業火風塵

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:8 G 32 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月06日〜05月16日

リプレイ公開日:2007年05月14日

●オープニング

●煉獄の渦
 京都と伊勢のほぼ中間に位置する、とある山の中に雪女が住んでいるのは公然とした事実で昔こそ人間と敵対していたが、今となっては近隣の村人と僅かだが接点を持つ程になると日々穏やかに過ごしていた。
「やはりこれからの時期、キンキンに冷やした洞穴に限るのぅ‥‥退屈じゃが」
 とは言え、外の気温が徐々に上がればその分だけ雪女‥‥雪華の活動が鈍くなるのは当然で、入口をアイスコフィンで固めた上にフリーズフィールドを施した洞窟内部でその殆どを過ごす様になっている彼女は今日も周囲の環境に満足しつつしかし、持て余す暇に渋面を湛えた丁度その時。
「‥‥ん、何やら外が騒がしいの」
 アイスコフィンの壁を向こうながら、それでも聞こえてきた異音を捉えると彼女はその封を解けば外へ出て一歩‥‥何時もとは違う風景が広がっている事に彼女はその艶やかな瞳を剥く。
「なっ、これは」
 その風景、山に広がる森の所々が紅蓮の朱に染まる様を見止めると雪華はその所々で蠢く人影を見付ければ見開いていた瞳をすがめ、その口元に緩やかな弧を描けば凄惨な笑みを湛えると
「ふっ、いい度胸じゃ‥‥」
 呟き己の顎を開いては息を吸い込み、眼前の敵を薙ぎ払おうと試みる氷の吐息を放つ‥‥!
 ぽふっ。
「‥‥むぅ、村の方へ行くにも火の手に遮られておるか」
 だが周囲の外気温が予想よりも高いのか、その口から乾いた音だけが虚しく辺りへ響くと雪華はその暑さに顔を顰めつつ、暫し辺りを伺い‥‥近くに誰もいない事だけ確認すると彼女は改めて村の方を見やれば嘆息を漏らした後にこれよりどうすべきか、悩むのだった。

 それより雪華は山を飛び出せば三日を掛けて京都の街へ辿り着くと、冒険者ギルドへと足を運べば今‥‥近隣にて異変があった村人から依頼が出ていないかギルド員の青年へ問い合わせていた。
「来てない、か‥‥」
「あぁ。それに木々を手当たり次第に伐採し、火を放つ様な乱暴な依頼も此方では請け負っていない。そうなると」
 その冒険者ギルドの一画、今はそこを借り受け冷気の領域を展開しては漸く落ち着いた彼女はしかし、彼の答えを聞くと僅かに眉根を顰めれば考えられ得る可能性を幾つか弾き出すと、その中で最も可能性が高いだろう事に思い至れば
「あの辺りは木々が多いから木材等の資源が豊富故、それに目を付けた何者かの仕業と言った所か」
「‥‥人間風情が」
「そう言いながらも、村人を気にするとはな」
「‥‥ふん、世話になっているからの」
 同じ事に思い至った青年がそれを言葉にすると眦上げて雪華はボソリ、呪詛を紡ぐが‥‥彼女の反応を前、青年は驚き笑むと顔を背けて雪華は鼻を鳴らすと彼は肩を竦めるが
「しかし村人が関与しているならこの様な事は起きない筈、にも関わらずそれが現に起きていると言う事は」
「村の方で何かあったか、と考えるのが当然か」
「‥‥調べる必要はありそうだな。とは言えこちらとしては依頼人がいない以上、動くに動けないが‥‥さて」
 その事態を前にして村人の一人でも冒険者ギルドに来ない事を思い出し呟くと雪華が表情を厳しくする中で頷く彼はしかし、その立場から当然の事を言っては彼女を見つめればその視線を受けて雪女は深く、嘆息を漏らした。
「これだから、人と関わるのは嫌だったんじゃ‥‥」

 だが結局、彼女が住む山の近くにて起きた事象でもある事から雪華が依頼人となればやがてその依頼書は冒険者ギルドに張り出されるのは必然だった。

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 依頼目的:村を調査し、山で起きている事象の真意を突き止め、解決しろ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要なので確実に準備しておく事。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 対応NPC:雪華(同道せず)
 日数内訳:目的地まで四日(往復)、依頼実働期間は五日。
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●今回の参加者

 ea7578 ジーン・インパルス(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea8616 百目鬼 女華姫(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb1528 山本 佳澄(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1630 神木 祥風(32歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb2404 明王院 未楡(35歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb3272 ランティス・ニュートン(39歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

