【伊勢鳴動】終幕 〜しかし闇は晴れず〜

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:14人

サポート参加人数:10人

冒険期間:03月11日〜03月16日

リプレイ公開日:2007年03月18日

●オープニング

●斎宮にて
 斎王の間にある広い窓にへばりついてはその部屋の主が斎王こと祥子内親王、大分小奇麗になった目前の平野を眺めながら欠伸を一つ、漏らしていた。
「ふぁ‥‥ようやっと伊勢も落ち着いたかしらねー」
「斎王様‥‥」
「いいじゃない、たまの事なんだから」
(「‥‥そんな気がしないのは、私だけだろうか‥‥」)
 そして呑気に紡がれた言葉はしかし、近くにかしま付いていた側近よりすぐに窘められる事となれば振り返って斎王は彼女を見つめ不満を露わにすると、その様子を見届けて側近は内心でだけ嘆息こそ漏らすも
「とは言え、何時までも日向ぼっこをしている訳にも行かないわよね」
「はい。問題は山積みです、黒門の一件は伊勢藩に任せるとしても‥‥」
「要石の封印は残り半分。だけど何を考えてか、なりを潜める妖達‥‥要石に新たな封印を施せる『白焔』は手にしても、要石の結界を崩す事が出来る『黒不知火』は使い手共々行方不明。大雑把な所でもこれだけの事が残務としてある以上、これから間違いなく何かある事は請合いね」
「‥‥そんな事を断言されても困るのですが」
「全くだ」
 それを察してか斎王は此処で漸く窓辺から身を引き剥がせば一つ、大きく伸びをしながら表情を引き締めると頷く側近の後を継いで彼女は大きな課題だけ連ね挙げればその最後に肩を竦めて見せるが‥‥それは側近と、何時の間にか斎王の間の入口に佇んでいたレイ・ヴォルクスに呆れられる事となる。
「そう言う貴方はどうなのよ?」
「‥‥鋭意捜索中だ。最近はジーザス教の布教が何処も活発で、渡来する布教者が多ければ中々にな」
「それじゃあ先回りをした意味がないじゃない」
「‥‥それを言われると痛いが、ジャパンの空気に未だ馴染んでいないが故に本気は出していないぞ」
「あー、はいはい。頑張ってね」
 だが彼女、視線を唐突に現れたレイへ向ければ負けじと反撃を試みると‥‥珍しく呻く彼に鼻を鳴らしレイの減らず口へなげやりに応じれば
「ま、とにかく。一度情報を纏める必要はあるわよね‥‥っと。レイ、ちょっと同道しなさい」
「構わないが‥‥何処へ行く気だ」
「京都よ、冒険者ギルドへ直に依頼をお願いしてくるわ」
「え、ちょ‥‥斎お‥‥」
「って事で暫く斎宮空けるから、後の事は珠に一任するわ。それじゃあ後は宜しくー」
 一先ず、これからやるべき事を確かに見定めるとレイを掌にて「おいでおいで」と招き呼ぶと、尋ねながらも近付いて来た彼の肩をがっしと掴み答えれば戸惑う側近へはそれだけ告げると二人は開け放たれている窓辺より側近が引き止める間を与えず、その身を投げ出すのだった。
「久し振りにあの人は‥‥!」
 だが彼女は窓辺から二人が身を投げ出した事には驚かず、昔より時折にあった脱走癖を目の当たりにして憤慨するのだった。

「とりあえず話は分かった。が、またか‥‥伊勢神宮、そして斎宮に絡んだ今までの話を纏めるのは分かるが何故に何時も、宴会なのだ」
「‥‥またなのか」
 さて、斎王が斎宮を脱走しては二日と半‥‥レイと共に京都の冒険者ギルドへ辿り着けば早速に依頼を持ち掛ける斎王へ、受付係の青年が静かな嘆息を漏らし返せば皮尽くめの彼も初耳なそれに半眼湛え、呆れこそするが
「だって宴会の席を設けて皆で杯交わせばが色々、ぶっちゃけた話が聞けるじゃない? それに皆だってたまの息抜きは必要でしょ」
「あぁ見えても意外に気楽なんだがな、冒険者は‥‥」
 二人のそんな視線と反応には慣れているのか、至って気にせす彼女は今まで苦労を掛けた冒険者も労う為にと添えるが、レイが肩を竦めて見せれば遂には彼をねめつけると
「そう言う事でレイ、必要な場所の手配とか宜しくね。私じゃ色々とまずいから‥‥それと伊勢神宮に斎宮の関係者も京都に呼んでおいて」
「やれやれ」
 決然と一つの命令を下せば帽子を目深に被り直したレイは相変わらず呆れたままではあったが踵を返し、彼女の命を果たすべく冒険者ギルドを後にする。
「‥‥今の状況は分かっているのだろうな」
「勿論じゃない、別に外国の神様を否定する気はないけど‥‥それにしたってジャパン全土への布教なんて唐突且つ異常過ぎるわ。そして伊勢ではそれと反する様に妖達の動きが収まって‥‥不気味にも程があるわね、嵐の前の静けさじゃないといいのだけど」
 そして再び冒険者ギルドの戸が閉まれば、鳴り響いた音を合図にギルド員の青年は斎王へ伊勢が今、置かれている現状を尋ねれば果たして彼女は真面目な面持ちを浮かべると確かな答えを紡ぎ、溜息を漏らせば
「とにかく、嵐が起きる前に伊勢は完全に平定しなければならないから先ずはその為にも今までの状況、情報は確実に纏めて先をある程度見通しておかなければならない‥‥」
「‥‥分かっているのなら、いい」
 己が瞳すがめ成すべき事の為、その足掛かりにしようとする今回の依頼に付いての真意を語れば漸く、僅かにだけだったがギルド員の青年が顔を綻ばせると釣られ彼女も頬を緩めれば、最後に一言だけ添えてギルドを後にするのだった。
「じゃ、そう言う事で宜しくねっ!」
「やれやれ」
 さてはて、果たして今回は一体どうなる事やら‥‥。

