古樹鳴動

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:6 G 75 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月30日〜05月10日

リプレイ公開日:2007年05月09日

●オープニング

●花見の折に
 京都より程好く離れ、且つ人里も遠い静かな静かな山の中‥‥殴られ屋の京香は一人、携えて来た酒を飲んでは花見酒と洒落込んでいた。
「やっぱ、花見は静かな方がいいわねー」
 まぁ普段より好んで徒党を組む事こそないが、年に一度しか見られないからこそ今日だけは一人で感慨深げに舞う桜の花弁を肴に何杯目かの杯を煽った丁度その時、何処かで木の枝葉が激しく揺れては大きな音を奏でる。
「うわっ、誰!?」
 すると唐突に鳴り響いたその音に対し、人気がない山である事を知っているこそ気を抜いていた京香は驚き即座に立ち上がれば刀の柄を掴み、辺りへ視線を配すると未だ響く音の元を捉え、そこに佇む一本の緑生い茂る木が己の枝を懸命に揺すっているのを見止める‥‥風も吹いていないのに。
 しかしそれは彼女が見守る中でもその木はまるで自身、命があるとでも言わんかの様に枝葉を揺する。
「もしかして‥‥」
 そしてその木を見つめながら、暫し頭を巡らせる京香はやがてある事に思い至るもしかし、『話す』手段がない事にも同時に思い至ると浮かべていた愉しげな笑みはすぐに消せば、再び考え込んだ後に飲み掛けの酒をその場へ残したまま、踵を返すのだった。
「桜舞う季節柄、殴られ屋の仕事もなかったし丁度いいわね‥‥面白そう」

 それより一週間も経たない内、京香は京都の冒険者ギルドへ足を運んでいた。
 その用件は無論、冒険者の手を借りてとある依頼人より引き受けた依頼を果たす為。
「‥‥もう一度、確認させて貰うがいいか」
「いいわよ」
 その彼女が持ち込んで来た依頼を一通り、聞き終えてからギルド員の青年は内心で頭を抱えつつ、改めて確認を取ろうと口を開けば頷く彼女へ向けて再び厳かな口調にて京香が先に紡いだ依頼内容を反芻する。
「春の陽気で浮かれているらしい鬼達を追い払って欲しい‥‥で良かったな」
「そうね。敵の力量は大した事ないんだけどその数が馬鹿多いから一人じゃどうしようもなくて、だから宜しく」
「‥‥しかし何故、こんな依頼を。いや、何故元の依頼人が人じゃあない?」
 内容自体は至って簡潔で‥‥何となく渋っている青年の気持ちは今こそ分からず、しかしそれは気にせず頷いた京香へ不平と言う訳ではないものの青年が再び疑問を発すれば、周囲で傍耳立てては話を聞いていた面子は彼の発言から漸く京香が依頼を引き受けて来た、元の依頼人に見当が付くと
「木魂からの依頼?」
「そう言う事、ひとりでに枝葉が揺れたんだからそれか人喰樹しか考えられないじゃない。でも襲ってくる気配がなかったから木魂だと思ってテレパシーの魔法が使える友人を無理矢理連れて来て、改めて話を聞いてみたらそう言った事情でね‥‥尤も木魂は簡単な会話のやり取りしか出来ないから、辺りをちゃんと調べて確認した上で持ち込んで来たんだけど?」
「しかし、な‥‥」
「そんなにブチブチ言わないでよね。確かに依頼人は変わっているけど数が数だから五月蝿いし、食べ物は食い散らかすわ、辺りの木々は傷付けるわで困っているんだって言うしそれなら助けてあげないと!」
「そう、だな。しかし木魂からの依頼とは前例が‥‥」
 その内の一人が口を挟めば頷き京香、その一切合財を皆の前にて話すが未だ言葉を濁らせるギルド員の青年の態度にいよいよ持って京香は彼へ憤慨しては詰め寄ると、ただでさえ大きい声を更に張り上げ叫ぶ彼女を前にしても尚渋る青年だったが
「しかしもかかしもなし! 偏見は良くないわよっ!!」
「‥‥‥」
「じゃあいいわね、後は頼んだわよっ!」
 京香の剣幕の前ではその抵抗はささやかなものに過ぎず、最後には京香に指を突き付けられては至極全うな事を言われるとそれ以上返す言葉なく、彼が沈黙すれば彼女は最後に間違いなくそれだけ告げるとやはり青年の答えを聞くよりも早く踵を返してその場を後にするのだった。