槙原 愛(ea6158)/ 御神楽 澄華(ea6526

●リプレイ本文

●紅に染まる山
 京都を発って大よそ二日、伊勢の近くでもある山中で過ごす雪女の雪華が依頼を受けて一行は目的の山へ辿り着けば、目の前に広がる光景を見つめ呆然とする。
「幾らなんでもこれは‥‥やり過ぎです」
 それはウィザードのベアータ・レジーネス(eb1422)が呟いた通りのもので、所々で未だ火が燻れば既に炭化して黒ずんでいる所も見えるかと思えば、別な所では山肌が露出していたりと酷い有様になっていたからこそ。
「‥‥心苦しい光景ね、森と共に生きる種族のエルフとしては」
「あぁ、全く持って耐えられねぇし許せるもんじゃないな」
 瞳をすがめては魔術師のステラ・デュナミス(eb2099)が押し殺した声を響かせれば、彼女以上に怒りを露わにするジーン・インパルス(ea7578)は拳を固く握り締め憤慨するが
「焼き討ちを行ったのは、その雪女のお嬢さんの存在を知っている者がちょっかいを掛けられぬ様、防衛手段を講じたとも取れるが‥‥まぁ何にせよ、急いで行かなくてはならないね」
「村の状況が分からない以上、速やかに‥‥ですね」
「急がねえとどんどん燃え広がっちまう!」
 意外に冷静なのか、その光景を前にしても騎士のランティス・ニュートン(eb3272)が己の顎に手を当て、目の前の惨状が起きた理由に付いて思い耽るも‥‥また新たな火が揺らめいたのを視界の片隅に留めれば歩を止める一行の中、彼に頷きながら明王院未楡(eb2404)が再び歩き出しながら言うとジーンも駆け出すが此処で一つ、今更ながらの疑問に思い当たると地を滑り急停止の末に皆へ問う。
「所でさ‥‥雪女って何だ? ウィザードなのか?」
「ジャパン特有のモンスターですね。その名前の通りに冷気を操るのですが暑さに弱く、これからの時期は先ず見掛けないでしょう」
「そっか、そうなると同道はして貰えないか‥‥」
「ま、状況が状況だし無理はさせられないわよね」
 その問い、他の皆に比べ圧倒的に経験が不足しているからこその問い掛けに、しかしそれは気に留めず神木祥風(eb1630)が穏やかな声音にて解説を交えると、それを聞いて熱い魔術師の彼は自身、考えていた事が頓挫した事にうな垂れれば同意するステラの前で尚、うな垂れるジーンだったが
「先ずは村へ向かい、調査しましょう。この森への放火は、明らかに人為的なものでしょうし」
「厄介、ですね」
「えぇ‥‥村人達がどうなっているか、非常に気遣われます」
「でもこれじゃあ村に辿り着くまでが一苦労みたいだけど‥‥そうも言っていられないわねぇ」
「こうしている内にも火の手は広がり、村人達だって危険に瀕しているかも知れないんだ‥‥早く行こうぜ!」
 そうしている間にも先に揺らめいた火の手が広がっている事からベアータが皆を再び促すと、目の前の光景に志士の山本佳澄(eb1528)が呻き不安を過ぎらせると祥風も歩きながら山の麓にある村に住まう人々の心配をすれば巨躯の忍びが百目鬼女華姫(ea8616)の嘆息が響くが、それはジーンが一喝して吹き飛ばすとやがて頷いた皆は目前に迫った朱に染まる山を目指し、駆け出した。