――――――――――――――――――――
 依頼目的:伊勢神宮及び斎宮に関わる情報の統合し先見を立てよ!(ついでに宴会も盛り上げてね☆by斎王)

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)及び防寒着は不要、但し屋外での行動を考えている場合には防寒着必須。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 対応NPC:祥子内親王、神野珠、楯上優、レイ・ヴォルクス
 日数内訳:依頼実働期間のみ、五日。
――――――――――――――――――――

●今回の参加者

 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0340 ルーティ・フィルファニア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea0364 セリア・アストライア(25歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0606 ハンナ・プラトー(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1569 大宗院 鳴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5001 ルクス・シュラウヴェル(31歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea5062 神楽 聖歌(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea6601 緋月 柚那(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ea8214 潤 美夏(23歳・♀・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 eb0132 円 周(20歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

桐沢 相馬(ea5171)/ 天霧 那流(ea8065)/ レイン・フィルファニア(ea8878)/ イツキ・ロードナイト(ea9679)/ ソムグル・レイツェーン(eb1035)/ ナタリー・パリッシュ(eb1779)/ 南雲 紫(eb2483)/ アルマ・フォルトゥーナ(eb5667)/ 木下 茜(eb5817)/ マルティナ・フリートラント(eb9534

●リプレイ本文

●飲めや歌えや‥‥?
 京都、ジャパンが西方にて栄えるその都市のど真ん中もど真ん中。
「おーい、こっちよこっちー!」
 まだ日は高みにまで昇っていないにも拘らず、酒場を前にして叫び一行を呼ぶ一人の女性の姿を見掛ければ皆は皆、唖然とせずにはいられない‥‥なんせ人の往来が激しいその中で今、叫んでいる女性は伊勢をある面で統べている斎王その人なのだから。
 とは言え、流石に彼女も市女笠を被っていれば多少なりの気遣いこそ感じるも
「もう少し、自重されてもいいと思うんですが」
 皆はルーティ・フィルファニア(ea0340)の呟きに同感だと苦笑を湛え応じながら、しかし斎宮に携わる者達の元へ急ぎ駆け寄る中。
「さてさて、今回も定期に行われる大宴会に参加となりましたが‥‥伊勢の皆さんはホントに宴会好きですわね。ま、暇潰しには持って来‥‥」
 一人呑気に歩きながら相変わらずに毒を吐くのはちょび髭生やした潤美夏(ea8214)だったが、まだ距離があるにも拘らず斎王の鋭い一瞥を見止めると彼女。
「げふんげふん。楽しい事は良い事なので是非、堪能させて頂きますわ」
 盛大に咳払いをしては先の発言を途中より打ち消し、満面の笑顔を浮かべ最後に一行へ追いつけば斎王は皆へ手を掲げた後に先ずは口上を述べる。
「ふむ、良く揃ったね皆の衆。まぁ色々と堅苦しかったり小難しかったりするかも知れないけど、暫くの間は宜しく頼んだよ」
「お任せ下さい。しかし宴を介し、情報の統合とこれからの事を考えるとは如何にも斎王様らしい提案ですね」
「ふふふ、そう褒めて下さるな」
(「褒めてねぇ‥‥」)
 そして簡単に述べられた口上はやはりざっくばらんなもので、初対面の者達は斎王らしからぬその対応を見て一様に口を開け放つが‥‥面識のある者達は大して驚いた風も見せず、むしろミラ・ダイモス(eb2064)の様に平然と振る舞えば、肩を震わせては彼女に応じる斎王の健在な様子に安堵し、またそれを見て内心で毒づく鋼蒼牙(ea3167)の様子を見るとこれが普通なのだと察すれば、一日だけの付き合いの者達はそれぞれ気楽に斎王へ挨拶を交わす。
「まぁ、何と言うか‥‥相変わらずで安心したでござるよ」
「そりゃどうもー、でも冒険者と会うのも久し振りだけど元気そうで何よりね、ってか見た顔ばかり‥‥」
 何とも微笑ましい光景が広がるその中で漸く天城月夜(ea0321)が巫女装束を靡かせ己が主へ近付き、挨拶を交わすと笑顔を浮かべ斎王は頭を垂れると次いで場を見回しては居並ぶ顔を見つめて応じる。
「でもないか、お手伝いの人も多いしねぇ」
「初めまして、斎王様」
「あらあら、可愛い子ね〜」
 が祥子の視線が円周(eb0132)の所で止まれば彼女は初々しい顔触れがいる事に多からずとも安堵すると、同時に恭しく頭を下げた彼の頭を激しく撫で回すが
「しかし宴会‥‥ですか、楽しみです。やっぱり伊勢海老も出るんですよね」
「えぇ勿論」
 そんな折に響いた疑問のその内容から、それを紡いだ人物は間違いなく大宗院鳴(ea1569)のものだと顔見知りの者が思えば、それは果たして当たり‥‥しかし少なからず皆も期待しているその答えに斎王は鳴へ顔だけ向けては断言すると、皆が飛び上がる中で彼女に影が一つ近付いた。
(「‥‥伊勢海老を出すと言う話は聞いていない。と言うか予算が足り‥‥」)
(「そこは貴方のお手並み拝見、って事で」)
「‥‥本気、か」
「どうかしたのか、レんちゃら?」
「いや、何でもない」
 その影こと、相変わらずに皮尽くめなレイ・ヴォルクスは今もまだ周の頭を撫でくり回す斎王へ耳打ちこそするが、それはあっさり一蹴されると帽子を目深に被り直し呻く彼はまるごと猫かぶりを着込んでいる緋月柚那(ea6601)の紡いだ問い掛けには強気に応じるも
「少しだが、足しにして貰えるか?」
「‥‥済まんな、ルクス」
 彼女が不思議そうに瞳見開き、首を傾げる中で斎王とレイのやり取りから何となく事の次第を察したルクス・シュラウヴェル(ea5001)が囁くと、その彼女の提案には素直に応じる彼で自身との反応に差異に柚那は彼の脛を思い切り蹴飛ばし、彼が呻く中で鼻だけ鳴らす。
「お仕事、お仕事、早く済ませましょー。そんでもって騒ぐぞー!」
「あー、そうね。それじゃあちゃっちゃと始めましょうか。此処じゃあ迷惑にもなるしね」
 そうして徐々にだが相談場所にて宴会会場でもある酒場の前で賑々しさが加速していくが、響く嬌声をぶち破るかの様に何時でも歌い手のハンナ・プラトー(ea0606)の声が響くと場に居合わせた皆は彼女の呼び掛けを聞いて漸く本題を思い出すと、続き響いた斎王の声に従って酒場へと入って行くのだった‥‥何事かと見守る人々の視線から逃げる様に。

