辿り着く者

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月28日〜05月03日

リプレイ公開日:2007年05月05日

●オープニング

●伊達男
「ほぅ、ここが京都の冒険者ギルドかな」
「‥‥何用か?」
 何時の間に戸が開いたかは知らず、京都の冒険者ギルドに勤める青年は唐突に響いた声に遅れて気付くと、その声の主へ無愛想に問いを投げ掛ける‥‥開いた戸の向こうから降り注ぐ、今日も眩しい陽光を確認しながら。
「いや失礼、いささか不躾でしたかな。つい先日、こちらに着たばかりで物珍しくてね」
「そのお方がどの様な用件で此方に‥‥」
 その厳かな、と言うよりは何処となく不機嫌さを露わにした問いに対し不意に現れた男性は肩を竦めつつも詫び、自身が此処にまで来たいきさつを掻い摘んで話せば眉根を潜めて訝る青年は再度、尋ねるが
「そうそう、実はこちらに来る途中で立ち寄った村があるのだが‥‥どうやら西洋から渡って来たデビルが暴れていてね。今でも時折にある事からそのままにはしておけないと思った私がそれを退治して貰おうと思い、此方へ足を運んだのだよ」
「悪魔‥‥か。分かった、それでは詳細を聞く前に先ずは名前を聞かせて貰えるだろうか」
 今度はその問いに対し、黒に統一された衣纏う伊達男が率直に答えれば次に響いた青年の問いへ男は名乗りを上げる。
「そう言えば申し遅れていたか、失礼した。私はジーザス会に属するアゼル・ペイシュメントと言う者で‥‥まぁアゼル、と呼んで貰って結構」
「ジーザス会‥‥その割、意外とノリが軽いな」
「生憎と良く言われるので、今更には気にしないよ。だが聖職者の皆が皆、真面目で堅苦しいと言うイメージを抱くのはいささか時代遅れな考え方だな」
 すると帽子を取っては恭しく頭を垂れる彼へ先の仕返しか、青年は皮肉交じりに言葉を返すも‥‥直後、反撃の憂き目に遭って渋面を浮かべたのは言うまでもなくギルド員の彼で
「‥‥それで、詳細は」
「ふむ、そうだな‥‥実の所、良くは知らないのだ。そう言う話を村人から聞いただけで」
 止むを得ずにすぐ話を元へ戻すと、しかしアゼルが間の抜けた答えを返せば思わず彼は瞳を細め恐ろしい形相にて彼を睨むが、それには動じず伊達男。
「とは言え、間違いなくそれは事実だ。確かに村のあちこちには破壊の跡があり、デビルの痕跡も残っていれば村人達の証言も一致している」
「‥‥ふむ。しかし悪魔の痕跡も分かる、か‥‥どう言う事だ?」
「何、こう見えても見聞は広いしジーザス会にもいれば嫌でも詳しくなるのでね‥‥つまりはそう言う事だよ。と言う事で以上なのだが、この件に関して依頼として引き受けて貰えるだろうかね?」
「分かった、引き受けよう」
「それは良かった、では宜しく頼むよ。面子が集まったらまた此方に伺おう。あの村は私もジャパンに来たばかりの頃、世話になったので心配だからね」
 瞳すがめ果たして断言すると暫しの間、彼の目を見つめ‥‥嘘偽りがない事を察した青年がやがて嘆息を漏らせばすぐ、依頼として引き受ける旨を告げるとアゼルは顔を綻ばせては踵を返し、腕を掲げると漸く冒険者ギルドを後にしようとするが
「それと最後に‥‥お節介かも知れないが客商売故にもう少し、愛想は良くした方がいいと思うぞ青年。それではな」
「‥‥‥」
 その歩をすぐに止めると帽子を被り直しながら伊達男は一言だけギルド員へ忠告すると、今度こそ掌を振っては押し黙る青年へ別れを告げるのだった。
「さて‥‥そのお手並み、拝見させて貰おうか」

――――――――――――――――――――
 依頼目的:西洋から渡って来たデビルを駆逐せよ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要なので確実に準備しておく事。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 対応NPC:アゼル・ペイシュメント
 日数内訳:目的の村まで往復二日、依頼実働期間は三日。
――――――――――――――――――――