●一途、村を目指して
 そして一行は山中を駆け先ずは村を目指すも、所々で火の手が上がればそれを警戒しつつ必要に応じて防ぎ消火しながら進む一行の足並みは遅々としたもので、道程は未だ半ばと言った所。
「世界を為す元素の一、火の精霊よ‥‥汝の力、世界に過ぎたるものなり。汝の力、世界を焦がすものなり。汝の力、世界を作るものなれば‥‥その力、世界に見合うまでに抑えたまえ‥‥つーか、とっとと消しやがれ!」
「長っ!」
「それより消火を!」
 その中で意気を吐いては響く詠唱はジーンが紡ぐもので、しかしその最後で今までの詠唱を無駄にする一言を叫べば思わず滑るランティスだったが、次にその彼より窘められれば憮然としながらも先へ進むべく目の前に広がる光景に皆と協力して挑むも
「えーと、村はどの辺りだったっけかな」
「まだもう少し、距離があるわね」
「そうですね‥‥」
 燻る煙に遮られている先を見据え呟くと、普通の水でも消える事から魔法にて精製した水で消火に勤しむステラの回答とベアータの同意を聞けば渋面を浮かべるランティスだったが
「しかしまだ先は長いですわ。休める今、しっかり休みましょう」
「そう、だな‥‥此処まで結構に強行軍で来ているしいざと言う時に体が動かないんじゃ目も当てられないからな」
「分かってる‥‥」
 漸く眼前の炎が消えると未楡の提案を聞き止めれば、漸く安堵の溜息を漏らし彼はその場に腰を下ろすと、未だ辺りを伺うやる気満々なジーンへ先とは逆に宥めれば渋々と皆に倣い腰を下ろした彼を見ると
「しっかし、思っていたより遠いわねぇ」
「この火の手です、山道である事も加えれば容易に事は進みませんね」
「‥‥よっし、もういいだろ。そろそろ行こうっ!」
「まだ全然早いんだけど‥‥そうね、もう村までは一踏ん張りだし先ずはそこまで行きましょうか」
 その中、女華姫が漏らした嘆息に佳澄も穏やかな声音にて頷けば未だ何処かで燃えているだろう火を前にしては居ても立ってもいられず、早々にジーンが立ち上がると苦笑を湛えながらもステラが続き立ち上がれば、再び村を目指し一行は山道を進みだした。

「‥‥さて、それでは一先ず、調査と行きますか。余りゆっくりと出来ませんが」
 やがて辿り着いた、雪女も心配していた村は森とは裏腹に炎に塗れておらず、その様子に一行は安堵こそ覚えるが、静けさだけが包む場を前にしかし祥風は慌てた風も見せず皆へ振り返れば厳かに告げると
「それじゃ、行ってくるわねぇ〜♪」
「しかしこの様な暴挙に出るとは、何者かの手によって村が支配された可能性が有りますね。気を付けて下さい」
「えぇ、しかし支配だけならいいのですが‥‥もしかしたら」
「賊か落武者が居座ったならまだしも、黄泉人が侵攻して来たかとなれば話は別ですね。それに最近では、余所でジーザス教徒が居座ったと言う話も聞きましたし」
「余り良い予感がしないのは‥‥気のせいだといいのだけど」
 先ずは女華姫がその体躯の割に軽やかな足取りにて地を蹴れば皆の前から姿を消すと、彼女とは別に村内の様子を探る別働隊へ尚も警戒を促す祥風へ未楡は頷くも、別な不安を抱き言葉を淀ませるが‥‥しかし考えられる可能性の全てを彼がはっきり皆へ告げれば、その中でステラはまた違う不安を抱きながら肩を竦め、だが惑う暇も惜しい事を思い出せば皆はそれぞれに動き出した。

「静か、ですね」
「もう避難したと言うのならそれでいいのですが、そうでなければ‥‥」
「それを突き止めるのが俺達の役割だ、さくさく行こうぜ」
 そして村内を巡る別働班である祥風が改めて静かなままである村の様子を訝り、最悪の事態を考える未楡だったが‥‥それを払拭する様にランティスが辺りへ視線を配しつつ、穏やかな声音を響かせたその時。
『呼吸が探知出来ました、皆さんから大よそ10m程度先に一番人が集中しています』
 近場にあった家屋の、その土壁から静かに響いた声はベアータのもので唐突なそれに三人は内心でだけ驚くが、それを聞けば佳澄は一人頷きながら二人へ振り返れば提案しては目の前に見える一軒の大きな家を見つめるのだった。
「そうですか。ならそこは少し、探る必要がありますね」