●巷で話題の‥‥?
「ん、久し振りだな。鳥羽ではお世話になった」
「いいえ、こちらこそ随分とお世話になりました」
 それよりレイの名義で借り切っている酒場に足を踏み入れ、一行は思い思いの場に腰を下ろせばその中、蒼牙は普段の装いとは違う楯上優を見掛けると掌を翳し、先日の礼も含めて至極普通な挨拶を交わすも‥‥一行の視線を一手に受けている事に気付けば彼は
「‥‥さて、まずは報告等を済ませるとしますか」
「そうね、では宜しく皆の衆‥‥って、あ」
 咳払いを一つした後に口を開くと、早速目の前に置かれている徳利へ手を伸ばす斎王だったが、それを手にするより早く今日は巫女装束を身に纏うセリア・アストライア(ea0364)に奪われると
「はい、真面目なお話をする時位はお酒を抜きましょうね」
「そうだな、酒精は程々であれど判断力を鈍らせる。故に暫くは我慢して貰えると助かる」
「お二人の言う通りですね」
「ちぇー」
 彼女の目の前に徳利の代わり、紅茶が注がれた器を差し出せばルクスと共に皆へそれと徳利を交換し、何時の間に拵えていたのか茶菓子もしっかりとそれぞれへ配りながら斎王を窘めると、筆記用具に半紙を近くに準備している今回の書記係がガイエル・サンドゥーラ(ea8088)に、相も変わらず神楽聖歌(ea5062)ものんびりと頷き続けば笑みを湛えたままに不平を露わにする斎王。
(「こんな斎王様を見たら、伊勢の人々はがっかりするでしょうね‥‥いや、それとも?」)
「‥‥何よ、ステラ?」
「いえ、何でもありません」
 そんな屈託のない反応を見てステラ・デュナミス(eb2099)は内心にて笑い呟くがそれは見透かして、次に斎王が彼女へ問い掛けるもステラは平然と首を左右に振れば穏やかに笑顔を交わす二人だったが
「とりあえず、話を進めていいか?」
「そうね、じゃあ‥‥最近、巷での話題に付いて話してみようか」
「なら、済まないが『五節御神楽』に付いて少しいいか」
 珍しく蒼牙が手を掲げ言えば、最初に折れた斎王が頷き返すと一先ずの話題を上げれば口を開いた侍は先ず、自身所属する斎宮直属の部隊が名を紡ぐと
「やはり‥‥五条の乱の時か。その時に表に出たからかね。知名度、と言う点で考えれば以前より遥かに上がっている‥‥この前の斎宮が妖怪達に襲われた時、我々『五節御神楽』が救援に来た時の兵の反応を見るに相当認知されている事も十分に分かった」
「そうね。内々には通達しているから当然とは言え、少なからずその存在は五条の乱の時より広まっているでしょう」
「俺も『五節御神楽』所属と言う事になったし、守りの旗頭となるべくより励んでいきたいと思う」
 今までを振り返り、以前とは変わっている各地の状況故にこれから圧し掛かってくるだろう重責を今は気にする事無く皆に改めて認識して貰うべく言葉にすれば、しかし同僚から注がれるのは生温い視線だけ。
「‥‥何ですか、皆さんのその不審な視線は」
「そんな全うな事を言うとはやはり何か、悪い物でも食べたか?」
「何でそうなるんじゃー!」
「でも蒼牙さんの言う通りだね、うんうん」
「それだけは忘れないで頂戴ね」
 呻く彼を傍目に月夜が首を傾げ問えば、憤慨する侍だったがハンナはあえて見ぬ振りをし、しかし先の彼の発言には同意すると次に響いた斎王の言葉には頷く『五節御神楽』の面々だったが
「そう言えば今後の行動はどうなるのでしょうか?」
「先ずは長州討伐よね! 伊勢藩ともそれに付いては摺り合わせているけど‥‥逆にそれまでは特に大きな動きがない限り、これと言った事はないかな」
「長州‥‥『鏡』の一件もある、確かに私達も携わるべきだな」
「とは言え、それ以外の接点や因縁はないから全体で見た場合の私達に与えられる役割は後方支援だろうけどね」
「それでもやはり京都を混乱に陥れ、罪無き人々を巻き込んだその罪は‥‥」
 次に響いた、ルーティの問い掛けには眼前の卓を叩き立ち上がって最初こそ叫び‥‥すぐにその勢いを収め答えると、反芻するルクスに斎王は頷くが次には伊勢の立ち位置からいずれあるだろう長州との戦いにて与えられる役割に肩を竦めるも‥‥『五節御神楽』が初めて公の場に出た戦いの光景を思い出しながらセリアが苦々しく言葉を紡げばそれぞれに思う所があるからこそ、場の雰囲気は一気に重くなる。
「はい、それではこの話は此処まで。次っ!」
「ジーザス教の事はどうでしょうか? 昨今、ジャパンでの活動が目立ってきていますし」
「ふむ、宜しい。それではジーザス教に付いて語ってみよー!」
 だがそれは許さず斎王が拍手叩き、早く次の話題へ切り替えようと試みればそれに応じるミラの発言に頷くと
「それなら私が少しばかり知り得ていますので、お教え致します」
 真摯な面持ちを湛えたまま、やはり真剣な声音にて言う巨人の騎士に斎王も彼女と同じ態度にて臨むのだった。

「‥‥と一先ずはこの様な所でしょうか」
「ふむふむふむ」
「お互いの教えに関する違いと、救いを求める希望が過度に膨らみ諍いの種にならない様にジーザス教に関する由来に関して、多くの寺社と変わらない事を広めた方が良いと提案します」
「ま、そうね。いきなり活動が活発になったのは気になる所だけれど、いきなり頭ごなしに対応するのも違うし、その点に付いては対応するわ」
「しかし神とは信仰の、想いの力によってその在り方や力が左右されるとしたら‥‥」
 それより暫しジーザス教に付いて掻い摘んでだが語るミラに皆は頷き、それぞれに話を交えながら改めてジーザス教に付いて認識するとその最後に響いた彼女の提案には斎王の代わり、神野珠が応じる中で次に月夜の疑問が紡がれれば、彼女が暗に不安視している事を全員が同時に息を飲んで見守るが
「その辺りの知識は疎くてのぅ、武術と礼儀作法はそこそこ幼い頃に習ったが」
「人には得手不得手がありますから、その点は気にせずに‥‥ですが、実際の所はどうなのでしょうね?」
「信じる者は救われる、でいいんじゃない」
「‥‥そうだな」
「とにかく、現時点では良くも分からない事が多いから伊勢のジーザス教に関しては警戒まで行かずとも注意しておいて貰えると助かるわね、念の為」
 張り詰める雰囲気の中でレイを見つめたままに月夜がすぐに肩を竦め、場を和ませるべく言えば優も笑顔で彼女を慰めながら首を傾げると、斎王のらしからぬ発言とレイの静かな同意が響けば一行はその物言いに呆れるも最後に響いた斎王の申し出には一応頷きだけ返し、この話を終えた。

