埴輪、侮るべからず?

■ショートシナリオ&
コミックリプレイ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:7 G 21 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月15日〜05月23日

リプレイ公開日:2007年05月22日

●オープニング

●日々これ絶叫
 伊勢某所、山中の木々深いその奥に英国からの客人がアシュド・フォレクシーの工房は果たしてあり、日々その屋根より伸びている煙突からは煙が濛々と上がっていれば
「ぬぉうあはっはー!」
 やはり今日もその内より絶叫も迸っていた‥‥無論、叫んでいるのはアシュド本人。
 どうやら新たな埴輪を作るべく奮戦している様だったが、相変わらずにその進捗は余り芳しくないらしい。
「‥‥出来ん。一体、何が悪いと言うんだ」
 それを確定付ける様、先とは裏腹に小さく呟いた彼は地に手を付いてうな垂れると目の前に崩れ落ちている土くずを見つめ呻くが、丁度その時。
「‥‥大きい体の割、土が脆んじゃないですか。普通の埴輪なら十分なのでしょうが人並みのサイズにするとこれでは強度が足りないのかと」
 何時の間に来ていたのか、伊勢に着てより暫くは彼の工房に足しげく通っていたルルイエ・セルファードが今日になって漸く全ての状況を把握したからこそ、初めてだろう今まで彼が造る事の出来なかった埴輪の問題点を指摘すれば
「後は焼きも甘いですね、もっと高温で焼かないとしっかり固まらないんじゃないですか?」
「‥‥むぅ」
 その材料である土に続き、それを焼き固める火に付いても問題点を提示すれば今になってその事に思い至ったアシュドは、それを事実と認めて呻くと
「では、どうする?」
「焼きは私がやります、専用の窯を作るとしても時間が掛かりますからいずれ作るにしても今は魔法で手っ取り早く済ませましょう。土は‥‥確か、エドさんが此方に来ていますよね? 彼に手伝って貰いましょう、多分詳しい筈です。そしてアシュドさんは埴輪の製造を」
「‥‥なるほど、作業を分散してそれぞれが得意とする事に専念すると言う事か」
「新しいものを作る、それは余程の才能に恵まれていない限り一人では成しえない事です」
「まぁ、な‥‥分かった」
 頭を掻きながら、その問題点を払拭する為の案を彼女に尋ねてみれば果たして返って来た答えを聞いて彼は嘆息を漏らし、真直ぐに取り組んでいたからこそ忘れていたその事実に頭を掻くと微笑むルルイエを前にアシュドは再び立ち上がった‥‥新たな埴輪を今度こそ造るべくして。

●そう言う事で
「まだ、出来ていないのにか?」
 数日後、京都の冒険者ギルドにアシュドの姿が見受けられればギルド員の青年は掻い摘んで聞いた、未だ出来ていないと言う新たな埴輪に関する彼からの依頼に首を捻っていた。
「完成は目前だ、最近戻って来たばかりのエドには悪いが最良の土を選りすぐって貰っている最中だから、それさえ解決出来ればな。因みに今まで使ってきた土でギリギリ持ち応えられるサイズにして試した限りでは動く事を成功する事を確認している以上、最早大きな問題はない」
「ふぅ‥‥ん」
「‥‥信じていないだろう、その目は」
 だが確信を持った自信ありげな表情を湛える彼に、それでも何処か不安を覚えたギルド員の彼は生返事を返すのみでアシュドはその反応を前に瞳を細めるも
「だが現実にそれはもう間も無く出来る。名付けてハニワナイト‥‥伊勢の明日を握る最強にて最硬の兵士! 人件費は埴輪を造る時のみに掛かり維持費は軽減、懐にも優しければ土で出来ているからどれだけ壊れても自然に優しい!」
「‥‥どんな思想で造ったんだ」
「伊勢の防備」
 しかしそれには屈せず、尚も声高らかに‥‥一寸お間抜けな新たな埴輪の名を告げ断言すると高笑いを上げるアシュドへ青年は呻いては尋ねるが途端、真面目な面持ちにて即座に答えを返す彼。
「情勢を見るにこれからまだ、伊勢は落ち着かないだろう。兵達が何時、どう動くか分からない以上は防備に専属する存在が必要になるだろうと思ってな」
「ふむ、偉く全うな思想だな」
「‥‥何だと思われていたんだ、私は」
 そして青年の問いに対し、その詳細を真摯な面持ちにて呟くアシュドへ初めて感心するギルド員の青年へゴーレムのクリエイターは肩を落とすが‥‥それは暫しの間だけ。
「一先ずはそう言う事だ。しかし此処まで早急に拵えたからこそ潜んでいる問題点は完全に払拭出来ていないと思い‥‥それを根絶すべく、最終的な実験をしなければならないからこそ手伝いを募集しに来た訳で‥‥ふっふっふ」
「最後の怪しい笑いはいらん」
「なぁに、難しい事をして貰うつもりはない。すべきだと思う実験の案を出し合って貰い、それを皆で実行するだけだ‥‥私だと思い切った事が出来なくてな。それでは、宜しく頼むぞ!」
 すぐに立ち直れば改めて今回の依頼概要を告げると、呆れる青年を前に嗤いを堪えながらか、肩を揺らしつつアシュドは踵を返すのだった。
「‥‥まだ、引き受けるとは言っていないんだがな」
 未だ、ギルド員の青年が返事を聞かないままに。

