蒼月星祭

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 40 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月05日〜07月11日

リプレイ公開日:2007年07月14日

●オープニング

●とある陰陽師からの依頼
「済まないが一つ、依頼を頼みたいのだが‥‥」
「余程の事でない限り、どんな依頼だろうと引き受けるが‥‥さて、何用か?」
 京都の冒険者ギルドを訪れ、今更の様な問いを響かせたのは一人の陰陽師でしかし時折に聞く、その疑問を前にギルド員の青年は普段と変わらず淡々とした口調にて尋ね返すと‥‥梅雨の間に晴れ間が覗く中で野暮ったい衣を靡かせて彼は口を開いた。
「悪霊や、亡霊の群れを退治して貰いたい」
 単刀直入に、先ずは本題を切り出して‥‥次いで、その理由を語る陰陽師。
「この時期になると、私達はある山の頂にて祭事を行うのだが‥‥毎年、その機になるとこぞってやって来る。元々、そう言った類を強く呼び寄せる地なのだろうな」
「毎年、か‥‥それならば何時もの様に対処は出来ないのか?」
「例年とは数が違う、昨年までは私達だけでも対処しつつ祭事を行う事がで来たのだが‥‥今年はどうやら、そう言う訳には行かない程に多く集っている」
 するとその理由を聞いて青年は当然に思い浮かぶ疑問を彼へ投げ掛けるが、だからこそ陰陽師より紡がれた答えを聞けば納得して頷く青年‥‥例年とは違う異変にその眉根こそ密かに顰めるが、彼は気付かずに言葉を続け改めて願い出る。
「そう言った事で亡霊の退治をお願いしたい、報酬は生憎と高くないが」
「分かった、引き受けよう。しかし、祭事と言ったが‥‥何をしていると言うのだ?」
 無論、冒険者ギルドとしては在り来たりな内容の依頼に首を左右へ振る訳もなく再び頷くが‥‥先に彼の口から語られた『祭事』に付いて尋ねると陰陽師は厳かな面持ちにてボソリ、囁く。
「星祭り‥‥」
「星祭り‥‥? 七夕とかではなく、か?」
「全く違う。古より生まれや干支によって人は様々にある星のいずれかに支配されると信じられていた‥‥それより、星は神として崇められていた事を端として始まった祭事だ」
 その、聞き慣れない単語を聞いてギルド員の青年は首を傾げるが紡がれたその答えに陰陽師は首を左右に振ると、簡潔にその祭事に付いて語れば
「尤も今ではそれを知る者は少ないだろうからこそ私達が引き継ぎ、昔より定められた地にて星祭りを行ってきた。毎年欠かさずにな」
「‥‥詳しい事は聞かない事にするがもし、途絶えたとしたらどうなる?」
「さて、記録に残っている限りでは途絶えた事はないと言う星祭り‥‥どうなる事か、検討は付かない」
 初めて耳にしたその祭事が内容に先とは違う意味合いを持って眉根を顰める青年は冒険者達に過度の危険を与えない様、留意に留意を重ね更なる疑問を連ねれば‥‥要領の得ない答えは果たして真実だろう、真直ぐな瞳にて陰陽師が青年を見ればやがて頭を垂れると
「しかし、この時勢故に今年も開くべきだと皆の意見が合ったのでそれを開く為にも協力を‥‥頼む」
「よっし、分かった! この我に任せておくが良い!」
『‥‥‥』
 再三の申し出に対し、しかし答えたのは青年ではなく何時の間にか彼らの傍らにいた一人の騎士‥‥その、余りに唐突な登場から言葉を失う青年に陰陽師だったが
「皆まで言うな、どうして此処にいるのか聞きたいのだろう?」
「‥‥いや、誰だったかと思って」
「‥‥‥まぁ、いい。久し振りに冒険がしたくなったのだよ!」
「何故?」
「来る日も来る日も珠の家で家事や掃除に洗濯芝刈り草刈り、買い物巻き割りとそのついでに風呂焚きまで‥‥騎士なのにこんな生活はもう嫌なんだー!」
 その騎士は二人の前に掌を突き出しては紡ごうとした言葉を留めるも、ギルド員の青年から返って来た答えを聞けば素直に胸の内を明かす彼の名はヴィー・クレイセア‥‥英国から京都へと至り、やがて伊勢へ辿り着けば最近は姿を晦ませていた彼がその理由をも聞いていないのに明らかにする‥‥どう言った事情からそうなったか良くは分からないが、使命を帯びて来た割には全くそれとは関係のない神野珠の名を出せば、彼女の家にて今の今まで雑務に尽力していたから、冒険の一つ位はしたいと言うらしい。
 その想い、正に切実。
「俺の剣が泣いているー! ほら、聞いてくれよこの魂の慟哭を!」
「おろろーんおろろーん」
『‥‥‥』
 故に、未だ黙する二人を手強いと察すれば遂には背負う剣を抜き眼前へ掲げては完全に口元が動いているのを見せつけながら堂々と腹話術を披露すれば、言うまでもなく凍りつく場。
「と言う事で是非、我からもお願いします! 星祭りでも何でも久々に冒険者らしい事がしたいんだー!」
 するとそれには気付いてヴィー、身を翻しては素早く地に座り込めばやがて頭をも地に擦り付け懇願の叫びを上げると‥‥青年は言うまでもなく直後に嘆息を漏らすのだった。