 後日、これは依頼として受理される事となれば早くに京都の冒険者ギルドに張り出されたのは言うまでもない。

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 依頼目的:鬼の大集団を追い払え!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要なので確実に準備しておく事。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 対応NPC:殴られ屋の京香
 日数内訳:目的の山まで往復二日、五日以内に解決の事。
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●今回の参加者

 ea7278 架神 ひじり(36歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea9850 緋神 一閥(41歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0406 瓜生 勇(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1872 瓜生 ひむか(22歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3367 酒井 貴次(22歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3402 西天 聖(30歳・♀・侍・ジャイアント・ジャパン)
 eb3917 榊原 康貴(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb5009 マキリ(23歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb6553 頴娃 文乃(26歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb8467 東雲 八雲(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

井伊 貴政(ea8384)/ 本多 文那(ec2195

●リプレイ本文

●鬼が潜む山
 京都より離れた所にある、然程高くない山‥‥と言うよりは丘と言っても過言ではないだろうその場所にて近頃、何処より来たかは知れずとも未だ居座る鬼の群れを追い払うべく木魂の願いを受けた冒険者達はその山を目指し、歩みを着実に進めていた。
「随分と面倒な事になっているわねぇ‥‥」
「面倒も何も‥‥結構、やばいわよね」
「何でそんな事になったのかしら」
「さぁね、そこまではあたし一人じゃあ分かる筈もないから今の所は何とも」
 そして道中、改めて詳細を話す木魂の請負人が殴られ屋の京香の後を継いで艶っぽい声を響かせた頴娃文乃(eb6553)へ同意して彼女は立て続けに響いた僧侶の次なる問いには今度、肩を竦めて見せると
「ふぅむ、厄介な事にならなければいいが‥‥」
「やる前から随分と弱気ねぇ、しっかりして頂戴よね」
「‥‥とにかく、今回も宜しく頼む」
「そっちはそっちで何か辛気臭い顔だし‥‥全く」
 壮年の侍が榊原康貴(eb3917)の発言には喝を飛ばし、何時もの様に挨拶を忘れない東雲八雲(eb8467)の、何処か怯えた風に聞こえなくも無いそれには一瞥だけして鼻を鳴らす辺り、京香は普段と何ら変わらない様子が窺い知れるとうな垂れるのは男二人。
「でも、木魂さんからの依頼だなんて不思議だね」
「ま、ね。でもたまにはこんな依頼もいいんじゃない?」
「それにしても京香さんのお節介は‥‥本当に幅が広いですね」
「だって花見ももうお終いでしょ、退屈凌ぎに‥‥ね」
「そうですか」
「‥‥なーんか、引っ掛かる言い方ね」
 そんな傍ら、パラの射手がマキリ(eb5009)の自然に出た言葉へは京香、僅かに微笑むと彼女のその反応を前に緋神一閥(ea9850)が言葉の割、湛えている表情には呆れを微塵も見せず言えばそっぽを向いて答える京香へ静かに微笑を湛えると、呻く様に言葉を返す彼女だったが
「京香殿、目的の山とはあれじゃろうか?」
「‥‥えぇ、そうよ。それじゃ、気を引き締めていきましょ」
 紅の軽装鎧に身を包む架神ひじり(ea7278)が目の前に見えた山に付いて尋ねられればまたしても鼻を鳴らしつつ、だが彼女に応じれば足音も荒く皆の前に立って導くのだった。

