凶霊降臨
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:8 G 76 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月24日〜05月31日
リプレイ公開日:2007年05月31日
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●オープニング
●闇の中
「逢いたいだけなのに、どうして皆止めるの? どうして彼は来てくれないの?」
村の郊外にある小振りながらも立派な屋敷の一室、一人呟いては床に身を横たわらせる『彼女』の背中はとても小さく見えた。
「別れてからもう一年。約束の日はもう過ぎて、けれど彼は来ない‥‥私が此処にいるから?」
そしてその悲しげな声音で届かない言葉だけ織り紡がせると『彼女』は頭を垂れるが
「私は此処にいる事を望んでいないのに‥‥どうして、皆の為に私だけが犠牲にならなければならないのっ!」
その『彼女』、瞳に強い悲しみの光だけ湛えると漸く顔を上げて窓越しに浮かぶ月夜を見つめ‥‥やがてユラリと立ち上がれば閉じられたままの扉を強く、激しく叫びながら叩くが掌に、腕に走る痛みの割にそれは揺るぎさえしない。
「私は‥‥こんな事は望んでいない、そして彼も帰ってこない。もしかして彼は‥‥それならもう」
やがて根折れてか『彼女』は扉に手を付いたまま、膝を突くと同時に抱いてしまった最悪の可能性に身震いし、しかし立ち上がるほどの余力は既にない『彼女』は乱れる髪に刺さっていたかんざしを抜き放てば、痛みに震える手でそれを握り囁けば直後。
「‥‥全て、壊したい」
呪いの音叉を放ち、月を紅に染めた‥‥いや、染まったのは。
●時は巡りて
伊勢、伊雑宮が程近い所にある村の外れ‥‥森と湖の狭間にひっそりと佇む大きな石碑を前に一人の少年は首を傾げていた。
「これ、なんだろ?」
「村人達には忘れられているが、悲しき人が今も眠る墓標だ。尤もその戒めは今になって漸く解き放たれる‥‥」
そして誰にともなく疑問を紡げば、返って来る筈のない答えが飛来した事に少年は慌てて辺りを伺うも‥‥人影は一切見えず。
「さて、巻き込まれるのは勘弁被る故に後は『彼女』へ任せるとするか‥‥」
しかし未だ呟きが響けば、更に首を傾げる少年だったがそれが村を見舞う惨事の発端である事を少年は気付けずにいた。
この時、少年がその異変に気付き何らかの対策なりを講じれば話は別だったろうが、それを彼だけに求めるのは酷な話で‥‥少年が踵を返すと共に何かが地に落ちる音が響くと『彼女』は地の底から蘇った。
●そして、斎宮
「‥‥先手を打たれた、かしら」
「はい」
斎宮、斎王の間‥‥側近の光が報告を受けて嘆息を漏らしたのはその間の主の祥子内親王で、しかしその嘆息に彼女は迷わず応と答えれば
「確か、あの村に封じられていたものは死霊でしたね」
「はい。昔、ある豪族の娘がとある村に住まう青年と恋に落ちた事が発端です‥‥知り合ってより後は平和な日々が続き二人は結婚に向けて幸せな日々を過ごすも、やがてその近隣で戦が起これば戦場へ旅立った彼」
確認する斎王へ再び側近は頷くとその村に伝わる言い伝えを語り出す彼女‥‥その口から語られる話は一組の男女襲った悲恋の話。
「必ず帰る、との恋人の約束を信じてその帰りを待ち焦がれる豪族の娘でしたが沸いて出た、別の豪族の息子との縁談‥‥決して裕福ではなく、途絶えそうな血筋を繋いで再興を願う自身の父親にしかし彼女は拒み続けるも、やがて結婚の儀を迎える日まで遂に幽閉される事となる」
普段と変わらぬ口調に抑揚で、淡々と語る側近はその途中まで語っても尚表情を変えず、その続きを語る。
「帰って来ると言ったきり音沙汰のない彼に悲しみ禁じえず、血筋を存続させる為に自身を生贄に捧げようとする父親に怒りを覚え‥‥絶望の果てに彼女は遂に自ら命を絶ち、そして人とは違う異なる存在に生まれ変われば全てを滅却した。しかしその後、高名なお坊様達の力で何とか村の片隅に封印したと言う話です」
「良くある話、ですね‥‥そしてその怨念が今になって解き放たれた。しかし一体」
