黒不知火
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 10 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:05月02日〜05月14日
リプレイ公開日:2007年05月11日
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●オープニング
●燃え上がる、黒き焔
振るわれるのは黒き刃、舞うは闇の中。
揺れ、飛ぶ木の枝の中でも崩れ落ちる妖怪達‥‥そして荒れる、息。
「はぁ、はぁ‥‥」
黒と朱にだけ染まる刀は携えたまま、その主は域を荒々しいままに整える事はせず辺りの空気を貪るも‥‥その黒き刀、心もとない星明かりの中でもその存在を誇示する様に怪しく煌く中、それを扱う伊雑宮が宮司の息子の矛村勇は至って気にせず一振りして朱だけを払うとやがて、黒き刀を地に突き刺して荒々しく咆え猛る。
「此処にもいない、か‥‥っそぉ!」
しかし返って来るのは沈黙のみで‥‥それを前に今更、周囲に敵対する存在がいない事に漸く気付くと彼は漸く刀を鞘に納めれば、呪詛をその口から紡ぎ放った。
「父の仇があの天魔だけは絶対にこの手で‥‥霊刀『黒不知火』で葬ってやる」
●闇、滞る?
一方の伊勢に蔓延る闇、蟠りを見せるのは此処最近の話ではなく‥‥とは言え完全にその動きを留めている訳でもない。
「‥‥って感じだけど、どうします?」
「今の内に己を磨き鍛え上げて貰わねば困るからこそ、まだ捨て置いて構わないだろう。それよりも」
さて、伊勢の何処かの闇の中で響いたのは果たして妖孤の一匹のものに間違いなく、その報告‥‥矛村勇の動向に付いて天魔へ示せば、彼は簡潔に指示を下すと話題を別な方へと向ける。
「顔見せを前にとんだ歓迎を受けたものだが、さて‥‥『来訪者』の出迎えはどうしたものか」
斎宮跡を前に邂逅する筈だった新たな客の対応に惑いの表情を湛え、どうすべきか考え込みながら‥‥。
●それは知らずとも、手を打つべき斎宮
京都、冒険者ギルドにてギルド員の青年と面を突き合わせているのは伊勢が斎宮の使い、神野珠。
「矛村勇の捜索、か」
「もういかんせん、斎宮だけじゃあねぇ。こっちもそうだけど、勇も伊勢に付いてはそれなりに詳しいし『闇槍』も今は出払っちゃっているから尚更に人手が足りない訳で。それに黒門が吐いた事も気になれば‥‥」
「漸くか。で、一体何を」
「伊勢転覆の為にあちこちでその姿が見受けられた天魔に従い、伊勢内部の情報収集に勤めていた‥‥とかね」
「ふむ。そうなると尚更、下手には人を動かし過ぎる訳には行かないな」
「そう言う事、って事で人手を貸して頂戴‥‥今更だけどさ」
掻い摘んだ依頼の内容を聞いて彼は久々に聞いた名故に天井を仰ぎ見ては呟くと、自身知り得る事を話した彼女はその最後、両手を掲げ降参のジェスチャーを示すと青年はそれ以外の事も察して言葉紡げば嘆息を漏らす彼女。
「分かった、早急に手配しよう」
「ありがと。で皆の行動に付いてだけど一任するから気張って頂戴とだけ伝えておいてね。私は私で別にやらなきゃならない事があるから此処もすぐ、お暇するんで」
「そうなると何かあった際の窓口は‥‥?」
「んー‥‥そうねぇ」
珠も久々に見たとは言え、以前より何処となく精彩を欠いた表情を見れば青年が即断するのは当然で、それに感謝して彼女は頭を垂れるも次に紡がれた青年の問い掛けを聞けば頭を巡らせる事暫し。
「伊勢藩主、しかいないわよね。暇な人間は手伝わせるし‥‥うん、それに関してはお願いしておくわ。じゃ、宜しくねー!」
思い当たる人物が一人しかいない事に気付くとその名を挙げては一人頷いて珠、多からずとも悩みの一つが一端を担って貰えた事に安堵してか、来た時よりも足取り軽く冒険者ギルドを後にするのだった。
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依頼目的:矛村勇を探せ!
