異教の男

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 40 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月17日〜05月23日

リプレイ公開日:2007年05月24日

●オープニング

●いざ、伊勢へ‥‥
 京都、冒険者ギルドにて再びアゼル・ペイシュメントの姿が見受けられたのは先日の依頼から無事に京都へ戻って来た三日後の話だった。
「伊勢へ行くと?」
「あぁ、京都の街並みも大分見て回りジャパンと言う所がどう言った場所であるかも大体、見当がついたのでね。伊勢へ至る街道の詳細に付いて聞こうと思い、立ち寄ったのだが‥‥」
 その彼より話を伊勢へ行くとの聞いたギルド員の青年は僅かに眉根を潜める中、ジーザス会の伊達男は一先ずそれを気にせずに話を続けるも‥‥やがて、ますます険しくなっていく青年の表情を見止めれば
「そうか、しかし‥‥」
「ジーザス会だろうと、問題はあるまい。既に向かう先へは話をつけている以上」
「そうではない」
 言葉を濁す彼にアゼルは自身の立場を鑑みて答えるも、青年はそれを懸念して表情を険しくしている訳ではないと先ず、簡潔に告げれば
「伊勢へ至る陸路は昔に比べれば一時、平穏になったのだが今はまた状況が変わってな」
「と言うと?」
「悪魔の存在だ、尤も位の低い者しかいないらしいがそれでも普通の人から見れば十分脅威に値する」
「ふむ、悪魔とは余程縁があるのだな」
「‥‥先日、酷い目に遭っておきながら笑うとは」
「いや、失礼」
 次にはその理由に付いて、詳細を語ると‥‥しかし笑う彼に青年は今度、先日彼が見舞われた事態を思い出し渋面を浮かべるも
「それならば丁度良い場所へ足を運んだな、護衛を手配して貰えるかな?」
「護衛、か‥‥今の所、江戸の情勢に加えて悪魔の活動も見受けられているがさて‥‥」
 彼の表情は気にせずアゼルが再び口を開けば、依頼と言う形で改めてギルド員の青年へ願い出るも今の情勢を整理して彼は暫し逡巡するが
「所で、伊勢にて向かう先が決まったと言う話だったが‥‥」
「あぁ‥‥知りたいかい?」
 頭は回転させながらも先にアゼルの口より紡がれた話を不意に思い出した青年、改めてその事に付いて尋ねれば‥‥果たして彼は口を開き尋ね返すと、それを前に渋面を浮かべる青年へ笑い掛ければ簡潔にその答えを返すのだった。
「伊勢国司の元だよ」
「あ、それなら‥‥」
 とそんな折、響いた声はアリア・レスクードのもので唐突な彼女の登場を前に二人は何事かと首を傾げればアリア。
「兄様共々、伊勢藩への協力をお願いされてそれを引き受けるべく、一先ず私だけ伊勢の方へ伺うと言う話をしたらその際、アゼルさんの護衛を頼むともお願いされたので此方へ伺ったのですが‥‥丁度良かったみたいですね」
「なるほど、分かった‥‥伊勢藩からもそう言った話が来ているのであれば引き受けない訳には行くまい」
 二人の口に出さない疑問を早く察し、珍しく一人で冒険者ギルドにまで足を運んだ理由を告げるとその話を聞いて青年は漸く決断すると、それを認めるべく筆を手に取った。

――――――――――――――――――――
 依頼目的:アゼルを伊勢へ無事、送り届けろ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要なので確実に準備しておく事。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 対応NPC:アゼル・ペイシュメント、アリア・レスクード
 日数内訳:目的地まで五日(往復)
――――――――――――――――――――