「焔摩天、ないしはアドラメレクが動いている可能性が高いかと」
そして漸く、話の全てを語り終われば眉根を伏せて斎王は疑問を囁くと伊勢にて暗躍する存在の名を挙げる光へ自身も考えていたとは言え、改めて告げられればもう何度目かの溜息を漏らして斎王。
「‥‥所で村人達の避難は済んでいるのですか?」
「一通りは。ですが、逃げ遅れた人もいると言う話です」
「ならば早急に手を打たねばなりませんね」
「冒険者の一団に楯上優を加えてはどうでしょう、今後の為にも」
「そうですね」
件の村の状況を伺えば、早急に答えを返す彼女の傍らにて立ち上がるとすぐに指示を下す祥子内親王だったが
「それと‥‥先日、伊勢へ着たばかりのルルイエも呼んで貰えませんか?」
「‥‥何ゆえ?」
「引っ掛かるのです、まだ勘の様な漠然としたものですが‥‥彼女もまた、伊勢を正なる方向へ導く何かを秘めている様な、そんな気がして」
「‥‥実力に長けた魔術師である、と言う話は聞いていますが」
「ならば建前、補佐として招く事は出来ますね」
何の目論見があってか、伊勢へ先日来たばかりの魔術師が名を挙げると‥‥その理由を問い質す側近へ曖昧な答えを返しながら斎王は窓の方へ身を寄せ、呟く。
「優だけでは足りないのです、伊勢の穢れを払うには‥‥その為にも可能性があるならば彼女だけに限らず全て、試したいのです」
「‥‥‥」
「全ては清浄なる伊勢の地を取り戻す為に、そして引いては‥‥『日輪』を招く為にも」
その真意までも全て‥‥そして黙する光を前に彼女はこれからやらなければならない事を彼女へ告げれば身を翻し、側近を見つめて微笑んだ。
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依頼目的:逃げ遅れている村人を救出すると共に蘇った死霊を倒せ!
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要なので確実に準備しておく事。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
対応NPC:ルルイエ・セルファード、楯上優
日数内訳:目的地まで四日(往復)、依頼実働期間は三日。
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●リプレイ本文
●暴走する想い
「皆さん、お待たせしました‥‥はぁ。今回は宜しくお願い致しま‥‥す?」
京都、冒険者ギルドを前に依頼人の代行者らを待つ一行の前に息を切らせて漸くやって来た、巫女と魔術師の二人は待ち侘びていただろう事に対し、早々に頭を垂れては巫女の楯上優はその最後で傍らを駆け抜けた、一陣の風に何事かとすぐに顔を上げると
「ルルイエ!」
己の背後にて静かに息を整えていたルルイエ・セルファードが名を呼んで抱き着いたロア・パープルストーム(ea4460)の姿を見止め、簡潔に個々へ至るまでの話を思い出せばその表情を綻ばせると
「本当に‥‥無事で良かったわ」
「ありがとうございます、でもそれより今は‥‥」
「あ、え‥‥っと。そうだったわね」
「皆さんも、宜しくお願いしますね」
久々の再会に言葉を詰まらせてロアは、それでも上手く伝えられない感情を言の葉に込めて紡げば頷き応じるルルイエではあったがしかし、真面目な彼女はすぐに同属の魔法を手繰る彼女を宥め皆の視線の中で一礼だけすれば
「簡単にしかご存知ではないかと思いますが、大まかな話は既にご承知ですよね?」
「はい。しかし‥‥何とも哀れな話です」
「死霊になった娘さんの身の上には悲しい気持ちを覚えますが、今を生きる人々を犠牲にさせる訳には行きません」
「ですが、このまま危険な怨霊として払うだけで終わらせたくは無い物です」
「‥‥そうですね」
それを端に優が歩き出すと、皆も彼女に続き町の外へ向け歩き出せば巫女の問い掛けへ何時もは穏やかな表情を湛えている神木祥風(eb1630)がその表情を曇らせては呟くと、続いた騎士のミラ・ダイモス(eb2064)の言葉にも優が頷けば、その優しさから出た言葉は彼女だけでなく皆も揃い、頷く。
「色々な意味で、今回の依頼は厄介ですね」
「まぁ、やれるだけの事はやってみましょう。後は村人の救出も忘れずに」
