ミスコン‥‥ミスターコンテスト?
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■ショートシナリオ&
コミックリプレイ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:4人
サポート参加人数:3人
冒険期間:09月14日〜09月21日
リプレイ公開日:2007年09月23日
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●オープニング
●思わず唖然
「はぁ、ミスターコンテスト‥‥ねぇ」
果たしてそんな呟きだかぼやきだか嘆息だかが漏れたのは、伊勢藩主の藤堂守也が邸宅のその主が部屋の中‥‥とは言え、そう呟いた声の主は部屋の主ではなく最近、彼の下に就いた十河小次郎その人だったが
「どなたの発案ですか?」
「つい最近、此方に足を運んだ神野珠だ」
「あぁ‥‥斎宮の」
「しかし何故、斎宮の陥落にも拘らずそんな事を? と言うか、何も西洋風の言い回しにしなくとも」
兄のぼやきは聞かず、彼の妹であるアリア・レスクードが一先ずそんな事を尋ねてみると藩主からの答えを聞いて頷く彼女ではあったが‥‥それよりも何よりも斎宮の事変を聞き及んでいるからこそ、小次郎は妹の後に続いて疑問を織るが
「だからこそ、だろう。人々の心に起こるだろう不安の細波を掻き消す為に」
「藩が健在だからこそ、それを周知させる為に先ずは人々の心のケアに当たる‥‥か」
「そんな所だ。それにただ一時だとしても、人々には平穏を実感して貰いたい」
「話は分かるが‥‥」
間も無くして返って来た藩主の答えを聞けば最後の疑問は流されたことを気にせず彼は頷くが、続く話を聞き終えれば納得しながらも表情に渋い物を浮かべれば
「それ以外に他の手段もあれば、やるべき事だって沢山あるんだろ?」
「手段に付いては‥‥諸所の都合があってな。それとやるべき事についてはそれを行っている間、やっておくつもりだ」
「‥‥なら、そっちを俺に」
伊勢藩も伊勢藩で独自に抱えている案件を気にしているからこそ、曖昧ながらにその事を口にすれば最初こそ言葉を濁す藩主だったが‥‥すぐにそちらへ手を回している事も言うと、正座を崩しては身を乗り出してそれへ名乗り出る小次郎。
「お生憎様、悪いけどそっちはあたしに任せて貰おうか」
「ちっ‥‥」
「兄様、適材適所と言う言葉がある様に今回の件は藩主様の言われた通りにするべきだと思います」
だがそれは部屋の壁に寄り掛かっては腕を組んでいる浪人風の女性に遮られると、彼女が湛える不敵な笑みに舌打ちするが‥‥それを宥めるのは妹の役目。
「兄様は‥‥そう、例えるなら客寄せパンダ? そっちの方がピッタリですから」
ってそれ、何気にフォローになっていません‥‥むしろ貶めています。
「うぉぉぉ‥‥じ、実の妹にまでそんな事を」
「‥‥例えはあれだが、貴殿なら相応しい役だろうと判断して任せるのだがそれでは不服か?」
「何処が」
「伊勢での貴殿の評判、払拭するには良い機会ではないかと思ってな」
「‥‥やらせて、貰います」
無論、それを受けて泣き崩れる小次郎ではあったがその光景を前にすかさず今度こそ全うなフォローを入れたのは伊勢藩主その人で、伊勢では密かに元女装盗賊団『華倶夜』と同列視されている彼へたどたどしく言葉を紡いでは不器用ながらに言いくるめて見ると‥‥思いの他にあっさりと乗る辺り、周囲に流布されている自身のイメージが相当気になっている事が窺い知れるが
「じゃあま、悪いけどそう言う事で」
そんな事は全く知らない浪人風の女性は話が纏まったと見るや、颯爽と身を翻しては自身が成すべき事を成す為にその場を後にした。
とそんな紆余曲折を経て、伊勢にてミスターコンテストが開かれる事が正式に決まるのだった‥‥果たして、勝利の女神は誰に微笑むのか。
「それは、この、俺‥‥だぁーっ!」
それはどうだろう、ね?
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依頼目的:ミスターコンテストに参加し、伊勢の街を盛り上げろ!