●今回の参加者

 ea8755 クリスティーナ・ロドリゲス(27歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ea9689 カノン・リュフトヒェン(30歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb0005 ゲラック・テインゲア(40歳・♂・神聖騎士・ドワーフ・ノルマン王国)
 eb3226 茉莉花 緋雨(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5009 マキリ(23歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb8467 東雲 八雲(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●異教の男
 京都、冒険者ギルドを前に一行は今回の依頼人であるアゼル・ペイシュメントと落ち合えば予定の人数より少ない事にしかし彼は落胆の表情すら見せる事無く微笑むと
「東雲八雲だ、宜し‥‥っと」
 それをきっかけに先ず、口を開いては挨拶を交わそうとする東雲八雲(eb8467)だったが、それは途中までジャパン語で紡がれており果たしてつい先日、英国から着たばかりの彼に分かるかは怪しかった為、たどたどしくも英国語にて改めて挨拶を交わせば反応のない彼を前に八雲。
「‥‥まだ不慣れでな。出来れば、ジャパン語かゆっくり目の言葉だとありがたいのだが」
「問題ない、ジャパン語はあらかた覚えてきている」
「‥‥意地が悪い」
「そう言うな、こう言う所から交流は始まるのだからな」
 渋面を湛え、しかし素直に心の内を明かすとアゼルが漸く口を開きジャパン語にて告げれば尚の事、眉を顰める八雲へ肩を竦めるジーザス会の彼。
「意外に砕けた方ですね」
「そうですね、私ももう少し堅苦しい方かと思ったのですが」
「人それぞれ、って事かな」
 その光景を皆で見守る中、その心中にて思っている事を代表してアリア・レスクードが言葉にすれば茉莉花緋雨(eb3226)もまた頷くと、唐突に場へ割り入ってきたコロポックルのマキリ(eb5009)が人懐こい笑顔を浮かべ言えば二人、頷くと
「数回しか顔を合わせては居ないが今回の道中、よろしく頼む」
「いえ、此方こそ。でもそんな事を言ったら他の皆さんはどうなるんですか?」
「全くじゃ、じゃが今回は宜しく頼むぞ。無論、皆もな」
 食えないアゼルから退いて来たのか、八雲がアリアへも律儀に挨拶を交わすが微笑みながら彼女は他の皆を見回し言えば、豊かな髭を蓄えるドワーフの白き神聖騎士がゲラック・テインゲア(eb0005)が八雲を見ては鼻を鳴らすも、次にはすぐに笑顔を湛えれば皆を見ると
「‥‥しかしこの国にまで、デビルが渡って来ようとはな。悪魔を滅するのも本分と言えば本分だが、月道を渡ったこの地でまでその仕事を果たす事になろうとは思わなかった」
「そうじゃな、だが残念ながら神の威光が広まる程、その影たる悪魔も広まる‥‥何とも嘆かわしい事じゃ」
「この国も住み難くなっちゃったなぁ、弓の腕を鍛えようと思って旅に出て来ただけなのに」
 頷いて彼に応じる黒き神聖騎士のカノン・リュフトヒェン(ea9689)は風に靡くリボンを押さえながら無表情に、嘆息を漏らすとゲラックもまた頷き先とは裏腹にその表情へ影を落とせば、マキリもやはり溜息を付くが
「でも、これも修行の内だよね。どうせなら、悪魔を全部射ち落とす位の気合で頑張ろうっ」
「‥‥あぁ」
 すぐに自身が抱く夢を貫くべく意気を吐けば、僅かな間を置いて静かにカノンが頷くも
「とりあえずさ、色々とあるかも知れねぇけどとっとと行かないか? 余りちんたらしてたらそれこそ悪魔に襲われるかも知れないし」
「そうだな、それでは伊勢までの道中‥‥宜しく頼む」
 一行の会話を遠巻きに聞いていたクリスティーナ・ロドリゲス(ea8755)がいよいよ痺れを切らしてか、皆へ呼び掛けるとアゼルが応じれば漸く一行は伊勢へ向けて歩き出した。

