天照大御神

■ショートシナリオ&
コミックリプレイ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:8 G 76 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:08月15日〜08月22日

リプレイ公開日:2007年08月24日

●オープニング

●動く、斎王
「‥‥やーれやれ」
 伊勢は二見の海岸沿いにある斎宮‥‥その中枢とも言える斎王の間にて嘆息を漏らしていたのは言うまでもなく祥子内親王。
 幾ら若いとは言え、最近の業務多忙振りには流石の彼女でも滅入っている様子が見受けられるが流石に弱音はそれだけ。
「やっぱ色々、燻っているみたいね」
「その様で」
「‥‥伊勢藩の動向、軽くで良いから伺っておいて頂戴。何かが起こると言うのなら発端はきっと、あそこだと思うから」
 ついで抱えている問題を前に、一度だけ深呼吸をした後に顔を上げれば眼前に何時もと変わらずいる、側近の光へ呼び掛けては書類の束を手の甲で軽く叩くと頭を垂れる側近へ密かな指示を下すと
「しかし‥‥分かっていたとは言え、暗い話ばかりねぇ」
「だからこそ、それを払う為に天照大御神様との対話を望まれているのでは?」
「その通りよ、伊勢の旗印として‥‥その存在だけで相手を牽制し、可能ならそのまま抑止する為にね」
 僅かではあるが全体的に輪郭を帯びつつある問題に‥‥結局の所、斎王は再び嘆息を漏らすもそれは光によって窘められ、早急に解決すべき課題を突き付けられる事となれば頷いて主はそれに応じるも
「でも然るべき態度を持って臨まないとね。話を聞く限り、甘くはないみたいだから」
 これより臨むべき相手が手強いからこそ表情を引き締め呟けば、早くもその表情から意を決している事に感心して側近は珍しく微笑むと
「そう言えば護衛はどうされますか? 今までの報告によれば、丸腰で天照様との対談に臨んでも阻まれるかと思うのですが」
「斎宮の刃たる闇槍に盾たる五節御神楽は安易に動かせないし、十種之陽光は運用用途が違うから‥‥今度、親衛隊でも作ろうかしら?」
「‥‥ご冗談を」
「やっぱり?」
 最後に一つ、天照大御神との会談を行うに当たって未だ解決していない問題点を掲げれば悩んだ末に出た斎王の提案は即座、一蹴すると冗談だと言わんばかりにおどけて肩を竦める内親王ではあったが
「じゃあ、普通に依頼で募る事にしましょう。手配の方、宜しくね」
 すぐに気を取り戻せば、今までにもあった無難な案を提唱しては光へすぐに手続きを取る様、促すのだった。

●赴くべき、場
「‥‥全く、次から次にようもまぁ!」
 一方の答志島が中央にある古墳、以前より変わらずにいる人外な美しさを誇る少女が憤慨しては僅か一挙手の動作にて閃光を放ち、辺りを遠巻きに漂う妖を豪快に薙ぎ払っていた。
「最近、いやに動きが活発になって来おったのぅ」
 その閃光、妖だけを薙ぎ払うだけでは収まらずに周囲の木々までも切り倒せば、それを目の当たりにした妖達も退散する他無く‥‥漸く平穏が訪れた場に見た目の割、高位の術者である少女が天照大御神は一人取り残されると、以前よりも妖の動きが目立って来た事に微かな不安を覚える。
「妾が表に出たせいか、それとも‥‥それとも、何か目論みあっての事か。まぁどちらにせよ、良くない傾向じゃな」
 そしてその理由を検討こそすれ、確たる事由には神とて至る筈も無く溜息を漏らせば渋面を湛えたままに踵を返しては一人、囁いては歩き出すのだった。
「‥‥封印を解く事、考慮すべきかの」

――――――――――――――――――――
 依頼目的:天照と斎王の会談が場を守り抜け!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要なので確実に準備しておく事。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
 尚、答志島へ至る為の船は斎宮にて手配します。

 対応NPC:祥子内親王
 日数内訳:目的地まで四日(往復)、依頼実働期間は三日。
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●今回の参加者

 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0340 ルーティ・フィルファニア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea1569 大宗院 鳴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5936 アンドリュー・カールセン(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6381 久方 歳三(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6601 緋月 柚那(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea7197 緋芽 佐祐李(33歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)

