【何でもござれ】 〜ゴミ屋敷の掃除〜
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月18日〜09月25日
リプレイ公開日:2004年09月22日
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●オープニング
「すいません〜」
冒険者ギルドの扉が鳴るなり、遠慮しがちな女性の声が響いた。
「はいー、なんでしょうか?」
集まる視線に少しおどおどしていた彼女だったが、受付に座るお姉さんの声を聞くや安堵の溜息を吐いていそいそとカウンターへと向かうと、バンッ!とお姉さんの座る前に両手をついて、こう言うのだった。
「ゴミ屋敷の掃除をお願いしますっ!」
「って言う訳でねー、よろしくっ!」
「なにをせいと」
「お掃除です」
「それも冒険者の勤めなんでしょうか?」
「まぁ、困っているわけだしねぇ。そう言う事になるんじゃないかな?」
先程依頼人が持ち掛けて来た依頼を一同に大雑把に説明しながら、次々に上がる疑問をさらりと避けるお姉さん。
さて、今回の依頼をまず詳しく説明をしよう。
先程の依頼人がある小さな屋敷を格安で売りに出ているのをたまたま発見し、売主の元に駆け付け間取り等を確認しただけで、その場ですぐに買い取ったそうな。
喜び勇んで彼女は教えられた住所に向かう、結婚を一ヶ月後に控えていたからこそ二人の愛の巣を見つけた喜びに彼女の胸は弾んだ。
所が、いざ物件を見に行って愕然とする。
屋敷の扉を開けて彼女を出迎えたのは、屋敷内に積まれていたアンティークの数々、と言えば聞こえがいいが実際の所はガラクタの山。
肝心の物件を一度も見ずに買ってしまった彼女も悪いと言えば悪いのだが、ガラクタの山を前に彼女は無力で返金させて貰う事も考えて売主の元に相談に行ったが、既にその売主はキャメロットから離れ旅に出たと、近くに住んでいる人の話を聞く。
やむを得ず、屋敷の扉を前に佇みながら考える彼女。
実際、物件には非の打ちどころがない。
外目から見るとまだ建ってからそう年月は経っておらず、屋敷を外からぐるりと回って見てみたが意外に庭は広く、間取り等も今はいない売主から貰った図面と相違ない事が判断出来た。
そうなると問題は一つ、屋敷内にあるガラクタの山である。
屋敷とは言え中はそう広くはない、だが一人でその山を片付けるには一ヶ月と言う時間は短過ぎる。
彼には相談出来ない、うっかり者とは言え自分が招いてしまった事。
そして決断した、お門違いかも知れないが冒険者に頼もうと。
「可哀想だと思わない? 健気だと思わない?」
「そんな事言われてもなぁ〜」
実際お門違いな話ではあるも、こう言った人情(?)の絡む話にお姉さんは弱く必死に説得をするも、その場にいる一同のノリはいまいちである。
「ふーん、冷たいのねぇ。まぁ確かに報酬も安いけどね、けど屋敷のガラクタで有用そうなものがあれば好きにして構わないって。期待し過ぎるのもおかしな話だけど、もしかしたら何かあるかもねー?」
受付嬢のとどめの一言。
「話も話だし、たまにはこう言う依頼もいいかも知れないな」
その場にいた誰かの呟きに、彼女はにっこりと微笑むのだった。
●リプレイ本文
●何はなくとも下準備
「あの‥あちらのお屋敷で大掃除をする為、数日の間は騒がしかったりゴミを焼却する煙を出してご迷惑お掛けするかも知れませんが、どうかよろしくお願い致します」
品良く一礼をして近所に引っ越しならぬ大掃除の挨拶回りに励んでいるのは、銀髪に白い肌のエルフの吟遊詩人、オリタルオ・リシア(ea0679)だった。
普通の掃除ならいざ知らず、屋敷全体を埋めるゴミともなれば確かに彼女の言う通り凄い事になるのは必須、事前にそれを教えてくれた彼女に周囲に住む人達は嫌な顔一つせず皆一様に応援してくれる。
「そう言えば、以前の家主さんは何をしていた方なんでしょうか?」
そんな挨拶の際にふと気になった事を尋ねるオリタルオに
「趣味が多い人でね、でも最近になってこれだと言うものを見つけて近々修行に出るとか言ってたねぇ」
「確か最近は木工に凝っていたと思うよ」
回る家々のおばさん達の話を聞いて彼女は
「結構難儀な依頼かも知れませんね」
屋敷内の光景を想像して、溜息をつかずにはいられなかった。
