【何でもござれ】伊勢海老を食い尽くせ!

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月27日〜06月02日

リプレイ公開日:2007年06月03日

●オープニング

●二見の海岸沿い
 斎宮が見えるその場所‥‥夫婦岩のすぐ間近にある漁師村において今、何故か巨大な伊勢海老が再び、しかも大量に発生していた。
 とは言えそれは先日、冒険者達を撃退したサイズのものではなくそれより一回り小さい伊勢海老ばかりで、しかしそうは言えど一般的な伊勢海老に比べると十分に大きく漁師達でも手の余る‥‥
「はっはー、流石にもう慣れたぜ!」
 事はないらしく、豪傑を誇る海の男達は銛を振るっては次々にそれを捕獲していた。
 正しく大漁、村にとっても喜ばしい事なのだが
「‥‥勿体ねぇよな」
「あぁ、勿体ねぇ」
 多く浜辺に転がっている伊勢海老を見て呟く漁師達‥‥普通とは異なるサイズ故に市場へは出せない事から食し、確かに大味でこそあったが十分に食べられれば折角これだけの量の伊勢海老を捕まえたのだから何か出来ないかと考えるのは至極当然。
「‥‥そう言う事で何か良案はあるだろうか?」
 やがて、村に住む海の男達が揃い相談をするのもまた当然で長老がしゃがれた声を響かせれば呻く皆ではあったが
「大食い大会ってどうだ?」
「‥‥全部、捌けるかねぇ?」
「捌けなかった時には罰金‥‥じゃなくて、参加料を回収すりゃ良い。逆に全部捌けた時は参加者の中で一番食った奴に賞金を出すならまぁ、妥当じゃね?」
「折角だから新しい伊勢海老料理なんかも募集すると面白いかもな」
 誰からか出た提案を端にすれば、それぞれに疑問と回答を提示しながら話を進める事暫し。
「なるほど、上手く行けばいい村興しになるだろうかもの‥‥ふむ。ならば駄目で元々、当たれば儲けの精神で行ってみるか」
「よっし、そうと決まればさっさと行動開始だ!」
 考えるのが面倒になったか、村の長老がやがて決断を下せば海の男の一人が立ち上がり告げると皆は一斉に動き出すのだった。

 と言う事で話が纏まれば早々に京都の冒険者ギルドへ以下の内容にて募集が掛かるのだった。
『伊勢海老を食い尽くせ! 参加費無料、但し全員で全てを食べる事が出来なかった場合は参加費を支払って貰いますが‥‥もし食べ切る事が出来た場合、一番に食べた人へ金一封を贈呈! さぁ皆、二見の海にて夫婦岩を眺めながら伊勢海老をたらふく食べないか?!』
 因みに伊勢海老料理の創作コンテスト‥‥と言うべきか、それに付いては以下の通り。
『また料理が得意な方も募集、大きな伊勢海老なので解体に人手が要る事と独創的且つ新たな伊勢海老料理を見てみたいので‥‥選ばれた方にはやはり金一封を贈呈、明日の伊勢海老料理の看板を作るのは君だ!』
 ‥‥さてはて、果たして一体どうなる事か。

――――――――――――――――――――
 依頼目的:大伊勢海老の大食い大会に参加せよ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は移動期間中の分のみ必要。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 日数内訳:目的地まで四日(往復)、大食い大会&料理コンテスト(?)の期間は一日で結果発表等に一日。
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●今回の参加者

 ea1569 大宗院 鳴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb0334 太 丹(30歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 eb3393 将門 司(39歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb5009 マキリ(23歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)