●よもやま話 〜貴方は一体?〜
 とは言え、四六時中も相談では体が持たないと言う者もいる為に(主に斎王だったりするのは此処だけの話)夜は夜で派手になり過ぎない様に盛り上がる一行。
「『肉』では詰まらないので、何と書いて差し上げましょうか」
 借り切っている酒場が一画にて早々に寝こけている柚那を見下ろしながら、悪戯大好きなドワーフが筆を片手に何事か思案しているその中。
「そう言えば正月に酒場で言ってた、『五節御神楽』の担当云々ってのはどうなったんだ?」
「あぁ、すーっかり忘れていたわ」
 お猪口に注がれた酒を呷った後、蒼牙の唐突な問い掛けが斎王へ向けて響くと掌叩いてあっけらかんと言い放つ彼女に皆は言うまでもなく絶句するが
「えっと、『闇槍』と『五節御神楽』の各部隊はこれよりレイ・ヴォルクスの下に付いて貰います。最終的な権限は私にあるけれど、余程の事がない限りは彼の指示に基づいて動いて頂戴」
「ぇー」
「ふむ、初対面ながらにその振る舞い‥‥ブラボーだ。流石は『五節御神楽』」
「いや、関係ないから」
 一行の反応は気にせずに再び口を開けば、『五節御神楽』の面々は一様に驚きの回答を聞いては唖然とするが、格好からして得体の知れない人物に対し平然と蒼牙が呻けばレイは感心するもそれにはしっかりと突っ込んだ後に彼。
「つか誰ですか、このおじさん」
「自己紹介をして頂けると助かるのですが‥‥」
「そう言われればそうだな」
 初対面であるからこそ斎王らへ顔を向け尋ねるとミラもやはり頷けば、遅れてその当人もその事に思い至れば皮のコートを靡かせては立ち上がり‥‥やがて厳かに口を開く。
「流離いの戦士、レイ・ヴォルクスだ。縁あって英国から伊勢に来た次第だ、好きな物と嫌いな物は秘密だ、何故ならその方が格好いいからっ!」
「なるほど、英国から‥‥道理で」
「どうして英国から、だと納得するんですか‥‥」
 が続き紡がれた言葉には場に介する一行、当然に唖然とするもその中で美夏だけは一人、何事か勝手に納得すれば呻くルーティだったが
「お久し振りです、向こうの方はどうですか?」
「まぁすっかり、落ち着いたな。積もる話は沢山にあるが、それは此処でする話でもあるまい」
「そうですね‥‥ってえと、落ち着いたって言う事はもしかして?」
 とりあえず気を取り直し再び腰を下ろしたレイの元へ近寄ると、挨拶がてらに英国の近況を尋ねれば彼よりあっさりした答えを聞いて頷いた後、暫し頭を巡らせ惑うとその彼女へ屋内にも拘らず被ったままの帽子の鍔を持ち上げながらレイ。
「『彼女』が無事に目覚めた」
「それは良かった、すると此方へは」
「いずれ足を運ぶだろう、まだ段取りこそ付いていないがな」
 遠回しにその答えを言うと、顔を綻ばせるルクスに彼は自身が知り得る事のみを簡潔に口にする‥‥が。
「因みにこの件に付いては秘密だ、アシュドには特に‥‥色々な意味で死にかねない」
「そうかも知れないな」
「でも今のアシュドさんなら、事実がどうであれしっかり受け止められると思いますよ? 依頼にも時々ご一緒して随分と、特に気持ちが強くなられてます‥‥ちょっと羨ましいですね」
「そうか、それならばいいが」
 次には襟元から覗いている唇に人差指を当て言うと、静かに苦笑を湛えるガイエルが同意こそするも、直後に響いたルーティの言葉を聞けば帽子を目深に被り直し呟く彼だったがその口元が僅かに綻んでいたのを彼女は見逃さなかった。
「レイさんレイさーん、向こうが落ち着いたのに京都にまで足を運んだその目的は何ですかー?」
「とある人物を追っている‥‥とは言え、その存在のみしか確認していない為に此処まで来たはいいが今の所、その尻尾を掴むまでには至っていない」
「レイが動くと言う事はもしや‥‥」
「それはまだ秘密だ、不確定要素があるからこそ今はな‥‥だがその件に関しては必要に応じ『五節御神楽』を動かす事もあるだろうから、もしもの時には宜しく頼む」
 そして静まろうとする場‥‥だったが、そうはさせじと果敢に手を挙げ次なる質問を繰り出すハンナに、その瞳を見つめレイが口を開くと厳しい表情を浮かべるガイエルの推測が響けばしかし彼は相変わらずに掴み所を見せず、逃げおおすと一先ず彼に付いての話は此処まで。
「そう言えばレんちゃら、お主の半身であるそのアシュドーはおらぬのかの?」
「‥‥今は工房に篭り切りだな、相変わらず」
「むぅ、それは詰まらんのじゃ」
「そんな事はない、俺は面白いぞ」
 先まで寝ていた筈の柚那が唐突に身を起こし個人的な問いを投げ掛ければ、微かに肩を震わせるレイの答えを聞いて彼女は不満げに頬を膨らませるが、彼の意味深な発言を聞くとその視線の先にある己が額に手を触れて‥‥その掌にこびり付く僅かな黒い液体と、それを準えては浮かぶ『猫』の文字を見ればいきり立ち、その犯人探しを開始する。
「‥‥誰じゃー! 今すぐ、素直に申し出るなら切腹に介錯付きで勘弁するのじゃー!」
 無論、その犯人である美夏は密かにその光景を見届け微笑みながらセリアと共に厨房へと消えたのは言うまでもなく、その背より木霊する多くの笑いに満足するのだった。

