その出自
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:6 G 30 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:07月13日〜07月22日
リプレイ公開日:2007年07月20日
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●オープニング
●門前払い
伊勢、国司が仕事にて使っていると言う屋敷のその前にて一人のすらりとした体躯の女性に小柄な男の子が門番と長く話を交わしていた。
「‥‥だから済まないがお逢いにはなられないそうだ、最近では滅多な事ではお目通りが叶わず、元より多忙でもあれば近頃はまた伊勢の近辺が慌しくなってきてな。と言う事で済まないがそろそろ立ち去って貰えるか?」
「‥‥あぁ、分かったよ。悪かったね」
その門番、果たして伊勢国司へ目通り願いたいと告げてきた彼女に携えて来た答えを返すとそれより後、散々に渋る彼女を宥め透かせば漸く踵を返し詫びては立ち去ってくれたその背を見つめて嘆息を漏らす。
「しかしあんたもいるのに、会ってくれないとはどう言った了見だい?」
「分からない‥‥」
「何か、他に話は聞いていないの?」
「‥‥うん、あれだけ」
「やれやれ」
その彼女、殴られ屋の京香はその微かな嘆息を耳にしつつもあえて気にせず自身の傍らを歩くエドワード・ジルスへ問い質せば‥‥しかし伊勢国司から命を預かったと言う彼も首を傾げると先に会話を交わした門番同様、溜息を漏らす彼女。
「ま、それならそれでやり方を変えれば良いだけの話か」
「‥‥?」
秀麗な眉を顰め、暫し考え込みこそするが‥‥それは数歩、歩く程度の時間だけですぐに顔を上げれば艶やかな唇の端を吊り上げ言うと何事かとやはり何事かと、首を傾げるエドだったが
「一先ず、京都へ一度戻ろうか。色々と準備しなきゃならない事もあるし‥‥ね」
彼の沈黙の疑問を前にしても京香は微笑むだけで何も告げなければ一先ず、京都へ戻る事だけをエドへ伝えると降り続く雨の中、歩を進めるのだった。
●憂鬱を抱える剣士
さて‥‥場面に刻は変わり、夕焼けの朱に染まる京都の冒険者ギルド。
「‥‥伊勢国司の内情を探れと?」
「あぁ、忙しい事を建前にしているけど最近は人払いの度合いが頻繁過ぎるらしいんで少し、気になってね」
京香が持ち寄ってきた依頼を聞き、一先ず筆を走らせていたギルド員の青年が眉を顰めたのは当然で‥‥しかしその戸惑いを前にしても彼女は態度を変えず、依頼として願い出た理由を切り出すと
「そこまでは調べたのか」
「まぁね、でも途中で面倒臭くなって‥‥」
「依頼として持って来た訳か、成る程な」
それには感心する青年だったが、次に響いた彼女の話を聞けば微かにだが鼻を鳴らし珍しくも頬を緩める。
「何も笑う事はないだろ!」
「‥‥失礼した。しかしそう言えば最近、伊勢国司の姿が余り見受けられないと言う話は聞いていたが‥‥何をしていると」
「さぁね、そんな事よりもあたしは‥‥」
だが、それを前に彼女が激昂しては眼前にある机を掌にて激しく打ち据えると‥‥それには即座に詫びて彼、誰かから聞いた伊勢の内情が一端を思い出しては呟くがそれには肩を竦めて京香は我関せずとおどけて見せるも紡いでいた言葉のその最後は唐突に淀む。
「今更、逢ってどうすると?」
「‥‥まだ、決まった訳じゃない。一番に高い可能性に付いてあたしが気になっているだけさ。だから先ずは伊勢国司、北畠泰衡の身上をはっきりさせたい。今はただ、それだけ」
すると青年は先日の依頼の報告を思い出し、あえて主語は抜いて殴られ屋へ尋ねれば果たして彼女は惑いをその表情に湛え‥‥しかしキッパリと告げるとそれ以上話す事はないと言わんばかりに颯爽と身を翻せば、冒険者ギルドを後にするのだった。
「それじゃ、そっちからしてみれば厄介でやり辛い依頼だとは思うけど宜しく‥‥頼むよ」
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依頼目的:伊勢国司の身辺調査を密かに行え!
