【何でもござれ】紫陽花を守れ!

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 8 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月30日〜07月05日

リプレイ公開日:2007年07月07日

●オープニング

●紫陽花の、その袂に群れる‥‥?
 京都に程無く近い所にこの時期、見事に咲き誇る紫陽花が数多く群生している場がありまたその近くに村があれば、じめじめと鬱陶しい時期ではあるものの今だからこそ見られる紫陽花を見に近隣から人がやって来るのだが‥‥さて、近くにてその群生している紫陽花を管理している村では丁度今、村民達が集っては会議を開いていたが
「今日もいたか?」
「あぁ、今年も変わらず紫陽花の辺りにいたな‥‥全く」
 その内容、紫陽花を見に来る人々を統制、管理する為のものかと思いきや実の所は全く違い、紫陽花の近くに集う『もの』に付いて頭を悩ませていた。
「梅雨に誘われて、かねぇ」
「さぁな」
「とは言え、このまま放置しておくのも危険だよな」
 その原因を推測こそするも、昨年と同様にやって来たと言う『もの』の思考は読める筈もなく先ずは改めて危険視だけ村人達の口から上がれば
「子供達には近付くな、とは言ってるけどやんちゃな頃の子は心配だよ」
「それもあるし、唯一の名物である紫陽花が今年も見られないとなると‥‥色々、まずいよな」
 その『もの』によって被害を受ける可能性があるものを村人達が挙げ連ねれば場に集った村民達は皆、その視線を村長へ投げ掛けると‥‥その視線を受けて揺るがずに彼は口を開く。
「ならば、答えは一つか」
「今、戻ったぞ‥‥」
「あんた、随分ボロボロだねぇ。一体何処まで行って来たのさ」
「‥‥奥の山にある深い谷底の下まで、な」
 とその時、村民達が集っていた集会場に一人の猟師が現れれば随分とくたびれた姿を見た一人の女性が尋ねると、一息付いた後に腰を下ろした猟師が答えれば
「そこが奴らの住まいらしいが、今は梅雨の時期だからか出払っていて何もなかった」
「‥‥それで、毒蛙の正確な数とかは分かったか?」
「それは昨日の内に、遠目でだが紫陽花の近くに八匹までいるのは確認した」
「そうなるとやはり‥‥冒険者ギルドに頼んだ方が確実か、この村にとってそう多くない収入にも関わる事であれば尚更に」
 眼前に出された水を一口煽った後、続き自身の目で見た事を確かに場へ報告すればそれを受けて村長は昨年より現れる様になった毒蛙への対処に、遂に決断を下すのだった。

 こうして翌日、京都の冒険者ギルドへこの件が依頼としていよいよ上がれば
「‥‥たった、これだけの事だが‥‥これだけの事で昨年は出稼ぎの者が多くおり、故に今年の農作物に多く手を掛けられなかった事から既に今年も影響が出ている。村の大事に至る前にこの件、何卒宜しく頼む」
 切実な村の状況を語る村長へギルド員の青年は静かに、だが確かに頷いた。

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 依頼目的:毒蛙を全て駆逐せよ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要なので確実に準備しておく事。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 日数内訳:目的地まで二日(往復)、依頼実働期間は三日。
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●今回の参加者

 ec2195 本多 文那(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec2502 結城 弾正(40歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ec2738 メリア・イシュタル(20歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 ec2741 氷采 流嘉(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec2942 香月 三葉(36歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)

●サポート参加者

レイン・マイスター(eb3989

●リプレイ本文

●降り続く、雨の中
 今は梅雨‥‥故に今日もしとしとと、ささやかではあるが雨の降る街道。
「紫陽花の下に毒蛙、ですか。折角の風流も台無しですねぇ」
「全くだ。美しい紫陽花の側に毒蛙とは無粋な‥‥俺が退治してくれる」
 ある意味では梅雨の時期らしい、華麗に咲き誇っていると言う紫陽花の元に蔓延る毒蛙の退治を請け負った冒険者達は早く京都を発てば、目的の村を目指し雨が降るからこそ出来る水たまりを意ともせずに颯爽と進んでいたが、その足取りの割に華奢な体つきの僧侶が香月三葉(ec2942)と小柄ながらもがっしりとした体躯を誇る侍の結城弾正(ec2502)の見た目、真逆な二人が揃い嘆息を漏らしていた。
「正しくは、私達ですよね」
「‥‥そうだったな、失礼した」
 だが直後に重苦しい空気が立ちこめる中でも軽やかな声を響かせ、弾正が紡いだ言葉の最後へメリア・イシュタル(ec2738)が訂正すると、それには苦笑を湛えて詫びる侍に笑顔で応じる穏やかな戦士。
「さて‥‥俺にとってこの依頼が初の仕事ですし、しっかりとこなす事にしましょうか」
 そんな気負いのない彼らの傍らにて、初めて受けた依頼から密かに意気込みを吐いたのは忍びの氷采流嘉(ec2741)だったが
「気付かぬ内に拙い事をしなければ良いのですが‥‥」
「皆がいるから、大丈夫だよ」
「そう、ですね」
 しかしそれ故に直後、僅かにではあったが緊張を覗かせて微かに身を震わせると‥‥そんな彼の様子に気付いた本多文那(ec2195)が屈託のない笑みを浮かべ宥めれば、彼は吐息を一度だけ吐いた後に彼女の気遣いに感謝すると丁度その折、やがて皆の前に見えてきた目的の村を視界の中に収めれば、いよいよ臨む依頼を前にして流嘉は意を決して呟くのだった。
「必ず、取り戻して見せます。紫陽花も、村人達の笑顔も‥‥」