●古樹鳴動
「この辺りなら、大丈夫そうだね」
「それなら最後のもう一度、摺り合わせだけしようか」
 やがて、山だか丘へ入った一行はマキリらの案内で安易には見付からないだろう場へ至ると占い道具を広げる酒井貴次(eb3367)の提案が元、最後の打ち合わせを行う‥‥何せ数が数、下手を打って全面対決とも成れば敗北は必須であるからこそ、それは当然と言えよう。
「鬼の群が三つで、しかも数が多いのじゃ‥‥まともにやりあっても山鬼戦士相手じゃと私でも大変な筈じゃが、更に取り巻きもいるのではたまらぬのぅ」
「ま、あたし達だけで正面からぶつかったんじゃあ無理よね」
「まともに戦うのは考えたくないなぁ‥‥」
 その最初、先ずは木魂を通じ京香から聞いた鬼達の数を思い出して指折り数えながら西天聖(eb3402)はその大柄な体の割、何処か怯えた雰囲気を宿し紡げば頷く京香も嘆息を漏らすとマキリもまた同意だと頷けば当然、相対した時の対応に付いては全会一致となれば
「一先ず、鬼達が居座るその理由を探るとしようか」
「そうですね、それが分かれば手の打ちようは幾らでもあると思いますし」
 次には最初こそ弱気な影を僅かだけ見せてしまった康貴が紡いだ確認にはやはり貴次を筆頭に皆、頷くと
「さて、それでは一つ鬼退治‥‥と行きましょうか。とは言え、今回は力比べより知恵比べ‥‥でしょうかね?」
「そうじゃな、それでは依頼を無事に達せられる様‥‥先ずは各々に課せられた役目を果たすとするか」
 一本の樹に寄り掛かっていた一閥がその身を引き剥がし、皆へ尋ねると頷いたひじりがそれぞれに檄を飛ばせばいよいよ一行は数多いる鬼達を追い払うべく動き出した。

「木魂から話を聞いた、との事でしたが一体どの樹でしょうか?」
「あーと、えーと‥‥あぁ、あれあれ!」
 それより一行はすぐに動き出すと先ずは瓜生ひむか(eb1872)の提案にて本来の依頼人‥‥と言うには違うかも知れないが、木魂の居場所に付いて京香より案内を受ければ一本の大樹の前へ辿り着くなり早速、念話を試みるべく呪文を織り紡いでは挨拶を交わす彼女‥‥だったが
『‥‥こんにちは、木魂さん』
『早速聞きたい事があるのだけど、鬼達はそれぞれ分かれて何をしているの? どの様な場所に散っているのですか? 夜間等はどの様に過ごしているのでしょうか?』
『‥‥ちょ、一寸は、早いんだな‥‥』
 それより大した間も置かず、すぐ後に疑問を連呼すれば木魂を早速たじろかせるのだった。

 それから暫く‥‥。
「ひむか、何か分かった?」
「今の所、鬼の目的に繋がる様な事までは‥‥特に」
「そう‥‥」
 一先ず二手に分かれ、木魂の近くを中心に木々や草木から魔法にて話を聞いては戻って来た瓜生勇(eb0406)、木魂と未だに話を続けているのか妹へ声を掛けると返って来た答えに思わず嘆息を漏らせば
「勇お姉ちゃんも?」
「まぁ、色々と分かったのだけど‥‥益々鬼達の目的が分からなくなってね。人気がなければ人里も遠いし、こんな所で何をしたいのかしら?」
「そうだね‥‥」
 姉の反応を前にひむかは彼女の結果を尋ねてみると、自身が得た情報とほぼ同じ話を語った勇はその最後に頭を巡らせれば紡いだ言葉に同意するとその時。
『ね、ねぇ』
『ん?』
 陰陽師の頭に直接、響いた声は果たして木魂のもので‥‥その呼び掛けに応じる様、ひむかは振り返っては首を傾げると
『‥‥よ、良く分からないんだけど、此処は人気がないから‥‥先ずは自分達にとって、棲み易い様に、し、しようとしているんじゃないかなぁ』
『それで、その後は?』
『‥‥そこまでは、わ、分からないんだなぁ』
 次に響いた推測を聞けば考え込みながら、しかし再び尋ねると流石にそこまでは予想が付かないか木魂はのんびりした調子で答えると唐突にひむかはその場に倒れこむのだった。
『あ、あ、あ‥‥だ、大丈夫なのかなー?』
 切迫しているだろうその割、緊張感のないのんびりした調子にて言葉を紡ぐ木魂が呼び掛ける中で‥‥尤も、常にこんな調子での会話だったからこそ貧血気味の彼女が倒れたのかも知れないが、それは誰にも分からない。

●頭脳戦
「それならそれでも、追い出す方向にて動くとしようかの」
「賛成!」
「そうなると後は鬼達の居場所や動向を極力、把握しておきたいのですが‥‥」
 とは言え、やるべき事は変わらないとひじりが皆へ告げればマキリも賛成するとこれより取る行動故に一閥が皆を見回し言えば
「それなら、あたしがするわよ」
「なれば早速‥‥作戦開始じゃな」
 勇が頼もしき言葉響かせる中で聖が皆を促すと、それぞれがやるべき事を成すべく山中を揃い、駆け出した。