 後日、改めて今度はルルイエが冒険者ギルドへ依頼の受理を嘆願しに来た事で漸く成立したと言う事実は、ここだけの話。

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 依頼目的:アシュド謹製、新型埴輪『ハニワナイト』の実験に

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要なので確実に準備しておく事。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 対応NPC:アシュド・フォレクシー、ルルイエ・セルファード、エドワード・ジルス
 日数内訳:目的地まで四日(往復)、依頼実働期間も四日。
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●今回の参加者

 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0340 ルーティ・フィルファニア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea0606 ハンナ・プラトー(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea6601 緋月 柚那(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea7197 緋芽 佐祐李(33歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb0334 太 丹(30歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)

●リプレイ本文

●救世主、現る‥‥?
 伊勢、斎宮の前に広がる平野の片隅にて集う冒険者が一行と今や伊勢の客人である三人の魔術師達‥‥尤も一人はこの前、来たばかりだが
「自分は『フトシたん』こと太丹っす、宜しくお願いするっす」
「英国でお会いした事が‥‥ありましたよね? 皆様からお噂は聞いております、今回は宜しくお願いします」
「えぇ、こちらこそご迷惑をお掛けするかと思いますが宜しくお願いしますね」
 それ故にその彼女、ルルイエ・セルファードへ先ず挨拶を交わす巨人の拳士が太丹(eb0334)と巨人の忍びが緋芽佐祐李(ea7197)に金髪を靡かせ微笑み応じる彼女へ二人も頷くと
「久し振りだな、ルルイエ。本当に良かった‥‥そして、済まなかった」
 その後に続いて英国にいた頃から彼女を知るガイエル・サンドゥーラ(ea8088)がその二人の背後から姿見せず、複雑な声音を響かせるも首を振るルルイエに僅かだが顔を綻ばせれば
「そしてアシュドはあれから真面目に研究していたのだな、感心感心。一時は落ちこ‥‥」
「言うな、それ以上!」
 一行の前にて布を被った新型の埴輪だろう、その前で忙しなく足踏みしているアシュド・フォレクシーへも声を掛けるが‥‥それは途中、素晴らしい猛ダッシュを見せた彼の手によって遮られると、何事かと彼らを見るルルイエへ首を左右へ振るアシュド。
「先ずはおめでとうございます♪ ですよね。後は本当に、残すは後一歩‥‥そのお手伝いですから、やれるだけの事をさせて貰いますね」
「そう言う割、背を向けて肩が揺れているのは何故だ?」
「しかし伊勢女装巡察隊と埴輪騎士が治安を守る土地、伊勢‥‥どんどんイロモノな藩になって‥‥いえ、気のせいですね。ええきっと」
 その光景を傍目、魔術師のルーティ・フィルファニア(ea0340)は彼の事を褒め称えるが彼女の態度の半眼を湛える彼にルーティは答えず、その後を継いだ佐祐李へアシュドが視線を注いだ直後。
「な、何か凄い殺気が‥‥」
「気のせいじゃろ。それよりアシュドー、はよう例の埴輪とやらを見せてくれんか?」
「ふふふ‥‥この一瞬に立ち会える事を後世まで語り継ぐがいい。ではとくと見よ、これが伊勢の守り手たるハニワナイトだっ!」
『‥‥ぁー』
 唐突に場を包んだ恐るべき殺気を感じると一行の殆どが辺りの様子を伺うが、それには気付かなかった緋月柚那(ea6601)が愛犬の柴犬を撫でながらアシュドへ言えば先の事は忘れアシュド、低い笑い声を響かせれば漸く一行の前にある布に覆われた埴輪からそれを取り払えば、一行は当然の様に生温い反応を返す。
「埴輪が進化したハニワナイトでござるか‥‥外見にツッコミを入れたら駄目なのでござろうな」
「後、ネーミングも」
「‥‥細かい事は気にするな」
 見た目、麗しい天城月夜(ea0321)が鼻を鳴らして肝心の埴輪の顔が総崩れな事に付いて指摘すれば、そのついでにルーティも不満を挙げると造り手の彼は視線を逸らし、寂しげに笑うだけ。
 今までの埴輪とは違う完全に人を模したサイズに、鎧を着込んでいるかの様に精密に造られている点は流石なだけに‥‥惜しい。
「ハニワナイト、私への挑戦状と見た。ま、私も不真面目なナイトだけどね」
「そんな事はないし、一緒にするな」
「思った通りの反応、ありがとうございます」
「いいえ、この程度でしたら何時でも」
「一寸待てぇー!」
 しかしその後、追い打ちと言うには微妙なハンナ・プラトー(ea0606)の感想には噛み付くアシュドはついで、その傍らにて和やかに言葉を交わすルルイエと佐祐李へも思わず叫ぶと
「‥‥エド、ご苦労だったな。やはり土が違えば出来も違うものなのか?」
「うん‥‥多分、これから試してみないと‥‥分からないけど」
「因みに埴輪の製造に適した土は果たして後、どれ位で必要なだけ手に入るかの?」
「大体、見付けた‥‥から後は採掘だけ」
 その様子にガイエルは最先不安だと言わんばかり、密かに肩こそ竦めるが今までのやり取りの中でも静かに佇むだけのエドワード・ジルスへ髪を撫でながら尋ねると頷く彼へ、賑やかな輪の中から脱してきた月夜も微笑み尋ねれば表情を変えないままに答える彼だったが
「まぁ何はともあれ早速、実験行ってみるっすよー!」
「行ってみよー!」
「‥‥何か、不安」
 見た目凄まじい、新型の埴輪を前にいても立ってもいられずに太が叫べばハンナも何時も以上に元気良く応じる光景へ言い様のない不安を覚えるのだった。