●その道中
 と言う事で歩き出してすぐ、後方から皆を見回してふとある事に気付いた八雲は歩く速度を上げ、前方にいるアリアへ声を掛ける。
「何があるか分からないから一応念の為に持っていてくれ‥‥何もない事を祈るけどな」
「すいません、ありがたくお借りします」
 その腰に下げていた長剣が普通の物だろうと察したからこそで、道中に悪魔からの襲撃を受ける事を考えた彼の配慮にアリアは頭を下げ、礼を述べれば正面を切って見つめてくる彼女から視線を外す様に八雲は振り返れば
「後はアゼル、これを」
「済まないな、私は既に持っている」
 一行の中程にいるアゼルへも一本の銀で出来た短剣を差し出すが、彼は懐から同じ様な短剣を取り出し見せれば
「これ位、嗜みだろう?」
「‥‥そうなのか?」
「さぁ」
「だから意地が悪い、とさっきも言ったのだが」
 微笑んでは尋ね掛けるも、ジーザス教の事は良く知らない八雲は逆に尋ねるとアゼルは至って自然に首を傾げて応じれば渋面を湛えた後に生真面目な志士、嘆息を漏らしながら彼の悪癖をすぐに指摘すると困惑の色を湛えるアゼルへ尚、詰め寄る。
「そう言えばアリア、色々話を聞きたいんだけど‥‥いい?」
「えぇ、大丈夫ですよ」
 その暇を縫って今度、その二人のやり取りを見るアリアへ近付いたのは緋雨で彼女の口から出た問い掛けにアリアは一瞬、その真剣な表情から何事かと首を傾げながらもやがて頷けば
「小次郎さんの趣味とか、知ってる?」
「兄様の、ですか。知ってはいますけど一体‥‥」
「それ以上は何も、聞かないで」
 小声にて響く緋雨の問いに今度は言葉にして改めて彼女へ問うアリアだったがそれは途中、紅き髪の志士の掌にて遮られれば首を何度か縦に振る友人を見て、その手を離せば
「結構お酒が好きだったりしますし、日々の鍛錬もああ見えて欠かさないですし‥‥で、どうして兄様なのですか?」
「そう言えば結婚式は何時、やるの?」
「え、えぇーっと‥‥」
「後、子供は何人欲しいのかとか‥‥それはまだ、早いでしょうけど何かあれば相談に乗りますよ?」
 漸く、先の答えが紡がれるとそれを真剣な面持ちにて聞く緋雨だったがその最後でやはり、アリアから再びの疑問が紡げばその答えは煙に巻くべく緋雨は今度、アリアへと逆に問いかけると狼狽してアリアは言葉を詰まらせれば微笑んで彼女は尚も別の問い掛けを紡ぐ、自身の真意に矛先が向かぬ様に。
「随分、和やかだねぇ。もう仕事は始まっているんだけどさ」
「まぁそう言うな、成すべき時にそれぞれがやるべき事を成せば十分だ。それ以外で必要以上に気を張る必要はないじゃろう」
「それもそっか」
 そんな光景を前、ロドリゲスは街道を行き交う人々とそう大差ない至って和やかな雰囲気に呆れるが何処となく棘のある彼女にも柔軟にゲラックがすぐに宥めれば、あっさりと掌を返す大雑把な性格のロドリゲス。
「だが京都を発ってより間もない、気を付けて道中に臨むとしよう」
「そうだな」
 しかしそんな事は分からず、辺りを見回しながらカノンが二人へ声を掛ければまだ長いその道程の先を見据え、未だ八雲に責められているアゼルを見れば何の感情も込めずに呟いた。
「新たな道へ、再び始まりの一歩を‥‥か」

