻り砕け崩れ落ちる民家が僅かだが点在する今。
「少なからず被害はある、が‥‥思った程ではないか」
伊勢藩主が藤堂守也は目の前に広がる自身の想像を超えていない光景を見て、内心では安堵こそしていたが
「で、状況は?」
「一先ず妖の類は何とか、その全てを掃討出来たかと」
その表情に声音は固いまま市街の防備を司った藩士が一人へ現状を尋ねると、返って来たその答えを聞いて漸く強張っていた顔を綻ばせるが
「そうなると後は‥‥」
辺りへ視線を配して暫し、人々の曇りがちな表情を見ると守也は僅かに眉根を伏せるが‥‥それは僅かな間だけ。
「藩主様、此度は一体何だったのですか‥‥?」
「何時もと同じ、としか言い様がないな‥‥斎王様も奮戦しているが、伊勢が落ち着くまでもう暫く時間は掛かりそうだ」
「大丈夫、ですよね‥‥」
「あぁ。それにもし、また何事かあってもその時は必ず私達が皆を守ろう。だから元気を出してくれよ、皆の辛い顔を見るのは私も辛いからな」
次いで老婆より声を掛けられればその表情を毅然なそれに変えると確かな受け答えの後、頭を垂れる人々を励まして彼はその場を去る。
「‥‥慣れている者もいるやも知れぬが、それ程に皆の心が強い筈もなくまた当分の間は市街の見回りを強化し人々の手助けをする事が先ず、優先されるか」
そして歩きながら思案する守也は次にやるべき事を見定めると、何時からか傍らにいた皮尽くめの男へ視線を向けて、口を開く。
「頼まれてくれるか」
「その為に俺は此処にいるのだからな、問題はない」
「助力に感謝する」
「気にするな、俺も俺でやるべき事をやっているだけだ。それに今回の一件は俺も手伝わせて貰う‥‥こんな光景は何処であろうと、見たくないからな」
すれば藩主に問いに応じるレイ・ヴォルクスは頭を垂れる彼に帽子を目深に被り直しては応えると手を掲げ、京都へ赴くべくその場より早く去るのだった。
「黒門の件もあるがそれは今、放置してもしょうがあるまい。全く‥‥己に対する歯痒さばかりが募る」
藩主の愚痴にも似た呟きを背に受けながら。
●その真意
と言う事で京都の冒険者ギルドを訪れたレイは早速その依頼を請け負って貰う様、話を通すと相対するギルド員の青年はと言えば。
「何だ、まだ相変わらずに人手が足りないのか?」
「そんな事はない」
『伊勢藩=人手不足』と言うイメージが未だ強く残っているのか彼の第一声はしかしあっさり一蹴してレイ、その真意を語る。
「今まで少なからず冒険者が関与している事もあって話を持ち掛けた次第だ。人によってはそちらの方が安堵する事も考えられるし、他にも色々とあるだろう。そしてそのついでに伊勢藩としては今までの情報を統合し、今後に繋げたいらしい意図もあってな」
「‥‥と言う事は、黒門を捕らえてから顕著な動きは余りないのだな」
「察しがいいな、その通りらしい」
すればそれを受けて伊勢の内情を言い当てるギルド員の彼に果たしてレイは頷くと、最後に改めて彼へ今回の依頼内容を告げるのだった。
「まぁそう言う事で伊勢市街を見回り、人々を助け落ち着かせつつも情報の洗い直しを行ないたいと思う。また、強き者の力を今後借りられればと言う目論みもあって情報を纏めておきたい故、人手を集めてくれ」
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依頼目的:伊勢市街の見回りを行い、人々の手助けをせよ!