●将を射んと欲すれば‥‥?
 やがて村へと至った一行は改めて今回の依頼の確認を村人達と行い、確認すれば
「蛙は蛙でも毒蛙かぁー‥‥厄介だね〜」
「しかも紫陽花の近くに潜んでいる事も厄介ですね」
 今回、対する敵である毒蛙のその存在に文那が呻くと流嘉も頷きながら半ば人質に取られている紫陽花の事を鑑み、渋面を湛えれば
「動く虫しか喰わないんだろうな、奴らめ‥‥畜生が」
「でも、そこが狙い目ですよね」
「その通りです、でしたら‥‥」
 何を考えているか分からない毒蛙へ怒りを露わに、弾正が続き毒づくが‥‥だからこそゆるりと微笑み、三葉が呟くとメリアも紫陽花がある方を見たまま彼女へ頷き応じれば
「虫を捕まえてこようっ!」
 その途中を引き継ぎ文那が高らかに皆へ告げると未だに止まない雨の中、一行は先ず毒蛙を紫陽花から引き離すべく虫の捕縛に臨むのだった。

 さて、そう言う事で毒蛙を誘き寄せる為の虫を捕まえるべく動き出した一行‥‥だったが。
「困ったな、これではたいまつは使えんか‥‥」
「そうですね、雨が降るかも知れない事までは考えていませんでしたから」
 夜の暗がりの中でたいまつを灯し、その光に寄って来る虫を悉く捕まえようと思っていた弾正だったが‥‥強い雨が降り頻れば、当分は止みそうにもないそれを前にメリアと
一軒の民家が軒先にて嘆息を漏らしていた。
「借りてきたよー」
「やはりいずれ、提灯は買った方が良いか」
 だが浪費した時間も大した時間ではなく、やがて文那が何処からか借りてきた提灯を携えやって来れば頬を掻いてぼやく彼だったが
「とは言え、この雨の中ではそう簡単に虫も集らないか?」
「でもまぁ、気長に辺りを散策しながらやろっか」
 漸く民家の軒先から身を出して、しかし未だに止まない雨の中でまた新たな懸念材料が思い浮かべば今度は渋面を湛える弾正に文那もまた同意するが、余り悩まない彼女は気楽な声音を響かせれば早く決断を下すと歩き出そうとした、丁度その時。
「お疲れ様です」
「三葉か、そちらの首尾は?」
「一先ず、誘い出すのに適当な場所は選定しておきました。毒への対策は後少し、時間が掛かりそうですが虫の収集にはまだ暫く、時間が必要そうですね。それならのんびりと‥‥」
 傘を差しては歩いて来た人物が二人へ声を掛ければ、弾正が傘を差す彼女の名を呼び率先して行っている仕事の進捗に付いて尋ねれば、順調である旨を告げて三葉はしかし雨と言う天候の中、捗っていない虫の採集をどう進めたものかと思案しつつ‥‥しかしマイペースを身上とする彼女はそれを別段気にせず、それぞれが出来る事を出来る限りやろうと二人へ声を掛けるが
「‥‥甲虫なら、それ程数は多くありませんが捕まえて来ましたよ」
「済まないな」
「いえ、しかし本来であれば羽虫の方が好まれそうなんですけど‥‥この雨では期待出来ないでしょうね」
 その折、皆の元へ駆けてやって来た流嘉が一つのずた袋を掲げて言えば僅かに蠢いているそれを見て侍は彼の迅速な行動に際し頭を垂れるも、流嘉は気にした風も見せず笑めば一つの不安材料こそ掲げるが
「取りあえず今日、集められるだけ集めてみよう!」
「えぇ、そうですね」
 再び、やはり先と同じく明るい声音を響かせて文那が皆へ檄を飛ばすとメリアが応じるなり、皆は雨の中にも拘らず駆け出した。