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)、若しくは相応の金銭は必要なので確実に準備しておく事。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
(やるべき事に対し、どの様にしてそれを手配等するかプレイングに記述の事)
対応NPC:十河小次郎、アリア・レスクード、藤堂守也
日数内訳:目的地まで四日(往復)、依頼実働期間は三日。
その他:優勝者から三位まで、賞金と粗品が進呈されます。
その他(PL向け):男性PC限定としていますので、参加される際にはご協力を宜しくお願い致します。
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●リプレイ本文
●集いし美男‥‥いや、色も(ry
此処は伊勢、藩主である藤堂守也が邸宅を前に五人の冒険者が集っては何やら話を交わしていた。
「呼ばれた様な気がしたのでホイホイ来ちまったが‥‥中々伊勢に行く機会がなかったんで、丁度良いかな。ま、暫くの間は宜しく頼むわ」
「あぁ、此方こそな。そしてお前達が今回のライバル、と言う訳か‥‥確かに少しは出来るみたいだが俺自身のイメージを復活させる為にもこの勝負、決して負けられんっ!」
果たしてその最初、着物を着崩しては白翼寺涼哉(ea9502)が瞳を向ける先にいる十河小次郎へ淡々と告げれば、彼とは逆に志士の厳しい眼差しは涼哉と‥‥その背後、藩主邸宅の門前に掲げられている『第一回 伊勢杯争奪ミスターコンテスト!』と書かれた横断幕を見つめ、絶叫を迸らせるも
「余裕だな、女性に好かれるは得意だから」
(「‥‥こいつ、出来る」)
その裂帛を受けて尚、大宗院謙(ea5980)が涼しげに髪を掻き揚げながら穏やかな声音で笑い言えば、その様子を前に小次郎は彼の力量を察するが
(「この勝負、結構イケル‥‥イケルっすよ!」)
「ふっふっふ」
強敵達が居並ぶ中でも太丹(eb0334)は自身の特徴を振り返り、彼らに負けない自身の性能を確信すれば忍び笑いを漏らせば、コンテストを前に場は混沌としかかっていた。
「まぁまぁ皆さん、少し落ち着いて。ミスターコンテストの優勝もそれぞれに大事ですが、伊勢の人々の不安を和らげ元気を与える事も私達には託されている事も、お忘れなく」
『あぁ、そう言えば』
だがその中でも皆を宥めるべく口を開いたのは、参加者の中で最年長である護堂万時(eb5301)で、皆を宥めては今回の依頼が真意を告げるもそれを受けて他の四人、今更の様に両の掌を打つ。
「大丈夫なのでしょうか?」
「まだ始まってもいないのだが‥‥不安だ」
その光景を邸宅内から見止め、アリア・レスクードは眉根を顰めれば伊勢藩主もまた厳しい表情を湛えながら呻くのが精一杯だった。
●先ずは挨拶
そして翌日、日中はそれぞれに準備に勤しむ『ミスターコンテスト』の参加者は夕刻になれば伊勢藩主が邸宅前に設けられた会場の舞台へ集うと、集まる観客の中で挨拶を多くの瞳の前で行う事となる‥‥因みに、観客の数は参加者が少ない事もあって設けられた席はまばらだったが、それは意に介さず舞台へ一番に躍り出たのは太。
「無限の胃袋! あんぶれいかぶるすとまっく!!」
一歩、皆より前に力強く歩を踏み出せば両の腕を広げ己の腹部を誇示するかの様に胸を張り、声高らかに告げると
「『フトシたん』こと太丹っす!!!!」
一拍の間を置いた後に元気良く己が名を叫べば彼は先までとは調子を変え、恭しく一礼すると黄色い声が上がった事に手応えを感じ、内心で密かにガッツポーズを取る彼。
「あ‥‥どうも」
そして太と入れ替わり陰陽師の万時が前へ進み出ながら頭を垂れれば、皆の視線を前に固まりこそするも
「‥‥人々の心の隙を遅い来る魑魅魍魎がいます。武力では適わない奇怪な輩に立ち向かう、神妙不可侵にして胡散臭い男‥‥私の名は護堂万時、人は陰陽師と呼びます」