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要、また防寒着も必須な時期。
それらは確実に準備しておく様に。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
対応NPC:藤堂守也、レイ・ヴォルクス
日数内訳:目的地まで五日(往復)、依頼実働期間は三日。
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●リプレイ本文
伊勢巡察隊。
過去に妖怪達の跋扈によって伊勢の街の治安が乱れた際、人手の足りなかった伊勢藩が一時的冒険者達の手を借りて構成した部隊の事を指す。
主な活動はその名の通りに伊勢の町を巡察し、治安維持に努め、平穏をもたらす事。
そして再び伊勢にて起きた混乱が収束した今、久方振りに冒険者ギルドを介し伊勢巡察隊が編成される事となった。
●残されたもの
さて、その伊勢市街‥‥決して派手ではなく、だが確かに人の息遣いが聞こえていたその街並みは以前と比べ、所々に焦げ、崩れ、荒れていた。
その原因は先日に遭った妖達の襲撃で、一番の激戦地であった斎宮や二見近郊程ではないにしろ目に見えて被害を被っていた。
「確かに、思っていた程酷くはない。とは言え、お世辞にも良い状況とも言えないな」
「波こそあれ、常に妖達の脅威に晒されているのだからな」
人員が充実して来た伊勢藩士や元女装盗賊団『華倶夜』の奮戦があったからこその最小限の被害に留まるその街の光景を見て、自身の想像していた範疇の内にあった事からガイエル・サンドゥーラ(ea8088)は安堵こそするも表情は厳しいままに呟けば、一行を迎え入れた伊勢藩主が藤堂守也も渋面こそ湛えるが
「でもきっと美味しいものを沢山食べれば皆、元気が出ると思いますよ」
「‥‥そうだな」
「だから私達は‥‥」
「伊勢に平穏を、平和への祈りを篭めて参りました。どの様な仕事でも遠慮なく言って下さい」
「宜しく頼む、何かあればその時は遠慮なく言ってくれ」
その雰囲気を察し、場を和ませる様に大宗院鳴(ea1569)が笑顔にて自身が凹んでいた場合の解消法を伊勢に住まう人々にも置き換えて言えば、苦笑とは言え漸く笑みを湛えた彼に緋芽佐祐李(ea7197)が口を開き、言葉を紡ごうとするがその後は一言一句と違わず見事に巨人の騎士がミラ・ダイモス(eb2064)に奪われると皆へ頭を垂れる藩主にとりあえず、笑顔だけ返す。
「でもどうしてレイが此処にいるのよ」
「色々とあってな、点数稼ぎに励んでいる」
「ふーん」
「しかしレんちゃらは相変わらず皮尽くめなのじゃな、余程皮が好きと見えるのじゃ」
「うむ、格好良いからな!」
「‥‥さて、何処から手を付けたものかしらね」
とその後に響いたロア・パープルストーム(ea4460)の疑問は、斎宮に組している様な動きを見せているレイ・ヴォルクスに対して向けられると彼は意味深な言葉呟き、肩を竦めて答えれば生返事だけ返す彼女だったが、その真意を探るより早く小さな巫女の緋月柚那(ea6601)が表情を綻ばせれば、応じる彼を見つめて余り面白くない表情を湛えながらもロアは早く動くべく、皆へ意見を求めると
「先ずは瓦礫の撤去でしょう、然程酷くないとは言え今まで住み慣れた住居がないのはやはり落ち着かないでしょうし」
「それでは早速参りましょう、私は継続的な人手を確保する為に心当たりを当たって来ます」
「じゃあ私は街の様子を見回って来るね」
「ならばうちは人々の様子を見てくるのじゃ」
「ならば落ち合う場所は‥‥避難場となっている寺にするとしよう」