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要なので確実に準備しておく事。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
対応NPC:神野珠(同道せず)、藤堂守也(同道せず、但し当依頼においての窓口)
日数内訳:伊勢まで往復五日、依頼実働期間は七日。
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●リプレイ本文
●探し人は誰ですか?
京都、冒険者ギルドを前に集った冒険者が六人はこれより伊勢にとって重大な影響を与えかねない人物の捜索に臨もうとしていた。
その人物、伊雑宮の宮司が息子の矛村勇は先日、新たに封印が施された六つの要石の封印を唯一破壊出来る霊刀『白焔』と対になる霊刀『黒不知火』を持っており、伊勢の何処に潜んでいるか分からないからこそ、彼を少なからず知る冒険者へも協力の要請があった次第で
「さて。最近気を張ってばっかだったし、ある程度は息抜き出来るかね」
「息を抜いて貰っては困るのだがな」
「全くです」
「出て来ましたね、やる気のない虫が」
「信じられない」
「お腹が空きました」
「最後は関係ないが、無論息抜きで伊勢に行く訳でない事は分かって‥‥」
しかし何時にもまして緩んだ表情を湛える侍に見えないらしい鋼蒼牙(ea3167)が呟くと銀髪を靡かせガイエル・サンドゥーラ(ea8088)が冷淡に嘆息を漏らし、彼女に同意して大柄な忍びの緋芽佐祐李(ea7197)が呆れ、彼の同僚がルーティ・フィルファニア(ea0340)は瞳細めると、軽蔑を露わにイシュメイル・レクベル(eb0990)が彼を睨めば、一人だけお腹を鳴らして空腹を訴える大宗院鳴(ea1569)には突っ込み彼は先の言葉を訂正するも、皆の変わらない表情の前には止むを得ず話題を逸らす。
「で、探し人の似顔絵だが」
「これっ!」
「‥‥せめてもう少し、特徴が分かる様に」
その話題、探し人である矛村勇の似顔絵に付いて知らない者が当然にいるからこそ振ってみると、勢い良く一枚の和紙を掲げたイシュメイルのそれを見て皆は絶句する‥‥それもその筈、へのへのもへじに等しき出来栄えだから先とは立場を逆に、彼は嘆息を漏らすと頬を膨らませるイシュメイルだったが
「なら、こんな感じでしょうか?」
彼へ助け舟を出すべく、ルーティが何時準備してか筆を墨に浸しては眼前に置かれている和紙へ筆を走らせれば、それを皆が見守る事暫し‥‥またしても沈黙が辺りを包む。
「なぁ、さっきから何かの謎掛けか?」
『酷いっ!』
「‥‥こっちの方が早いだろう」
その恐ろしい出来栄えに蒼牙は我慢出来ず、深い溜息と共に告げればルーティとイシュメイルが揃い叫ぶも、詠唱を織り紡いでいたガイエルがファンタズムの巻物にて探し人の幻影を生み出すと
「ふむ、なるほどな」
「後は詳しく知る者で絵が上手く描ける者に頼んで記して貰うといい」
「それでは、早急に動きましょう。この件は伊勢にとって非常に重要ですから」
それには頷く蒼牙へガイエルは改めて言えば、佐祐李が皆を促すべく告げると漸く一行は動き出したその中。
「漸く機会が巡ってきたのだから、絶対に‥‥」
勇の事を信じているイシュメイルが密かに、自らが望んでいた機会を前にして決意を固めれば伊勢を守る為、勇を止める為に彼は一番に駆け出すのだった。
●京都
「やはり、目立った物はありませんね」
「接収された後だろうから、当然か」
黒門邸の中へ足を踏み入れたのは佐祐李とガイエル、昔こそ様々な調度品があっただろう部屋の中は今となっては何もなく、しかし何らかの手掛かりがを求めて二人は一つ一つの部屋を隈なく探せばやがて一番に広い部屋へ辿り着くと