深く、息を吸い込んだ後に彼は厳かに口を開き歳相応の低い声音で物騒な挨拶を告げ、微笑を湛え‥‥ようとして不敵に笑んでしまうと、その反応を前に観客はその場から動気こそ見せず一歩引く。
「固いねぇ、万時殿。此処は一つ、挨拶の手本を見せてやるよ」
その状況に踵を返してはうな垂れる万時だったが、そんな彼の肩を叩いた謙は微笑を湛え肩を落とす陰陽師へ言うと歩を踏み出しては彼。
「皆様、ご機嫌麗しゅう‥‥」
穏やかな微笑をそのまま、にこやかに告げれば至極簡潔に見本の挨拶を見せ付けると、上がった黄色い声は太のそれを上回ればそれに満足してすぐに背中に負う旗を翻し、あっさりと踵を返す謙と入れ替わりにゆるり、歩を踏み出したのは涼哉。
「白翼寺涼哉だ。この場にお集まりの皆様方、此度は宜しく頼む‥‥しかし良かったのか、ホイホイ着いて来ちまって? 俺は下着だって構わないで売っちまう人間なんだぜ?」
艶っぽい視線を客席へ送りながら涼哉の挨拶が響くと謙とは違った反応‥‥黄色い声も上がる中、ユーモアに富んだそれへ好意的な笑い声も混じっていた。
「ちょおっと待ったー!」
だが、その最後に小次郎が舞台の淵ギリギリに飛び出しては大声で叫び皆の視線を集めると暫くの後に集うそれを前に彼はいよいよ、絶叫を解き放った!
「ジャパンの魂、此処にありっ! 質実剛健、清廉潔白、五体満足‥‥伊勢に仕える藩士が一人、十河小次郎‥‥此処に見参っ!!」
「女装志士だー!」
「うぉぉ、伊勢が敵地のど真ん中だ」
だが、今までの面子の中で一番真面目に響いただろう挨拶は直後に観客の一人が響かせた小次郎の別な呼び名によって打ち消されると、彼はその場に膝を突くのだった‥‥と言う事で落ちもついたし初日、終了。
●アピールタイム!
さて二日目、いよいよミスターコンテストの王者を決める決定的な場となるアピールタイムが日も高い内から始まる。
それぞれ、練習に励み趣向を凝らした一芸が披露されるこれからの刻は果たしてどうなるか、場に居合わせる皆は予想出来る筈もなかった。
●
簡素な舞台のその袖から今日、一番に出てきたのは謙だった。
出立前に娘達から託された手紙に認められていた激励の言葉を思い出し笑みを絶やさず舞台の中央に立つと昨日とは違い、小奇麗で一般受けするだろう装いに身を包む彼は静かに口を開く。
「この様な素敵な女性に注目されて私は何と幸せなのだろうか‥‥私はこれだけの女性に囲まれているだけで、十分に満足だ」
そして紡がれた言葉は優しく会場にいる全ての女性へ響くと、たったそれだけで会場がどよめく様に客席の中、ちらほらと紛れている男性達は彼の力に戦慄と嫉妬を覚えるも
「因みに美しき女性の方々、周りをよく見て欲しい‥‥ここには素晴しい殿方もいらっしゃる。その何気ない仕草等は魅力的ではないかい」
さりげなく、会場を流し目にて見回した後に謙が再び口を開くと今度は会場にいる女性達、彼以外の男性へと視線を向ければ侍が紡いだ言葉に彼らは癇を覚えつつも‥‥満更でなかったか、自身らを見ては騒ぐ女性達の反応にだらしなく鼻の下を伸ばすのだった。
そして暫く続いた彼のアピールはトークにだけ費やされる、だが簡潔とは言え重要なツボを押さえている事にこの時は誰も気付いてはいなかった。
●
とは言え、アピールだけで終わった謙に聴衆の皆はこれからの見世物も期待出来ないかと思うが‥‥直後、蒼い浴衣を纏っては三味線を抱え現れた涼哉の行動に一同驚く。
「♪はかないか。はかかかないか、はか‥‥はかないかい?」
前触れこそあり、だが唐突に三味線を奏で出せば彼は昨日の様に視線を客席へ艶やかな視線を送り、妙ちきりんな歌詞が響いたからこそ。
「♪もうドシフン止められない」
だが本人は至って真面目な面持ちで軽快に三味線を奏でれば響くその歌、どうやら自作の歌らしく褌への熱い想いを紡ぎあげるとそれを聞く女性の観客達は果たして‥‥黄色い声を上げていた。
「♪もっと漢ちっくに‥‥バディ! キーラリンリン☆」
歌唱能力に付いてこそ齧り程度の技術しかないからこそ拙かったが、だからこそ熱い想いを猛らせ歌を奏であげれば、特徴的な艶と光に溢れる瞳で場を見つめ回すとそれらが相まって涼哉の好感度を上げていたのだ!