●サポート参加者

ジーン・インパルス(ea7578)/ 大宗院 亞莉子(ea8484)/ タケシ・ダイワ(eb0607)/ ソムグル・レイツェーン(eb1035)/ 護堂 万時(eb5301

●リプレイ本文

●三度目の正直?
 伊勢、鳥羽の漁港より船舶にて大よそ半日を要して辿り着く事が出来る近隣では最も大きな島である、答志島‥‥この界隈での航行にはいささか不釣合いな大きな船にて、その島へ辿り着いたのは斎王と彼女の護衛である冒険者達が八人。
「やれやれ、漸く着いたわね。しかしまぁ」
「暑いでござる‥‥」
「そうじゃな、今年の夏は例年に比べてやけに暑い気がするのじゃ。ともかく‥‥あーつーいーのーじゃー!」
 答志島に唯一ある、小さな漁港へ降り立てば斎王は息を吐いて安堵こそするが頭上で輝く太陽を見上げれば端麗な表情を顰めるとその続きは久方歳三(ea6381)が織り、小さな巫女の緋月柚那(ea6601)も彼の意に同意すればその最後は堪え切れず叫ぶと、地団太を踏む彼女。
「道中ではわざわざありがとうね。京都のお話。話自体はそれなりに聞いていたけど、参考になったわ」
「いえ、それ程では」
 その光景に皆が苦笑を湛えるが、そんな折に響いた斎王の礼に歳三は普段と違い礼儀正しく頭を垂れると彼女は顔を綻ばせるも
「で、その代わりに伊勢の近況、と言ってもねぇ。まぁ、初顔もいるし要所だけ掻い摘んで説明するわ」
 次いで要求のあった件に付いて応じるべく、未だ上手く説明出来る自信がない事から呻きこそするが初顔合わせである男性陣を見やればやがて口を開き、今までに伊勢で起こった話を語り出す彼女。
「‥‥とまぁ、そう言う訳なのですよ」
「あ、こら。最後の締めを取るなー」
 しかしその最後は唐突にルーティ・フィルファニア(ea0340)が締め括くると斎王は果たして頬を膨らませるが
「成程」
「確かに、それはそれで不気味でござる‥‥」
 それは見ながらも表情を変えずにアンドリュー・カールセン(ea5936)が伊勢の大まかな現状を把握して淡々と頷けば、歳三もまた伊勢が置かれている現状に薄ら寒さを覚えるが
「しかし封印の要石に、暗躍する存在‥‥か。デジャヴだな」
「そう言われて見ると、そうだな」
 傍らにいる侍の様子とは裏腹にアンドリューは何を思い出してか、空の高みを見つめ呟くとそれを聞き止めたガイエル・サンドゥーラ(ea8088)が苦笑交じりに応じれば、久しく見た戦友へ苦笑だけ返す彼だったが
「それと、尋ねてばかりで済まないが今回の会談の目的とその相手の事に付いて教えて貰えないだろうか」
「相手は天照大御神。その目的は伊勢がこんな状況だからこそご助力願おうって所ね」
「‥‥その名から察するに、最上級のエレメントか?」
「あら、察しが良いわね」
 次に斎王を見るや再び問い掛けると彼女は依頼書にこそ書いていた、これより逢うべき神の名を告げればやはり簡単に説明を済ませると、果たして彼はその名だけで天照の正体を察すれば表情を緩める彼女も
「故に、立ち振る舞いには十分気を付けてね」
「この前、口の利き方を間違えてあわやサンレーザーの直撃を被らんとした者もおったでござるからなぁ」
「そう言えば普通に、樹を何本も切り倒していましたよね?」
 すぐに表情を厳しくして皆を見回し釘を刺すと、天照と相対した事がある天城月夜(ea0321)が初対面の時にあった戦慄の一場面を思い出しては呟くと、皆が微かとは言え背筋を震わせる中でルーティがその時の光景を細かく囁けば
「ご機嫌を損ねるな、と言う事か」
「大丈夫ですよ。ご機嫌を取るなら、美味しいものをご馳走すれば良いのですから」
「精霊だからそれはないわねぇ。食べる必要があるならあちこち、大変な事になっているわよ?」
 僅かにだが眉根を顰めてアンドリューが先ず自身に対して警告すべく呻くが、それを受けて尚も大宗院鳴(ea1569)はそれぞれが持ち寄って来ている土産に思いを馳せつつ頷くがその意は挫いて斎王が苦笑を湛え言えば、密かにルーティが肩を落とす中で緋芽佐祐李(ea7197)。
「此処は日差しも厳しいですし、一先ず天照様の元へ向かいませんか?」
 苦笑を浮かべつつ何時の間にやら暑さにて伸びている柚那を抱えて皆を促せば、天照大御神が待っているだろう島の中央へ向けて歩き出すのだった。
「‥‥温泉に寄りたいのじゃ」
 彼女が何とかして捻り出した願いは取り敢えず、聞き流して。