「一体此処で、誰がどんな話をしていたのでしょうか」
「黒門とその部下達、そして天魔も来ていたのだろうな。話の内容に付いては概要こそ分かるが‥‥」
「伊勢を混沌に陥れる事、しかし何故そんな事を考えたのでしょうか?」
「伊勢を潰す事で混乱するのは京都御所と神皇、此度の騒乱は伊勢を足掛かりにジャパン全土を‥‥いやまさか、そこまで考えが及んでいるとは」
そんな折に分かる筈もない疑問を何となく呟いたのは佐祐李で襖を開けては屈み部屋の中へ入ると、その背中の方からガイエルが今までの経緯を思い出しながら言葉を響かせるとその途中を引き継いで巨躯の忍びは辺りへ視線を配しながら天魔が告げたと言うその目的を反芻すると最悪の事態を想定し、しかしすぐに頭を左右へ振るガイエルに
「しかし、もしそうだとしたら」
「その時は、天照大御神を呼ぶ他にあるまい」
佐祐李は彼女の方を見て呟くと、その時は神頼みしかないと冗談交じりに言うガイエルは肩を竦めるが、冴えない表情ながらも早く部屋の探索を終えた佐祐李は立ち上がると
「とりあえず、伊勢藩の方がしっかり仕事をしている事が確認出来ただけ此処は良しとしましょうか」
「そうだな。時間もあるとは言えない以上、伊勢へ向かおう」
黒門邸の捜索に見切りを付ければ、頷くガイエルと共に二人は皆より遅れ伊勢を目指すべく、静かな邸宅を後にした。
●斎宮周辺
それより伊勢へ辿り着いたガイエルと佐祐李は実際に勇の捜索に携わっていた人達を当たり、詳細な情報を仕入れていた。
「やはり、当たりを付けるのなら先ずは伊雑宮だったか」
「彼が生まれ育った場所ですから、そう簡単に離れられないのでしょうね。それに昔から知るからこそ、今まで上手く身を隠す事が出来た」
「そうだな」
聞いた話を思い出しながら斎宮を後にする二人、伊雑宮にて時折に人影を見たが捜し切れなかったと言う話を聞き、慌しい斎宮の状況を察しつつもガイエルが呟けば頷き合う二人。
「幸いにも伊雑宮の周辺には向かっている者もいる事だし私達はこのまま、天魔を探す事としよう」
「えぇ、彼らの動きも補足しなければなりませんからね」
次いで皆の行動を思い出しては改めてやるべき事を定めると二人は天魔を見付けるべく、妖がこぞっている場を求め歩き出した。
「細身にして漆黒の刀が黒不知火、伊勢を混乱に陥れる事も出来るあの刀だけは何としても」
話にだけ聞いた、黒不知火が持つ力に畏怖を覚えながら。
●伊勢神宮
伊勢神宮、蔵書の数々があるその一角にて鳴は斎宮の幹部が神野珠と向き合い己の疑問の解消に励んでいた‥‥それがひいては伊勢を救う鍵になると信じて。
「二振りの霊刀、白焔と黒不知火。それが存在する真意とは一体」
「さて、それ以上は此方も分からないのよね」
「それじゃあ矛村勇さんに付いて、改めて教えて貰いたいんですが」
「最初にも言った通り、伊勢神宮に連なる伊雑宮の宮司の息子で伊勢が有事の際、『黒不知火』を振るえる存在となるべく、裏で武芸に関わる修練を積んだ戦士。それ以外の生い立ちに付いては至極普通よね」
「それじゃあ、伊雑宮で過去に何か重大な事件があったりとかは?」
「伊雑宮で過去にあった事件ねぇ。少なくともあたしが知っている限りではないし、ここら辺の文献を全てひっくり返したけど、此処数十年は特に何もなかったみたいよ」
「そうですか‥‥」
「でも、天魔の事に付いては少し分かった事があるわ」
と言う事で二人にて問答に臨むも手掛かりとなりそうな情報は少なく、うな垂れる鳴だったが次に響いた珠の言葉を聞けば勢い良く顔を上げると
「その名、天魔十人衆に名を連ねている焔摩天。過去に伊勢で封印されていたんだけど何事かで何時からか、目覚めたみたいね」
「目覚めた、って」