●紫陽花を守れ!
 果たして準備に掛かった時間は一日と少しか、一先ずは余裕がある二日目の昼時。
「取りあえず、準備は整ったか」
「もう少し上等な餌を準備出来れば良かったのですが、大丈夫でしょうか?」
「うーん‥‥まぁ取りあえず、やってみよう!」
 昨日よりは大分小振りな雨の中、それなりの数を捕まえる事が出来た虫を入れている袋を携えて弾正が漸く整った準備に先ず安堵して肩を下ろすも、未だ不安を覚えている流嘉は落ち着きのない声音を響かせる割には自然体にて問題の毒蛙が潜む紫陽花の花群を見つめると、僅かな間だけ悩む文那だったが‥‥すぐに弾正の背を叩き、ずた袋の中にいる虫の解放を促せばやがてその袋より飛び出したのは数匹の甲虫。
「‥‥‥」
 それが紫陽花の方へと動き出せば一行は近くに立つ木々へ姿を隠し‥‥それから暫くして紫陽花の花群が揺れれば遂には一匹、普通の蛙よりは大振りなそれが姿を現すと目前にいた甲虫を見付けたそれは舌を伸ばすなり絡め取り、口一杯に頬張るとそれを前にして次々と姿を現す蛙達。
「‥‥出て来ましたね」
「一先ず、話の通りに八匹はいますか。もう暫く、様子を見て見ましょう‥‥」
 その蛙達を前、メリアが密かに呟くと傍らにいた流嘉が蛙達の数を数えれば話通りの数である事を確認するもしかし、本当に数に変わりがないか更に確認すべく僅かに離れている皆へ手で合図をして暫くの間、その様子を見守るも‥‥蛙達の数が増えなければ彼。
「どうやら、打ち止めですかね?」
「その様です、ならあちらの方へ誘い出しましょう」
 皆を密かに呼び集めては言うと、応じる三葉に頷きだけ返せば一行は蛙の視界に入るだろう位置へ再び、甲虫を放るのだった。

「これだけ紫陽花から離れれば、十分ですね」
「それなら‥‥仕掛けるぞっ!」
 それより暫く、撒き餌の如く甲虫を密かにばら撒きながら後退して戦いの場と定めた所へ毒蛙達を誘い出す一行は、やがて目的の場へ辿り着くと流嘉がいよいよ告げれば弾正の雄叫びと共に一行は未だ虫を貪るからこそ弛緩し切っていた蛙達目掛け、雨音に紛れて飛び掛かる。
「ぬぉぉぉっ!」
「う、うわっと!」
 果たして直後、弾正が振るった長槍の鋭き一閃は毒蛙が一匹の頭部を根こそぎ削り取ると、その唐突な襲撃に際し毒蛙達は慌てふためき一斉に身を翻すも
「‥‥滅しなさい!」
「先ずは攻撃を回避する事に専念‥‥後は、皆が無事である為にもその死角は全て埋める‥‥」
 蛙達と対する為に駆け出した三人がその先へと回り込めば、皆を援護すべくメリアが短弓から矢を放っては一匹を地に縫い止めると、その結果を見届けてからすぐに彼女、麻紐を結わえた手裏剣を放っては引き、最先を駆けて大振りな攻撃を行う弾正の隙を埋める流嘉を援護する為、彼へ狙いを付けていた毒蛙へ彼女も狙いを付け矢が届くギリギリの距離を確保してから矢を放ち、的確な援護を行うも
「あ、危ないです!」
「え‥‥?」
 数では多少とは言え未だ勝る毒蛙の全てにメリアの矢が届く筈なく、次に彼女よりも後方にいた三葉の声が響けば‥‥彼女が鳴らした危険の警鐘の対象が自身である事に文那が遅れて気付くも次いで、自身目掛け飛来する毒液を見れば回避出来ないと察するや布を巻き付けた腕を掲げ、顔を庇おうとするが
「加えんとす、害意を、悪意を‥‥全て弾けよ、聖なる領域!」
 それよりも僅かに早く、三葉の詠唱が響き終われば文那を中心に術者と敵対するもの全てを阻む結界が張り巡らされれば、その毒液は文那に届く前で霧散する。
「ありがと〜」
「いえ、私にはこれしか出来ませんのでお気になさらず。ですが精一杯フォローしますので頑張って下さい」
「うん!」
 その結界の中、背中に滲んだ汗に寒気を覚えながらも努めて明るく文那は僧侶へ礼を告げると彼女は遠慮がちに、しかし確かに誓えばそれへ元気良く応じて志士は再び駆け出して‥‥先に自身を狙った蛙目掛け、刃を振り翳した。
「いっくよー!」