●リプレイ本文

●村興しですよ、全員集合?
 伊勢、二見‥‥夫婦岩が良く見える海沿いにある漁師村のその片隅にてなにやら可笑しき集団がたむろしていた。
「伊勢海老が一杯食べられるのですね、とっても楽しみです‥‥ちゃんとお腹を空かせておかないといけませんね」
 その一人が大宗院鳴(ea1569)は何時もの様に折り目正しく巫女装束を身に纏いながら、しかし盛大にぐぎゅるるるると腹の虫を鳴かせ遠くにてちらほらと見える赤く大きな甲殻類に瞳を輝かせれば
「な、何もそこまでせぇへんでも」
「いえ、私達の糧になるのですからこれでも足りないのではと思っている位です」
「そか‥‥そこまで言うならまぁ、止めへんけどな」
 その彼女の傍らにて、刀を肩に担いでは小屋に寄りかかる将門司(eb3393)は流石に腹ペコな巫女に呆れるも、彼を見つめて鳴は果たして断言すると溜息を一つ漏らした後に彼女が見つめる方へ視線を投げ、遠目でも分かる普通の伊勢海老とは違うサイズに改めて唖然とする。
「しっかし、でっかいな」
「‥‥一杯退治したけど、まだおっきい伊勢海老獲れるんだ」
「おう、あれから後もわんさかとな!」
 すると司が寄り掛かるその小屋の屋根に昇っていたマキリ(eb5009)が声を降らせると、それを聞き止めた漁師の一人が笑い応じれば
「余計な心配は不要だった、って事かな?」
「最近はまぁ、他に目立った事はないしなぁ。大丈夫なんじゃね?」
 過去にそれを退治する依頼を請け負った彼は瞳を細め、今は穏やかな波を漂わせている海を見やると先に応じた漁師が首を捻りながらやがて笑顔を湛え、応じれば
「‥‥新撰組が変に出張ると興が冷めるやろうなぁ」
「ん?」
「いや、何でもあらへんよ」
 その和やかな光景を前、ボソリと呟いたのは司だったがその囁きは生憎と聞く事が出来ずにマキリは気になって屋根から落ちない様に気を付けながら身を乗り出しては首を傾げるも、その問いは笑顔で煙に巻く新撰組が藩士の一人‥‥と皆、一様に話を盛り上げるその中で明らかに可笑しな風貌の者が一人ありけり。
「あれ、そういやあんた‥‥最近、何処かで見た記憶があるんだけど?」
「ししし、知らないっすよ! 自分は仮面の武道家『ほわいとしゃどう』っすから!」
「ふーん‥‥」
 その巨躯の彼が纏う武闘着はさて置いて、その上には風に靡く紅蓮のマントに目の辺りを覆う不思議な仮面を着けた巨人の彼こと、太丹(eb0334)の存在に気付かない者はおらず‥‥しかしその風体から今、漸くに一人の老人から声を掛けられれば狼狽も露わに答える太は仮の名を告げては老人を納得させようとするも
「‥‥まぁ、いっか。村興しの一環でもあるし人は多い方がいいからのぅ」
「ほぅ〜」
 しかし老人はそれを至って気にする事のない様な発言をすればやがて踵を返すと、思わず安堵の溜息を漏らす彼だったが
 ぐぎゅるるるるるるるるるる‥‥。
「うーん、もう限界かも知れません。お空の上で誰かが手招きしています〜」
 それを掻き消さん勢いで響いた、再びに鳴が鳴らした腹の虫と何処となく焦点の合っていない瞳を揺らめかせている彼女が呟くと
「そろそろ、始めた方がいいのかね。人の集まりは‥‥いまいちだけど、まぁ痺れを切らす前に始めるとするか」
 近くにいた今回の主催者である村長がそれを聞き止めながら、狭き村を見回してはぼちぼちに集った人影を見止めると漸く決断を下せば、それぞれが求める戦場へと参加者達を招くのだった。

●伊勢海老を食い尽くせ! 〜食事編〜
 さて、大食い会場に招かれた面子‥‥その数は十人、流石に仮面を着けているのは太だけだったが皆、揃いも揃って屈強な肉体を持つ男性ばかり。
「うわぁ、やっぱり多いなぁ‥‥」
「おっ、坊主も食う側か。まぁ精々、頑張ろうぜ」
 しかし、それに気付くよりマキリは先に会場の程近くにある急拵えの屋外厨房が奥にうず高く積まれている大伊勢海老を改めて間近で見ては口を開け放つと、そんな彼の肩を遠慮なしに叩いては壮年の男性が一人より豪快に笑い掛けられるが
「でもやっぱり、この量を見ると流石に‥‥もう参加費、払う気満々」
「はっは、ある意味じゃあ男らしい決断だな!」
 早々に自身の胃袋では敵わない事を悟り答えれば、それにも豪快に応じて男性はマキリを吹き飛ばさん勢いでその背を叩くと、その傍らにて直後に響いたのは鳴の声。
「あれ、伊勢海老を食べる慰労の会ではないのですか?」
「‥‥それってどんな会?」
「えーと‥‥」
 その唐突な疑問にマキリは自身、聞いていた話と食い違っている事から首を傾げ尋ね返してみると‥‥暫し逡巡する巫女は果たしてこう答えた。
「さぁ、何でしょうか?」
 だが漸く準備が整ってか、参加者達の目前にあがったばかりの物だろう大伊勢海老の刺身がまず置かれると鳴はそれへ向き直れば懐より白御幣を取り出しては丁寧に振るうと皆が食べだすその中でも慌てる事無く、先ずは伊勢海老の供養をするのだった。
「伊勢海老さん、美味しく食べられて下さい」
 尤も、腹の虫は相も変わらず泣きっ放しな為に風格ある巫女には全く持って見えなかったのは言うまでもなく。