●今回の参加者

 ea1545 アンジェリーヌ・ピアーズ(21歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea4460 ロア・パープルストーム(29歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea5062 神楽 聖歌(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea6601 緋月 柚那(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea8214 潤 美夏(23歳・♀・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 eb1935 テスタメント・ヘイリグケイト(26歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb2373 明王院 浄炎(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)

●サポート参加者

レティシア・シャンテヒルト(ea6215)/ マキリ(eb5009

●リプレイ本文

●辿り着く者
 京都を発ってより暫く、とある村に潜んでいると言う西洋より渡って来た悪魔と言う存在を放逐すべく、依頼人と共に冒険者達の一行はその村を目指して歩を進めていた。
「月道は便利だけど、こう言うのも渡って来るのは問題ね‥‥って別にデビルが月道を使ったとも限らないわよね」
「案外、諸外国からジャパンまで自力で飛んで来たのかも知れませんね?」
「えーと‥‥」
「‥‥それは、無いだろう」
 最近になって現れたその存在に、ステラ・デュナミス(eb2099)は来訪の目的こそ訝るもジャパンへ至ったその手段に考えが及べば自らが思い浮かんだそれにすぐ自嘲の笑みを浮かべるも、次にのんびりと声を響かせた神楽聖歌(ea5062)の推測を聞けばステラが惑うのは当然として、神に仕えし騎士の寡黙なテスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)ですら思わず突っ込ませてしまう程にマイペースを貫くが
「西洋から渡って来たデビル、か‥‥余り詳しくない故に道中、依頼者殿よりご教授願うかの。折角じゃ」
 しかし緋月柚那(ea6601)はそれを聞きながらも幼いからこそ似合わない渋い表情を浮かべ、今回の依頼に際し初めて臨むデビルの存在に付いて考えあぐねており‥‥やがてその視線を今回の依頼人がアゼル・ペイシュメントへ向けると
「で、名は‥‥あ、あぜ‥‥あぜ道? はて、ジャパン人の様な名じゃのー」
『違う違う』
「アゼル・ペイシュメント、だ‥‥宜しく頼むよ、お嬢さん」
 その名を紡ごうとしてやはり、何時もの様に呂律が回らなければ肩を竦める依頼人は皆が柚那へ突っ込む中、己が名を改めて告げると聞いたその名に彼女。
「まさか、お主も『えげれす』から着たとか申さぬよな?」
「ん、良く分かったな」
「またかー!」
「最近、英国からのお客さんが多いわね」
 不意に思い浮かんだ疑問を尋ねて見ると、アゼルより返って来た肯定の答えを聞けば思わず叫べばステラもまた、今年に入ってからの伊勢の状況を思い出して苦笑を湛えるが、その理由が分からない彼はただ首を傾げるだけで
「所で話を戻したく思うのですがデビルとはこう、角がついて赤いとかそう言うのではないですわよね?」
「さて、一概には何とも。それぞれで特徴が違うのがある意味、特徴だからね」
「面倒臭いですわね」
 次に響いた髭を生やしたドワーフ娘の潤美夏(ea8214)が質問を捉えると、両の人差指を己の額に当てる彼女へ被る黒い帽子に掌を置いて弄りながら、自身も惑いつつ答えると果たして嘆息を漏らす彼女だったが
「しかし妙ですね。破壊の痕跡が分かる程なのに、村人はデビルが居ると言う事を知らせるだけの余裕があると言う事でしょうか?」
「甚大な被害、と言う程ではないからね。尤もこのまま放置していれば‥‥」
「至る所に破壊の跡を残すと言う事は自己顕示欲が強い代わり、頭が軽そうな予感がしますわね。こう言うのはさっさと退治をするに限りますわ」
 当然の様にこれから向かう村が陥っている事態を訝るエルフのクレリックがアンジェリーヌ・ピアーズ(ea1545)の疑問が響くと今度は彼女の方へ振り返ったアゼル、一先ずの状況を告げればまたしても嘆息を漏らす美夏の反応に苦笑を浮かべるジーザス会の彼。
「デビル退治は大天使の十八番じゃない、全く」
「何か仰ったかな、お嬢さん?」
「いいえ、別に何でも!」
 しかし彼らのそんなやり取りは気にせず、ロア・パープルストーム(ea4460)は今回の依頼に辺り、最適な人物がいない事に出発より毒づいていたが‥‥その事は他の皆は知る筈もなく、やはりアゼルにも問われる事となればやさぐれているらしい彼女は八つ当たり気味に彼へ叫んで返すが
「お喋りは此処までだ、村に着くぞ。気を付けて事に臨んでくれ」
「‥‥分かっているわ」
 漸く視界の片隅に映った目的の村を見止めた明王院浄炎(eb2373)がロアを厳しく宥めては皆へ声を掛けると、言い淀む彼女を傍目に件の村へ早く至るべく僅かずつ歩みを速めた。