 後に、陰陽師より星祭りに付いて多少の話を聞けば青年は無茶な依頼ではない事を知ると漸く依頼書を書き認めるのだった‥‥ヴィーの名も一緒に、止むを得ず書き加えて。

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 依頼目的:場に集い蔓延る死霊の群れから陰陽師を守りつつ、星祭りを開け!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要なので確実に準備しておく事。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 対応NPC:ヴィー・クレイセア。尚、陰陽師は十人いるが全て祭事に携わる為に自衛が精一杯です。
 日数内訳:目的地まで三日(往復)、依頼実働期間は三日。
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●今回の参加者

 ea9032 菊川 旭(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea9689 カノン・リュフトヒェン(30歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3402 西天 聖(30歳・♀・侍・ジャイアント・ジャパン)
 eb5751 六条 桜華(39歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●彷徨う山
 とある山において、夏が近くになるに連れ様々な霊達が集まる中にも拘らず執り行われると言う『星祭り』の警護を引き受けた冒険者達は京都を発てば今、厳かにそり立つその山を眼前にしていた。
「此処、か‥‥」
 それを見上げ、ボソリ言葉を漏らしたのは端正な面立ちを携える志士が菊川旭(ea9032)だったが、しかし今は整った眉を顰め呟くと
「いかにも霊山、と言った感じがするな。上と下では空気がまるで違うし、何よりも」
「辺りを包む雰囲気、と言うかが厳かながらも鋭く張り詰めている。何かのきっかけで保っているこのバランスを崩せば途端、崩れてしまいそうな程‥‥」
「ひぁ!」
 次いで、何となく感じた山の雰囲気を口にするとその途中で無表情なままにカノン・リュフトヒェン(ea9689)が割って入り、同感だと言う代わりに瞳を細め‥‥小さく、小さく囁くと直後、彼女の語り口調に驚いてだろう誰かの悲鳴がその場で上がる。
「だ、大丈夫じゃよな‥‥?」
「そればかりは、何とも」
 その悲鳴を上げた主が西天聖(eb3402)は巨人ながらの大柄な体躯を僅かに丸め、自身の眼前に堂々と立つカノンへ尋ね掛けるも、振り返らずに淡々と返って来た彼女からの答えを聞けば不安を覚える巨人の侍ではあったが‥‥此処まで来た以上、京都へ帰ると言う選択肢は取れる筈もなくやがて意を決し、顔を上げると
「まー、何はともあれ祭を邪魔する無粋な魂をいっちょ、成仏させてやりますか。なぁ‥‥え〜と、びーだっけ?」
 その彼女の肩を叩き、軽い口調ながらも場の雰囲気を変えるべく六条桜華(eb5751)が皆を見回し声を掛ければその最後に今回、一行と道を同じくする騎士がヴィー・クレイセアを見つめ、曖昧な発音にて彼の名を呼べば
「ヴィー、だ! 下唇を噛んでヴィー!」
「‥‥びー」
「おちょくっているなら、三枚下ろしにして伊勢湾に放り込むぞー!」
「‥‥発音難しいね。まあ、宜しく頼むよ。存分に暴れようじゃないか」
 がっしりした体躯の割、細かい性格なのか彼はすぐに訂正を訴えると頭を掻きながらも桜華は改めて言い直すが‥‥それでも先とは余り変わらず、彼を憤慨させるがそれは気にせず彼女はヴィーの肩も叩けば言うと
「おろろーんおろろーん」
「‥‥ばればれだから、それはいいって‥‥」
「しょうがない、新しい技を編み出すか‥‥ん?」
 納得が行かないか彼、冒険者ギルドで披露しては場を凍り付かせた腹話術を此処でも皆へ見せ付けると‥‥生温い風が流れる中、桜華だけが何とか言葉を捻り出すのは予見出来た通りで、彼は嘆息を漏らせば皆へ視線を配すると一人だけ、違った反応を見せていた者がいれば途端に彼は笑顔を浮かべる。
「ほ、本当に‥‥その剣が泣いたのかの?」
「そんな事はないだろう」
 その主はやはり、彼よりも大きな体躯を誇る聖でカノンの背後で静かに、密かに涙を瞳に貯め言えば先にヴィーが漏らしたのとは違う意味でカノンが嘆息を漏らした、丁度その折。
「お疲れ様です、この度はご協力に感謝します」
「いや、礼には及ばない」
 何時、山から下りて来たのだろうか一行のすぐ近くに今回の依頼者である陰陽師の青年が一行へ声を掛けるとそれには別段驚いた風も見せず、旭が言葉を返せばそれを受け微笑んだ後に青年は改めて口を開き、一行へ頭を垂れるのだった。
「ようこそ、『星祭り』へ」