 こうして、まだ人も多い初日は終わりを告げた。

●天岩戸 〜真に封じられているもの〜
 二日目からは人数も少なくなり、また伊勢に関わりの深い者達ばかりが多い事からいよいよ話は核心へ迫る。
「要石に付いてお尋ねしたいのですが、宜しいでしょうか?」
「えぇ、構わないわよ」
 その最先に口を開いたのは昨日と同じく皆へ紅茶を振る舞うセリアで、彼女の第一声に対し斎王は首を縦に振ると最初に紡がれた疑問は要石のその封印に付いて。
「要石の封印が弱まったのは経年劣化と言うのが見解でしたが、本当に誰かが封印を弱体化させたと言う事は無いのでしょうか。もし誰かの仕業だとすれば、『白焔』で締め直してもイタチごっこになる様な‥‥」
「それは問題ないわ、『白焔』で施した封印は人為的に弱体化する事はない。文献上に記されている話に寄ればね‥‥でも、要石に施されているその封印を壊す霊刀もあったりする訳で」
「それは一体?」
「伊雑宮に奉られていた、伊勢にあるもう一振りの霊刀『黒不知火(くろじらぬい)』よ」
「もしや、その使い手‥‥」
「現在、行方を眩ましている矛村勇その人ね」
 その推測、いや不安か‥‥普段とは違い表情を曇らせては言葉を紡ぐセリアだったが、しかしそれは何時もの様に一蹴する斎王へ次に月夜が首を傾げ、その根拠を尋ねると祥子は先と裏腹に厳かな声音を響かせれば、その中でガイエルがとある事に思い至ると‥‥頷く斎王はガイエルが言おうとした人物の名を上げれば多からずとも彼の名に聞き覚えのある者が多い一行はすぐに場をざわめかすと
「余り考えたくないのですが、霊刀を奪う為に勇さんが自身の父親を‥‥」
「それはないわね、伊雑宮の内部は大分踏み荒されていたし何より亡骸の状態が悲惨過ぎ。親子関係が悪くなかった事は私が知っているし、宮司の亡骸に残されていた傷の数々は刀傷じゃあなかったし」
 今は僅かにとは言え不安に駆られているセリアが脳裏に過ぎった嫌な憶測を口にして‥‥だがそれは珠によって遮られれば、とりあえず安堵する彼女だったが
「それでは、一体何者が?」
「さぁ、妖かそれとも黒門か‥‥未だにその犯人は分かっていないけど、斎宮の見解として勇が姿を眩ましているのは父親の復讐じゃないかしら、って考えているわ。二振りの霊刀は妖に対して、絶大な威力を持っているらしいし彼は幼い頃から霊刀を扱える様に修行を受けていたからね」
「となるとこの件に関しては勇さんだけが唯一、もう一つの霊刀に関わる真実を知っているんですね」
 そうなるとまた、件の犯人が気になって斎王らを見つめ再び問えば珠の答えが響く中で皆はそれぞれ、様々な思いにて渋面を湛えるもその中で漏れたルーティの呟きを最後にこの話は一先ず終わり。
「やっぱり天照大神様は太陽神なだけに『白焔』と『黒不知火』共に炎に因んだ名前で‥‥それにしても色々な人が封印を解こうとしていますよね」
「聞く話では要石再封印の際、見受けられたのはやはり黒門の一派に天魔らだったとか。そうなると拙者らと敵は共通の様だ」
「そう言えば‥‥」
 そんな折、目の前のお茶菓子に夢中だった鳴が此処で漸く言葉を発するとその言葉の最後にて紡がれた敵の存在に、思い返しながら月夜が嘆息交じりに言葉を紡げば同僚であるステラはとある事に思い至り、斎王を見つめてはしなやかなその腕を掲げると