●実験、実験!
 さて、そう言う事で皆はそれより場所を変えハニワナイトが多くいる場へ移動するとその光景を前にハンナ。
「こりゃまた‥‥ほんっとにアシュドさんが喜びそうな光景だね」
「この光景を見たい余り、笑いながら無駄に作っていましたから」
「‥‥無駄って言うな」
「でもまだ、試作段階じゃないですか。それにも関わらずこれだけ造るなんて‥‥」
 数十体も居並ぶそれを前に笑みを湛える彼女だったがルルイエが嘆息を漏らし応じると、鼻を鳴らすアシュドへ此処に至るまで付き合ったとは言え改めて呆れるが
「それなら先ずは数を減らす為にも埴輪殿の固さを調べる為に色んな武器で叩いてみるっす!」
「まぁ、無難な所だな」
「ちょ、ま‥‥いきなりは止めて置いた方が」
「中々やるっすね。なら、これではどうっすか」
 彼女の反応を受けて太は身を翻し、ハニワナイトを見据えれば言うと同時‥‥彼が戸惑う中、ガイエルの同意を得た後に右の腕に付けた龍叱爪を振るうとその爪痕こそ残るも平然と立ち尽くすハニワナイトに感心すれば太は今度、言い淀むアシュドは気にせず右腕に付けた金色の拳当てで殴りつけるも
「起動は済んでいるから、暫くすれば纏めて動くんだが‥‥」
「それってどう言う‥‥」
 やがて次に紡がれた不吉な句を聞けば彼は振り返れば直後、何時の間にか不気味な面を携える二十体近くのハニワナイトに取り囲まれている事に気付くが、次に彼が何か言うより早く全方位から降り注ぐ、拳の嵐。
「あぁ、オヤビン‥‥太は精一杯、頑張ったっす‥‥」
「何をやるか、それに応じて命令を変えなければならないからいきなりは止めてくれ」
 無論、それらを前にすれば巨人とは言え天高く吹き飛ばされて彼は天上に浮かんだ『オヤビン』へ別れを告げ‥‥遂には地に頭から妙な角度で突き刺さればアシュドの話を聞きながら力尽きる。
「おーい、大丈夫かのー?」
「物理的な試験は実戦の試験で兼ねられるだろうから‥‥それ以外の問題点を洗うか」
 その太の生死を確認すべく、僧侶の柚那が木の枝で突くその光景を前にガイエルはしかし至って静かに依頼人へ提案した。