●天照大御神
「ふむ、きおったか」
「お初目に掛かります、天照大御神様」
「主が今の斎王か」
「はい。とは言え、今となっては名前だけですが」
「気にする必要はない。昔と今を比べたとて、そう大差はないじゃろうて」
 やがて答志島が中央にある古墳へと至れば、相変わらずつっけんどんに出迎える少女‥‥天照大御神に恭しく斎王が頭を垂れると、初めて顔を合わせた二人は最初こそ感慨深げに言葉を交わすも
「で、後ろにいる者共が警護の人間かの?」
「緋芽佐祐李と申します。伊賀の出にて、今は縁あって主に伊勢の平和に力を尽くしております。今回、私達が周辺の警護をやらせて戴きますので何卒宜しくお願い致します」
「宜しく頼むぞ」
 やがて斎王の背後に控える冒険者達の存在に気付けば少女は彼らへ視線を配し尋ねれば、やはり礼儀正しく佐祐李が頭を垂れると頷きこそする天照だったが
「‥‥詰まらんな」
「な、何がですか?」
「いや、何でもない。では始めるとするか、こっちじゃ」
 暫しの沈黙の後、ポツリ囁くとそれを聞き止めた歳三が何事かと尋ねるが‥‥それには唇の端だけ吊り上げ応じれば、彼女は踵を返して歩き出した。

●跋扈する妖
 それより古墳が片隅を皆で会談が一席として整え設ければ、すぐに天照大御神と斎王を中心とした会談は開始される。
「今回は大切な話し合いな訳じゃな?」
「えぇ、伊勢の今後を決める事になるでしょうね」
 その傍ら、道中からちらほらと見掛けた妖達を会談の場へ侵入させない為に三班に別れた一行の内が今は会談の場が周囲の警戒に当たる班に属する柚那が忙しなく、辺りへ視線を彷徨わせながら疑問を響かせるとそれに応じる佐祐李の言葉を聞けば
「ふむ、柚那も話し合いの邪魔をされれば頭にくるのじゃ。こう‥‥」
 やがて何に納得してか一人頷くと、懐から一つの巻物を取り出せばそれを紐解いた彼女は何時もの様に雄叫びを上げる。
「傍目からビーム、ヒートあーっぷ!!」
 さすればその巻物に込められた魔法は即座に光の矢を生み出して‥‥しかしそれは場にいる三人の誰にも当たらず、虚空を飛んでいた以津真天に直撃する。
「ぉ?」
「偶然とは、恐ろしい物だな」
 むやみやたらと巻物を乱発する彼女にしては珍しく、また自身も一応気に留めているからか思わず当人が驚きの声を発すれば、アンドリューも自身か佐祐李のどちらかに飛んで来ると予想していたそれが敵を捉えた事に呆れながらも感心するが
「話の通り、数が多いですね」
「あぁ。だが今、機嫌を損ねる訳にも行かないだろう」
「まだ至るべき先は遠くても、まだ此処で事を仕損じる訳には参りません」
「そうじゃの! なら、やるべき事は唯一つ!!」
 それをきっかけにして偵察役として派遣されたか、以津真天が数多木陰より飛び立つと雑兵とは言えその数の多さに佐祐李は呻くが、天照が激昂する様と繰り広げられる光景を見たくないと黒き射手は肩を竦めつつも魔力が込められた弓を構え、矢を番えれば佐祐李もまた聖者の剣を煌かせては瞳すがめれば柚那の決意と共に三人の直上を舞う以津真天を全て叩き落さんと動き出すのだった。
「傍目からビーーームッ!」