 それから一行は陰陽師が先導の元、『星祭り』が行われる頂を目指して山中へと踏み入る。
「恐らく、私達以外にこの『星祭り』を見るのは貴方方が初めてになるでしょうね」
「へぇ‥‥人払いでもしているのかね?」
「そうですね。近くの村へは呼び掛けを行っている事もありますし依頼書に書いてあった通り、昔からこの地はこの時期になると良く霊の類が現れていましたので自然と人の方から遠ざかって行っているのですよ」
 その中、険しい道のりにも拘らず軽やかな足取りで皆を導く彼は振り返りこそしなかったが、何処となく楽しげな調子で言葉を紡ぐと一歩ずつ確かに歩を進めて桜華が尋ねれば‥‥此処で漸く青年が振り返ると頷けば、しかし最後には何を思ってか憂いをその表情に宿し言うと途端、草を摺り地を踏み締める音だけが場に響くも
「それで例年と今年の差異は果たして、どれ程のものじゃ?」
「そうですね、大よそ倍は違うでしょうか?」
 話を変えようと聖が口を開けば、その内容こそ微妙ではあったがそれでも青年は表情を取り戻すと僅かに考え込んだ後、彼女の問いへ答えれば
「ならば何故、『星祭り』を行うのじゃ‥‥いや、それ以前にこの地で『星祭り』を行う事となったのかの? それにそもそも、『星祭り』とは一体‥‥」
「何故、ですか‥‥正直な事を言うとその源流は私達も分からないのです。ですが、この山は話の通りに夏が近付けば近付く程に霊達が多く集う場です。その要因こそ分かりませんが、恐らくは集う霊を宥め幽世へ返す為の祭祀ではないのかと私達は思っています。とそう言う事で『星祭り』自体に付いて私達は御霊返しの様なものと認識しています」
「成る程」
「まぁ、そうなのだろうな」
「‥‥そうなのか?」
 その解故に新たに沸いて出た疑問を率直に彼女は青年へ投げ掛けると‥‥それには困った表情を浮かべ、彼らなりに抱いている推測を語ればそれを聞いて旭に聖は納得して頷くが、皆の殿にて話を聞いていたヴィーは一人首を傾げるとそれには無言で返す皆だったが
「私も良くは分からないが‥‥ともかく、大事な祭事と言うならきちんと遂げさせるべきだろう」
 陰陽師の青年と合流してより後、今まで沈黙を保っていたカノンが初めて口を開き遅れて騎士の意に同意すると、しかし最後には確かな口調にて成さなければならない事を告げればその時‥‥漸く木々が塞いでいた視界が開けると、皆の目に祭祀の準備に慌しく駆け回る陰陽師達の姿が飛び込んで来れば彼女はやはり表情こそ変えないままに囁いた。
「信仰を違える者とて、信仰心そのものは変わらず尊いものだ‥‥」

