悪夢迷走

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月20日〜06月25日

リプレイ公開日:2007年06月27日

●オープニング

●殴られ屋からの依頼
「‥‥護衛?」
「そ、護衛」
 京都、冒険者ギルド‥‥久方振りに足を運んだ殴られ屋の京香が話を受けて瞬きを繰り返すギルド員の青年に彼女はもう一度頷くと
「何でまた、急に」
「何かね、空気が良くないのよ」
「‥‥?」
 唐突な依頼に首を傾げる彼は護衛などいらない筈の彼女へ問い掛けると、すぐに返って来た答えを聞けば尚の事、疑問符を頭上に浮かべては首を捻るが
「最近、四六時中見張られている気はするわ、夜は寝苦しくて夢見は悪いしさ」
「‥‥自意識かじょ‥‥」
 次に京香はその理由が詳細を語ると、それを聞いて彼は溜息を一つ漏らした後にボソリ囁くが‥‥途中、彼女の掌が机上を打ち据えては鳴り響いた大きな音にて掻き消されると
「それもあるかも知れないけど、はっきりさせたくてね。だから人手は少なくていいわ、尤も殴られ屋も最近は中々に売り上げが伸びなくて懐が寂しいって言うのもあるけど‥‥とにかく、宜しくお願いするわ」
「‥‥分かった」
 ニッコリと笑顔を湛え、顔を近付けてくる京香の様子に青年はたじろぐが彼女はそんな様子にお構いなく、すぐに顔を離せば改めて彼へ告げると止むを得なく頷く彼だったが
「‥‥が何故、此処にエドがいる?」
「情勢の、観察」
「良く分かんないけどさ、取りあえずはそう言う事で今はあたしの所で居候しているの」
「‥‥いいのか、それで」
「いいんじゃない?」
 彼女の傍らにいる、伊勢での活動を専らとしている筈のエドワード・ジルスが姿を見止め、今更にして問うが要領の得ない彼からの答えを聞けばその隣で頷く彼女の様子を傍目に二人を交互に見比べては呻く青年だったが、京香のさっぱりした答えを聞けば溜息を漏らしながら、しかし筆を手にするのだった。

●闇の中の鳴動
「最近、静かな様ですが‥‥そちらは進んでいますか?」
「‥‥言われるまでもなく、進んでいる」
「なら問題はないですね。とは言え、まだ駒は足りません」
 翼を折り畳んでは影の一つ、腕を組んだままに直立不動のままで立ち尽くす別の大きな影へ問い掛けると不満げに鼻を鳴らしながらも返って来た答えに一先ず頷けば、闇の隅にて蹲る様に座る影を見つめると
「一先ず、私の配下がついている事は分かって貰えている筈。ご丁寧に貴方も監視‥‥いや、護衛をつけている様だからね」
「‥‥‥」
 全てを見透かしているとでも言わん様に瞳を細め、その小さな影へ語りかけるも‥‥押し黙ったままのそれに翼持つ影は尚も呼び掛ける。
「ならば話は早いと思うのですが‥‥先に私が挙げた提案は呑んで貰えるでしょうか?」
「‥‥それは」
「先も言いましたがこちらとて、監視はつけています。下手に動けば今よりも酷い事になるのは目に見えている筈ですよ?」
 するとその問い掛けに小さな影は鋭く息を飲むと、その様子を見て満足げな笑みを湛えた翼持つ影はその小さな影へ歩み寄ると
「それさえ呑んで貰えれば‥‥彼女に害を及ぼす事はしない事を改めて誓いましょう、そしてこれが最後である事も付け加えて」
 俯いているその顔の近くにまで己の顔を寄せ、囁くと
「貴方の葛藤は良く分かります。自分の娘の為だけに多く‥‥犠牲を払うのですからね」
「‥‥‥」
「‥‥まぁ、もう少し考えてみるといいでしょう」
 その心情を察しているかの様に最後、呼び掛ければ躊躇いの表情を露わにする小さな影から踵を返し闇の中から闇の中へ、姿を消せばその背中を見送りながらも翼持つ影は何時の間にか消えた大きな影が最初の報告を思い出し、微笑むのだった。
「さて、焔摩天の話通りならそろそろ動き出す筈‥‥その時こそ」