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要なので確実に準備しておく事。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
対応NPC:殴られ屋の京香、エドワード・ジルス
日数内訳:目的地まで四日(往復)、依頼実働期間は五日。
参考依頼報告書:悪夢迷走(神聖暦1002年6月20日〜24日)
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●リプレイ本文
●竜巻娘、伊勢へ
京都から伊勢へ続く街道を揃い歩くのは、伊勢国司の内情を調査する依頼を請け負った面々とその依頼人、殴られ屋の京香とエドワード・ジルスの六人。
「‥‥今回こそ人手が欲しかったけどまぁ、しょうがないか。今回も宜しく頼むよ」
そして皆の先を歩く京香、歩く速度は早くなく遅くもなく進めれば改めて居並ぶ顔振れを見回しては囁くが‥‥それはすぐに割り切ってか、肩を竦めつつも歩みは止めずに言葉を紡ぐと
「厄介な依頼だが、成功させるべく‥‥宜しく頼む」
「此方こそ、必ずや今回の依頼も果たそう」
先ず東雲八雲(eb8467)が応じれば次いで榊原康貴(eb3917)も京香も答えると何とはなしに静かな火花を散らす二人だったが
「でも厄介な依頼だからね、出来る所までで良いからさ‥‥あんま気負わないでね」
「えぇ、そのつもりです。ですが国司様に関しては確かに、余り話を聞きませんね。伊勢では斎王様と藩主様の活動が活発であるが為に目立たない、にしても失礼ながら私もうっかり名前が出てこなくなり掛ける位に存在感がないのでは、不自然と言わざるを得ません」
「うん、そうだよね。藩主様より偉いんだけど‥‥何でだろ?」
康貴の言葉を受けて京香、皆へ迷惑を余り掛け過ぎたくないのだろうからこそ改めて釘を刺すと、その気遣いを察して六条素華(eb4756)が頷くと今日に至るまでの間、伊勢国司にまつわる話が少な過ぎる事を挙げればマキリ(eb5009)もまた頷いて、しかしその理由に付いては思い至らず首を傾げると
「恐らくは以前より役割を分けていたのだろうな。内政に関しては国司様が、外政等に関しては藩主様が、と言う風にな。あくまで推測だが」
「確か‥‥そんな話、だったと思う」
「へぇ、伊勢の事に関しては全く持って分からないね。少し調べたら何か以前から色々ときな臭い、って言う程度の話は仕入れたけどさ」
それを受けて康貴が自身の推測を並べると此処で漸く、京香の傍らで静かに佇んでいたエドが割って入ればそれに感心する彼女。
「やる気があるのか、ないのか分かりませんね」
「こう言う事は苦手でね」
『‥‥そうだろうな』
「だからあんたらは揃って喧嘩を売ってるのかっての‥‥まぁ良いよ、二人でも買うから」
その様子を前、淡々としながらも微苦笑を湛えて素華が呟くと果たして京香が漏らした発言には康貴と八雲の二人、揃い肩を竦めれば腰に下げる細身の刀の柄を掴んでは凄む竜巻娘だったが
「そう言えば最近、身体の調子はどうだ?」
「‥‥あぁ、問題はないね。良くは分からないけど体調不良の原因はあたしに憑依していたあの悪魔のせいだったんだよね?」
「そうだと思うよ、かなり変わった能力を持つ悪魔みたいだね。それで、視線の方は?」
「そういや、視線だけは相変わらず感じるね。まぁ何もして来ないから無視しているけどさ」
「そう言う問題‥‥?」
「ま、それはさて置いてくれぐれも変に目を付けられない様に、と。じゃあ少し急ごうか」