●調査 〜外部〜
「‥‥ふん」
 やがて村に辿り着くと悪魔達に捕捉される訳には行かない一行は早々に村の内外、二手に別れては件の調査を開始する‥‥と外を回る半数の内、黒く長い髪を揺らし歩くテスタメントは暫く歩いた中で見止められた木々の中に点在する破壊の痕跡‥‥とは言え、地面が抉り掘られていたり木々の幹にひびが走っていれば折れていたりと言った程度だが、それを見据え鼻を鳴らすと
「どうかしましたか?」
「確かに痕跡自体は目立つが、その規則性やらは特に見受けられない‥‥と言う事か?」
「‥‥上手く隠しているか、それとも」
 その理由を問い尋ねるアンジェリーヌに黙する彼の代わり、巨躯を揺すり浄炎が解を紡ぐとその通りだと頷いた後、テスタメントは未だ見えぬ敵のやはり見えぬ真意を読み解こうとするがやがて、嘆息を漏らせば視線を破壊の跡より引き剥がしてアゼルへ向けると再び、その口を開く。
「アゼル、貴方は何かご存知ではないか‥‥?」
「何か‥‥そうだな」
 すると紡がれた抽象的な問いに対し、しかし彼は黒い帽子を弄りながら頭を一度だけ巡らせると
「特には、妙な羽音が聞こえてその音がする方へ見に来てみれば‥‥そう、ここだな。ここでグレムリンが何事かしていたな」
「樹が倒れたり、地面が掘り返されていたり‥‥村の外に残されている痕跡は精々、その程度だけ」
「そうなると単なる悪戯、と言う線も‥‥無いわね」
「亡くなられた者がいる以上な。尤も、悪魔からしてみれば悪戯で事済むのかも知れないが‥‥」
 悪魔を見た時の光景を思い出し、見たままの事を率直に言えばそれを聞いてステラは一つの推測が思い浮かぶも、村へ着いてすぐに無残な死に方をした者が出たとの話を思い出せば呻くとアゼルもまた渋面を湛えるが
「とりあえず、近くに悪魔と思しき存在は感知出来ませんでした」
「‥‥まだ始めたばかりだ、少し念入りに回ってみよう」
 場に漂う、宜しくない空気を払う様に‥‥とは言えデティクトアンデットが空振りに終わっただけは告げるべくアンジェリーヌの声が響けば、頭上に昇る太陽の角度を見た後にテスタメントは皆へ声を掛け歩き出そうとしたその時。
「そう言えば君は神聖騎士だったか」
「あぁ‥‥」
「そうか、そちらのお嬢さんもそうだがやはり近くに同胞がいると安心出来るものだな。そして全容が見えない依頼でも挫けずに取り組む皆の姿勢‥‥期待していいよな?」
 次にはテスタメントへその視線を向け問えば、返って来た簡潔な答えと始まったばかりとは言え困難だろう依頼に四人が最初より変わらずに臨む姿勢には顔を綻ばせると、その答えを誰かしらから貰うより早くアゼルは先を歩き出した浄炎の後を追うのだった。