「天岩戸に付いて改めてどう言った物か、確認しておきたいんだけど」
「そうねぇ。要石の力も借りて天照大御神を封じ、奉っているものね‥‥表向きは。けれど実の所、何かとんでもないものが封じられているみたい」
「とんでもないもの?」
「それは一体‥‥」
 最近の伊勢に深く絡む『天岩戸』に付いて確認の為、尋ねれば斎王から返って来た答えに周が首を傾げるとステラは更に尋ねるが
「‥‥まだ、憶測の段階にしか過ぎないから今は言わないわ。でも関係してきそうな文献は洗い浚いひっくり返して早急に解読を進めているから、皆にお知らせ出来る日はそう遠くないかもね」
「そうなると岩戸隠れの話は昔話か、それとも何かの暗示か‥‥あれ、そうなると天照大御神は一体何処で眠っているのかしら?」
「さぁ‥‥それは秘密」
 肩を落として斎王はそれ以上の事は言わず‥‥いや、言えずに言葉を濁すと『天岩戸』の伝承を思い返すステラだったが、その際にまた一つの疑問が浮上した彼女は最後にそれを口にすると今度は斎王、謎めいた笑みを返すだけでやがて一行は『天岩戸』からそれに繋がる別の話題へそれぞれ、移行する。
「しかしあの妖孤、天魔と引き離せないだろうか? 付け入る隙は幾らでもありそうだが」
「天岩戸ってどうすれば開くんでしょう? そしてもし、その手段を天魔が既に知っているとしたら‥‥」
 そのざわめきは最初こそ雫が落ちた水面に広がる波紋だったが、やがてそれは波となり場を騒然と包み、混沌を生む。
「一度、纏めた方がいいかと思います。必要なのは敵の本当の目的が何か、その対処手段は何か‥‥であると思われますので」
 が、もその場を客観的に捉えながら話を聞いていた周が己の声が厳かに響かせて皆を宥めるべく一つの提案を掲げれば、暫くして落ち着いた一行は揃い頭を巡らせる。
「明確なのは天魔らの動きよね、間違いなく天岩戸を解放すると断言している訳だし。その点、掴み所がないのは黒門の動き、あちこちに出張っては掻き回すだけ掻き回してはいお縄‥‥うーん」
「確かに黒門に付いては何を考えているのか検討が付かないな。と、そう言えば黒門らが動いていた刀狩りの一件や『黒い箱』に付いては‥‥」
「刀狩りの一件に付いては未だ不明。私の予想じゃ『黒不知火』の強奪かな、って思ったけど公には殆どの人が『黒不知火』の存在を知らないし、知っているとすれば直接伊雑宮を襲撃した方が有益で‥‥少し難しい線よね。因みに『黒い箱』は斎宮で保管しているわ」
 すると斎王が敵対している集団それぞれの目的を思い出し、しかし黒門の狙いだけは分からずに呻くと常に筆を走らせては今回の話を全て纏めているガイエルは同意しながら、その際に思い出した自身が気になっていた点に付いて挙げ連ねると珠の正直な回答に頷くと更にそれを書き認めれば
「対抗手段としてはやはり、要石を全て再封印する事でしょうか?」
「そうね。それだけでもやってしまえれば天魔とは言え、黒門が何かしら目論んでいるとしてもそう易々と天岩戸は開けられない筈だし、先ずはそこからね」
 次に響いた鳴の問いへ斎王は真剣な面持ちにて確かに答えるのだった、封じられているだろう存在が大き過ぎるからこそに。