「伊勢には要石に似た物が沢山あってね、その一つに眠っていたみたい。何時、どうして解放されたかは分からないけれど名のある天魔である以上、油断出来ないわね」
「‥‥その焔摩天を倒すには霊刀がなければならないんでしょうか?」
「それに関する伝承は残っていないから、霊刀なら当然として魔法が施された武器でも倒せると思うわよ」
「うーん‥‥」
紡がれた珠の話を聞けば呻く鳴を前に彼女は頬を掻くとばつの悪そうな表情を湛え呟くが、今はそれを気にせず鳴は一つ気になっていた疑問を漸くにして紡ぐとその答えに安堵を覚えながら、しかし真剣な面持ちにて呻く彼女は何処にまで考えを及ばせているか。
ぐぎゅるるるる
「あ、お腹が空きました。この辺りで美味しい食べ物屋さんを教えて貰えると嬉しいんですが」
しかし直後に自身のお腹を鳴らすと鳴はすぐに珠へ尋ねるのだった。
●
「何か興味深い噂とか知っておきたい隣近所の村事情とかってない? 怖いのが出た、とか峠でどうこう、とか‥‥もきゅ」
一方その頃、イシュメイルは内宮を前に店を構える茶屋に立ち寄っては頬張っていた五つ目の赤福をお茶にて飲み下しながらお茶を運んで来たお姉さんへ問うてみるも、彼女は首を傾げる事暫し。
「そう言えば一寸遠いんだけどある村で最近、夜な夜な鳴き声が聞こえるんだって‥‥女性のね。その村で昔、悲恋から起きた惨事があって亡くなった人の魂を沈める為に立てた石碑の辺りから。しかも日が経つにつれてその声が少しずつ大きくなっているとかいないとか?」
「因みにその村って此処からは遠い?」
「そうねぇ、どちらかと言えば京都寄りなのかしら」
やがてそう答えると今度は彼が首を傾げて暫く惑いながら、やがて決断を下した。
「斎宮の珠さんがこっちにいるみたいだから、話だけでもしておこうかな」
●要石周辺
「うーん、ここで妖怪と悪魔が戦ってたんだよなぁ。さて、そも本当に要石が目的だったのかね。あっさり引いた所も気になるし‥‥」
先日、妖に悪魔が争っていた斎宮跡を訪れたのは蒼牙でそれから刻も然程過ぎていない事から未だ、荒れ果てている斎宮跡周辺に視線を巡らしては思考も同時に巡らして天魔らが本当の狙いに及ばせるも
「あぁ、あったあった‥‥っと、重過ぎ」
その途中、視界の片隅に果たして白焔を模倣した白塩を見付けると先ずはそれを回収すべく近寄り、担ごうとしてその重さに呻くと
「しかしあれから後は何事もないって話だし、そう考えるとやっぱ要石が目的じゃあないのかもなぁ‥‥あの時だけは」
地に突き刺さるそれに寄り掛かれば斎宮跡の近隣に住む人々より聞いた話を思い出し、確かに先日の戦から時間こそ経っていないものの平穏である今を考慮して、自身なりの結論を見出すとそこから敵の真意を探り当てる。
「そうなるとやはり機を伺っているだけなのか、若しくは‥‥余り考えたくはないが直接、天岩戸を解放する手段があるとでも」
最悪の事態を考慮してのそれにやがて蒼牙は一人、嘆息を漏らすと髪を掻き毟っては懐より油揚げを取り出しては辺りへ放ると突き立つ白塩はそのままに、その場へ屈み込んで彼は来客を待つ事にするのだった。
「ま、余り難しい事を考えるのは性に合わんし、暫くはこれで待って見るとするかな」
●伊雑宮
伊勢の市街より南に位置し、伊勢神宮の別宮である伊雑宮にも足を運ぶ者がいるのは必然であり、天岩戸へ至るべくその途中にある伊雑宮へ立ち寄ったイシュメイルはその近辺をうろうろしていたルーティを見付ける。
「あ、ルーティさん」
「お疲れ様です」
「調子はどう?」
すれば声を掛けるのも必然で、彼の呼び掛けに対しルーティも応じるが彼が次に響かせた問い掛けを聞けば彼女は肩を落とすと
「此方にいる様ですね、何度かそれらしい影を見ました‥‥が今の所はまだ対面を果たしていないんですけど」
「むぅ〜」