オリタルオが溜息をついた頃、ウルフ・ビッグムーン(ea6930)も以前の家主の事について聞き込みをしていた。
とは言え以前の家主についてはオリタルオが聞いている話と同じ事しか聞けず、それを聞いて近隣住民のゴミ捨て場になっているのか、と問えば逆に怒られる始末。
「ちっ、流石にそれはないか。となると以前の家主の管理が悪かっただけの話なのか」
ちょっとキテいる前髪を少し気にしながら呟くドワーフのレンジャーはその後、故買屋や古道具屋等に使えそうな物があった場合に引き取って貰える様、交渉の為に辺りの店を片っ端から回る。
コネが出来たか微妙ではあるも、言葉こそ悪いも態度で誠意を見せる彼の頼みを断る店主はいなかった。
そして残る面子はヲーク・シン(ea5984)を中心に準備を整える。
依頼人が予め準備していた木箱やロープの確認をしつつ、同じ依頼を受ける女性仲間達のナンパに勤しんでいた。
「今度一緒にお茶しない?」
「君の瞳に映る炎が、俺の心を焦がすっ!」
早口に捲くし立てる言葉こそ軟派だが、その言葉の端端からは明朗で嫌味のない性格が伺える‥気がする。
「君の為ならなんだってするさ!」
そう言いヲークはノース・ウィル(ea2269)に言い寄るが
「では屋敷内の掃除をお一人でお願いします」
「‥‥それは勘弁してくれ」
彼女は金髪を掻き上げながらさらりと一蹴、うな垂れるお洒落なドワーフの落ち込み様にその場にいた一同は声を上げて笑うのだった。
●いざ、戦場へ! 〜敵は何だ!〜
「‥あたしは掃除が嫌いなのよ‥」
「‥コレ、ホントに片付くのかしら‥?」
「思い切って買った家がこの有様じゃ嫌になるだろうなぁ‥」
玄関の扉を開け放つなりいきなりがっくぅと崩れ落ち、床にeの字を書いて凹んでいるミスティエナ・イヴリース(ea5746)に苦笑しながら、入口からいきなりの山に可愛らしい表情を呆然とさせて呟くレン・タツミ(ea6552)、そしてその光景に改めて依頼人に同情を覚える御山映二(ea6565)。
他の面子も揃って入口から見える屋敷内部の惨状に絶句するが
「依頼を受けた以上、しっかり仕事はして帰ろうぜ」
頭に三角巾、口元にはマスク、そして胸にエプロンをつけて様にならない格好ではあったが、そう言って皆を奮い起こすヲークに一同は少し自信なさげに「おー」と言うと屋敷へと乗り込んだ。
とにかく入口を片付けない事にはうず高く積んであるガラクタを掻き分けて先に進む他に手段はなく、まず一同はガラクタを整理する為の庭をざっと掃除してから他の部屋に繋がる廊下に散乱するガラクタを撤去し始める。
通路に散らばっているのは木屑や鉄屑、その残骸から察するに恐らくはどこかのおばさんの話通り、家具でも作ろうと試みたのだろう。
「いくら趣味だからって何もここまでやる事ないのに、ね」
「それだけ本気になれる何かを探していたんじゃないんでしょうか?」
そう言いながらも手だけは動かすオリタルオ、舞う埃に苦戦しながらガラクタを崩しては燃える物と燃えない物に分けて呟くと運搬役として彼女の後ろに控えていた御山がきっとそうだと思いたいのか、だが自信なく彼女に返す。
「自分で掃除出来なくて、困って屋敷自体売りに出すと言うのは‥‥」
「まぁそう言う方向には考えたくないですね」
元家主の考えがどんなものかは分からないが、思わずそう考えて凹む彼に苦笑いを浮かべながら宥めるオリタルオは、彼を励ます変わりに目の前にまた一つまとまったガラクタの束をどすんと置くのだった。
一日目で何とか部屋に繋がる廊下全体のガラクタ撤去が大まかに終わると、二日目はそれぞれが各部屋に散って掃除を始める。
そんな中、各部屋を回っては大雑把に分別された木屑や鉄屑を一人で持てる物からまずは外へと運び出すノース。
途中で休憩がてら倉庫に散らばっている紙片の山を見入ったりしていたが、その時彼女はあるものの存在に気付かなかった。
これが後々の不幸に繋がるが、そんな事は露知らないノースは散らばった紙片を「ふむふむ」と何かに頷きながらある程度読み終わり、とりあえずガラクタの束を運び出す事に一段落したので次の部屋、調理場へ足を向けた。
嫌そうな表情を浮かべて扉を開けると、マスクをしていても鼻に飛び込んでくる腐臭に顔を顰めながら中の惨状を予想して顔を上げると
「さぞかし汚れているこ‥‥ッキャーーーーー!」