 京都を発ってより二日目の夜、その静寂の中で見張りに立つのはマキリとカノンの二人。
「そう言えば、依頼人さんって異国の宗教の人なんだよね‥‥伊勢へ行ってどうするんだろう?」
「ジャパンに根付いている宗教観に付いて、学ぶつもりだが」
「うわっ!」
「驚かせてしまったな、これは失礼をした」
「う、うん‥‥」
 余り口を開かない彼女の傍らに立つ樹上で、彼女とは別の方を見ては欠伸を噛み殺しながらも視線を配する彼の口から何となしに漏れた疑問は何時の間にかその場に来たアゼルによって聞き止められ、回答を貰えば当然に驚くマキリと静かに目を剥いたカノンへ仰々しく詫びる彼。
(「警戒していたんだけど、な」)
「尤もその上で、ジャパンにもジーザス教を広めるつもりでいる」
「‥‥え?」
「根深いジャパンの宗教に付いてはそれを無視せず、可能な限り共存を図るつもりだ。何であれ仕えるべき存在を、人は必ず持つべきだと思うからこそ私はそれを広めるべく此処まで来た」
 その頭を垂れた彼を見つめ、内心では決して手を抜いての見張りではなかった事を確認するも不意に、頭を垂れたままのアゼルから再び言葉が紡がれれば初めて語られたその真意を受けたマキリが次に考え込めば
「君は、どう思う?」
「どう、って」
「幸いにも同じ教義の様だし、折角だから意見を聞いて見たいと思ってね」
「私は、別に。それに‥‥」
「いちいちそんな事を気にはしない、私は。むしろ個人的にはもう少し皆が広く、受け止めるべきだと思うがね。それに黒の教義とは服従、向上、完全が美徳なのだからそれを考えれば種族と言う枠に囚われる必要はない筈。それら、全てを踏まえて布教をやってみたいと思うのだが‥‥変わっているかね?」
 沈黙を貫くカノンへアゼルが向き直ると今度は彼女へ話を振ると言い淀む彼女。
 黒き長髪に巻かれているリボンを触りながら言葉を詰まらせるカノンへしかし彼は彼女がハーフエルフである事を察しながら改めて、自信の真意が一端を語りその最後に尋ねると
「変わっている、と思う」
「‥‥そうか」
 素っ気無くカノンから返って来た答えを聞いて、漸く顔を上げたアゼルは微笑んだ。

「とは言え、こう言った人助けも時には必要だろう」
 三日目も昼は過ぎ、太陽がそろそろ西の空に沈み掛けていた頃‥‥一行は道端にて屈んでいる婆様から助けを求められると、アゼルが率先して動く中。
「あんた、本当に黒の教義を説いているジーザス会の人間かよ?」
「私は確かに黒の教義を主としているけれど、そもそもジーザス会は黒だけを説いている訳ではないのでね」
 その光景に呆れるロドリゲスだったが、その彼女を諭す様にアゼルが言葉を返せば足を挫いたと言う婆様を背負って踵を返す彼だったが
「いい、俺が背負う」
「しかし、済まないねぇ」
「困った時はお互い様じゃろうて、気に召されるな。行く先も具合良く同じ方向だし」
 八雲が彼の肩を叩き代わりになる旨を告げれば、それには素直に応じると皆を見回し詫びる婆様にゲラックは微笑むと一行は再び隊列を整えて動き出そうとした、その時。
「‥‥ん? 何か、音が」
「気を付けて、近くに何か‥‥いる」
「ふん、悪魔でも盗賊でも屍人でも相手になるぞい!」
 ロドリゲスが不意に立ち止まると辺りの様子を伺えば、彼女より早く辺りの異変に気付いていたマキリが皆へ警告を発すれば途端、先までの穏やかな表情を消してゲラックが周囲の大気を振るわせれば、直後に現れたのは漆黒の翼と体表を持つ異国からの来訪者達。
「ひぃやぁぁ」
「数は‥‥八匹か、やはり頼む」
「尖兵共が小悪魔か。全く、この地にまで来て一体何を企むと言うっ!」
「‥‥聞いても喋る筈がない、それなら」
 近くの木陰から、そして空の高みから一行の周囲に降り立つそれを前に今度は婆様が声を震わせれば八雲は数を確認した後、彼女をアゼルへ返せばその彼を守るべく身構えると怒気を孕ませて裂帛を放つゲラックには嗤いしか返さない悪魔達へ瞳をすがめ、カノンが業物の剣を掲げ言えば
「許さんぞ、悪魔めっ! 貴様の存在自体が神への冒涜じゃいっ!」
「この国には、大事なものもいる‥‥悪魔の好きに、させるつもりはない」
「これ以上、この地を乱す存在は許しません!」
 自身よりも大分長い槍を馬上にて軽々と振り回しゲラックが告げると、彼に続きカノンとアリアも言い放てば直後、三人が同時に得物を掲げて地を蹴ると戦いの幕は切って開かれる。
「効いたら断然、楽なんだけど」
「ってロドリゲスさん、何を?!」
「足手纏いが二人いる割に前が三人だけじゃあ足りないだろ、敵の目を引き付けて攻撃を避ける位なら出来るさっ!」
 その三人が動くと共に後ろに控える面子はそれぞれ、魔法や射撃武器で援護するが‥‥生憎と魔法が付与されていない武器をロドリゲスがもどかしさを募らせると、いよいよ持って我慢が効かなくなった彼女は弓を携えたままに悪魔が群れる場目指し駆け出せば、正確な狙いを付けて確実に矢を放つマキリの狼狽に唇の端を吊り上げ、応じて彼女。
「‥‥良くも無茶をする」
「生憎様、良く言われるんでね」
「そうなると‥‥負けてはいられないなっ!」
 やがて辿り着いた先にいたカノンに呆れられればしかし、ロドリゲスは鼻を鳴らすだけでその答えを前にカノンは相変わらず無表情のまま、しかし自身を発奮させれば振るう剣の速度を更に上げ、漆黒を切り裂く。
「ロドリゲス!」
 そんな折、ロドリゲスに迫らんとする一匹の悪魔に気付いた八雲がそれを重力波にて打ち据え、危険を促せばしかし彼女は体勢を崩したその悪魔へ狙いを付けるべく上半身を無理に捻り、向き直れば即座に虎の子の銀の矢を放ちこの世から抹消する‥‥もロドリゲスは遠く、地面に突き刺さった銀の矢の心配をするだけ。
「‥‥まだ使えっかな、あれ」
「神の代理、と名乗るはおこがましいがそれでも我輩は仕える神が為、主らの存在は決して認めん。故に、滅せよ悪魔!」
 だが悪魔達もそれしきでは怯まず、僅かとは言えまたその数を増やすも‥‥数的には劣勢を強いられる中にも拘らずゲラックは雄叫び放てば、果敢に長大な槍を携え愛馬を鐙だけで操り恐れず引かずに突撃した。