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 依頼目的:京香の護衛!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要なので確実に準備しておく事。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 対応NPC:殴られ屋の京香、エドワード・ジルス
 日数内訳:依頼実働期間のみ、五日。
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●今回の参加者

 eb3917 榊原 康貴(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb4756 六条 素華(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5009 マキリ(23歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb6553 頴娃 文乃(26歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb7816 神島屋 七之助(37歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb8467 東雲 八雲(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

カイト・マクミラン(eb7721

●リプレイ本文

●来訪の徒
 京都の冒険者ギルドに自身の依頼を請け負い、集った一行を自身の家へ招くべく殴られ屋の京香は京都の街中を皆の先に立っては闊歩していた。
「今回は純粋に、京香さん自身の依頼なんだよね?」
「珍しげな顔をするんじゃなーい」
 その後ろ、彼女の後を歩く一行の中で小さきコロポックルのマキリ(eb5009)が響かせた問いを耳にすると京香は振り返り彼が浮かべている表情を見れば、凛々しい面立ちに浮かぶ口元をへの字に曲げて言うも
「しかし、今までの依頼と言えば‥‥」
「そうだな」
「ぐぬ」
 その彼の背後から揃い、榊原康貴(eb3917)と東雲八雲(eb8467)の二人が今までの依頼‥‥自身で勝手に首を突っ込んだ末、冒険者ギルドへ依頼として持ち込んだ経緯を思い出せば、それぞれが不敵に笑むも呻く京香ではあったがそれも一瞬。
「良い度胸だね、それならそれで久々に剣でも交えてみようか?」
『遠慮します』
 皆の方を振り返ったままに歩きながら、次にすぐ鼻を鳴らし二人へ告げれば‥‥その問いを前に侍と志士は今度こそ言葉とタイミングを合致させ、諸手を挙げるとそれに漸く満足して京香は再び前へ向き直れば
「でもまぁ、思っていたより元気そうで幸いだね」
「ま、ね。最近ちょっと、だるいんだけど」
「あら、体調が芳しくないのかぃ。それは確かに困るわねぇ」
 そのやり取りを笑いながら見ていた頴娃文乃(eb6553)は一先ず彼女の健在に安堵して言葉を紡ぐも、返って来た彼女の答えを聞けばそれには眉根を顰めると
(「さて、何処から手を付けたものやら‥‥」)
 京香とは初見である陰陽師の神島屋七之助(eb7816)は内心にて密かに推移している事態に呻くが、その時‥‥京香の足が止まれば一行は果たして彼女の住まいへと辿り着く。
 その周囲は比較的閑散としており、その佇まいもまた決して立派とは言えないがそれでも彼女の年齢を考慮すれば十分な大きさの一軒家であった。
「そう言えば、伊勢からの客人と言うエド様は今どちらに?」
 それを前に京香へ色々と話を聞き始める一行の中、六条素華(eb4756)は最近になって居つく様になったと言う英国からの、そして伊勢からの客人でもある人物の名を上げ、その所在を尋ねれば直後に玄関の引き戸を引いてエドワード・ジルスが現れると、その彼の元へ歩み寄り視線を揃えるべく屈めば
「こちらへは何時頃からいらしていたのでしょう?」
「‥‥半月、前?」
「それ位かな」
 静かな雰囲気を携えている彼へ一つ、素華が疑問を投げ掛けると僅かな間を置いて語尾を上げ、あやふやな答えを返すエドに京香は頷くが
「ま、表で立ち話もなんだし‥‥取りあえず、入っておくれよ。手狭だけど」
 一先ず玄関の方へ歩きながら彼女は皆へ声を掛け、一足先に玄関を潜るのだった。