そんな彼女の顔にピトンと一センチ程の黒い塊が止まる。
それを何か察したノースはいつもの落ち着いた雰囲気はどこへやら、女性らしい悲鳴を思い切り上げると、散乱している生ゴミの上にベチョンと倒れこみ白目を剥いて気絶する。
それから暫く助けが来るまで、彼女はゴキブリ達が楽しそうに這い回る生ゴミに埋もれたままその身を横たえていた。
ゴキブリが好きな女性など世の中にはいないだろう、ノースの反応こそ普通なのだが倉庫で紙片の束を不器用な手つきで築いているミスティエナだけは違った。
「ゴキブリの十匹や二十匹くらいなんだっての! あたしの敵は本を食い荒らす紙魚とネズミくらいのものだわ」
飛び交うゴキブリなんのその、黒い塊を気にする事無く散らばる紙片をかき集めては端から読んで適当な高さになると積んで縛るも、その端その端から縛った山が崩れるのを見て、彼女は遂に切れた。
「魔法研究さえ出来りゃいいのよ、あたしはっ! なのにあの馬鹿はーーー!!」
家事洗濯に掃除が苦手なミスティエナにこの依頼を断りなく受けてきた、男の癖に家事が大の得意な友人の顔を思い出し、手近な紙片に怒りをぶつけた。
「前住んでた人はどんな人だったんでしょうねー、っとヲークさんまたナイフですよ」
「ちょっと待てよー」
呆れた声音で客賓室に鎮座する木片の塊を運べそうな大きさに纏めながら、また転がり出るナイフを目に留めてヲークを呼ぶ御山だったが、その彼は一休みしていた依頼人と話し込んでいる。
とは言っても内容は世間話、その点では節操がある様で何より。
しかも手がしっかり動いている所は流石器用なドワーフ‥‥なのだろうか?
「今度のは研げばそれなりに使えそうだなぁ、しかし本当に色々あるな。何をする気だったんだ?」
「さぁな、考えた所で答えはでねぇ」
御山の元に駆け付けたヲークはしげしげとナイフを見ながら気になると疑問を紡ぐ、だがそれを考えるだけ無駄と悟って農民セットの最後の一つを見つけては諭すウルフ。
そして彼はふと現実に戻る。
「しかしこれはどうするよ?」
言葉短く呟くウルフの視線の先を見る一同、そこには天井に届かんばかりの高さとドワーフでも五人は入れそうな幅の、形状から察するに棚だと思われる物がデカデカとその場に居座っている。
「壊してもいいよな?」
流石にこれは持ち帰れない、しかもデザイン最悪と判断して一応尋ねるヲークに依頼人はこっくりと頷いたその時、黒い光弾がその棚らしき物を弾け散らした。
その破片が飛び交う中、一同は光弾が飛んできた方向を見やるとそこにいたのはレンで、 通路にまだ残るガラクタを片付けていた際にたまたまその場に来て放ったディストロイだったが
「ちょっと強過ぎたかしら?」
苦笑いを浮かべながら、棚の向こうに隠れていた壁がひび割れているのを見て申し訳なさそうに言う彼女の頭に一つの木片がポコンと当たるのだった。
そんな轟音を外で聞きながら、燃える物を手際よく燃やしているオリタルオは心配そうに
「大丈夫かな?」
ぱちぱちと木片の爆ぜる音を聞きながら呟くのだった。
果たして依頼は無事、屋敷を壊す事無く終わるのか!?
●戦い終わって
と色々な事があったが、屋敷の庭で寝泊りしながら夜はヲークが汲んで来る水で皆は体を洗い十分に休息を取り、日中は時には繊細に、時には豪快に屋敷のガラクタを撤去した結果、ほんの少し屋敷にダメージは負わせるも彼らが片付ける前と比べれば圧倒的に綺麗になっていた。
「皆さんありがとうございました、後は私達だけでも何とか出来そうです」
「本当に助かりました、それ所かこんな物まで」
実は屋敷の掃除だけではなく、オリタルオの提案で程度のいい宝石を見つけまとめると彼らに渡すのだった。
そんな彼らに依頼人とその婚約者は頭を下げお礼を言った。
ちなみに婚約者、隠したままにはしておけないと依頼人が告白した所「水臭い!」と言い、途中から冒険者達と一緒になって掃除を手伝ったのでこの場にいた。
「いつまでも仲良く、ね」
「ありがとうございます、でもあれは‥」
まだ少し生ゴミの臭いが残るノースの言葉に照れる依頼人。
それもそのはず、寝室の壁やベッドの周りを鮮やかな色の布で吊ってくれた彼女に対してのお礼を言いながら、それでも満更ではなさそうだった依頼人の顔を見て一同が微笑んだ時、爽やかな風が辺りを流れた。
そう、戦いは此処に終結した。