「それと、出来るのならこの一件を目論んだ邪なる者を滅ぼすべく」
だからこそか、皆が持つだろう惑いを改めて凛々しき志士の山本佳澄(eb1528)がボソリ、呟くとルルイエの傍らにつくロアも頭を巡らせながら果たして断言すればもう一つの目的も念の為に補足すると、ミラが最後に付け加えた目的には伊勢を事情を知る面子は揃い渋面を湛えるが
「とにかく、早く行きましょう。『彼女』を止める為にも‥‥ね」
それを宥める様に、自身へ先ずは言い聞かせるつもりで言葉を響かせたステラ・デュナミス(eb2099)が皆を促せば、やがて一行は街道へ出るなり歩みを速めた。
●村に至りて‥‥
「ルルイエ、体の方は大丈夫か? 久し振りの戦闘になる故、余り無理はせぬ様にな」
「はい。でももう、大丈夫ですよ。魔法の方も大分勘を取り戻しましたし」
やがて村が近くなる中、ルルイエの身を案じて声を掛けたガイエル・サンドゥーラ(ea8088)だったが、気遣いは無用と答える彼女の様子を見れば安堵に顔を綻ばせるも‥‥それは僅かな間だけ。
「‥‥っ、寒気が‥‥」
「ルルイエ?」
「漸く、着いたか」
直後、身を震わせたルルイエの様子を異変と見てガイエルが彼女へ声を掛けると同時に響いたマーヤー・プラトー(ea5254)の声をも聞けば彼女は火も燻っているのだろう、煙が上がる村の様子を目に留めると暫く駆けた後に皆と揃い村の中へ入るなり、その瞳をいよいよすがめて呟いた。
「‥‥この状況では村内に避難場所を設けるのは難しそうだな」
その村内の状況とは果たして死人憑きや怪骨、死食鬼が闊歩しており早々にガイエルは逃げ遅れた村人達が一時的に集う場の構築を村外へ決めると
「最愛の人との別離。確かに辛いだろう‥‥だが、それが凶行を許す理由にはならない。何としてでも鎮めなければならないね」
その光景の中でマーヤーは複雑な表情を湛え、何処にいるかその根源へ向け抱いている複雑な感情故に哀しげな声音を響かせるが、すぐにその惑いを振り払うと剣を抜き放ち眼前にそれを掲げれば
「あぁ、だからこそそれぞれにやるべき事をやるとしますかね」
焦げ臭い風に赤毛を靡かせながらランティス・ニュートン(eb3272)もマーヤーの意思に同意して頷くと、一先ずは目の前にいる生ける屍の群れを払い逃げ遅れた人々を救うべく、両手に剣を携えては駆け出した。
●
村人達の救出と唐突に現れた死霊の調査の為、二手に別れて一行の内が多く人手を割いている救出班はすぐに村へ飛び込んで後、蟠る死人の群れを再び屠っていた。
「やはり、アンデットの類が多いですね‥‥」
「しかしこの程度であれば後れは取らないさ。数こそ、そこそこに多いけれど」
不可視の存在ではないからこそ気は楽だが、村中の何処にでも潜んでいそうな勢いの数を前にすれば、佳澄は日本刀を振りながら嘆息を漏らすも彼女を宥めるべくマーヤーが至って落ち着いた声音で彼女を宥めれば
「こちらの家の中に三人、逃げ遅れている者がいる!」
「今度は後方から‥‥」
「必要以上に気にする事はない、今は逃げ遅れた人を助ける事が先ず優先される!」
直後、ブレスセンサーにて村人を補足したガイエルの声を聞くと駆け出すマーヤーと佳澄だったが馬を引きながら周囲に気を払うミラの声が響くと、ガイエルの断言と同時に一行の背後から迫ってきた死食鬼の一体が振るう爪を斬魔刀の刃で受け止めるミラはその時、今更な事に気付く。
「とは言え、肝心の死霊がいませんね」
「今はそちらの方が良いと思うけど‥‥ね」
その言葉を聞きながら大気中の水分を凝縮、圧縮しては水礫を放っていたステラが『五節御神楽』の同僚として声を掛けると、頷いた彼女に迫る他の生ける屍を炎の壁にて塞き止めていたルルイエを援護すべく、威力を抑えた氷の嵐を瞬時に解き放った。
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一方、死霊の調査に当たっていた面子は村内を駆け回る仲間の手によって村の入口に逃げ延びて来た人々から話を聞いていた。
「現れた死霊に関する話だって?」
「あぁ、伝承の詳細なり恋人に関する話だったり‥‥何でも良い」