 と言う事で武器を使っての耐久度テストは後回しにし、それ以外の手段を用いて一行は実験を続行する。
「なーんか」
「地味な光景じゃの」
「‥‥うん」
「そうですか? 意外に楽しいですよ、ねぇ?」
「自身にとっても丁度いい訓練になりますしね」
 ハンナと柚那とエドの声が続いて響く中、ルーティとルルイエは一体の停止しているハニワナイトへクーリングとヒートハンドを用い急冷却と急加熱を地味に繰り広げ、アシュドの視線を釘付けにしていたがその折、唐突に彼の着物の裾を引っ張る者あり。
「この埴輪に、あの岩を運搬する様に命令して貰えぬでござろうか?」
「何故にそんな事を?」
「西洋の知識を取り入れた牧場を作り、牛を育てては牛乳を広めるべく売りに出し、ハニワナイトを運搬出来るペットも育てる為。強いては職難の民も雇い、様々にいるペットの偏見を解消すべく集め凶暴なものは冒険者が調教‥‥否、そこも埴輪達に動物達の世話をっ!」
「何かそれは趣旨とずれているんだが‥‥あ゛ー!」
 それは月夜で、彼女の申し出に一応の理由を尋ねるアシュドだったがそれを聞くと彼は頭を抱え突っ込むが、自身からの依頼である事を思い出せば止むを得ず一体のハニワナイトへその指示を下そうとしたその時‥‥後方にて爆音が轟けば黒煙が上がるその方を見て、直後に地面へ落下するハニワナイトの姿に思わず叫ぶ彼。
「下手に応戦されると困るので穴を掘り、実験を続けるとするか。とりあえず火は試した故、次は雷撃の経巻で‥‥」
「うひー!」
 その爆炎を放った主がガイエルはアシュドが駆け寄って来る中、そのハニワナイトを中心に別な巻物にて穴をこさえ落とせば造り手の間抜けな叫び声が轟く中、次の巻物を開いて彼女はその詠唱を織り紡ぐと
「平和だねぇ〜」
「そうじゃの〜」
 数体の起動しているハニワナイトを傍らにはべらせ(?)、柚那と一緒にお茶を啜るハンナが見守る中、再び爆音が轟いた‥‥アシュドの絶叫と共に。
「んのーぅー!」

●埴輪、侮るべからず?
「ふむ、まぁ以上か‥‥可もなく不可もなく、と言った所か。思っていたよりまともに出来ていたな」
「‥‥人の事を何だと思っている」
「とは言え、耐水の面が芳しくありませんね。この点は改良する必要があるかと思います」
「もう少し、念入りに焼く必要がありましたね」
「そうですね」
 さりとて‥‥そんな訳で大よそ三日間、ハニワナイトを様々な手段にて弄りに弄り倒した一行は時には憤慨し、時には嗚咽を漏らしたアシュドへ一先ずの報告をガイエルが果たすと最後に添えられた率直な感想に彼は半眼を湛え返すが、次に響いた佐祐李の駄目出しには渋面を湛えるもそれはそれでしっかりとルルイエが受け止めれば
「それでは、実戦のテストに行ってみますか」
「それは構わない、が‥‥何故ルルイエにエドがそっちに?!」
「多勢に無勢過ぎますから」
「‥‥うん」
 漸く終わった報告の後、最後に残されているハニワナイトとの実戦試験へ臨むべくハンナが声を響かせると頷くアシュドではあったが、何時の間にか一行の元にいるルルイエとエドへ問い質すも、二人の答えの後に背後を振り返れば三十体以上はいるハニワナイトを見ると頷くが
「で、太は何をしているんだ」
「オーラパワーを掛ける事で埴輪殿がどうなるか、確認するっす」
「自分で自分の首を絞めている様な気がするのは、気のせいですか?」
「そうとも言うっすが、細かい事は気にしないっす。では、行くっすよ!」
 そのハニワナイトへ何事かしている太へ今度は尋ねると返って来た答えにルルイエはしっかり突っ込むも、明朗に答えを返して彼は次には笑顔で地を蹴れば‥‥いよいよ戦いは始まった。
「どーん!」