●流離う魂
 昨夜の内に『星祭り』の状況を確認しつつ、辺りを徘徊するだけの亡霊がたまに場へ割り入って来ればそれを迎撃しながら、日の出を迎えた一行だったが
「‥‥ふむ、昼から早速現れよるか」
「状況としては昨夜とそう、変わらなそうだが」
 一時の休憩に眠りの淵へ落ちていた聖が起きるなり、視界の片隅にて蠢く死人憑きの姿を見止めれば朝にも拘らずの光景に溜息を付くも、その傍らにて同じ刻辺りに寝た筈のカノンが既に立ち上がり周囲を覆っている木々へ厳しく眼差しを注ぎながら彼女へ声を掛ければ、目に見える亡霊らだけが徘徊する中で『星祭り』の準備に勤しんでいる陰陽師達の姿を聖が次に捉えると昨夜もほぼ、休んでいない事を思い出せば立ち上がるなり伸びをすると傍らに置いていた刀を拾い彼女。
「オーラ、オーラはいらんかー?」
「奇遇じゃの、ヴィー殿も闘気魔法を使えるか」
「騎士として闘気を操るのは当然の嗜みだろうっ!」
 旭と共に早めに休みを取り、夜を明かしたヴィーの朗々たる声を聞けば渋面を湛えるカノンの傍らにて聖が呼び掛けると漸くあった反応が嬉しくてか振り返り様、疲労の色も見せず叫ぶと
「しかし、朝だからか気に留める程の存在はまだいない様だし‥‥奴らもまた、『星祭り』を意識していない様だ」
「確かに、その様だねぇ。とは言え気は抜けない、か‥‥何がいるか分からなければ、頭数は此方の方が間違いなく少ないだろうし」
「そうだな。さて‥‥どうするか」
 馬鹿騎士と名高い(らしい)彼の様子を淡々とした調子で見つめつつ、旭がカノンらの元へ改めてやって来れば先まで伺っていた様子を逐一告げると、何時からか動いていたか桜華も弓の弦の張りを確認しながら呟き彼へ頷けば、どうしても気になる死人憑きを再び見つめてカノンが一先ず、これからの動きに思考を巡らせるが
「‥‥うぉぉぉっ! 男子たるもの、突貫あるのみー!!」
『‥‥‥』
 久々の依頼故に我慢が利かなかったか、それを一瞬にして台無しにしたヴィーが唐突に闘気を己に宿せば駆け出すとそれを前にして四人は四人とも、同時に溜息を漏らせば
「放置する訳には、行かないよなぁ?」
「可能なら、無視したい‥‥」
 数体の死人憑きに加え、彼の頭上から小さな妖である釣瓶落しも樹上から落下してくると一対十の歴然敵な数的不利を前にしながら、それでも正しく子供の喧嘩が如く土煙を上げて奮戦するヴィーの様に桜華が肩を竦めて三人を見回せば、しかしカノンははっきりと言うのだった。

 あれからヴィーをコテンパンに叱ったその日の夜‥‥昼こそは実体化している亡霊達を近付いてくる存在のみ屠っていた一行だったが夜は夜でその顔触れをガラリと変えれば、霊体だけの存在が中心となって現れると日中よりも好戦的に『星祭り』の準備を妨害すべく仕掛けてくる。
「この地に何が有るのか知れぬが、汝等は望まれておらぬのじゃ。退かぬなら手荒い対処になる故、覚悟するのじゃな」
 しかし聖が言う通り、一行が意思に意気も高ければ祭祀にて用いるのだろう大振りな薪で組まれ、注連縄を掛けられている井桁とその周りを囲う陰陽師達へ近付こうとする怨霊達は闘気宿した刃に拳、桃の木の木刀に魂砕きの弓にて打ち祓われ一時こそその数を減じるも
「しかし例年より、亡霊達が多く騒ぐとは‥‥」
「最近まで、京都だけに限らず多く戦があったからな。その影響が現れてでもいると言うのだろう」
 時間が経てば経つ程に数を増す怨霊達を前に辟易として呟くカノンへ、旭は余り手応えが感じられない木刀をしまえば詠唱を織り、水晶の剣を生み出し手にする中でこの一年の間にジャパンで起こった戦を思い出し、容易に想像出来る原因を推測すると
「‥‥だが、情けは掛けん。その姿で生き永らえるのは望んで、いないだろう? ならば滅する!」
 自身へ怨霊が迫るにも拘らず、黙祷の代わりか旭は暫し瞳を伏せると‥‥やがて彼を抱擁せん様に両手を広げて怨霊が突っ込んでくると彼は瞳見開き、決然と言い放てばその懐へと惑わず一足にて飛び込むと、夜空に浮かぶ星空にも似た煌きを固めた剣にて切り裂いた。