●辿り着いた先
 それより一行は残る二日も無事に道程を踏破し五日目、無事に伊勢へと辿り着く。
 その後、やはり下級の悪魔から何度か襲撃されるがそれも撃退した上で‥‥とは言え透明化に対する対処がなかったからこそ、その根絶こそは完全に成されなかった。
「此処が伊勢、か。案外普通なんだな」
「伊勢の肝は此処じゃあない、一つは伊勢神宮でもう一つは此処より離れた所にある斎宮が伊勢の要所とも言うべき場所な筈」
 だが本来の目的であるアゼルは無事に伊勢へ辿り着けた事に安堵の溜息を漏らせば、初めて来た伊勢の街並みを見回してロドリゲスが密かに呟きを漏らすも、それを聞き止めたジーザス会の彼は彼女を宥め遠くへ視線を投げれば
「時間があれば伊勢の市街を一緒に見て回りたかったが生憎と懐の都合があってね、申し訳ない」
「謝る必要はないだろ、つか面倒そうだしあたしは誘われてもパスするけどな」
「それは残念だ」
 神宮がある方を見つめたままに言葉を漏らすとそれにはロドリゲスがつれなく応じれば視線はやはりそのままに、アゼルは肩を竦める。
「そう言えば、国司の元へ行くと言う話だったが道は分かるのか?」
「問題ない、予め聞いているよ。それでは此処でお別れだ、世話になった。皆に神の加護があらん事を」
「アゼルの方こそ、な」
 すればその後に八雲が続き、言葉紡げばそれには最後こそ断言すると改めて皆を見回し、礼を紡いだ様には八雲も笑顔で応じると
「アリアさんも此処で?」
「そうですね、藩主様の邸宅も予め聞いていますしそう遠くはありませんので。今回はお世話になりました」
「こちらこそ」
「また機会があったら逢おう、それでは」
 その傍らに佇むアリアへマキリが尋ねれば、笑顔を湛え応じる彼女に緋雨は恭しく頭を立てて応じればアゼルの言葉を最後、皆は伊勢の門前にて散開した‥‥マキリが呟いた一つの疑惑を抱えたまま。
「‥‥どうもまだ、本腰って感じじゃなかったよなぁ」

「暫くは足場を固めましょう。慌てる事はありません‥‥既にこちらは至るべき場に辿り着いているのですから、その刻が来るまでは腰を据えて」

 〜終幕〜