殆どが子供か老人である中、ロアにランティスと優は老人を中心にした聞き込みを行うと‥‥果たしてすぐに一人の老人よりその解を得る事となる。
「それを聞いて、どうするのじゃ?」
「怨霊となる程に暴れている娘さんだ。過去に封ぜられてより後は、再び祟られぬ様に祭るのが人の心理じゃないかな‥‥とすればそこに何か鍵がある気がしてね」
「そうね、筋は通っているわ」
「‥‥あの死霊を封印していた湖畔、石碑の傍らに小さな祠がある。そこになら鍵と成り得る何かがあるやも知れぬ‥‥」
その問い掛けを受け、老人はランティスへ問い返すと彼の口から紡がれた明確な理由にロアと優が頷けば、何を思ってだろう老人は難しい表情を湛えて口を開くと
「それなら、行きましょう!」
「少し、待って貰えるかな? さしもの英雄も東方の島国の事までは知っていたか分からないが‥‥お知恵を借りてみたいものがあるのでね」
それを聞いて時間的な余裕もない事から見た目の割、似つかわしくない長大な鉾槍を担いではすぐに踵を返そうとする優はだったが、その彼女を引き止めてランティスは何時もの明るい声音を響かせれば、背嚢の中にある魔法の剣を取り出しては暫し、それへ呑気に祈りを捧げるのだった。
●凶霊降臨
初日もすっかりと日が落ちた頃、調査班が未だ戻らない中で村人の救出に当たっていた面子はその全員を助けた事を間違いなく確認すれば、時間も時間である事から先に一息ついていた‥‥そんな時だった。
「‥‥っ! あぁあっ!」
「どうした、ルルイエ」
「‥‥わ、分かりません。でも非常に嫌な感覚が‥‥あの方から」
唐突に絶叫を放つルルイエの様子に内心でだけ驚きながら声を掛けたガイエルへ彼女はその身を震わせながら答えを返すと
「‥‥この姿で何らかの反応を示すかと思ってはいましたがやはり、そう上手くは行きませんでしたか」
何らかの異変を察して祥風はすぐにデティクトアンデットを完成させれば、確かにルルイエが指す方にある反応を確認して渋面を浮かべると同時、一様にしゃがみ込んでいた村人の一人の少年がユラリ、立ち上がると憎悪の視線だけを一行に注ぐが
「その悲痛、分からないでもない。だが、今は好きにさせる訳にはいかない」
言葉を紡がない少年を前に一先ず剣を抜いてはマーヤーが穏やかな声音にて告げるが直後、その彼‥‥いや『彼女』はただただ周囲に憎しみだけを垂れ流し、村人達が逃げ惑うまでに場の空気が一変させるとついで、一行目掛け地を蹴ればそれに応対すべくステラは速く魔法を完成させ、掌に冷気を宿して突っ込んで来る彼へ腕を掲げるが
「ステラさん、駄目です!」
見た目、何ら他の子供達と変わらない彼へ本当にこの掌で触れるべきか逡巡したその暇、飛び込んできた祥風がステラへ呼び掛けながら少年へ体当たりを敢行し、吹き飛ばすと
「下手な魔法では憑依されている人にのみ、痛みを与えるだけです」
「‥‥ちょっと、洒落にならない所だったわね」
「ですがこのままでは宜しくありません、一先ずは切り離さないと‥‥!」
すぐに響いた明確な理由を聞けば彼女は唐突とは言え、半端ではない威力を宿した掌で迎撃しようとした事に背筋を凍らせて再び身構えると、憑依する者に対しても傷を負わせる事が出来る死霊の特性を知る祥風は早く判断を下せばホーリーを即座に完成させると、それは果たして少年を穿ち‥‥彼に宿っていた死霊を引き剥がす事に成功する。
「‥‥気を付けて下さい。この殺気、尋常ではありません」
「正しく死霊、ですね。怨霊なんて生易しい部類ではない。そうなると場合によっては‥‥」
だが朧ろげな姿ながらも場に宿る今まで以上の殺気を感じ、ミラが警告を発すれば重苦しい場の空気に喘ぐ様、祥風は呟くがマーヤーはだからこそ皆へ告げた。
「それでも、やってみなければ分からないさ」
●
「‥‥はぁ、はぁ」
そして始まる戦いではあったが、強敵を前に調査班が未だ帰って来ない事から防戦に徹する七人ではあったが、死食鬼とは比べ物にならない実力を持つ死霊と対しては息を荒げさせていた。
「やはり、手強い‥‥触られるだけでこうも容易くダメージを被るとは」
「結界でその接触こそ拒めるが、この状況では‥‥」