●その最中の、会談
 古墳の周辺を警戒している班の活躍と、斎王と天照大御神の近辺にもいる警護の活躍もあって会談は今の所は何事もなく、進んでいた。
「主ばかりと話していてもしょうがない。事の次いで、警護の者らとも話すとしよう」
「是非、お願いします」
「とは言え、聞きたい事があると言う者ばかりの様じゃが‥‥まぁ、良いじゃろう」
 とは言え飽き易い性質か、まだ大した時間が経っていないにも拘らず天照は近くにいるルーティと月夜を見やり言えば、それには穏やかな笑みを返して応じる斎王へ頷いた後に小さな少女は杯を煽り、二人へ苦笑を織り交ぜて尋ねると
「何故、天岩戸には天照様がお眠りになっていると言う伝承が広まっているんでしょうか? 何か思惑‥‥とかありますか?」
「人による監視と言った意味合いでな。妾でなくとも人の目には触れようが妾が眠っているとあればそれはより多くなると踏んだ次第で自身、流布したのじゃ」
 直後に響いた声はルーティのもので、天岩戸に伝わる伝承と真実の差異に付いて先ず問えば、返って来た答えには納得して頷くと
「白焔も黒不知火も‥‥ひいては要石も天岩戸も天照様のお力でそれまで担ってきた事を人へと引き継ぐ為に作られたものなのでしょうか?」
「あくまで、補助的なものじゃな。とは言え話を聞く限りでは少々封が緩かった様じゃの」
 続いて彼女が響かせた疑問には天照、僅かに眉根を顰めその表情を曇らせると暫し場に沈黙が落ちるが
「『ジャパンの悪魔王、その力が欠片』と以前、天照様が天岩戸に封じられるものについて答えて下さった事でござるが‥‥大妖怪や悪霊長と言うのならともかく悪魔王、悪魔と聞くと」
「じゃが、類するならばそれが正しく相応しいじゃろうな。それだけは受け止めよ、どの様な形をしていたとしても」
「そう言えば黒門と言う者が言っていた、天岩戸に眠る欠片のその核とは‥‥一体」
 それは今度、月夜の惑いによって破られればそれには天照大御神が確かな口調にて告げるも、デティクトアンデットの魔法を用い場の近くを警戒していたガイエルが確信へ迫るが少女は整ったその表情を固くしては未だ、頑なに言葉を濁すだけだった。
「さて、今度は果たしてどの様な形を取るか」

「これ土産。柚那が出来るのはそれ位じゃしの。難しい話は皆に任せるのじゃ」
「やれやれ」
「冷たいお茶と桃をお持ちしました」
「ふむ、頂こう」
 二日目も昼に差し掛かる頃、周囲の巡回を終えた第二班の面子は斎王と天照の元へやって来ると今度は彼女らの警護に着くべく準備を整え、向き直るも
「最後にお尋ねしたいのですが建御雷之男神様って一体、どんな方ですか? 出来ればお会いしたいのですが‥‥」
「知らん、自分で探すが良いじゃろう」
「えー‥‥失礼しました」
「他力本願は好かん」
 先まで彼女らと話を交わしていた第三班に属する鳴がその最後にと腕を掲げて尋ねるが、その質問に際し天照はあっさりと一蹴すれば素の調子に戻り、不服そうに声を上げるも‥‥それは途中、少女の凶悪なまでにすがめられた瞳に怯み詫びれば鼻を鳴らす天照だったが
「とは言え彼女の先の発言、必ずしも寄り掛かってのものではないでしょう。そして無論、斎宮も同義です」
「上手く言いよる」
「確かに、神の力を当てにするのは人として少し情けなく思います。ただ、今それだけ伊勢に蔓延る闇が濃い事も事実です。そしてジャパンに古来よりいる妖の他、外国から悪魔も来ていると聞いています。容易ならざる事態かと」
「‥‥面倒な話じゃ」
 彼女を宥めるべく、鳴を庇う様に斎王が言葉発すれば唇の端を吊り上げ笑う少女だったがそれでも尚、佐祐李は穏やかだが確かな口調で頭を垂れては改めて伊勢の危急を告げると興を削がれたか天照は溜息を漏らすと
「しかし義を見てせざるは、勇無き事なり」
「‥‥わっぱの癖にようも言いおる」
 それを機と見たアンドリューが淡々とした口調で呟けば苦虫でも噛み潰したかの様、痛い所を突かれた少女は渋面を湛えた。