●調査 〜内部〜
 一方その頃、村の内部を散策する残りの半分‥‥今はその途中にて見掛けた、今は瓦礫の山と化している家屋を見上げていた。
「随分と派手に壊されていますわね」
「‥‥本当ね、一体何を考えているのかしら」
「何も考えていないのかも知れませんね」
「あながち、外れてないのかも知れんのぅ」
 すればそれを前、四人は四人ともそれぞれが思った事を口にすれば始まったばかりとは言え、難航するだろう雰囲気が濃厚である事からやはりそれぞれが溜息を漏らすと
「どうかされましたか?」
「いいや、折角なのであちこちを見て回っているのじゃ」
「そうでしたか‥‥しかしアゼル様がわざわざ、私達にお礼を言う為だけに再び此方へご足労頂けるとは思いますなんだな」
「ま、良い人よね」
 その背後から皆の様子を案じてか、村人の一人の男性より声を掛けられるとそれには平然として柚那が笑顔で応じれば彼は一つ頷いた後、一行が村に滞在する理由を思い出して呟くとその評価を前にロア、果たしてアゼルの態度を思い出せば携えている大振りの羽を手で弄りながら頷いて‥‥次に初めて接した村人へ尋ねるべき疑問を己の内で巡らせるが、ロアよりも早く口を開いたのは珍しくも美夏で
「そう言えば、こちらの端午の節句には独自のものを食べると聞きましたがご存知ですか?」
「あぁ、そう言えば‥‥もうそんな時期なんですね。端午の節句にはちまきや柏餅を頂きますがご存知ですか?」
「名前は聞いた時がありますけれど」
「それなら、後でお持ちしましょう。少し早いですけど、僅かな滞在の様ですからアゼル様と是非召し上がって下さい」
 悪魔が村の内部に潜んでいる事も考えていたからこそ、ジャパンの風習に付いて切り出せば‥‥返って来た正しき答えを聞くなり内心でだけ残念がりながら、しかしそれはおくびにも出さず考え込む振りを見せる美夏に村人は笑顔を浮かべれば四人の前から辞した。
「‥‥中々、根気の要りそうな調査になりそうですわね」
「村とは言えそれなりに広い故、じっくり腰を据えて臨まんといかんのぅ」
「時間もあるとは言えないけど、まぁ何とかなるでしょ」
 その反応を前、彼女は皆で打ち合わせをした時より何となしに思っていた事を改めて実感するも、自身より年下の柚那に諭されればそれでも頷けば何時の間にか懐より取り出した大振りの羽根を太陽へ翳しながらロアは皆へ、根拠なき理由を提示しては再び歩き出した。

●悪夢放逐
 だが二日目の夜、一行は悪魔の痕跡を見付ければ村の外へ出てそれを密かに追っていた。
「漸く見付けた、けどどうしてこの村を」
「さて、そればかりは‥‥直接聞いた方がいいかもな」
 それはステラが村外に設置したミラーオブトルースを前に、一行が遠くから見ている中で真実の姿を曝け出したからこそで、今はそれを追尾しながらその術者が静かに疑問を呟くが‥‥先を歩く浄炎がその歩みを止めると一行の眼前にて集いし悪魔達を見上げてはステラへ答えを返せば、悪魔達が動くより早くアンジェリーヌが詠唱を織るとそれを端に戦いは始まった。
「慈愛の神の名の元‥‥天に仇なす者より御身、護りたまえ」
「しかしたった、これだけなのかの?」
「今はそれより、村へ被害を出さない事の方が肝要ですわね」
「‥‥くっくっく。この程度、この程度で‥‥」
 そしてアンジェリーヌの唱えたレジストデビルが付与されると動き出した浄炎を傍目、彼女と同じ呪文を唱えながら柚那はその数‥‥と言うよりは初めて見る割に漂わせている雑魚っぽい雰囲気を察すると神の御力を付与された美夏が駆け出しながら言えば、静かに嗤うテスタメントを見て柚那はハーフエルフが見せる狂気を前に大きな瞳を見開くが
「その様ね。まぁ色々、気を付けましょうね!」
 彼女の肩を叩き、ロアが落ち着かせると金髪をはためかせては己もまた皆を支援すべく紅蓮の呪文を織り紡いだ。