「♪奏でたいゼ、セ・イ・ゼ・ツにっ」
だからこそ彼は手応えを覚え、拙い歌を懸命に紡げばその最後には着ていた浴衣を放り、男の褌一丁の姿ともなると三味線の首を掴んだままに振り回せばやがて決めのポーズに直後、客席から響く拍手と歓声を一身に受けた。
●
「えーと‥‥そこの貴女、ちょっとお手伝いをお願いします。後は小次郎さーん」
「何だ?」
一部観客が涼哉の歌で盛り上がれば、その熱狂覚めやらぬ内に舞台に踊り出た太は早々と客席から女性を指名すれば次いで小次郎も呼ぶと、訝る彼らだったが
「取り出したります、この何の変哲もないロープ。これを使って自分を縛って貰い、しかし脱出する妙技を見せるっす! 因みに縛るのは貴女で、小次郎さんはそれが緩んでいない事を確認して下さいっす」
その理由を懐から取り出した縄を掲げ太が説明すれば、納得する二人に彼は女性へ縄を託すとやがてその場にしゃがみ込み、胡坐をかけば
「それでは、宜しくっす!」
「はーい」
「あ、あの‥‥流石にその縛り方は一寸無理が」
「大丈夫大丈夫」
自信満々、意気揚々として太が告げれば縄を託した女性を促せば彼女はすぐに作業へ取り掛かるが‥‥余りにも手馴れた手付きと、その可笑しな縛り具合に戸惑う太だったが女性の方は至って気にせず彼を器用に縛り上げれば、その最後。
「‥‥あーっ!!」
結び球を作ると思い切り縄の端を引っ張れば太はいよいよ堪え切れず、耳を劈かん絶叫を迸らせては昏倒して地に伏すのだった。
「随分と固いな‥‥しかも当人は気絶。こりゃ長期戦になりそうだ」
しかしそんな状況に慣れているのか、小次郎は縄の縛り具合を確認すればその頑丈さに舌を巻きつつも誰へともなく、肩を竦めて見せた。
●
そして小舞台の片隅に太を転がしたまま、万時の出番になると客席の皆は昨日の彼が挨拶を思い出し、静まるも‥‥それは直後に響いた壮絶なシャウトで打ち破られる。
「怨霊退散! 怨霊退散!! 妖怪、不死人、困った時は?」
奏でられた歌、と言うよりは正しく叫びに次いで万時が激しく踊り出すと客席へ問いを投げ掛けるが目を白黒させている客の反応を見れば彼、やはりニヤリ笑うと叫びを場に木霊させる。
「は〜らえた〜まえ、き〜よめた〜まえ‥‥祓って貰おう、伊勢神宮!」
「これは‥‥大丈夫なのか。関係者に知れたら」
「はらたまきよたま、祓給清給‥‥清めて貰おう 伊勢神宮! やっぱり頼れる、伊勢神宮!!」
「‥‥多分、大丈夫じゃない? そんな余裕は今ないし」
その万時がシャウトの合間合間に審査席に座る伊勢藩主は複雑な面持ちを湛えるも、今は跳ねている万時を見つめながら肩を竦め平然と守也へ答えたのは遅参して駆けつけた神野珠の前でいよいよクライマックスか、今となっては霞む程度にしか動きが見えない万時。
「皆で参ろう、伊勢! 神! 宮〜っ!!」
「それなら珠さんも、戻ったらどうですか?」
更に客席へと叫べばアリアの疑問に彼女は微笑みだけ返すと、人差指で客席を指す陰陽師はその最後をビシリ、決めた。
「‥‥お参りしろよっ!」
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そしてトリは小次郎、なのだが諸般の事情により省略‥‥大それた事をした訳ではなく、余りにも熱くて真面目で彼らしい落ちがなかったので、何をしたのかは皆さんのご想像にお任せします。
●三日目:結果発表
「‥‥何はともあれ、お疲れだった。乾杯だ」