 そして最終日‥‥『星祭り』の儀式が準備も着々と進んではいたが、それだけに亡霊達の干渉も先日の比ではなく思う様に休めない中、それでも一行は戦いに臨んでいた。
「おいで、林影」
 とは言え、果たしてその緊張感が募る中でも桜華は小枝を咥える口元を震わせ、飄々とした様子で自らが養う忍犬の名を呼べば途端、駆けて来る愛犬へ彼女。
「さて、視える奴だけで構わないから少しだけ手伝って貰うよ」
 従順なパートナーの頭を撫でてやれば次に詠唱織り紡ぎ、魔法を完成させて忍犬が咥える苦無へ業火を宿せば穏やかに命令を下すと、また現れた怪骨の一体目掛けて駆け出した林影を見送った丁度その時。
「‥‥っ、この音は?」
「ジャパンで言う所の、家鳴りかっ!?」
 唐突に、辺りがけたたましい騒音に包まれれば木々の枝が片端から何故か折れるとそれを前に魂砕きの弓を隙なく構え辺りの様子を伺う桜華だったが‥‥それが何かは見えず、しかし直後に響いたヴィーの声を聞けば
「物を操り、騒音を鳴らす。姿は不確かで厄介な事この上ない‥‥」
「へぇ、そうなんだ。意外に物知りなんだねぇ、見直したよ」
「全てを知る事、これも騎士として当然の振る舞いだ」
 珍しく渋面を湛える騎士が続き呟くと、その様子に初めて彼女は笑みを湛え彼へ感心の意を示せば掴み所のない彼はそれに照れてか、彼女に背を向けるとやがて靄にも似た存在を見止めてすぐに詠唱を響かせて闘気をその掌から放ち穿てば、桜華もまた続き矢を射る。
「儀式の準備は、まだか?」
「後もう少し、なんですけどね‥‥」
 とは言え、確実に亡霊達はその数を僅かずつだが増し『星祭り』の祭儀が場を取り囲むと、それを前に旭が陰陽師の青年へ問い掛ければ‥‥額に玉の様な汗を滲ませて彼が囁きを返せば、それを受けて水晶の剣を振るう志士は己の得物を地へ突き刺すと
「‥‥そう言う事なら俺達も後、もう一踏ん張りと言った所か」
 背嚢から急ぎ、一枚の布を取り出せばそれを祭儀が中心となるべく今は紅蓮の朱に染まる井桁の近くにて振るうと、亡霊の群れはそれに反応して途端に動きを止めれば‥‥それより程無くして陰陽師達が編み上げ響いていた言霊が掻き消え、儀式は此処に漸く完成へ至った事を一人の青年が告げるのだった。
「‥‥これより、『星祭り』を開く‥‥」

●蒼月星祭
 果たしてそれより後、井桁が雄々しくも優しく燃え盛れば火の粉を撒き散らす中‥‥漸く、先までとは裏腹に静かとなった場にへたり込む一行は『星祭り』の一部始終を見守っていた。
「異国とは言え、星の輝きは変わらないものだな‥‥たまにはこう、静かに星空を眺めるのも良いものだ」
「そうじゃの」
 その儀式、何の事はなく井桁を中心にしてそれを囲う陰陽師が頭上に輝く星空を見上げるだけのもので、時折に響く言の葉が何を意味するものかも分からなければやがて皆の視線が陰陽師達と同じく夜空を見据えるのは必然で、煌く星空を見上げカノンが圧倒的なその光景を前に微かな微笑と共に囁きくとそれを聞き止めて聖もまた頷くも
「祭が始まると姿を消すと言う亡霊達は一体、何処へ行くのだろうな。星の神様が何処かへ連れて行くのだろうか、或いは黄泉へ戻るのだろうか‥‥」
「さてな、どちらにせよ私は御免被るけどね」
 ただ黙々と、厳かに未だ続いているのだろう『星祭り』を見つめていた旭がふと、思い浮かんだ謎の祭祀がもたらす結果を疑問にして紡げば‥‥その答えは浮かばずとも代わりに、自身が考えを呟いて桜華が肩を竦めながら応じたその時だった。
「あ‥‥」
「‥‥これは、もしや」
 静かに驚いてカノンが、何事かを何となく察したヴィーが夜空を見上げる中で淡く輝く燐光が幾つも、幾十も映ればそれらが煌く夜空へ向けて旅立って行く光景が展開されたのは‥‥果たしてそれが何か、陰陽師達は答えを言わず。
「何じゃろうな、美しいがそれ故に悲しみを覚えてしょうがない」
 しかしその光景を前、皆が黙してそれに魅入る中で聖は思ったままの事を素直に、言霊にして織れば‥‥陰陽師達が儀式の最後を告げているのだろう、厳かな雰囲気はそのままで静かに複雑怪奇な印だけを組めば彼女は一つだけ、願った。
「せめて来世では、幸せになって貰いたいものじゃ‥‥」

 〜終幕〜