「うぅん、美味しいです〜」
 と言う事で始まった大食い大会、時間制限は一日で海辺に積まれている大伊勢海老を全て食い尽くした上で、一番に多く食べた者がただ一人の勝利者として湛えられる‥‥のだが、それを良く解していない鳴は一人のんびりと箸を進めては舌鼓を打っていたが
「あ、すいませーん! 後、海老団子と焼き海老とお味噌汁と‥‥」
「はいよ!」
「うっ‥‥その量は見るだけで」
 一度に頼む量が尋常でない彼女は目前にあった刺身を平らげて後、ペースこそ変わらないが着実に、大量の伊勢海老を胃に収めて行けば次に注文した料理が早く来ると彼女と変わらないペースながらも量で圧倒されるマキリは新たに来たそれらを目にして呻くが
「その程度の速度では『ほわいとしゃどう』に追い着く事は出来ないっすよ‥‥『食のブラックホール』とは正に自分の事っすから!」
「うわぁ‥‥凄いですね〜。でも、私も負けませんよ〜」
「手前らだけにいいとこ取られてたまっかよ!」
 一人、明らかに周囲と違って可笑しなペースで伊勢海老を食い尽くしている太こと『ほわいとしゃどう』が高笑いを上げながら正しく、自負する通りに伊勢海老を食べる‥‥と言うよりは吸い込んでいく彼に、しかし回りの男性らも鳴も全く怯まずにそれぞれのペースで箸を進めるが
「うわぁ‥‥凄いなぁー」
 一人、取り残された感の強いマキリは半ば呆然とした面持ちを携えては棒読みで言葉を紡いではその光景に感心し暫くの間、箸を止めては皆の食いっぷりを眺めるだった。

●伊勢海老を食い尽くせ! 〜調理編〜
 さて、一方の厨房‥‥大食い大会の傍らにて参加者が喰らうべき伊勢海老の料理を様々に、手早く、大量に作るべく主婦達は果敢にも大包丁を振るい次々に大きな伊勢海老を捌いていた。
「へぇ、あんたみたいなのも料理をするんだねぇ」
「冒険者でも、意外に料理が上手い者は多いんやで。覚えとき」
 正しく戦場と言っても過言ではないその中‥‥冒険者としては唯一、調理すべき側で参加している司は太刀にて縦に割った大伊勢海老を熱した石で焼きながら感心するおばさん達へ言葉を返すとゆらり、次には取り出したばかりの大伊勢海老の身へ向き直れば
「‥‥まさか調理で使うとは思わんかったが‥‥」
 囁きと共に右手に鉄人のナイフを、左手に天国の銘が彫られた太刀を掲げ上げ‥‥同時に振り下ろせば、それから後も暫く凄まじき勢いで二刀を舞わせあっと言う間にすり身を拵えるとそれを捏ねて後、油で揚げては出来た物を刻むと予め熱していた大鍋に卵とご飯に細かく刻んだ伊勢海老のすり身で作った揚げ物を投入すれば、醤油と塩で味を調整しながら炒める事暫し。
「で、これは何だい?」
「嫁が華国の出なんでな、華国でゆう『ちゃーはん』って言うのを作ってみたんやけど‥‥どうやろか?」
 やがて皿に盛り付けられたそれを前に尋ねるおばさんの一人へ司はそれを掲げ言うと、先ずは場にいる皆へその炒飯の出来栄えを確認して貰うべく勧めれば
「へぇ‥‥美味いねぇ」
「そか、それなら嬉しいなぁ。それじゃ、休憩がてらちと向こうの様子を見てくるわ」
 一掬いのみ頬張った後、場にいたおばさん達の皆から返って来た賛辞の答えに顔を綻ばせれば彼は、まだ暖かいそれを戦場にて戦い続ける戦士達へ持ち寄るべくそちらの方へ向き直り、歩を進めた。