●共同生活
「怪しいものがいたり、訳もないのに恐ろしくなってこの場から立ち去りたくなった時は教えておくれ」
 さて、それより京香の家の内部へ招かれる一行がそれに従う中で七之助は自身が連れて来たペットらへテレパシーにて語り掛け指示を下せば、門前の守備を任せると遅れて中へ入ればその折に彼の耳元へ響く素華の声。
「京香様は本当にただ、護衛をさせる為だけに私達を呼んだのでしょうか?」
「って言うと?」
「何か思い当たる心当たりがあって、それを迎え撃つ為に私達を呼んだのでは‥‥と言う事です」
「もしあるのなら‥‥可能な限りで構いません、お話下さい」
「残念、買い被り過ぎだよ」
 その疑問を前、依頼人が京香は素の表情のままで首を傾げると彼女の意を解して七之助が皆のいる座敷に辿り着くなり噛み砕いて言えば、頷く素華も改めてその後に続き言葉を発するが、肩を竦めて苦笑を浮かべる彼女の反応と直後に返って来た答えを聞けば嘘偽りがないだろうそれを前に皆は呻くも
「なら、こちらから聞こう。何時頃から、悪夢や妙な気配を感じるのか?」
「悪夢はつい最近。でも妙な気配は‥‥うん、かれこれ一月位は経つのかしらねぇ」
 それならそれでと八雲が口を開けば、次々に考えていた疑問を発するとそれにははっきりとした口調にて答える彼女だったが
「ならば今までにそれが襲ってくる様な気配を感じた事はなかったか?」
「あればとっとと切り伏せるなりして、自分で解決しているわ」
『成る程』
「‥‥揃った反応で悪いんだけど、何か釈然としないわね」
 次に響いた、彼の疑問にもまたはっきりと刀の柄を掴んで鞘ごと腰から引き抜きながら答える京香は更に自身の答えの後に続いた、皆からの反応には瞳をすがめて呻く彼女。
「失礼かと思うのですが、一つ聞いても良いでしょうか?」
「何?」
「貴女の身を案じている人はいますか? また、いるとしたらその方に何か変わった様子はあったり‥‥」
「悪いね、天涯孤独だし余り人付き合いも少ない方でね」
「‥‥失礼しました」
 さすれば首を縮める一行だったが、やがてそれに臆さず再び疑問を投げ掛けたのは七之助であり、一つ断りを入れた後に彼女へ疑問をぶつけると‥‥別段何時もと変わらない表情を浮かべながら淡々と答える彼女へ陰陽師は頭を垂れては詫びると
「‥‥エドは今、現在の状況をどう考えている?」
「分からない‥‥でも」
「でも?」
「この感じ、僕は嫌い‥‥」
 それでも質問を選びながら未だ思い浮かぶ疑問をぶつける一行に、彼女は皆の心情を察したからこそ快く応じればその中、黙するだけのエドに気が付いた八雲は彼へ今置かれている状況に付いて尋ねると言葉を濁しながら、しかし自身が抱いている事をはっきり告げるのだった‥‥その瞳に暗い光を宿して。

「敵は人間か、妖か。狙いは襲撃か、接触か、監視か。場所は、方法は、相手の数は‥‥」
「全く、読めないわねぇ」
「だから、困っているのよ‥‥と良い時間ね。少し憂鬱だけど、寝ますかね」
 そして日は落ち、夕餉を終えてから後も様々な話を交わす皆と京香にエドであったが一行の中で一番に思考を巡らせている素華でも見えぬ敵の意図は見えず、短く切り揃えられた漆黒の髪を掻き毟る文乃が彼女らの傍らで嘆息を漏らすと刀の手入れを終えた京香も僧侶に倣い溜息をつくが、深い闇に覆われる外を見れば皆へ声を掛けると
「気休めですが、良かったらどうぞ」
「ふぅん、まぁないよりはマシかもね。それじゃあまた、明日ね」
「お休みなさい」
 それぞれ、宛がわれた部屋へ向かうがその中で七之助が背嚢から木彫りの獏を取り出し彼女へ手渡せば、瞳を細め彼女は夢を食らうと言われている獣の像を受け取ると自室へ踵を返せば、その背中へ文乃が手を振る中。
「皆も寝て良いぞ、何かあったら起こす故」
「ん、分かった。それじゃあお言葉に甘えて‥‥と言っても俺は外で見張っているから何かあったら、こっちにも声を掛けてね」
「分かった」
「悪夢を見る‥‥って京香さんが言う位だから、気を付けてね」
 康貴が座敷に腰を下ろしたまま、皆を促せば一人だけ外の方へ向かい歩き出したマキリに頷くと彼の言葉を心に留め皆も散開するとその初日の夜、異変は先ず康貴の前に現れる‥‥とは言え、それは決して目に見えるものではなかった。
「ん」
 それは皆が散開してより後、座敷を中心にして周囲に配されている部屋の一つより漏れた微かな呻きを厠へ用を足しに行った康貴が聞き止めると
「誰‥‥あたしを、捨てようとしているのは」
 その部屋へ歩を向ければ確か今日、京香と文乃が寝ている筈の部屋からそれは漏れており彼は得物に手を掛けながらもその部屋の襖を前に息だけを潜め、耳を澄ませば‥‥確かに聞こえて来た京香の声。
「嫌だ。置いて、行かないで‥‥」
「‥‥困ったな、皆にどう話すべきか」
 やはり話の通り、悪夢を見ているのか‥‥普段とは違う、弱々しげな声が襖一枚を隔てた向こうより響いてくればしかし、周囲は静かなままでマキリからの連絡もないと取りあえず彼は彼女が紡いでいる寝言に付いて、どうした物かと思案する。