「えーと‥‥とりあえずはこんな感じでいいかな?」
 と言う事で早速、山中へ視線を移せば木魂より聞いた鬼達が現れている大よその場所のあちらこちらに足跡を残せば、乾いた木の枝に灯した火を消すマキリの姿が見受けられれば
「そっちはどう?」
「えぇ、今しがた焚いた焚き火を消した所です」
「こっちも問題ないわよ」
 離れた場より戻って来た一閥と文乃へ問うと、二人より返って来た答えに頷く彼だったが
「うーん‥‥しかしまだるっこしいわねぇ」
「それなら、鬼退治をよろしくね」
「‥‥流石にあたしでもあれは無理」
「じゃ、我慢なさいな」
 一行の手伝いをしながらも退屈なのか、京香が欠伸を漏らしながら呟くと文乃が笑顔で返せば‥‥それには半眼を湛えて答える殴られ屋だったが、あえなく一蹴されれば頬を膨らませる京香。
「‥‥とりあえず、鬼達が動いているだろう痕跡があった辺りに頑張って此方も足跡を残して来た」
「お疲れー、地道だけどコツコツとやっていかないとね」
「存外、骨が折れますね」
 そんな事は露知らず、一足遅く場に戻って来た八雲が皆へ報告する中で彼女にけたぐられる事となれば唐突な暴力を前に彼が目を剥くと、その光景に笑いながらマキリが八雲を労えばしかし、大勢の人がいる様に見せ掛ける痕跡を作るべき場所が未だ半分にも至っておらず、また地味な割に辛い作業から真面目な貴次でも嘆息を漏らすのは当然だったが
「それでも、あれだけの数を相手にするよりは楽だと思うけどね」
「確かに‥‥それでは、もう一頑張りしてみますか」
 彼の嘆息の後に響いた勇の声を聞けば貴次は一つ伸びをすれば皆を見回し、残る場へ細工を施すべく皆を促した。

 しかしその中、意識合わせの際に多からずとも齟齬があったか僅かに乱れた足並みを取った一行は遂に鬼達と遭遇してしまう。
 尤も、そうでなくとも鬼達を追い払う為に一行が取った行動は目立つもので、頭が働くのであればある程度の人員を裂いて警戒に当たるのは当然であり、京香より聞いていた数の大よそ三分の一を前にして一行。
「‥‥意外に冴えておる様じゃの、不穏な山中の動きを察しての偵察であるとすればじゃが」
 全数ではないからこそ安堵しながら、しかしその動きを前に予想出来る事を口にしては舌を巻いてひじりが瞳を細めるも
『貴方達は何をしているのですか? 何かあれば手伝うから教えて下さい。でも、用が済んだら出て行って欲しいのです』
『‥‥お前らこそ、出て行け。ここは、俺らのもの!』
 その間にひむかはテレパシーにて鬼達へと未だ分からない鬼達の目的に付いて問い掛けるが‥‥しかしそれには歯を剥いて応じた鬼達、次には己が得物を掲げると歯を剥いては冒険者達を威嚇する。
「‥‥引く気は、なさそうじゃのぅ」
「全部が全部、と言う訳ではありませんからまだ大丈夫なのでしょうけど‥‥それでも戦力差は大よそ、三対一ですか」
「場所さえ変えれば、これ位は何とかなると‥‥思います」
 それを前に聖が嘆息漏らせば一閥は厳しい表情を湛えたまま、冷静に置かれている状況を把握しているからこそ誰へともなく尋ねると‥‥それに貴次が応じれば皆へ目配せすると同時、一行は惑う事無くある場所を目指して駆け出した。
 少しでもこの数的な差を軽減する為に。