その死霊がもう一つの特性故、ただ一度の接触だけで手痛いダメージを受けたマーヤーは先とは裏腹にその表情を曇らせ呟くと、村人達を守るべく結界を張り巡らせるガイエルもまた膠着する状況に歯噛みすれば同時、揺らめく死霊は尚も憎悪を滾らせ侵攻を再開するが
「ちっ、もう始まっていたか!」
その場へ漸く軍馬を駆っては辿り着いたランティスが舌打ちすると一行と、死霊の姿を見止めては渋面を湛えるが
「参ったな‥‥これで果たしてこれで完全に今までの憎悪を拭えるか」
「とにかくやってみないと分からないわ。ほらっ、受け取りなさい!」
遅れて頼りない足取りにて精一杯馬を駆って現れたロアと優もその場に駆け込んでくれば、場に漂う空気を敏感に察したランティスが鼻白む中でも魔術師の掛け声が響くと直後に巫女が場へ放ったのは‥‥ただ一本の脇差だった。
●真実とは
果たしてそれより後、死霊は漸くその姿を消す。
尤も『彼女』は錯乱したかの様に髪を振り乱して見せれば一行が止める暇に余裕がない隙、空の彼方へと消えれば此処に依頼は果たされる‥‥一端は成功で、もう一端は失敗。
両極端なその結果を前にしかし皆は今、ランティスらが突き止めた事の真相を聞く。
「どうやら『彼女』の恋人はこの村にまで、辿り着いていたらしい」
「尤もそれは事件が起きてから数年も後の話で、その時は村の復興こそ成ってはいたみたいだけど‥‥着いた時には全てが遅かったのよね。『彼女』の話を聞いて打ちひしがれた彼は、村を去ろうと決意をするけど‥‥でもその前に『彼女』が祭られている石碑を訪れ、戦の前に『彼女』から貰ったこの脇差を残していったみたいね」
「せめて御国では安らかに、と括られた文が祠の中に残されていました。それから後の彼の消息に付いては不明ですが更にそれより後、何時からかあの場は禁忌との場とされていた様です‥‥その理由までは、分かりませんでしたが」
ランティスを端に、ロアが買ったばかりの馬を宥めながらその詳細を皆の前にて淡々と語ると、その最後は優が補足して締め括れば表情を曇らせると
「‥‥昔の事とは言え、知らぬは罪なのかしらね?」
「それは何とも言えませんが、でも死んで後に忘れ去られていく事は‥‥怖い気がします」
「そうだな」
彼女に続きボソリと、誰へ問う訳でもなく言葉を紡いだステラに佳澄は難しい表情を湛え、自身に置き換えての答えを返すとガイエルも首を縦に振れば沈黙が場を包むも
「だが間違いなく、これだけは言える。これ以上、何者にも想い出を汚される事なく安らかに眠って貰いたい‥‥こんな言葉を掛ける事しか出来ないのが辛い所ではあるがね」
「それだけでも十分ですよ、きっと」
その中でポーションを飲み干し、安堵の溜息を漏らしてはマーヤーがその沈黙を切り裂けば‥‥しかしすぐに肩を落とすと、それでも祥風は穏やかな笑みを彼を慰めるのだった。
「次こそは必ず、『五節御神楽』の名において今回の黒幕を必ず‥‥断罪します」
一方ではミラが今回の騒動に至った根源に怒りを覚える中で。
果たしてこれからまた『彼女』が現れるかは分からない‥‥しかしその時が来たならば、次は果たして。
●
「そうですか‥‥分かりました。報告、ありがとうございます」
斎宮に『闇槍』の一人より早く件の報告を受けていたのは斎王本人で、情報を携えて来た部下を労えばその姿が早く消えて後に彼女は再び、集う伊勢神宮の重鎮達を前に再び口を開く。
「どうやら見込み通りの才が片鱗、かいまみえた様子。そうなれば計画は実行に移しても問題ないでしょうが‥‥如何ですか?」
その問い掛けは果たして何を考えてのものか、最初より場に集う者こそ知れどその全容は途中から場に来たものには分からず、だが前々から考えていた事をいよいよ突き進めるべく斎王は次々に返って来た答えに顔を綻ばせれば
「天照様を伊勢へ招く事‥‥それこそが伊勢の闇を払う最大の打開策なら、早急に伊勢を清めねばなりません。その力を持って汚れの場を早く特定出来るのなら、それも容易くなるでしょう」
尚も説き伏せん為、皆へ穏やかな声音にて言葉紡げばその中で明確に告げられたその神の名を耳にして場に居合わせる者達は一様に波紋を広げるが如く口を開き、騒然とするがそれでも彼女は場に通る声にて自らをも落ち着かせる様に言葉を紡ぐのだった。
「尤も、今の私達に力を貸してくれるかは定かではありませんけれどそれでも私達は‥‥」
〜終幕〜