●そして結局の所、大騒ぎ
 やがて話は斎宮管轄より伊勢全体にまで及べば、大よそ三日を使って伊勢の情勢を纏め切ると
「‥‥よし! 真面目な話、終了! 宴会と行きますか」
『おー!』
「米をっ! 米を食わせろ!」
「それではたんとお食べなさい」
「ごぶぁっ」
 蒼牙の啖呵を初めに、四日目になって漸く本格的な宴会が催される事になれば叫ぶ彼に早速美夏はリクエストに応じるべく手に持っていたお櫃から直接、飯をその口へ叩き込むと
「それでは他の皆さんには伊勢海老の具足煮を、鍋仕立てでアレンジしてみましたですわ」
「やっぱりこれを食べないと伊勢に来た甲斐がありませんよね」
「全くじゃの〜」
 それと同時に他の皆へは自身が拵えた伊勢海老料理を紹介すれば、鳴と柚那は早々とそれを食し頬を綻ばせる。
「しかし余りにも具材が細か過ぎるのですが‥‥」
「いや、良かったですわね。火を通しても固い食材が多いので、少々刻んで柔らかくしておきましたわよ」
「なるほど、そんな配慮を‥‥ありがとうございます」
「私のは普通なのだが」
 だが周に至ってはその限りではなく、小鍋の中で踊っている細切れも細切れな具材を掴めず呻くも次に告げられたその理由には納得する彼だったが、直後に響いたルクスの呟きは耳に入らず再び鍋の中にて踊る具材に戦いを挑む。
「しかしこうして宴会出来るだけでも『五節御神楽』に入った甲斐があった」
 そんな和気藹々とした光景を見て、何とか先程付きこまれた飯を飲み込み終えた蒼牙がボソリ呟くと、その迂闊な発言を聞き止めた同僚達は一斉に鋭い視線で彼を射抜くが
「いや、勿論ちゃんと真面目な理由で所属してますよ?」
「‥‥取って付けた様に言われてもねぇ」
「真面目な時は真面目だよ!? ってか祥子さんも似た様なもんだろ!」
「ご飯、お代わりだって」
「たんと召し上がれですわ」
 慌てた風も見せず、その理由こそ明示しなかったが確かに断言するも肩を竦める斎王に突っ込まれれば憤慨する蒼牙はやおらいきり立つが、次に彼女が再び美夏を促すとまたしてもご飯攻めの憂き目に遭う彼。
「所で斎宮もそうですが、伊勢藩自体の戦力を底上げする事は出来ないのでしょうか? 例えば藩士の訓練や、近くに水軍もいる様ですしそれを取り込む等‥‥」
「打診してみる価値はありそうね、藩主が何処まで考えているか分からないけど」
「でもそれより‥‥」
 そんな中で彼女は繰り広げている光景の割、至極全うな意見を斎王へ対し言うと祥子は考え込むが‥‥そこに口を挟んで聖歌。
「解放して上げてもいいのでは?」
「あぁ、すっかり忘れておりましたですわ」
 のんびりではあったが、未だしゃもじを蒼牙の口元に押し込んだままの美夏へ言えば顔面を蒼白にする彼の様子に漸く気付いた彼女はここでやっと、彼を解放すると力尽きて即座に伸びる蒼牙。
「斎王様斎王様」
「んー?」
「伊勢の名物に埴輪が加わるそうですけど‥‥本当ですか?」
「何時の間に‥‥」
「えへ☆ 斎王様も着ますか?」
 だがそれは何時もの事で、ルーティは彼の事を気に留めず斎王を呼び掛ければセリアの問い掛けが響く中で振り返った祥子、その話と何時の間にかまるごとはにわを着込んでいたルーティの姿に驚くと、彼女より勧められる衣装を惑いながらもそれを掴むと
「しかし事実、アシュド殿は研究を進めている様だし幾つかの部隊を作れるのではないかと」
「ふむ、そうだな。その可能性は高い、思っていた以上に研究が進んでいる様だ」
「‥‥私、初耳なんだけど」
 ルクスがその根拠を提示すれば、レイもそれに頷けば欧州では有名なお爺さんが羽織る衣装に袖を通して斎王はルーティに帽子を被せられる中で呻くと、彼女の近くにいた面子は苦笑を浮かべたその時。
「に゛ゃー!」
「はいはい、お静かに‥‥ね。それと皆も気を付けてね」
 早々に酔っ払った鳴が叫び、それと共に御身へ雷撃の鎧を纏うと多少なりとも驚く一行だったが、次には早く詠唱を完成させたステラが彼女の頭上に水を精製すればそれを盛大に叩き落とし場の沈静化に一役買うと皆を見回し警告すれば、頷く皆に彼女は笑顔を湛えた。