それをすぐに回避すべく、八雲が彼女の身を案じてみるとそれには憮然としながらも京香が乗れば、やがて笑むと未だ完全に先日の事を把握していない彼女が尋ねればそれに応じてマキリがすぐに答えると今度は質疑を逆にして京香、平然と笑い言って退けるがそれにはエドが珍しく突っ込むも、彼の頭を撫でては宥めれば彼女は皆へ呼び掛けて緩んでいた速度をそれなりに上げるのだった。
●情報収集 〜京香とエド〜
それより一行、伊勢へと至れば先ずはそれぞれが思うままに散る中で素華は京香とエドの傍らにいた。
「国司様の使いから依頼を受けた際、何か不自然に感じた事はなかったでしょうか?」
そしてすぐに、先ずはエドに対して質問を紡ぐ彼女ではあったが‥‥首を振るだけの彼へ素華は尚も言葉を紡ぐ。
「京香様に付く理由を知らぬままであれば今後、何事かあるかも知れない以上‥‥少し、お手伝いをして頂けませんか? その理由を探る為に」
「‥‥うん、いいよ」
するとその問い掛け‥‥と言うよりは協力か、を要請する素華に対しエドは何ら惑う事無く、何時もの間を置いた後に頷き答えると今度は踵を返して彼女。
「因みに京香様、国司様がエド様を近くに配される理由に付いての心当たりは何か、ありませんか?」
「さて、伊勢なんて今まで来た時がないし友人や知人だっている訳じゃあ‥‥ない訳じゃないか」
今度は京香へ向き直り、やはり彼女へも尋ねると‥‥首を捻りつつもやがて、少ないながらもある当てを思い出すと
「それなら、先ずは京香様の友人の皆様に話を伺いに行きましょうか」
「まぁ‥‥そうだね、そうしてみようか」
先ずは彼女らを中心として情報を集め纏めては国司の内情へ至ろうとすべく、二人を伴って素華は改めて伊勢の街中を歩き出した。
●摺り合わせ
そして初日の夜、意識合わせの為にと八雲の案から皆がとある宿屋に集えばそれぞれに得られた収穫を語らっていた。
「伊勢藩内の風聞や人々の話だけ聞く分には、良い国司で通っている様ですね」
「あぁ、だが一先ず十河兄妹に話を聞いてみた所‥‥最近はやはり、国司の姿は見ていないそうだ。他の藩士達もやはり、同様だったな」
「藩の部下達にも会っていない、となると本当に最近は外へ出ていない様ですね」
「そうだろうな、取り敢えず何かあれば協力してくれる旨だけ彼らから受けて来て、戻って来たが‥‥今日の所は大した収穫がない、済まん」
マキリだけが遠くへ足を運んでいる事から五人の顔が並ぶ中、素華の話が終わった後に八雲が自身の収穫を皆へ話すも続く素華が言う様に、伊勢国司が外に出ていない事だけ確定だけされれば頭を垂れる八雲だったが
「まだ初日だ、しょうがなかろう。それよりも此処最近、西洋の悪魔とやらが活発に活動している話を聞く今、何らかの接触や干渉があってもおかしくはない筈‥‥」
「そうですね、伊勢だけでなく各地でも西洋の悪魔が多く見受けられていると言う話は良く、耳にしますし‥‥考えられなくはありませんね」
その彼へ穏やかに声を掛け、康貴が宥めると一先ず集まった情報が未だ京香の求めるものではない事から、その糸口を見出すべく自身の考えを呟くと頷く素華ではあったが‥‥やがて憶測だけが場に飛び交っている事に気付くと、一先ず場を締め括った。
「現状、推測でしか話を進める事が出来ないのであれば‥‥一先ず今日は此処まででしょうか。また明日、皆の情報を纏めてみましょう」
●調査 〜とある漁師の村〜
丁度同じ刻、マキリは以前に大食い大会が開かれた漁師達の村へ辿り着けば久々の客からか、村人達に歓迎されれば開かれる酒宴のその中。
「国司さんって、どんな人?」
「どんな人‥‥ってなぁ」
酒は遠慮しつつ刺身だけパクつきながらマキリ、それを飲み込んだ後にさりげなく国司の事に付いて尋ねると‥‥一人の漁師が首を傾げれば
「良い人だよ、内政に関してまだ行き届かない所はあるけれど藩主様に伝えた事は必ず検討して、必要なら反映してくれるからね」