「とりあえず、言われた場所の様子を見て来ましたけれど‥‥何をしているのですか?」
「女華姫が怪しい奴を捕まえて来たってんで、一寸した尋問かな」
「‥‥いぎゃぁぁぁぁぁー!!!」
 それよりベアータが捉えた家屋の周辺を密かに伺ってきた未楡らは村外の木陰にて皆と落ち合うと、他の面子が木陰の更に奥を見守る光景に訝り尋ねればジーンより返って来た答えに頷くより早く、轟いた絶叫に一行は揃い飛び上がるとそれから暫くして木陰の奥より捕らえてきた男と共に現れた女華姫で、男の方は何やら口元が半開きで目も虚ろと良くは分からないが何か危険な状態に見受けられる。
「詳細な人数とか、構成とか人質の数とか‥‥色々聞きだしたわよ〜。全くもう、親切なんだから♪」
「一体、何をしてそこまで話を聞き出せたんですか‥‥」
「それはヒ・ミ・ツ☆」
「しかもあんな強面の人を叫ばせるなんて、簡単に出来る事じゃないですよね」
「そぉ? 力一杯可愛がってあげたら色々と教えてくれたわよ♪」
 笑顔を湛えては犯人だろう一味の一人から聞いた詳細な情報を皆へ言うも、見る事が出来なかった尋問の光景に思わずベアータと佳澄は彼女と男を見比べつつ尋ねるが、的を射ない女華姫からの回答を聞けば呻いて皆。
「とりあえず、簡単な事は分かりましたのでそのアジトへ行きましょう」
 それは密かに気にしながらも何とか堪えておくびには出さず、未楡は皆を促して立ち上がった。

 やがて、村人達が捕らえられている小屋に再び足を向けた一行は散ればランティスの叫び声を合図に行動を開始する。
「たーのもぅ!」
「何だ?」
「おうおう、悪党共! 控えおろう、この紋所が目に入らぬか!」
『あ‥‥?』
 周囲を警戒していた賊達の正面から乗り込み堂々と己の存在を誇示する彼の登場に賊達は皆、村人達がいる小屋より視線を外しランティスへ向ける‥‥もそれこそ彼の狙い。
 その一瞬の暇、木陰に身を伏せていた他の皆が颯爽と動き出せば早くその小屋唯一の出入口である扉を押さえると、肩を竦めながらランティスは歯噛みする賊達へ微笑めば
「余りにも堂々とした態度には、人は時として目を引き付けられてしまう物だからね」
「ちっ‥‥」
「さぁ、人質はいなくなった。観念しろよ悪党共‥‥この秩序の証たる腕輪に掛けて、俺はけして悪を許しはしないっ!」
「なら‥‥やっちまえ!」
 夕日に染まる朱の中で二本の剣を抜剣しては高らかに腕を掲げ告げると、賊の一人が合図を持って場は動き出すがそれより早く辺りに吹き荒れたのは氷の嵐。
「こう言うのを先手必勝、って言うのかしら?」
「そうですね」
 範囲に威力を考慮した上、絶妙な位置に絶妙なタイミングで疾く魔法を完成させそれを迸らせたステラが微笑み言えば、氷の嵐に晒された賊達の動きが鈍くなる中で彼女へ頷いて佳澄が駆け出せば、始まる戦闘。
「頑張れよ〜」
「余所見をしている場合じゃねぇっつうのっ!」
 その最中においてジーンは一人、応援に励むも‥‥流石にそれは見逃さず賊の一人が彼へ突っ込んで来るが、彼にとって十分に距離が離れていれば惑わずに紅き光をその身に宿し詠唱を紡ぐと
「火は金に克つ、って奴だな‥‥っと」
 眼前にまで迫った賊に慌てず、携えている得物を対象に錆化の魔法を完成させれば崩れ去るそれに動きを止めた賊へ鼻を鳴らし告げるが、側面から唐突に現れたもう一人の賊には気付くのが遅れ‥‥
「悪い、助かった」
「もう少し、後ろへ下がって下さい」
 しかし振るわれた凶刃は僅かな差で佳澄の日本刀によって遮られると、後退を促す彼女の言葉に従い木陰の奥に隠れるジーンは小屋の扉を前に激しく打ち合っている未楡と賊の頭か、彼女らの剣戟の応酬を視界に収める。
「どうして、この様な事を?」
「この辺りにいる雪女を倒したら金をたんまりくれる、って奴がいてな。ただ、正面からぶつかるんじゃ分が悪いから、こうしたって訳だ」
「そんな事を、一体誰が」
「‥‥ま、人じゃないのは確かだな」
 その剣と剣の応酬の中、鍔迫り合いにて互いに肉薄しながらも未楡が問うた疑問に賊の頭は下卑た笑みを浮かべ応じると、悲しげに眉根を伏せる彼女の更なる問いには微かに複雑な表情を浮かべた彼が静かに呟くと
「もしかして‥‥天魔?」
「さて、答える義理はねぇ」
 その答えに思い当たる節があってか、断片とは言え聞き止めていたステラは呻くがそれ以上の無駄話を彼はする事無く、彼は尚も執拗に未楡へ刃を振るうが‥‥その場に割り入ってきたランティスが賊の頭が振るう刃を彼女の代わりに弾くと二刃を掲げ、告げるのだった。
「そうか‥‥それなら遠慮なく、お前達を倒せそうだなっ!」