先ずは彼女に応じる神楽聖歌(ea5062)がのんびりとした声音ながら、しかしはっきりと断言すれば佐祐李が聖歌の意見に頷き応じると、リュートベイルを担ぐハンナ・プラトー(ea0606)も直後、すぐに己が意思を確かに明示すれば柚那は先の二人が見つめる方とは別を見やるとガイエルが決めた参集場所を聞いた後、それぞれが成すべき事を成す為‥‥想いのままに動き出すのだった。
「今はこの光景を瞳に刻み付けて‥‥うん、ゴー!」
鳴の後を追おうとして一瞬、歩を止めたハンナが今は今の光景広がる伊勢の街並みを確かに見届ける中で。
●復興に向けて
「この辺りの瓦礫を抱えてあの場所まで運んで、戻って来て、それを繰り返しなさい」
凛とした声を響かせ木製の人形に指示を下しては瓦礫の撤去に務める、市街の復旧に当たる一人がロアは不意に人々の視線が気になり、辺りの様子を伺ってみるも
「わー、頑張れぇっ」
「アシュドね、きっと何時も連れ歩いているから街の人も慣れたのかしら、全く」
伊勢に住まう人々より奇異の視線が向けられる事はなく、むしろ声援を受ける事となればその反応を前にロアは推論こそ立て呆れるが、その言葉とは裏腹に苦笑を湛えるも
「でもこれじゃあ焼け石に水かしら」
「それでも継続は力なり、とも言いますし先ずは続ける事が大事だと思います」
「そうねぇ、でも」
「捗っていないのもまた事実ですね、せめてもう少しだけでも人手が増えれば‥‥」
「その考えは温い、人手が足りずとも己の動く早さを二倍三倍にすればいいだけだろう」
「全く、相変わらず無茶ばかり」
再び視線を現場に戻せば、遅々として作業が進まないウッドゴーレムの緩慢な動きと未だそれなりに高く築かれている瓦礫の山を見比べれば肩を落とすが、ロアを宥めるべく、並みの男子では抱える事の出来ない木材抱え聖歌が声を響かせるも‥‥撤去すべき瓦礫に対し、いささか足りない人手にミラもやはり大振りな木材の破片を担いだまま、どうしたものかと困惑すると唯一の男手であるレイが皆を叱咤すればロアがしっかり突っ込んだその時。
「あらあら、ご苦労さまぁ〜ん」
『う、ぁ』
野太いながらも言葉遣いは女性のものである声音が辺りに鳴り響けば振り返った四人はその瞳に信じられない光景を捉え、思わず呻く‥‥それもその筈、三人の瞳の先には女性物の着物を身に纏った筋骨粒々な男達の一団が様々なポージングを決めていたのだから。
「やっぱり、驚かせてしまったみたいですね」
「佐祐李さん、これは一体?」
「これは一体、って随分な言われ様ねぇ」
すればその後に響いた声を聞いて再度、そちらの方を見やれば‥‥そこにいたのは佐祐李で、苦笑を貼り付ける彼女へ先ずは彼らの事に付いて聖歌が問うと大仰に音を立てて扇を開いてはそれを口元に当て嘆息漏らす、彼らの一団が長の麗しき彼。
「元女装盗賊団改め、伊勢藩お抱え絢爛豪華な突撃部隊『華倶夜』!」
「誰がそんなけったいで長い名前を付けたのよ」
「あたし」
だが先の聖歌が反応は慣れているのか、別段気にした風も見せずに彼は未だ固まったままの三人へ名乗りを上げ、次いで響いたロアの疑問には簡潔に答えると今度こそ初見の彼女らはぐうの音すら出ず固まるが
「そ、それはさて置いて少しでも瓦礫の撤去を進めましょう。その為に『華倶夜』の皆さんにも来て貰ったのですから」
「佐祐李さんが言っていた継続的な人手、とはこの人達だったんですね」
「はい」
「さ、それじゃあちゃきちゃき行くわよ」
『は〜い』
益々苦笑に頬を歪ませながらも佐祐李が皆を宥め、彼らを連れて来た真意を明かせばそれにはミラも納得すると彼女も頷いた直後、『華倶夜』の長が号令にて一斉に動き出す女装集団ご一行様。
「藩主様はあの格好を容認しているんですか?」
「いいえ。でも上手く行けば皆さんも和んでくれるかな、って‥‥」
「びぇえーん!」