「藩主様と違って表には出てこねぇが、それでもちゃんと俺達の話も聞いてくれるんだからありがたい話だな」
「国司様の父上が父上だったからなぁ、そうはなりたくないと思ったんだろ」
その傍らにいたおばさんが笑みを湛え断言すると、その向かいにいた先とは別の若い漁師が頷けば隣の漁師も昔を思い出してか、遠くを見つめては呟くと
「へー、国司さんのお父さんってどんな人だったの?」
「あぁ、ありゃあろくでもない奴じゃった‥‥わしらにばかり負担を強いて来てのぅ。いや、わしらだけでもないか‥‥泰衡様らもじゃな」
その様子に引っ掛かりを覚えたマキリが再び口を開き、今度は国司の父に付いて問うとすぐ隣にいた老人が杯を煽りながら、渋面を湛えて言葉を漏らすと初めて聞いた話にマキリは内心でだけ驚きながら、それは抑えて更に皆へ問い尋ねる。
「じゃあ、今の立場になるまでは大変だったんだろうね」
「まぁ、戦の後も伊勢藩内は混乱が続いたからの。様々な派閥があったんじゃが、それでも伊勢藩を平定した‥‥その苦労は尋常じゃあなかった筈じゃ」
「戦?」
「あぁ、今じゃあ影もないが実はな‥‥」
そしてその問いに対し、老人は丁寧に答えてやれば‥‥しかし、その中で出て来た『戦』の単語に思い当たる節がない彼は首を傾げると果たして漁師の一人は伊勢の昔話を紡ぐのだった。
●情報収集 〜アゼル〜
翌日、国司が仕事を勤めていると言う屋敷の門前で八雲はジーザス会の教徒であるアゼル・ペイシュメントと久々に顔を合わせていた。
「暫く振りだな‥‥少しは、今の環境に慣れてきたか?」
「えぇ、問題はありませんよ。此方では異端だろう私でも伊勢の人々は皆さん、良くして貰っていますので」
「そうか、それならいいが」
客人として伊勢国司の元に招かれた身である事を覚えていた彼はアゼルとの接触を果たせば、春口に会った時と変わらない彼の立ち振舞いに安堵すると
「‥‥私の事を心配して頂いていたのでしょうか? でしたら至極恐縮です」
「随分、堂に入ったものだな」
その表情を見てか、アゼルはたおやかな笑みを浮かべれば頭を垂れるとジャパンへ来て半年程度にも拘らず、流暢なジャパン語を話す彼に八雲は感心して僅かに笑むが
「所で、アゼルから見た伊勢藩の様子はどうだ? 例えば国司様や藩主様とか‥‥」
「そうですね、とても良い所です。国司様と藩主様にも良くして頂いていますし此処でなら日々、穏やかに過ごせそうです」
「そうか‥‥とそう言えば、国司様の様子は最近どうなのだろうか?」
「様子、ですか‥‥あぁ、最近は人払いが激しいみたいですからね」
「何か知っているのか?」
すぐに何時もの表情に戻せば改めてアゼルと向き直るなり最初こそ遠回しに、ワンクッションを置いてから本題を切り出すと‥‥それを聞いてアゼルは何事かに思い至れば、その彼の表情から一歩踏み出して更に尋ねる八雲ではあったが
「お忙しいのは確かですよ、以前からの妖の件に加えて西洋でだけ見られる悪魔の台頭に最近では鬼の騒動ですか。これだけ治安が不安定なら内政が慌しくなる事は当然ですし、それに」
「それに?」
「少々体調を崩されていましてね、そう言った都合もあって最近では中々‥‥しかし、一つ言っておきますが重い病を患っていたり死に瀕している訳では決してありませんので、その点はご安心を」
「なら、良いのだが‥‥」
彼の口から語られた、国司の近況を聞けば予想通りの答えに対して土の志士は内心でこそうな垂れ、しかしそれはおくびにも出さずそれから暫し世間話に興じてはまた一時の別れを告げて八雲はアゼルと別れるのだが
(「‥‥気のせいか?」)
何となくだが所々で自身の心の内が見透かされている様なアゼルの口振りに八雲は覚えた違和感だけ、どうしても拭えなかった。