 日もそろそろ落ち掛けようとする刻、大食い大会は佳境へ迫る。
「ご馳走様でした」
 この刻限にも至れば漸く脱落者がちらほらと見受けられる様になって来たその中、異色の参加者が鳴もやっと箸を置けば静かにそう告げると
「はっはっはー、その程度っすか! すか?」
「‥‥まだ食うのかよ」
 次々にライバルが減って行く中でもペースを落とさず『ほわいとしゃどう』は相変わらず仮面はそのままに、今は大伊勢海老の残酷焼き(生きたまま焼く調理法、大きさが大きさなので魔法にて調理しているが余り細かい事は気にするな)に取り掛かりながら高笑いすると、呆れるライバルの一人が地に伏せれば既に横たわっているマキリも未だ胃の中にて消化されない伊勢海老に呻くと
「そないな事言うなや。まだまだ伊勢海老はあるし、俺も作ってくるさかいにもう少し頑張りや」
「もう、無理‥‥」
 丁度その時、食い続ける者がいる限り奮戦する調理人の司が新たな料理を持った大皿を携えてくれば、しかしマキリは流石に地に寝たまま首だけを横に振るとその皿は巨大な残酷焼きを平らげた『ほわいとしゃどう』の手によって早く奪われれば
「うん、次っす!」
「‥‥ま、此処まで豪快に食ってくれるなら俺ももう少し頑張るとするかな」
 手によりを掛けて作った大盛の炒飯は即座に空にされ、皿のみ突っ返される憂き目に遭えばそれを目前にして複雑な面持ちを湛える浪人ではあったが今はこれが仕事と割り切ると、短き休憩を終えすぐに踵を返し厨房へと足早に駆ける。
「あっ、綺麗な景色ですね」
「‥‥平和だなぁ」
 そんな中で今更の様に気付いた鳴は夫婦岩の向こうに沈む夕日を見ては感慨深げにその景色へ魅入り呟くと、上半身のみ起こしたマキリもそれには同意して頷けば改めて穏やかな村の様子を実感して微笑めば黙々と『ほわいとしゃどう』だけが食い続ける中、やがて夫婦岩の向こうに日は隠れた。

●飽きない人々
 やがて太陽は昇り‥‥それでも大伊勢海老を食べ続けていた太こと『ほわいとしゃどう』が言うまでもなく、大食い大会の優勝者となったのは言うまでもない事。
「ふっはー、自分が最強っすー!」
 一方、料理大会の方は何時の間にかいた流離いの料理人に惜しくも優勝を掻っ攫われれば素性の分からぬその人を探すも、既に村を発ったとの話を聞けばそれには残念がる彼。
「あれだけ良い料理を作るきに、話を少し聞きたかったんやけどなぁ」
 そんな中、やがて村を去る刻限に至ればマキリ。
「今度来る時は、猟の獲物でもお土産に持ってくるから楽しみにしててね」
「そりゃ楽しみだなぁ」
 一日だけだが漁師達の手伝いを進んで行ったからこそ今では気さくに漁師達へ別れの挨拶を交わせば、それに応じていかつい顔を綻ばせる漁師達。
「それじゃ尚更、漁を手伝って貰った礼をやらんとな」
「え、でも‥‥」
「なぁに、気にするなよ。遠慮は無用だ‥‥おーい!」
 次に口を開けば遠慮する彼は気にせず漁師の一人が尚笑むと、背後を振り返っては大声を響かせて‥‥その『お礼』をマキリへ渡した。

「そのお礼がこれ、かぁ‥‥何となくそんな気はしたけど」
「まぁいいやないか、こうも伊勢海老だけ食べられる事はそう滅多にないで」
「そうなんだけど‥‥余り嬉しくないのは僕だけ?」
 そして京都への帰路、漁師達より託されたかごの中にて今も動く数匹の伊勢海老を見つめマキリがボソリ、呟くと司は苦笑を湛えながらも彼を宥めるが彼は浮かない表情を湛え尋ねると
「お腹が空きました〜」
「早くそれ、食いたいっす!」
「その様やな」
 鳴と今は仮面を外した太が揃い、かごに視線を注いでは言えば肩を竦めては司。
「しっかしようけ、飽きんな。あんだけ食っておきながらまだ食う気があるとは」
「いやいや、あれだけじゃあまだまだ足りないっすよー」
「私は三食、伊勢海老でも問題ありませんよ?」
 大食いな二人をまじまじと見てはある種、感心するとしかし二人は首を左右に振っては断言すれば、それを聞いてマキリは街道のど真ん中にも関わらず、しかし普通の人なら当然の様に抱くだろう思いの丈を叫ぶのだった。
「‥‥もう当分、伊勢海老はどんな形であれ見たくなーい!」

 〜終幕〜