●業火風塵
 と言う事で賊達を退治し人質である村人を救い出した一行は残る残党もやがて捕らえると動ける村人と共に山へ取って返せば、まだ所々で上がっている火の手を消しに掛かり‥‥やがて万事を解決すると顔を付き合わせて皆は相談の末、雪女の雪華へも報告をすべく一時村を後にして彼女がいる洞穴へ足を踏み入れれば
「忍者の百目鬼女華姫よ〜。ヨ・ロ・シ・ク♪」
「あぎゃー!」
 挨拶を交わして早々、雪華は筋骨粒々な女華姫に抱き着かれ暑がる雪華の叫び声が洞穴に木霊する。
「冷たくないんでしょうか?」
「一寸ね〜」
「はぁ、はぁ‥‥所で此度の騒動の原因は分かったかの?」
「伊勢の天魔がこっちにわざわざ出張ってきていたみたいね、因みに村人は皆無事だから」
「ふん、そんな事は知った事か‥‥それよりも思った通り、厄介事に巻き込まれた様じゃの。これだから」
 それを前に疑問を抱くベアータへ彼女は漸くその身を離して今度は確かに答えると、息を切れ切れにしながらも一行の来訪に先ずは今回の真相に付いて尋ねれば、改めて賊から聞いた話の詳細と村人の無事を語るステラへ彼女は鼻を鳴らし、露骨に顔を顰めるが‥‥そんな雪華の様子を前に皆は静かに笑むだけ。
「な、何じゃ‥‥」
「‥‥村の事を案じて依頼を出したのですから何にせよ、厄介事に巻き込まれるのは分かっていた事でしょう?」
「そう言われてみれば‥‥そうですよね」
「そっ、そんな事は知らんわっ!!」
 その態度を前に何となしに怖気を覚えた彼女は一歩、身を引くと裏返しな彼女の態度を見抜いた祥風が穏やかに告げれば、ワンテンポ遅れて佳澄がそれを理解し頷くとしかし雪華はそれを声高に否定するが
「素直じゃないんだな」
「うるさいっ! とにかく用が済んだのならとっととこの場から立ち去れぃ! 去らぬなら‥‥極寒の中に閉じ込めるぞ」
「こっちには炎を生み、操れる魔術師がいるから大丈夫よ〜」
「いや、そう言った魔法は全然覚えてない。火事に際して人命救助に臨むなら、消火と赤外線視覚に自己防衛で金属を腐食させる魔法があれば十分だからな」
『‥‥え?』
 ランティスが尚も狼狽する彼女をからかう様に笑みを浮かべ言うと遂に堪忍袋の緒が切れてか、唐突に雪華は皆へ凄むが女華姫はジーンを彼女の目前へ差し出しては告げるも‥‥そんな一行の前で彼は平然とそんな事を言ってのけると固まる皆は次にステラとベアータを見るが、二人とも対処のしようがない事から首を左右に振るとうろたえる皆の前で雪華は凄惨な笑みを浮かべ、口を開いた。
「覚悟は‥‥いいかの?」

 こうして業火は風と共に塵へと帰し、万事は解決した‥‥が雪華の怒りに触れた一行は暫しの間、彼女と共に季節外れな寒さに震える事となったのは此処だけの話。

 〜終幕〜