 こうして騒々しくも、お目付け役がいた事で羽目は外し過ぎない程度に五日間を掛けて行われた相談会に大宴会はやがて、その幕を下ろすのだった。

「やるべき事は、まだまだ一杯かな」
 昇る朝日の中、大きく背伸びをしてハンナは改めて今までの話を振り返りながら呟くと
「そうですね、改めてその事を理解‥‥した気がします」
「全く持って難儀だな」
「土地柄とは言え、悪いわね〜‥‥っと」
「祥子殿、牛乳を飲まれては如何かな。栄養があって健康に良く‥‥背が高くなったり、胸が大きくなると言う話もある」
「ほぅ、それはそれは‥‥」
 同じく話を振り返り混乱するルーティに、蒼牙も肩を竦め同意すれば仰々しく会釈する斎王へ皆は苦笑するも、次に足元をふら付かせる彼女にルクスが声を顰めながら何事か囁けば、何故かほくそ笑む二人ではあったが
「しかし‥‥」
「何時かは全部片付けよー、オー」
 最後に響いたミラとハンナの簡潔だが熱の篭った宣言には確かにそれぞれが頷き応じるのだった、伊勢の闇を何時か払うと誓いながら。

●贈り物に込めた斎王の意
 男性はその体を盾にしても弱き者を護るべく、女性は自らの身を守る為に‥‥としても女性に護身用としても暗器を贈るのはどうかと思ったのは私だけではない筈だ。

 〜終わりは始まり〜

●ピンナップ

大宗院 鳴(ea1569


PC&NPCツインピンナップ
Illusted by n2