 翌日の日中、どうにも気が晴れないと言う京香と共に皆は揃い碁盤目状に走る京都の道を気ままに歩けば、今は軽くなった胃を宥めるべく一軒の食事処にいた。
「そういや、これと似た様な根付だけは覚えているね」
「‥‥そうなると、その方が」
「湿っぽい話は嫌いさ」
 昨夜の出来事を隠し通す事は出来ず、端的にだけ康貴が皆へ語れば話はその悪夢の事になると頬を掻きながら答える彼女から夢に出てくる、とある人物とそれが持っていると言う根付を見れば七之助が呟いた推測は途中、京香によって遮られると
「それもそうだね、何も真っ昼間からする話じゃあないし」
「それならば、京香殿の事に付いて聞かせては貰えぬだろうか?」
「えーっ」
 果たして文乃が同意を示せば夜通し、起きているにも拘らず康貴が身を乗り出しては別なる話を切り出せば驚いて京香が目を剥くと
「何か、知っている事はありませんか? もしかしたら、力になれる事が」
「‥‥何も。ただ、頼まれただけ」
「頼まれた、とは一体‥‥?」
 それを機にやがて喧騒に包まれる場のその中において、相変わらず静かなエドを見つめる素華は密かに、彼の目的に付いて尋ねると‥‥寡黙な彼から久々に聞いた声と、その目的が一端を聞いた彼女は顔を寄せ、真意へも近付くべく尋ねるが
「はいよ、お待ち!」
「一応、毒見が必要ですね」
「えーと‥‥決して文句を言う訳ではないのですが、素華さんがやられる気は?」
「適材適所です」
 あいにくとその時、皆が頼んでいた注文が揃うと一先ず視線をエドから離して素華は思案した後、静かに詠唱を織り紡げば七之助の意思を強化するとそれを受けて陰陽師の彼は彼女へ向き直り尋ねるが、返って来た答えに微笑を受ければ彼は覚悟を決めて喉を鳴らす。
「ふぁ、呑気だなぁ。今日は殆ど一日を外で過ごしているのに別段、変わった様子は見受けられない。そうなると視線の主は」
 そんな和やかな光景の食事処での風景が片隅、着かず離れずの距離を保ち皆を追うマキリは生欠伸を噛み殺しながら様々な感覚にて辺りへ隙なく注意を払うも‥‥場の雰囲気とは違う、異質な存在は感じ取れず今までに得た経験から何となくだが当たりを付け、溜息を漏らすのだった。
「‥‥やっぱり、何かいるかも。そうなるとこの手の類は厄介だよね、きっと」