杯を掲げ、伊勢藩主邸宅の中に集う皆を前に音頭を取るのは言うまでもなく藤堂守也で、その表情は安堵からか僅かに緩んでいたが、それに気付く余裕のある者はいない‥‥何せこれから結果発表にその打ち上げなのだから皆は藩主に倣い応じれば、始まる宴。
「なぁ、君はこの辺りの生まれかい?」
「あ、はい」
とにかく気を落ち着けたかったか、藩主が座り込む様を見て暫くは結果発表がない事を悟ると謙は近くにいた女性から酌を受ければ、さりげなくもベタな質問から会話を始めるも何者かがその肩を叩けば、振り返っては穏やかに尋ねる謙。
「ん、何か?」
「これ、目を通すと良い」
『浮気をしたらどうなるか、分かっていますわね』
その彼の問いへ携えている手紙だけ託す冒険者風の青年が踵を返せば、首を傾げながら謙は受け取った手紙を開き‥‥ただ一言、認められていた内容とその送り主に目を留めて固まると
「どうかされましたか?」
「あ、いや‥‥済まない。ちょっと用を足してくる」
明らかな同様を目の当たりに、傍らの女性は思わず尋ねるが彼はすぐに立ち上がれば猛スピードで部屋を飛び出し、厠の方へと駆け出した‥‥因みにこの後、彼の姿を見た者はいない。
「‥‥良かったら今夜、一緒に風呂でも?」
「いいのかい?」
「あぁ、とことん悦ばせてやるからな」
「あの方、確か『華倶夜』の‥‥」
「お頭だな。気付いていないだけだと思いたいが」
そんな出来事には気付かず、涼哉もまた傍らにて酌を交し合う女性へ囁き掛ければ此方は此方で上手く話がついたらしく、揃い立ち上がってはやはり結果発表を前に宴会場を後にするもそれを見送り、アリアの呟きに小次郎も頷くが
「ってまさか」
「あーん、小次郎ったら今日も素敵に元気ね。だけど女装した方がもっと」
「‥‥勘弁してくれ」
途端、身の危険を感じて立ち上がるも時既に遅く『華倶夜』の面々に捕縛されれば、うな垂れる彼は周囲の密かな囁きを耳にし、自身のイメージが伊勢藩内では既に凝り固まっている事を悟ると茫然自失とするが
「そう言えばそっちの小父様も中々、素敵」
「はひ‥‥?」
「もう、二人揃って女装させちゃうんだから☆」
小次郎だけでは足りないか、『華倶夜』の面々が一人は万時をも見つめ言うと‥‥身を震わせて飛び上がる彼も捕らえ、やがて大勢で別室へと姿を消せば
「‥‥可笑しいな、当初はこんな予定ではなかったのだが」
「お兄様にお願いした時点で、何となくこうなるのではと思っていましたが」
杯に注がれている酒を呷り守也は最後まで呻くとアリアが返した、当初とは違う答えを聞けば思わず彼女を見つめる藩主ではあったが‥‥それには気付かず彼女。
「そう言えば、太さんはどちらに?」
場を見回しては一人、姿が見えない事に今更気付いてみたりする。
●
明日には撤去する会場跡地にまだ、人影が一つ残っていた。
「ちょちょ、ちょっとー! 何時までこの格好のままなんすかー?!」
それは未だ縛られたままで舞台に転がっている太、大きな声で叫びこそするも何故か誰もやって来る気配がないのは神の御業か。
「誰かー、飯をー! 自分に飯をくれっすー!!」
そして腹の虫が鳴れば尚、先よりも大きな声で叫ぶ彼だったがやはり場は静かなままで
「放置プレイは嫌っすよー! 助けてオヤビーン!!」
舞台の片隅に寝そべる太はそれでも抗うが、星空に浮かぶオヤビンは果たしてこう呟くのだった‥‥何時もの事だから気にすんな、と。
因みに優勝者は僅差で謙、やはりアピールタイムの差が大きかった模様。
それを考えれば伊勢に住む女性達は至って普通の精神構造である事を暗に知る事が出来、この催しが盛り上がったかはさて置いても、この点に付いては伊勢藩主の救いだったのは此処だけの話である。
〜終幕〜