数多く、確かな膂力を持っては確実に瓦礫を撤去していく艶やかな彼らの奮戦する光景を見ながらミラが佐祐李へ、初見なら誰もが当然に浮かぶだろう疑問に付いて尋ねれば苦笑を湛える他にない彼女は首を振りながら、だが自身が密かに狙っていたもう一つの真意を皆へ打ち明けるがその途中、何処からか聞こえてきた赤子の鳴き声を聞けば五人は頼もしい増援に生温い視線を送るのだった。
●
さりとて同じ頃、市街の広い通りでは瓦礫の撤去をとりあえず終えたハンナがリュートベイルを掻き鳴らし、明るき声にて浮かない表情を湛える町民達へ声を掛けていた。
「元気が無い人、辛い人、落ち込んでいる人がいるのなら私の歌を聴いて欲しいな」
しかしそれは無理強いでなく、むしろ懇願する様な響きを含ませれば確かな発声法にて紡がれた彼女の言葉は果たして人々の耳へ届くと、顔を上げた彼らへ次に声を掛けたのは巫女装束を身に纏う鳴。
「皆さん、この街はご存知だと思いますが天照大神様に守られているんですよ。だから、妖怪の類に襲われてもこうして大きな被害なく無事なのです。皆さんはとっても幸福じゃないですか」
「まぁ、そうかもなぁ」
「ですから建御雷之男神様の加護を得られる様にこれから一つ、神楽を舞いますね」
『ぇ?』
静かな笑みを湛える彼女が口を開けば、静かに微笑みながら皆を諭し掛けると一人の男性が納得すれば頷きながら巫女は尚、顔を綻ばせると伊勢神宮とは関係のない、彼女が奉る神が名を挙げ玉串取り出し舞い出せば唖然とするのは町民達だったが
「伴奏は私、『五節御神楽』のハンナが全力を持って弾いてみせまーす‥‥それではっ」
『いいんだ‥‥』
次に響いたハンナの、自身所属する斎宮が抱える部隊の名を聞けば場に居合わせる老若男女は何処か合点は行かないながらも納得すれば暫し、慰安の為に舞われ奏でられる彼女らの神楽に魅入るのだった。
●藩主の惑い
一方、住居が一時的に使えない住民の為に急拵えで開かれた避難場となる寺でも冒険者達の姿は見受けられた。
「次は誰じゃー?」
その中で奮戦するのは一行の中で一番に若い、と言うよりは幼い柚那は小さな体にも拘らずだが有り余る元気からか、あちこちを愛犬と共に駆け回りながら負傷者の世話を行なうも
「思ったより怪我人がいないのは幸いじゃの‥‥ふぅむ」
「そうだな、とは言え慣れないこの環境では中々に辛いだろう」
昼に入ったばかりでも既に彼女の呼び掛けに応じる者がいなければ、安堵こそして漸く僅かながらに笑みをその表情に宿すが、長きに渡った活動故に我慢強くない彼女はその場へ腰を下ろせばたまたま近くにいたガイエルが瞼を伏せながらの呟きと直後、響いた詠唱の後に辺りに舞うまだ冷たき風を一時だけ魔法で止める彼女を見つめれば
「だから私達は例えささやかでも、出来る事を精一杯にせねばな。尤も、この状況で何かしていないと落ち着かないのも事実だが」
「‥‥全くじゃ、だから頑張ろうぞ!」
手近にて見た目、痛々しい怪我を負って寝転がる少女の近くに何とか掻き集めた香草詰めし香り袋を置きながらその額を静かに撫で、呟くガイエルと僅かにだが緩む少女の表情を見ればそれに釣られて笑みを宿すガイエルの姿に柚那は発奮すると、自身がこの場で出来る事を探すべく再び駆け出すのだった。
●
その日の夜、幾多もの簡素なテントにて人々が寝静まる中で響く、土を踏み締める音。
「気持ちだけだが差し入れを持って来た」
すれば一行が振り返ると直後、伊勢藩主が声を響かせれば一緒に連れて来た蕎麦屋の店主が拵えた自慢の蕎麦と、藩主が抱える日本酒を一行へ振舞えば皆は頭を垂れて二人へ感謝すると藩主は一行を前に腰を下ろすと
「捕らえた黒門らの様子は今、如何様なものか?」
「皆一様に口を割らん。何を考えているのか皆目、見当がつかん」