●悪夢迷走
 一行が依頼を請け負ってより四日が過ぎた頃か、京香の肉体にもいよいよ異変が現れ始める‥‥八雲の提案にて彼女の持つ根付を彼が借り受けてより、二日が経つと言うのに。
「参ったわね、昨日よりも弱っているみたい」
「俺達にはどうしようも、出来ないのか」
「命には?」
「良く分からない‥‥けど、このままだと」
 今は布団に寝伏せる京香のその容態を見て、文乃が表情を曇らせては呟くと拳を固めて呻く八雲の傍ら、七之助が僧侶を見ては尋ねると彼女は表情を変えず曖昧な答えだけ返せば
「康貴さん!」
「どうしようも出来ないのなら、助けを乞う他にあるまい。今は京香殿の事を考えれば、見栄や外聞を気にしている時ではない」
 それを聞いた後、唐突に立ち上がった康貴が布団を巻いては京香を抱えると七之助は狼狽するが、彼の吐いた意見は尤もであり誰もが言葉を返せず黙した‥‥その時。
「悪霊、いや‥‥何か知らぬ黒い蟠りが取り憑いておるな、その娘に」
「‥‥はっ、そう言う事。参ったね、あたしもまだまだか」
 やおら響いた、何者かの声に文乃は家屋の外にいる人物が助言に漸く何事か当たりを付けると鼻を鳴らし、見抜けなかった自身を自嘲しつつ数珠を掲げると
「一体、誰‥‥?」
「通り縋りの坊主じゃ、未だ修行中だがな。故に後は任せたぞ」
「悪いけど、今すぐにやるからねっ! 暫くは手強いと思うけど宜しく!」
「えっ、ちょ‥‥」
「何かに憑依されているって事、気を付けてくれよ!」
 しかしエドは外にいる何者へ問い掛けるが、彼がそれだけ返す間に文乃は皆へ呼び掛ければ未だ事情を飲み込めず狼狽する七之助へ僧侶が明確に答えを言うと同時、織り紡いだ詠唱が完成すればすぐに京香を目標に定めホーリーを放とうとするも、それより早く彼女は康貴の腕を抜け出す。
「ちっ、流石に気付かれたか」
 その光景を前、八雲は果たして舌打ちをすれば何時もと違う彼女の様子に惑いながら抜刀すると
「もう、いない?」
「何者か知らぬが京香殿に害を為す者よ、一体何が目的だ」
 外へ飛び出した京香を追い駆けて最先に屋外へ出たマキリは、先までいた筈の『坊主』の存在が既にない事に驚くも康貴の口上が響く中、外へ飛び出した皆は改めて京香を見つめるも
「この体、使い勝手は良さそうだな」
「何の目的か知らないけど‥‥京香さんを傷付ける気なら、相手になるよ?」
「此度の騒動、貴様が原因であるのは確かな様だな。その所業、決して許さん‥‥京香は返して貰うぞっ!」
「出来る物なら、して貰おうか?」
 侍の問いに対して京香は答える事無く掌を握り、肩を回して彼女は呟くと彼女に憑依している存在に対しマキリは弓を構え穏やかに、八雲は敵意を剥き出しに激昂して告げれば不敵に微笑む京香もやがて彼らに応じるべく細身の刀を抜き放つと手近にあった樹より葉が一枚、舞えば同時に激突した。

 翌日‥‥再び、京香の家。
「及第点だね」
「とは言え、下手をしたら京香が」
 果たして最初に口を開いたのは京香で、辛辣な彼女の評価に際し八雲は対した相手が相手だったからこそ渋面を湛え、呻くも
「分かっているよ‥‥助かったわ、皆のお陰でね」
「だけど、京香さんが狙われる理由は分からずじまいだね‥‥」
「唯一分かったのは、悪魔が噛んでいたと言う事だけか」
 その反応を前に彼女は微笑めば、何時の間にか憑依されていた悪魔を追い払ってくれた一行へ礼を告げるも、文乃の魔法で傷こそ癒されているが身形はボロボロなマキリが次に囁いた事実へは皆、厳しい表情を浮かべるが
「そう言えばエド様。先日聞き損ねた事なので改めてお尋ねしますが‥‥誰に、何を頼まれたのでしょうか?」
「伊勢の国司の使いの人から‥‥京香さんの身辺に付いていてくれ、とだけ」
 その中でも常にエドの存在に注視していた素華が再び彼へ、食事処で聞き損ねた件に付いて皆の前で尋ねると暫し、黙するだけの彼だったがやがてその口から紡がれた話から今度は一行が押し黙るも
「‥‥何か、面倒な事になりそうだねぇ」
『いや、他人事じゃないから』
 しかしその中でもあっけらかんと言い放った京香に対し、皆は揃い突っ込むのだった。

 と言う事で京香に憑依していた悪魔にこそ逃げられはしたが、依頼自体は一応果たす事が出来た一行‥‥唐突に近付いた彼女の出自に付いて訝るも、それから京香は特に何も語らず皆へ改めて礼だけを告げて別れれば
「さて、どうしたものかね」
 皆の背中を見えなくなるまで見送る中、相変わらず静かなエドの髪を掻き毟りながら囁いた。

 〜一時、終幕〜