「とりあえず気分転換に掃除をしようと思っていたのですが、一緒にどうですか?」
その答えを明確に告げれば呻くイシュメイルではあったが彼よりも先に、長く伊雑宮周辺を捜索していた彼女は気丈にも明るく振る舞い、踵を返した。
「お掃除してたの?」
「いいえ、此方に足を運んだのは今日が初めてです」
そして足を運んだ先は勇の父親が埋葬された墓だったが、足しげく通っている者がいないのにも拘らずそれは非常に綺麗で、呟きながらルーティがその墓へ近付いた丁度その時‥‥微かにだが遠くで辺りに敷き詰められた玉砂利を踏み締める音が聞こえると
「今日こそは逃がしません!」
それを天命と思うより早く彼女は一瞬で魔法の理を構築しては編み上げ、どれだけ逃げられたのか今までの思いの丈を込めてはその音がした方へ放つと暫しの沈黙の後、遅れて玉砂利を踏み締める音が再び響けばそちらへ歩き出して二人は緩慢な動きしか取れない影へ声を掛ける。
「‥‥勇、さん?」
「今まで一体、どうしていたんですか?」
「言う必要は、ない」
「父親を殺されたから、その敵を討つ為ですか?」
「‥‥知っているのなら、話は早い。だから私は行く」
すればその影‥‥矛村勇より返って来た答えは非常に簡単なもので、動きこそ未だに鈍いもののすぐに二人へ背を見せつけては動き出す彼だったが
「矛村さんがどれ程強くても、ここは少し思い留まって皆で頑張るべきですよね?」
その背でルーティの柔らかな声音にて紡がれた言葉を聞けば動きを止める彼に彼女は尚も呼び掛ける。
「一人で頑張るだけが弔いではないですよ。どんなに鋭い剣でも、酷使し続ければ刃を毀してしまうものですから。それは黒不知火でも白焔でも、人間だって同じです」
「それでも、構わない‥‥」
だがそれを聞いてか身を震わせて、それでも彼はルーティが紡いだ言葉を一蹴すれば再び歩き出すも、ゆるりとした動きしか取れない彼を引き止めるべくその背へ抱き着いてイシュメイル。
「一人で行っちゃ駄目! 皆、信じているから‥‥だから、だから」
嗚咽交じりに願っていた漸くの再会に混乱してだろう言葉にならない言葉を紡いでは益々強く彼を抱き締めれば、最後にはいよいよ泣き出しながら彼を引き止めるべく絶叫を放つのだった。
「行っちゃ駄目ーっ!」
●黒不知火、戻る
彼を見付けてより後、皆は勇を連れて斎宮を訪れる‥‥霊刀もさる事ながら、その身を案じていた斎王へも報告すべく。
「お疲れ様でした、皆」
やがて一行は斎王の間へすぐに通されれば、他の宮司らの視線もあるからこそ畏まった声を響かせて斎王は皆を労うと視線を巡らし、皆の後ろに位置する勇を見つめれば
「仰りたい事はありますか?」
「焔摩天を見付けたら、私が必ず倒しますので邪魔だけはしないで下さい」
次いで彼へ弁明の機会を与えると一言だけ、瞳に暗い光を宿したまま勇が紡ぐ言葉へ耳を傾けて彼女。
「‥‥いいでしょう、しかし貴方が自分勝手な判断で動けば伊勢を窮地に晒す事だけは肝に銘じて下さい」
「分かり、ました」
「宜しい、それでは貴方に命を下します。五節御神楽への編入、レイ・ヴォルクスの元で心身共に鍛え直しなさい」
暫しの間を置いて後、やがて頷くも静かな怒気を唐突に孕ませて彼へ釘を刺せば肯定の返事を聞くと表情は厳しいままに勇へ一つ、命令を下すと黒不知火の主より返って来ない答えは気にせず漸く顔を綻ばせると
「とにかく、これで反撃の狼煙が一つは上がった事になるでしょう。それなら‥‥巻き返しを図りましょうか」
「巻き返し?」
「それは、一体」
伊勢の現状を打開するものがまだあると言う代わり、意味深に言葉紡げばそれを聞いて首を傾げるルーティにガイエルだったが仄めかすだけ仄めかし、斎王は微笑み言うのだった。
「伊勢に眠っているものは何も、危ないものだけじゃないでしょ?」
〜終幕〜