「やっと美味しい料理を食べられるんですね!」
 そして夜を迎え、周辺の警戒から解放された第三班の面子は揃い会談を続ける二人の前へ腰を下ろすと、眼前にある団子やら神酒を見て満面の笑顔を湛えれば手を伸ばそうとするも
「神に供えたものを自分が飲む訳にはいかんだろう」
「え、そうなんですか?」
 休憩に入る第二班のアンドリューが一言、釘を刺せばそれには首を傾げる巫女の発言に立っていた皆は足元を滑らせるが
「御力を無くされた事情と、それを回復する方法はあるのでござろうか?」
「大きな力は持っているだけで手に余るからの。それ故に妾は自身で伊勢の各地へ封じたのじゃが大分様変わりしている故、記憶が定かではない」
「妖が増えた理由は何でござろうか?」
「さてな。人の増長が奴らにとって住み易い場を知らずとも作っているのは事実じゃろうが必ずしも、それだけではない」
 それでも対話に臨む面子は別段気にせず、先ずは口を開いた歳三が疑問を連ねこそするも‥‥それに少女が淡々と答える辺り、余り気にしていない問いだったか何処となく瞳を遠くへ向けていたが
「‥‥天岩戸の封印は要石の封印を解く以外、解放する術があるのだろうか?」
「ない筈じゃ、要石が利いている以上は力でこじ開けようとも揺るがぬだろう。それに他の封も利いておる、要石が全て壊れたとて易々と天岩戸は開かぬ」
「それが黒不知火であり、黒き箱に封じられている物か」
「それもある」
「それも、となるとまだ他に何かあるのですか?」
「‥‥お主らがその器でなければ良いがの」
 次にガイエルが紡いだ問いには途端に表情を厳しくして少女は答えるが、その曖昧な答えを聞いて歳三は更に疑問を投げ掛けるも天照は表情を曇らせながらもやはり、曖昧な答えだけ紡ぐのだった。

●そして、会談の果て
「漸く、終わりの様でござるな‥‥どちらも」
 そして迎えた三日目‥‥辺りの警戒に今も励む歳三だったが、彼の目にも他の者の目にも妖の姿は見えず、また斎王と天照の話も大方が済んで談笑を交わしている光景を見止めれば密かに安堵の溜息を漏らしていた。
「そう言えば天照様がこの地に留まられる理由は何か、あるのだろうか?」
「別段、理由はない。単に居心地が良いだけじゃ‥‥とは言え、今では此処も」
「それならば斎宮へお越し頂けないでしょうか? 少なからず、此処よりは平穏です」
 その折、響いたガイエルのささやかな疑問をきっかけにして斎王は大詰めへと迫ると暫し、蝉が鳴き声だけ響き渡る場にやがて天照大御神はその答えを発した。
「‥‥良いじゃろう、妖らの動きは妾も気に食わぬしな」
「それでは‥‥!」
「じゃがまだ、見えぬ所がある故に主らと結託する訳ではない‥‥飽きたら去る、見定めて足りなくとも去る」
 それは酷く単純明快なもので、それを聞き止めた佐祐李が表情を明るくしては少女を見つめるが‥‥彼女はその視線を受けても表情を揺るがせず、素っ気無く告げるが
「‥‥天照様っ!」
「えぇい、抱き付くなぁ! 暑苦しい!!」
 それでも十分な答えである事に月夜は今までの苦労を思い出し感極まれば堪え切れず、抱き着けば‥‥その後に繰り広げられた光景はお察し下さい。

 何はともあれ、斎宮へ天照大御神を迎え入れる事を果たした一行は意気揚々として帰路に着くのだった‥‥一筋で何時消えるとも分からないが、確かな希望の灯火を手にしたのだから。

 〜終幕〜

●コミックリプレイ

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