「‥‥しかし皆目、見当が付かないわね」
「稀にあった破壊の痕跡‥‥あれは今、退治した悪魔が付けられるとは到底に考え難い」
「そうなると黒幕はまだ、この辺りに」
 やがて戦いは終わる、数の差が多くなければ力量の差が歴然としているからこそそれは瞬く間に‥‥だからこそステラが訝れば浄炎もまた村の内外にあった、著しい破壊の跡を思い出して呟くと未だ緊張を解かないアンジェリーヌの声が響くと同時、聞き慣れぬ声が場に響き渡る。
「やはりこの程度、物の数ではありませんでしたか」
「よくもまぁ、堂々と」
「折角の機会なので挨拶だけでも、と思ったのですが‥‥」
 その声は果たして漆黒の空より響いてくれば、頭上を見上げては月光の中に浮かぶ影を見てロアは異形のそれを前、強気に嘆息を漏らして見せるが‥‥微かに震える彼女を見止め悪魔は尚畏まるも、突如吹き荒ぶのは氷の嵐。
「ふむ、どうやらまたの機会にした方が良さそうですね」
「まだ目的を聞いていないし、そう簡単に逃がしは‥‥」
「これでも、ですか?」
 ステラが放ったそれはしかし何時張り巡らしたか、黒炎の結界にて全てを無効化すると涼しい声で嘆息を漏らすがそれでも食い下がらず、柚那が詰め寄るも‥‥一行の反応を前にその悪魔は背に生やす孔雀の羽の裏に背負う、今は気絶するアゼルを掴み差し出せば呻く皆を前に緩やかな声音にて悪魔は告げる。
「分かって頂けた様で幸いです。因みに今回の一件は非常に簡単なもので、単なる暇潰しですよ。この地に慣れるついでにね。なので私は戦う気等、今は毛頭ありません」
「本当の狙いは一体、何だ‥‥」
「さて、そればかりはこれから検討するので何とも。一先ず、貴方は邪魔なので暫く動かないで貰えますか?」
 しかしその存在が許せる筈もないテスタメントが未だ奔る狂気の中、辛うじて疑問だけ紡ぐとほぼ同時に地を蹴れば‥‥しかしそれには応じながら、また先とは異なる呪文を一瞬で完成させた悪魔は彼の動きを留めるとアゼルの身をも一行へ投げ返し、己が名を告げて悪魔は漆黒の空に浮かんでいたその身を一瞬で掻き消すのだった。
「それでは名残惜しいですが、この辺りで‥‥我が名、アドラメレク。その名は是非、覚えて置いて頂こう」

●伊達男、辿る先は
「亡くなられた尊き魂が天上へと無事、至ります様に‥‥」
 潜んでいた悪魔を無事、駆逐ないしは放逐する事に成功した一行はそれより多からずとも犠牲になった村人の為、アンジェリーヌが主導の元で一心に祈りを織っていた‥‥此処にいる村人達をも安らがせるべく。
 だがそれも何時か終われば、一行は京都へと戻るべく出立の準備を整えては悪魔が潜んでいた村を後にする。
「そう言えばこれから、どうされるんですか?」
 その道中、皆と共に京都へ至る道を辿るアゼルへ聖歌は何となしに問うと
「暫し京都で休んだ後、伊勢へ行こうと思っている」
「どうしてまた?」
「ジャパンの宗教的中枢と言っても過言ではない伊勢、折角ジャパンにまで足を運んだのだから是非見たいと思うのは当然だろう」
「当てはあるの?」
「さて、特にはないがまぁ伊勢に着いてから考えるさ」
「伊勢、ねぇ‥‥」
「どうかしたかね?」
『碌な事、ないわよ』
「‥‥そんな事を言われると余計に気になるものだな」
 返って来た答えを聞いて首を傾げたのはロアだったが、更に明確な答えが返って来ると更なる彼女からの問いに伊達男は今度、肩を竦めて見せれば次に響いたステラの言葉を聞くと彼女へ視線を向けたアゼルは、その抑揚の無い調子に訝り尋ねると次には伊勢を知る面々より揃い返って来た言葉を聞けば、物怖じせずに彼は微笑むも
「まぁ‥‥何はともあれ、今後も無事である事を祈りますわ。取って食われても知りませんが」
「何にだね?」
「それは此処で明かしても詰まらないので言いませんわ。是非、その目で確かめて下さい」
 その様子を前に美夏、涼しげな表情のアゼルへその身の無事を祈念すると直後、余計な一言も沿えれば当然ながらに食いついて来た伊達男へは意地悪げな笑みを湛え、彼女はその答えは最後まで伏せるのだった‥‥昨夜の一件を今だけは払拭すべく。

 〜終幕〜