 翌日‥‥紫陽花の袂にいた毒蛙の全てを駆逐した一行はその死骸を一匹ずつ、村よりも離れた場所に埋めて処分すれば紫陽花の辺りをも捜索し、蛙達が残していったものがないかまでを確認していた。
「‥‥取りあえず、卵やらは此処にないみたいですね」
「えぇ、先ずは安心でしょうか?」
「だが本来の住処は此処ではないと言う話だ、村人達に警告をしておく必要はあるだろう」
 そして捜索の結果、何もない事を無事に確認し終えると肩を落として安堵する三葉にメリアも頷くが、根本が解決されていない事を弾正が言えばそれを伝えるべく村の方へ踵を返すも
「何はともあれ、何とか無事に終わりましたね」
「一時はどうなる事かと思ったけど‥‥ふぅ、まだまだだなぁ」
「皆さんのお陰で助かりました」
「それはこちらの台詞でもある、助かった」
 その背後から流嘉が漏らした安堵が響けば、文那も所々に遭った危険な場面を思い出しては息を吐いて苦笑を湛えるが、それでも頭を垂れて皆へ礼を告げる忍びに弾正も振り返っては彼に礼を返すと暫しの間、皆で見つめあった後‥‥それぞれが笑顔を浮かべれば
「それでは報告をしてきましょうか、無事に紫陽花を守り抜いたと‥‥」
「そして宴会だー!」
 改めて流嘉が最後の仕事を全うすべく再び歩き出すと、それに続いて文那が満面の笑みにて声高らかに叫ぶのだった。

●月光乱花
 そしてその日の内に村人達へ毒蛙の退治が済んだ旨を告げれば、迎えた夜。
 一行は村人達と共に早速、雨が変わらずに降り頻っていたが‥‥それ故に濡れて様々に色を変える紫陽花の花群に魅入っていた。
「やはり自然はいいですね。落ち着きます‥‥」
「あぁ、依頼も無事に果たしたし尚更にな」
「村人さんから頂きましたが、一献どうですか?」
「おう、済まない」
 その光景を前、風流を感じて流嘉が傘の下にて呟くとその傍らにて立ち尽くしている弾正も同感と頷けば、とてとてと酒を携えてやって来た文那の問い掛けに応じて酒を酌み交わす一行。
「それにしても良かったです、皆さん楽しそうで」
「えぇ、四季折々にある情緒を大切にしている証ですね」
「ジャパンはそれが非常に明確だからな、意識せずとも当然の事と皆自覚しているんだろう」
「‥‥成る程」
 そんな一行の中、辺りを見回しては三葉がのんびりと‥‥村人達の様子を見ては微笑むと頷いて流嘉も釣られ、顔を綻ばせれば酒で満たされた杯をすぐに空けて当然の様に言う弾正の発言を聞き、エジプトの出身であるメリア納得して頷けばやはり微笑むと
「それにしてもやはり、映えますね。ししどに降る雨の中で様々に鮮やかな色へ変わる紫陽花は。これで夜空も晴れ渡れば、言う事はないんですけどね‥‥ん?」
 和やかな場にて尚、流嘉は咲き誇る紫陽花を見つめ感嘆の言葉を紡ぐも‥‥雨があるからこその紫陽花とは言え、やはりどんよりと曇った空の下ではどうにも気が滅入ってか、続け呟いたその時。
「あら‥‥こんな事もあるんですね。頑張った甲斐がありました」
 傘を叩く音が徐々に弱まった事に気付いた彼が傘から身を出し頭上を見上げれば‥‥続いて三葉も傘の下から飛び出すと、天空を覆っていた雲は何時の間にかその姿を小さくしては先まで降らせていた雨を止め、夜空の主役を月へと明け渡せば広がる月夜が皆の目に映ると三葉が月夜を歓迎する様、空の高みを見上げたままに両手を広げ楽しげにクルリクルリとその身を舞わせると
「‥‥これからも、何気ない風景を守れる様になりたいですね」
「そうだな、だからこそ‥‥」
「その為にも、強くなりましょう。体も心も」
 それを前、流嘉が囁いた密かな決意は弾正の耳にも届けば果たしてすぐに頷くと‥‥文那も彼らに続き応じて、煌く夜空にも負けない笑顔を浮かべるのだった。

 〜終幕〜