「そうか、天魔や妖狐と言った妖怪と手を結んでいる様な節も見受けられたし‥‥やけにすんなりと捕まった事がどうにも気掛かりでな」
「天魔と黒門の繋がりに付いては確かな情報を仕入れたので、私としては何らかの接点があると見ている」
待ちに待った人物の到来に口を開き尋ねたのはガイエルで、早速の質問に対し守也は苦笑こそ湛えるがすぐにその表情を顰めれば、先日捕らえた黒門らの取調べが難航している事を率直に言うとその後に続き、気掛かりな点を述べるガイエルへ彼は頷き断言すればその反応に際し、訝るのは彼女。
(「確かな情報? さて、どうやってその情報を手に入れたのだろうか」)
「‥‥済まないが、その疑問はもう少しだけ伏せさせてくれ」
「だがそうなると尚の事、何やら企んでいる様な気がしてならぬ。脱獄や手を貸す者の存在に警戒した方がいいのだろうな」
「それは無論だ、魔法の使い手もいるが故に二重三重に施している。故に伊勢藩内部にでも共謀
する者がいない限り、大丈夫だろう。それでは簡単で済まないがまだ仕事が残っているのでこの辺りで失礼させて貰う。レイ殿、後は頼んだ」
「任せておけ」
情報とはそもそも出所がはっきりしない物も多く、にも拘らず藩主が断言した事にガイエルは内心で引っ掛かりこそ覚えるも、藩主は彼女の内心を察し頭を垂れると止むを得ず今は疑問を飲み込めばガイエルは藩主へ最後に黒門らの更なる警戒を促せば、頷いた後に彼は早く立ち上がるとレイに後を任せ、その場を去ろうとし
「‥‥ん?」
「此処だけの話なのじゃが先日、黒門を捕らえる際に不審な影を見たのじゃ」
「ふむ、今となっては追い辛いが‥‥調べてみよう。それでは夜も遅い、ゆっくり休まれよ」
「藩主殿も無理のし過ぎは良くない故、適当に休まれるのじゃぞ」
だがそれは柚那に引き止められると、次いで響いた彼女の報告を真摯に受け止め彼女を労った後に踵を返せば、背中越しに聞こえた彼女の労いには肩を竦め応じた。
●脈動
やがて迎えた最終日、一行は『華倶夜』が未だ奮戦する中で最大限且つギリギリまで自身らが出来る事を行なっていたからこそ今、避難場にて出立の準備に追われていた。
「やっぱり、美味しい物を食べる事が一番に元気が出ますね」
「とは言え鳴さんは食べ過ぎな気が‥‥」
だがそんな中、早く身支度を終えた鳴は炊き出しをまだ人々に配りながらもその傍らで同じ物を頬張り皆へ声を掛ければ、マイペースな聖歌でも彼女の食いっぷりに思わず突っ込めば
「とりあえず、復興の足掛かりは出来たと見て間違いなさそうだ。助力に感謝する」
「気にせんでもいいのじゃ、今に始まった事でないしな」
「‥‥手厳しい事を言う」
その光景に顔を綻ばせながらも伊勢藩主は一行へ感謝の意を告げれば、笑顔にて応える柚那の無邪気だからこそ紡がれた感想には思わぬ所で揚げ足を取られたと言わんばかり、守也は頭を掻くも
「でも、少しだけでも伊勢の為、伊勢に住まう人々の為になったと言うのならこれ以上に嬉しい事はありません」
「そうじゃの〜」
「忝い、これからもまだ迷惑を掛けるかと思うがその時はまた宜しく頼む」
「えぇ、此方こそ」
次に佐祐李の真直ぐな想いを聞けば、柚那を筆頭に皆が同じ気持ちを抱いたからこそ頷くと頭を垂れる藩主に皆は笑顔で応えるのだった。
「私は前に進む。皆の想いとか、全部背負ってでも進んでみせる‥‥だから、だからもっと強くならないと、だね」
「そうね、優しさだけじゃあ何も護れない‥‥から」
しかしまだこれで終わりではなく、それを察しているからこそハンナが何時もと違う真剣な面持ちにて呟き誓えばロアも憂いを表情に宿したまま、だが彼女の言葉に応じ確かに頷いた中で。
伊勢の闇は未だ晴れない。
だが明けない夜がない様に、朝日が常に昇る様に、冒険者達がいる限りは何時かその全てが払拭されるだろうと今は願いたい。
〜終幕〜