「スマッシュも合わせて纏めて数体、壊そうと思いましたが‥‥結構、頑丈ですね。でも壊れた所を狙うとどうなるでしょうか?」
「な、何てご無体な。しかしまだ、改善の余地はあるな」
 と言う事で始まった戦い、流石のアシュドでもいきなり全兵力を傾ける無茶はせず徐々にハニワナイトを戦線へ投入して行くも‥‥忍びらしからぬ佐祐李の強烈な一撃と他の皆の猛攻を前にすれば、砕かれ吹き飛ばされる光景にアシュドは呻くが研究者としての視点は忘れない。
「しかしこれだけの数、全てを壊すのは手間でござるな。止められると楽でいいのだが」
「ふむ、それなら‥‥作り手のアシュドーをボコれば良いのじゃっ♪」
「なっ!」
「これも実験の内じゃ‥‥覚悟せい」
 だが近頃覚えたばかりの万物を破砕する技振るいながら月夜は未だ、激戦繰り広げる太と闘気纏いし埴輪を視界の片隅に捉えながらアシュドの後ろに控えている埴輪を見つめると舞いながら呻くも、戦場の只中を愛犬と共にちょろちょろと駆け回っていた柚那がとある事に気付けば即座に返って来たアシュドの反応を見てニヤリ、笑みを浮かべるも
「そう言えば奇妙な事を思い出したのじゃ。以前の話じゃが、何時の間にか手荷物の中に埴輪が紛れておっての。どうなっておるのか知らぬか?」
「アシュドさんじゃないかな?」
「傍目からビーム!」
「ぷぎゃー!」
 眼前にいたハニワナイトを見て、微弱な結界を張りながら不意に何事か思い出しては呟くとその結界は割ったハニワナイトへ豪快に槌を振るい、砕いたハンナがその答えを疑問系で返せばそれを真実として受け取った彼女は疾く巻物を紐解き、収束した太陽の光を彼へ浴びせ掛けると無論、直撃を受ければ悶絶するアシュドだったが
「くっ‥‥いい所に気付いたな、だが私とてそう易々とやられはせんぞ!」
「それなら丁度いいです、一度手合わせをお願いしたいと思っていたので‥‥遠慮、しませんよ?」
 その一撃では膝を屈さず、焦げながらも彼女の指摘を褒めれば何を思ってかルーティが高らかにアシュドへ挑戦状を叩き付けると二人は揃い、詠唱を紡ぎ織るのだった‥‥皆が皆、趣旨がずれている事に気付き始めて来た中で。
 とは言え、それしきで皆が止まる筈はなく戦いは尚も熾烈を極めた。

●実験結果
「いざと言う時、命令を止められる人がすぐ傍にいないと困るのでは?」
「そう、だな‥‥」
「それかアシュド殿を護衛する何か、拙者らでも構わんが予め備えておくか」
 戦い終えて、結局皆の手によって袋叩きに遭ったアシュドが昏倒してより後に暴走を始めたハニワナイトを全て潰すまでに要した時間はほぼ丸一日‥‥まだ試験体ではあるが、そこそこ強敵だった今は土に帰ったそれを前に佐祐李がボロボロなアシュドへ最後の報告を果たすと呻くだけの彼に、ハンナの歌声が響き渡る中で月夜もその懸念事項に付いて首を傾げるが
「うちは提案する、狛犬ならぬ柴わんこの埴輪‥‥その名も『ハニワンコ』をアシュドーの護衛の為に作るのじゃっ!」
「‥‥それならハニワナイトの為に馬を作った方が」
「馬なんかよりワンコの方が良いのじゃー!」
「いい、かも‥‥」
「じゃろ?」
 それに応じて柚那が愛犬を撫でながら解決策の一つを挙げると露骨に眉を顰める彼へ尚、食い下がる彼女にエドも頷けば溜息を付いて検討する旨を告げるアシュドの眼前へ束ねられた和紙が差し出されたのは、そのすぐ後。
「出来得る限りの事をして出来得る限りの結果を纏めたつもりだ。上手く使ってくれ」
「より一層の完成度を目指し頑張って下さい、アシュドさん」
「‥‥無論だ、世話になった分だけ混沌とする伊勢の守りが一端を私が担う為にも」
 ガイエルが認めた今日までの記録を受け取れば二人からの激励に応じながら視界の片隅に映る斎宮を見据えると改めて決意を固める彼に皆、頷くが
「これから一緒に伊勢を守るなら仲間だね。これからもよろしく、えっと‥‥ハニー?」
 唐突にクレセントリュートから手を離し、歌うのを止めたハンナが唯一残っていたハニワナイトへ首を傾げながら尋ねると夕日が沈む中、皆は笑い声を響かせた。

 とにもかくにも無事に実験を終えてアシュドはすぐにハニワナイトの改善に挑むが‥‥その外見に付いてはやはり言うまでもなく後日、斎宮にてハニワナイトのプレゼンテーションが開かれるもその点だけ散々に言われれば彼は真剣に悩むのだが、それはまだ暫く先のお話。

 〜終幕〜

●コミックリプレイ

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