●調査 〜伊勢市街〜
時間だけが刻々と過ぎる中、それでも一行は伊勢国司の内情‥‥今と、今に至るまでの昔を僅かな手掛かりしかない中で調べ続けていた。
「あ、康貴さん」
その中、マキリは悩みに悩んだ末に近年までの伊勢の歴史が集約されていると言われている、伊勢藩が持つ蔵書庫へ許可を取り付けて足を運べば先に来訪していた侍に声を掛けると
「おう、マキリ殿か。奇遇だな、貴殿は何事を調べに来られたろうか?」
「うん、昔の事に付いて‥‥京香さんが生まれた頃とか、先ずはその頃の伊勢に付いてかな?」
「成る程、私と少し似通っているか」
「康貴さんは何を?」
地にあぐらをかいては辺りに蔵書を積み、読み耽る康貴は振り返るなり尋ねると小さき弓手から返って来た答えを聞けば顎髭を撫でて呟く彼へマキリが今度は逆に問い掛けると
「北畠家の事に付いて、その家系や家族の事に付いて調べようと思ってな」
再び視線を書物へ落としながら答える侍はやがて、食い入る様に眼前のそれへ視線を走らせればマキリへと呼び掛けた。
「さて、時間が限られている以上は早く調べるとしよう」
「ふむ。先代の頃は酷かったらしいな、伊勢藩は」
「え‥‥あぁ、もしかして」
マキリが来てから一刻程は経ったろうか、魅入っていた一冊の書物を閉じて康貴が囁くと、彼とは背を向けて別の書物を読み漁っているマキリがそれを聞き止めては振り返れば自身が漁師の村で聞いた『戦』の話を思い出すと
「民の事を顧みず、相当に厳しい税を取っていた様だ。そして息子らまで遠ざけては裕福な生活の上にあぐらをかいていたらしい」
「‥‥全然、そんな風には見えないよね。俺も話を聞いて驚いたよ」
「あぁ。だが京都にまで遠ざけた息子らに伊勢の民が頼み込めば、彼らは揃い反旗を翻した末、父は討った‥‥意外と血生臭い歴史があるのだな」
正しくそれを語る康貴は然程昔ではないだろう、今にして分かった伊勢の歴史が一端に渋面を湛えるとマキリは唯一ある窓の外を見やり、そこに広がる穏やかな光景を見ながら呟くも
「所で、国司さんが京都へ行っている頃の記録は見た?」
マキリが自身、探している情報に付いて見当たらない事からそれを侍に尋ねると‥‥果たして康貴は首を左右に振れば然程多くない蔵書を手当たり次第に弄っては呟くのだった。
「‥‥そう言われてみると、ないな」
●その出自は
最終日、伊勢市街と街道の狭間にて一行は揃い街の方を仰ぎ見ては佇んでいた。
「‥‥結局、国司様がどんな理由を持ってエド様を京香様の元に配したのかは分かりませんでした」
「最近の事だ、そう簡単には糸口を掴ませては貰えないだろう」
「京都で過ごしていた空白に付いても、結局は分からず仕舞いかー」
「恐らく、その間に何かあったのは間違いない筈。とは言え‥‥」
そして呟く四人‥‥得られた情報は果たして京香にとって幸か不幸か分からないままに今日と言う日を迎え、それぞれが難しい表情を湛えていたが
「今回はこれ以上、無理だね。大人しく京都へ戻るとしますか」
「‥‥そうですね」
それでも依頼人が京香、あっさりと皆を前にして言い放てば踵を返すと彼女に同意して素華も伊勢市街に背を向けるも
「何、それなりに収穫はあったんだ。そう落ち込む事はないさ。後は、こっちで何とかしてみるからさ」
「だからとは言え厄介事に進んで首を突っ込んだり、誰かしら巻き込まないで貰えると幸いなのだが」
「はいはい」
皆の表情を察していたからこそ、慰める様に呟いた京香の言葉は真実だろう‥‥がそれ故に康貴はこれからの彼女の動きを予見して最初とは逆に釘を刺すと、背後から投げ掛けられたその言葉に京香はただ肩を竦め受け流すと、皆の前を何時もの様に颯爽と歩き出すのだった。
〜一時、終幕〜