「真正面からは流石に無理でも、地形の利点を生かし工夫を凝らせば‥‥」
 やがて場所を変え一行は群れる鬼達と刃を交える‥‥その中で八雲は自身が得意とする重力波を掌から放っては一匹の鬼を屠り、後方を見据えると
「案外、何とかなるものだな」
「その落とし穴、あたしが作ったんだけどね」
「‥‥感謝する」
 所々に魔法にて拵えていた落とし穴や冷気の領域にその動きを鈍らせている鬼達を見つめボソリ、呟きこそするも‥‥それには勇が反論すると頷いては彼女へ礼を告げる八雲だったが数こそ減じているとは言え未だに鬼達の半数以上は健在で、やがてそれと正面を切って激突する一行。
「退いてはくれぬかの、痛いのはお互いに嫌じゃろうて」
 その中、聖は尚も刃交わしながら鬼達へ穏やかな声音を響かせては説得を試みるも‥‥念話を通じてのものでなければそれは当然に通じる筈もなく、尤も分かったとしてもそれが通じたかは定かではないが対する鬼が得物を引かない以上、巨躯の志士も漸く腹を決めれば
「仕方ないの。それでは、覚悟するのじゃ‥‥決める、弐閃斬!」
「へぇ、やっぱ結構やるわね」
「何、まだ京香殿には適いそうにもない」
「ふふん、そう言っている内はまだまだね」
 立て続けに放ったのは剣閃二筋‥‥一閃こそ凌ぐ鬼だったがもう一閃までは凌げず、それを前に膝を屈すれば細身の刀を片手に携えて戦場を疾駆する京香がその光景に僅か、感嘆するも謙遜する康貴の声をその耳に捉えれば彼には鼻を鳴らして返す彼女へ
「その通りじゃ!」
 ひじりも京香の言葉に同意と頷き、声を高らかに上げれば
「確かに数は多いが、この程度で己が歩みなど止められる筈がなかろうに‥‥目指すべきこの道の先を見据えているのならばのぅ!」
「‥‥そうですね」
 対する山鬼戦士を前に、熾烈にて強烈な斬撃を小太刀にて凌ぎながら皆を鼓舞する様に叱咤すると彼女に加勢して一閥が静かに同意すれば次には紅蓮を宿した刀翻し、地を走らせては逆袈裟を閃かせると漸くにして山鬼戦士を打ち倒せば、それを機に‥‥また数を著しく減じてきた鬼達は後退を始めるが
「逃がさないよっ!」
 これ以上の増援は呼ばせる訳に行く筈もなく、樹上にて正確に鬼達を射抜いていたマキリがもう何本目かの矢を放ち後退を許さなければ、一行は死力を振るうのだった。

●そして、結局の所‥‥
 鬼達の放逐はその戦闘を経たからこそ成され、更にと手を休めずにひむかが数多の兵がいるかの様に見せ掛けるべく、鬼達よりも多い数ののぼりだけの幻影を展開すれば暫し‥‥一つ所に蟠っていた大半の鬼達は諦めてか、漸く山より去っていった。
「やぁっと、去ったわね」
 それを魔法にて感知した勇が溜息交じりに言葉を紡ぐと皆は揃い、次には安堵の息を漏らすが‥‥直後。
「でもさぁ、あの鬼達‥‥一体何処へ行くんだろうねぇ」
『‥‥あ』
 唐突に脳裏を過ぎった不安を文乃が紡げば言葉を詰まらせて皆、次には揃って呻くと場に沈黙が下りるも
「ま、なる様になるでしょ。楽観論、と言う訳じゃないけどこれに懲りたなら暫くは大人しくしているんじゃないかしら? もう一寸、懲らしめておけば良かったかなとは思うけどね」
「‥‥今となってはそう思う他に無いか」
「何、また悪さをしたとなればその時にまた懲らしめてやれば良いだけじゃ」
「そうね」
 それでも京香が肩を竦めながらその沈黙を破ると、過ぎてしまった事だからこそ康貴が顎に蓄えている髭を撫でながら呟けばひじりも前向きに捉えると頷く他にない一行は一先ず、木魂へ報告すべく踵を返すと
「そう言えば腰に下がっているそれは‥‥」
「何だろうね、拾われた時に持っていたって言う話なんだけど‥‥あたしも良く分からないわ」
「変わった根付だね」
「まぁね」
 その中で八雲がふと、京香の腰の辺りで揺れた一風変わった形の根付に目を止め尋ねると、それには当人も首を傾げれば笑顔を湛え言うマキリに苦笑を返す彼女だったが
「とにかく、お疲れさん。今回も助かったわ」
「‥‥今度もまた、楽しみにしていますね」
「それ、当て付けかい?」
「いいえ、そんな事はありませんよ」
 次には皆を見回して、一先ずは無事に終わっただろう事から改めて礼を言うと‥‥それに表情を綻ばせては違う答えを返す一閥へ京香は半眼を湛えては彼を見据え尋ねると、否定する火の志士へ彼女は呻くが、次に笑う皆へ溜息を漏らしぼやきつつ笑顔を浮かべるのだった。
「‥‥全く」

 〜終幕〜